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『兵法三十六計』の要約と全文一覧(書き下し文と解説)

このコンテンツは、知的生きかた文庫の「兵法三十六計~勝ち残りの戦略戦術~」(守屋洋著)を参考に管理人なりに理解をしてまとめたものです。

 中国の兵法思想と「三十六計」

古来より中国人は「戦わずして勝つ」ということを、もっとも望ましい勝ち方であるとみなしてきたようだ。

「孫子」の中には「戦ワズシテ人ノ兵ヲ屈スルハ善ノ善ナルモノナリ」とあるが、これは「戦わずして勝つ」という考え方の典型的なものである。


「戦わずして勝つ」ことが望ましい理由とは次の二つである。

①武力で戦えば敵も味方も損害を免れない。

②今日は敵でも明日は味方になるかもしれない相手を痛めつけるのは得策ではない。


では、「戦わずして勝つ」にはどうすればよいのだろうか。

①外交交渉によって相手の意図を封じこめる。

②謀略によって相手の力を削ぎ、内部崩壊にみちびく。


つまり、「力」で勝つのではなく、「策」で勝つということである。

「兵法三十六計」の最初の出典は、正史のひとつである「南斉書」である。

今から1500年以上も前に書かれたもので、斉の檀道済というという人物にまつわる事柄からヒントを得て、後世の人が著したようだ。


特徴としては…

一、戦いにおける法則を見つけて、合理的に策を用いること。

一、彼我の状況を読み取り、十分な情報の上に策を用いること。

一、心を攻めるを主とし、できるだけ戦わないで勝つこと。

一、無理はしないこと。

一、勝てないときは逃げること。

…という感じに要約できるだろうか。

 

それでは以下が書き下し文とその解説である。

勝戦の計 

第一計 瞞天過海 (天を瞞いて海を過たる)

書き下し文

備エ周アマネカバ則チ意怠ル、常ニ見レバ則チ疑ワズ。陰ハ陽ノ内ニ在リ、陽ノ対ニ在ラズ。太陽ハ太陰ナリ。

解説

瞞天過海とは、擬装の手段を用いてあいてを誘い、それにつけこんで勝利を収める策略である。行動を起こす気配を見せれば相手も警戒を怠らないが、それが見せかけであれば相手の警戒心はだんだんと薄れていく。その油断を一気に突くのがこの計である。なれと言うのは怖いもので、策略じゃなくても引っかかることは多いのではないか。人間心理の盲点を突いたこの策略は意外と成功率が高いようだ。

第二計 囲魏救趙(魏を囲んで趙を救う)

書き下し文

敵ヲ共ニスルハ敵ヲ分カツニ如カズ。敵ノ陽ナルハ敵ノ陰ナルニ如カズ

解説

「囲魏救趙」とは、戦国時代の斉の軍師であった孫[月賓]が、魏軍を討ったときに採用した作戦である。敵が強大であればあるほど、正面から挑むことは賢明ではなく、勝利する確立は低い。仮にまぐれで勝ったとしても、見方の損害が大きくなってしまう。ではどうしたらよいか。

「兵ヲ治ムルハ水ヲ治ムルガ如シ」という。戦争のやり方は治水の容量と同じで、逆巻く激流には容易に近づけないが、いくつもの疏流に分けてしまえば、水の力が弱まるのでどうにでもなるということだ。

強大な敵に対するときは、勢力を分断し、疲れさせた後に攻撃を仕掛ければ比較的簡単に打ち破ることが出来る。力ずくではなく分断して攻めるというのがこの「囲魏救趙」である。

 

第三計 借刀殺人(刀を借りて人を殺す)  

書き下し文

敵スデニ明ラカニシテ、友イマダ定マラザレバ、友ヲ引キテ敵ヲ殺サシメ、自ラ力ヲ出サズ、損ヲ以ッテ推演ス。 

解説

借刀殺人には二つの側面がある。
①第三者の力を利用する方法。
これは、自分の手を用いず、自分と敵以外の第三者の力を利用する方法で、自分の勢力を温存したまま敵を倒すことが出来る。日本の「人のふんどしで相撲をとる」という諺に近い。
②敵を利用する方法。
敵の力、敵の経済力、敵の知謀などを巧みに利用して離間策を講じ、敵を崩壊に追い込む方法。 

第四計 以逸待労(逸を以って労を待つ) 

書き下し文

 敵ノ勢ヲ困ムルニハ、戦イヲ以ッテセズ、剛ヲ損シテ柔ヲ益ス。

解説

 味方は余裕のある状態を保ちながら、敵の疲れを待つという策略。「孫子」の兵法の中には「敵より先に戦場におもむいて相手を迎え撃てば、余裕を持って戦うことが出来る。逆に敵より送れて戦場に到着すれば、苦しい戦いを強いられる。それゆえ戦上手は、相手の作戦行動に乗らず、逆に相手をこちらの作戦行動に乗せようとする(虚実篇)」。また、「有利な場所に布陣して遠来の敵を待ち、十分な休養を徒って敵の疲れを待ち、腹いっぱい食って敵の飢えを待つ(軍争篇)」とある。

ここで言う「待つ」というのは、天をたのみ、僥倖を期待して、ただ漫然と時間をつぶしているという意味ではなく、打つべき手を抜かりなく打ちながら鋭気を養い、力を蓄え守りを固めて、相手の疲れを待つということである。そして、相手に疲れが表れてきたところを一気にたたくというものである。つまりは、戦いの主導権をどのようにとるかということであり、重要なのは「後の先」をとることにある。

 第五計 趁火打劫(火に趁つけこんで劫を打く)

書き下し文

 敵ノ害大ナレバ、勢イニ就キ利ヲ取ル。剛、柔ヲ決スルナリ。

解説

 「趁火打劫」とは、もともと人の弱みにつけこんで押し込み強盗を働く、つまり、火事場泥棒の意である。相手の弱みにつけこみ、嵩にかかって攻めたてること、これがこの策略のポイントである。敵が派閥争いに明け暮れていたり、外部からの圧力に苦しんでいたりするとき、これをまたとない進攻のチャンスとみなし、躊躇なく進攻して息の根を止めてしまう、これが「趁火打劫」の策略に他ならない。

第六計 声東撃西(東に声して西を撃つ) 

書き下し文

 敵の志乱萃シ、慮ラザルハ、坤下兌上ノ象ナリ。ソノ自ラ主ドラザルヲ利シテコレヲ取ル。

解説

 この策略の手順としては、この策略の手順としては、①東を撃つと見せかけて陽動作戦を展開する。②それにつられて敵が東に移動して守りを固めると、西が手薄になる。③手薄になった西にすかさず攻撃をかける。ということになる。「通典」という書に、「声言撃東、其実撃西(東ヲ撃ツト声言シ、ソノ実ハ西ヲ撃ツ」とあるのが出典である。この策略は、相手がこちらの陽動作戦にうまくひっかかってくれることがキモである。逆に言えば、敵の司令官が冷静な判断力を失わず、こちらの手の内を読んだ対応策を整えてくれば、かえってこちらが裏をかかれて大敗を喫することになりかねない。つまり、この策略を成功させるには、敵の指揮官、参謀などの性格や能力、戦い方の傾向に対する的確な洞察が重要ということになる。 

敵戦の計

第七計 無中生有(無の中に有を生ず) 

書き下し文

 誑クナリ。誑クニアラザルナリ。ソノ誑ク所ヲ実ニスルナリ。少シク陰、太ダ陰、太ダ陽ナリ。

解説

 「無中生有」とは、ありもしないのにあるように見せかけて、相手の判断を惑わす策略である。この策略を成功させるには、前提条件として、次の二つのことが必要である。
①敵の指揮官が、単純な人物であるか、または疑い深い人物であるかして、こちらのしかけた策に乗りやすいタイプであること。
②「無」の状態、すなわちありもしないのにあるように見せかけて敵の判断を惑わしたら、次の段階では実際に「有」の状態に変化して、一気にたたみかけること。
「無」から「有」、「虚」から「実」への転換が、この策略を成功させるポイントとなるのである。

 第八計 暗渡陳倉(暗に陳倉に渡る)

書き下し文

 コレニ示スニ動ヲ以ッテシ、ソノ静ニシテ主アルヲ利ス。益ハ動キテ巽ウ。

解説

 「暗渡陳倉」とは、A地点を攻撃すると見せかけて、実はB地点を攻撃するという策略で、第六計の「声東撃西」とほぼ同様の発想である。もちろん、本当の狙いはB地点である。その狙いを隠しておいて、まずA地点を攻撃し、そこに敵の注意をひきつけておく。そうしておいてから、一気にB地点に攻撃を集中する。これによって、手薄になっている場所の不意をつくことができるので、勝率は極めて高くなる。第六計の「声東撃西」の策略と同様、この策略の成功は、一にも二にも陽動作戦の可否にかかっている。したがって、準備工作の入念さが成功のカギと言えよう。

第九計 隔岸観火(岸を隔てて火を観る) 

書き下し文

 陽乖レ序乱ルレバ、陰以ッテ逆ヲ待ツ。暴戻恣?ハ、ソノ勢自ラ斃レン。順以ッテ動クハ予ナリ、予ハ順以ッテ動ク。

解説

 端的に言って、この策略は、「高みの見物を決め込む」ことである。相手に内部抗争の兆しがあるときなどには、こちらが下手に進攻の構えを見せるとかえって敵が団結してしまう可能性があるため、、じっと静観して相手の内部崩壊と自滅を待つというものである。もっとも、そんな場合には容赦なくつけこんで相手を倒してしまえというのが第五計の「趁火打劫」であるが、「漁夫の利」、または「濡れ手に粟」を狙うという点では、「隔岸観火」のほうがより老獪な策と言えるかもしれない。ただ、実際問題として、行動を起こすか静観するかの判断は非常に難しい。静観したばかりに、みすみすチャンスを逃してしまうというケースも十分に考えられる。要は、行動を起こすときは電光石火のごとく、静観するときは徹底的に静観する、この見極めが肝心なのかもしれない。

第十計 笑裏蔵刀(笑いの裏に刀を蔵す) 

書き下し文

 信ニシテコレヲ安ンジ、陰カニ以ッテコレヲ図ル。備エテ後ニ動キ、変アラシムルコトナカレ。中ヲ剛ニシ外ヲ柔ニスルナリ。

解説

 これは、文字通り、友好的な態度で接近し、相手が警戒を解いたところで一挙に襲いかかる策略である。にこやかな態度で接するのは、相手の警戒心を和らげるための方便であることは言うまでもない。これが真に迫っているほど成功率は高くなる。逆に、仕掛けられたほうは、その「笑い」の中にどんな魂胆が秘められているのか、それをすばやく読み取ることが術中にはまらないために不可欠である。「孫子」の中でも、「敵の軍使がへりくだった口上を述べながら、対陣中、突如として講和を申し入れてくるのは、なんらかの計略があってのことである」とある。敵が何かうまい話を持ちかけてくるときは、必ずそこには何らかの狙いがあると見るのが賢明な考え方であるということであろう。

 第十一計 李代桃僵(李、桃に代わって僵る) 

書き下し文

 勢イ必ズ損アリ、陰ヲ損イテ以ッテ陽ヲ益ス。

解説

 「李代桃僵」とは、李を犠牲にして桃を手に入れる、という意味であり、「皮を斬らせて肉を斬り、肉を斬らせて骨を断つ」策略ということもできる。戦いであるからには、必ず損害を覚悟しなければならない局面というものも出てくる。そんな時、損害をいかに最小限に食い止めるかということを考えるのはもちろんであるが、同時に、与えられた損害を上回る利益をどのようにあげて埋め合わせをするか、ということをも考えねばならない。要は、局部的な損害にあまりくよくよせず、その損害を捨石として活用し、より大きな利益をつかむために効果的に行動することが肝心である、ということであろう。

第十二計 順手牽羊(手に順いて羊を牽く) 

書き下し文

 微隙ノ在ルハ必ズ乗ズル所ナリ。微利ノ在ルハ必ズ得ル所ナリ。少シク陰、少シク陽。

解説

 「順手牽羊」とは、元々、その場にあるものを手当たり次第に失敬するという意味である。戦略戦術の上から言えば、敵の隙につけこんで、がめつく戦果を拡大する策略ということができる。

しかし、戦略上でこれが成り立つには、以下に示す幾らかの条件があるといえよう。

①遂行しなければならない本来の目標があること
②その目標とは別に、容易に手に入る利益が目の前に転がっている こと
③その利益に手を出しても、本来の目標追究に支障を生じないこと

これらの条件が満たされている場合には、つけこめるときにはどんな小さなことにでもつけこみ、利益を獲得しようとする飽くなき態度こそが、勝利に近づく一つの秘訣といえるのかもしれない。

攻戦の計

 第十三計 打草驚蛇(草を打って蛇を驚かす)

書き下し文

疑ワバ以ッテ実ヲ叩キ、察シテ後ニ動ク。復スルハ陰ノ媒ナリ。 

解説

 「打草驚蛇」には二つの意味がある。「打草驚蛇」には二つの意味がある。

①探りを入れて相手の動きを察知する策略。これは孫子の力説する諜報活動(彼ヲ知リ、己ヲ知レバ…云々)では限度があるために、実際の作戦行動の中で、偵察により相手の反応を見るというものである。

②蛇ではなく草を打つことで「いぶり出し」を行なう作戦。大物を捕まえるのに、周辺の小物から片付けていくのもこれに当たる。つまりこの作戦の目的は“草”という手段を用いて、“蛇”の動向を知ることである。 

第十四計 借屍還魂(屍を借りて魂を還す) 

書き下し文

 用ウルアル者ハ、借ルベカラズ。用ウル能ワザル者ハ、借ルヲ求ム。用ウル能ワザル者ヲ借リテコレヲ用ウルハ我ヨリ童蒙ニ求ムルニアラズ、童蒙ヨリ我ニ求ム。

解説

 これは、利用できるものは何でも利用して、勢力の拡大を図るという策略である。たとえば、

①自己防衛のための防波堤として利用する。
②勢力拡大のための隠れ蓑として利用する。
③地盤拡大のための踏み台として利用する。

…などである。利用する相手の前提条件として、勢力が弱く利用価値があることが必要である。利用価値がなくなった場合は乗っ取ることができる。 

第十五計 調虎離山(虎を調って山を離れしむ) 

書き下し文

 天ヲ持ッテ以ッテコレヲ困メ、人ヲ用イテ以ッテコレヲ誘ウ。住ケバ蹇ミ、来レバ返ル。

解説

 「調虎離山」の“虎”とは強敵を表し、“山”とは根拠地を意味する。野生の虎を退治するには山からおびき出すことが必要である。方法としては、

①敵が守りの硬い城や要害の地に立てこもっているときには、それを放棄するように仕向ける。

②正面対峙している場合は、敵の攻撃方向を他の地点にそらし、正面からの圧力を緩和する。

いずれにしてもこの策略を成功させるには、敵をおびき出すトリックが重要であり、それが巧妙であるか稚拙であるかによって策略の成功か失敗かを大きく左右することになる。

第十六計 欲擒姑縦(擒えんと欲すれば姑く縦つ)

書き下し文

 逼レバ則チ兵ヲ反サル。走ラシメバ則チ勢イヲ減ズ。緊ク随イテ迫ルコトナカレ。ソノ気力ヲ累レシメ、ソノ闘志ヲ消シ、散ジテ後擒ウレバ、兵、刃ニ血ヌラズ。需ハ孚アリ、光ナリ。

解説

敵を完全に包囲して追い詰めれば、「窮鼠猫を噛む」ように猛反撃をしてくるかもしれない。そうなれば味方にも相当な損害を受ける恐れがある。それを避けるには、完全包囲という短兵急な攻め方を避けることが重要である。

「孫子」の中に「呉越同舟」という言葉がある。危険な状態に置かれれば、どんなに中の悪い相手とでも協力して助け合うということである。つまり逃げ道がないほどに攻め立てるなら全体が一致団結して反撃してくることになる。それで「孫子」も「窮寇ニハ迫ルコトナカレ」といましめている。

 第十七計 抛磚引玉(磚を抛げて玉を引く)

書き下し文

 類以ッテコレヲ誘イ、蒙ヲ撃ツナリ。

解説

 これは所謂「海老で鯛を釣る」策略である。相手の食いつきそうなエサをばら撒いておいて、とびついてきた敵を撃滅する。この策略のポイントは…

①エサが美味しそうであること
②エサをエサと見破られないこと

で、この二つをどのように工夫するかが、この策略の成否を決定するといえる。

第十八計 擒賊擒王(賊を擒えるには王を擒えよ) 

書き下し文

 ソノ堅キヲ摧キ、ソノ魁ヲ奪イ、以ッテソノ体ヲ解ク。竜、野ニ戦ウハ、ソノ道窮マルナリ。

解説

 「擒賊擒王」とは、敵の主力、或いは中枢部を壊滅させなければ本当に勝ったことにはならないという発想である。小さな局地的勝利を積み上げてもそれは最終的な勝利に結びつくこととは別である。手を緩めれば相手は息を吹き返して反撃に転じ、かえって敗北を喫するかもしれないのである。そうならないために徹底的に相手を叩かなければならない。つまり相手の主力を粉砕し、相手の大将を倒して、相手の反撃の意志を打ち砕かなければならないということである。

混戦の計

 第十九計 釜底抽薪(釜の底より薪を抽く)

書き下し文

 ソノ力ニ敵セズ、而シテソノ勢イヲ消スハ、兌下乾上ノ象ナリ

解説

 「釜底抽薪」は問題を解決するには根本に手をつけなければ真の解決にはならないという発想。ぐらぐら煮えたぎっている釜は暑くて手が付けられないが、底から薪を抜き取ってしまえば湯が冷める為、容易に処理することが出来る。それと同様に相手がまともに戦っても勝ち目のない強敵であれば、敵の死命を制するような弱点に狙いをつけなければならない。そしてそれは容易に実行でき、効果の大きいものであることが望ましい。

たとえばこんな方法がある。

①敵の補給を立つこと。大軍であればあるほど戦力を維持することが難しくなる。
②敵の兵士の指揮を下げる。兵士にやる気がなければ、組織として機能しなくなる。

 第二十計 混水摸魚(水を混ぜて魚を摸る)

書き下し文

 ソノ陰乱ニ乗ジ、ソノ弱クシテ主ナキヲ利ス。随ハ以ッテ晦ニ向カエバ入リテ宴息ス。

解説

 相手の内部混乱に乗じて勝利を収めると言う策略。混乱していなければ、まず混乱させる工作をし、その後、その混乱につけこむ。ポイントとして次の二点が挙げられる。

①あいての判断を惑わすようなかく乱工作をし、指揮系統を乱しておいてそれにつけこむ。
②相手の内情を調べ、勢力や派閥などの中で、最も混乱の激しい箇所に狙いをつける。

 第二十一計 金蝉脱殻(金蝉、殻からを脱す)

書き下し文

 ソノ形ヲ存シ、ソノ勢ヲ完ウスレバ、友疑ワズ、敵動カズ。巽イテ止マルハ、蠱ナリ。

解説

 「金蝉脱殻」とは、とどまっているように見せかけて、移動するという策略である。
例えば、強大な敵と対峙しているときなど、一度撤退して状況を巻き返す必要が生じた時に、策もなく撤退すれば、追撃を受けて壊滅の危機に瀕する。

そこで、敵にはあくまでも現在地にとどまっているように見せかけて釘付けにしておき、作戦を無事に完了することが出来る。敵が気付いた時には、味方の陣はもぬけの殻ということである。

第二十二計 関門捉賊(門を関して賊を捉える) 

書き下し文

 小敵ハコレヲ困ム。剥ハ、住ク攸アルニ利シカラズ。

解説

 これは、敵を包囲し攻め立てて一網打尽にする策略である。これには次の二つの前提条件が必要となる。

①敵が少数で、弱いこと。
②将来に禍根を生ずる可能性があり、徹底的な殲滅が必要な場合。

包囲した敵を殲滅するのか、或いは、第十六計の「欲擒姑縦」を用いるのかは、そのときの状況判断と将帥の判断である。「欲擒姑縦」が相手の自適変化や心服を促すのに対し、「関門捉賊」は相手を逃して回復の時を与えてはならないときに用いる。
が、この計は「窮鼠、猫を噛む」の諺を警戒しなければならない。

 第二十三計 遠交近攻(遠く交わり近く攻む)

書き下し文

 形禁ジ勢イ格ケバ、利ハ近ク取ルニ従イ、害ハ遠隔ヲ以ッテス。上火下沢ナリ。

解説

 読んで字のごとく、遠方の国と同盟して近隣の国を攻めることを言う。乱世において多くの国が乱立している場合、どこと同盟しどこを攻めるかは国の存亡に関わる問題である。遠方と同盟することは、ニ方向から圧力をかけ、補給を遮断することが出来るし、近くを攻めることは少ない労力でじわじわと勢力圏を拡大することが出来るからである。 

 第二十四計 仮道伐虢(道を仮りて虢を伐つ)

書き下し文

 両大ノ間、敵脅スニ従ヲ以ッテスレバ、我仮ルニ勢ヲ以ッテス。困ハ、言ウコトアルモ信ゼラレズ。

解説

 これは、小国の窮状につけこんで併呑する策略である。近隣の小国が、他国の侵略を受けて救援を求めてきたような時、これを助ける動きを見せて兵を起し、影響力を拡大しつつ機を見て併呑するというもの。そうすれば、大義名分も成り立ち、国際世論の非難をかわすことが出来るし、無傷で勢力圏を拡大できるのだ。

併戦の計

第二十五計 偸梁換柱(梁を偸み柱を換かう) 

書き下し文

 頻リニソノ陣ヲ更エ、ソノ勁旅ヲ抽キ、ソノ自ラ敗ルルヲ待チテ、後コレニ乗ズ。ソノ輪ヲ曳クナリ。

解説

「偸梁換柱」は梁や柱のような家を支える大事な部分を抜く、或いは自分の都合のいいように取り替えてしまう策である。つまり相手を骨抜きにして抵抗する意思を失わせ、攻め滅ぼしやすくしたり、こちらの言いなりに操縦できるようにするというもの。 

 第二十六計 指桑罵槐(桑を指して槐を罵る)

書き下し文

 大、小ヲ凌グハ、警メテ以ッテコレヲ誘ウ。剛中ニシテ応ジ、険ヲ行ナイテ順ナリ。

解説

 Aを批判したいが表向きそう見せたくないときに、Bを叱ることによって、間接的にAを批判する手法。 Aを批判したいが表向きそう見せたくないときに、Bを叱ることによって、間接的にAを批判する手法。 

第二十七計 仮痴不癲(痴を仮るも癲せず) 

書き下し文

 寧ロ偽リテ知ラズトナシテ為サズトモ、偽リテ知ヲ仮ルヲナシテ、妄リニ為スコトナカレ。静ニシテ機ヲ露ワサズ。雲雷、屯ナリ。

解説

 頭がおかしい振りや、ボケてしまった振りをして、相手の警戒心を和らげる策略。冷静な計算の上に、演技力を駆使して行い相手が油断したところを、一気に叩くというもの。 

第二十八計 上屋抽梯(屋に上げて梯を抽す) 

書き下し文

 コレヲ仮ルニ便ヲ以ッテシ、コレヲ唆カシテ前マシメ、ソノ援応ヲ断チ、コレヲ死地ニ陥ス。毒ニ遇ウトハ、位当タラザレバナリ。

解説

 文字通り「二階に上げて、梯子をはずす」策略だが、これには敵と味方どちらに当てはめるかで戦い方が変わってくる。敵の場合、うまくおびき寄せておいて、後続部隊との連携を断ち切る方法。そして、自軍においては、背水の陣をしいて、決死の覚悟で戦うように仕向けるというものである。

 第二十九計 樹上開花(樹上に花を開す)

書き下し文

 局ヲ借リテ勢ヲ布ケバ、力小ナレドモ勢大ナリ。鴻、逵ニ漸ム、ソノ羽モッテ儀トナスベシ。

解説

 劣勢なときに用いる計略で、大兵力に見せかけて相手を威圧するもの。それによって、相手の戦意を喪失させたり、別働隊を主力と見せかけて、相手の注意を別に向けさせたりすることができる。

 第三十計 反客為主(客を反して主と為す)

書き下し文

 隙ニ乗ジテ足ヲ挿シ、ソノ主機ヲ扼エヨ。漸ノ進ムナリ。

解説

 これはまずターゲットに客としてもぐりこみ、自重して時を待ち、弱点を見つけるや、主人の座を奪って主導権を握るというもの。 これはまずターゲットに客としてもぐりこみ、自重して時を待ち、弱点を見つけるや、主人の座を奪って主導権を握るというもの。 

敗戦の計

 第三十一計 美人計(美人の計)

書き下し文

兵強キハ、ソノ将ヲ攻ム。将智ナルハ、ソノ情ヲ伐ツ。賞弱ク兵頽ルレバ、ソノ勢イ自ラ萎マン。利モテ寇ヲ御シ、順ニシテ相保ツナリ。 

解説

 「美人計」とは、女を使って相手をメロメロにしてしまい、やる気をなくさせる策。「六韜」にも、「美女の淫声を以って相手を惑わす」とある。大抵は弱国が強国に対して用い、相手を籠絡して、政治を顧みなくなるように仕向けるものである。

但し、美人の役目はメロメロにしてしまうだけではない。君主などのそばに侍って信頼を得る、または得意のテクニック(媚術)で手玉に取る事により、敵国の情報を収集するという事も出来る。また、その他にも暗殺などに使われたこともあったようである。 

第三十二計 空城計(空城の計) 

書き下し文

 虚ナルハコレヲ虚ニシ、疑中ニ疑ヲ生ゼシム。剛柔ノ際、奇ニシテマタ奇ナリ。

解説

 「空城計」は味方が劣勢で勝算が立たない時に、その名の通り「空城」にして無防備を装う事により、敵の判断を惑わし、時間を稼ぐ、或いは、敵の攻撃を回避する事が目的である。死中に活を求めるというような、一か八か的な要素が強い策ではあるが、それを成し遂げる事ができる冷静沈着さと勇気が必要であるといえる。

また逆に、本当に伏兵を配置し、城内におびき寄せるという方法も「空城計」と呼ばれるが、こちらは使用例が見つからなかった。

第三十三計 反間計(反間の計) 

書き下し文

 疑中ノ疑ナリ。コレニ比スルコト内ヨリストハ、自ラ失ワザレバナリ。

解説

 「反間計」とは、偽の情報を流して、敵を離間したり、判断を惑わさせる策の事をいう。敵の諜報員を利用するやり方が多い。例えば、諜報員をこちら側に買収したり、それとは気づかぬ振りをして偽の情報を諜報員に流したりする事による。 「反間計」とは、偽の情報を流して、敵を離間したり、判断を惑わさせる策の事をいう。敵の諜報員を利用するやり方が多い。例えば、諜報員をこちら側に買収したり、それとは気づかぬ振りをして偽の情報を諜報員に流したりする事による。 

第三十四計 苦肉計(苦肉の計) 

書き下し文

 人、自ラ害セズ、害ヲ受クレバ必ズ信ナリ。真ヲ仮リトシ仮リヲ真トセバ、間以ッテ行ナウヲ得ン。童蒙ノ吉トハ、順ニシテ巽ナレバナリ。

解説

 「苦肉計」とは、わが身を痛めつけて敵を信用させ、反間活動を成功に導く策略である。普通は自分の身を自分で痛めつける者はいないので、それを逆手にとって、自分でつけた傷を人からされたように思い込ませれば、うまくいくが、演技力が求められるだろう。また、敵を欺くには味方からというように、非情さも求められるといえる。

 第三十五計 連環計(連環の計)

書き下し文

 将多ク兵衆クバ、以ッテ敵スベカラズ。ソレヲシテ自ラ累レシメ、以ッテソノ勢イヲ殺グ。師ニ在リテ中スルコト吉ナリトハ、天寵ヲ承クレバナリ。

解説

 「連環計」とは、敵を足止めする、或いは、行動を鈍らせる策を講じてから、敵を叩くというものである。「三国志」に出てくる龐統が、曹操の船を鎖でつながせた事が真っ先に思い浮かぶが、「鎖でつなぐ事」=「連環計」ではなく、あくまでも「行動を鈍らせる事」が目的である。身動きの取れない相手に攻撃を仕掛けるのは容易であるが、足止めに確実性を持たせるためには、正確で機敏な状況対応能力と、二の矢、三の矢を用意しておく事に他ならない。

 第三十六計 走為上(走にぐるを上と為なす)

書き下し文

 全師、敵ヲ避ク。左キ次ルモ咎ナキハ、イマダ常ヲ失ワザルナリ。

解説

 「勝てないときは逃げる」。これは中国兵法の鉄則である。「敵に後ろを向けてはならない。潔く玉砕せよ」という日本式の美しき死に様、“テンノウヘイカバンザイ思想”は基本的には無い。

ほとんどの兵法家がこの考え方を述べている。「孫子」には、「勝算が無ければ戦わずに退却せよ」とあるし、「呉子」にも、「不利な場合は退く事が肝要」とある。

凡庸な武将が、血気のままに突き進む事を、中国人は「匹夫の勇」と呼んで軽蔑する。軍を統率するものに求められるのは、勝てそうも無いのに突き進む勇気ではなく、次に相手を打ち破るための布石としての撤退を決断する勇気である。