文系の雑学・豆知識

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「賢者の石」と「愚者の金」の逸話に関する解説・雑感

愚者(愚か者)の金とは黄鉄鉱(パイライト)のことである.黄鉄鉱の結晶は正四面体以外のすべての正多面体の形をとる.立方体が双晶状に並んだものはよくみられるが,正12面体状の単結晶も発見されている.

正4面体,立方体,正8面体の3つが存在することは鉱物の結晶から古くから知られていて,平凡な幾何学的事実といってもよいのであるが,正12面体と正20面体は結晶形にはなり得ず,かなり遅れて発見されたようである.正12面体は当時シシリー島で多く産出された黄鉄鉱の結晶とよく似ていて,ピタゴラスがそのあたりに住んでいたことから見つけだされたという数学史家ヒースの説がある.

愚者の金は,輝くものすべてが金とは限らない,転じてから騒ぎだけで終わってしまうことの暗喩なのだと思われる.それに対して,賢者の石とは何を指すのか,あるいは,どういう意味なのだろうか.

私の周りにいる畏友・先輩・天才・秀才の中でも博識とされる阪本ひろむ氏に回答をお願いしたのだが,氏曰く「yesだと思うがわからん.すでにWikipediaに記事あり.」彼はWikipediaに何項目か投稿している.以下の回答項目にはWikipediaの記事を引用した.

【Q&A】

[Q]賢者の石は具体的な物質か,それとも抽象的なものの呼称なのか?

[A]賢者の石は錬金術の用語である.卑金属を金などの貴金属に変えるための触媒であって,水銀と硫黄の比率(硫化水銀)により賢者の石ができると考えられていたようである.

[Q]賢者の石と愚者の金は,たとえば,やせたソクラテスと太った豚のように一対の用語なのか?

[A]ヨーロッパにイスラム科学の錬金術が輸入され,賢者の石の探求熱が高まったのは12世紀であるから,どうやら対比的に用いられるわけではないようだ.

【雑感】

錬金術は,今日では単なる歴史的興味(愚者の化学)に過ぎないかもしれないが,そこにはおもしろい史実が秘められている.

1936年,サザビーズのオークションにかけられたニュートンの秘密のノートには,数学・力学・天文学・光学などのフィジックスに留まらず,歴史・錬金術・化学・音楽理論・神学など,多くの分野についての研究の跡が残されているそうである.なかでも圧巻は65万語にもおよぶメタフィジックス(錬金術)のノートであって,その中に見えかくれするものは,近代科学を築いた理性的な科学者ニュートンの姿ではなく,中世の影を引きずる魔術師ニュートンの姿であり,このノートはのちのニュートン研究に大きな転換をもたらしたことでよく知られている.

しかし,当時の科学水準はどうであっただろうかという点を考慮すると,ニュートンの考え(神秘思想)を非科学的なこじつけということはけっして的を射ていないように思われる.科学の歴史を振り返ると多分に神秘的な思想から導かれた関係が後の大発見の端緒となった例は少なくないし,また,いかに天才といえども,自分が生きた時代や社会から完全に自由になることなどできるはずがないからである.現代を基準にするのではなく,彼の生きた時代に視点を置いてその業績を捉えたいと思う.