中心軸システムはとても難しそうな概念なのですが、基本さえ押さえてしまうと編曲などではかなり応用が利きます。
この時代、従来の調性・和声からの脱却はバルトークにかぎらず色々な作曲家が行いましたが、バルトークの特筆すべき点は完全に調整を破壊することなく似たものを代理で補おうとかんがえ発見し実践したことです。
この作業は、JAZZでいう代理コード・編曲などで行うリハーモナイズと基本的には同じです。ですから、編曲などをするときに原曲の感じを完全に破壊することなく違った雰囲気を出したいときにはかなり有効な手法になるといえると思います。
中心軸を行う前に…
同主調 | ||||||
ハ短調 | ||||||
↑ | ||||||
属調 | ト長調 | ← | ハ長調 | → | ヘ長調 | 下属調 |
↓ | ||||||
イ短調 | ||||||
平行調 |
近親調
近親調とは字の通り非常に親しい関係にある調のことです。この関係の調に転調した場合はほとんど違和感なく転調することができます。
中心軸システムを説明するために「下属調・属調」を頭に入れておいてください。
ハ長調で説明します。(英語表記です・ドイツ語じゃないですよ!)
主音 | 下属音 | 属音 | ||||
C | D | E | F | G | A | B |
C→D よりも C→Fのほうが近い音という関係があります。これは倍音を考えているからです。ですからC~Fの関係を完全4度といって完全に混ざり合います。同じようにGもそういえます。Cの音をよく聞いているとGの音が聞こえてくるかな?
中心軸システムの使い方
この近い音?どうしを並べた関係を表にすると…
▲サークル・オブ・5th
12回続けると元の調に戻ります。(ただしこれは、平均律の話であって純正律だと元には戻りません。興味のある方は「ピタゴラスのコンマ」で検索してみてください)
先に書いたとおりだと、Cからは、FまたはGになります。バルトークはどこに目をつけたかというとCから見るとちょうど正反対側F#に目をつけました。GだとD♭です。これが大まかに中心軸システムになります。中心軸システムを使うと12回で一回りでなく、行って帰ってくるので2回で元の調に戻ります。
これは偶然発見した物で出なくて、数学的に強い人であれば必然的に発見することができると思います。
なぜかというと、考え方としてまず和声を考えるときは、自然倍音のスケールで考えます。表で書くと(Cから始めます)こうなります。
C | D | E | F | G | A | B♭ | C |
Ⅰ | Ⅱ | Ⅲ | Ⅳ | Ⅴ | Ⅵ | Ⅶ | |
W | W | h | W | W | h | W |
JAZZとかでいうとミクソリディアン(MIXOLYDAN)ですね。ちなみに一番下は、隣接音の差です。Wは全音、hは半音です。中心軸システムに当てはめて考えるとCの反対はF#になるので…
F# | G# | A# (B♭) |
B | C# | D# | E | F# |
Ⅰ | Ⅱ | Ⅲ | Ⅳ | Ⅴ | Ⅵ | Ⅶ | |
W | W | h | W | W | h | W |
となります。Ⅲ・Ⅶをよく見てください。ちょうどここが反対になっていますよね?
(E→Ⅲ・Ⅶ)(B♭→Ⅶ・Ⅲ)和音にした場合、(これをコード表記にするとC7、F#7)Ⅲ・Ⅶが重要な音になります。ですから、この2つはⅢ、Ⅶが両方音に入っているので遠そうで、近いということがいえます。ちなみにこの関係は計算したら出せるんですけど…(汗)
ではどういう風に使うかというと…具体的に…
ハ長調から、嬰ヘ長調にいきなり転調するということでもかまわないのですが、いきなりやると唐突かもしれません。
ですので、具体的にここではコードで書きます。
C→G7→C といった進行があったとします。
その場合、
C→G7→F# と言ったことが可能です。繰り返すこともできます。
C→G7→F#→C#(D♭)→C→G7→F#→C#(D♭)→C…
Cというコードに対してF#のコードを使うこともあるかもしれませんが、F#m(♭5)として代理に当てることが多いです
余談
ここ数年の歌謡曲なんかを聴いているとこのシステムをうまく使っています。きちんと統計を取ったわけではないのですが、私が感じたこととして、転調する場合、近親調に転調するのではなく、主音から見て、長6度・短6度のところに転調しているケースが多く感じます。確かに、近親調だと平凡すぎるのでそういったことをうまく打開していると思います。だからといっていきなり変わったら唐突すぎますね。でどうやっているかというと…無数にあるのですがたとえば…Cで説明します
長6度の場合はもともとAの音がCのスケールにあるため、C→Am→D7→A みたいな感じででもうまくいきますが、さすがにA♭に持って行くのは工夫がいります。そこで中心軸システムの考えを使います。A♭の属7和音は、E♭なのですが、ここまで行くのには、C~F、B♭とたどらなくてはいけません。これだと遠すぎるので、表を見てください、E♭の反対はAです。そこでE♭の代わりに、A7を使ってA♭に行きます。C→Am→D7→A→A♭みたいな感じです。短調にしてやる場合も含めてたくさんの方法がありますが、いまだにバルトークの恩恵にあずかっているのがわかりますか?
これらは、和音の話ですが、これを最低音に持ってきて活用した場合もっと手っ取り早く体感することができます。表でいう4度右回りの最低音の動きはかなり強力ですので、活用したくても遠すぎた場合は中心軸システムを使って(Gの代わりにD♭とか)最低音だけでも最短ルートで目的の音までたどり着くことができます。しかもスケールにない音を使うため響きも安直になりすぎるのを緩和してくれます。
さらに余談
上に書いた表サークルオブ5hをよく見て使うと、さらにシステマチックだったり、シンメトリックな旋法を発見することができます。特に有名なのは、フランスの作曲家メシアンで有名な移調限られた旋法(M.T.L.)です。機会があれば紹介しますが、このように上記の表は色々と活用できますので覚えておいた方がよいかもしれません。
ちなみに旋法とは、「ある音階に基づく旋律に関し、その動きの性格を規律している法則」という定義がなされてます。