Y染色体の基礎知識と父系遺伝の特性

染色体の基礎知識

まず、染色体というのはどういうものなのだろうか。それは、一口で言うと総数30億文字(塩基)で出来ている核DNAの集合体の単位とでも言えようか。

一つひとつの細胞の中には核があり、その中に22種類の対の常染色体と性染色体が納められている。

下の顕微鏡写真は、男性の染色体で、赤丸で囲んだ性決定部分はX染色体とY染色体の組み合わせとなっている。

女性はこの部分がXXの組合わせである。

染色体の長さは、最も長いもので2億5200万文字(塩基)あり、最も短いものは、3800万文字という長さで出来ている。

3800万~2億5200万文字という大小のDNAから出来ている染色体が、どれも“こけし”に似た形をしているのは、次図のような生成構造によるものである。

また、“染色体(Chromosome)”と命名されたのは、塩基性(アルカリ性)の色素でよく染色されることから Chromo「色のついた」に、-some「体」と名付けられたという。

上の顕微鏡写真のように、通常は1対で存在する染色体は、親から子へ遺伝するとき、片方一本だけの染色体となって卵子や精子のなかに納まる。その一対から一本だけの染色体となる過程を専門用語で“減数分裂”という。

その際に下図のような、“組み替え”という変化すなわち染色体の交叉・混交がおこり、染色体の多様化が促進される。

Y染色体の遺伝の仕組み

ところが男性の性染色体、Y染色体には、常染色体やX染色体のようにペアとなる相同の染色体はない。

したがって、父親が精子を作るときには、組み換えが起こらず、お祖父さん由来のY染色体を持つ精子とお祖母さん由来のX染色体を持つ精子の2種類が出来ることとなる。

受精の様子は次のようなものである。

(上図の雌性前核とか雄性前核という聞きなれない用語は、受精卵内における卵子や精子が持つ一本(片方)の染色体のことである。)

まったく一般的な遺伝の法則にしたがって、母親の卵子とX染色体を持つ父親の精子が受精すれば女の子が、母親の卵子とY染色体を持つ父親の精子が受精すれば男の子が生まれる。

ただ、このようにしてY染色体を持つ男の子が生まれるのであるが、いま見てきたように、この男の子のY染色体はお祖父さんのものである。そしてお祖父さんのものも、またそのお祖父さんのY染色体なのである。

すなわちY染色体は、mtDNAと同じく、混ぜ合わされることなく、祖先のY染色体がそのまま、父親から男の子へ、世代から世代へと連綿と遺伝される、そういう父系遺伝の性質を持っているのである。

なお、mtDNAは母系遺伝をする、その“母系遺伝になってしまう”仕組みは、まことに不思議な現象によるので、参考までに見ておきたい。

上の写真のように、なんと受精してしばらくすると、父系に由来する精子のミトコンドリア部分が、 卵子内で消失して(抹殺されて)しまうのである。最後は精子の頭の部分すなわち核DNA部分だけが、卵子内に残る。

これは前の図でみたように、雄性前核といわれ、卵子の雌性前核と融合することによって、子供の核が形成され、細胞分裂を始める(=子供が育つ)ことになる。

すなわち、この子供が男の子であろうと、女の子であろうと、母親由来のmtDNAしか持てない仕組みになっているである。

以上の ように、Y染色体は、いわばまことに“孤独な”染色体である。同じ相手があると組み替え反応、すなわち多様化や修復が行われるが、 孤独なY染色体ではそのようなことは起こらず、祖先のY染色体がそのまま、父親から男の子へ連綿と遺伝されることになる。

また、ミトコンドリアは、いま調べたような“異常な抹殺システム”によって、母系遺伝だけが許されることになっているのである。

人類の系譜が高度に蓄積されたY染色体

DNAの分析を人類学に応用することは、まずミトコンドリアのDNA(mtDNA)を解析することから始まった。

mtDNAが先行したのは、一つの細胞の中に核DNAが一つしかないのに対し、mtDNAの方は数百~数千の単位であり、すなわち量的に集めやすく、しかもmtDNAを構成する文字数(塩基数)が16,500文字(塩基)と極めて少なく、扱いやすいDNAであったことによる。

それに対してY染色体は、容量が5,000万文字(mtDNAの3,000倍)もありmtDNAとは比較にならぬほど、かっては扱い難いDNAであった。

しかしそのことは、Y染色体には、mtDNAより極めてゆっくりとしたペースではあるが、過去に起こった突然変異の痕跡が、比較にならぬほど大量に蓄積していることを意味する。

また、Y染色体では組み換えが行われないため文字配列の順序の混乱が起こらず、突然変異の順序を推測することが可能なことである。

これにより高い精度で集団の分岐や発生の時期を推定することが出来る。

すなわち、人類の変化(多様化)を長期に亘って追跡するには、mtDNA以上に、Y染色体が極めて適していることがわかり、DNA解析技術の飛躍的進歩もあって、10年ほど前から急速に研究が進められるようになったのである。

余談だが、NHKスペシャル「女と男 第3回 男が消える! 人類が消える!」(2009.01.18放送分)では、1億6000年前に出現したY染色体が、以上述べたY染色体の持つ特徴すなわち組み換えなどの多様化が起こらないことによって、Y染色体自体を次第に劣化させ、500万年以内には消滅させてしまうだろうとの予測を放映した。男が消えるとき、人類も滅ぶというわけである。

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