戦国時代などの歴史小説を読んでいると武将が官職名で呼ばれることがよくあります。この官職名は京都朝廷の官職であり、武士が政権を担当するようになってからはこの官職名はほとんど名誉職で名ばかりのものなのですが、権威づけのために朝廷に任命させたりしました。また、戦国時代などには勝手に自称していたりもします。
官職名は役所名と職階(役所の中の地位)とに分けられます。
例えば、「石田治部少輔三成」の場合、「治部」は役所名で、「少輔」は職階名です。
下の表を見てもらうと「少輔」は「省」の欄の「次官」にあります。つまり、「治部」とは「治部省」のことであり、石田三成は「治部省の次官」であることがわかるのです。
次に国司の例として、「真田安房守昌幸」の場合、「安房」は国の名であり、「守」は下表の「国司」の欄を参照すると「長官」のことであることがわかります。
また、人によっては「織田左近衛権中将(さこのえごんのちゅうじょう)信忠」のように「権」という字が入っている場合があります。これは定員外の地位であることを示します。
職階名を以下の表に示します。
職階 | 省 | 弾正台 | 勘解由使 | 職/坊 | 寮 | 司 | 近衛府 | 衛門府 /兵衛府 |
大宰府 | 鎮守府 | 国司 | 郡司 | 軍団 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
長官(かみ) | 卿 | 尹 | 長官 | 大夫 | 頭 | 正 | 大将 | 督 | 師 | 将軍 | 守 | 大領 | 大毅 |
次官(すけ) | 大輔 少輔 |
大弼 少弼 |
次官 | 亮 | 助 | 佑 | 中将 少将 |
佐 | 大弐 少弐 |
副将軍 | 介 | 少領 | 少毅 |
判官(じょう) | 大丞 少丞 |
大忠 少忠 |
判官 | 大進 少進 |
大允 少允 |
将監 | 尉 | 大監 少監 |
軍監 | 掾 | 主政 | ||
主典(さかん) | 大録 少録 |
大疏 少疏 |
主典 | 大属 少属 |
大属 少属 |
令史 | 将曹 | 大志 少志 |
大典 少典 |
軍曹 | 目 | 主帳 | 主帳 |
役所名を以下に示します。[]内は職階です。
それぞれの役所の関係は以下の官制表をごらんください。
太政官(だいじょうかん)
国政を総括する最高機関
[太政大臣、左大臣、右大臣、内大臣、大納言、中納言、参議]
少納言局(しょうなごんきょく)
小事の奏宣と官印の管理とをつかさどる
[少納言]
外記局(げききょく)
公文書の作成,公務の記録を担当
[大外記、少外記、史生]
左弁官局(さべんかんきょく)/右弁官局(うべんかんきょく)
省を管掌し、その文書を受理し、命令を下達する役目
[大弁、中弁、少弁、大史、少史、史生、官掌]
省(しょう)
中務(なかつかさ)
天皇の側近に侍従し、詔勅の文案を審署し、宣旨・上表の受納・奏進、国史の監修、女官の名帳および叙位、諸国の戸籍・租税帳および僧尼名籍などをつかさどった。
式部(しきぶ)
国家の礼儀・儀式・選叙・考課・禄賜などのことをつかさどった。
治部(じぶ)
姓氏を正し、五位以上の継嗣・婚姻・祥瑞・喪葬・外交などをつかさどった。
民部(みんぶ)
戸籍・租税・賦役など全国の民政・財政を担当。
兵部(ひょうぶ)
軍政、特に武官の考課・選叙および訓練、兵馬・兵器などに関することをつかさどった。
刑部(ぎょうぶ)
裁判・行刑をつかさどった。
大蔵(おおくら)
諸国から納める調・庸の出納、度量衡・市場価格、器具・衣服の製作などをつかさどった。
宮内(くない)
御料・調度・調貢その他天皇・皇室の一切の事務をつかさどった。
[卿(きょう)、大輔(たいふ)、少輔(しょう)、大丞(だいじょう)、少丞(しょうじょう)、大録、少録]
弾正台(だんじょうだい)
京内の非違を糺弾し、官人の綱紀粛正をつかさどる
[尹(いん)、大弼(だいひつ)、少弼(しょうひつ)、大忠、少忠、大疏、少疏、巡察弾正]
勘解由使(かげゆし)
国司などの交替の時、後任者から前任者に交付する文書(解由)を審査した職
[長官、次官、判官、主典]
職(しき)
中宮(ちゅうぐう)
中務省に属し、中宮に関する事務をつかさどった役所。
大膳(だいぜん)
宮内省に属し、宮中の会食の料理などをつかさどった役所。
修理(しゅり)
皇居などの修理・造営をつかさどった役所。
左京(さきょう)/右京(うきょう)
京の行政・訴訟・租税・交通などの事務をつかさどった役所。
[大夫(だいぶ)、亮(すけ)、大進(だいしん)、少進(しょうしん)、大属(だいさかん)、少属(しょうさかん)]
坊(ぼう)
東宮(とうぐう)
皇太子に奉仕し、その内政をつかさどった官司。
[大夫(だいぶ)、亮(すけ)、大進(だいしん)、少進(しょうしん)、大属(だいさかん)、少属(しょうさかん)]
寮(りょう・つかさ)
大舎人(おおとねり)
中務省大舎人寮に属し、宮中で宿直および供奉などに従事する職。
図書(ずしょ)
中務省に属し、図書の保管・書写などをつかさどった役所。
縫殿(ぬいどの)
中務省に属し、女王・内外命婦その他女官の名簿・考課を管し、また衣服の裁縫などのことをつかさどった役所。
内蔵(くら)
中務省に属し、天皇の宝物や日常用品の調達・保管・供進などをつかさどった役所。
陰陽(おんよう)
中務省に属し、天文・気象・暦・時刻・卜占などをつかさどった役所。陰陽頭のもとに、陰陽博士・暦博士・天文博士・漏刻博士などで編成。
内匠(たくみ)
中務省に属し、宮中の調度の製作、殿舎の装飾をつかさどった役所。
大学(だいがく)
式部省に属する官吏養成機関。はじめ経学・算、のち紀伝・明経・明法・算道の四道を博士・助教らが五位以上の貴族の子弟ほかの学生に教授し、兼ねてこれに関する事務一切をつかさどった。
雅楽(うた・ががく)
治部省に属し、宮廷音楽の楽人管理・歌舞教習などをつかさどる役所。
玄蕃(げんば)
治部省に属し、仏寺や僧尼の名籍、外国使節の接待・送迎をつかさどった役所。
諸陵(しょりょう)
治部省に属し、天皇・皇親・外戚の陵墓を管し、喪葬の礼および陵戸(リヨウコ)の戸籍をつかさどった役所。
主計(かずえ・しゅけい)
民部省に属し、調・庸・諸国貢献物を計算し、国家の財政収支をつかさどる役所。
主税(ちから・しゅぜい)
民部省に属し、諸国の田租・米倉の出納などをつかさどった役所。
木工(もく)
宮内省に属し、宮殿の造営・修理および採材をつかさどった役所。
大炊(おおい)
宮内省に属し、諸国からの米穀の収納、諸司への食料の分給をつかさどった役所。
主殿(とのも)
宮内省に属し、行幸の輦輿(レンヨ)、宮中の帷帳、殿庭の清掃、灯燭の配給などをつかさどった役所。
典薬(てんやく)
宮内省に属し、宮中の医療・医薬・薬園・乳牛などをつかさどった役所。
掃守(かもん)
宮内省に属し、宮中の諸行事の設営や清掃のことをつかさどった役所。
左馬(さま)/右馬(うめ)
御牧および諸国の牧場から貢進する官馬の調習・飼養、穀草の配給、飼部(ウマカイヘ゛)の戸口・名籍などをつかさどった役所。
兵庫(ひょうご)
兵庫の兵器および儀仗の出納・修理・検閲をつかさどった役所。
斎宮(さいぐう)
斎宮に関する一切の事務をつかさどった役所。
[頭(かみ)、助(すけ)、大允(だいじょう)、少允(しょうじょう)、大属(だいさかん)、少属(しょうさかん)]
司(し・つかさ)
隼人(はやと・はやひと)
宮門警衛に当る隼人を管理し、隼人舞などの教習、竹器の製作をつかさどった官司。のち兵部省に移管。
囚獄(しゅうごく)
刑部省に属し、罪人の囚禁・徒役や流刑・杖刑の執行をつかさどった官司。
織部(おりべ)
大蔵省に属し、綾・錦・羅などの織物・染物のことをつかさどった役所。
正親(おおきんだち・おおきみ)
宮内省に属し、皇親の名籍をつかさどる官。
内膳(ないぜん)
宮内省に属し、天皇の食事の調理・試食をつかさどった役所。
造酒(さけ・みき)
宮内省に属し、皇室の用に供する酒・醴・酢などの醸造をつかさどった役所。
采女(うねめ)
宮内省に属し、采女のことをつかさどった役所。
主水(もんど・しゅすい)
宮内省に属し、供御の水・粥・氷室のことをつかさどる役所。
斎院(さいいん)
斎院の事をつかさどった役所。
鋳銭(じゅせん・ちゅうせん)
鋳銭のために置かれた令外の官司。
東市(ひがしのいち)/西市(にしのいち)
都の市(市場)を監督した役所。
防人(さきもり)
大宰府に属し、防人の名簿・教練・検閲などに関することをつかさどる役所・役人。
[正(かみ)、佑(すけ)、令史(れいし)]
六衛府(ろくえふ・りくえふ)
左近衛府(さこのえふ)/右近衛府(うこのえふ)
皇居を警衛し、儀式には儀仗を率いて威儀に備え、行幸には供奉・警備した武官の府。
[大将、中将、少将、将監(しょうげん)、将曹(しょうそう)]
左衛門府(さえもんふ)/右衛門府(うえもんふ)
皇居諸門の護衛、出入の許可、行幸の供奉などをつかさどった役所。
左兵衛府(さひょうえふ)/右兵衛府(うひょうえふ)
兵衛の管理、天皇・内裏諸門の警固、朝儀の儀仗、行幸の供奉、左右両京内の巡検などをつかさどった役所。
[督(かみ)、佐(すけ)、大尉(だいじょう)、少尉(しょうじょう)、大志(だいさかん)、少志(しょうさかん)]
その他
大宰府(だざいふ)
筑前国筑紫郡に置かれた役所の名。九州および壱岐・対馬の二島を管轄し、兼ねて外寇を防ぎ、外交のことをつかさどった。
[帥(そつ)、権帥(ごんのそつ)、大弐(だいに)、少弐(しょうに)、大監(だいげん)、少監(しょうげん)、大典、少典]
鎮守府(ちんじゅふ)
蝦夷を鎮撫するために陸奥国に置かれた官庁。
[将軍、副将軍、軍監(ぐんげん)、軍曹(ぐんそう)]
国司(こくし)
朝廷から諸国に赴任させた地方官。
[守(かみ)、介(すけ)、掾(じよう)、目(さかん)]
上総、常陸、上野は[大守(たいしゅ)、守、掾(じよう)、目(さかん)]
郡司(ぐんじ)
地方行政官。国司の下にあって郡を治めた。地方の有力者から任命する。
[大領(だいりょう)、少領(しょうりょう)、主政(しゅせい)、主帳(しゅちょう)]
軍団(ぐんだん)
軍事・警察機構。諸国に設置し、中央の兵部省が管轄。
[大毅(だいき)、少毅、主帳(しゅちょう)]
参考文献
『日本史年表・地図』 吉川弘文館
『広辞苑』第四版 電子ブック版 (c)1992年 株式会社 岩波書店
『マイペディア』(c)1994年 株式会社 平凡社