とあるクリスマス・イブの夜。サンタクロースも素通りしてしまうような小さな森のきこり小屋では、兄チルチルと妹ミチルが窓辺に並び、イブでにぎわう村の様子を眺めていました。たくさんのプレゼントやはなやかなパーティー。貧しい暮らしのふたりは、そんな様子をただ眺めているしかないのです。
そこへ、突然、あやしげな老婆があらわれ、ふたりに青い鳥を探してくれと頼みます。
なんでも、そのお婆さんにはひどく病気の娘がいて、青い鳥が見つかればその娘さんが幸福になるというのです。
突然のことに驚くチルチルとミチルを前に、お婆さんは奇妙な帽子をさし出しました。よく見ると小さなダイヤがついています。そのダイヤを操作すると、身の回りのすべてのものの精があらわれヒトの言葉がはなせるようになるといいます。「とても信じられない」、驚くふたりを前に老婆は「試してごらん」とささやきます。
チルチルがダイヤを回してみると、ふしぎなことに、きこり小屋の中のパンやら牛乳や砂糖やら、いろいろなものが動きだし、ふたりに話しかけるではありませんか。イヌやネコも言葉が通じるようになって大よろこび。
それどころか火や、水や光の精まであらわれ踊りだし大騒ぎになりました。
ドン、ドン、ドン。大変です。あんまり騒ぎすぎたので、お父さんが起きてきて部屋のドアをノックしています。
チルチルは急いでみんなを元に戻そうとダイヤを回しましたが、あんまりあわてたので急には戻れません。
そこでチルチルは、みんなを連れて青い鳥を探す旅に出発したのです。
最初に訪れたのは「思い出の国」。濃い霧が立ちこめています。ようやく霧が晴れてくると、小さな百姓家が見えてきました。庭で、とうの昔に死んでしまった懐かしいおじいさんと、おばあさんが居眠りをしています。
しばらく様子を見ていると、大きなノビをしてふたりが目をさましました。
大喜びで駆けよるチルチルとミチル。「もう会えないと思ったのに」。そう告げると、おじいさん、おばあさんはニッコリとほほえんで「生きている者が思い出してさえくれれば目がさめて、いつでも会えるんだよ」といいます。
庭先の梅の木の枝にとまっていたツグミが、いきなり鳴き出しました。
それも、チルチルがツグミのことを思ったからだとおじいさんは説明します。
チルチルは、そのツグミの色が青いことに気がつきました。探している青い鳥です。
おじいさん、おばあさんの許可をもらって、持ってきたカゴに青い鳥をしまいました。
ホッとしたチルチルが、ふと死んだ妹や弟たちのことを思い出すと、小屋の中から、みんなが次々と姿をあらわしました。かわいがっていたイヌのキキまであらわれる始末。
一緒におばあさんが用意してくれた夕食の席につきます。キャベツのスープと梅の実のパイ。
久しぶりのにぎやかな食卓にチルチルはおかわりをせがむほど夢中になります。
そこへ、大きな時計の音。戻る時間が来たのです。最後のキスをかわし大急ぎで村を飛び出したチルチルとミチルですが、まだ別れの手を振っているのに、おじいさんの家は次第に霧に包まれ始めます。
それと同時に、連れてきたカゴの中の青い鳥も色が変わってしまったのです。
次にチルチルとミチルは「夜の精」が住む御殿にやってきました。
そこには夜に支配された多くのトビラがあり、その中に青い鳥がいるらしいのです。
みんなは怖がって尻込みしますが、チルチルは鍵をもらい、ひとつずつトビラをあけ始めました。
最初のトビラをあけると、おそろしい幽霊が飛び出しました。チルチルはパンやイヌと力を合わせて元の部屋に押し戻します。「病気」「戦争」「影」「恐れ」次々とあけていくと、最後にまん中の大きなトビラが残りました。「そのトビラを一度でもあけたら最期、生きて日の目を見られないよ」と脅されます。
ミチルや弱虫のパンなどはこわがってガタガタ震え始めます。チルチルは勇気をふりしぼって、そのトビラをあけました。
すると、意外にもそこにはたくさんの青い鳥が飛んでいます。何千、何万、何億という数の青い鳥です。
たくさん捕まえたチルチルでしたが、一歩、外へ出たとたん、みんなぐったりして死んでしまいました。
日の光の中でも生きていける本当の青い鳥ではなかったのです。
次に一行は森の中へ入りました。
帽子のダイヤを回すと、たくさんの木々の精があらわれます。年取った樫の木の枝に青い鳥がとまっています。
「その鳥を下さい」と頼むチルチルに、木々の精は断ったばかりか動物たちの精と共に戦いを挑みます。
昔から人間たちは木を切りたおし、動物を殺し数多くの罪を犯してきた、その仕返しだというのです。
チルチルはナイフ一本で立ち向かいますが、何しろ相手の数が多く、あわやと言うところまで追い込まれます。
絶対絶命。そこへ光の精が登場し、ダイヤを回すようにアドバイスします。チルチルがダイヤを回すと、木々の精も動物たちの精も、またたく間に姿を消し、あたりは、また静かな森に戻ったのです。
次に訪れたのは不気味な墓地でした。死んだ人が自分の墓の中に青い鳥を隠しているという噂を聞いたからです。
時計が夜中の12時を打つのを待ってチルチルがダイヤを回しました。十字架がゆるぎ、土が口をあけ、墓の台石がもちあがりました。何が飛び出すのでしょう。
固唾をのんで見守るみんなの前に、思いがけない風景が広がりました。
しおれた花が美しさを取り戻したのをきっかけに、あたりは一転してはなやかな空気に包まれました。
贅沢な宴が始まったのです。たくさんのごちそう。美女をはべらせ、宝石で飾りたて、心地よい音楽が響きます。
お金持ち、地主、たらふくお酒を飲み、必要以上に眠りをむさぼる。
そんなぜいたくにおぼれた人たちはチルチルを誘います。
先にテーブルに座ったパンやイヌたちは食事に魂を奪われてチルチルの言うことも聞かなくなってしまいます。
あわててチルチルはダイヤを回しました。すると、どうでしょう。ぜいたくたちは一斉に小さな穴に逃げこみ、代わりに、あたりは何ともいえない清らかな光で満たされ始めました。いつしか天国へ導かれたのです。
「青い鳥はどこにいるの、青い鳥さえつかまえられたら幸福になれるのに」
そう問いかけるチルチルは、世の中には人間が考えているより、もっとたくさんの幸福があることを教えられます。
なかでも「母の愛の喜び」が最高だと教わると、チルチルの目の前にお母さんがあらわれ語りかけます。
どんな悲しいときでも子供とキスさえすれば涙は星に変わる。
どこでもチルチルがお母さんにキスする所は天国なんだよ」。お母さんの限りなく美しい愛に浸ることが最も大きな幸福であることを知るのです。
次に訪れた「未来の国」は、目に見える何もかもが青色に染まっていました。
そこで、チルチルとミチルはたくさんの子供たちに出会いました。どの子もみんな空色の着物を着ています。
広間にぎっしりと集まった子供たち。しかもそんな広間が他に3万もあるというのですから驚きです。
その子供たちはまだ産まれていない、つまり、誕生を待っている子供たちなのです。
子供たちはそれぞれ大切なテーマを抱えています。
世の中を幸福にする機械を発明しようと考えている子がいます。
月の中に隠してある宝を見つけようと考えている子がいます。長生きの薬を発明しようと考えている子がいます。
羽がなくても空を飛べる機械を発明しようと考えている子がいます。
それぞれ誕生してからの「自分」を準備しているのです。
なかには馬車の車輪ほどの大きさのひな菊を作るんだと訴える子がいます。
メロンほどの大きさのリンゴを作ろうと考えている子供ももいます。
その一方で、大きな罪や病気を持っている子もいます。
つまり、人間は何かひとつ「自分の運命」を持って産まれていかなければならないとうのです。
そこへ「時のおじいさん」があらわれ、子供たちはみんな大きな船に乗り込みます。地球へ出発するのです。
その地球からは清らかな歌声が聞こえてきました。お母さんたちが歌いながら迎えにきたのです。
長い長い旅が終わりました。チルチルとミチルがハッと気が付くと、そこは見なれた自分たちの部屋。
懐かしい木こり小屋へ戻ってきました。光やパンの精たちとも、これでお別れです。
おまけに、チルチルとミチルはお婆さんとの約束を思い出し、気が重くなります。
とうとう青い鳥を見つけることができなかったからです。
朝日がのぼります。部屋をノックしていつものようにお母さんが起こしにきました。
チルチルとミチルはお母さんに、長かった旅のことを一気に話し始めます。
パンや水や砂糖を連れて旅したこと。亡くなったおじいさん、おばあさんにあったこと。
天国でお母さんの愛の深さを知ったことなどを話します。
けれども、お母さんには何かなんだかさっぱりわかりません。
そこへあのお婆さんがやってきます。
チルチルは青い鳥を探せなかったことをお婆さんにわびます。
すると、お婆さんはチルチルが前から飼っていた鳥をほしがります。それは青くもなんともない一羽の鳩。
でもふしぎなことに、その鳩をよく見ると旅に出る前よりずっと青くなっているではありませんか。
チルチルはずいぶん遠くまで青い鳥を探しに旅をしたのですが、なんのことはない、それはごく身近にいたのです。
チルチルは青い鳥をお婆さんに差しだします。そのおかげで病気の女の子はすっかり元気になりました。
こうしてチルチルとミチルは、幸福とは気がつかないだけでごく身の回りに潜んでいるもの。
しかも自分のためだけでなく、他人のために求めるとき、それははかりしれなく大きくなることを知ったのです。
著者・モーリス=メーテルリンク
編集・式守 正久(しきもり まさひさ)