大岡政談「三方一両損/三方一両得」

「第一幕」

ある宿場の辻にて。
男1と男2がすれ違う。
男1、立ち止まり、地べたに落ちた財布に気づく。
それを拾い上げ中身をみる。
男1:「お!これは。」
男1、振り向いて男2を呼び止める。
男1:「ちょ、ちょっとお待ちなせー。」
男2、振り向いて男1に近づきながら、
男2:「あっしですか?」
男1:「ああ、いま、おめーさん、このせーふ、おとしゃーしませんでしたかねー。」
男2:「お!」
と言いながら、自分のふところを改める。
男2:「なるほど、確かにそれはあっしのせーふだが…。」
男1:「それじゃ、もっていきなせー。」
男2:「いや、ちょっと、待った!そーゆーわけにはいけねーな。おいらが一度おとした
せーふだ。それを拾ったからには、もうそれはおめーさんのもんだ。
おめーさんのもんになったせーふを受けとるわけにはいけねーな。」
男1:「そんな理屈があるもんけー。こいつぁおめーのもんだ!さ!受け取れ!!」
男2:「いや、受けとれねー。」
二人はもめにもめる。しばらくして、
男1:「わかった。それじゃこうしようじゃねーか。今、名高い、南町奉行所の大岡様に
決めてもらおうじゃねーか。」
男2:「がってん承知の助!大岡様のお裁きなら、おいらも文句は言わねー。」

「第二幕」

南町奉行所、お白州(おしらす)の場、男1、男2がゴザの上に正座をして控えている。
その正面に大岡越前守忠相(おおおかえちぜんのかみただすけ)が座っている。
忠相、財布を指し示しながら、
忠相:「話はあいわかった。して、この財布には3両入っていたと聞くが、相違ないか。」
二人、頭を下げながら、
男1,男2:「は、相違ごぜーません。」
忠相、財布から3両とりだし、自分の袖口から1両をだし、計4両を手にもつ。そして、
忠相:「この4両をそちら2人に2両づつわけ与える。つまり、落とした者は3両落として
2両しか戻らないから、1両の損。拾った者も3両拾って、2両しかもらえない
から1両の損。この忠相も1両出したから1両の損じゃ。これぞ、三方1両損。
これにて、一件落着。」
男1、男2、深々と頭をさげながら、口々に、
男1、男2:「三方1両損とは、おそれいりやした!!」

「第三幕」

どぶ板長屋の一角。
「八」と「熊」がばったり会う。
八:「おい、くま、聞いたか。大岡様のお裁きの話。」
熊:「おお、はっつぁん、聞いたぞ。3両が4両になるっちゅう話だろ。」
八:「はー?ちゃうちゃう。3両落した奴と拾った奴が2両ずつ分け合うっていう話だ。」
熊:「ほら、二人で3両奉行所に持ってったら、二人で4両になって戻ってきたろ。」
八、指を折りながらしばし考えて…。
八:「ほーんとだ。おめー、いつもぼけてるくせに、たまには、いいこと言うな。まてよ、
ちゅーことは、もし、おめーとおらが、3両奉行所に持って行くってーと4両に
なって戻ってくるっちゅーことか。」
熊:「そだな。」
八:「こりゃいい。よし、善は急げだ!長屋の連中から3両かき集めるぞ!」

「第四幕」

南町奉行所、お白州(おしらす)の場、八、熊がゴザの上に正座をして控えている。
その正面に大岡越前守忠相(おおおかえちぜんのかみただすけ)が座っている。
忠相、財布を指し示しながら、
忠相:「話はあいわかった。して、この財布には3両入っていたと聞くが、相違ないか。」
二人、頭を下げながら、
八、熊:「は、相違ごぜーません。」
忠相、財布から3両とりだす。
八、それを見て、小声で熊に、
八:「それ、きたぞ、大岡様がご自分の袖口から1両だすぞ。」
二人ともじっと忠相のしぐさを見守る。
と、忠相は自分の袖口に持っていた3両のうち、1両を入れてしまう。
忠相:「この2両をそちら2人に1両づつわけ与える。つまり、落とした者はすべて落とし
たと思えば、1両戻って1両の得、拾った者も拾わなかったと思えば、1両もらって1両
の得。この忠相も1両もらって1両の得じゃ。これぞ、三方1両得。これにて、一件落着。」
八、熊、深々と頭をさげながら、口々に、
八、熊:「三方1両得とは、おそれいりやした!!」