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五輪書異本集 風之巻

 

この風之巻では、異本十九本を提示する。すなわち、筑前系諸本として、吉田家本・中山文庫本・伊丹家本、加えて越後系の、渡辺家本・近藤家丙本・赤見家乙本・神田家本・猿子家本を掲載する。また、肥後系諸本としては、楠家本・細川家本・丸岡家本・富永家本・常武堂本・田村家本・山岡鉄舟本、円明流系統では、狩野文庫本・多田家本・稼堂文庫本を掲載し、その他に大瀧家本を収録する。


01 風之巻 序
02 他流に大きなる太刀を持事
03 他流につよみの太刀と云事
04 他流に短き太刀を用る事
05 他流に太刀数多き事
06 他流に太刀の搆を用る事
07 他流に目付と云事
08 他流に足つかひ有事
09 他流にはやき事を用る事
10 他流に奥表と云事
11 風之巻 後書

 

 

  1 風之巻 序

 【吉田家本】

兵法、他流の道を知る事。他の兵法の流々を書付、風の巻として此巻に顕す所也。他流の道をしらずしてハ、一流の道慥わきまへがたし。他の兵法を尋ミるに、大きなる太刀をとつて、強き事を専にして、其わざをなすながれも有。或ハ、小太刀といひて、ミぢかき太刀をもつて道を勤ながれも有。或ハ、太刀かずおほくたくミ、太刀の搆をもつて、表といひ奥として、道を傳流も有。これミな実の道にあらざる事也。此巻の奥にたしかに書顕し、善悪利非をしらする也。我一流の道理、各別の儀也。他の流々、藝にわたつて、身すぎのためにして、色をかざり花をさかせ、うり物にこしらへたるによつて、実の道にあらざる事か。又、世の中の兵法、劔術ばかりにちいさく見たて、太刀を振ならひ、身をきかせて、手のかるゝ所をもつて、かつ事をわきまへたる物か。何れもたしかなる道にあらず。他流の不足なる所、一々此書に書顕す也。能々吟味して、二刀一流の利をわきまゆべきもの也。

 【渡辺家本】

兵法他流の道を知る事。他の兵法の流々を書附、風之巻として、此巻に顕す所也、他流の道をしらずしてハ、一流の道性わきまへがたし。他の兵法を尋見るに、大きなる太刀をとつて、強き事を専として、其わざをなすながれも有。或は小太刀といひて、みじかき太刀をもつて、道を勤るながれも有。或ハ、太刀かずおほくたくミ、太刀の搆を以て、表といひ奥として、道を傳ふる流も有。これミな實の道にあらざる事也。此巻の奥にたしかに書顕し、善悪利非をしらする也。我一流の道理、各別の儀也。他の流々、藝にわたつて身すぎのためニして、色をかざり花をさかせて、うり物にこしらへたるによつて、實の道にあらざる事か。又世の中の兵法、劔術ばかりにちいさく見たて、太刀を振ならひ、身をきかせて、手のかるゝ所をもつて、勝事をわきまへたるものか。いづれもたしかなる道にあらず。他流の不足なる所、一々此書に書顕す也。能々吟味して、二刀一流の利をわきまゆべき物也。

 【近藤家丙本】

兵法、他流の道を知る事。他の兵法の流々を書付、風之巻として、此巻に顕す所也、他流の道をしらずしてハ、一流の道性わきまひがたし。他の兵法を尋見るに、大きなる太刀をとつて、強き事を専として、其わざをなすながれも有。或ハ小太刀といひて、ミじかき太刀をもつて、道を勤るながれも有。或ハ、太刀かずおほくたくミ、太刀の搆をもつて、表といひ奥として、道を傳ふる流も有。これミな實の道ニあらざる事なり。此巻の奥にたしかに書顕し、善悪利非をしらする也。我一流の道理、各別の儀也。他の流々、藝にわたつて身すぎのためニして、色をかざり花をさかせて、うり物にこしらひたるによつて、實の道にあらざる事か。又世の中の兵法、劔術ばかりにちいさく見たて、太刀を振ならひ、身をきかせて、手のかるゝ所をもつて、かつ事をわきまひたるものか。いづれもたしかなる道にあらず。他流の不足なる所、一々此書にかき顕す也。能々吟味して、二刀一流の利をわきまゆべきもの也。

 【中山文庫本】

    風之巻 兵法、他流の道を知事。他の兵法の流々を書付、風の巻として、此巻に顕す所也。他流の道を知ずしてハ、一流の道性わきまへがたし。他の兵法を尋ミるに、大きなる太刀をとつて、強き事を専にして、其わざをなすながれも有。或ハ小太刀といひて、ミじかき太刀を以て、道を勤るながれも有。或ハ、太刀数おほくたくみ、太刀の搆をもつて、表といひ奥として、道を傳流も有。これミな実の道にあらざる事也。此巻の奥にたしかに書顕し、善悪利非をしらするなり。我一流の道理、各別の儀也。他の流々、藝にわたつて身すぎのためにして、色をかざり花をさかせ、うり物にこしらへたるによつて、実の道にあらざる事か。又世の中の兵法、劔術バかりにちいさく見たて、太刀を振ならひ、身をきかせて、手のかゝる所をもつて、かつ事をわきまへたる物か。何れもたしかなる道にあらず。他流の不足なる所、一々此書に書顕す也。能々吟味して、二刀一流の利をわきまゆべきもの也。

 【赤見家乙本】

兵法他流の道を知る事。他の兵法の流々を書付、風の巻として、此巻にあらハす所也、他【脱字】の道をしらずしてハ、一流の道性わきまへがたし。他の兵法をたづね見もつはらるに、大きなる太刀をとつて、強き事をもつぱらにして、其わざをなすながれも有。或は小太刀といひて、みじかき太刀をもつて、道をつとむる流もあり。或ハ、太刀数多たくミ、太刀の搆を以て、表といひ奥として、道を傳ふる流も有。是皆實の道ニあらざる事也。此巻の奥にたしかに書顕し、善悪利非を知らする也。我一流の道理ハ、各別【脱字】儀也。他の流々、藝にわたつて身すぎの為にして、色をかざり花をさかせ、うり物にこしらへたるによつて、實の道にあらざる事歟。又世の中の兵法、釼術ばかりのちいさく見立て、太刀を振ならひ、身をきかせて、手のかるゝ所をもつて、勝事をわきまへたるものか。いづれもたしかなる道にあらず。他流の不足なる所、一々此書に【脱字】顕す也。能々吟味して、二刀一流の利をわきまゆべき者也。

 【神田家本】

兵法他流の【脱字】を知る事。他の兵法の流々を書附、風之巻として、此巻に顕す所也。他流の道をしらずしてハ、一流の道性わきまへがたし。他の兵法を尋見るに、大きなる太刀をとつて、強き事を専として、其わざをなすながれも有。或は小太刀といひて、みじかき太刀をもつて、道を勤むるながれも有。或ハ、太刀かずおほくたくミ、太刀の搆を以て、表といひ奥として、道を傳ふる流も有。是ミな實の道にあらざる事也。此巻の奥にたしかに書顕し、善悪利非をしらする也。我一流の道理、各別の儀也。他の流々、藝にわた【脱字】て身すぎのためにして、色をかざり花をさかせて、うり物にこしらへたるによつて、實の道にあらざる事か。又世の中の兵法、劔術ばかりにちいさく見立、太刀を振ならひ、身をきかせて、手のかるゝ所をもつて、勝事をわきまへたるものか。いづれもたしかなる道にあらず。他流の不足なる所、一々此書に書顕す也。能々吟味して、二刀一流の利をわきまゆべきもの也。

 【伊丹家本】

兵法他流の道を知事。他の兵法の流々を書付、風之巻として、此巻に顕す所也、他流の道を知らずしてハ、一流の道慥に辨へがたし。他の兵法を尋ミるに、大きなる太刀を取て、強き事を専にして、其業をなす流れも有。或ハ小太刀といひて、みじかき太刀を以て、道を勤るながれも有。或ハ、太刀数多く工ミ、太刀の搆をもつて、表といひ奥として、道を傳る流も有り。是皆実の道にあらざる事也。此巻の奥に慥に書顕し、善悪理非を知らする也。我一流の道理、各別の儀也。他の流々、藝にわたつて身すぎのためにして、色をかざり花をさかせ、うり物にこしらへたるによつて、実の道にあらざる事か。又世の中の兵法、劔術ばかりにちいさく見たて、太刀を振ならい、身をきかせて、手のかるゝ所を以て、勝事を弁へたる物か。何れも慥なる道に非ず。他流の不足なる所、一々此書に書顕す也。能々吟味して、二刀一流の利を弁ゆべきもの也。  

 【猿子家本】

兵法、他流の道を知る事。他の兵法の流々を書附、風之巻として、此巻に顕す所也。他流の道をしらずしてハ、一流の道慥わきまへがたし。他の兵法を尋見るに、大きなる太刀をとつて、強き事を専として、其わざをなすながれも有。或ハ小太刀といひて、みじかき太刀をもつて、道を勤むるながれも有。或ハ、太刀かずおほくたくミ、太刀の搆を以て、表といひ奥として、道を傳ふる流も有。是ミな實の道にあらざる事也。此巻の奥にたしかに書顕し、善悪利非をしらする也。我一流の道理、各別の儀也。他の流々、藝にわたつて身すぎのためにして、色をかざり花をさかせて、うり物にこしらへたるによつて、實の道にあらざる事か。又世の中の兵法、劔術ばかりにちいさく見立、太刀を振ならひ、身をきかせて、手のかるゝ所をもつて、勝事をわきまへたる物か。いづれもたしかなる道にあらず。他流の不足なる所、一々此書に書顕す也。能々吟味して、二刀一流の利をわきまゆべきもの也。

 【楠家本】

兵法、他流の道をしる事。他の兵法の流々を書付、風の巻として此巻に顕す所也。他流の道をしらずしてハ、我一流の道、慥にわきまへがたし。他の兵法をたづね見るニ、大きなる太刀をとつて、つよき事を専にして、其わざをなすながれ【脱字】有。或ハ、小太刀といひて、みじかき太刀をもつて道をつとむるながれも有。或ハ、太刀かずおゝくたくミ、太刀の搆をもつて、おもてといひ奥として、道をつたゆる流も有。これ皆、實の道にあらざる事【脱字】。此巻のおくに慥に書顕し、善悪理非をしらする也。わが一流の道理、各別の儀なり。他の流ゝ、藝にわたつて、身すぎのためにして、色をかざり花をさかせ、うり物にこしらへたるによつて、實の道にあらざる事か。又、世の中の兵法、劔術ばかりにちいさくミたてゝ、太刀をふりならひ、身をきかせて、手のかる【脱字】所をもつて、かつ事をわきまへたるものか。いづれもたしかなる道にあらず。他流の不足なる所、一/\此書に書顕す也。能々吟味して、二刀一流の利をわきまゆべきものなり。

 【細川家本】

兵法、他流の道を知事。他の兵法の流々を書付、風の巻として此巻に顕す所也。他流の道をしらずしては、我一流の道、慥にわきまへがたし。他の兵法を尋見るに、大きなる太刀をとつて、つよき事を専にして、其わざをなすながれ【脱字】あり。或ハ、小太刀といひて、短き太刀を以て道を勤るながれもあり。或は、太刀かず多くたくみ、太刀の搆をもつて、おもてといひ奥として、道をつたゆる流もあり。是皆、實の道にあらざる事【脱字】。此巻の奥に慥に書顕し、善悪理非をしらする也。我一流の道理、各別の義也。他の流々、藝にわたつて、身すぎの為にして、色をかざり花をさかせ、うり物にこしらへたるによつて、實の道にあらざる事か。亦、世の中の兵法、劔術バかりにちいさく見たてゝ、太刀を振習、身をきかせて、手のかるゝ所を以て、かつ事をわきまへたるものか。いづれも慥なる道にあらず。他流の不足成所、一々此書に書顕す也。能々吟味して、二刀一流の利をわきまゆべきもの也。

 【丸岡家本】

二天一流兵法書風之巻 兵法、他流の道を知事。他の兵法の流々を書付、風之巻として此巻に著す所也。他流の道をしらでは、我一流の道、たしかに辨がたし。他の兵法を尋見るに、大キなる太刀を取て、強キ事を専ニして、其技をなす流【脱字】あり。或は、小太刀と云て、短キ太刀を以道をつとむる流もあり。或は、太刀数多くたくミ、太刀の搆を以、表と云奥として、道を傳る流もあり。是皆、実の道にあらざること【脱字】。此巻の奥ニたしかに書著し、善悪理非をしらする也。我一流の道理、各別の義也。他の流々、藝にわたつて、身すぎのためニして、色をかざり花をさかせ、賣物にこしらへたるによつて、實の道にあらざる事か。又、世の中の兵法、劔術ばかりに小ク見立て、太刀を振ならひ、身をきかせて、手のかるゝ所を以て、勝ことをわきまへたるものか。何れもたしかなる道にあらず。他流の不足なる所、一々此書にかき著すなり。能々吟味して、二刀一流の利を辨べきもの也。

 【富永家本】

    風 兵法、他流の道を知事。他の兵法の流々を書付、風の巻として此巻に顕す處也。他流の道を不知してハ、一流の道、慥にわきまへがたし。他の兵法を尋見るに、大きなる太刀を取て、強き事を専にして、其わざをなす【脱字】がれもあり。或ハ、小太刀と云て、ミじかき太刀を以て道を勤る流もあり。或ハ、太刀数多く見、太刀の搆を以、面と云奥として、道を傳ふる流も有。是【脱字】、実の道にあらざる事【脱字】。此巻の奥に慥に書顕し、善悪理非を知する也。我一流の道理ハ、各別の儀也。他の流ハ、藝に渡つて、身すぎの為にして、色を飾り花を咲せ、うり物に拵たるによつて、実の道にあらざる事か。また、世の中の兵法、劔術斗にちゐさく見立て、太刀をふり習ひ、身をきかせて、手の懸る所をもつて、勝事をわきまへたるものか。何も慥成道ニ非ず。他流の不足なる所、一々此書に書顕すなり。能/\吟味して、二刀一流の利をわきまゆべき者なり。

 【常武堂本】

    兵法五輪書風之卷 兵法、他流の道を知事。他の兵法の流々を書付、風の巻として此巻に顕す所也。他流の道をしらずしてハ、我一流の道、慥にわきまへがたし。他の兵法を尋見るに、大きなる太刀をとつて、つよき事を専にして、其わざをなす流【脱字】あり。或ハ、小太刀といひて、短き太刀を以て道を勤る流もあり。或ハ、太刀かず多くたくみ、太刀の搆を以て、おもてといひ奥として、道をつたゆる流もあり。是皆、實の道にあらざる事【脱字】。此巻の奥に慥に書顕し、善悪理非をしらする也。我一流の道理、各別の義也。他の流々、藝にわたつて、身すぎの為にして、色をかざり花をさかせ、うり物にこしらへたるによつて、實の道にあらざる事か。亦、世の中の兵法、劔術ばかりにちいさく見たてゝ、太刀を振習ひ、身をきかせて、手のかるゝ所を以て、かつ事をわきまへたるものか。いづれも慥なる道にあらず。他流の不足成所、一々此書に書顕す也。能々吟味して、二刀一流の利をわきまゆべきもの也。

 【田村家本】

 二天一流     風之巻  兵法【脱字】之道ヲ知事 他ノ兵流ノ流々ヲ書顯テ、風ノ巻トス、此巻ニ著ス處也。他流ノ道ヲ知ラデハ、我一流ノ道、慥ニ辨ガタシ。他ノ兵法ヲ尋ミルニ、大キ成太刀ヲ取テ、強キ【脱字】ヲ専ニシテ、其技ヲナス流【脱字】アリ。或ハ、小太刀ト云テ、短キ太刀ヲ持テ道ヲツトムル流モアリ。或ハ、太刀カズ多巧ミ、太刀ノ搆ヲモツテ、表ト云奥トシテ、道ヲ傳ル流モアリ。是皆、實ノ道ニ非ザル事【脱字】。此巻ノ奥ニ慥ニ書顯シ、善悪理非ヲシラスル也。我一流ノ道理、各別ノ儀也。【脱字】流々、藝ヲ渡テ、身スギノ為ニシテ、色ヲカザリ花ヲサカセ、ウリ物ニ拵タルニ仍テ、實ノ道【脱字】非ザルコトカ。マタ、世ノ中ノ兵法、劔術バカリニ小ク見タテヽ、太刀ヲ振ナラヒ、身ヲキカセ、手ノカルヽ処ヲ用テ、勝事ヲ辨エタルモノカ。他モ慥ナル道ニアラズ。他流ノ不足ナル処、一々此書ニカキ著也。能々吟味シテ、二刀一流ノ理ヲ辨ベキモノナリ。

 【狩野文庫本】

    風 一 夫、兵法、他流の道を知事。他の兵法の流々を書付、風之巻として、此巻に顯所也。他流の道をしらずしてハ、我一流の道理、慥成に弁へがたし。他の兵法を尋見るに、大成太刀を取て、強事を専にして、其業をなす流【脱字】。或ハ、小太刀と云て、短太刀を以て道を勤流も有。或ハ、太刀数多くたくミ、太刀の搆を以、表と云奥として、道を傳流も有。皆是、実の道にあらず。此巻の奥ニ慥ニ書顕、善悪理非を知する也。我一流の道理、各別の儀なり。他の流々、藝に渡て、身すぎの為にして、色をかざり花をさかせ、賣物ニ拵たるに依て、実の道にあらざる事か。また、世中の兵法、劔術ばかり【脱字】少ク見立而、太刀を振習、身をきかせ【脱字】、手のかるゝ所を以、勝事を弁へたる物か。何も慥成道ニあらず。他流の不足なる所、一々此書付に【脱字】顕也。能々吟味して、二刀一流の理を弁べき者也。

 【多田家本】

二天一流圓明巻之四   風之巻 一 兵法、他流の道を知る事。他の兵法の流【脱字】を書附、風の巻として此書に顕す所也、他流の道をしらずしてハ、我一流の道慥に弁がたし。他の兵法を尋見るに、大き成太刀を取りて、強き事を専にして、其業をなす流も有。或ハ、小太刀といひて、短き太刀を以道を勤る【脱字】も有。或ハ、太刀数多くたくみ、太刀の搆を以、表と云奥として、道を傳ふ【脱字】もあり。是皆、実の道にあらざる事【脱字】。此巻の奥に慥に書顕し、善悪理非をしらする也。我一流の道理、各別の儀也。他の流々、藝に渡りて、身過の為にして、色をかざり花を咲せ、賣物に拵立るに依て、実の理にあらざる事か。亦、世の中の兵法、劔術斗にちいさく見立、太刀をふりならひ、身をきかせ【脱字】、手のかるき所を以、勝事を弁へたる物か。何も慥成道にあらず。他流の不足成所を以、一々此書に書顕す也。能々吟味して、二刀一流の利を弁ゆべきもの也。

 【山岡鉄舟本】

兵法、他流ノ道ヲ知ル事。他ノ兵流ノ流々ヲ書附、風ノ巻トシテ此巻ニ顕ス處也。他流ノ道ヲ知ラデハ、我一流之道、慥ニ辨ヘ難シ。他ノ兵法ヲ尋見ルニ、大キ成ル太刀ヲ取テ、強キ事ヲ専ニシテ、其業ヲナス流【脱字】有リ。或ハ、小太刀ト云テ、短キ太刀ヲ以道ヲ勤ル流モアリ。或ハ、太刀数多ク工ミ、太刀ノ搆ヲ以テ、表ト云奥トシテ、道ヲ傳ル流モ有。是皆、實ノ道ニ非ザル事【脱字】。此巻ノ奥ニ慥ニ書顕シ、善悪理非ヲ知ラスル也。我二流ノ道理、各別之儀ナリ。他ノ流々、藝々ニ渡テ、身スギノ為ニシテ、色ヲ飾リ花ヲ咲セ、賣物ニ拵タルニ依テ、實ノ道ニ非ザル事カ。又、世ノ中【脱字】兵法、釼術計リニチイサク見立、太刀ヲ振間、身ヲキカセテ、手ノ懸ル処ヲ以テ、勝事ヲ辨ヘタル者カ。何レモ慥成ル道ニ非ズ。他流ノ不足成ル処、一々此書ニ書顕ス也。能々吟味シテ、二刀一流ノ利ヲ辨ベキモノ也。

 【稼堂文庫本】

    風之巻 一 兵法、他流の道を知る事。他の兵法の流々を書附、風の巻として此巻に顕す所也。他流の道を知ずしては、一流の道、慥に弁へがたし。他の兵法を尋見るに、大成太刀を取て、強きことを専にし【脱字】、其業をなす流も有り。或ハ、小太刀と云て、短き太刀を以道を勤る流も有り。或は、太刀数多く工ミて、太刀の搆を以て、表と云奥として、道を傳る流もあり。是皆、実の道に有ざること也。此巻の奥に慥ニ書顕し、善悪理【脱字】を知する者也。我一流の道理は、格別の儀也。他流の、藝に渡て、道のためにして、色々をかざり花をさかせ、うり物に拵たるによつて、実の道にあらざることか。又、世の中の兵法、劔術バかりに細く見立て、太刀をふり習、身を利せ【脱字】、手のかるゝ所を以、勝ことを弁へたる者か。何れも慥成る道に非ず。他流の不足成る所、一々此書に書顕す者也。能々吟味して、二刀一流の利を弁べき者也。

 【大瀧家本】

兵法、他流の道を知事。他流の兵法の流々を書付、風の巻として此巻に顕す處也。他流の道を知らずしてハ、我一流の道、慥ニ弁へがたし。他の兵法を尋見るに、大き成太刀を取て、強き事を専にして、其業をなす流【脱字】有。或は、小太刀と云て、短き太刀を以、道を勤る流も有。或ハ、小太刀数多くたくミ、太刀の搆を以、表と云奥として、道を傳ふる流も有。是皆、実の道にあらざる事【脱字】。此巻の奥に慥ニ書しるし、善悪理非を知らする也。我一流の道【脱字】、各別の儀也。他の流々、藝に渡りて、身すぎの為にして、色をかざり花を咲かせ、賣物に拵へたるに依て、実の道にあらざる事か。【脱字】、世の中の兵法、劔術斗に小く見立て、太刀を振り習ひ、身をきかせて、手の懸る所を以て、勝事を弁へたるものか。何れも慥成道にあらず。他流の不足なる處、逸々此書に書顕す也。能々吟味して、二刀一流の利【脱字】弁ゆべし。    PageTop    Back   Next 

  2 他流に大きなる太刀を持事

 【吉田家本】

一 他流に大なる太刀をもつ事。他に大なる太刀をこのむ流あり。我兵法よりして、是を弱き流と見立也。其故ハ、他の兵法、いかさまにも人に勝と云利をばしらずして、太刀の長きを徳として、敵相とをき所よりかちたきと思ふに依て、長き太刀このむ心有べし。世の中に云、一寸手増りとて、兵法しらぬものゝ沙汰也。然に依て、兵法の利なくして、長きをもつて遠くかたんとする。夫ハ心のよハき故なるによつて、よはき兵法と見立也。若、敵相ちかく、くミ合程のときハ、太刀の長きほど、打事もきかず、太刀もとをりすくなく、太刀をににして、小わきざし手ぶりの人におとる者也。長き太刀このむ身にしてハ、其いひわけハ有物なれども、夫ハ其身ひとりの利也。世の中の實の道より見る時ハ、道利なき事也。長き太刀もたずして、ミじかき太刀にてハ、かならずまくべき事か。或ハ、其場により、上下脇などのつまりたる所、或ハ、脇ざし斗の座にても、太刀をこのむこゝろ、兵法のうたがひとて、悪敷こゝろ也。人により、少力なる者も有、其身により、長かたなさす事ならざる身も有。昔より、大ハ小をかなゆるといヘバ、むざと長きを嫌にハ非ず。長きとかたよるこゝろを、嫌儀也。大分の兵法にして、長太刀ハ大人数也。ミじかきハ少人数也。少人数と大人数と、合戦ハなるまじきものか。少人数にて勝こそ、兵法の徳なれ。むかしも、少人数にて大人数に勝たる例多し。我一流におゐて、さ様にかたつき、せばき心、嫌事也。能々吟味有べし。

 【渡辺家本】

一 他流に大なる太刀をもつ事。他に大なる太刀をこのむ流あり。我兵法よりして、是を弱き流と見立る也。其故は、他の兵法、いかさまにも人に勝と云利をバしらずして、太刀の長きを徳として、敵間とをき所よりかちたきとおもふに依て、長き太刀このむ心有べし。世の中にいふ、一寸手増りとて、兵法しらぬものゝ沙汰也。然に依て、兵法の利なくして、長きをもつて遠くかたんとする。夫ハ心のよハき故なるによつて、よハき兵法と見立る也。若、敵相ちかく、組合程の時は、太刀の長きほど、打事もきかず、太刀もとをりすくなく、太刀をににして、小わきざし手ぶりの人におとるもの也。長き太刀このむ身にしてハ、其いひわけは有ものなれども、夫は其身ひとりの利也。世の中の實の道より見る時は、道理なき事也。長き太刀もたずして、みじかき太刀にてハ、かならずまくべき事か。或ハ其塲により、上下脇などのつまりたる所、或ハ脇指ばかりの時にても、太刀をこのむ心、兵法のうたがひとて、悪敷心也。人により少力なる者も有、其身により、長かたなさす事ならざる身も有り。昔より、大ハ小をかなゆるといへバ、むざと長きを嫌ふにはあらず。長きにかたよる心を嫌ふ儀也。大分の兵法にして、長太刀ハ大人数也。みじかきハ小人数也。小人数と大人数と、合戦【脱字】なるまじき物か。小人数にて勝こそ、兵法の徳なれ。むかしも、小人数にて大人数に勝たる例多し。我一流において、さやうにかたつきせばき心、嫌ふ事也。能々吟味有べし。

 【近藤家丙本】

一 他流に大なる太刀をもつ事。他に大なる太刀をこのむ流有。我兵法よりして、是を弱き流と見立る也。其故ハ、他の兵法、いかさまにも人に勝と云利をバしらずして、太刀の長きを徳として、敵間とをき所よりかちたきと思ふに依て、長き太刀このむ心有べし。世の中にいふ、一寸手増りとて、兵法しらぬものゝ沙汰也。然るに依て、兵法の利なくして、長きを以て遠くかたんとする。夫は心のよハき故なるによつて、よハき兵法と見立る也。若、敵相ちかく、くミ合程の時ハ、太刀の長きほど、打事もきかず、太刀もとをりすくなく、太刀を荷にして、小わきざし手ぶりの人におとるもの也。長き太刀このむ身にしてハ、其いひわけハ有ものなれども、夫ハ其身ひとりの利也。世の中の實の道より見る時ハ、道理なき事也。長き太刀もたずして、ミじかき太刀にては、かならずまくべき事か。或ハ其場により、上下脇などのつまりたる所、或ハ脇指ばかりの時にても、太刀をこのむ心、兵法のうたがひとて、悪敷こゝろなり。人により少力なる者も有、其身により、長刀さす事ならざる身も有り。昔より、大ハ小をかなゆるといひバ、むざと長きを嫌ふにはあらず。長きにかたよる心を嫌ふ儀也。大分の兵法にして、長太刀ハ大人数也。ミじかきは小人数なり。小人数と大人数と、合戦【脱字】なるまじきものか。小人数にて勝こそ、兵法の徳なれ。むかしも、小人数にて大人数に勝たる例多し。我一流におゐて、さやうニ片付せばき心、嫌ふ事也。能々吟味有べし。

 【中山文庫本】

一 他流に大なる太刀をもつ事。他に大なる太刀をこのむ流あり。我兵法よりして、是を弱き流と見立なり。其故ハ、他の兵法、いかさまにも人に勝と云利をバしらずして、太刀の長きを徳として、敵相とをき所よりかちたきとおもふに依て、長き太刀このむ心有べし。世の中に云、一寸手増りとて、兵法しらぬものゝ沙汰也。然によつて、兵法の利なくして、長きをもつて遠くかたんとする。夫ハ心のよはき故なるに依て、よはき兵法と見立也。若、敵相ちかく、くみ合程の時ハ、太刀【脱字】長きほど、打事もきかず、太刀もとをりすくなく、太刀をににして、小わきざし手ぶりの人におとる物也。長き太刀このむ身にしてハ、其いひわけハ有物なれども、夫ハ其身ひとりの利なり。世の中の実の道より見る時ハ、道利なき事也。長き太刀もたずして、ミじかき太刀にてハ、かならずまくべき事か。或、其場により、上下脇などのつまりたる所、或ハ脇ざし斗の座にても、太刀をこのむこゝろ、兵法のうたがひとて、悪敷心也。人により少力なる者もあり、其身により、長かたなさす事ならざる身もあり。昔より、大ハ小をかなゆるといヘバ、むざと長きを嫌には非ず。長きとかたよるこゝろを嫌儀也。大分の兵法にして、長太刀ハ大人数也。ミじかきハ少人数也。少人数と大人数と、合戦ハなるまじきものか。少人数にて勝こそ、兵法の徳なれ。むかしも、少人数にて大人数に勝たる例多し。我一流におゐて、左様にかたつきせばき心、嫌事也。能々吟味有べし。

 【赤見家乙本】

一 他流に大なる太刀を持事。他に大なる太刀をこのむ流あり。我兵法よりして、是【脱字】弱き流と見立る也。其ゆへハ、他の兵法、いかさまにも人に勝といふ利をバしらずして、太刀の長きを徳として、敵相とをき所より勝度と思ふに依て、長き太刀このむ心有べし。世の中に云ふ、壱寸手増りとて、兵法しらぬものゝ沙汰也。然ルに依て、兵法の利なくして、長きを持て遠くかたんとする。それは心の弱きゆへなるによつて、よハき兵法と見立る也。若、敵相近く、組合程の時ハ、【脱字】長きほど、打事もきかず、太刀もとをりすくなく、太刀を荷にして、小脇指手ぶりの人におとるもの也。長き太刀を好む身にしてハ、そのいひわけハあるものなれども、それハ其身ひとりの利也。世の中の實の道より見る時ハ、道利なき事也。長き太刀もたずして、みじかき太刀にてハ、必負べき事か。或ハ其場により、上下脇抔のつまりたる所、或は脇指ばかりの時にても、太刀をこのむ心、兵法のうたがひとて、あしき心也。人により少力なるものもあり、其身により、長きかたな差事ならざる身もあり。むかしより、大ハ小をかなゆるといヘバ、むざと長きを嫌ふにハあらず。長きにかたよる心を嫌ふぎなり。大分の兵法にして、長き【脱字】ハ大人数也。みじかきハ小人数なり。小人数と大人数と、合戦【脱字】なるまじきものか。少人数にて勝こそ、兵法の徳なれ。むかしも、少人数にて大人数に勝たる例多し。我一流にをいて、さよふにかたすきせまき心を嫌ふ事也。能々吟味有べし。

 【神田家本】

一 他流に大なる太刀をもつ事。他に大なる太刀をこのむ流あり。我兵法よりして、是を弱き流と見立る也。其故は、他の兵法、いかさまにも人に勝と云利をバしらずして、太刀の長きを徳として、敵間とをき所よりかちたきと思ふに依て、長き太刀このむ心有べし。世の中にいふ、一寸手増りとて、兵法しらぬものゝ沙汰也。然るに依て、兵法の利なくして、長きをもつて遠くかたんとする。夫ハ心のよハき故なるによつて、よハき兵法と見立る也。若、敵相ちかく、組合程の時ハ、太刀の長きほど、打事もきかず、太刀もとをりすくなく、【脱字】を荷にして、小脇ざし手ぶりの人におとるもの也。長き太刀このむ身にしてハ、其いひわけは有ものなれども、夫は其身ひとりの利也。世の中の實の道より見る時は、道理なき事也。長き太刀もたずして、みじかき太刀にてハ、かならずまくべき事か。或は其場により、上下脇などのつまりたる所、或ハ脇差ばかりの時にても、太刀をこのむ心、兵法のうたがひとて、悪しきこゝろ也。人により少力なる者も有、其身により、長刀さす事ならざる身も有り。昔より、大は小をかなゆるといへば、むざと長きを嫌ふにハあらず。長きにかたよる心を嫌ふ儀也。大分の兵法にして、長太刀【脱字】大人数也。みじかきは小人数也。小人数と大人数と、合戦【脱字】なるまじきものか。小人数にて勝こそ、兵法の徳なれ。むかしも、小人数にて大人数に勝たる例多し。我一流において、さやうにかたつきせばき心、嫌ふ事也。能々吟味有べし。

 【伊丹家本】

一 他流に大なる太刀をもつ事。他に大なる太刀を好む流有。我兵法よりして、是を弱き流と見立也。其故ハ、他の兵法、いかさまにも人に勝と云利をバしらずして、太刀の長きを徳として、敵あひ遠き所より勝たきとおもふに依て、長き太刀好ム心有べし。世の中に云、一寸手増りとて、兵法しらぬものゝ沙汰也。然ニ依て、兵法の利なくして、長を以て遠くかたんとする。夫は心の弱きゆへなるによつて、弱き兵法と見立也。若、敵あひ近く、組合程の時は、太刀の長きほど、打事もきかず、太刀もとほりすくなく、太刀を荷にして、小脇差手振の人におとるもの也。長き太刀好む身にしてハ、其いひわけハ有ものなれども、夫ハ其身ひとりの理なり。世の中の實の道より見る時は、道理なき事也。長き太刀もたずして、みじかき太刀にてハ、必まくべき事か。或、其場により、上下脇などのつまりたる所、或、脇差斗の座にても、太刀を好む心、兵法の疑ひとて、悪敷こゝろ也。人により少力なる者もあり、其身により、長き刀指事ならざる身も有。昔より、大は小をかなゆるといヘば、むざと長を嫌にハあらず。長きと片寄心を嫌儀也。大分の兵法にして、長き太刀ハ大人数也。短は少人数也。少人数と大人数と、合戦ハなるまじきものか。少人数にて勝こそ、兵法の徳なれ。むかしも、少人数にて大人数に勝たる例多し。我一流におゐて、左様にかたつきせばき心、嫌事なり。能々吟味有べし。  

 【猿子家本】

一 他流に大なる太刀をもつ事。他に大なる太刀をこのむ流あり。我兵法よりして、是を弱き流と見立る也。其故は、他の兵法、いかさまにも人に勝と云利をバしらずして、太刀の長きを徳として、敵間とをき所よりかちたきと思ふに依て、長き太刀このむ心有べし。世の中にいふ、一寸手増りとて、兵法しらぬものゝ沙汰也。然るに依て、兵法の利なくして、長きをもつて遠くかたんとする。夫ハ心のよハき故なるによつて、よハき兵法と見立る也。若、敵相ちかく、組合程の時は、太刀の長きほど、打事もきかず、太刀もとをりすくなく、太刀をににして、小わきざし手ぶりの人におとるもの也。長き太刀このむ身にしてハ、其いひわけは有ものなれども、夫ハ其身ひとりの利也。世の中の實の道より見る時は、道理なき事也。長き太刀もたずして、みじかき太刀にてハ、かならずまくべき事か。或ハ其場により、上下脇などのつまりたる所、或ハ脇指ばかりの時にても、太刀【脱字】このむ心、兵法のうたがひとて、悪敷こゝろ也。人により少力なる者も有、其身により、長かたなさす事ならざる身もあり。昔より、大は小をかなゆるといヘバ、むざと長きを嫌ふにはあらず。長きにかたよる心を嫌ふ儀也。大分の兵法にして、長太刀ハ大人数也。みじかきは小人数也。小人数と大人数と、合戦【脱字】なるまじきものか。小人数にて勝こそ、兵法の徳なれ。むかしも、小人数にて大人数に勝たる例多し。我一流におゐて、さやうにかたつきせばき心、嫌ふ事也。能々吟味有べし。

 【楠家本】

一 他流に大きなる太刀を持事。他に大きなる太刀をこのむ流有。わが兵法よりして、是をよはき流と見たつる也。其故ハ、他の兵法、いかさまにも人に勝といふ理を【脱字】しらずして、太刀の長きを徳として、敵相遠き所よりかちたきと思ふによつて、長き太刀をこのむ心有べし。世の中にいふ、一寸手まさりとて、兵法しらぬものゝ沙汰也。然によつて、兵法の利なくして、長きをもつて遠くかたんとする、それハ心のよハきゆへなるによつて、よハき兵法と見たつるなり。若、敵相ちかく、くミやうほどの時は、太刀の長きほど、打事もきかず、太刀のもとをりすくなく、太刀をにゝして、小わきざし手ぶりの人におとるもの也。長き太刀このむ身にしては、其いひわけハあるものなれども、それハ其身ひとりの理也。世の中の実の道よりミる時は、道理なき事也。長き太刀もたずして、みじかき太刀にてハ、必まくべき事か。或は、其場により、上したわきなどのつまりたる所、或ハ、わきざしばかりの座にても、長きをこのむ心、兵法のうたがひとて、あしき心也。人により、小力なるものも有、其身により、長かたなさす事ならざる身も有。昔より、大ハ小をかなへるといへば、むざと長きをきらふにはあらず。長きとかたよる心をきらふ儀也。大分の兵法にして、長太刀ハ大人数也。みじかきハ小人数なり。小人数と大人数にて合戦ハなるまじきものか。小人数にて【脱字**************】大人数にかちたるれいおゝし。わが一流におゐて、さやうにかたすき、せばき心、きらふ事なり。よく/\吟味有べし。

 【細川家本】

一 他流に大きなる太刀を持事。他に大きなる太刀をこのむ流あり。我兵法よりして、是をよハき流と見たつる也。其故は、他の兵法、いかさまにも人に勝と云理をば知ずして、太刀の長キを徳として、敵相遠き所よりかちたきと思ふによつて、長キ太刀このむ心あるべし。世中に云、一寸手まさりとて、兵法しらぬものゝ沙汰也。然によつて、兵法の利なくして、長きを以て遠クかたんとする、それは心のよわき故なるによつて、よハき兵法と見たつる也。若、敵相近く、組あふほどの時は、太刀【脱字】長き程、打事もきかず、太刀のもとをりすくなく、太刀をにゝして、小脇差手振の人におとるもの也。長キ太刀好ム身にしては、其云わけハあるものなれども、それは其身ひとりの理也。世中の實の道より見る時は、道理なき事也。長き太刀もたずして、短き太刀にては、必まくべき事か。或は、其場により、上したわきなどのつまりたる所、或は、脇差ばかりの座にても、長きをこのむ心、兵法のうたがひとて、あしき心也。人により、少力なるものもあり、【脱字****************】むかしより、大は小をかなへるといへば、むざと長きをきらふにはあらず。長きとかたよる心をきらふ儀也。大分の兵法にして、長太刀は大人数也。短きは小人数也。小人数と大人数にて合戦はなるまじきものか。少人数にて【脱字***************】大人数にかちたる例多し。わが一流におゐて、さやうにかたつき、せばき心、きらふ事也。能々吟味有べし。

 【丸岡家本】

一 他流に大キなる太刀を持事。他ニ大キなる太刀を好む流あり。我兵法よりして、是を弱き流と見立るなり。其故は、他の兵法、いかさまにも人ニ勝といふ理を【脱字】しらずして、太刀の長キを得として、敵間遠き所より勝たきと思ふによつて、長キ太刀を好む心有べし。世の中に云、一寸手まさりとて、兵法しらぬ者の沙汰なり。然に因て、兵法の利なくして、長きを以て遠く勝んとする、それは心のよハき故なるに因て、弱き兵法と見立る也。若、敵間近く、組合程の時は、太刀の長キほど、打事もきかず、太刀のもとおり少く、太刀を荷ニして、小脇差手ぶりの人におとる者也。長き太刀好む身ニしてハ、其云分はあるものなれども、それは其身ひとりの理也。世中の実の道より見る時は、道理なき事也。長キ太刀を持ずして、短キ太刀にては、必負べき事か。或は、其場により、上下脇などのつまりたる所、或は、脇差ばかりの座にても、長キを好心、兵法の疑ひとて、あしき心也。人により、少力なる者もあり。其身により、長かたなさす事ならざる身もあり。昔より、大ハ小をかなへるといへば、むざと長きを嫌ふにはあらず、長とかたよる心をきらふ義也。大分の兵法ニして、長太刀は大人数なり、【脱字******】小人数と大人数にて合戰ハなるまじきものか。少人数にてかつこそ、兵法の徳なれ。昔も小人数にて大人数に勝たる例多し。我一流におゐて、左樣ニ片付、狭キ心を嫌こと也。能々吟味有べし。

 【富永家本】

一 他流に大きなる太刀を持事。他に大きなる太刀を好む流有り。我兵法よりして、是を弱き流と見立るなり。其故ハ、他の兵法、如何様にも人に勝と云理をバ不知して、太刀の長きを徳として、敵合遠き所より勝度とおもふに依て、長き太刀を好心有べし。世の中に云、一寸手まさりとて、兵法しらぬ者の沙汰なり。然るに依て、兵法の利なくして、長きを以て遠く勝んとする、夫ハ心のよわき故成に依て、よわき兵法と見立るなり。若、敵相近く、組合程の時ハ、太刀の長きほど、打事も聞ず、太刀もとふり少なく、太刀を【脱字】して、小脇ざし手ぶりの人におとるものなり。長き太刀好身にしてハ、其いゐわけハ有物なれども、夫ハ其身ひとりの理なり。世の中の実の道より見る時ハ、道理なき事なり。長き太刀持ずして、ミじかき太刀にてハ、必まくべき事か。或ハ、其場により、上下脇などのつまりたる所、或ハ、脇差斗の座にても、太刀を好心、兵法の事たがひとて、悪敷心なり。人により、少力成者も有り、其身により、長かたな差事ならざる身も有。昔より、大ハ小をかなゆるといえバ、むざと長きをきろふにハ非ず。長きとかたよる心をきろふ儀なり。大分の兵法にして、長太刀ハ大人数なり。みじかきハ少人数なり。少人数と大人数にて合戦ハ成間敷者か。少人数にて勝こそ、兵法の徳なれ。昔も、少人数にて大人数に勝たる例多し。我一流におゐて、左様にかたつき、せばき心、きろふ事也。能々吟味有べし。

 【常武堂本】

一 他流に大きなる太刀を持事。他に大きなる太刀をこのむ流あり。我兵法よりして、是をよはき流とみたつる也。其故ハ、他の兵法、いかさまにも人に勝と云理をば知ずして、太刀の長きを徳として、敵相遠き所よりかちたきと思ふによつて、長キ太刀このむ心あるべし。世中に云、一寸手まさりとて、兵法しらぬものゝ沙汰也。然によつて、兵法の利なくして、長きを以て遠くかたんとする、それハ心のよはき故なるをよつて、よはき兵法とみたつる也。若、敵相近く、組あふほどの時ハ、太刀【脱字】長き程、打事もきかず、太刀のもとをりすくなく、太刀をにゝして、小脇差手振の人におとるもの也。長き太刀好む身にしてハ、其云わけハあるものなれども、それハ其身ひとりの理也。世中の實の道より見る時ハ、道理なき事也。長き太刀もたずして、短き太刀にてハ、必まくべき事か。或ハ、其場により、上したわきなどのつまりたる所、或は、脇差ばかりの座にても、長きをこのむ心、兵法のうたがひとて、あしき心也。人により、少力なるものもあり、【脱字****************】むかしより、大ハ小をかなへるといへバ、むざと長きをきらふにハあらず。長きとかたよる心をきらふ儀也。大分の兵法にして、長太刀ハ大人数也。短きハ小人数也。小人数と大人数にて合戦ハなるまじきものか。少人数にて【脱字***************】大人数にかちたる例多し。わが一流に於て、さやうにかたつき、せばき心、きらふ事なり。能々吟味有べし。

 【田村家本】

 他流ニ大キナル太刀ヲ持事 他流ニ大キ成太刀ヲ好ム流有。我兵法ヨリシテ、是ヲヨワキ流ト見立ナリ。此故ハ、他ノ兵法、如何サマニモ人ニ勝ト云理ヲ【脱字】知ズシテ、太刀ノ長ヲ徳トシテ、敵相遠処ヨリ勝タキト思ニヨツテ、長タチヲコノム心有ベシ。世ノ中ニ云、一寸手マサリトテ、兵流シラヌ者ノ沙汰也。然ニヨツテ、兵法ノ理ナクシテ、長ヲ用テ遠ク勝ントスル、ソレハ心ノヨワキ故也ニヨツテ、ヨワキ兵法トミタツル也。若、敵相近ク、組合程ノ時ハ、太刀ノ長程、打事モキカズ、太刀ノモトヲリスクナク、太刀ヲ荷ニシテ、小脇指テブリノ人ニヲトル者也。長キ太刀好ム身ニシテハ、其云分【脱字】アル者ナレ共、ソレハ其身一人ノ利ナリ。世ノ中ノ實ノ道ヨリ見時ハ、道理ナキ事也。長キ太刀ヲ持ズシテ、短太刀ニテハ、必負ベキ事カ。或、其場ニヨリ、上下脇ナドノツマリタル処、其、脇指バカリノ座ニテモ、長ヲ好ム心、兵法ノウタガイトテ、アシキコヽロ也。人ニヨリ、少力ナル者モ有。其身ニヨリ、長キカタナサスコトナラザル身モアリ。昔ヨリ、大ハ小ヲカナエルト云バ、ムザト長ヲ嫌フニハアラズ。長ト片ヨル心【脱字】嫌儀ナリ。大分ノ兵法ニシテ、長太刀ハ大人ノ数ナリ。【脱字******】小人ノ数ト大人ノ数ニテカツセンハナルマジキモノカ。小人【脱字】ニテ勝コソ、兵法ノ徳ナレ。昔ヨリ小人ノ数ニテ大人【脱字】ニ勝タル例多シ。我一流ニ於、左様ノ片付、狭キ心ヲ嫌事也。能々吟味有ベシ。

 【狩野文庫本】

一 他流に大成太刀を持事。又大成太刀【脱字】好流有。我兵法よりしてハ、是を弱き流と見立る也。其故は、他の兵法、如何樣ニも人に勝と云理をバ不知して、太刀の長きを頼ミにして、敵相遠所より勝度と思ふに依て、長き太刀を好心有べし。世中にいふ、壱寸手まさりとて、兵法しらぬものゝ沙汰する事也。然ニ依て、兵法の利なくして、長きを以遠くかたんとする、夫は【脱字】弱ゆへ成に依て、弱兵法と見立る也。若、敵相近、付逢程の時は、太刀の長程、打事もきかず、太刀の模通少ク、太刀を荷にして、小脇指手ぶりの人におとる者也。長き太刀を好む身ニしてハ、其云分も有もの成共、夫は其身の一人の利なり。世中の実の道より見る時は、道理なき事也。長き太刀不持して、短太刀ニ而ハ、必負べき事か。或は、其場ニより、上下脇抔【脱字】詰りたる所、或ハ脇指斗の座ニ而も、長き【脱字】好こゝろ、兵法の疑とて、悪キ心也。人により、少力成者も有。其身ニより、長キ刀指事ならざる身も有。昔より、大は小を叶へるといへば、むざと長きを嫌ふにもあらず、長きと片寄心を、嫌ふ義也。大分の兵法にしても、長き太刀ハ大人数也。短ハ小人数なり。小人数と大人数と、合戰ハ成間布ものか。小人数にて勝も、兵法の徳なれバ。昔も、少人数ニて大人数に勝たる例多し。我一流ニおゐて、左樣の片付たる狭き心を嫌ふ【脱字】也。能々可有吟味。

 【多田家本】

【脱字】 他流に大き成太刀を持事。他に大き成太刀を好む流有。我兵法よりして、是を弱き流と見立也。其故ハ、他の兵法、いかさまにも人に勝と云理をバ不知して、太刀の長きを徳として、敵合遠き所より勝たりと思ふに依て、長き太刀好心有べし。世の中に云、一寸手まさりと云ハ、兵法知ぬ者の沙汰なり。然るに依て、兵法の利なくして、長きを以て遠くかたんとする事也、夫は心の弱き故成に依て、弱き兵法と見立也。若、敵合近く、組相ほどの時ハ、太刀の長き程、打事もきかず、太刀の利すくなく、太刀を荷にして、小脇指手ぶりの人におとるもの也。長き太刀好む身にしてハ、其云わけ【脱字】有物なれども、夫ハ其身獨の理屈也。世の中の実の道より見る時ハ、道理なき事也。長き太刀不持してハ、短き太刀にては、必負べき事か。或ハ、其場によりて、上下脇抔のつまりたる所、或ハ、脇指斗の座にても、長きを好むこゝろ、兵法の疑とて、悪敷心也。人により、少力成者もあり、其身によりて、長き刀指事ならざる身もあり。昔より、大ハ小を叶ゆるといヘば、むざと長きを嫌ふにはあらず。長きとかたよる心を嫌ふ義也。大分の兵法にしても、長太刀ハ大人数也。短きハ小人数也。【脱字】大人数と、合戦は成まじきものか。小人数にて勝こそ、兵法の徳なれ。昔も、小人数【脱字***】に勝たる例多し。我一流にをひて、左様にかたすき、せる心を嫌ふ事也。よく/\吟味有べし。

 【山岡鉄舟本】

一 他流ニ大キナル太刀ヲ持事。他ニ大キ成ル太刀ヲ好流有。我兵法ヨリシテ、是ヲ弱キ流ト見立テル也。其故ハ、他ノ兵法、イカサマニモ人ニ勝ト云理ヲバシラズシテ、太刀ノ長キヲ徳トシテ、敵相遠キ所ヨリ勝度ト思ニ依テ、長キ太刀好ム心有ベシ。世ノ中ニ云、一寸手マサリトテ、兵法知ラヌ者之沙汰也。然ニ依テ、兵法之理無クシテ、長キヲ以テ遠ク勝ントスル、夫ハ心ノ弱キ故成ニ依テ、弱キ兵法ト見立ル也。若、敵【脱字】近ク、組ミ合程ノ時ハ、太刀ノ長キ程、打事モキカズ、太刀ノモトヲリ少【脱字】、太刀鬼ニシテ、小脇指手振ノ人ニ劣ル物也。長キ太刀好ム身ニシテハ、其云分ハ有ル物ナレ共、夫ハ其身獨ノ理也。世ノ中ノ實ノ道ヨリ見ル時ハ、道理無キ事也。長キ太刀ヲ持ズシテ、短キ太刀ニテハ、必ズ負ベキ事カ。或ハ、其場ニヨリ、上下脇抔ノツマリタル所、或ハ、脇指計リノ坐ニテモ、長キヲ好ム心、兵法ノ疑ヒトテ、悪キ心也。人ニ【脱字】、少力ナル者モアリ。其身ニヨリ、長キ刀指事ナラザル者モアリ。昔ヨリ、大ハ小ヲカナヘルト云ヘバ、ムザト長キヲ嫌フニハ非ズ。長トカタヨル心ヲ嫌儀也。大分之兵法ニシテ、長太刀ハ大人数也、【脱字*****】。小人数ト大人数ニテ合戦ト成ルマジキ物カ。小人数ニテ勝コソ、兵法之徳ナレ。昔モ、小人数ニテ大人数ニ勝タル例多シ。我一流ニ於テ、左様ニ片付、セバキ心、嫌事也。能【脱字】吟味アルベシ。

 【稼堂文庫本】

一 他流に大き成太刀を持事。他に大き成る太刀を好む流有り。我兵法よりして、是を弱流と見立る也。其故は、他の兵法、如何様にも人に勝と云理をバ知ずして、太刀の長を徳として、敵合遠き所より勝度とおもふに依て、長き太刀を好む心有べし。世の中に云、一寸手まさりと【脱字】、兵法知らぬ者の沙汰也。然かるに依て、兵法の利なくして、太刀の長きを以て遠く勝んとする也、夫は心の弱故成るによりて、弱き兵法と見立る也。若、敵合近く、組合ふ程の時は、太刀の長き程、打事もきかず、太刀もとなりすくなく、太刀を荷にして、小脇差手ぶりの人におとる者也。長き太刀好む身にしては、其云訳【脱字】有物成レ共、夫ハ其身一人の理屈也。世の中の実の道より見る時は、道理無事也。長き太刀持ずして、短<き太刀にてハ、必ず負べき事か。或は、其場により、上下脇抔の詰たる所、或は、脇差斗りの座にても、長刀を好む心、兵法の疑ひとて、悪敷心也。人により、少力成者も有り、其身により、長き刀差事成ざる者も有べし。昔より、大は小を叶へるといヘば、むざと長きを嫌ふには非ず。長きと片寄ル心を嫌ふ儀也。大分の兵法にしても、長太刀ハ大人数也。短き太刀ハ小人数也。小人数と大人数とは、合戦は成間敷者か。小人数にて勝こと、兵法の徳なれバ。昔も、少人数にて大人数に勝たる例多し。我一流に於ては、左様に片付、せばき心を嫌ふこと也。好々吟味有べし。

 【大瀧家本】

一 他流に大き成太刀を持事。他に大き成太刀を好む流有。我兵法より知て、是を弱流と見立る也。其故ハ、他の兵法、如何様にも人に勝といふ利を【脱字】知らずして、太刀【脱字】長きを徳として、敵相遠き方より勝度と思ふに依て、長太刀を好む心有【脱字】。世中に云、一寸手まさりと云て、兵法知らぬ者の沙汰なり。然るに依而、兵法の利なくして、長きを以て遠きより勝んとする、夫ハ心の弱き故成に依て、弱兵法と見立る也。若、敵間近く、組合程の時ハ、太刀の長き程、打事もきかず、太刀のもとほり少く、太刀を荷にして、小脇差手振の人におとるもの也。長太刀を好む身にしてハ、其云分ハあるものなれ共、【脱字】其身独りの利也。世の中の実の道より見る時ハ、道理なき事也。長き太刀不持して、短き太刀にてハ、必まくべき事か。或ハ、其塲により、上下脇などの詰りたる處、或は、脇差【脱字】の座にても、長きを好む心、兵法の疑ひとて、悪き心なり。人に依り、小力成物也有、其身にも、長き刀差事ならざる人も有。昔より、大ハ小を叶へるといへば、むざと長きを嫌ふに【脱字】あらず、長きと倚る心を嫌ふ儀也。大分の兵法にして、長き太刀ハ大人数也。短きは小人数也。小人数と大人数にて合戦は成間敷ものか。小人数にて勝こそ、兵法の徳なれ。昔も、小人数にて大人数に勝たる例多し。我一流におゐて、左様のかたつき、狭き心を嫌ふ事なり。能々吟味有べし。    PageTop    Back   Next 

  3 他流につよみの太刀と云事

 【吉田家本】

一 他流におゐて、つよミの太刀と云事。太刀に強き太刀、よはき太刀と云事ハ、あるべからず。強きこゝろにて振太刀は、悪敷もの也。あらき斗にてハ勝がたし。又、強き太刀と謂て、人を切ときにして、むりに強くきらんとすれバ、きられざる心也。ためし物などきる心にも、強くきらむとする事あしゝ。たれにおゐても、かたきときりあふに、よはくきらん、つよくきらん、と思ものなし。たゞ人をきりころさんと思ときハ、強き心も非ず、勿論、よハき心もあらず、敵のしぬる程とおもふ儀也。若ハ、強ミの太刀にて、人の太刀強くはれば、はりあまりて、かならず悪敷心也。人の太刀に強くあたれば、我太刀も、をれくだくる所也。然によつて、強ミの太刀などゝ云事、なき事也。大分の兵法にしても、強き人数をもち、合戦におゐて剛くかたむと思ヘバ、敵も強き人数をもち、戦強くせむと思。夫ハ何れも同じ事也。物毎に、勝と云事、道利なくしてハ、勝事あたはず。我道におゐてハ、少も無理なる事を思ハず、兵法の智力をもつて、いか様にもかつ所を得るこゝろ也。能々工夫有べし。

 【渡辺家本】

一 他流におゐて、つよミの太刀と云事。太刀に強き太刀、よハき太刀と云事ハ、あるべからず。強き心にて振太刀ハ、悪敷もの也。あらき斗にてハ勝がたし。又、強き太刀と謂て、人を切時にして、むりに強くきらんとすれバ、きられざる心也。ためし物などきる心にも、強くきらんとする事あしゝ。誰におゐても、かたきときりあふに、よハくきらん、つよくきらん、と思ふものなし。たゞ人をきりころさんと思ふときは、強き心も非ず、勿論、よハき心もあらず、敵のしぬ【脱字】程とおもふ儀也。若ハ、強ミの太刀にて、人の太刀強くはれバ、はりあまりて、かならず悪敷心也。人の太刀に強くあたれバ、我太刀も、おれくだくる所也。然によつて、強ミの太刀【脱字】と云事、なき事也。大分の兵法にしても、強き人数をもち、合戦に於て強くかたんと思ヘバ、敵も強き人数を持、戦強くせんと思ふ。夫ハ何も同じ事也。物毎に、勝といふ事、道利なくしては、勝事あたハず。我道におゐてハ、少も無理なる事を思ハず、兵法の智力をもつて、いか様にもかつ所を得る心也。能々工夫有べし。

 【近藤家丙本】

一 他流におゐて、つよミの太刀と云事。太刀に強き太刀、よハき太刀といふ事ハ、あるべからず。強きこゝろにて振太刀は、悪敷もの也。あらき斗にてハ勝がたし。又、強き太刀と謂て、人を切時にして、むりに強くきらんとすれバ、きられざる心也。ためし物などきる心にも、強くきらんとする事あしゝ。誰におゐても、かたきと切合に、よハくきらん、つよくきらん、と思ものなし。たゞ人をきり殺さんと思ふときは、強き心も非ず、勿論、よハき心もあらず、敵の死ぬ【脱字】程と思ふ儀也。若は、強ミの太刀にて、人の太刀強くはれバ、はりあまりて、かならず悪敷心也。人の太刀に強くあたれバ、我太刀も、おれくだくる所也。然るによつて、強ミの太刀などゝいふ事、なき事也。大分の兵法にしても、強き人数をもち、合戦に於て強くかたんと思へバ、敵も強き人数を持、戦強くせんと思ふ。夫ハ何も同じ事也。物毎に、勝といふ事、道理なくしてハ、勝事あたハず。我道におゐてハ、少も無理なる事を思ハず、兵法の智力を以て、いか様ニも勝所を得る心也。よく/\工夫有べし。

 【中山文庫本】

一 他流におゐて、つよみの太刀と云事。太刀に強き太刀、よはき太刀と云事ハ、あるべからず。強きこゝろにて振太刀ハ、悪敷ものなり。あらき斗にてハ勝がたし。又強き太刀と謂て、人を切ときにして、むりに強くきらんとすれバ、きられざる心也。ためしものなどきる心にも、強くきらむとする事あしゝ。たれにおゐても、かたきときりあふに、よはくきらん、つよくきらん、と思ものなし。たゞ人をきりころさんと思ときは、強き心も非ず、勿論、よはき心もあらず、敵のしぬるほどとおもふ儀也。若ハ、強ミの太刀にて、人の太刀強くはれバ、はりあまりて、かならす悪しき心也。人の太刀に強くあたれバ、我太刀も、おれくだくる所也。然によつて、強ミの太刀などゝ云事、なき事也。大分の兵法にしても、強き人数をもち、合戦におゐて剛くかたむと思ヘバ、敵も強き人数をもち、戦強くせんと思。夫ハ何れも同じ事也。物ごとに、勝と云事、道利なくしてハ、勝事あたわず。我道におゐてハ、少も無利なる事を思わず、兵法の智力をもつて、いか様にもかつ所を得る心也。能々工夫有べし。

 【赤見家乙本】

一 他流におゐて、つよみの太刀と云事。太刀に強き太刀、よわき太刀といふ事ハ、あるべからず。強きこゝろにてふる太刀ハ、悪敷者也。あらきばかりにてハかちがたし。また強き太刀と云ふて、人を切る時にして、むりに強くきらんとすれバ、きられざるこゝろ也。ためし物などきる心にも、強くきらんとする事あしゝ。誰におゐても、かたきと切合ふに、よわくきらん、強くきらん、と思ふものなし。たゞ人を切ころさむと思ふときハ、強き心もあらず、勿論よわき心もあらず、敵のしぬる程とおもふ儀也。若ハ、強ミの太刀にて、人の太刀を強くはれバ、はりあまりて、かならず悪敷心なり。人の太刀に強くあたれバ、わが太刀も、をれくだくるところ也。然るに依て、強ミの太刀抔と云事、なき事也。大分の兵法にして【脱字】、強き人数ヲ持チ、合戦に於て強くかたんと思ヘば、敵も強き人数を持、戦強くせんとおもふ。夫ハ何れも同じ事也。物毎に、勝といふ事、道利なくしてハ、勝事あたハず。我が道におゐて【脱字】、少も無理なる事を思わず、兵法の智力をもつて、いか様にも勝所を得るこゝろなり。能々工夫有べし。

 【神田家本】

一 他流におひて、つよミの太刀と云事。太刀に強き太刀、よハき太刀と云事ハ、あるべからず。強き心にて振太刀ハ、悪しきもの也。あらき斗にては勝がたし。又、強き太刀と謂て、人を切時にして、むりに強くきらんとすれバ、きられざる心也。ためし物などきる心にも、強くきらんとする事あしゝ。誰におひても、かたきと切あふに、よハくきらん、つよくきらん、と思ふものなし。たゞ人を切ころさんと思ふときは、強き心も非ず、勿論よハき心もあらず、敵のしぬ【脱字】程とおもふ儀也。若ハ、強ミの太刀にて、人の太刀強くはれバ、はりあまりて、かならず悪敷心也。人の太刀に強くあたれバ、我太刀も、おれくだくる所也。然によつて、強ミの太刀などゝ云事なき事也。大分の兵法にしても、強き人数をもち、合戦に於て強くかたんと思ヘバ、敵も強き人数を持、戦強くせんと思ふ。夫ハ何も同じ事也。物毎に、勝といふ事、道利なくしてハ、勝事あたハず。我道におゐてハ、少も【脱字**************】、いか様にもかつ所を得る心也。能々工夫有べし。

 【伊丹家本】

一 他流におゐて、つよみの太刀と云事。太刀に強き太刀、弱き太刀と云事ハ、あるべからず。強きこゝろにて振太刀ハ、悪きものなり。あらき斗にてハ勝がたし。又強き太刀と云て、人を切ときにして、無理に強くきらんとすれバ、切られざる心也。ためしものなど切所の心にも、強くきらむとする事あしゝ。誰におゐても、敵と切あふに、弱くきらむ、強く切ん、と思ふ者なし。唯人を切殺んと思ふ時ハ、強き心も非ず、勿論、弱き心もあらず、敵のしぬる程とおもふ儀也。若は、強ミの太刀にて、【脱字********************】人の太刀に強くあたれバ、我太刀も、折れくだくる所也。然に依て、強ミの太刀などゝ云事、なき事也。大分の兵法にしても、強き人数をもち、合戦におゐてつよくかたむと思ヘば、敵も強き人数をもち、戦強せむと思ふ。夫は何れも同じ事也。物ごとに、勝と云事、道理なくしてハ、勝事あたわず。我道におゐては、少も無理なる事をおもわず、兵法の智力をもつて、いか様にも勝所を得るこゝろ也。能々工夫有べし。  

 【猿子家本】

一 他流におゐて、つよみの太刀と云事。太刀に強き太刀、よハき太刀と云事ハ、あるべからず。強き心にて振太刀ハ、悪敷もの也。あらき斗にてハ勝がたし。又強き太刀と謂て、人を切時にして、むりに強くきらんとすれバ、きられざる心也。ためし物などきる心にも、強くきらんとする事あしゝ。誰におゐても、かたきときりあふに、よハくきらん、つよくきらん、と思ものなし。たゞ人をきりころさんと思ふときは、強き心も非ず、勿論、よハき心もあらず、敵のしぬ【脱字】程とおもふ儀也。若ハ、強ミの太刀にて、人の太刀強くはれバ、はりあまりて、かならず悪敷心也。人の太刀に強くあたれバ、我太刀も、おれくだくる所也。然によつて、強ミの太刀などゝ云事、なき事也。大分の兵法にしても、強き人数をもち、合戦に於て強くかたんと思ヘバ、敵も強き人数を持、戦強くせんと思ふ。夫ハ何も同じ事也。物毎に、勝といふ事、道利なくしてハ、勝事あたハず。我道におゐてハ、少も無理なる事を思ハず、兵法の智力をもつて、いか様にもかつ所を得る心也。能々工夫有べし。

 【楠家本】

一 他流におゐて、つよミの太刀と云事。太刀につよき太刀、よハき太刀といふ事ハ、有べからず。つよき心にてふる太刀ハ、あらきもの也。あらき斗にてハかちがたし。又、つよき太刀といひて、人をきる時にして、むりにつよくきらんとすれバ、きれざる心也。ためしものなどにきる心にも、つよくきらんとする事あしゝ。誰におゐても、かたきときりやうに、よハくきらん、つよくきらん、とおもふものなし。たゞ人をきりころさんとおもふ時は、つよき心もあらず、勿論、よハき心にもあらず。敵のしぬるほどゝおもふ儀なり。若ハ、つよミの太刀にて、人の太刀つよくはれバ、はりあまりて、必あしき心也。人の太刀につよくあたれバ、我太刀も、おれくだくる所也。然によつて、つよミの太刀などゝいふ事、なき事なり。大分の兵法にしても、つよき人数を持、合戦におゐてつよくかたんとおもへバ、敵もつよき人【脱字】を持、戦もつよくせんとおもふ。其ハいづれも同じ事也。物毎に、勝といふ事、道理なくしてハ、勝事あたハず。わが道におゐてハ、少もむりなる事をおもハず、兵法の智力をもつて、いかやうにも勝所を得る心也。能々工夫有べし。

 【細川家本】

一 他流におゐて、つよミの太刀と云事。太刀につよき太刀、よわき太刀と云事は、あるべからず。つよき心にてふる太刀は、あらき物也。あらきバかりにてはかちがたし。又、つよき太刀と云て、人をきる時にして、むりにつよくきらんとすれば、きれざる心也。ためしものなどにきる心にも、つよくきらんとする事悪シ。誰におゐても、かたきときりやふに、よわくきらん、つよくきらん、と思ふものなし。唯人をきりころさんとおもふ時は、つよき心もあらず、勿論、よハき心にもあらず、敵のしぬるほどゝ思ふ義也。若は、つよミの太刀にて、人の太刀つよくはれば、ハりあまりて、必あしき心なり。人の太刀に強くあたれば、わが太刀も、おれくだくる所也。然によつて、つよミの太刀などゝ云事、なき事也。大分の兵法にしても、つよき人数を持、合戦におゐてつよくかたんと思へば、敵も強キ人【脱字】を持、戦もつよくせんとおもふ。それはいづれも同ジ事也。物毎に、勝と云事、道理なくしては、勝事あたハず。わが【空白】におゐては、少もむりなる事を思ハず、兵法の智力をもつて、いかやうにも勝所を得る心也。能々工夫有べし。

 【丸岡家本】

一 他流におゐて、強ミの太刀といふ事。太刀に強キ太刀、弱キ太刀と云事は、あるべからず。つよき心にてふる太刀は、あらきもの也。あらきばかりにては勝がたし。又、強キ太刀と云て、人をきる時ニして、無理につよく切むとすれば、きれざる心也。ためし者など斬心にも、つよく斬むとする事あしゝ。誰におゐても、敵と切合に、弱くきらん、つよくきらん、とおもふ者なし。只人を切殺さんとおもふ時は、強キ心もあらず、勿論、弱きこゝろにもあらず、敵の死るほどゝ思ふ義也。若は、強ミの太刀にて、人の太刀つよくはれば、張あまりて、必あしき心なり。人の太刀につよくあたれば、我太刀も、折レ砕くる所也。然によりて、強ミの太刀などゝ云事、なきこと也。大分の兵法にしても、強キ人数を持、【脱字***********】戦もつよくせんと思ふ、それハ何れもおなじ事也。物ごとに、勝といふ事、道理なくしては、勝ことあたハず。我道におゐては、少も無理なる事を思ハず、兵法の智力を以、如何やうにも勝所を得る心なり。能々工夫あるべし。

 【富永家本】

一 他流におゐて、強ミの太刀と云事。太刀に強き太刀、よわき太刀といふ事ハ、不可有。強き心にてふる太刀ハ、あらきもの也。あらき斗にてハ勝がたし。また、強き太刀と云て、人を切時にして、むりに強くきらんとすれば、きれざる心也。銚者などに切心にも、強く切らんとする事悪し。誰におゐても、敵と切合に、よわく切らん、強く切らむ、とおもふものなし。只人を切ころさんとおもふ時ハ、強き心もあらず、勿論、よわき心もあらず。敵の死るほどゝおもふ儀なり。若ハ、強ミの太刀にて、人の太刀強くはれバ、はりあまりて、必悪しき心也。人の太刀につよくたゝれバ、我太刀も折くだくる所也。然によつて、つよみの太刀などゝ云事、無事也。大分の兵法にしても、強き人数を持、合戦におゐて強くかたんとおもへバ、敵も強き人【脱字】を持、戦も強くせんとおもふ。それ<ハ何も同じ事也。物毎に、勝と云事、道理無してハ、勝事あたわず。我道におゐてハ、少も無理なる事をおもハず、兵法の知力を以て、如何様にも勝所を得る心なり。能々工夫有べし。

 【常武堂本】

一 他流に於て、つよみの太刀と云事。太刀につよき太刀、よわき太刀と云事ハ、あるべからず。つよき心にてふる太刀ハ、あらき物也。あらきばかりにてハかちがたし。又、つよき太刀といふて、人をきる時にして、むりにつよくきらむとすれバ、きれざる心也。ためしものなどにきる心にも、つよくきらんとする事悪し。誰に於ても、かたきときり合に、よわくきらん、つよくきらむ、と思ふものなし。唯人をきりころさんと思ふ時ハ、つよき心もあらず、勿論、よはき心にもあらず、敵のしぬるほどゝ思ふ義也。若ハ、つよみの太刀にて、人の太刀つよくはれバ、ハりあまりて、必あしき心なり。人の太刀に強くあたれバ、わが太刀も、をれくだくる所也。然によつて、つよみの太刀などゝ云事、なき事也。大分の兵法にしても、つよき人数を持、合戦に於てつよくかたむと思へバ、敵も強き人【脱字】を持、戦もつよくせんとおもふ。それハいづれも同じ事也。物毎に、勝と云事、道理なくしてハ、勝事あたはず。わが【空白】に於てハ、少もむりなる事を思はず、兵法の智力をもつて、いかやうにも勝所を得る心也。能々工夫有べし。

 【田村家本】

 他【脱字】ニ<於テ、強ミノ太刀ト云事 太刀ニ強太刀、弱キ太刀ト云事【脱字】、有ベカラズ。強心ニテ振太刀ハ、荒モノナリ。荒バカリニテ【脱字】勝ガタシ。又、強太刀ト云テ、人ヲ斬時ニシテ、無理ニ強切ラントスレバ、切レザルモノナリ。タメシ者ナド切心ニモ、強切ラントスル事アシヽ。誰ニ於モ、敵ト切合ニ、弱ク切ン、強ク切ント思者ナシ。只人ヲ切コロサント思時ハ、強心モ非ズ、勿論、弱心ニモ非ズ、敵ノ死ル程ト思儀也。若【脱字】強ミノ太刀ニテ、人ノ太刀ヲ強張レバ、張アマリテ、必アシキ心ナリ。人ノ太刀ニ強アタレバ、我太刀モ、折クダクル処也。然ルニ因テ、強ミノ太刀【脱字】ト云事、ナキ事也。大分ノ兵法ニシテモ、強人員ヲ持、【脱字*******************】戦モ強クセント思。ソレハ何レモ同事也。物事ニ、勝ト云事、道理ナクシテハ、勝事アタハズ。我道ニ於ハ、少モ無理ナル事ヲ思ワズ、兵法ノ智力ヲ以テ、イカヨウニモ勝処ヲ得ルコヽロ也。能々工夫在ベシ。

 【狩野文庫本】

一 他流におゐて、強ミの太刀と云事。太刀に強太刀、弱き太刀と云事は、有べからず。強心ニ而振太刀ハ、あらきもの也。あらきばかりにても勝がたし。又、強き太刀と云て、人を切時ニして、無理に強切らんとすれば、きれざる心也。ためし物など切心にも、【脱字】切らんとする事悪し。誰ニおゐても、敵と切合に、弱切らん、強切らんと思ふものなし。只人を切殺さんとおもふときは、強心もあらず、勿論、弱心にもあらず、敵の死る程と思ふ義也。若は、強みの太刀ニ而、人の太刀を強くはれば、はりあまりて、必あしき心なり。人の太刀に強あたれバ、我太刀【脱字】折レ碍る所也。然に依て、強ミの太刀抔【脱字】云事、なき事也。大分の兵法にしても、強人数を持、合戦におゐて強勝と思へバ、敵も強人数を持、戦も強せんとおもふ。夫ハ何れも同じ事也。物事に、勝といふ事、道理なくしてハ、勝事あたハず。我が道におゐてハ、少も無理成事を不思、兵法の智力を以、如何樣ニも勝所を得【脱字】也。能々工夫すべし。

 【多田家本】

一 他流にをひて、強みの太刀と云事。太刀に強き太刀、弱太刀と云事ハ、有べからず。強き心にて振太刀ハ、あしき物也。あらき斗にて【脱字】勝がたし。又、強き太刀といひて、人を切時にして、むりにつよくきらんとすれバ、切ざる心也。ためし物抔きる心【脱字】も、強く切らんとすれバ、切ざる心也。ためし物抔にきる心も、強く切らんと[重複]する事悪し。誰にをひても、敵と切合に、弱く切ん、強く切んと思ふ者なし。只人を切殺さんと思ふ時ハ、強き心もあらず、勿論、弱き心にもあらず、敵の死する程と思ふ義也。若は、強き太刀にて、人の太刀強くはれバ、張餘りて、必ず悪敷心也。人の太刀に強く當れバ、我太刀も、おれくだくる所也。然るに依て、強みの太刀抔と云事、なき事也。大分の兵法にしても、強き人数を持、合戦にをひて強く勝んと思ハヾ、敵も強き人数を持、戦強くせんと思ふ。夫ハ何れも同事也。物毎に、勝と云事、道理なくしてハ、勝事あたはず。我道におゐてハ、少しも無理成事をおもハず、兵法の智力を以、如何様にも勝<事を得る心也。よく/\工夫有べし。

 【山岡鉄舟本】

一 他流ニ於テ、強ミノ太刀ト云事。太刀ニ強キ太刀、弱キ太刀、ト云事ハアルベカラズ。強キ心ニテ振ル太刀ハ、荒キ物也。荒キ計リニテハ勝ガタシ。亦、強キ太刀ト云テ、人ヲ切時ニシテ、無理ニ強ク切ントスレバ、切レザル心也。タメシ者抔ニ切ル心【脱字】、強ク切ラントスル事悪シ。誰ニ於テモ、敵ト切合ニ、弱ク切ラン、強ク切ラント思者ナシ。唯人ヲ切リコロサント思フ時ハ、強心モ非ズ、勿論、弱心ニモアラズ。敵ノ死ル程ト思フ義也。若ハ、強ミノ太刀ニテ、人之太刀強クハレバ、ハリ余リテ、必悪キ心也。人ノ太刀ニ強ク當レバ、【脱字】太刀【脱字】ヲレクダクル處也。然ルニヨリテ、【脱字**********************】、強キ人数ヲ持、【脱字*******************】、戦モ戦ハセント思。夫ハイヅレモ同ジ事也。物毎ニ勝ト云事、道理ナクシテハ、勝事アタワズ。我道ニ於テ【脱字】、少シモ無理成ル事ヲ思ハズ、兵法ノ智力ヲ以、如何【脱字】ニモ勝所ヲ得ル心也。能々工夫有ベシ。

 【稼堂文庫本】

一 他流に於、強ミの太刀と云事。太刀に強き太刀、弱き太刀と云事は、有べからず。強き心にても振太刀ハ、荒き者也。荒き斗にてハ勝がたし。亦、強き太刀と【脱字】て、人を切る時にして、無理に強く切んとすること悪し、切れざる心也。ためし者抔に切心【脱字】も、強く切んとする事悪し。誰に於ても、敵と切合に、弱切ん、強切ん、と思ふ者なし。只人を切殺んと思ふ時は、強き心も非ず、勿論、弱き心も有べからず、敵の死する程と思ふ理也。若は、つよみの太刀ニて、人の太刀を強張ば、はり余りて、必悪敷心也。人の太刀に強當れば、我太刀も、折くだくる処也。然るに依て、つよみの太刀抔と云こと、無事也。太刀の兵法にしても、強き人数をもち、【脱字】戦に於てつよくかたんと思へば、敵も強き人【脱字】を持、戦もつよくせんと思ふ。夫は何れも同じ事也。物毎に、勝と云ことハ、道理無くしては、勝事あたわず。我道に於ては、少もむり成ることを思はず、兵法の知力を以、如何様にも勝所を得る心也。能々鍛練工夫有べし。

 【大瀧家本】

一 他流におゐて、強ミの太刀と云事。太刀の強太刀の、弱太刀のと云事ハ、あるべからず。強き心ハ振太刀ハ、あらきものなり。あらき斗にて【脱字】勝難し。又、強太刀と云て、人を切時に【脱字】て、無理に強切らんとすれバ、切れざる心也。ためし物を切心にも、強切らんとする事あしゝ。誰におゐても、敵と切やうに、弱切らん、強切らん、とおもふものなれ。只人数を切殺さんと思ふ時ハ、強き心もあらず、勿論、弱き心にもあらず、敵の死ぬる程を思ふ儀也。若は、弱みの太刀にて、人の太刀強けれバ、はりあまりて、必悪き心也。人の太刀に強く當れば、我太刀も、おれくだくる【脱字】也。然るに依て、強ミの太刀抔と云事、無き事也。大分の兵法にしても、強き人数を持、合戦におゐて強勝とおもへバ、敵も強き心を以て、戦【脱字】せんと【脱字】。夫ハ何れも同じ事也。物事に、勝といふ事、道理なくしてハ、勝事不能。我道におゐてハ、少しも無理なる事を思はず、兵法の智力を以て、如何様にも勝事を得る心也。能々工夫有べし。    PageTop    Back   Next 

  4 他流に短き太刀を用る事

 【吉田家本】

一 他流にミじかき太刀を用事。ミじかき太刀斗にてかたむと思ところ、実の道にあらず。昔より太刀、刀と云て、長きとミじかきと云事を顕し置也。世の中に、強力なるものハ、大なる太刀をもかろ/\と振なれバ、むりにミじかきをこのむ所に非ず。其故ハ、長きを用て、鑓、長刀をも持もの也。短き太刀をもつて、人の振太刀のすき間をきらむ、飛いらん、つかまへんなどゝ思こゝろ、かたつきて悪し。又、すき間をねらふ所、万事後手にミヘて、もつるゝと云心有て、嫌事也。若、ミじかき物にて敵へ入、くまむ、とらんとする事、大敵の中にて役にたゝざる心也。ミじかきにて仕得たるものハ、大勢をもきりはらはん、自由に飛て、くるばんとおもふとも、ミなうけ太刀と云【◇】になりて、とり紛るゝ心有て、たしかなる道にてなき事也。おなじくバ、我身ハ強く直にして、人をおひまハし、人にとびはねさせ、人のうろめく様にしかけて、たしかに勝所を専とする道也。大分の兵法におゐても、其利有。同じくバ、人数かさをもつて、かたきを矢場にしほし、則時に責つぶす心、兵法の専也。世の中の人の、物をしならふ事、へいぜいも、うけつ、かわいつ、ぬけつ、くゞつゝしならへば、心、道にひかされて、人にまわさるゝ心有。兵法の道、直に正しき所なれバ、正利をもつて人を追廻し、人をしたがゆる心、肝要也。能々吟味有べし。

 【渡辺家本】

一 他流にミじかき太刀を用る事。みじかき太刀ばかりにてかたんと思ところ、實の道にあらず。昔より太刀、刀と云て、長きとみじかきと云事を顕し置也。世の中に、強力なるものハ、大なる太刀をもかろ/\と振なれバ、むりにみじかきをこのむ所にあらず。其故は、長きを用て、鎗、長刀をも持もの也。短き太刀をもつて、人の振太刀のすき間をきらん、飛入ん、つかまへん、などゝ思ふ心、かたつきて悪し。又、すき間をねらふ所、万事後手に見ヘて、もつるゝと云心有て、嫌事也。若、みじかきものにて、敵へ入、くまん、とらんとする事、大敵の中にて役にたゝざる心也。ミじかきにて仕ひ得たるものハ、大勢をもきりはらハん、自由に飛、くるバんとおもふとも、ミなうけ太刀と云【◇】になりて、とり紛るゝ心有て、たしかなる道にてなき事也。同じくハ、我身ハ強く直にして、人を追まハし、人にとびはねさせ、人のうろめく様にしかけて、たしかに勝所を専とする道也。大分の兵法におゐても、其利有。同じくは、人数かさをもつて、かたきを矢塲にしほし、則時に責つぶす心、兵法の専也。世の中の人の、物をしならふ事、平生も、うけつ、かハいつ、ぬけつ、くゞつゝしならへば、心、道にひかされて、人にまハさるゝ心有。兵法の道、直に正しき所なれバ、正利をもつて人を追廻し、人をしたがゆる心、肝要也。能々吟味有べし。

 【近藤家丙本】

一 他流にミじかき太刀を用る事。みじかき太刀斗にてかたんと思ところ、實の道にあらず。昔より太刀刀と云て、長きとミじかきと云事を顕し置也。世の中に、強力なるものハ、大なる太刀をもかろ/\と振なれバ、無理にみじかきをこのむ所に非ず。其故ハ、長きを用て、鎗、長刀をも持もの也。短き太刀をもつて、人の振太刀のすき間をきらん、飛入らん、つか【脱字】へん、などゝ思ふ心、かたつきて悪し。又、すき間をねらふ所、万事後手に見ヘて、もつるゝと云心有て、嫌ふ事也。もし、ミじかき物ニて、敵へ入らん、くまん、とらんとする事、大敵の中ニて役にたゝざる心也。ミじかきにて遣ひ得たるものは、大勢をも切拂ハん、自由に飛、くるバん、と思ふとも、ミな請太刀と云【◇】になりて、取紛るゝ心有て、たしかなる道にてなき事也。同じくハ、我身ハ強く直にして、人を追廻し、人にとびはねさせ、人のうろめく様ニしかけ【脱字】、たしかに勝處を専とする道也。大分の兵法におゐても、其利有。同じくハ、人数かさをもつて、かたきを矢場にしほし、則時に責つぶす心、兵法の専なり。世の中の人の、物をしならふ事、平生も、うけつ、かわいつ、ぬけつ、くゞつゝしならひバ、心、道にひかされて、人にまハさるゝ心有。兵法の道、直に正しき所なれば、正利をもつて人を追廻し、人をしたがゆる心、肝要也。能々吟味有べし。

 【中山文庫本】

一 他流にミじかき太刀を用事。ミじかき太刀斗にてかたむと思所、実の道にあらず。昔より太刀、刀と云て、長きとミじかきと云事を顕し置也。世の中に、強力なるものハ、大なる太刀をもかろ/\と振なれバ、むりにミじかきをこのむ所に非ず。其故ハ、長きを用て、鑓、長刀をも持ものなり。短き太刀をもつて、人の振太刀のすきまをきらむ、飛いらん、つかまへむ、などゝ思心、かたつきて悪し。又すき間をねらふ所、万事後手に見えて、もつるゝと云心有て、嫌事也。若、ミじかき物にて敵へ入、くまん、とらむとする事、大敵の中にて役に立ざる心也。ミじかきにて仕得たるものハ、大勢をもきりはらハん、自由に飛て、くるバんとおもふとも、ミなうけ太刀と云【◇】になりて、とり紛るゝ心有て、たしかなる道にてなき事也。おなじくバ、我身ハ強く直にして、人をおひまわし、人をとびはねさせ、人のうろめく様にしかけて、たしかに勝所を専とする道也。大分の兵法に於ても、其利あり。同じくバ、人数かさを以て、かたきを矢場にしほし、則時に責つぶす心、兵法の専也。世の中の人の、物をしならふ事、へいぜいも、うけつ、かはいつ、ぬけつ、くゞつゝしならへバ、心、道にひかされて、人にまわさるゝ心あり。兵法の道、直に正しき所なれバ、正利をもつて人を追廻し、人をしたがゆる心、肝要なり。能々吟味有べし。

 【赤見家乙本】

一 他流にミじかき太刀を用ゆる事。みじかき太刀ばかりにてかたんと思ふ所、實の道にあらず。むかしより太刀、刀と云ふて、長きと短きといふ事を顕し置也。世の中に、強力なるものは、大きなる太刀をも、かろ/\と振るなれバ、むりに短きをこのむ所にあらず。其ゆへハ、長きを用ひて、鎗、長刀をも持もの也。短き太刀をもつて、人の振る太刀のすき間を、きらん、【脱字】入らむ、つかまへむ、【脱字】と思ふ心、かたつきて悪し。又、すき間をもつて人の振る太刀のすき間をねらふ所、万事後手に見ヘて、もつるゝといふ心ありて、嫌事也。若、短きものにて、敵へ入くまん、とらんとする事、大敵の中にてハ役にたゝざる心也。短きにて仕得てたるものハ、大勢をもきりはらハん、自由にくまん、とらむ、とおもふとも、ミなうけ太刀といふ【◇】になりて、取り紛るゝ心有て、たしかなる道にてなき事也。同じくは、我身ハ強く直にして、人を追まハし、人に飛はねさせ、人のうろめくうちにしかけて、たしかに勝所を専とする道也。大分の兵法におゐても、其利有り。おなじくハ、人数かさを守つて、かたきを矢場にしほふし、則時に責潰ス心、兵法の専也。世の中の人【脱字】、物をしならふ事、平生も、うけつ、かハ【脱字】つ、ぬけつ、くゞつ【脱字】しならふ人ハ、心道にひかされて、人にまハさるゝこゝろ有。兵法の道、直に正しき所なれバ、正しきをもつて人を追廻【脱字】、人を隨る心、肝要也。能々吟味有べし。

 【神田家本】

一 他流にミじかき太刀を用る事。みじかき太刀ばかりにてかたんと思ふところ、實の道にあらず。昔より太刀、刀と云て、長きとみじかきと云事を顕し置也。世の中に、強力なるものハ、大なる太刀をもかろ/\と振るなれバ、むりにみじかきをこのむ所にあらず。其故ハ、長きを用て、鎗、長刀をも持もの也。短き太刀をもつて、人の振太刀のすき間を、きらん、飛入ん、つかまへん、などゝ思ふ心、かたつきて悪し。又、すき間をねらふ所、万事後手に見ヘて、もつるゝと【脱字】心有て、嫌ふ事也。若、みじかきものにて、敵へ入、くまん、とらんとする事、大敵の中にて役にたゝざる心也。ミじかきにて仕ひ得たるものハ、大勢【脱字】きりはらハん、【脱字】飛、くるバん、と思ふとも、ミなうけ太刀と云【◇】になりて、とり紛るゝ心有て、たしかなる道にてなき事也。同じくハ、我身ハ強く直にして、人を追まハし、人にとびはねさせ、人のうろめく様にしかけて、たしかに勝所を専とする道也。大分の兵法におゐても、其利有。同じくハ、人数かさ【脱字】もつて、かたきを矢塲にしほし、則時に責つぶす心、兵法の専也。世の中の人の、物をしならふ事、平生も、うけつ、かハいつ、ぬけつ、くゞつゝしならへば、心道ニひかされて、人にまハさる【脱字】心有。兵法の道、直に正しき所なれバ、正利をもつて人を追廻し、人をしたがゆる心、肝心也。能々吟味有べし。

 【伊丹家本】

一 他流に短き太刀を用事。みじかき太刀斗にて勝んと思ふ所、實の道にあらず。昔より太刀、刀と云て、長きと短きと云事を顕し置也。世の中に、強力なるものハ、大なる太刀をもかろ/\と振なれバ、むりにみじかきを好む所に非ず。其故ハ、長きを用て、鎗長刀をも持もの也。短き太刀を以て、人の振太刀のすき間を切ん、飛入ん、つかまへん、などゝ思ふ心、かたつきて悪し。又透間をねらふ所、萬事後手に見へて、もつるゝと云心有て、嫌事也。若、短きものにて、敵へ入くまん、とらんとする事、大敵の中にて役に立ざるこゝろ也。みじかきにて仕得たるものハ、大勢をもきりはらハん、自由に飛む、轉む、と思ふ共、皆受太刀と云【◇】に成て、とり紛るゝ心有て、慥なる道にてなき事也。同じくバ、我身ハ強く直にして、人を追廻し、人を飛はねさせ、人のうろめく様にしかけて、慥ニ勝所を専とする道也。大分の兵法におゐても、其理有。同じくバ、人数かさをもつて、敵を矢場ニしほし、即時に責つぶす心、兵法の専也。世の中の人の、物をしならふ事、平生も、うけつ、かわいつ、ぬけつ、くゞりつし習へバ、心、道にひかされて、人にまわさるゝ心有。兵法の道、直に正しき所なれバ、正理をもつて人を追廻し、人をしたがゆる心、肝要也。能々吟味有べし。  

 【猿子家本】

一 他流にミじかき太刀を用る事。みじかき太刀ばかりにてかたんと思ところ、實の道にあらず。昔より太刀、刀と云て、長きとみじかきと云事を顕し置也。世の中に、強力なるものハ、大なる太刀【脱字】もかろ/\と振なれバ、むりにみじかきをこのむ所にあらず。其故ハ、長きを用て、鎗、長刀をも持もの也。短き太刀をもつて、人の振太刀のすき間をきらん、飛入ん、つかまへん、などゝ思ふ心、かたつきて悪し。又すき間をねらふ所、万事後手に見ヘて、もつるゝと云心有て、嫌事也。若、みじかきものにて敵へ入、くまん、とらんとする事、大敵の中にて役にたゝざる心也。ミじかきにて仕ひ得たるものハ、大勢をもきりはらハん、自由に飛、くるバんと思ふとも、ミなうけ太刀と云【◇】になりて、とり紛るゝ心ありて、たしかなる道にてなき事也。同じくハ、我身ハ強く直にして、人を追まハし、人にとびはねさせ、人のうろめく様にしかけて、たしかに勝所を専とする道也。大分の兵法におゐても、其利有。同じくハ、人数かさをもつて、かたきを矢場にしほし、則時に責つぶす心、兵法の専也。世の中の人の、物をしならふ事、平生も、うけつ、かハいつ、ぬけつ、くゞつゝしならへば、心、道にひかされて、人にまハさるゝ心有。兵法の道、直に正しき所なれバ、正利をもつて人を追廻し、人をしたがゆる心、肝心也。能々吟味有べし。

 【楠家本】

一 他流にみじかき太刀を用る事。みじかき太刀斗にてかたんとおもふ處、実の道にあらず。昔より、太刀、刀といひて、長きとみじかきといふ事を顕し置也。世の中に、強力なる物ハ、大きなる太刀をもかろくふるなれバ、むりにみじかきをこのむ所にあらず。其ゆへハ、長きを用て、鑓、長太刀をも持ものなり。みじかき太刀を持て、人のふる太刀のすきま間をきらん、飛いらん、つかま【脱字】んなどゝ思ふ心、かたつきてあしゝ。又、すき間をねらふ処、萬事後手に見え【脱字】、もつるゝといふ心有て、きらふ事也。若ハ、みじかきものにて敵へ入、くまん、とらんとする事、大敵の中にて役にたゝざる心也。みじかきにてし得たるものハ、大勢をもきりはらはん、自由ニとばん、くるばんと思ふ共、ミなうけ太刀といふものになりて、とりまぎるゝ心ありて、たしかなる道にてハなき事也。同じくバ、わが身はつよく直にして、人をおいまはし、人に飛はねさせ、人のうろめくやうにしかけて、慥に勝處を専とする道也。大分の兵法におゐても、其理あり。同じくバ、人数かさをもつて、かたきを矢場にしほし、そくじにせめつぶす心、兵法の専也。世の中の人の、物をしならふ事、へいぜいも、うけつ、かわいつ、ぬけつ、くゞつつしならへバ、心、道にひかされて、人にまはさるゝ心あり。兵法の道、直に糺しき所なれバ、正理をもつて人をおいまはし、人をしたがゆる心、肝要なり。よく/\吟味あるべし。

 【細川家本】

一 他流に短き太刀を用る事。短き太刀斗にてかたんと思ふ所、實の道にあらず。昔より、太刀、かたなといひて、長きと短きと云事を顕し置也。世の中に、強力なるものは、大きなる太刀をもかろく振なれば、むりに短きを好む所にあらず。其故ハ、長きを用て、鑓、長太刀をも持物也。短き太刀を以、人の振太刀の透間をきらん、飛いらん、つかま【脱字】んなどゝ思ふ心、かたつきて悪シ。又、すきまをねらふ所、万事後手に見え【脱字】、もつるゝといふ心有て、きらふ事也。若は、みじかき物にて敵へ入、くまん、とらんとする事、大敵の中にて役に立ざる心なり。短きにてし得たるものハ、大勢をもきりはらハん、自由に飛ばん、くるバんと思ふとも、皆うけ太刀と云物になりて、とりまぎるゝ心有て、慥成道にてはなき事也。同くバ、我身はつよく直にして、人を追廻し、人に飛はねさせ、人のうろめくやうにしかけて、慥に勝所を専とする道也。大分の兵法におゐても、其理あり。同じくバ、人数かさをもつて、敵を矢場にしほし、即時にせめつぶす心、兵法の専也。世中【脱字】人の、物をしならふ事、へいぜいも、うけつ、かわいつ、ぬけつ、くゞつつしならへば、心、道にひかされて、人にまわさるゝ心あり。兵法の道、直に糺しき所なれば、正理を以て人をおいまハし、人をしたがゆる心、肝要也。能々吟味有べし。

 【丸岡家本】

一 他流に短キ太刀を用る事。短キ太刀ばかりにて勝むと思ふ所、實の道に非ず。むかしより、太刀、刀と云て、長キと短キといふことを顕し置なり。世の中に、強力なる者は、大なる太刀をも軽く振なれば、無理に短キを好む所にあらず。其故ハ、長を用て、鎗、長刀をも持もの也。短キ太刀を以、人のふる太刀の透間を切ん、とび入らん、つかま【脱字】んなどゝ思ふ心、片付てあしゝ。又、透間をねらふ所、萬事後手に見へ【脱字】、もつるゝと云心ありて、嫌ふこと也。若ハ、短キ物にて敵へ入、くまん、【脱字】とすること、大敵の中にて益に立ざる心也。短にて為得たる者は、大勢をも切拂ハん、自由に飛ん、狂ハんとおもふとも、皆受太刀と云ものに成て、取紛るゝ心有て、たしかなる道にてはなき事也。おなじくバ、我身ハつよく直にして、人を追廻し、人に飛はねさせ、人のうろめくやうにしかけて、たしかに勝所を専とする道也。大分の兵法におゐても、其理あり。同じくバ、人数かさを以、敵を矢場にしほし、即時に攻潰す心、兵法の専なり。世中【脱字】人の、物をしならふ事、平世も、受つ、かわいツ、ぬけつ、くゞツつしならへば、心、道にひかされて、人に廻さるゝ心有。兵法の道、直に正しき所なれば、正理を以人を追廻し、人をしたがゆる心、肝要なり。能々吟味有べし。

 【富永家本】

一 他流にミじかき太刀を用る事。ミじかき太刀斗にて勝んとおもふ所、実の道ニあらず。昔より、太刀、刀と云て、長きとミじかきといふ事を顕し置也。世の中ニ、強力成者ハ、大きなる【脱字】刀をもかろ/\とふるなれば、むりにミじかき【脱字***********************】太刀を以て、人のふる太刀のすき間を切らん、飛入らん、つかま【脱字】んなどゝおもふ心、かたつきてあしゝ。また、すき間をねろふ所、萬事後手に見へて、もつるゝと云心有つて、きろふ事なり。若、ミじかき者にて敵へ入、組ん、とらんとする事、大敵の中にて役に立ざる心也。ミじかきにてし得たる者は、大勢をも切はらハん、自由にとばん、くるわんとおもふとも、皆受太刀と云者になつて、取まぎるゝ心有て、たしかなる道にてハ無事也。同バ、我身ハ【脱字】直ニして、人を追廻し、人に飛はねさせ、人のうろめくやうに仕懸て、慥に勝所を専とする道也。大分の兵法におゐても、其理あり。同じくバ、人数かさを以て、敵を矢場にしほし、即時に責潰す心、兵法の専ら也。世の中の人の、物を仕習ふ事、平生も、受つ、かるひつ、ぬけつ、くゞつ【脱字】仕習て、心の道にひかされて、人にまわさるゝ心あり。兵法の道、直ニ正しき所なれば、正理を以人を追廻し、人をしたがゆる心有り、肝要也。能々吟味あるべし。

 【常武堂本】

一 他流に短き太刀を用る事。短き太刀斗にてかたんと思ふ所、實の道にあらず。昔より、太刀、かたなといひて、長きと短きと云事を顕し置也。世【脱字】中に、強力なるものハ、大きなる太刀をもかろく振なれバ、むりに短きをこのむべきにあらず。其故ハ、長きを用て、鑓、長(太)刀をも持物也。短き太刀を以、人の振太刀の透間をきらむ、飛いらん、つかま【脱字】んなどゝ思ふ心、かたつきて悪シ。又、すきまをねらふ所、万事後手に見え【脱字】、もつるゝといふ心有て、きらふ事也。若ハ、みじかき物にて敵へ入、くまん、とらんとする事、大敵の中にて役に立ざる心なり。短きにてし得たるものハ、大勢をもきりはらハん、自由に飛ばん、くるばんと思ふとも、皆うけ太刀と云物になりて、とりまぎるゝ心有て、慥なる道にてハなき事也。同くバ、我身ハつよく直にして、人を追廻し、人に飛はねさせ、人のうろめく様にしかけて、慥に勝所を専とする道也。大分の兵法に於ても、其理あり。同じくバ、人数かさをもつて、敵を矢場にしほし、即時にせめつぶす心、兵法の専也。世中【脱字】人の、物をしならふ事、平生も、うけつ、かわいつ、ぬけつ、くゞつつしならへバ、心、道にひかされて、人にまわさるゝ心あり。兵法の道、直に糺しき所なれバ、正理を以て人をおひまはし、人をしたがゆる心、肝要也。能々吟味有べし。

 【田村家本】

 他流ニ短太刀ヲ用ル事 短太刀バカリニテ勝ント思処、實ノ道ニ非ズ。昔ヨリ、太刀【脱字】ト云テ、長キト短ト云事ヲ顯置也。世ノ中ニ、強力ナルモノハ、大ナル太刀ヲモ輕ク振【脱字】レバ、ムリニ短キヲ好處ニ非ズ。其故ハ、長ヲ用テ、鑓、長刀ヲモ持モノ也。短太刀ヲ持テ、人ノ振太刀ノスキマヲ切ン、飛入ン、ツカマエン抔ト思心、片付テアシヽ。又、透間ヲネロウ処、万事後手ニ見エ【脱字】、モツルヽト云心アリテ、嫌フ事也。若ハ、短キ物ニテ敵エ入、組ン【脱字】トスルコト、大敵ノ中ニテ役ニタヽザル心也。短ニテシエタル者ハ、大勢ヲモ切拂ン、自由【脱字】飛ン、クルワント思共、皆受太刀ト云モノニナツテ、取紛ルヽ心有テ、慥ナル道ニテハナキ事也。同クバ、我身ハ強クスグニシテ、人ヲ追回シ、人ニ飛ハネサセ、人ノウロメクヨウニ仕カケ【脱字】、慥ニ勝処ヲ専トスル道也。大分ノ兵法ニ於モ、其理アリ。同クワ、人数カサヲ以、敵ヲヤニハニシホシ、ソクジニ攻潰ス心、兵法ノ専也。世中、人ノ、物ヲ仕習事、平世モ、受ツ、カワイツ、ヌケミ、クヾツヽ【脱字**】、心、道ニヒカ【脱字】レテ、人ニマワサルヽ心有。兵法ノ道、直ニ正シキ処ナレバ、正利ヲ以テ、人ヲ追廻シ、人ヲシタガユル心、肝要也。能々吟味有ベシ。

 【狩野文庫本】

一 他流に短太刀を用る事。短太刀斗にて勝んと思ふ>所、実の道にあらず。昔より、太刀【脱字】と云て、長きと短と云事【脱字】あらハし置也。世中に、強力成ものは、大成太刀をも軽振なれバ、無理ニ短を好所にあらず。其故は、長を用て、鑓、長刀をも持者也。短太刀を以、人の振太刀の透間を切ん、飛入ん、つかま【脱字】ん抔と思ふ心、片付て悪し。又、透間をねらふ所、万事後手ニ見ゆる、もつるゝといふ心有て、嫌ふ事也。若は、短物にて敵え入、組【脱字】取んとする事、大敵の中ニ而役に不立心也。短にて仕得たる者は、大勢をも切拂ハん、自由ニ飛ん、組んと思ふ共、<皆請太刀と云<ものニ<成て、取紛るゝ心有て、慥成道ニ【脱字】ハなき事也。同じくバ、我身ハ強直にして、人を追廻、人に飛はねさせ、人のうろめく樣に仕懸て、【脱字】勝所を専とする道也。大分の兵法におゐても、其理有。同じくバ、人数かさを以、敵を矢庭にしほし、即時に責つぶすこゝろ、兵法の専也。世中の人【脱字】、物を仕習事、平生も、請ツ、かわ【脱字】ツ、ぬけツ、くゞツ【脱字】仕習ば、心、道ニひかされて、人に廻さるゝ心有。兵法の道、直に糺所なれば、正理を以、人を追廻、人をしたがゆるこゝろ、肝要也。能々吟味すべし。

 【多田家本】

一 他流に短き太刀を用事。短き太刀斗にて勝んと思ふ所、実の道にあらず。昔より太刀、刀と云て、長きと短きといふ事を顕し置也。世の中に、強力なる者ハ、大き成太刀をも輕く振なれバ、無理に短きを好む所にあらず。其故ハ、長きを用て、鑓、長刀をも持者也。短き太刀を以て、人の振太刀の透間を切ん、飛入ん、つかま【脱字】ん抔とおもふ心、かたつきて悪し。又、透間をねらふ所、萬事後手に見えて、もつるゝと云心有て、嫌ふ事也。もしハ、短き物にて敵へ入、組ん、取んとする事、大敵の中にて役に立ざる心なり。短きにて仕得たる者ハ、大勢をも切はらハんに、自由に飛ん、くるわん、と思ふとも、皆請太刀と云ものになりて、とり紛るゝ心有て、慥成道にてハなき事也。同くバ、我身ハ強く直にして、人を追廻し、同じ人に飛はねさせ、人のうろめくやうに仕懸て、慥に勝所を専にする道也。大分の兵法にをひても、其理有。同くバ、人数かさを以て、敵を矢庭に亡し、則時に責つぶす心、兵法の専也。世の中の人の、物をしならふ事、平生も、請つ、かわいつ、ぬけつ、くゞつゝしならへバ、正、道にひかされて、人に廻さるゝ心有。兵法の道、【脱字】に糺しき所なれバ、正理を以て人を追廻し、人を隨ゆる心、肝要也。能々吟味有べし。

 【山岡鉄舟本】

一 他流ニ短キ太刀ヲ用ル事。短キ太刀計リニシテ勝ント思フ処、實ノ道ニ非ズ。昔ヨリ、太刀、刀ト云テ、長ト云短ト云事ヲ顕シ置也。世ノ中ニ、強力成者ハ、大キ成太刀ヲモ輕ク振ナレバ、兵法ニ強キヲ好処ニ非ズ。其故ハ、長ヲ用テ、鑓、長刀ヲモ持物也。短キ太刀ヲ以、人ノ振太刀之透間ヲ切ン、飛入ン、ツカマ【脱字】ン抔ト思フ心、片付テ悪シ。又、透間ヲネロウ処、萬事後手ニ見ヘ【脱字】、モツルヽト云心有テ、嫌事也。若ハ、短キモノニテ敵ヘ入、組ン、【脱字】トスル事、大敵ノ中ニテ役ニ立ザル心也。短キニテ仕得タル者ハ、大勢ヲ【脱字】切拂ン、自由ニ飛ン、狂ハント思フトモ、皆受太刀ト云者ニ成テ、取紛ル心有テ、慥成道ニテハ無キ事也。同ジクバ、我身ヲ強【脱字】直ニシテ、人ヲ追廻シ、人ニ飛ハネサセ、人之ウロメク様ニ仕懸テ、慥ニ勝処ヲ専トスル道也。大分ノ兵法ニ於テモ其理アリ。同クバ、人数カサヲ以テ、敵ヲ矢場ニシヲ丶シ、即時ニ責ツブス心、兵法ノ専也。世ノ中、人之場ヲ仕習フ事、平生モ、受ツ、カソイツ、ヌケツ、クヾリツ仕習ヘバ、【脱字】道ニ引【脱字】レテ、人ニ廻サルヽ心有。兵法ノ道、直ニ正キ所ナレバ、正理ヲ以、人ヲ追廻シ、人ヲシタ【脱字】ユル心、肝要ナリ。能々吟味有ベシ。

 【稼堂文庫本】

一 他流に短太刀を用る事。短太刀斗にて勝むと思ふ所、実の道に非ず。昔より、太刀、【脱字】と云て、長と短と云事を顕有者也。世の中に、強力成者は、大成る太刀【脱字】もかろ/\と振成れバ、無理に短き太刀を好所に有ず。其故は、長きを用ひて、鑓、長刀を【脱字】持物也。短か【脱字】太刀をもつて、人の振る太刀のすき間を切れ(きらん)、【脱字****】などと思ふ心、かたつまりて悪し。又、すき間をねらふ所、【脱字】後手に見えて、もつるゝといふ心有て、嫌ふこと也。若は、短き物にては敵へ入、組ん、捕んとすること、大敵の中にて役に立ざる心也。又短【脱字**********************】と思ふ共、皆請太刀と云物に成りて、取まぎるゝ心有て、慥成る道にては無こと也。同じくば、我身ハ強く直にして、人を追廻し、人に飛はねさせ、人のうろめく様に仕懸けて、慥ニ勝所を専とする道也。大分の兵法に於ても、其理有。同くバ、人数かさを以て、敵を矢場に亡し、即時に責つぶす心、兵法の専也。世の中の人の、物を仕習こと、平生も、請つ、かわいつ、ぬけつ、くゞりつ仕習ば、心の、道にひかされて、人にまわさるゝ心有り。兵法の道、直にたゞしき所成れバ、正理を以て、人を追回し、人をしたがゆる心、肝要なり。よく/\吟味有べし。

 【大瀧家本】

一 他流に短太刀を用る事。短太刀斗にて勝んとおもふ所、実の道にあらず。昔より、太刀、刀と云て、長き【脱字】短きと云事を顕し置也。世の中の、強【脱字】成ものハ、大なる太刀【脱字】も輕く振なれバ、無理に短きを好む【脱字】にあらず。其故ハ、長を【脱字】、鑓、長太刀をも持もの也。短き太刀を以て、人のふる太刀の透間を切らん、飛び入らん、つかたれ抔と思ふ心、かたつみて悪し。又、透間をねらふ所、萬事後手に見ゆるに、もつるゝと云心有て、嫌ふ事也。若ハ、短き物にて敵へ入、組ん、【脱字】とする事、大敵の内にて役に立ざる心也。短にて仕得たるものハ、大勢を【脱字】切拂はん、自由に飛ん、くるばんと思ふ共、皆受太刀と云物に成て、取紛るゝ心有て、慥成道にてハなき事也。同くバ、我身を強直にして、人を追廻し、人に飛はねさせ、人【脱字】うろめく様に仕懸けて、慥に勝所を専とする道也。大分の兵法におゐても、其理有。同じくバ、人数かさを以て、敵を矢塲に仕負ふせ、即時に責潰す心、兵法の専也。世の中の【脱字】、物を仕習ふ事、平生も、うけつ、かはしつ、抜【脱字】くゞりつし習へバ、心、道もひかされて、人にまはさるゝ心あり。兵法の道、直に正敷所なれバ、正理を以て、人を追廻し、人をしたがゆる心、肝要也。能々吟味すべし。    PageTop    Back   Next 

  5 他流に太刀数多き事

 【吉田家本】

一 他流に太刀数多き事。太刀かず数多にして、人に傳事、道をうり物にしたてゝ、太刀数多くしりたると、初心のものに深くおもわせんためなるべし。是、兵法に嫌こゝろ也。其故ハ、人をきる事、色々有と思ところ、まよふ心也。世の中におゐて、人をきる事、替る道なし。しるものも、しらざるものも、女童子迄も、打、たゝき、切、と云道ハ、多くなき所也。若、かわりてハ、つくぞ、なぐぞ、と云より外ハなし。先、きる所の道なれバ、かずの多かるべき子細にあらず。されども、場により、ことに随ひ、上脇などのつまりたる所などにてハ、太刀のつかへざるやうに持道なれバ、五方とて、五ツの数ハあるべきもの也。夫より外に、とりつけて、手をねぢ、身をひねりて、飛、ひらき、人をきる事、實の道にあらず。人をきるに、ねぢてきられず、ひねりてきられず、飛てきられず、ひらいてきられず。かつて役に立ざる事也。我兵法におゐてハ、身なりも心も直にして、敵をひずませ、ゆがませて、敵の心のねぢひねる所を勝事、肝心也。【結語なし】

 【渡辺家本】

一 他流に太刀数多き事。太刀数数多にして、人に傳る事、道をうり物にしたてゝ、太刀数おふくしりたると、初心のものに深くおもハせんためなるべし。是、兵法に嫌ふこゝろ也。其故ハ、人をきる事、色々有と思ふ所、まよふ心也。世の中におひて、人をきる事、替る道なし。しるものも、しらざるものも、女童子迄も、打、たゝき、切といふ道ハ、多くなき所也。若、かハりてハ、つくぞ、なぐぞ、と云より外ハなし。先、きる所の道なれば、かずの多かるべき子細にあらず。されども、塲により、ことに随ひ、上脇などのつまりたる所などにてハ、太刀のつかへざるやうに持道なれバ、五方とて、五つの数は有べきもの也。夫より外に、とりつけて、手をねぢ、身をひねりて、飛、ひらき、人をきる事、實の道にあらず。人をきるに、ねぢてきられず、ひねりてきられず、飛てきられず、ひらいてきられず。かつて役に立ざる事也。我兵法に於てハ、身なりも心も直にして、敵をひずませ、ゆがませて、敵の心のねぢひねる所を勝事、肝心也。【結語なし】

 【近藤家丙本】

一 他流に太刀数おゝき事。太刀数あまたにして、人に傳ふ【脱字】事、道をうり物にしたてゝ、太刀かずおほくしりたると、初心のものに深く思ハせんためなるべし。是、兵法に嫌ふこゝろ也。其故ハ、人を切る事、色々有と思ふ処、迷ふ心也。世の中におゐて、人をきる事、替る道なし。知るものも、しらざるものも、女童子迄も、打たゝき切と云道ハ、多くなき所也。もし、かハりてハ、つくぞ、なぐぞ、と云より外ハなし。先、きる所の道なれば、かずの多かるべき子細にあらず。されども、塲により、ことに随ひ、上脇などのつまりたる所などにては、太刀のつかへざるやうに持道なれバ、五方とて、五ツの数ハあるべき物也。夫より外に、とりつけて、手をねぢ、身をひねりて、飛、ひらき、人をきる事、實の道にあらず。人を切るに、ねぢてきられず、ひねりてきられず、飛てきられず、ひらいてきられず。かつて役に立ざる事也。我兵法に於てハ、身なりも心も直にして、敵をひずませ、ゆがませて、敵の心のねぢれぬる所を勝事、肝心也。【結語なし】

 【中山文庫本】

一 他流に太刀数多き事。太刀数数多に【脱字】て、人に傳事、道をうり物にしたてゝ、太刀数多くしりたると、初心のものに深くおもわせんためなるべし。是、兵法に嫌心也。其故ハ、人をきる事、色々有と思ところ、まよふ心也。世の中におゐて、人をきる事、替る道なし。しるものも、しらざるものも、女童子迄も、打、たゝき、切、と云道ハ、多くなき所也。若、かはりてハ、つくぞ、なぐぞ、と云より外ハなし。先、きる所の道なれバ、かずの多かるべき子細にあらず。されども、場により、ことに随ひ、上脇などのつまりたる所などにてハ、太刀のつかへざる様に持道なれバ、五方とて、五ツの数ハあるべきもの也。夫より外に、とりつけて、手をねぢ、身をひねりて、飛、ひらき、人をきる事、実の道にあらず。人をきるに、ねぢてきられず、ひねりてきられず、飛てきられず、ひらいてきられず。かつて役に立ざる事也。我兵法に於てハ、身なりも心も直にして、敵をひずませ、ゆがませて、敵の心のねぢひねる所を勝事、肝要也。【結語なし】

 【赤見家乙本】

一 他流に太刀数多き事。太刀かず【脱字】多にして、人に傳ふる事、道をうり物に仕立る也。太刀数多キ【脱文***************】、是、兵法に嫌ふこゝろなり。其故ハ、人をきる事、色々有と思ふ所、まよふ心也。世の中におゐて、人をきる事替る道なし。知るものも、しらざるものも、女童子迄も、打たゝき切と云ふ道ハ、多くなき所也。【脱文****************】切る所の道なれバ、かずの多かるべき子細にあらず。されども、場により、ことに随ひ、上脇などのつまりたる所などにてハ、太刀のつかへざるやうに持道なれバ、五方とて五ツの数ハ、あるべきもの也。夫より外にとりつけて、手をねぢ、身をひねり【脱字】、ひらき、人を切る事、實の道にあらず。人をきるに、ねぢて切られず、ひねりてきられず、とびてきられず、ひづミてきられず、数役に立ざる事也。【脱字】兵法におゐてハ、身なりも心も直にして、敵をひずませ、ゆがませて、敵の心のねぢひぬる所を勝事、肝要也。【結語なし】

 【神田家本】

一 他流に太刀数多き事。【脱字】かず数多にして、【脱字】傳る事、道をうり物にしたてゝ、太刀数おふくしりたると、初心のものに深くおもハせんためなるべし。是、兵法に嫌ふ心也。其故ハ、人をきる事色々有と思ふ所、まよふ心也。世の中におひて、人をきる事替る道なし。しるものも、しらざるものも、女童子迄も、打、たゝき、切といふ道ハ、多くなき所也。若、かハりてハ、つくぞ、なぐぞ、と云より外ハなし。先、きる所の道なれば、かずの多かるべき子細にあらず。されども、場により、ことに随ひ、上脇などのつまりたる所などにては、太刀のつかへざるやうに持道なれバ、五(ツ)方とて五つの数は、あるべきもの也。夫より外にとりつけて、手をねぢ、身をひねりて、飛、ひらき、人をきる事、實の道にあらず。人をきるに、ねぢてき【脱字】れず、ひねりてきられず、飛てきられず、ひらいてきられず、かつて役に立ざる事也。我兵法に於てハ、身なりも心も直にして、敵をひずませ、ゆがませて、敵の心のねぢひねる所を勝事、肝心也。【結語なし】

 【伊丹家本】

一 他流に太刀数多き事。太刀数あまたにして、人に傳事、道を賣物にしたてゝ、太刀数多くしりたると、初心のものに深くおもハせんためなるべし。是、兵法に嫌こゝろ也。其故ハ、人を切る事、色々有と思所、迷ふ心也。世の中におゐて、人を切事、替る道なし。しる者も、しらざる者も、女童子迄も、打、たゝき、切る、と云道ハ、多くなき所也。若、かはりてハ、つくぞ、なぐぞ、と云より外はなし。先、切る所の道なれば、数の多かるべき子細にあらず。されども、場により、ことに随ひ、上脇などのつまりたる所などにてハ、太刀のつかへざる様に持道なれバ、五方とて、五ツの数ハ有べきもの也。夫より外に、とりつけて、手をねぢ、身をひねりて、飛、ひらき、人をきる事、実の道にあらず。人を切るに、ねぢてきられず、ひねりて切られず、飛てきられず、ひらゐて切られず、かつて役に立ざる事也。我兵法におゐてハ、身なりも心も直にして、敵をひずませ、ゆがませて、敵の心のねぢひねるところを勝事、肝心也。【結語なし】  

 【猿子家本】

一 他流に太刀数多き事。太刀かず数多にして、【脱字】傳ふる事、道をうり物にしたてゝ、太刀数おふくしりたると、初心のものに深くおもハせんためなるべし。是、兵法に嫌ふ心也。其故ハ、人をきる事、色々有と思ふ所、まよふ心也。世の中におひて、人をきる事、替る道なし。しるものも、しらざるものも、女童子迄も、打、たゝき、切といふ道ハ、多くなき所也。若、かハりてハ、つくぞ、なぐぞ、と云より外ハなし。先、きる所の道なれバ、かずの多かるべき子細にあらず。されども、場により、ことに随ひ、上脇などのつまりたる所などにては、太刀のつかへざるやうに持道なれバ、五方とて、五ツの数ハあるべきもの也。夫より外に、とりつけて、手をねぢ、身をひねりて、飛、ひらき、人をきる事、實の道にあらず。人をきるに、ねぢてき【脱字】れず、ひねりてきられず、飛てきられず、ひらいてきられず。かつて役に立ざる事也。我兵法に於てハ、身なりも心も直にして、敵をひずませ、ゆがませて、敵の心のねぢひねる所を勝事、肝心也。【結語なし】

 【楠家本】

一 他流に太刀数おゝき事。太刀の数あまたにして、人に傳る事、道をうり物にしたてゝ、太刀かずおゝくしりたりと、初心のものニふかくおもはせんためなるべし。【脱字】兵法にきらふ心也。其故ハ、人をきる事、色々あるとおもふ處、まよう心なり。世の中におゐて、人をきる事、かはる道なし。しるものも、しらざるものも、女童【脱字】も、打、たゝき、きる、といふ道ハ、おゝくなき所也。若、かはりては、つくぞ、なぐぞといふ【脱字】外ハなし。先、きる所の道なれバ、かずのおゝかるべき子細にあらず。されども、場により、事にしたがひ、上わきなどのつまりたる所などにてハ、太刀のつかへざるやうに持道なれバ、五方とて、五ツのかずハあるべきものなり。其より外に、とりつけて、手をねじ、身をひねりて、飛、ひらき、人をきる事、実の道にあらず。人をきるに、ねじてきられず、ひねりてきられず、飛てきられず、ひらいてき【脱字】れず。かつて役にたゝざる事也。わが兵法におゐてハ、身なりも心も直にして、敵をひずませず、ゆるませて、敵の心のねぢひねる所を勝事、肝心なり。能々吟味あるべし。

 【細川家本】

一 他流に太刀かず多き事。太刀のかず餘多にして、人に傳ゆる事、道をうり物にしたてゝ、太刀数おほくしりたると、初心のものに深ク思ハせん為成べし。【脱字】兵法にきらふ心也。其故は、人をきる事、色々あるとおもふ所、まよふ心也。世の中におゐて、人をきる事、替る道なし。しるものも、しらざるものも、女童子【脱字】も、打、たゝき、きる、と云道は、多くなき所也。若、かハりては、つくぞ、なぐぞと云【脱字】外ハなし。先、きる所の道なれば、数の多かるべき子細にあらず。され共、場により、事に随ひ、上わきなどのつまりたる所などにてハ、太刀のつかへざるやうに持道なれば、五方とて、五ツの数は有べきもの也。それより外に、とりつけて、手をねじ、身をひねりて、飛、ひらき、人をきる事、實の道にあらず。人をきるに、ねじてきられず、ひねりてきられず、飛てき【脱字】れず、ひらいてき【脱字】れず。かつて役に立ざる事也。我兵法におゐては、身なりも心も直にして、敵をひずませ、ゆがませて、敵の心のねぢひねる所を勝事、肝心也。能々吟味あるべし。

 【丸岡家本】

一 他流に太刀数多キ事。太刀の数餘多ニして、人に傳る事、道を賣物にしたてゝ、太刀数多く知たると、初心の者に深く思ハせんためなるべし。【脱字】兵法に嫌ふ心也。其故ハ、人を切こと、色々有と思ふ所、迷ふ心也。世中におゐて、人を切こと、替る道なし。知者も、しらざる者も、女童子【脱字】も、打、たゝき、切といふ道は、多くなき所也。若、替りては、つくぞ、なぐぞといふ【脱字】外はなし。先、きる所の道なれば、数の多かるべき子細にあらず。されども、場により、事に隨ひ、上脇などのつまりたる処などにては、太刀のつかへざるやうに持道なれば、五方とて、五ツの数は有べき者なり。それより外に、取付て、手をねぢ、身をひねりて、飛、開キ、人を切こと、実の道にあらず。人をきるに、ねぢて切【脱字】れず、ひねりてきられず、飛てき【脱字】れず、ひらいて切【脱字】レず。却て益にたゝざる事也。我兵法ニおゐて【脱字】、身なりも心も直にして、敵をひずませ、ゆがまセて、敵の心のねぢひねる心を勝こと、肝要也。能々吟味有べし。

 【富永家本】

一 他流に太刀数多き事。太刀数あまたにして、人に傳ゆる事、道を賣物に仕立て、太刀数多く知りたると、初心の者に深くおもハせん為なるべし。【脱字】兵法にきらふ心なり。其故ハ、人を切る事、いろ/\有と思ふ所、まどふ心也。世の中におひて、人を切る事、替る事なし。知者も、不知者も、女童【脱字】も、打、たゝき、切、と云道ハ、多くなき處なり。若、替りてハ、つくぞ、なぐぞと云【脱字】外ハなし。先、切處の道なれば、数の多かるべき子細にあらず。されども、場により、殊に隨ひ、上脇などのつまりたる處などにてハ、太刀のつかへざるやうに持道なれば、五方とて、五ツの数ハ有べきものなり。夫より外に、取つけて、手をねぢ、身をひねりて、飛、ひらき、人を切事、実の道に非ず。人を切に、ねぢて切【脱字】れず、ひねりて切られず、飛てきられず、ひらきて切【脱字】れず。曽て役に立ざる事なり。我兵法におゐてハ、身なりも心も直にして、敵をひずませ、ゆがませて、敵の心のねぢひねる所を勝事、肝心なり。能々吟味有べし。

 【常武堂本】

一 他流に太刀かず多き事。太刀の数餘多にして、人に傳ゆる事、道をうり物にしたてゝ、太刀数おほくしりたると、初心のものに深ク思はせん為成るべし。【脱字】兵法にきらふ心也。其故ハ、人をきる事、色々あると思ふ所、まよふ心也。世【脱字】中に於て、人をきる事、替る道なし。しるものも、しらざるものも、女童子【脱字】も、打、たゝき、きる、と云道は、多くなき所也。若、かハりてハ、つくぞ、ぬくぞと云【脱字】外ハなし。先、きる所の道なれば、数の多かるべき子細にあらず。されども、場により、事に随ひ、上わきなどのつまりたる所など是ハ、太刀のつかへざる様に持道なれバ、五方とて、五ツの数ハ有べきもの也。それより外に、とりつけて、手をねじ、身をひねりて、飛、ひらき、人をきる事、實の道にあらず。人をきるに、ねじてきられず、ひねりてきられず、飛てき【脱字】れず、ひらいてき【脱字】れず。かつて役に立ざる事也。我兵法に於てハ、身なりも心も直にして、敵をひずませ、ゆがませて、敵の心のねぢひねる所を勝事、肝心也。能々吟味有べし。

 【田村家本】

 他流ニ太刀数多事 太刀ノ員アマタニシテ、人ニ傳ル【脱字】、道ヲ賣物ニ仕立テ、太刀員多知タルト、初心ノ者ニ深ク思セン爲ナルベシ。【脱字】兵法ニ嫌フ心也。其故ハ、人ヲ斬コト、色々有ト思所、迷フ心也。世ノ中ニ於、人ヲ斬コト、替道ナシ。知ル者モ、知ラザル者モ、女童子【脱字】モ、打、扣キ、切、ト云ミチハ、多ナキ処也。若、替テハ、ツクゾ、ナグゾト云【脱字】外ハナシ。先、切処ノ道ナレバ、員ノ多カルベキ子細ニ非ズ。サレ共、場ニヨリ、事ニ隨ヒ、上脇ナドノツマリタル処【脱字】ニテハ、太刀ノツカエザルヨウニ持道ナレバ、五方トテ、五ツノ員【脱字】アルベキモノ也。其ヨリ外ニ、トリツケテ、手ヲネヂ、身ヲヒネリテ、トビ、廻リ、人ヲ切コト、實ノ道ニ非。人ヲ切ニ、ネヂテ切【脱字】レズ、ヒネリテ切【脱字】ズ、飛テ切【脱字】ズ、ヒライテ切【脱字】ズ。勝テ益ニタヽザル事也。吾兵法ニ於、身ナリモ心モ直ニシテ、敵ヲヒズマセ、ユガマセテ、敵ノ心ヲネヂヒネル心ヲ勝事、肝要也。能々可有吟味。

 【狩野文庫本】

一 他流に太刀数多事。太刀数余多にして、人に傳ゆる事、道を賣物に仕立、太刀数多知たると、初心の者ニ深おもハせん為成べし。【脱字】兵法に嫌ふ心也。其故は、人を切事、色々有と思ふ所、まよふ心也。世中におゐても、人を切事、替道なし。智者も、【脱字】、女童【脱字】も、打、たゝき、切、と云道ハ、多なき所也。若、かわりてハ、突か、なぐかといふ【脱字】外はなし。先、切所の道なれば、数の多かるべき子細にあらず。され共、場により、事に隨ひ、上脇抔【脱字】詰たる所【脱字】ニ而ハ、太刀のつかへざるやうに持【脱字】なれバ、五方とて、五ツの数ハ可有者也。夫々外より、取付て、手をねぢ、身をひねりて、飛、ひらき、人を切事、実の道に非ず。人を切るに、ねぢて切【脱字】れず、ひねりて切られず、飛て不切、ひらきて不切。勝て役に立ざる事也。我兵法ニおゐてハ、身成りも心も直ニして、敵をひづませ、ゆがませて、敵の心のねじひねる所を勝事、肝要也。能々可有吟味。

 【多田家本】

一 他流に太刀数多き事。太刀数餘多にして、人に傳ふる事、道を賣物に仕立て、太刀数多くしりたると、初心の者に深く思せん為成べし。【脱字】兵法に嫌こゝろ也。其故ハ、人を切る事、色々有と思ふ所、迷ふ心なり。世の中にをひて、人を切る事、替道なし。知者も、知らざる者も、女童子【脱字】も、打、たゝき、切、と云道ハ、替事なき道也。若、替りてハ、突ぞ、なぐぞ、と云【脱字】外ハなし。先、切る所の道なれバ、数【脱字】多かるべき子細にあらず。されども、場により、事に随ひ、上脇抔のつまりたる所抔にては、太刀のつかへざるやうに持【脱字】なれバ、五方とて、五つの数ハ有るべき【脱字】也。夫より外に、取り附て、手をねぢ、身をひねりて、【脱字】、ひらき、人を切事、実の道にあらず。人を切るに、ねぢてき【脱字】れず、ひねりて切【脱字】ず、飛て切【脱字】ず、ひらきてき【脱字】れず。勝て役に立ざる事也。我が兵法にをひては、身なりも心も直にして、敵をひずませ、ゆるませて、敵の心をねぢひねる所を勝事、肝要也。よく/\吟味有べし。

 【山岡鉄舟本】

一 他流ニ太刀数多キ事。太刀ノ數々多【脱字】シテ、人ニ傳ル事、道ヲ賣物ニ仕懸テ、太刀数多ク知リタルト、初心ノ者ニ深ク思セン為成ベシ。【脱字】兵法ニ嫌フ心也。其故ハ、人ヲ【脱字】、色々有ニ思処、マヨフ心也。世ノ中ニ於テ、人ヲ切ル事、替ル事ナシ。知ル者モ、知ラザル者モ、女童子【脱字】モ、打、タ丶キ、切ル、ト云道ハ、多無キ処也。又、変リテハ、ツクゾ、ナグゾト云ヨリ外【脱字】ナシ。先、切処之道ナレバ、数之多カルベキ子細ニ非ズ。去レ共、場ニヨリ、事ニ随ヒ、上脇抔ノツマリタル処【脱字】ニテハ、太刀ノ支ザル様ニ持道ナレバ、五方トテ、五ツノ数ハ有ベキ者ナリ。夫ヨリ外ニ、トリツケテ、手ヲネジ、身ヲヒネリテ、飛、開キ、人ヲ切ル事、實ノ道ニ非ズ。人ヲ切ルニ、ネヂテ切ラレズ、ヒネリテ切【脱字】レズ、飛テ切【脱字】レズ、開テ切【脱字】レズ。勝テ役ニ立ザル事也。我兵法ニ於テ、身ヨリモ心モ直ニシテ、敵ヲヒヅマセ、ユガマセテ、敵ノ心【脱字】ネヂヒネル心ヲ勝事、肝要也。能々吟味有ベシ。

 【稼堂文庫本】

一 他流に太刀数多事。太刀の数多くして、人に傳ること、道を買物に仕立て、太刀数多く知たると、初心の者に深く思はせん為成べし。【脱字】兵法に嫌ふ心也。其故は、人を切る事、色々様々有と思ふ所、迷ふ心也。世の中に於て、人を切ること、替りたる切様無し。知者も、不知者も、女童【脱字】も、打、たゝき、切る、と云道は、多く無き所也。若、替りては、突と、薙ぞ、と云【脱字】外は無し。先、切所の道なれば、数の多かるべき子細に非ず。去共、場により、事に従ひ、上脇抔のつまりたる所などにては、太刀のつかへざる様に持道なれば、五方とて、五つの数は有べき者也。夫より外に、取付て、手をひねり、身をひねり【脱字】、飛、開き、人を切る事、実の道に非ず。人を切るに、ねぢて切【脱字】れず、ひねりて切【脱字】ず、飛て切【脱字】れず、開きて切【脱字】れず。曽て役に難立事也。我兵法に於ては、身成りも心も直にして、敵をひづませ、ゆがませて、敵の心のねぢ【脱字】ねる所を勝こと、肝心也。【結語なし】

 【大瀧家本】

一 他流に太刀数多事。太刀【脱字】数多にして、【脱字】傳ゆる事、道を賣物に仕懸て、太刀数多く知りたると、初心の者に【脱字】思はせん為なるべし。【脱字】兵法に嫌ふ心なり。其故ハ、人を切事、【脱字******************】、替事道なし。知る者も、知らぬものも、女童子【脱字】も、打、たゝき、切と兵法の道には、多くなき處也。若、替らハ、突くと、なぐるといふ【脱字】外ハなし。先、切所の道なれバ、数の多かるべき子細に非ず。されども、塲により、事に随ひ、上下脇抔のつまりたる處などにてハ、太刀のつかへざる様に持【脱字】なれバ、五方とて、五ツの数ハ有べきもの也。夫より外に、取付て、手をねじ、身をひねりて、飛、ひらき、人を切事、実の道にあらず。人を切に、ねぢて切【脱字】れず、ひねりてき【脱字】れず、飛てき【脱字】れず、ひらきてき【脱字】れず。かつて役に立ざる事也。我兵法におゐてハ、身なりも心も直にして、敵をひづませ、ゆるがせて、敵の心【脱字】ねぢひねる處を勝事、肝要也。能々吟味有べし。    PageTop    Back   Next 

  6 他流に太刀の搆を用る事

 【吉田家本】

一 他【◇】に太刀の搆を用事。太刀の搆を専にする事、ひが事也。世の中に搆のあらんハ、敵のなき時の事なるべし。其子細ハ、むかしよりの例、今の世のさたなどゝして、法例を立る事ハ、勝負の道にハ有べからず。其相手の悪敷やうにたくむ事也。物毎に、搆と云事ハ、ゆるがぬ所を用こゝろ也。或ハ城を搆、或ハ陳を搆などは、人にしかけられても、剛くうごかぬ心、是、常の儀也。【★異本に増幅あり*********************************】兵法勝負の道ハ、人の搆をうごかせ、敵の心になき事をしかけ、或ハ敵をうろめかせ、或ハむかつかせ、又ハおびやかし、敵のまぎるゝ所の拍子の利をうけて勝事なれば、搆と云後手の心を嫌也。然故に、我道に有搆無搆と謂て、搆ハ有て搆ハなき、と云ところなり。大分の兵法にも、敵の人数の多少を覚へ、其戦場の所をうけ、我人数の位を知り、其徳を得て、人数をたて、戦をはじむる事、これ合戦の専也。人に先をしかけられたる事と、我が人をしかくる時ハ、一倍も替る心也。太刀を能かまへ、敵の太刀をよくうけ、よくはると覚るハ、鑓長刀をもつて、さくにふりたると同じ。敵を打ときハ、又、さく木をぬきて、鑓長刀につかふ程の心なり。能々吟味有べき也。

 【渡辺家本】

一 他【◇】に太刀の搆を用る事。太刀の搆を専にする事、ひがごと也。世の中に搆のあらんハ、敵のなき時の事なるべし。其子細ハ、むかしよりの例、今の世のさたなどゝして、法例を立る事は、勝負の道には有べからず。其相手の悪敷様にたくむ事也。物毎に、搆といふ事ハ、ゆるがぬ所を用る心也。或は城を搆、或ハ陳を搆などハ、人にしかけられても、強くうごかぬ心、是常の儀也。【★異本に増幅あり*********************************】兵法勝負の道は、人の搆をうごかせ、敵の心になき事をしかけ、或は敵をうろめかせ、或はむかつかせ、又ハおびやかし、敵のまぎるゝ所の拍子の利をうけて勝事なれば、搆と云後手の心を嫌ふ也。然る故に、我道に有搆無搆と謂て、搆は有て搆はなき、と云所也。大分の兵法にも、敵の人数の多少を覚へ、【脱字】戦場の所をうけ、我人数の位を知り、其徳を得て、人数をたて、戦をはじむる事、是合戦の専也。人に先をしかけられたる事と、我人をしかくる時は、一倍も替る心也。太刀を能かまへ、敵の太刀をよくうけ、よくはると覚るハ、鎗長刀をもつて、さくにふりたると同じ。敵を打ときハ、又、さく木をぬきて、鎗長刀につかふ程の心なり。能々吟味有べき也。

 【近藤家丙本】

一 他【◇】に太刀の搆を用る事。太刀の搆を専にする事、ひがごと也。世の中に搆のあらんハ、敵のなき時の事なるべし。其子細は、むかしよりの例、今の世のさたなどゝして、法例を立る事は、勝負の道には有べからず。其相手の悪敷様にたくむ事也。物毎に、搆と云事ハ、ゆるがぬ所を用る心也。或ハ城を搆、或ハ陳を搆などハ、人にしかけられても、強くうごかぬ心、是常の儀也。【★異本に増幅あり*********************************】兵法勝負の道ハ、人の搆をうごかせ、敵の心【脱字】なき事をしかけ、或は敵をうろめかせ、或ハむかつかせ、又はおびやかし、敵のまぎるゝ所の拍子の利を請て勝事なれバ、搆と云後手の心を嫌ふ也。然故に、我道に有搆無搆と謂て、搆ハ有て搆ハなき、と云所なり。大分の兵法にも、敵の人数の多少を覚え、【脱字】戦場の所をうけ、我人数の位を知り、其徳を得て、人数を立、戦をはじむる事、是合戦の専也。人に先をしかけられたる事と、我人をしかくる時ハ、一倍も替る心也。太刀をよく搆、敵の太刀をよくうけ、よくはると覚るは、鎗長刀をもつて、さくにふりたると同じ。敵を打ときハ、又、さく木をぬきて、鎗長刀につかふ程の心なり。能々吟味有べき也。

 【中山文庫本】

一 他【◇】に太刀の搆を用事。太刀の搆を専にする事、ひが事也。世の中に搆のあらんハ、敵のなき時の事なるべし。其子細ハ、むかしよりの例、今の世のさたなどゝして、法例を立る事ハ、勝負の道にハ有べからず。其相手のあしきやうにたくむ事也。物毎に、搆と云事ハ、ゆるがぬ所を用こゝろ也。或ハ城を搆、或ハ陳を搆などハ、人にしかけられても、剛くうごかぬ心、是常の儀也。【★異本に増幅あり*********************************】兵法勝負の道ハ、人の搆をうごかせ、敵の心になき事をしかけ、或ハ敵をうろめかせ、或ハむかつかせ、又ハおびやかし、敵のまぎるゝ所の拍子の利をうけて勝事なれバ、搆と云後手の心を嫌也。然故に、我道に有搆無搆と謂て、搆ハ有て搆ハなき、と云心也。大分の兵法にも、敵の人数の多少を覚へ、其戦場の所をうけ、我人数の位を知り、其徳を得て、人数をたて、戦をはじむる事、これ合戦の専也。人に先をしかけられたる事と、我人数をしかくる時ハ、一倍も替る心也。太刀を能かまへ、敵の太刀をよくうけ、よくはると覚ゆるハ、鑓長刀をもつて、さくにふりたると同じ。敵を打ときは、又、さく木をぬきて、鑓長刀につかふ程の心なり。能【脱字】吟味有べき也。

 【赤見家乙本】

一 他流に太刀の搆を用ゆる事。太刀の搆を専にする事、ひがごと也。世の中に搆のわからんハ、敵のなき時の事なるべし。其子細ハ、むかしよりの例、今の世のさたなどゝして、法例を立る事ハ、勝負の道にハあるべからず。其相手の悪敷やうにたくむ事也。物毎に、搆といふ事ハ、ゆるがぬ所を用ゆる心也。或は堀を搆、或ハ【脱字】搆などハ、人にしかけられても、強くうごかぬ心、是常の儀也。【★異本に増幅あり********************************】兵法勝負の道ハ、人の搆をうごかせ、敵の心になき事をしかけ、或ハ敵をうろめかせ、或はむかつかせ、またハをびやかし、敵のまぎるゝ所の拍子の利をうけて、勝事なれバ、搆と云後手の心を嫌ふ也。然るに依て、我道におゐて有搆無搆と【脱字】て、搆ハ有て搆ハ無、といふ所なり。大分の兵法にも、敵の人数の多少を覚へ、其戦場の所をうけ、我が人数の位を知り、其徳を得て、人数を立、戦をはじむる事、是合戦の専也。人に先をしかけられたる事と、我が人数をしかくる時とハ、一倍も替る心也。太刀を能く搆へ、敵の太刀を能くうけ、よくはると覚るハ、鑓長刀をもつて、さくにふりたるとおなじ。敵を打ときハ、また、さく木をぬきて、鑓【脱字】刀につかふ程の心なり。能々吟味有べき也。

 【神田家本】

一 他【◇】に太刀の搆を用る事。太刀の搆を専にする事、ひがごと也。世の中に搆のあらんハ、敵のなき時の事なるべし。其子細ハ、むかしよりの例、今の世のさたなどゝして、法例を立る事ハ、勝負の道にハ有べからず。其相手の悪敷様にたくむ事也。物毎に、搆といふ事ハ、ゆるがぬ所を用る心也。或ハ堀を搆、或は陳を搆などハ、人にしかけられても、強くうごかぬ心、是常の儀也。【★異本に増幅あり*********************************】兵法勝負の道ハ、人の搆をうごかせ、敵の心になき事をしかけ、或ハ敵をうろめかせ、或はむかつかせ、又ハおびやかし、敵のまぎるゝ所の拍子の利をうけて、勝事なれば、搆と云後手の心を嫌ふ也。然る故に、我道に有搆無搆と謂て、搆は有て搆はなき、と云所也。大分の兵法にも、敵の人数の多少を覚へ、【脱字】戦場の所をうけ、我人数の位を知り、其徳を得て、人数をたて、戦をはじむる事、是合戦の専也。人に先をしかけられたる事と、我人をしかくる時は、一倍も替る心也。太刀を能かまへ、敵の太刀をよくうけ、よくはると覚るハ、鎗長刀をもつて、さくにふりたると同じ。敵を打ときは、又、さく木をぬきて、鎗長刀につかふ程の心なり。能々吟味有べき也。

 【伊丹家本】

一 他【◇】に太刀の搆を用事。太刀の搆を専にする事、ひがごとなり。世の中に搆のあらんハ、敵のなき時の事なるべし。其子細は、むかしよりの例、今の世の沙汰などゝして、法例を立る事ハ、勝負の道にハ有べからず。其相手のあしきやうにたくむ事也。物毎に、搆と云事ハ、ゆるがぬ所を用こゝろ也。或、城を搆、或ハ陳を搆などハ、人にしかけられても、剛く動かぬ心、是常の儀也。【★異本に増幅あり*********************************】兵法勝負の道ハ、人の搆を動かせ、敵のこゝろになき事をしかけ、或ハ敵をうろめかせ、或ハむかつかせ、又はおびやかし、敵のまぎるゝ所の拍子の利をうけて勝事なれば、搆と云後手の心を嫌也。然故に、我道に有搆無搆と謂て、搆は有て搆はなき、と云ところ也。大分の兵法にも、敵の人数の多少を覚へ、其戦場の所をうけ、我人数の位を知り、其徳を得て、人数をたて、戦をはじむる事、是合戦の専也。人に先をしかけられたる事と、我人数をしかくる時は、一倍も替る心也。太刀を能かまへ、敵の太刀を能うけ、能はると覺るハ、鎗長刀をもつて、さくにふりたると同じ。敵を打ときは、又、さく木をぬきて、鎗長刀につかふほどのこゝろなり。能々吟味有べきなり。  

 【猿子家本】

一 他【◇】に太刀の搆を用る事。太刀の搆を専にする事、ひがごと也。世の中に搆のあらんハ、敵のなき時の事なるべし。其子細ハ、むかしよりの例、今の世のさたなどゝして、法例を立つる事ハ、勝負の道には有べからず。其相手の悪敷様にたくむ事也。物毎に、搆といふ事は、ゆるがぬ所を用る心也。或ハ城を搆、或は陳を搆などハ、人にしかけられても、強くうごかぬ心、是常の儀也。【★異本に増幅あり*********************************】兵法勝負の道は、人の搆をうごかせ、敵の心になき事をしかけ、或ハ敵をうろめかせ、或はむかつかせ、又はおびやかし、敵のまぎるゝ所の拍子の利をうけて勝事なれば、搆と云後手の心を嫌ふ也。然故に、我道に有搆無搆と謂て、搆は有て搆はなき、と云所なり。大分の兵法にも、敵の人数の多少を覚へ、【脱字】戦場の所をうけ、我人数の位を知、其徳を得て、人数をたて、戦をはじむる事、是合戦の専也。人に先をしかけられたる事と、我人をしかくる時は、一倍も替る心也。太刀を能かまへ、敵の太刀をよくうけ、よくはると覚るハ、鎗長刀をもつて、さくにふりたると同じ。敵を打ときは、又、さく木をぬきて、鎗長刀につかふ程の心也。能々吟味有べき也。

 【楠家本】

一 他【◇】に太刀の搆を用る事。太刀のかまへを専にする所、ひがごと也。世の中ニかまへのあらん事ハ、敵のなき時の事なるべし。其子細ハ、昔よりの例、今の世の法などゝして、法例をたつる事ハ、勝負の道にハ有べからず。其あいてのあしきやうにたくむ事なり。物毎に、搆といふ事ハ、ゆるがぬ所を用る心なり。或ハ城をかまゆる、或ハ陳をかまゆるなどハ、人にしかけられても、つよくうごかぬ心、是、常の儀也。兵法勝負の道におゐてハ、何事も先手/\と心がくる事也。かまゆるといふ心ハ、先手を待心也。能々工夫有べし。兵法勝負の道【脱字】、人の搆をうごかせ、敵の心になき事をしかけ、或ハ敵をうろめかせ、或ハむかつかせ、又ハおびやかし、敵のまぎるゝ處の拍子の理をうけて勝事なれバ、搆といふ後手の心をきらふ也。然故に、わが道に有搆無搆といひて、かまへハありて、かまへはなき、といふ所也。大分の兵法にも、敵の人数の多少を覚へ、其戦場の所をうけ、わが人数のくらゐをしり、其徳を得て、人数をたて、たゝかひをはじむる事、これ合戦の専也。人に先をしかけられたる事と、わが人にしかくる時は、一倍もかはる心也。太刀をよくかまへ、敵の太刀をよくうけ、よくはるとおぼゆるハ、鑓長刀を持て、さくにふりたると同じ。敵を打時ハ、又、さく木をぬきて、鑓長太刀につかふほどの心なり。よく/\吟味あるべき事なり。

 【細川家本】

一 他【◇】に太刀の搆を用る事。太刀のかまへを専にする所、ひがごとなり。世の中にかまへのあらん事ハ、敵のなき時の事なるべし。其子細は、昔よりの例、今の世の法などゝして、法例をたつる事ハ、勝負の道には有べからず。其あいてのあしきやうにたくむ事なり。物毎に、搆と云事は、ゆるがぬ所を用る心なり。或ハ城をかまゆる、或ハ陳をかまゆるなどハ、人にしかけられても、つよくうごかぬ心、是、常の儀也。兵法勝負の道におゐては、何事も先手/\と心懸る事也。かまゆると云心は、先手を待心也。能々工夫有べし。兵法勝負の道【脱字】、人の搆をうごかせ、敵の心になき事をしかけ、或は敵をうろめかせ、或ハむかつかせ、又はおびやかし、敵のまぎるゝ所の拍子の理を受て勝事なれば、搆と云後手の心を嫌也。然故に、我道に有搆無搆といひて、かまへはありて、かまへはなき、と云所也。大分の兵法にも、敵の人数の多少を覚へ、其戦場の所を受、我人数のくらいをしり、其徳を得て、人数をたて、たゝかいをはじむる事、それ合戦の専也。人に先をしかけられたる事と、我人にしかくる時ハ、一倍もかはる心也。太刀を能かまへ、敵の太刀を能うけ、よくハるとおぼゆるは、鑓長太刀を持て、さくにふりたると同じ。敵を打時ハ、又、さく木をぬきて、鑓長太刀につかふほどの心也。能々可有吟味事也。

 【丸岡家本】

一 他流に太刀の搆を用る事。太刀のかまへを専にする所、僻事なり。世の中に搆の有ん事は、敵のなき時の事なるべし。其子細は、昔よりの例、今の世の法などゝして、法例を立る事は、勝負の道には有べからず。其相手のあしき樣にたくむ事也。物ごとに、搆といふ事は、ゆるがぬ所を用る心也。或は城を搆る、或は陣を搆るなどハ、人にしかけられても、強ク動かぬ心なり、是、常の義也。兵法勝負の道におゐては、何事も先手/\と心がくる事也。かまゆるといふ心は、先手をまつ心也。能々工夫あるべし。兵法勝負の道【脱字】、人の搆を動かせ、【脱字**********】敵をうろめかせ、或はむかつかせ、又はおびやかし、敵のまぎるゝ所の拍子の利を受て勝ことなれば、搆といふ後手の心もきらふ也。然故に、吾道に有搆無搆と云て、搆は有て、かまへはなき、といふ處なり。大分の兵法にも、敵の人数の多少を覚へ、其戦場の所をうけ、我人数の位をしり、其とくを得て、人数をたて、戦を初むること、是合戦の詮也。人に先をしかけられたる事と、我人にしかくる時は、一倍も替る心なり。太刀をよくかまへ、敵の太刀を能うけ、よく張とおぼゆるは、鎗長太刀を持て、柵にふりたるとおなじ。敵を打時は、又、柵木を抜て、鎗長太刀につかふほどの心なり。能々吟味有べき事なり。

 【富永家本】

一 他流太刀の搆を用る事。太刀の搆を専らにする事、ひが事なり。世の中に搆のあらん事ハ、敵のなき時【脱字】事成べし。其子細ハ、昔よりの例、今の世の法などゝして、法例を立る事ハ、勝負の道にハ不可有。其相手の悪しき様にたくむ事なり。物ごとに、搆といふ事ハ、ゆるがぬ所を用る心なり。或ハ城ハかまゆる、或ハ陳をかまゆる【脱字】とハ、人に仕懸られても、強くうごかぬ心、是、常の儀なり。兵法勝負の道におゐてハ、何事も先手【脱字】に心懸る事也。かまゆるといへバ、先手を待心なり。よく/\工夫有べし。兵法の勝負の道ハ、人の搆を動かせ、敵の心の無事を仕懸、或ハ敵をうろめかせ、或ハむかつかせ、又ハおびやかし、敵のまぎるゝ處の拍子の理を受て勝事なれバ、搆と云にて後手の心をきろふなり。然るゆへに、我道に無搆無搆と云て、かまえハ有て、かまゑは無し、といふ處なり。大分の兵法にも、敵の人数の多少を覚、其戦場の所を請、我人数の位を知り、其徳を得て、人数を立、戦を初る事、それ合戦の専なり。人に先を仕かけられたる事と、我人に仕懸る時ハ、一倍も替る心也。太刀を能搆、敵の太刀を能請、能はるを覚るハ、鑓長刀を持て、さくにふりたると同じ。敵を打時ハ、又、さく木をぬきて、鑓長刀に遣ふ程の心也。よく/\吟味有べき事也。

 【常武堂本】

一 他【◇】に太刀の搆を用る事。太刀のかまへを専にする所、ひがごとなり。世【脱字】中にかまへのあらん事ハ、敵のなき時の事なるべし。其子細ハ、昔よりの例、今の世の法などゝして、法例をたつる事ハ、勝負の道にハ有べからず。其あひてのあしき様にたくむ事なり。物毎に、搆と云事ハ、ゆるがぬ所を用る心なり。或ハ城をかまゆる、或ハ陣をかまゆるなどハ、人にしかけられても、つよくうごかぬ心、是、常の儀也。兵法勝負の道に於てハ、何事も先手/\と心懸る事也。かまゆると云心ハ、先手を待心也。能々工夫有べし。兵法勝負の道【脱字】、人の搆をうごかせ、敵の心になき事をしかけ、或は敵をうろめかせ、或ハむかつかせ、又ハおびやかし、敵のまぎるゝ所の拍子の理を受て勝事なれバ、搆と云後手の心を嫌也。然る故に、我道に有搆無搆といひて、かまへハありて、かまへはなき、と云所也。大分の兵法にも、敵の人数の多少をおぼえ、其戦場の所を受、我人数のくらゐをしり、其徳を得て、人数をたて、戦をはじむる事、それ合戦の専也。人に先をしかけられたる事と、我人にしかくる時ハ、一倍もかはる心也。太刀を能かまへ、敵の太刀を能うけ、よくはるとおぼゆるハ、鑓長太刀を持て、さくにふりたると同じ。敵を打時ハ、又、さく木をぬきて、鑓長太刀につかふほどの心也。能々可有吟味事也。

 【田村家本】

 他流ニ太刀ノ搆ヲ用ル事 太刀ノ搆ヲ専ニスル所、ヒガゴト也。世ノ中ニ搆ノ有ン事ハ、敵ノ無時ノ事ナルベシ。其子細ハ、昔ヨリノ例、今ノ世ノ法抔トシテ、法例ヲ立コトハ、勝負ノ道ニハ有ベカラズ。其相手ノ悪キヨウニ巧事也。物毎ニ、搆ト云事ハユルガヌ処ヲ用ル【脱字】也。或ハ城ヲ搆、或、陣ヲ搆抔ドハ、人ニシカケラレテモ、強ウゴカヌ心也。是常ノ儀也。兵法勝負ノ道ニ於ハ、何事ニモ先手々々ト心ガクル事也。搆ルト云心ハ、先手ヲ待心也。能々工夫有ベシ。兵法勝負ノ道、人ノ搆ヲル揺セ、【脱字********】敵ヲウロメカセ、【脱字******】又ハヲビヤカシ、敵ノマギルヽ処ノ拍子ノ理ヲ受テ勝事ナレバ、搆ト言後手ノ心モ嫌也。然故ニ、吾道ニ有搆無搆ト云テ、カマエハ有テ搆ハ無、ト云心也。大分ノ兵法ニモ、敵ノ人数ノ多少ヲ覚、其戦場ノ處ヲウケ、吾人数ノ位ヲ知リ、其徳ヲ得テ、人数ヲ立、戦ヲ初ル事、【脱字】合戦ノ専也。人ニ先ヲシカケラレタル事ト、吾人ニシカクル時ハ、一倍モカワル心也。太刀ヲヨクカマヱ、敵ノ太刀ヲヨク受、ヨク張ト覚ハ、鑓長刀ヲ持テ、サクニフリタルト同。テキヲ打トキハ、【脱字】柵木ヲ抜テ、鎗長刀ニツコウ程ノ心也。能々吟味有ベシ。

 【狩野文庫本】

一 他流に太刀の搆を用る事。太刀の搆を専ニする所、ひが事也。世の中に搆【脱字】あらん事ハ、敵のなき時の事成べし。其子細ハ、昔よりの例、今の世の法などゝして、【脱字】例を立る事は、勝負の道ニハ有べからず。其相手の悪敷樣に工夫也。物毎に、搆と云事ハゆるがぬ処を用心也。或は城を搆、或ハ陳【脱字】搆ゆる抔ハ、人に仕懸られても、【脱字】動ぬ心、是常の儀也。兵法勝負の道においてハ、何事も先手/\と心懸る事なり。搆ゆると云心は、先手を待心也。能々吟味工夫有べし。兵法勝負の道、人の搆をうごかせ、敵の心になき事を仕懸、或ハ敵をうろめかせ、或はむかつかせ、又ハおびやかし、敵のまぎるゝ所の拍子の理を請て勝事なれバ、搆と云後手のこゝろを嫌ふ也。然る故に、我道に有搆無搆と云て、搆は有て、搆ハなき、と云所也。大分の兵法にも、敵の人数の多少を覚、其【脱字】場の所を請、我人数の位を知、其徳を得て、人数を立、戦を初事、是合戦の専也。人に先を仕懸られたる事と、我人に仕懸る時は、一倍も替心也。太刀を能搆、敵の太刀を能請、【脱字】はると覚ゆるは、鑓長刀を以、柵にふりたると同じ。敵を打時は、又、柵の木をぬきて、鑓長刀につかふ程の心也。能々吟味有べきものなり。

 【多田家本】

一 他【◇】に太刀の搆を用事。太刀の搆を専にする事、僻事也。世の中に搆【脱字】有らん事ハ、敵のなき時の事成べし。其子細ハ、昔【脱字】の例、今の世の法抔として、法例を立る事ハ、勝負の道にハ有べからず。【脱字】相手の悪敷やうに工事也。物毎に、かまへと云事ハ、ゆるがぬ所を用る心也。或は【脱字***】陣をかまゆる抔は、人々にしかけられても、【脱字】動ぬ心、是、常の義也。兵法勝負の道にをひても、何事も先手/\と心懸る事也。かまゆると云【脱字】は、先手を持心也。能々工夫有べし。 (★以下改行、別条立て) 一 兵法勝負の道、人の搆をうごかせ、敵の心になき事を仕懸、或ハ敵をうろめかせ、或ハむかつかせ、又ハおびやかし、敵のまぎるゝ處を拍子の理を請て勝事なれバ、搆といふ後手の心にて嫌ふなり。然る故に、我【脱字】に有搆無搆と云て、搆ハ有て【脱字】なき、と云處【脱字】。是大分の兵法にも、敵の人数の多少を覚へ、其戦場の所を請、我人数の位をしり、其徳を得て、人数を立、戦ひを始事、【脱字】合戦の専也。人に先を【脱字】かけられたる事と、我が人にしかくる時は、一倍も替る心也。太刀を能搆、敵の太刀を能受て、能張と覺ゆるハ、鑓長刀を持て、さくにふりたると同じ。敵を打時ハ、又、さく木をぬきて、鑓長刀につかふ程の心也。能々吟味有べし。

 【山岡鉄舟本】

一 他流ニ太刀之搆ヲ用ル事。太刀ノ搆ヲ専ニスル事、ヒガ事也。【脱文*************************】、昔ヨリノ例、今之世ノ【脱字****】、法例ヲ立ル事ハ、勝負ノ道ニハ非ズ。其相手ノ悪キ様ニ工ム事也。物毎ニ、搆ト云事ハ、ユルガヌ処ヲ用ユル【脱字】也。或ハ【脱字**】陣ヲ搆ル抔ドハ、人ニ仕懸ラレテモ、強ク動カヌ心也。是常ノ儀也。兵法ノ勝負【脱字】ニ於テハ、何事モ先手々々ト心懸ル事也。搆ユルト云心ハ、先【脱字】ヲ待ツ心也。能々工夫有ベシ。兵法ノ勝負之道、人ノ搆ヲ動カセ、【脱字**********】敵ヲウロメカセ、或ハムカツカセ、又ハ勡カシ、敵【脱字】紛ルヽ処ヲ拍子ノ理ヲ受テ勝事ナレバ、搆ト云ハ後手ノ心モ嫌フ也。然ル故ニ、我道ニ有搆無搆ト云テ、搆ハ有テ搆ハナキ【脱字】云【脱字】也。大分ノ兵法ニモ、敵ノ人数ノ多キ少キヲ覚ヘ、其戦ノ場ノ処ヲ受ケ、我人数ノ位ヲ知リ、其徳ヲ得テ、人数ヲ立、戦ノ初ル事、夫合戦ノ専也。人ニ先ヲ仕懸ラレタル事ト、我人ニ仕懸ル寸ハ、一倍モ変ル心也。太刀ヲ能搆、敵ノ太刀ヲ能ク受ケ、ヨク張ルト覚ユルハ、鑓長刀ヲ持テ、直ニ振タルト同ジ。敵ヲ打時ハ、又、サク木ヲヌキテ、鑓長刀ニツカウ程ノ心也。能【脱字】吟味有アルベキ【脱字】也。

 【稼堂文庫本】

一 他流に太刀の搆を用る事。太刀の搆を専にする事、ひがごと也。世の中に搆の有んことは、敵の無き時の事成べし。其子細は、昔よりの例法、今の世の法抔として、法例を立ることは、勝負の道には有べからず。其相手の悪敷様にたくむ事也。物毎に、搆と云事は、ゆるがぬ所を用る所也。或ハ城を搆、或は陳を搆ル抔は、人に仕かけられても、強く働かぬ心、是、常の儀也。兵法勝負の道に於ては、何事も先手/\と心懸ること也。搆と云心【脱字】、先手を待心也。能々工夫すべし。兵法勝負の道は、人の搆へをうごかせ、敵の心に無事を仕懸、或は敵をうろめかせ、或ハむかつかせ、又ハおびやかし、敵のまぎるゝ所の拍子の利を受て勝こと成れバ、搆と云ハ後手の心ニて嫌ふ也。然る【脱字】に、我道に有搆無搆と云て、搆ハ有て、【脱字】無き、と云所是也。大分の兵法にも、敵の人数の多少を斗り、其戦場の所を請、我人数の位を知り、其徳を得て、人数を立、戦を初る事、是合戦の専一也。人に先を仕懸られたる時と、我【脱字】仕懸る時は、一倍も替る心也。太刀を能く搆、敵の太刀を能受け、能張ると覚るは、鑓長刀を持て、柵を立たるに同じ。又敵を打時【脱字】さく木を抜き【脱字】、鑓長刀に遣ふほどの心也。能々吟味有べし。

 【大瀧家本】

一 他流に太刀の搆を用る事。太刀の搆を専にする処也僻事也。世の中に搆【脱字】あらん事は、敵のなき時の事なるべし。其子細ハ、昔【脱字】の例、今の世の法抔として、【脱字】例を立る事ハ、勝負の道にハ有べからず。【脱字】相手に悪敷抔と工もの也。物事に、搆と云事ハ、ゆるがぬ処を用る心なり。或ハ城を搆ひ、或ハ陳を搆ゆる抔ハ、人に仕懸られても、【脱字】動かぬ心有、是、常々の儀也。兵法勝負の道におゐてハ、何事も先手/\と心懸る事なり。搆ゆると云心ハ、【脱字】待心なり。能々工夫有べし。兵法勝負の道、人の搆を動かせ、敵の心になき事を仕かけ、或ハ敵をうろめかし、或ハむかつかせ、又ハおびやかし、敵の紛るゝ所の拍子の理を受て勝【脱字】なれバ、搆といふ後手の心を嫌ふ也。然る故に、我道に有搆【脱字】といふて、搆は有て、搆はなき、と云所なり。大分の兵法にも、敵の人数の多少を覚へ、其戦塲の所を受、我人数の位を知り、其徳を得て、人数を立、戦を始る事、是合戦の専也。人に先を仕懸られたる事と、我人に仕懸る時ハ、一倍も替る心なり。太刀を能搆ひ、敵の太刀を能受、【脱字】はると覚ゆれハ、鑓長刀を以て、さくに振たると同じ。敵を打時ハ、又々、さしきを抜て、鑓長刀に遣ふ程の心也。能々吟味有べき者也。    PageTop    Back   Next 

  7 他流に目付と云事

 【吉田家本】

一 他流に目付と云事。目付と云て、其流により、敵の太刀に目を付も有、又ハ手に目を付る流も有。或ハ顔にめを付、或ハ足などに目を付るも有。其ごとくに、とりわけて目をつけんとしてハ、まぎるゝ心有て、兵法の病と云物になる也。其子細ハ、鞠をける人ハ、まりに能目をつけねども、びんずりをけ、おひまりをしながしても、けまわりても、ける事、物になるゝと云所あれバ、たしかに目にミるにおよばず。又、ほうかなどするものゝわざにも、其道に馴てハ、戸びらを鼻にたて、刀をいくこしもたまなどに取事、是皆、たしかに目付はなけれども、不断手にふれぬれバ、をのづからミゆる所也。兵法の道におゐても、其敵/\としなれ、人の心の軽重を覚へ、道をおこなひ得てハ、太刀の遠近遅速も、皆ミゆる儀也。兵法の目付ハ、大かた其人の心に付たる眼也。大分の兵法に至ても、其敵の人数の位に付たる眼也。観見二ツの見様、観の目強くして、敵の心を見、其場の位を見、大に目を付て、其戦の景氣を見、そのをり節の強弱を見て、まさしく勝事を得事専也。大小の兵法におゐて、ちいさく目を付事なし。前にも記すごとく、こまかにちいさく目を付によつて、大きなる事をとりわすれ、めまよふ心出て、たしかなる勝をぬかすもの也。此利能々吟味して、鍛練有べき也。

 【渡辺家本】

一 他流に目付と云事。目付といひて、其流により、敵の太刀に目を付るも有、又ハ手に目を付る流も有、【脱字*************】。其ごとくに、とりわけて目をつけんとしてハ、まぎるゝ心有て、兵法の病といふものになる也。其子細ハ、鞠をける人は、まりに能目をつけねども、びんずりをけ、おひまりをしながしても、けまハりても、蹴る事、物になるゝと云所あれば、たしかに目に見るに及バず。又、ほうかなどするものゝわざにも、其道に馴てハ、戸びらを鼻にたて、刀をいくこしもたまなどに取事、是ミな、たしかに目付ハなけれども、不断手にふれぬれバ、おのづからミゆる所也。兵法の道におひても、その敵/\としなれ、人の心の輕重を覚へ、道をおこなひ得てハ、太刀の遠近遅速も、皆見ゆる儀也。兵法の目附は、大方其人の心に付たる眼也。【脱字******************】。觀見二つの見様、觀の目強くして、敵の心を見、其塲の位を見、大に目を付て、其戦の景氣を見、その折節の強弱を見て、まさしく勝事を得る事、専也。大小の兵法におゐても、ちいさく目を付る事なし。前にも記すごとく、こまかにちいさく目を付るによつて、大きなる事をとりわすれ、目まよふ心出て、たしかなる勝をぬかすもの也。此利能々吟味して、鍛錬有べき也。

 【近藤家丙本】

一 他流に目付と云事。目付といひて、其流により、敵の太刀に目を付るも有、又は手に目を付る流も有。【脱字*************】。其ごとくに、とりわけて目を付んとしては、紛るゝ心有て、兵法の病といふものになる也。其子細ハ、鞠をける人は、まりに能目をつけねども、びんずりをけ、おひまりをしながしても、蹴まハりても、蹴る事、物になるゝと云所あれば、たしかに目に見るに及バず。又、ほうかなどするものゝわざにも、其道に馴ては、戸びらを鼻に立、刀をいくこしもたまなどに取事、是ミな、たしかに目付はなけれども、不断手にふれぬれば、おのづからミゆる所也。兵法の道におゐても、其敵/\とし馴れ、人の心の輕重を覚へ、道をおこなひ得てハ、太刀の遠近遅速も、皆ミゆる儀也。兵法の目付は、大かた其人の心に付たる眼也。【脱字******************】。觀見二ツの見様、觀の目強くして、敵の心を見、其塲の位を見、大に目を付て、其戦の景氣を見、其折節の強弱を見て、正敷勝事を得事、専也。大小の兵法におゐて、ちいさく目を付る事なし。前ニも記すごとく、こまかにちいさく目を付るによつて、大きなる事【脱字】とりわすれ、目迷ふ心出て、たしかなる勝をぬかすもの也。此利よく/\吟味して、鍛錬有べき也。

 【中山文庫本】

一 他流に目付と云事。目付と云て、其流により、敵の太刀に目を付も有、又ハ手に目を付る流も有。或ハ顔に目を付、或ハ足などに目を付るも有。其ごとくに、とりわけて目を付んとしてハ、まぎるゝ心有て、兵法の病と云物になる也。其子細ハ、鞠をける人ハ、まりによく目をつけねども、びんずりをけ、おひまりをしながしても、けまハりても、ける事、物になるゝと云所あれバ、たしかに目にミるにおよばず。又、ほうかなどするものゝわざにも、其道に馴てハ、戸びらを鼻に立、刀をいくこしもたまなどに取事、是皆、たしかに目付ハなけれども、不断手にふれぬれバ、をのづからミゆる所也。兵法の道に於ても、其敵/\としなれ、人の心の軽重を覚へ、道をおこなひ得てハ、太刀の遠近遅速も、皆ミゆる儀也。兵法の目付ハ、大かた其人の心に付たる眼也。大分の兵法に至ても、其敵の人数の位に付たる眼也。觀見二ツの見様、觀の目強くして、敵の心を見、其場の位を見、大に目を付て、其戦の景氣を見、そのをり節の強弱を見て、まさしく勝事を得事、専也。大小の兵法に於て、ちいさく目を付事なし。前にも記ごとく、こまかにちいさく目を付によつて、大きなる事をとりわすれ、めまよふ心出て、たしかなる勝をぬかすもの也。此利能々吟味して、鍛練有べき也。

 【赤見家乙本】

一 他流に目付と云ふ事。目付といひて、其流により、敵の太刀に目を付るも有、またハ手に目を付る流もあり。【脱字*************】。其ごとくに、とりわけて目をつけんとしてハ、まぎるゝ心有て、兵法の病といふものになる也。其子細ハ、鞠をける人ハ、鞠に能く目をつけねども、びんずりをけ、帯まりをしながしても、けまハりても、ける事、ものになるゝと云所あれバ、たしかに目に見るに及バず。また、ほうかなどするものゝわざにも、其道に馴てハ、戸びらを鼻に立て、かたなを幾腰もたまなどに取事、是皆たしかに目付ハなけれども、不断手にふれぬれバ、をのづからミゆる所也。兵法の道におゐても、其敵々としなれ、人の心の輕重【脱字*************】皆見ゆる儀也。兵法の【脱字】、大かた其人の心に付たる眼也。【脱字******************】。觀見二ツの見様、觀の目強くして、敵の心を見、その場の位を見、大に目をつけて、その戦の景氣を見、その折節の強弱を見て、まさしく勝事を得事、専也。【脱字】兵法におゐて、ちいさく目を付る事なし。前にも記すごとく、こまかにちいさく目を付るによつて、大きなる事をとりわすれ、目まよふ心出【脱字】、たしかなる勝をぬかすもの也。此利能々吟味して、鍛練有べき也。

 【神田家本】

一 他流に目付と云事。目附といひて、其流により、敵の太刀に目を付るも有、又ハ手に目を付る流も有。【脱字*************】。其ごとくに、とりわけて目をつけんとしてハ、まぎるゝ心有て、兵法の病といふ物になる也。其子細ハ、鞠をける人は、まりに能目をつけねども、びんずりをけ、おひまりをしながしても、けまハりても、蹴る事、ものになるゝと云所あれバ、たしかに目に見るに及バず。又、ほうかなどするものゝわざにも、其道に馴てハ、戸びらを鼻にたて、刀をいくこしもたまなどに取事、是ミなたしかに目付ハなけれども、不断手にふれぬれバ、おのづからミゆる所也。兵法の道におひても、其敵/\としなれ、人の心の輕重を覚へ、道をおこなひ得てハ、太刀の遠近遅速も皆見ゆる儀也。兵法の目附ハ、大方其人の心に付たる眼也。【脱字******************】。觀見二つの見様、觀の目強くして、敵の心を見、其場の位を【脱字】、大に目を付て、其戦の景氣を見、その折節の強弱を見て、まさしく勝事を得る事、専也。大小の兵法におゐても、ち【脱字】さく目を付る事なし。前にも記すごとく、こまかにちいさく目を付るによつて、大きなる事をとりわすれ、目まよふ心出て、たしかなる勝をぬかすもの也。此利能々吟味して、鍛錬有べき也。

 【伊丹家本】

一 他流に目附と云事。目附と云て、其流により、敵の太刀に目を付も有、又は手に目を付る流も有。或ハ顔に目を付、或ハ足などに目を付るもあり。其ごとくに、とりわけて目を付んとしてハ、まぎるゝ心有て、兵法の病と云ものになる也。其子細は、鞠をける人ハ、まりに能目を附けねども、びんずりをけ、おひまりをしながしても、けまハりても、ける事、物になるゝといふ所あれば、たしかに目に見るに不及。又、ほうかなどするものゝ業にも、其道に馴てハ、扉を鼻に立、刀を幾こしもたまなどに取事、是皆、たしかに目付ハなけれ共、不断手にふれぬれば、おのづからミゆる所也。兵法の道においても、其敵/\としなれ、人の心の輕重を覺へ、道を行ひ得てハ、太刀の遠近遲速も、皆ミゆる儀也。兵法の目付ハ、大かた其人の心に付たる眼也。大分の兵法に至ても、其敵の人数の位に付たる眼也。観見二ツの見様、観の目強くして、敵の心を観、其場の位を見、大に目を付て、其戦の景氣を見、そのおりふしの強弱を見て、まさしく勝事を得事、専也。大小の兵法におゐて、ちいさく目を付事なし。前にも記す如く、こまかにちゐさく目を付によつて、大きなる事をとりわすれ、めまよふ心出て、たしかなる勝をぬかすもの也。此利能々吟味して、鍛練あるべきなり。  

 【猿子家本】

一 他流に目付と云事。目付といひて、其流により、敵の太刀に目を付るも有、又ハ手に目を付る流も有、【脱字*************】。其ごとくに、とりわけて目をつけんとしては、まぎるゝ心有て、兵法の病といふ物になる也。其子細ハ、鞠をける人は、まりに能目をつけねども、びんずりをけおひまりをしながしても、けまハりても、ける事、物になるゝと云所あれバ、たしかに目に見るに及バず。又、ほうかなどするものゝわざにも、其道に馴てハ、戸びらを鼻にたて、刀をいくこしもたまなどに取事、是ミな、たしかに目付ハなけれども、不断手にふれぬれバ、おのづからミゆる所也。兵法の道におひても、其敵/\としなれ、人の心の輕重を覚へ、道をおこなひ得てハ、太刀の遠近遅速も、皆見ゆる儀也。兵法の目附ハ、太刀其人の心に付たる眼也。【脱字******************】。觀見二ツの見様、觀の目強くして、敵の心を見、其場の位を見、大に目を付て、其戦の景氣を見、その折節の強弱を見て、まさしく勝事を得る事、専也。大小の兵法におゐても、ちいさく目を付る事なし。前にも記すごとく、こまかにちいさく目を付るによつて、大きなる事をとりわすれ、目まよふ心出て、たしかなる勝をぬかすもの也。此利能々吟味して、鍛錬有べき也。

 【楠家本】

一 他流に目付と云事。目付といひて、其流により、敵の太刀に目を付るも有、又ハ手にめをつくる流も有、或ハ顔にめを付、或ハ足などにめを付るもあり。其ごとく【脱字】、とりわけて目をつけんとしてハ、まぎるゝ心有て、兵法のやまひといふものになる也。其子細ハ、鞠をける人は、まりによくめをつけねども、びんずりをけ、おいまりをしながしても、けまはりても、ける事、物になるゝといふ所あれバ、慥にめに見るにをよばず。又、ほうかなどするものゝわざにも、其道ニなれてハ、戸びらを鼻にたて、刀をいくこしもたまなどにとる事、是ミな、慥に目付とはなけれども、不斷手にふれぬれバ、をのづからミゆる所也。兵法の道におゐても、其敵/\としなれ、人の心の軽重を覚へ、道をおこなひ得てハ、太刀の遠近遅速迄も、ミなミゆる儀也。兵法の目付ハ、大形其人の心に付たる眼なり。大分の兵法に至ても、其敵の人数のくらゐに付たる眼なり。観見二ツの見やう、観の目つよくして、敵の心を見、其場のくらゐを見、大に目をつけて、其戦のけいきを見、其折ふしの強弱をミて、まさしく勝事を得る事専也。大小【脱字】兵法におゐて、ちいさく目を付る事なし。前にもしるすごとく、こまかにちいさく目を付るによつて、大きなる事をとりわすれ、【脱字】まよふ心出きて、慥なる勝をぬかすものなり。此利能々吟味して、鍛練有べきなり。

 【細川家本】

一 他流に目付と云事。目付といひて、其流により、敵の太刀に目を付るもあり、亦は手に目を付る流もあり。或ハ顔に目を付、或は足などに目を付るもあり。其ごとく【脱字】、とりわけて目をつけむとしては、まぎるゝ心ありて、兵法のやまひと云物になるなり。其子細は、鞠をける人は、まりによく目を付ねども、びんずりをけ、おいまりをしながしても、けまわりても、ける事、物になるゝとゆふ所あれば、慥に目に見るに及バず。又、ほうかなどするものゝわざにも、其道になれては、戸びらを鼻にたて、刀をいく腰もたまなどにとる事、是皆、慥に目付とはなけれども、不斷手にふれぬれば、おのづから見ゆる所也。兵法の道におゐても、其敵/\としなれ、人の心の軽重を覚へ、道をおこなひ得ては、太刀の遠近遅速迄も、ミな見ゆる儀也。兵法の目付は、大形其人の心に付たる眼也。大分の兵法に至ても、其敵の人数の位に付たる眼也。観見二ツの見やう、観の目つよくして、敵の心を見、其場の位を見、大きに目を付て、其戦のけいきを見、其おりふしの強弱を見て、まさしく勝事を得る事専也。大小【脱字】兵法において、ちいさく目を付る事なし。前にもしるすごとく、濃にちいさく目を付るによつて、大きなる事をとりわすれ、【脱字】まよふ心出きて、慥なる勝をぬかすもの也。此利能々吟味して、鍛練有べき也。

 【丸岡家本】

一 他流に目付といふ事。目付と云て、其流により、敵の太刀に目を付るもあり、又ハ手に目を付る流もあり。或は顔に目をつけ、或は足などに目を付るもあり。其如く【脱字】、とりわけて目をつけんとしては、まぎるゝ心ありて、兵法の病と云ものニなるなり。其子細は、鞠を蹴る人は、鞠をよく目を付ねども、鬢摺を蹴、おひまりをし流しても、蹴廻ても、蹴こと、物に馴ると云所あれば、たしかに目に見るに及バず。又、放家などする者の技にも、其道になれては、戸びらを鼻に立、刀を幾腰も玉などに取こと、是皆、たしかに目付とはなけれども、不斷手に觸ぬれば、おのづから見ゆる所也。兵法の道におゐても、其敵/\としなれ、人の心の軽重を覚へ、道を行ひ得ては、太刀の遠近遅速までも、皆見ゆる義なり。兵法の目付ハ、大形其人の心に付たる眼なり。大分の兵法に至りても、其敵の人数の位に付たる眼也。観見二ツの見やう、観の目強くして、敵の心を見、其場の位を見、大キに目を付て、其戦の景氣を見、其おりふしの強弱を見て、まさしく勝事を得る事専也。大小【脱字】兵法ニおゐて、小ク目を付る事なし。前にも記すごとく、細かに小ク目を付るによつて、大キなる事を取忘れ、【脱字】迷ふ心出来て、たしかなる勝をぬかすものなり。此理能々吟味して、鍛煉有べきものなり。

 【富永家本】

一 他流に目附といふ事。目付といふて、其流により、敵の太刀に目を付るも有、【脱字*************】、或ハ足などに目を付るもあり。その如くに、取分て目を付んとしてハ、紛るゝ心有て、兵法の病といふものに成るなり。その子細ハ、鞠をける人ハ、鞠に能目を付ね共、びんずりをけ、おひまりおしながしても、けまわりても、ける事、物になるゝと云所あれバ、慥に目に見るに不及。又、ほらのなどするものゝわざにも、その道になれてハ、戸びらを鼻に立、刀をいて腰も玉などに取事、是皆、慥に目付とハなけれども、不断手にふれぬれバ、おのづから見ゆる所なり。兵法の道におゐてハ、其敵/\と仕なれ、人の心の軽重を覚、道を行ひ得てハ、太刀の遠近遅速迄も、皆見ゆる儀也。兵法の目付ハ、大かた其人の心に付たる眼也。大分の兵法に至ても、其敵の人数の位に付たる眼也。觀見二ツの見様、觀の目強くして、敵の心を見、其場の位を見、大きに目を付て、其戦のけゐきを見、其折ふしの強弱を見て、まさしく勝事を得る事専ら也。大小【脱字】兵法におゐて、ちゐさく目を付る事なし。前ニも印すごとく、こまかにちいさく目を付るによつて、大きなる事を取わすれ、目まよふ心出て、慥なる勝をぬかす者也。此利よく/\吟味して、鍛練有べき也。

 【常武堂本】

一 他流に目付と云事。目付といひて、其流により、敵の太刀に目を付るもあり、亦ハ手に目を付る流もあり。或ハ顔に目を付る、或ハ足などに目を付るもあり。其ごとく【脱字】、とりわけて目をつけむとしてハ、まぎるゝ心ありて、兵法のやまひといふ物になるなり。其子細ハ、鞠をける人ハ、まりによく目を付ねども、びんずりをけ、おいまりをしながしても、けまわりても、ける事、物になるゝとゆふ所あれバ、慥に目に見るに及ばず。又、ほうかなどするものゝわざにも、其道になれてハ、戸びら【脱字】鼻にたて、刀をいく腰もたまなどにとる事、是皆、慥に目付とハなけれども、不斷手にふれぬれバ、おのづから見ゆる所也。兵法の道においても、其敵/\としなれ、人の心の軽重をおぼえ、道をおこなひ得てハ、太刀の遠近遅速迄も、皆見ゆる儀也。兵法の目付ハ、大形其人の心に付たる眼也。大分の兵法に至ても、其敵の人数の位に付たる眼也。観見二ツの見様、観の目つよくして、敵の心を見、其場の位を見、大きに目を付て、其戦のけいきを見、其をりふしの強弱を見て、まさしく勝事【脱字】得る事専也。大小【脱字】兵法において、ちいさく目を付る事なし。前にもしるすごとく、濃にちいさく目を付るによつて、大きなる事をとりわすれ、【脱字】まよふ心出來て、慥なる勝をぬかすもの也。此利能々吟味して、鍛練有べきなり。

 【田村家本】

 他流ニ目付ト云事 目付ト云テ、其流ニヨリ、敵ノ太刀ニ目ヲ付モアリ、又手ニ目ヲ付ル流モアリ。或ハ顔ニ目ヲツケ、或ハ足抔ニ目ヲ付モ有。其如【脱字】、取分テ目ヲ付ントシテハ、紛ルヽ心有テ、兵法ノ病ト云モノニ成也。其子細ハ、マリヲケル人ハ、鞠ヲヨク目ヲツケネ共、鬢摺ヲケ、ヲヒ鞠ヲシナガシテモ、蹴廻リテモ、ケル事、物【脱字】ナルヽト云処アレバ、慥ニ目ニミルニヲヨバズ。亦、放家ナドスル者ノ技ニモ、其道ニ馴テハ、扉ヲ鼻ニ立、刀ヲ幾腰モ玉ナドニ取事、是皆、慥ニ目付ルトハナケレ共、不断手ニフレヌレバ、自見ル所【脱字】。兵法ノ道ニ於モ、其敵々トシナレ、人ノ心ノ軽重ヲ覚、道ヲ行ヒ得テハ、太刀ノ遠近遅速マデモ、皆ミユル儀也。兵法ノ目付ハ、大方其人【脱字】ニ付タル眼也。大分ノ兵法ニ至テモ、其敵ノ人数ノ位ニ付タル眼也。觀見二ツノ見ヨフ、觀ノ目強シテ、敵ノ心ヲミ、其場ノ位ヲ見、大キニ目ヲ付テ、其戦ノ景氣ヲ見、其折節ノ強弱ヲ見テ、正シク勝事ヲ得事専也。大小【脱字】兵法ニ於テ、小ク目ヲ付ル事ナシ。前ニ【脱字】記ス如ク、細ニ小ク目ヲ付ニ依テ、大キ成事ヲ取忘レ、【脱字】迷フ心出来テ、慥成勝ヲヌカスモノ也。此利ヨク能吟味シテ、鍛練有ベキ也。

 【狩野文庫本】

一 他流に目付と云事。目附と云て、其流ニより、敵の太刀に目を付るも有、又ハ手に目を付るも有。或ハ顔に目を付、【脱字】足抔ニ目を付るも有。其能、取分て目を付んとしてハ、紛る心有て、兵法の病といふ物に成也。其子細ハ、鞠をケる人は、鞠によく目を付ねども、びむずりをけ、追鞠を【脱字】ながしても、け廻りても、ける事、物になれると云所あれ共、慥ニ目に見るに不及。又、はうか抔する者の業ニも、其道になれてハ、戸びらをはなに立、刀を幾腰も玉などに取事、是皆、慥ニ目付とハなけれ共、不斷手にふれぬれば、おのづから見ゆる者也。兵法の道におゐても、其敵/\と仕馴、人の心の軽重を覚へ、道を行得てハ、太刀の遠近遅速迄も、皆見ゆる義なり。兵法の目付は、大方其人の心に付たる眼也。大分の兵法に至りても、其敵の人数の位に付たる眼也。觀見二ツの見樣、觀の目強して、敵の心を見、其場の位を見、大きに目を付て、其戦のけいきを見、其時節の強弱を見て、正しく勝事を得る事専也。大小の兵法におゐて、小く目を付る事なし。前ニも記ごとく、細に小く目を付る【脱字】仍而、大成事を取忘、【脱字】まよふ心出来て、慥成勝をぬかすもの也。此利能々吟味して、鍛練すべきなり。

 【多田家本】

一 他流に目付と云事。目附と云て、其流により、敵の太刀に目を付も有、又ハ手に目を付る流も有。或は顔へ目を付、【脱字】足抔に目を付るも有。其ごとく【脱字】、取分て目をつけんとしてハ、まぎるゝ心有て、兵法の病といふものに成也。其子細ハ、まりをける人ハ、鞠に能目を付ねども、びんずらをけ、をひ鞠を【脱字***】、けかやしても、ける事、物になるゝと云所あれバ、慥に目を附るに不及。又、ほうか抔する者の業にも、其道に馴てハ、戸びらを鼻に立、刀を【脱字】も玉【脱字】に取る事、是皆、慥に目附とハなけれ共、不断手にふれ【脱字】バ、をのづから見ゆる所也。【脱字************************************】兵法の目附ハ、大形ハ其人の心に付たる眼なり。大分の兵法に至ても、其敵の人数の位に付たる眼也。観見二つの見様、観の目つよくして、敵の心を見、其場の位を見、大きに目を附て、其戦のけいきを見、其折節の強弱を見て、正敷勝事を得事専也。大小の兵法にをひて、小く目をつける事なし。前にも記すごとく、こまかにちいさく目を附るに依て、大き成事を取忘れ、【脱字】迷ふこゝろ出来て、慥成勝をぬかすものなり。此利をよく/\吟味して、鍛練すべき者也。

 【山岡鉄舟本】

一 他流ニ目付ト云事。目付ト云テ、其流ニヨリ、敵ノ太刀ニ目ヲ附ルモ有、又ハ手ニ目ヲ付ル流モ有。或ハ【脱字】目ニ付、或ハ足抔ニ目ヲ附ルモ有。其如クニ、取分ケテ目ヲ付ントシテハ、紛ル【脱字】心アリテ、兵法ノ病ト云者ニ成ル也。其子細ハ、毬ヲ能蹴モ人ハ、鞠ニ能ク目ヲ付ズ共、ヒンズリヲケ、ヲヒニリヲシ流シテモ、蹴マワリテモ、ケル事、物ニ馴ル【脱字**】所アレバ、慥ニ目ニ見ルニ不及。亦、ホウカ抔スル者ノワザニモ、其道ニ馴テハ、戸ビラ【脱字】鼻ニ立、刀ヲ幾腰モ玉抔ニ取ル事、是皆、慥ニ目付ルトハナケレ共、不断手ニフレヌレバ、自ラ見ユル処ナリ。兵法ノ道ニ於テモ、其敵々ト仕馴、人ノ心ノ軽重ヲ覚ヘ、道ヲ行ヒ得テハ、太刀ノ遠近遅速マデモ、皆見ユル儀也。兵法ノ目付ハ、大方其人ノ心ニ付タル【脱字】也。大分ノ兵法ニ至テモ、其敵ノ人数ノ位ニ付タル眼【脱字】。観見二ツノ見様、観ノ目強シテ、敵ノ心ヲ見、其場ノ位ヲ見テ、大キニ目ヲ付テ、其戦ノ景キヲ見、其折節ノ強弱ヲ見テ、政ク勝事ヲ得ル事専也。大小【脱字】兵法ニ於テ、チイサク目ヲ附ル事ナシ。前ニ【脱字】記ス如ク、細カニ少サク目ヲ付ルニ依テ、大キ成事ヲ取忘レ、【脱字】迷フ心出来テ、慥成勝ヲ抜カス者ナリ。此利、能々吟味シテ、鍛錬アルベシ。

 【稼堂文庫本】

一 他流に目附と云事。【脱字****】、其流々により、敵の太刀に目を付るも有、又ハ手に目を付る流も有。或は皃を〔かを〕に目を付け、或ハ足抔に目を付るも有。其ごとく【脱字】、取分て目を付んとしてハ、紛る心有て、兵法の病と云物に成也。其子細は、鞠をける人ハ、まりによく目を付ざれ共、びんずりをけ、おひまりをなしながしても、け廻りても、けること、物に馴るゝと云所に有ば、慥ニ目に見るに不及。又、放下などする者の業にも、其道に馴ては、とびらと云鼻頭に立、又刀をいく腰も玉抔に取こと、是皆、慥に目附と云事はなけれ共、ふだん手にふれぬれば、自ら見ゆる所也。兵法の道に於ても、其敵々と仕馴れ、人の心の軽重を覚へ、道を行ひ得て【脱字】、太刀の遠近遅速迄も、皆見ゆる儀也。【脱字】目附は、大形其人の心に付たる眼也。大分の兵法に至りても、其敵の人数の位に付たる眼也。観見二ツの見様、観の目強くして、敵の心を見、其場の位を見、大に目を付て、其戦のけひ氣を見、【脱字】折節の強弱を見て、正しく勝ことを得ること専也。大小【脱字】兵法に於て、細く目を付ることなし。前にも記ごとく、細かに【脱字】目を付るに依て、大成ことを取失ひ、目附違ふ心にて、慥ニ勝をぬかす物也。此利好々吟味して、鍛練有べき也。

 【大瀧家本】

一 他流に目付といふ事。目付と云て、其流に依、敵の太刀に目を付るも有、又ハ手に目を付る【脱字】も有。或ハ顔に目を付、【脱字】足抔に目を付るも有。其如く【脱字】、取分ケて目を付んとしてハ、紛るゝ心有【脱字】、兵法の病と云ものに成るなり。其子細ハ、鞠を蹴る人ハ、【脱字】能目を付ね共、びんずりをけへまるをしなをしても、けまはりても、ける事、物になるゝと云所あれバ、慥に目に見るに不及。又、ほうか抔する物のわざにも、其道になれてハ、戸びらを【脱字】立、刀を幾腰もたま抔にとる事、是【脱字】、慥に目付とハなけれ共、不断手にふれぬれバ、自ら見ゆる所也。兵法の道におゐても、其敵々としなれ、人に心の輕き重きを覚へ、道を行ひ得てハ、太刀の遠近遅速迄も、皆見ゆる儀【脱字】。兵法の目付ハ、大形其人の心に取たる眼也。大分の兵法に至ても、其敵の人数の位に付たる眼なり。觀見二ツの見様、觀の目強くして、敵の心を見、其塲の位を見、大きに目を付て、其戦の景氣を見、其折節の強弱を見て、正敷勝事を得る事専也。大小【脱字】兵法におゐてハ、小さく目を付る事なし。前にもしるす如く、細に小さく目を付るに依而、大き成事をしわすれ、【脱字】迷ふ心出来て、慥成勝をぬかすもの也。此理能々吟味して、鍛錬あるべき也。    PageTop    Back   Next 

  8 他流に足つかひ有事

 【吉田家本】

一 他流に足つかひ有事。足の踏様に、浮足、飛足、はぬる足、踏つむる足、からす足などいひて、いろ/\さつそくをふむ事有。是ミな、わが兵法より見てハ、不足に思所也。浮足を嫌事、其故ハ、戦になりてハ、かならずあしのうきたがるものなれば、いかにもたしかに踏道也。又、飛足をこのまざる事、飛足ハ、とぶにおこり有て、飛ていつく心有。いくとびも飛といふ利のなきによつて、飛足悪し。又、はぬる足、はぬると云こゝろにて、はかのゆかぬもの也。踏つむる足は、待足とて、殊に嫌事也。其外、からす足、いろ/\のさつそくなどあり。或ハ、沼ふけ、或ハ、山川、石原、細道にても、敵ときり合ものなれば、所により、飛はぬる事もならず、さつそくのふまれざるところ有もの也。我兵法におゐて、足に替る事なし。常に道をあゆぶがごとし。敵のひやうしにしたがひ、いそぐ時ハ、静なるときの身のくらゐを得て、たらずあまらず、足のしどろになきやうに有べき也。大分の兵法にして、足をはこぶ事、肝要也。其故ハ、敵のこゝろをしらず、むざとはやくかゝれば、ひやうしちがひ、かちがたきもの也。又、足ふミ静にてハ、敵うろめき有てくずるゝと云ところを見つけずして、勝事をぬかして、はやく勝負つけざるもの也。うろめき崩るゝ場を見わけてハ、すこしも敵をくつろがせざるやうに勝事、肝要也。能々たんれん有べし。

 【渡辺家本】

一 他流に足つかひ有事。足の蹈様に、浮足、飛足、はぬる足、【脱字】つむる足、からす足などいひて、いろ/\さつそくをふむ事有り。是ミな、わが兵法より見てハ、不足に思ふ所也。浮足を嫌ふ事、其故は、戦になりてハ、かならずあしのうきたがるものなれバ、いかにもたしかに蹈道也。又、飛足をこのまざる事、飛足は、とぶにおこり有て、飛ていつく心有。いくとびも飛といふ利のなきによつて、飛足悪し。又、はぬる足、はぬるといふ心にて、はかのゆかぬもの也。蹈つむる足は、待足とて、殊に嫌ふ事也。其外からす足、いろ/\のさつそくなど有。或は、沼ふけ、あるひは、山川、石原、細道にて【脱字】、敵ときり合ものなれバ、所により、飛はぬる事もならず、さつそくのふまれざる所有もの也。我兵法におゐて、足に替る事なし。常に【脱字】あゆむがごとし。敵のひやうしにしたがひ、いそぐ時は、静なる時の身の位を得て、たらずあまらず、【脱字**************】、足をはこぶ事、肝要也。其故は、敵の心をしらず、むざとはやくかゝれば、拍子ちがひ、かちがたきもの也。又、足ふミ静にてハ、敵うろめき有てくづるゝと云所を見つけずして、勝事をぬかして、はやく勝負つけざるもの也。うろめき崩るゝ塲を見わけてハ、すこしも敵をくつろがせざるやうに勝事、肝要也。能々鍛錬有べし。

 【近藤家丙本】

一 他流に足つかひ有事。足のふミ様に、浮足、飛足、はぬる足、【脱字】つむる足、からす足など云て、いろ/\さつそくをふむ事有。是皆、わが兵法より見ては、不足に思ふ所也。浮足を嫌ふ事、其故ハ、戰になりてハ、かならず足のうきたがるものなれバ、いかにもたしかに踏道也。又、飛足を好まざる事、飛足ハ、とぶにおこり有て、飛ていつく心有。いくとびも飛と云利のなきによつて、飛足悪し。又、はぬる足、はぬるといふ心にて、はかのゆかぬもの也。踏つむる足ハ、待足とて、殊に嫌ふ事也。其外からす足、いろ/\のさつそくなど有。或ハ、沼ふけ、あるひは、山川、石原、細道にて【脱字】、敵と切合物なれば、所により、飛はぬる事もならず、さつそくのふまれざる所有もの也。我兵法に於て、足に替る事なし。常に【脱字】あゆむがごとし。敵の拍子にしたがひ、いそぐ時は、静なるときの身のくらゐを得て、たらずあまらず、【脱字**************】、足をはこぶ事、肝要也。其故ハ、敵のこゝろをしらず、むざとはやくかゝれば、ひやうしちがひ、勝がたき物也。又、足ふミ静にてハ、敵うろめき有てくづるゝと云所を見つけずして、勝事をぬかして、はやく勝負つけざるもの也。うろめき崩るゝ場を見わけてハ、すこしも敵をくつろがせざるやうに勝事、肝要也。能々鍛錬有べし。

 【中山文庫本】

一 他流に足つかひ有事。足の蹈様に、浮足、飛足、はぬる足、蹈つむる足、からす足などいひて、いろ/\さつそくをふむ事有。是皆、我兵法よりみてハ、不足に思所也。浮足を嫌事、其故ハ、戦になりてハ、かならずあしのうきたがる物なれバ、いかにもたしかに蹈足也。又、飛足をこのまざる事、飛足ハ、とぶにおこり有て、飛ていつく心有。いくとびも飛といふ利のなきによつて、飛足悪し。又、はぬる足、はぬると云こゝろにて、はかのゆかぬもの也。蹈つむる足ハ、待足とて、殊に嫌事也。其外からす足、いろ/\のさつそくなどあり。或ハ、沼ふけ、或ハ、山川、石原、細道にても、敵ときり合ものなれバ、所により、飛はぬる事もならず、さつそくのふまれざる所有もの也。我兵法におゐて、足に替る事なし。常に道をあゆぶがごとし。敵の拍子にしたがひ、いそぐ時ハ、静なる時の身のくらゐを得て、たらずあまらず、足のしどろになきやうに有べき也。大分の兵法にして、足をはこぶ事、肝要也。其故ハ、敵のこゝろをしらず、むざとはやくかゝれバ、ひやうしちがひ、かちがたきもの也。又、足ふみ静にてハ、敵うろめき有てくづるゝと云所をミつけずして、勝事をぬかして、はやく勝負つけざるもの也。うろめき崩づるゝ場をミわけてハ、すこしも敵をくつろがせざるやうに勝事、肝要也。能々鍛練有べし。

 【赤見家乙本】

一 他流に足つかひ有事。足のふミ様に、浮足、飛足、はねる足、【脱字】つむる足、からす足などいひて、いろ/\早足をふむ事有。是皆、我が兵法より見ては、不足に思ふ所也。浮足を嫌ふ事、其ゆへハ、戦になりてハ、かならず足のうきたがるものなれバ、いかにもたしかに踏道也。又、飛足をこのまざるハ、飛足ハ、とぶに發り有て、とんでいつく心有。いくとびも飛と云利のなきによつて、飛足あしし。また、はぬる足、はぬると云心にて、はかのゆかぬもの也。ふミつむる足ハ、待ちの足とて、【脱字】嫌ふ事也。其外からす足、いろ/\のさつそくなど有。或ハ、沼ふけ、あるひハ、山川、石原、細道にても、敵ときり合ものなれバ、所により、飛はぬる事もならず、早足のふまれざる所有もの也。我が兵法におゐて、足に替事なし。常に【脱字】あゆむがごとし。敵の拍子にしたがひ、いそぐ時ハ、静なる時の身の位を得て、たらずあまらず、【脱字************】、足をはこぶ事、肝要也。其故ハ、敵の心をしらず、むざと早くかゝれバ、拍子違ひ、勝がたきもの也。又、足ふミしづかにてハ、敵うごめき有て、くづるゝと云所を見つけずして、勝事をぬかして、はやくしやうぶつかざるもの也。こゝろをぬき崩るゝ場を見わけてハ、少しも敵をくつろがせざる様に勝事、肝要也。能々鍛錬有べし。

 【神田家本】

一 他流に足つかひ有事。足【脱字】蹈様に、浮足、飛足、はぬる足、【脱字】つむる足、からす足などいひて、いろ/\さつそくをふむ事有り。是ミな、我が兵法より見てハ、不足に思ふ所也。浮足を嫌ふ事、其故ハ、戦になりては、かならず足のうきたがるものなれバ、いかにもたしかに蹈道也。【脱字】、飛足をこのまざる事、飛足ハ、とぶにおこり有て、飛んていつく心有。いくとびもとぶといふ利のなきによつて、飛足悪し。又、はぬる足、はぬるといふ心にて、はかのゆかぬもの也。蹈つむる足は、待足とて、殊に嫌ふ事也。其外からす足、いろ/\のさつそくなど有。或ハ、沼ふけ、或は、山川、石原、細道にて【脱字】、敵ときり合ものなれバ、所により、飛はぬる事もならず、さつそくのふまれざる所有もの也。我兵法におゐて、足に替る事なし。常に【脱字】あゆむがごとし。敵のひやうしにしたがひ、いそぐ時ハ、静なる時の身のくらゐを得て、たらずあまらず、【脱字************】、足をはこぶ事、肝要也。其故は、敵の心をしらず、むざとはやくかゝれバ、ひやうしちがひ、かちがたきもの也。又、足ふミ静にてハ、【脱字】うろめき有てくづるゝと云所を見つけずして、勝事をぬかして、はやく勝負つけざるもの也。うろめき崩るゝ場を見わけてハ、すこしも敵をくつろがせざるやうに勝事、肝要也。能々鍛錬有べし。

 【伊丹家本】

一 他流に足つかひ有事。足の踏様に、浮足、飛足、はぬる足、踏つむる足、からす足など云て、色々さそくをふむ事あり。是皆、我兵法より見てハ、不足に思所也。浮足を嫌事、其故は、戦になりてハ、かならずあしのうきたがるものなれバ、いかにも慥に蹈足也。又、飛足を好まざる事、飛足ハ、飛におこり有て、飛ていつく心有。いく飛も飛といふ理のなきによつて、飛足悪し。又、はぬる足、はぬると云心にて、はかのゆかぬもの也。踏つむる足は、待足とて、殊に嫌事也。其外からす足、色々のさそくなど有。或ハ、沼ふけ、或ハ、山川、石原、細道にても、敵ときり合ものなれば、所により、飛はぬる事もならず、さつそくのふまれざる所有物也。我兵法におゐて、足に替る事なし。常に道をあゆむが如し。敵の拍子にしたがひ、いそぐ時ハ、静なるときの身の位を得て、たらずあまらず、足のしどろになきやうに有べき也。大分の兵法にして、足をはこぶ事、肝要也。其故ハ、敵の心をしらず、むざとはやくかゝれバ、ひやうしちがひ、勝がたきもの也。又、足踏静にては、敵うろめき有てくづるゝと云所を見つけずして、勝事をぬかして、はやく勝負つけざるもの也。うろめき崩る場を見分てハ、すこしも敵をくつろがせざるやうに勝事、肝要也。能々鍛練有べし。  

 【猿子家本】

一 他流に足つかひ有事。足の踏様に、浮足、飛足、はぬる足、【脱字】つむる足、からす足などいひて、いろ/\さつそくをふむ事有り。是ミな、わが兵法より見てハ、不足に思ふ所也。浮足を嫌ふ事、其故ハ、戦になりてハ、かならず足のうきたがるものなれバ、いかにもたしかに踏道也。【脱字】飛足をこのまざる事、飛足ハ、とぶにおこり有て、飛ていつく心有。いくとびも飛といふ利のなきによつて、飛足悪し。又、はぬる足、はぬるといふ心にて、はかのゆかぬもの也。踏つむる足は、待足とて、殊に嫌ふ事也。其外からす足、いろ/\のさつそくなど有。或ハ、沼ふけ、或ハ、山川、石原、細道にて【脱字】、敵ときり合ものなれバ、所により、飛はぬる事もならず、さつそくのふまれざる所有もの也。我兵法におゐて、足に替る事なし。常に【脱字】あゆむがごとし。敵のひやうしにしたがひ、いそぐ時ハ、静なるときの身のくらゐを得て、たらずあまらず、【脱字************】、足をはこぶ事、肝要也。其故は、敵の心をしらず、むざとはやくかゝれバ、ひやうしちがひ、かちがたきもの也。又、足ふミ静にてハ、敵うろめき有てくづるゝと云所を見つけずして、勝事をぬかして、はやく勝負つけざるもの也。うろめき崩るゝ場を見わけてハ、すこしも敵をくつろがせざるやうに勝事、肝要也。能々鍛錬有べし。

 【楠家本】

一 他流に足つかひ有事。足のふミやうに、浮足、飛足、はぬる足、ふミつむるあし、からすあしなどゝいひて、色々さつそくをふむ事あり。是皆、わが兵法よりミてハ、不足におもふ處也。浮足をきらふ事、其故ハ、たゝかひになりては、必足【脱字】うきたがるものなれバ、いかにも慥にふむ道也。又、飛足をこのまざる事、飛足ハ、とぶおこりありて、とびていつく心有、いくとびも飛といふ理のなきによつて、飛足あしゝ。又、はぬる足、はぬるといふ心にて、はかの行かぬるもの也。ふミつむる足【脱字】、待の足とて、殊にきらふ事也。其外、からす足、色々のさつそくなどあり。或ハ沼ふけ、或ハ山川、石原、ほそ道にても、敵と切合ものなれバ、所により、飛はぬる事もならず、さ【脱字】そくのふまれざる所あるものなり。わが兵法におゐて、足にかはる事なし。常の道をあゆむがごとし。敵の拍子にしたがひ、いそぐ時【脱字】、静なる時の身のくらゐを得て、たらずあまらず、足のしどろになきやうに有べき也。大分の兵法にしても、足をはこぶ事、肝要也。其故ハ、敵の心をしらず、むざとはやくかゝれば、拍子ちがい、勝がたきものなり。又、足ぶミ静にてハ、敵うろめきありてくづるゝといふ所を見付ずして、勝事をぬかして、はやく勝負つけ得ざるもの也。うろめきくづるゝ場を見わけて【脱字】、少も敵をくつろがせざるやうに勝事、肝要なり。よく/\鍛練有べし。

 【細川家本】

一 他流に足つかひ有事。足のふミやうに、浮足、飛足、はぬる足、ふミつむるあし、からす足などゝ云て、色々さつそくをふむ事あり。是皆、我兵法より見てハ、不足におもふ所也。浮足をきらふ事、其故は、たゝかいになりてハ、必足のうきたがるものなれば、いかにも慥にふむ道也。又、飛足をこのまざる事、飛あしは、とぶをこりありて、とびていつく心あり。いくとびも飛とゆふ理のなきによつて、とびあし悪シ。亦、はぬる足、はぬると云心にて、はかの行かぬるもの也。踏つむる足【脱字】、待のあしとて、殊【脱字】きらふ事也。其外、からす足、色々のさつそくなどあり。或、沼ふけ、或、山川、石原、細道にても、敵ときり合ものなれば、所により、飛はぬる事もならず、さつそくのふまれざる所有もの也。我兵法におゐて、足に替る事なし、常の道をあゆむがごとし。敵の拍子に随ひ、いそぐ時【脱字】、静なる時の身の位を得て、たらずあまらず、足のしどろになきやうにあるべき也。大分の兵法にしても、足をはこぶ事、肝要也。其故は、敵の心をしらず、むざとはやくかゝれバ、拍子ちがい、勝がたきもの也。又、足ぶミ静にては、敵うろめきありてくづるゝと云所を見つけずして、勝事をぬかして、はやく勝負つけ得ざるもの也。うろめきくづるゝ場を見わけて【脱字】、少も敵をくつろがせざるやうに勝事、肝要也。能々鍛練有べし。

 【丸岡家本】

一 他流に足つかひ有事。足の踏樣に、浮足、飛足、はぬる足、踏つむる足、烏足などゝ云て、色々さ【脱字】そくを踏ことある。是皆、我兵法より見てハ、不足ニ思ふ所也。浮足を嫌ふこと、其故ハ、戦ニなりては、必足のうきたがる者なれば、如何にもたしかにふむ道也。又、飛足をこのまざる事、飛足は、飛ぶ起り有て、飛て居付心あり。いく飛もとぶと云理のなきに因て、飛足あしゝ。又、はぬる足は、はぬるといふ心にて、はかの行かぬるもの也。踏つむる足【脱字】、待の足とて、殊ニ嫌ふこと也。其外、烏足、色々さ【脱字】そくなどあり。或は、沼ふけ、或ハ、山川、石原、細道にても、敵と切合ものなれば、處ニより、飛はぬることもならず、さ【脱字】そくのふまれざる處ある者也。吾兵法ニおゐて、足に替事なし、常の道を歩ムがごとし。敵の拍子に隨ひ、急ぐ時【脱字】、静なる時の身の位を得て、たらずあまらず、足のしどろになき樣ニ有べきなり。大分の兵法にしても、足を運ぶ事、肝要也。其故は、敵の心をしらず、むざとはやくかゝれバ、拍子違ひ、勝がたき者なり。又、足ぶミ静にては、敵うろめきありてくづるゝといふ所を見付ずして、勝事をぬかして、早ク勝負つけ得ざる者なり。うろめき崩るゝ場を見て【脱字】、少も敵をくつろがせざるやうに勝こと、肝要也。能々鍛煉有べし。

 【富永家本】

一 他流に足遣ゐ有事。足のふミやうに、浮足、飛足、はぬる足、ふミつむる足、からす足などゝ【脱字】て、色々さそくをふむ事有り。是皆、我兵法より見てハ、不足におもふ所也。浮足をきろふ事、其故ハ、戦に成てハ、必足のうきたがるものなれバ、如何にも慥にふむ道なり。また、飛足を好まざる事、飛足ハ、飛おこり有て、飛ていつく心あり、幾飛も飛といふ理の無によつて、飛足あしゝ。又、はぬる足、はぬるといふ心にて、はかの行ぬ者也。ふミつむる足【脱字】、待足とて、殊に嫌事也。其外、からす足、色々のさそくなど有。或ハ沼ふけ、或ハ山川、石原、細道にても、敵と切合者なれバ、所により、飛はぬる事もならず、さつそくのふまれざる所ある者也。我兵法におゐて、足に替る事なし。常の道をあゆむが如し。敵の拍子に隨ひ、急ぐ時【脱字】、しづかなる時の身【脱字】位を得て、足らずあまらず、足のしどろに無様に有べきなり。大分の兵法にして、足をはこぶ事、肝要なり。其故ハ、敵の心を不知、むざとはやくかゝれば、拍子違ひ、勝がたきものなり。また、足ぶミしづかにてハ、敵うろめき有て崩るゝと云所を見付ずして、勝事をぬかして、はやく勝負付得ざるものなり。うろめきくづるゝ場を見分ても、少も敵をくつろがせぬ様に勝事、肝要なり。能/\鍛練有べし。

 【常武堂本】

一 他流に足つかひ有事。足のふみ様に、浮足、飛足、はぬる足、ふみつむる足、からす足などゝ云て、色々さつそくをふむ事あり。是皆、我兵法より見てハ、不足に思ふ所也。浮足をきらふ事、其故は、たゝかひになりてハ、必足のうきたつるものなれバ、いかにも慥にふむ道也。又、飛足をこのまざる事、飛足ハ、とぶおこりありて、とびていつく心あり。いくとびも飛といふ理のなきによつて、とび足悪し。亦、はぬる足、はぬると云心にて、はかのゆきかぬるもの也。踏つむる足【脱字】、待の足とて、殊【脱字】きらふ事也。其外、からす足、色々のさつそくなどあり。或ハ、沼ふけ、或、山川、石原、細道にても、敵ときり合ものなれバ、所により、飛はぬる事もならず、さつそくのふまれざる所有もの也。我兵法に於て、足に替る事なし、常の道をあゆむがごとし。敵の拍子に随ひ、いそぐ時【脱字】、静なる時の身の位を得て、たらずあまらず、足のしどろになき様にあるべき也。大分の兵法にしても、足をはこぶ事、肝要也。其故ハ、敵の心をしらず、むざとはやくかゝれバ、拍子ちがひ、勝がたきもの也。又、足ぶみ静にてハ、敵うろめきありてくづるゝと云所を見つけずして、勝事をぬかして、はやく勝負つけ得ざるもの也。うろめきくづるゝ場を見わけて【脱字】、少も敵をくつろがせざる様に勝事、肝要也。能々鍛練有べし。

 【田村家本】

 他流ニ足仕ヒノ事 足ノフミヨウニ、浮足、飛足、刎ル足、フミツムル足、カラス足抔ト【脱字】テ、色々サソクヲ蹈事有。是皆、我兵法ヨリ見テハ、不足ニ思所也。浮足ヲ嫌事、其故ハ、戦ニナリテハ、必足ノ浮タガルモノナレバ、イカニモ慥ニ蹈道也。又、飛足ヲ好マザル事、飛足ハ飛起有テ、飛テ居付心アリ。イク飛モトビト云理ノサキニ因テ、飛足アシヽ。又、ハヌル足ハ、刎ト云心ニテ、ハカノ行カヌル者也。蹈ツムル足【脱字】、待ノ足トテ、殊ニ嫌フコト也。其外、烏足、色々ノサソク【脱字】有。或、沼フケ、或、山川、石原、細道路ニテモ、敵ト切合者ナレバ、所ニヨリ、飛ハヌル事モナラズ、サソクノフマレザル所在者也。我兵法ニ於、足ニ替事ナシ、常ノ道ヲ歩ムガ如シ。敵ノ拍子ニ隨ヒ、急ナル時【脱字】、静ナルトキノ身ノ位ヲ得テ、タラズアマラズ、足ノシドロニ無ヨウニ有ベキ也。大分ノ兵法ニシテモ、足ヲ運ブコト肝要也。其故ハ、敵ノ心ヲ知ズ、ムザト早クカヽレバ、拍子チガヒ、勝【脱字】タキ者也。又、足踏静ニテハ、テキウロメキ有テ崩ルト云処ヲ見付ズシテ、勝事ヲヌカシテ、早勝負付得ザル者也。ウロメキ崩ル場ヲミワケテ【脱字】、少モ敵ヲクツロガセザルヤウニ勝事、肝要也。能々鍛練スベシ。

 【狩野文庫本】

一 他流に足つかひ有事。足のふみ樣ニ、浮足、飛足、はぬる足、踏留る足、からす足抔といふて、色々早速をふむ事【脱字】。是皆、我兵法より見てハ、不足ニ思ふ所也。浮足を嫌ふ事、其故は、戦に成てハ、【脱字】足【脱字】浮たがる者也レバ、いかにもたしかにふむ道也。【脱字】飛足を好ざる事、飛足ハ飛おこり有て、【脱字】居付心有。幾飛もとぶと云理のなきによつて、飛足悪し。又、はぬる足、はぬるといふ心にて、はか【脱字】ゆきかぬる者也。踏つむる足【脱字】、待足とて、殊に嫌ふ所也。其外、からす足、色々のさそく【脱字】有。或は、沼ふけ、或ハ、山川、石原、細道にても、敵と切合物なれバ、所ニより、飛はぬる事もならず、さそくのふまれざる所有もの也。我兵法におゐてハ、足に替事なし、常の道をあゆむがごとし。敵の拍子に隨ひ、急時【脱字】、静なる時の身の位を得て、不足あまらず、足のしどろになき樣ニ有べきなり。大分の兵法にしても、足を運事肝要也。其故ハ、敵の心をしらずして、むざとはやく懸れば、拍子ちがひ、勝がたきもの也。亦、足ぶみ静ニ而ハ、敵うろめき有て崩るゝと云所を見付ずして、勝事【脱字】ぬかして、はやく勝負つけ得ざるもの也。うろめき崩るゝ場を見分て【脱字】、少も敵をくつろがせざるやうに勝事、肝要也。能々鍛練有べし。

 【多田家本】

一 他流に足遣有事。足の踏様に、浮足、飛足、はねる足、ふみつむる足、からす足抔と【脱字】て、色々さそくを踏事有。是【脱字】、我が兵法より見れハ、不足に思ふ所也。浮足を嫌ふ事、其故ハ、戦に成て【脱字】、必足【脱字】浮たがる物なれバ、如何にも慥にふむ足也。又、飛足を不好事、飛足ハ、とぶに發り有て、飛ていつく心有り。幾度もとぶと云理【脱字】なきに依て、飛足悪【脱字】。又、はぬる足、はぬると云心にて、はか【脱字】ゆきかぬるもの也。踏つむる足は、待足とて、殊に嫌ふ事也。其外、からす足、色々のさそく【脱字】有。或は、沼ふけ、或ハ、山川、石原、細道にても、敵と切合ものなれバ、所により、飛はぬる事もならず、さそくの踏れざる所有物也。我兵法にをひてハ、足のかわる事なし。常の道に歩むがごとし。敵の拍子に隨て、急ぐ時【脱字】、静【脱字】時の身の位を得て、たらずあまらず、足のしどろになきやうに有べき也。大分の兵法にしても、足をはこぶ事、肝要也。其故ハ、敵の心をしらず、むざと早く懸れバ、拍子違ひ、勝がたき者也。又、足ふミ静にてハ、敵うろめきありて崩るゝと云所を不見付して、勝事をぬかして、早く勝負つけ得ざるものもの也。うろめき崩るゝ場を見【脱字】て、少も敵をくつろがせざるやうに勝事、肝要也。【脱字****】(★改行なしで次条へ連続)

 【山岡鉄舟本】

一 他流ニ足ヅカイ有事。足ノ踏様ニ、浮足、飛足、ハネル足、踏ツムル足、カラス足抔ト云テ、色々サソクヲ踏事有。是【脱字】、我兵法ヨリ見テハ、不足ニ思処也。浮足ヲ嫌フ事有、其故ハ、戦ニナリテハ、必足ノ浮タガル者ナレバ、如何ニモ慥ニ踏道也。又、飛足ヲ好マザル事、飛足ハ飛ブニ起リ有テ、飛テ居付心有リ。幾飛モ飛ト云理ノナキニ依テ、飛足ア悪シヽ。亦、ハネル足ハ、刎ルト云心ニテ、ハカノ行キカヌルモノ也。踏ツムル足【脱字】、待ノ足トテ、殊ニ嫌フ事也。其外、カラス足、色々ノサソク抔アリ。或ハ、沼フケ、或ハ、山川、石原、細道ニテモ、敵ト切合フ者ナレバ、所ニヨリ、飛ハネル事モナラズ、サソクノ踏レザル所在物也。我兵法ニ於テ、足【脱字】変事ナシ、常ノ道ヲ踏ムガ如シ。敵ノ拍子ニ随ヒ、急時【脱字】、静ナル時【脱字】身ノ位ヲ得テ、タラズアマラズ、足ノシドロノ無キ様ニ有ベキ也。大分之兵法ニシテモ、足ヲ運ブ事肝要也。其故ハ、敵ノ心ヲ知ラズ、ムザト早ク懸レバ、拍子違ヒ、勝難キ者也。又、足踏静ニテハ、敵ウロメキ有テ崩ルト云処ヲ見附ズシテ、勝事ヲ抜カシテハ、早ク勝負付得ザル物也。ウロメキ崩ル場ヲ見分テ【脱字】、少モ敵ヲクツロガセザル様ニ勝事、肝要也。能々鍛錬アルベシ。

 【稼堂文庫本】

一 他流に足遣ひ有る事。足の蹈様に、浮足、飛足、はぬる足、蹈つむるあし、烏足抔と云て、色々さそくを蹈こと有。是みな、皆兵法より見ては、不足におもふ所也。浮足を嫌ふこと、其故ハ、戦に成ては、【脱字】足のうきたがる物なれバ、如何にも慥にふむ道也。又、飛足を好まざる事ハ、飛足は、飛ぶおこり有て、飛て居付心有り。幾度も飛と云理の無きに依て、飛足悪敷。又、はぬる足、はぬると云心にて、はかの行ぬ物也。蹈詰る足は、待の足とて、殊にきろふ事也。其外、烏足、色々のさそくなど有り。或は沼がけ、或は山川、石原、細道にても、敵と戦ふ物なれバ、所により、飛はぬる事も成らず、さそくのふまれざる所も有物也。我兵法に於ては、足に替ることなし、常の道をあゆむがごとし。敵の拍子に随ひ、急グ時【脱字】、静成時の身の位を得て、たらずあまらず、足のしどろに無様に有べき也。大分の兵法にしても、足をはこぶ【脱字】、肝要也。其故は、敵の心を不知、むざと早かゝれバ、拍子違ひ、勝がたき者也。又、足蹈静にては、敵うろめき有て崩るゝと云所を見付ずして、勝ことをぬかして、早く利を付ざる者也。うろめきくづるゝ場を見分て、少も敵をくつろがせぬ様に勝事、肝要也。【脱字】吟味有べし。

 【大瀧家本】

一 他流に足遣ひある事。足の踏様に、浮足、飛足、はぬる足、ふみける足、烏足抔といふて、色々【脱字】足を踏事有。是皆、我兵法より見ては、不足に思ふ處也。浮足を嫌ふ事、其故ハ、戦に成てハ、必足の浮たがるものなれば、如何にも慥ニ踏道也。又、飛足を踏ざる事、飛足は、飛おこり有て、飛ていつく心有。幾くとび【脱字】飛ぶと云利【脱字】なきによりて、飛足悪し。又、はぬる足、刎ると云心にてハ、はかの行ぬもの也。ふミつむる足【脱字】、待の足とて、殊に嫌ふ事なり。其外、烏足、色々のさそく【脱字】有。或ハ、沼ふけ、或ハ、山川、石原、細道にても、敵と切合ものなれば、所により、飛はぬる事もならず、さそくのふまれざる所もあるもの也。我兵法におゐて、足に替る事なし、常の道をあゆむが如し。敵の拍子に随ひ、急時【脱字】、静成時の身の位を得て、たらずあまらず、足のしどろになき様にあるべきなり。大分の兵法にしても、足を運ぶ事、肝要也。其故ハ、敵の心を知らんと早く懸れば、拍子違ひ、勝難きもの也。又、足のふみ静にてハ、敵うろめきありて崩ると云所を見付ずして、勝事をぬかして、早く勝負【脱字】得ざるもの也。うろめき崩るゝ塲を見分ケて【脱字】、少も敵をくつろがせざる様に勝事、肝要也。能々鍛錬すべし。    PageTop    Back   Next 

  9 他流にはやき事を用る事

 【吉田家本】

一 他流にはやき事を用事。兵法のはやきと云ところ、実の道にあらず。はやきと云事ハ、物ごとのひやうしの間にあはざるによつて、はやきおそきと云こゝろ也。其道上手になりてハ、はやくミヘざるもの也。たとへば、人にはや道と云て、一日に四拾里五十里行者も有。是も、朝より晩迄はやくはしるにてハなし。道のふかんなるものは、一日走様なれとも、墓ゆかざるものなり。亂舞の道に、上手【脱字】うたふ謡に、下手のつけてうたへば、おくるゝこゝろ有て、いそがしきもの也。又、鼓太鼓に、老松をうつに、静なる位なれども、下手ハこれもをくれ、さきだつこゝろなり。高砂ハ、きうなる位なれども、はやきと云事悪し。はやきハこけると云て、間にあはず。勿論、おそきも悪し。これ、上手のする事ハ、緩々とミヘて、間のぬけざるところ也。諸事しつけたるものゝする事ハ、いそがしくミヘざるもの也。此たとへをもつて、道の利をしるべし。殊に、兵法の道におゐて、はやきと云事悪し。是も、其子細は、所によりて、沼ふけなどにてハ、身足ともにはやく行がたし。太刀は、弥はやくきる事悪し。はやくきらんとすれば、扇小刀の様にハあらで、ちやくときれば、少もきれざるもの也。よく/\分別すべし。大分の兵法にしても、はやく急ぐ心わるし。枕をおさゆると云こゝろにてハ、すこしもおそき事ハなき事也。又、人のむざとはやき事などには、そむくと云て、静になり、人につかざる所、肝要也。此こゝろ、工夫鍛練有べき事也。

 【渡辺家本】

一 他流にはやき事を用る事。兵法のはやきと云所、實の道にあらず。はやきといふ事ハ、物毎のひやうしの間にあハざるによつて、はやき遅きといふこゝろ也。其道上手になりてハ、はやく見ヘざるもの也。たとへバ、人にはや道と云て、一日に四十里五十里行者も有。是も、朝より晩迄、はやくはしるにてハなし。道のふかんなる者ハ、一日走様なれとも、はかゆかざるもの也。乱舞の道に、上手のうとふ謡に、下手のつけてうたへバ、おくるゝこゝろ有て、いそがしきもの也。又、鼓太鼓に老松をうつに、静なる位なれども、下手ハ、これもおくれ、さきだつこゝろ也。高砂ハ、きうなる位なれども、はやきといふ事、悪し。はやきハこけるといひて、間にあハず。勿論、おそきも悪し。これ、上手のする事ハ、緩々と見ヘて、間のぬけざる所也。諸事しつけたるものゝする事ハ、いそがしくミヘざるもの也。此たとへをもつて、道の利をしるべし。殊に、兵法の道におゐて、はやきといふ事悪し。是も、其子細は、所により【脱字】、沼ふけなどにてハ、身足ともにはやく行がたし。太刀ハ、いよ/\はやくきる事悪し。はやくきらんとすれば、扇小刀の様にハあらで、ちやくときれば、少もきれざるもの也。能々分別すべし。大分の兵法にしても、早ク急ぐ心わるし。枕を押ゆると云心にては、少もおそき事ハなき事也。又、人のむざとはやき事などには、そむくと云て、静になり、人につかざる所、肝要也。此こゝろ、工夫鍛錬有べき事也。

 【近藤家丙本】

一 他流に早き事を用る事。兵法のはやきと云所、實の道にあらず。早きと云事ハ、物毎の拍子の間にあハざるによつて、はやき遅キといふこゝろ也。其道上手になりてハ、早く見ヘざるもの也。たとひば、人に早道と云て、一日に四十里五十里行者も有。是も、朝より晩迄、はやくはしるにてハなし。道のふかんなるものは、一日走様なれとも、はかゆかさざるもの也。乱舞の道に、上手のうたふ謡に、下手のつけてうたひバ、おくるゝ心有て、いそがしきもの也。又、鼓太鼓に老松をうつに、静なる位なれども、下手ハ、これもおくれ、さきだつこゝろなり。高砂ハ、急なる位なれども、はやきといふ事、悪し。はやきはこける、といひて、間にあハず。勿論、おそきも悪し。これ、上手のする事ハ、緩々と見ヘて、間のぬけざる所也。諸事しつけたるものゝする事ハ、いそがしく見えざるもの也。このたとひをもつて、道の利をしるべし。殊に、兵法の道におゐてハ、早きと云事悪し。是も、其子細は、所により【脱字】、沼ふけなどにては、身足共に早く行がたし。太刀は、いよ/\早くきる事悪し。早く切らんとすれバ、扇小刀の様にはあらで、ちやくときれバ、少もきれざるもの也。能々分別すべし。大分の兵法にしても、早く急ぐ心わるし。枕を押ゆると云こゝろにては、すこしもおそき事はなき事也。又、人のむざとはやき事などにハ、そむくと云て、静になり、人につかざる所、肝要也。此こゝろ、工夫鍛錬有べき事也。

 【中山文庫本】

一 他流にはやき事を用事。兵法のはやきと云所、実の道にあらず。はやきと云事ハ、物ごとのひやうしの間にあはざるによつて、はやきおそきと云心也。其道上手になりてハ、はやくミヘざるもの也。たとへば、人にはや道と云て、一日に四拾里五拾里行者もあり。是も、朝より晩まで、はやくはしるにてハなし。道のふかんなる者ハ、一日走る様なれとも、はかゆかざるもの也。乱舞の道に、上手【脱字】うたふ謡に、下手のつけてうたへバ、おくるゝ心ありて、いそがしきもの也。又、皷太皷に老松をうつに、静なる位なれども、下手ハ、これもおくれ、さきだつ心也。高砂ハ、急なる位なれども、はやきと云事、悪し。はやきハこける、と云て、間にあわず。勿論、おそきも悪し。これ、上手のする事ハ、緩々と見えて、間のぬけざる所なり。諸事しつけたるものゝする事ハ、いそがしくミヘざるもの也。此たとへをもつて、道の利をしるべし。殊に、兵法の道に於て、はやきと云事悪し。是も、其子細は、所によりて、沼ふけなどにては、身足ともにはやく行がたし。太刀ハ、弥はやくきる事悪し。はやくきらんとすれバ、扇小刀の様にハあらで、ちやくときれバ、少もきれざるもの也。よく/\分別すべし。大分の兵法にしても、はやく急ぐ心ハ悪し。枕をおさゆると云心にてハ、すこしもおそき事ハなき事也。又、人のむざとはやき事などには、そむくと云て、静になり、人につかざる所、肝要也。此こゝろ、工夫鍛練有べき事也。

 【赤見家乙本】

一 他流に早き事を用ゆる事。兵法のはやきと云所、實の道にあらず。早きといふ事ハ、物ごとの拍子の間ニあハざるによつて、はやき遅きといふこゝろ也。其道上手になりてハ、はやく見ヘざるもの也。たとへバ、人に早道といふて、一日に四十里五十里行者も有。是も、朝より晩迄、はやく走ルにてハなし。道のふかんなるものハ、一日はしる様なれども、はかゆかざるもの也。乱舞の道に、上手のうたふうたいに、下手のつけてうたへバ、をくるゝこゝろ有て、いそがハしきもの也。また、つづみたいこに老松をうつに、静なる位なれども、下手ハ、これもをくれ、さきだつ心なり。高砂ハ、急なる位なれども、はやきといふ事、悪し。はやきハこける、といひて、間にあハず。勿論、遅きも悪し。これ、上手のする事ハ、緩々と見ヘて、間のぬけざる所なり。諸事しつけたるものゝする事ハ、いそがしくミヘざるもの也。此たとへをもつて、道の利を知るべし。殊に兵法の道におゐて、早きといふ事悪し。是も、其子細ハ、所により【脱字】、沼ふけなどにてハ、身足ともにはやく行がたし。太刀ハ、いよ/\はやく切る事悪し。早く切らんとすれバ、扇小刀の様にハあらで、ちやくときれバ、少も切れざるもの也。能々分別すべし。大分の兵法にしても、はやく急ぐ心わるし。枕を押ゆると云ふこゝろにてハ、すこしもをそき事ハなき事也。また、人のむざと早き事などにハ、そむくと云て、静になり、人につかざる所、肝要也。此心、工夫鍛錬有べき事也。

 【神田家本】

一 他流にはやき事を用る事。兵法のはやきと云所、實の道にあらず。はやきといふ事ハ、物毎のひやうしの間にあハざるによつて、はやき遅きといふこゝろ也。其道上手になりてハ、はやく見ヘざるもの也。たとへバ、人にはや道と云て、一日に四十里五拾里行者も有。是も、朝より晩迄、はやくはしるにてハなし。道のふかんなる者ハ、一日走様なれとも、はかゆかざるもの也。乱舞の道に、上手のうとふ謡に、下手のつけてうたへバ、おくるゝこゝろ有て、いそがしきもの也。又、鼓太鼓に老松をうつに、静なる位なれども、下手ハ、これもおくれ、さきだつこゝろ也。高砂ハ、きうなる位なれども、はやきといふ事、悪し。はやきはこける、といひて、間にあハず。勿論、おそきも悪し。これ、上手のする事ハ、緩々と見ヘて、間のぬけざる所也。諸事しつけたるものゝする事ハ、いそがしくミヘざるもの也。此たとへをもつて、道の利をしるべし。殊【脱字】兵法の道におゐて、はやきといふ事悪し。是も、其子細は、所により【脱字】、沼ふけなどにてハ、身足ともにはやく行がたし。太刀ハ、いよ/\はやくきる事悪し。はやくきらんとすれバ、扇小刀の様にはあらで、ちやくときれバ、少もきれざるもの也。能々分別すべし。大分の兵法にしても、早ク急ぐ心わるし。枕を押ゆると云心にてハ、すこしもおそき事ハなき事なり。又、人のむざとはやき事などにハ、そむくと云て、静になり、人につかざる所、肝要也。此こゝろ、工夫鍛錬有べき事也。

 【伊丹家本】

一 他流に早き事を用事。兵法のはやきと云所、実の道にあらず。早きと云事ハ、物ごとの拍子の間にあはざるによつて、はやきおそきと云こゝろ也。其道上手になりてハ、はやく見ヘざるもの也。たとへバ、人にはや道と云て、一日に四拾里五拾里行者もあり。是も、朝より晩迄、はやくはしるにてハなし。道のふかんなるものハ、一日走様なれとも、はか行ざるもの也。乱舞の道に、上手のうたふ謡に、下手のつけてうたへバ、おくるゝ心ありて、いそがしきもの也。又、皷太皷に老松をうつに、静なる位なれども、下手ハ、是もおくれ、先だつ心也。高砂ハ、急なる位なれども、はやきと云事、悪し。早きはこける、と云て、間にあはず。勿論、遅きも悪し。これ、上手のする事ハ、緩々と見へて、間のぬけざる所也。諸事しつけたるものゝする事ハ、いそがしく見ヘざるもの也。此たとへをもつて、道の利を知るべし。殊に、兵法の道におゐて、はやきと云事悪し。是も、其子細ハ、所によりて、沼ふけなどにてハ、身足共に早く行がたし。太刀ハ、弥はやく切る事悪し。はやく切んとすれば、扇小刀のやうにハあらで、ちやくときれば、少も切れざるもの也。能々分別すべし。大分の兵法にしても、早く急ぐ心悪し。枕をおさゆると云こゝろにてハ、すこしも遅き事ハなき事也。又、人のむざとはやき事などにハ、そむくと云て、静になり、人につかざる所、肝要也。此心、工夫鍛練有べきこと也。  

 【猿子家本】

一 他流にはやき事を用る事。兵法のはやきと云所、實の道にあらず。はやきといふ事ハ、物毎のひやうしの間にあハざるによつて、はやき遅きといふこゝろ也。其道上手になりてハ、はやく見ヘざるもの也。たとへバ、人にはや道と云て、一日に四十里五十里行者も有。是も、朝より晩迄、はやくはしるにてハなし。道のふかんなるものハ、一日走様なれとも、はかゆかざるもの也。乱舞の道に、上手のうたふ謡に、下手のつけてうたへバ、おくるゝこゝろ有て、いそがしきもの也。又、鼓太鼓に老松をうつに、静なる位なれども、下手ハ、これもおくれ、さきだつこゝろなり。高砂ハ、きうなる位なれども、はやきといふ事、悪し。はやきはこけるといひて、間にあハず。勿論、おそきも悪し。これ、上手のする事ハ、緩々と見ヘて、間のぬけざる所也。諸事しつけたるものゝする事ハ、いそがしくミヘざるもの也。此たとへをもつて、道の利をしるべし。殊、兵法の道におゐて、はやきといふ事悪し。是も、其子細は、所により【脱字】、沼ふけなどにてハ、身足ともにはやく行がたし。太刀ハ、いよ/\はやくきる事悪し。はやくきらんとすれバ、扇小刀の様にはあらで、ちやくときれバ、少もきれざるもの也。能々分別すべし。大分の兵法にしても、はやく急ぐ心わるし。枕を押ゆると云心にてハ、すこしもおそき事ハなき事也。又、人のむざとハやき事などには、そむくと云て、静になり、人につかざる所、肝要也。此こゝろ、工夫鍛錬有べき事也。

 【楠家本】

一 他の兵法にはやき【脱字】を用る事。兵法のはやきといふ所、実の道にあらず。はやきといふ事は、物毎の拍子の間にあわざるによつて、はやきおそきといふ心なり。其道上手【脱字】なりてハ、はやくみえざるもの也。縦【脱字】、人にはや道といひて、【脱字】四十里五十里行ものも有。是も、朝より晩まではやくはしるにてハなし。道のふかんなるものハ、一日はしるやうなれども、はかゆかざるもの也。亂舞の道に、上手のうたふ謡に、下手のつけてうたへバ、おくるゝ心有て、いそがしきもの也。又、皷太皷に、老松をうつに、静なるくらゐなれども、下手ハ是にもおくれ、先だつ心有。高砂ハ、きうなるくらゐなれども、はやきといふ事をあしゝ。はやきハこけるといひて、間にあはず。勿論、おそきもあしゝ。是も、上手のする事ハ、ゆる/\とみえて、間のぬけざる所也。諸事しつけたるものゝすることハ、いそがしくミえざるもの也。此たとへをもつて、道の利をしるべし。殊に、兵法の道におゐて、はやきといふ事あしゝ。【脱字】其子細ハ、所によりて、沼ふけなどにてハ、身足ともにはやくゆきがたし。太刀ハ、いよ/\はやくきる事なし。はやくきらんとすれバ、扇小刀のやうにハあらで、ちやくときれバ、少もきれざるもの也。能々分別すべし。大分の兵法にしても、はやくいそぐ心わろし。枕をおさゆるといふ心にてハ、少もおそき事ハなき事也。又、人のむざとはやき事などにハ、そむくといひて、静になり、人につかざる所、肝要なり。此心の工夫鍛練あるべき事也。

 【細川家本】

一 他の兵法にはやき【脱字】を用る事。兵法のはやきと云所、實の道にあらず。はやきと云事は、物毎に拍子の間にあハざるによつて、はやきおそきと云心也。其道上手になりては、はやく見へざる物也。縦【脱字】、人にはや道といひて、【脱字】四十里五十里行ものもあり。是も、朝より晩まではやくはしるにてはなし。道のふかんなるものハ、一日はしるやうなれども、はかゆかざるもの也。亂舞の道に、上手のうたふ謡に、下手のつけてうたへバ、おくるゝ心ありて、いそがしきもの也。又、皷太皷に、老松をうつに、静なる位なれ共、下手は是にもおくれ、さきだつ心あり。高砂ハ、きうなるくらいなれども、はやきと云事悪シ。はやきはこけるといひて、間にあハず。勿論、おそきも悪シ。是も、上手のする事は、緩々と見へて、間のぬけざる所也。諸事しつけたるものゝする事ハ、いそがしく見えざる物也。此たとへをもつて、道の理をしるべし。殊に、兵法の道におゐて、はやきと云事悪シ。其子細は、是も[語順]所によりて、沼ふけなどにて【脱字】、身足ともにはやくゆきがたし。太刀ハ、いよ/\はやくきる事なし。はやくきらんとすれば、扇小刀のやうにはあらで、ちやくときれば、少もきれざるもの也。能々分別すべし。大分の兵法にしても、はやくいそぐ心わろし。枕をおさゆると云心にては、少もおそき事ハなき事也。亦、人のむざとはやき事などには、そむくといひて、静になり、人につかざる所、肝要也。此心の工夫鍛練有べき事也。

 【丸岡家本】

一 他の兵法ニ速キ【脱字】を用る事。兵法のはやきといふ所、実の道にあらず。早キと云事は、物ごとに拍子の間にあハざるによつて、速キ遲キといふ心あり。其道上手になりては、はやく見えざる者也。縦ひ、人に早道と云て、【脱字】四十里五十里行者もあり。是も、朝より晩まで早く走るにてはなし。道の不勘なる者は、一日走るやうなれども、はか行ざる者也。乱舞の道に、上手のうたふ謡に、下手のつけて謡へバ、おくるゝ心ありて、いそがしき者なり。又、鼓太鼓に、老松を打に、静なる位なれども、下手は是にも後れ、先だつ心あり。高砂は、急なる位なれども、早キと云事のあしく。早きハこけると云て、間にあハず。勿論、遲キもあしゝ。是も、上手のすることは、緩々と見えて、間のぬけざる所也。諸事しつけたる者のする事は、忽しく見えざる者なり。此諭を以、道の理を知べし。殊ニ、兵法の道におゐて、速キと云事あしゝ。是も、其子細は、所ニよりて、沼ふけなどにては、身足ともに早く行難し。太刀は、弥はやく切ことなし。早く切んとすれば、扇子小刀の樣にはあらずして、ちやくときれば、少もきれざるものなり。能々分別すべし。大分の兵法ニしても、早ク急グ心わろし。枕をゝさゆるといふ心にては、少も遲キ事はなき事なり。又、人のむざとはやき事などには、背クと云て、静になり、人に付ざる所、肝要也。此心、能々工夫鍛煉有べき事也。

 【富永家本】

一 他流の兵法にはやき【脱字】を用る事。兵法のはやきといふ所、実の道にあらず。はやきと云事ハ、物ごとの拍子の間に合ざるによつて、はやきおそきといふ心なり。その道上手に成てハ、はやく見ゑざるもの也。縦バ、人ニはや道といふて、【脱字】四十里五十里行者【脱字】あり。是も、朝より晩迄はやく走るにてハなし。道のふかんなる者ハ、一日走るやうなれども、はかゆかざるもの也。乱舞の道に、上手【脱字】うたふ謡に、下手のつけてうたへバ、おくるゝ心有て、いそがわしきものなり。又、皷太皷に、老松を打に、しづかなる位なれども、下手ハ是もおくれ、先立心あり。高砂ハ、急なる位なれども、はやきといふ事あしゝ。はやきハこけるといふて、間に合ず。勿論、おそきも悪しゝ。是も、上手のする事ハ、緩/\と見て、見抜けざる處也。諸事仕付たるものゝする事ハ、いそがわしく見ゑざるもの也。此たとゑを以、道の理を知るべし。殊に、兵法の道におひて、はやきといふ事あしゝ。是も、其子細ハ、所に寄て、沼ふけなどにてハ、身【脱字】共にはやく行がたし。太刀ハ、弥はやく切事なし。【脱字】切心とすれば、扇小刀のやうにハ非ず、ちやくと切れバ、少も切れざるもの也。能々分別すべし。大分の兵法にしても、はやくいそぐ心わるし。枕を押ると云心にてハ、少もおそき事ハ無事なり。又、人のむざとはやき事などにハ、そむくといふて、しづかになり、人につかざる所、肝要なり。此心、工夫鍛練あるべき事也。

 【常武堂本】

一 他の兵法にはやき【脱字】を用る事。兵法のはやきと云所、實の道にあらず。はやきと云事ハ、物毎に拍子の間にあはざるによつて、はやきおそきと云心也。其道上手になりてハ、はやく見えざる物也。縦【脱字】、人にはや道といひて、【脱字】四十里五十里行くものもあり。是も、朝より晩まではやくはしるにてハなし。道のふかんなるものハ、一日はしる様なれども、はかゆかざるもの也。亂舞の道に、上手のうたふ謡に、下手のつけてうたへバ、おくるゝ心ありて、いそがしき物也。又、皷太皷に、老松をうつに、静なる位なれども、下手ハ是にもおくれ、さきだつ心あり。高砂ハ、きうなる位なれども、はやきと云事悪し。はやきハこけるといひて、間にあはず。勿論、おそきも悪し。是も、上手のする事ハ、緩々と見えて、間【脱字】ぬけざる所也。諸事しつけたるものゝする事ハ、いそがしくみえざる物也。此たとへをもつて、道の理をしるべし。殊に、兵法の道に於て、はやきと云事悪し。其子細ハ、是も[語順]所によりて、沼ふけなどにて【脱字】、身足ともにはやくゆきがたし。太刀ハ、いよ/\はやくきる事なし。はやくきらむとすれバ、扇小刀の様にハあらで、ちやくときれバ、少もきれざるものなり。能々分別すべし。大分の兵法にしても、はやくいそぐ心わろし。枕をおさゆると云心にてハ、すこしもおそき事ハなき事也。亦、人のむざとはやき事などにハ、そむくといひて、静になり、人につかざる所、肝要也。【脱字】心の工夫鍛練有べき事也。

 【田村家本】

 他ノ兵法ニ早【脱字】ヲ用ル事 兵法ノ早ト云処、實ノ道ニ非ズ。早ト云事ハ、物毎ニ拍子ノ間ニ合ザルニ因テ、早キ遲キト云心也。其道上手ニナツテハ、速クミヱザル者也。縦ヒ、人ニ早道ト云テ、【脱字】四十里五十里行ク者モ有。是モ、朝ヨリ晩迄早ク走ニテハ無シ。道ノフカンナル者ハ、一日ニ走ヨウナレ共、ハカノ行ザル者也。乱舞ノ道ニ、上手ノウトウ謡ニ、下手ノ付テ謡ヘバ、ヲクルヽ心有テ、イソガシキ者也。又、皷太皷ニ、老松ヲ囃スニ、静ナル位ナレ共、下【脱字】ハ是ニモヲクレ、先ニ立心アリ。高砂ハ、急ナル位ナレ共、早キト云事ノアシク、早ハコケルト云テ、間ニアワズ。勿論、遲モアシヽ。是モ、上手ノスルコトハ、寛々トミエテ、間ノヌケザル処也。諸事シツケタル者ノスル事ハ、閙シク見エザルモノ也。此タトエヲ以テ、道ノ理ヲ知ベシ。殊ニ、兵法ノ道ニ於、早ト云事アシヽ。是モ、其子細ハ、所ニヨリテ、沼フケ抔ニテハ、身足共ニ早ク行ガタシ。太刀ハ、弥速ク切事ナシ。早切ントスレバ、扇小刀ノヤウニハアラズシテ、チヤクト切レバ、少モキレザルモノ也。能々分別スベシ。大分ノ兵法ニシテモ、早ク急心ワロシ。枕ヲ押ユルト云心ニテハ、少モ遲事ハナキ事也。又、人ノムザト早事ナドニハ、ソムクト云テ、シヅカニ也、人ニ付カザル所、肝要也。此心、ヨク々工夫鍛練有ベキ事也。

 【狩野文庫本】

一 他流の兵法にはやき【脱字】を用事。兵法【脱字】はやきといふ所、実の道にあらず。早きと云事ハ、物【脱字】の拍子の間に合ざるニ依て、はやき遲きと云心也。其道上手に成てハ、はやく見へざる物也。縦バ、人に早道と云て、【脱字】四十里五十里行者もあり。是も、朝より晩迄【脱字】走にてもなし。道のふかん成者は、終日走ルやうなれども、はか行ざるものなり。乱舞の道【脱字】、上手のうたふ謡に、下手の付てうたへバ、後るゝ心有て、いそがしき者也。又、皷太鼓も、老松をうつに、静なる位なれ共、下手は是にも後レ、先立心有。高砂は、急成位なれども、はやきと云事悪し。はやきはこけると云て、間にあわず。勿論、遲も悪し。是も、上手のする事は、緩々と見へて、間のぬけざる所なり。諸事仕付たる物のする事は、閙敷見へざる物なり。此たとへを以、道の理を知べし。殊に、兵法の道におゐてハ、早き【脱字】事悪し。是も【脱字**】、所ニよりて、沼ふけ抔ニ而、身足とも【脱字】はやく行がたし。其子細は、太刀ハ、弥早く切事なし。早く切んとすれバ、扇小刀の樣ニハあらで、ちやくと切バ、少しも切ざる物也。能々分別すべし。大分の兵法にしても、早急心わろし。枕をおさゆると云心ニては、少も遲事ハなき者也。又、人のむざと早き事などニは、そむくと云て、静に成て、人につかざる所、肝要也。此心の工夫可有鍛練事也。

 【多田家本】

(★改行なしで前条から連続) 他の兵法に早き【脱字】を用る事。兵法【脱字】早きと云所、実の道にあらず。早きと云事ハ、物毎に拍子の間にあわざるに依て、早き遅きと云心なり。其道の上手に成てハ、早く見えざるものなり。縦バ、人々早道といひて、【脱字】四十里五拾里行者も有。是【脱字】、朝より晩迄早く走るにてハなし。道のふかん成者ハ、一日走るやうなれども、はかゆかざる者なり。らん舞の道に、上手のうたふ謡に、下手の付てうたへば、おくるゝ心有て、いそがしきもの也。又、鼓太鼓に、老松を打に、静成位なれども、下手ハ是にもおくれ、先立心有。高砂ハ、急成位なれども、早きと云事悪し。早くハこけると云て、間にあわず。勿論、遅きも悪し。是も、上手のする事は、緩々とみヘて、間のぬけざる所也。諸事しつけたる者のする事ハ、いそがしく見えざるもの也。此たとへを以、道の理を知べし。殊に、兵法の道にをひて、早きと云事悪し。【脱字】其子細ハ、所により【脱字】、沼ふけ抔にて【脱字】、身足ともに早く行がたし。太刀ハ、弥早く切事なし。早くきらんとすれバ、扇小刀の様にハあらで、ちやくと切れバ、少しも切れざるものなり。能々分別すべし。大分の兵法にしても、早く急ぐ心わろし。枕をおさゆると云心にてハ、少も遅き事【脱字】なきもの也。又、人のむざと早き事抔にてハ、背と云て、静に成て、人につかざる所、肝要なり。【脱字**********】

 【山岡鉄舟本】

一 他之兵法ニ早キヲ用ル事。兵法之早ト云処、實ノ道ニ非ズ。早キト云事ハ、物毎ニ拍子ノ間ニ合ザルニ依テ、早キ遅キト云心也。其道上手ニ成テハ、早ク見ヘザル物也。譬、人ニ早道ト云テ、【脱字】四十里五十里モ行者【脱字】有。是モ、朝ヨリ晩マデ早ク走ルニテハ無之。道之不考ナル者ハ、一日走ル様ナレド【脱字】、ハカユカザル者也。乱舞ノ道【脱字】、上手ノ唄フ謡ニ、下手ノ付テウタヘバ、ク丶ルノ心有テ、閙キ者也。又、皷太皷ニ、老松ヲ打ツニ、静成ル位ナレ共、下手ハ是ニモヲクレ、先立心【脱字】。高砂ハ、急成位ナレ共、早キト云事悪ク。早キハコケルト云テ、間ニ合ハズ。勿論、遅キ【脱字】悪シ。是モ、上手ノスル事ハ、緩々ト見ヘテ、間ノヌケザル処也。諸事仕付ケタル者ノスル事ハ、閙ク見ヘザル者也。此ノ譬ヲ以、道ノ理ヲ知ルベシ。殊ニ、兵法ノ道ニ於テ、早キト云事悪シ。是モ、其子細ハ、所ニ依テ、沼フケ抔ニテハ、身足共ニ早ク行難シ。太刀ハ、弥早ク切事ナシ。早ク切ラントスレバ、扇小刀ノ様ニハ非ズシテ、チヤクト切レバ、少シモ切レザル物也。能々分別スベシ。大分之兵法ニシテモ、早ク急グ心ワルシ。枕ヲ押ユルト云心ニテハ、少モ遅キ事ハ無キ事ナリ。又、人ノムザト早キ事抔ニハ、背クト云テ、静ニ成テ、人ニ付カザル所、肝要也。此心、能々工夫鍛錬有ベキ事ナリ。

 【稼堂文庫本】

一 他流に早き【脱字】を用ること。兵法の早きと云所、実の道に非ず。早きと云事は、物毎の拍子の間に合ざるに依て、早遅きと云心有。其道上手に成ては、早く見えざるもの也。縦バ、人に早道と云て、【脱字】四十里五十里行者【脱字】有り。是も、朝より晩迄【脱字】走るにてはなし。又道のふかん成者ハ、【脱字】走る様成れ共、果敢行ざる者也。乱舞の道に、上手のうたひ謡に、下手の付て諷へバ、おくるゝ心有て、いそがわしきもの也。又、皷太鼓に、老松を打に、静成る位成共、下手ハ是も遅れ、先立【脱字】有。高砂ハ、急成位なれ共、早キと云こと悪し。早きハこけると云て、間に合ず。勿論、遅きも悪し。是も、上手のすることハ、緩々と見えて、間のぬけざる所也。諸事仕付たる者のすることハ、いそがわしく見えざる者也。此譬を以、道の理を知るべし。殊に、兵法の道において、早きと云ことハ悪し。【脱字】其子細ハ、所によりて、沼がけ抔にてハ、身足共に早く行がたし。太刀ハ、弥早く切ることなし。早ク切らんとすれバ、扇小刀の様にハあらで、ちやくと切れば、少も切ざる者也。能々分別すべし。大分の兵法にしても、早くいそぐ心悪し。枕を押ると云心にて【脱字】、少も遅ことハなきこと也。又、人のむざにと早きこと抔にハ、背くと云て、しづかに成り、人につかざる所、肝要也。此心、工夫鍛練有べき事也。

 【大瀧家本】

一 他流兵法に早き【脱字】を用る事。兵法【脱字】早きと云處、実の道にあらず。早きと云事ハ、物毎に拍子の間にあはざるに依而、早き遅きと云心也。其道上手に成てハ、早く見へざるものなり。譬へバ、人に早道と云て、【脱字】四十里五十里行者【脱字】あり。是も、朝より晩迄なり、早く走るにてハなし。道のふかんなるものハ、一日走る様なれ共、墓行ざるもの也。亂舞の道に、上手の【脱字】謡に、下手の付いてうたふは、おくるゝ心ありて、閙敷もの也。又、皷太皷ニ、老松をうつに、静なる位なれ共、下手に是にもなられ、先立心あり。高砂ハ、急なる位なれ共、早きと云事悪し。早きはこけると云て、間にあはず。勿論、遅きも悪し。是も、上手のする事ハ、緩々と見へて、間のぬけざる處也。諸用仕付たるものゝする事ハ、閙敷見へざるものなり。此縦を以て、道の理を知るべし。殊に、兵法の道におゐて、早きと云事あしゝ。是も、其子細ハ、所により【脱字】、沼ふけ抔にてハ、身足ともに早く行がたし。太刀ハ、弥早く切事なし。【脱字】切らんとすれバ、扇小刀の様にはあらで、ちやくと切バ、少しも切れざるもの也。能々分別すべし。大分の兵法にしても、早く急ぐ心あしゝ。枕をおさゆると云心にて【脱字】遅き事ハなき【脱字】なり。又、人のむざと早き事抔にハ、背くと云て、静になりて、人につかざる所、肝要也。此心を工夫鍛練可有事也。    PageTop    Back   Next 

  10 他流に奥表と云事

 【吉田家本】

一 他流に奥表と云事。兵法の事におゐて、いづれを表と云、いづれを奥といハん。藝により、ことにふれて、極意秘傳など云て、奥口あれども、敵とうちあふ時の利におゐてハ、表にて戦、奥をもつてきるといふ事に非ず。わが兵法のをしへやうハ、始て道を学人にハ、其わざのなりよき所をさせならはせ、合点のはやくゆく利をさきにをしへ、こゝろのおよびがたき事をバ、其人の心のほどくる所を見わけて、次第/\に深き所の利を後にをしゆるこゝろ也。され共、おほかたハ、ことに對したる事などを覚さするによつて、奥口と云所なき事也。されば、世の中に、山のをくをたづぬるに、猶奥へゆかむと思へば、又、くちへ出るもの也。何事の道におゐても、奥の出合ところも有、口を出してよき事も有。此戦の道におゐて、何をかかくし、いづれをか顕さむ。然によつて、我道を傳ふるに、誓紙罰文などゝ云事をこのまず。此道を学人の智力をうかゞひ、直なる道ををしへ、兵法の五道六道のあしきところを捨させ、をのづから武士の法の實のミちに入、うたがひなき心になす事、我兵法のおしへの道なり。能々鍛練有べし。

 【渡辺家本】

一 他流に奥表と云事。兵法の事におひて、いづれを表といひ、いづれを奥といはん。藝により、ことにふれて、極意秘傳など云て、奥口あれども、敵とうちあふ時の利に於ては、表にて戦、奥を以きるといふ事にあらず。わが兵法のおしへ様は、始て道を学ぶ人には、其わざのなりよき所を、させならハせ、合点のはやくゆく利を、さきにおしへ、心のおよびがたき事をバ、其人の心【脱字】ほどくる所を見つけて、次第/\に、深き所の利を、後におしゆるこゝろ也。されども、おほかたハ、ことに對したる事などを、覚へさするによつて、奥口といふ所なき事也。されバ、世の中に、山の奥をたづぬるに、猶奥へゆかむと思へバ、又、くちへ出るもの也。何事の道におひても、奥の出合ところも有、口を出してよき事も有。此戦の道に於て、何をかかくし、いづれをか顕さん。然によつて、我道を傳ふるに、誓紙罸文などゝ云事をこのまず。此道を学ぶ人の智力をうかゞひ、直なる道をおしへ、兵法の五道【脱字】のあしき【脱字】を捨させ、おのづから武士の法の實の道に入、うたがひなき心になす事、我兵法のおしへの道なり。能々鍛錬有べし。

 【近藤家丙本】

一 他流に奥表と云事。兵法の事におゐて、いづれを表といひ、いづれを奥と云ん。藝により、ことにふれて、極意秘傳など云て、奥口あれども、敵とうちあふ時の利に於てハ、表にて戦、奥を以きるといふ事にあらず。我兵法のおしひやうハ、始て道を学ぶ人には、其わざのなりよき所を、させならハせ、合点のはやくゆく利を、さきにおしひ、こゝろのおよびがたき事をバ、其人の心のほどくる所を見つけて、次第/\に、深き所の利を、後におしゆるこゝろ也。されども、おほかたハ、ことに對したる事などを、覚さするによつて、奥口といふところなき事也。されバ、世の中に、山の奥を尋るに、猶奥へ行かんと思へバ、又、口へ出るもの也。何事の道におゐても、奥の出合所も有、口を出してよき事も有。此戦の道に於て、何をかかくし、いづれをか顕さん。然るによつて、我道を傳ふるに、誓紙罸文などゝ云事をこのまず。此道を学ぶ人の智力をうかゞひ、直なる道をおしひ、兵法の五道【脱字】のあしき所を捨させ、おのづから武士の法【脱字】實の道に入、うたがひなき心になす事、我兵法のおしえの道なり。能々鍛錬有べし。

 【中山文庫本】

一 他流に奥表と云事。兵法の事に於て、いづれを表と云、いづれを奥といはん。藝により、ことにふれて、極意秘傳など云て、奥口あれども、敵とうちあふ時の利に於てハ、表にて戦、奥を以てきるといふ事に非ず。わが兵法のをしへやうハ、始て道を学人にハ、其わざのなりよき所を、させならはせ、合点のはやくゆく利を、さきにをしへ、心の及難き【脱字】をバ、其人の心のほどくる所を見わけて、次第/\に、深き所の利を、後にをしゆる心なり。されども、おほかたハ、ことに對したる事などを、覚さするによつて、奥口と云所なき事也。されバ、世の中に、山のおくをたづぬるに、猶奥へゆかんと思へば、又、口へ出るもの也。何事の道に於ても、奥の出合ところもあり、口を出してよき事もあり。此戦の道に於て、何をかかくし、いづれをか顕さん。然によつて、我道を傳ふるに、誓紙罸文などゝ云事をこのまず。此道を学人の智力をうかゞひ、直なる道ををしへ、兵法の五道六道のあしき所を捨させ、をのづから武士の法の実のミちに入、うたがひなき心になす事、我兵法のをしへの道なり。能々鍛練有べし。

 【赤見家乙本】

一 他流に奥表といふ事。兵法の事におゐて、何れを表といひ、いづれを奥といはん。藝により、ことにふれて、極意秘傳などいふて、奥口あれども、敵と打合時の利におゐてハ、表にて戦、奥を以てきるといふ事にあらず。我が兵法の教へ様ハ、始て道を学ぶ人にハ、其わざのなりよき所を、させならハせ、合点のはやくゆく利を、先に教へ、心の及がたき事をバ、其人の心のほどくる所を見つけて、次第/\に、深き所の利を、後におしゆる心也。されども、大かたハ、ことにたいしたる事などを、覚へさ【脱字】るによつて、奥口といふ所なき事也。されバ、世の中に、山の奥をたづぬるに、猶奥へゆかんと思へバ、また、くちへ出るもの也。何事の道におひても、奥の出合所も有、口を出してよき事も有。此戦の道におゐて、何をかかくし、いづれをか顕さん。然ルによつて、我道を傳ふるに、誓紙罸文などゝいふ事をこのまず。此道を学ぶ人の智力をうかゞひ、直なる道を教へ、兵法の五道【脱字】のあしき所を捨させ、おのづから武士の法の實の道に入、うたがひなき心になす事、我が兵法の教への道也。能々鍛錬有べし。

 【神田家本】

一 他流に奥表と云事。兵法の事におゐて、いづれを表といひ、いづれを奥といはん。藝により、ことにふれて、極意秘傳など云て、奥口あれども、敵とうちあふ時の利に於てハ、表にて戦、奥を以きるといふ事にあらず。わが兵法のおしへ様は、始て道を学ぶ人にハ、其わざのなりよき所を、させならハせ、合点のはやくゆく利を、さきにおしへ、こゝろのおよびがたき事をバ、其人の心のほどけたる所を見つけて、次第/\に、深き所の利を、後におしゆるこゝろ也。されども、おほかたハ、ことに對したる事などを、覚へさするによつて、奥口といふ所なき事也。されバ、世の中に、山の奥をたづぬるに、猶奥へゆかむと思へバ、又、口へ出るもの也。何事の道におゐても、奥の出合ところも有、口【脱字】出してよき事も有。此戦の道に於て、何をかかくし、いづれをか顕【脱字】ん。然に依て、我道を傳ふるに、誓紙罸文などト云事をこのまず。此道を学ぶ人の智力をうかゞひ、直なる道をおしへ、兵法の【脱字**】あしき所を捨させ、おのづから武士の法の實の道に入、うたがひなき心になす事、我兵法のおしへの道なり。能々鍛錬有べし。

 【伊丹家本】

一 他流に奥表と云事。兵法の事におゐて、いづれを表と云、いづれを奥といはん。藝により、ことにふれて、極意秘傳など云て、奥口あれども、敵とうちあふ時の利におゐてハ、表にて戦、奥をもつてきるといふ事に非ず。わが兵法のおしへやうハ、始て道を學人にハ、其わざのなりよき所を、させならハせ、合点のはやくゆく利を、さきにをしへ、こゝろのおよびがたき事をバ、其人の心のほどくる所を見わけて、次第/\に、深き所の利を、後におしゆる心なり。され共、おほかたハ、ことに對したる事などを、覚さするによつて、奥口と云所なき事也。されバ、世の中に、山のおくをたづぬるに、猶奥へゆかむとおもへば、又、くちへ出るもの也。何事の道においても、奥の出合ところもあり、口を出してよき事も有。此戦の道におひて、何れをかかくし、いづれをか顕さん。然によつて、我道を傳ふるに、誓紙罸文などゝ云事を好まず。此道を学人の智力をうかゞひ、直なる道をおしへ、兵法の五道六道のあしき所を捨させ、おのづから武士の法の實の道に入、うたがひなき心になす事、我兵法のおしへの道也。能々鍛練あるべし。  

 【猿子家本】

一 他流に奥表と云事。兵法の事におゐて、いづれを表といひ、いづれを奥といはん。藝により、ことにふれて、極意秘傳など云て、奥口あれども、敵とうちあふ時の利に於てハ、表にて戦、奥を以きるといふ事にあらず。わが兵法のおしへ様は、始て道を学ぶ人には、其わざのなりよき所を、させならハせ、合点のはやくゆく利を、さきにおしへ、こゝろのおよびがたき事をバ、其人の心のほどけたる所を見つけて、次第/\に、深き所の利を、後におしゆるこゝろ也。されども、おほかたハ、ことに對したる事などを、覚さするによつて、奥口といふ所なき事也。されバ、世の中に、山の奥をたづぬるに、猶奥へゆかむと思へバ、又、口へ出るもの也。何事の道におゐても、奥の出合ところも有、口【脱字】出してよき事も有。此戦の道に於て、何をかかくし、いづれをか顕ん。然によつて、我道を傳ふるに、誓紙罸文などゝ云事をこのまず。此道を学ぶ人の智力をうかゞひ、直なる道をおしへ、兵法の五道【脱字】のあしき所を捨させ、おのづから武士の法の實の道に入、うたがひなき心になす事、我兵法のおしへの道なり。能々鍛錬有べし。

 【楠家本】

一 他流に奥表と云事。兵法のことにおゐて、いづれを表といひ、いづれをおくといはん。藝により、ことにふれて、極意秘傳などゝいひて、奥口あれども、敵と打合時の理におゐてハ、表にてたゝかひ、奥をもつてきるといふ事にあらず。わが兵法のおしへやうハ、はじめて道をまなぶ人には、其わざのなりよき所をさせならはせ、合点のはやくゆく理を先におしへ、心の及がたき事をバ、其人の心をほどくる所を見わけて、次第/\にふかき所の理を後におしゆる心也。されども、大かたハ、其ことに對したる事などを覚へさするによつて、奥口といふ所なき事也。されバ、世の中に、山のおくをたづぬるに、なをおくへゆかんとおもへバ、また、口へ出るものなり。何事の道におゐても、奥の出合處も有、口を出してよき事も有。此戦の理におゐて、何をかゝくし、何をか顕ハさん。然によつて、わが道を傳ふるに、誓紙罸文などゝいふ事をこのまず。此道をまなぶ人の智力をうかゞひ、直なる道をおしへ、兵法の五道六道のあしき所をすてさせ、をのづから武士の法の実の道に入、うたがひなき心になす事、わが兵法のおしへの道なり。よく/\鍛練有べし。

 【細川家本】

一 他流に奥表と云事。兵法のことにおゐて、いづれを表といひ、何れを奥といはん。藝により、ことにふれて、極意秘傳などゝいひて、奥口あれども、敵と打合時の理におゐてハ、表にてたゝかい、奥をもつてきると云事にあらず。我兵法のおしへやうハ、初而道を学人には、其わざのなりよき所をさせならハせ、合点のはやくゆく理を先におしへ、心の及がたき事をバ、其人の心をほどくる所を見わけて、次第/\に深き所の理を後におしゆる心也。され共、大形は、其ことに對したる事などを覚へさするによつて、奥口とゆふ所なき事也。されバ、世の中に、山のおくを尋ぬるに、猶奥へゆかんとおもへば、又、口ヘ出るもの也。何事の道におゐても、奥の出合所もあり、口を出してよき事もあり。此戦の理におゐて、何をかかくし、何をか顯ハさん。然によつて、我道を傳ふるに、誓紙罸文などゝ云事を好まず。此道を学人の智力をうかゞい、直なる道をおしへ、兵法の五道六道のあしき所をすてさせ、おのづから武士の法の實の道に入、うたがひなき心になす事、我兵法のおしへの道也。能々鍛練有べし。

 【丸岡家本】

一 他流に奥表と云事。兵法の事におゐて、何れを表と云、何れを奥といハん。藝により、事にふれて、極意秘傳など云て、奥口あれども、敵と打合時の理におゐては、表にて戦ひ、おくを以て切といふ事に非ず。我兵法のおしへ樣は、初て道を学ぶ人には、其技の成能所をさせならハせ、がてんのはやく行理を先に教へ、心の及難キ事をば、其人の心のほどくる所を見分て、次第/\に深き處の理を後に教る心也。されども、大形は、その事に對したる事などを覚えさするによつて、奥口といふ所なき事也。されば、世中に、山の奥を尋るに、猶奥へ行んとおもへば、又、口え出るものなり。何事の道におゐても、奥の出合所もあり、口を出して能事もあり。此戦の理におゐて、何をか隠し、何をか顯ハさん。然によつて、吾道を傳るに、誓紙罸文などゝ云事を好まず。此道を學ぶ人の智力を窺ひ、直なる道を教へ、兵法【脱字】五道六道のあしき所を捨させ、自ら武士の法の実の道に入、疑なき心になすこと、吾兵法の教の道也。能々たんれん有べし。

 【富永家本】

一 他流に奥面といふ事。兵法の事におゐて、何レを表といゐ、いづれを奥といわん。藝により、事に觸て、極意秘傳などゝ云て、奥口あれども、敵と打合時の程におゐてハ、表にて戦ゐ、奥を以て切ると云事ニハ非ず。我兵法の教へ様ハ、初て道を学ぶ人ニハ、其わざのなり能所をさせ習ハせ、合点のはやく行く理を先におしえ、心の難及事をバ、其人の心のほどくる所を見分て、次第/\に深き所の理を後に教る心なり。されども、大かたハ、殊に對したる事などを覚へさするによつて、奥口といふ所無事なり。されバ、世の中に、山の奥を尋るに、猶奥へ行んとおもへバ、又、口へ出るもの也。何事の道におゐても、奥の出合處も有り、口を出して能事も有り。此戦の理におゐて、何を【脱字】かくし、何をか顕さん。然るによつて、我道を傳るに、誓紙罸文などゝ云事を好ず。此道を学ぶ人の知力をうかゞゐ、直成道を教へ、兵法の五道六道の悪しき所を捨させ、をのづから武士の法の実の道に入、うたがひ無心になす事、我兵法の教への道也。能々鍛練有るべし。

 【常武堂本】

一 他流に奥表と云事。兵法のことにおいて、いづれを表といひ、何を奥といはん。藝により、ことにふれて、極意秘傳などゝいひて、奥口あれども、敵と打合時の理に於てハ、表にてたゝかひ、奥を以てきると云事にあらず。我兵法のおしへ様ハ、初て道を学人にハ、其わざのなりよき所をさせならはせ、合点のはやくゆく理を先におしへ、心の及がたき事をバ、其人の心をほどくる所を見わけて、次第/\に深き所の理を後におしゆる心也。されども、大形ハ、其ことに對したる事などをおぼえさするによつて、奥口とゆふ所なき事也。されバ、世【脱字】中に、山のおくを尋ぬるに、なほ奥へゆかむと思へバ、又、口ヘ出るもの也。何事の道に於ても、奥の出合所もあり、口を出してよき事【脱字】あり。此戦の理に於て、何をかかくし、何をか顕はさん。然によつて、我道を傳ふるに、誓紙罸文などゝ云事を好まず。此道を学人の智力をうかゞひ、直なる道をおしへ、兵法の五道六道の悪しき所をすてさせ、おのづから武士の法の實のみちに入、うたがひなき心になす事、我兵法のおしへの道也。能々鍛練有べし。

 【田村家本】

 他流ニ奥表ト云事 兵法ノ事ニ於、何レヲ表ト云、何レヲ奥トイワン。藝ニヨリ、コトニフレテ、極意ヒデン抔ト云テ、奥口有共、敵ト打合時ノ理ニ於ハ、表ニテ戦、奥ヲ以切ト云事ニアラズ。吾兵法ノ教ヨウハ、初テ道ヲ学ブ人ニハ、其技【脱字】ナリヨキ所ヲサセ習【脱字】、合点ノ早ク行利ヲ先ニヲシエ、心ノ及難コトヲバ、其人ノ心ノ解ル処ヲ見合テ、次第々々ニ深処ノ利ヲ後ニ教ル心也。サレ共、大方ハ、其コトニ對シタル事ナドヲ覚エサスルニヨツテ、奥口ト云処ナキ事也。サレバ、世ノ中ニ、山ノ奥ヲ尋ルニ、猶奥エ行ント思バ、又口エ出ルモノ也。何事ノ道ニ於モ、奥ノ出合所モアリ、口ヲ出シテヨキ事モアリ、アシキ事モ有。此戦ノ理ニ於、何ヲカカクシ、何ヲカ顯サン。然ニヨツテ、吾道ヲ傳ルニ、誓紙罸文ナド【脱字】云事ヲ好マズ。此道ヲ学ブ人ノ智力ヲウカヾヒ、直ナル道ヲヽシエ、兵法ノ五道六道ノ悪キ所ヲ捨テサセ、自武士ノ法ノ實ノ道ニ入、ウタガヒ無キ心ニナス事也、吾兵法ノ教ノ道也。能々鍛練有ベシ。

 【狩野文庫本】

一 他流に奥表と云事。兵法の事におゐて、何れを表と云、いづれを奥と云ハん。藝ニより、事ニふれて、極意秘事抔云て、奥口あれ共、敵と打合時の理におゐてハ、表にて戦、奥を以切と云事ニあらず。我兵法の教へやうは、初而道を学人には、其わざの成能所をさせならわせ、合点【脱字】はやく行理を先におしへ、心のおよびがたき事をば、其人の心【脱字】ほどくる所を見分て、次第/\ニ深き所の理を後に教ゆる心也。されども、大かたハ、其事に對したる事抔を覚さするに依て、奥口といふ所なき事也。されば、世中に、山の奥を尋るに、猶奥なりゆかんと思へバ、又口ヘ出る【脱字】也。何事の道におゐても、奥の出合【脱字】も有、口を出して能事も有。此戦の理におゐて、何をか隠し、何をか顯さん。然るによつて、我道を傳るに、誓紙罸文など【脱字】云事を好まず。此道に学ぶ人の智力を伺ひ、直成道を教、兵法の五道六道の悪所を捨させ、おのづから武士の法【脱字】実の道に入、うたがひなき心になす事、我兵法の【脱字】道なり。能々鍛練有べし。

 【多田家本】

一 他流に奥表と云事。兵法の事にをひて、いづれを表と云、何を奥といはん。藝により、事にふれて、極意秘傳抔といひて、奥口あれども、敵と打合時の理にをひて【脱字】、表を戦、奥を以て切と云事にあらず。我兵法の教やうハ、初て道を学ぶ人にハ、其わざのなりよき所をさせならはせ、合点【脱字】早く行理を先に教へ、心【脱字】及がたき事をバ、其事の心のほどくる所を見分て、次第/\に深き所の理を後に教ゆる心也。されども、大かた【脱字】、其事に對したる事抔を覚さするに依て、奥口と云所なき所也。されども、世の中に、山の奥を尋るに、猶奥へ行べしと思へば、又、口へ出るもの也。何事の道にをひても、奥の出合所も有、又口へ出して能所もあり。此戦の理にをひて、何をか隠し、何をか顕さん。然るに依て、我道を傳ふるに、誓紙罰文【脱字】といふ事を不好。此道を学ぶ人の智力をうかゞひ、直成道を教へ、兵法の五道六道の悪き所を捨させ、おのづから武士の【脱字】實の道に入させ、無疑心になすこと、我兵法の教の道なり。能々鍛練有べし。

 【山岡鉄舟本】

一 他流ニ奥表ト云事。兵法之事ニ於テ、何レヲ表ト云、何レヲ奥ト云ン。藝ニ依リ、事ニ觸レテ、極意秘傳抔云テ、奥口アレ共、敵ト打合時之理ニ於テハ、表ニテ戦ヒ、奥ニテ切ルト云事ニ非ズ。我【脱字】教様ハ、初テ道ヲ学ブ人ニハ、其ワザ【脱字】成ヨキ処ヲサセ習セ、合点ノ早行ク理ヲ先キニ教ヘ、心之及ビ難キ処ヲバ、其人ノ心ノホドクル處ヲ見分テ、次第々々ニ深キ処ノ理ヲ後ニ教ル心也。去レ共、大方ハ、其殊ニ對シタル事抔ヲ覚サスルニ依テ、奥口ト云處無キ事也。サレバ、世ノ中ニ、山ノ奥ヲ尋ルニ、猶奥ヘ往ント思ヘバ、【脱字】口ヘ出ル物也。何事ノ道【脱字】於テモ、奥ノ出合処モ有、口ヲ出シテ能打事モアリ。此戦之理ニ於テ、何レヲ【脱字】隠クシ、何レヲ【脱字】顕サン。然ルニ依テ、我道ヲ傳ルニ、誓詞罸文抔ト云事ヲ好マズ。此人ノ学人ノ智力ヲ伺ヒ、直ナル道ヲ教ヘ、【脱字】五道六道之悪キ処ヲ捨テ【脱字】、自ラ武士ノ法ノ實ノ道ニ入、疑ヒ無キ心ニ成ス事、是兵法之教ノ道也。能々鍛錬有ベシ。

 【稼堂文庫本】

一 他流に奥表と云事。兵法のことに於て、何れを表と云、何を奥と云ん。藝により、ことにふれて、極意秘傳抔と【脱字】て、奥口有れ共、敵と打合時の理に於ては、表にて戦ひ、奥を以切ると云ことにハ非ず。我兵法の教様は、初て道を学人にハ、其業の成能所をさせ習せ、合点の早く行利を先に教、心の及がたきことをバ、其人の心のほどくる所を見分て、次第/\に深き所の理を後に教ル心也。去れ共、大方ハ、其事に對したる事抔を覚へさするに依て、奥口と云所無きこと也。去れバ、世の中に、山【脱字】奥を尋るに、猶奥へ行んと思へば、又、口ヘ出る者也。何ごとの道に於ても、奥の出合所も有、口を出して能事も有。此戦の利に於て、何を【脱字】かくし、何をか顕わさん。然るに依て、我道を傳ふるに、誓紙罸文などゝ云事を好ず。此道を学ぶ人の知力を伺ひ、直成道を教へ、兵法の五道六道の悪敷所を捨させ、自から武士の法の実の道に入らせ、うたがひなき心になす事、我兵法の敎の道也。能々鍛練有べし。

 【大瀧家本】

一 他流に奥表と云事。兵法の事におゐて、何れを表【脱字】、何れを奥といはん。藝により、事にふれて、極意秘傳抔と云て、奥口なれ共、敵と打合時の利に於てハ、表にて戦、奥を以て切と云事にあらず。我兵法の教へやうハ、初て道を学ぶ人にハ、其技の成り能所を仕習はせ、合点の早く行理を先に教へ、心の難及事を【脱字】、其人の心のほどくる処を見分て、次第/\に深き処の理を後に教ゆる心なり。され共、大形ハ、其事に對したる事【脱字】を、覚へさするに依て、奥口と云処なき事なり。されば、世の中に、山の奥を尋るに、尚奥へ行んとおもへバ、又、口ヘ出るもの也。何事の道におゐても、奥の出合処も有、口を出してよき事も有。此戦ひの利におゐて、何をか隠して、何をか顕さん。【脱字**】、我道を傳へる【脱字】、誓詞罸文抔と云事を好まず。此道を学ぶ人の智力を窺ひ、直成道を教へ、兵法の五道六道の悪敷所を捨させ、自ら武士の【脱字】実の道に入、疑ひなき心になす事、我兵法【脱字】教の道なり。克々鍛練すべし。    PageTop    Back   Next 

  11 風之巻 後書

 【吉田家本】

右、他流の兵法を、九ヶ条として、風の巻に有増書付ところ、一々流々、口より奥に至迄、さだかに書顕すべき事なれども、わざと何流の何の大事とも名を書記さず。其故ハ、一流々の見立、其道々の云分、人により、心にまかせて、夫/\の存分有物なれば、おなじ流にも少々心のかはるものなれば、後々迄のために、何流の筋とも書のせず。他流の大躰、九ツにいひ分、世の中の人のおこなふわざをミれば、長きにかたつき、ミじかきを利にし、強きとかたつき、あらき、こまかなると云事、ミなへんなる道なれば、他流の口奥とあらはさずとも、皆、人のしるべき儀也。我一流におゐて、太刀にをくくちなし、搆に極りなし。只、心をもつて其徳をわきまゆる、是兵法の肝心也。           新免武藏守玄信 正保弐年五月十二日           寺尾孫之允信正           柴任三左衛門尉 寛文九年四月十七日     美矩[花押朱印]      吉田忠左衛門殿

 【渡辺家本】

右、他流の兵法を、九ヶ条として、風之巻に有増書附所、一々流々、口より奥に至迄、さだかに書顕すべき事なれども、わざと何流の何の大事とも名を書記さず。其故は、一流々々の見立、其道々の云分、人により、心にまかせて、夫々の存分有物なれば、同じ流にも、少々心のかハるものなれば、後々迄のために、何流の筋とも書のせず。他流の大抵、九つにいひ分、世の中の人のおこなふわざを見れバ、長きにかたつき、みじかきを利とし、強きとかたつき、あらき、こまかなると云事、ミなへんなる道なれバ、他流の口奥とあらハ【脱字】ずとも、皆、人のしるべき儀也。我一流に於て、太刀におくくちなし。搆に極りなし。只、心をもつて其徳をわきまゆる、是兵法の肝心也。         新免武藏守玄信 在判 正保二年五月十二日         寺尾孫之亟信正 在判 承應二年十月二日         柴任三左衛門美矩 在判 寛文九年四月十七日         吉田太郎右衛門實連 在判 元禄十二年五月十日         立花專太夫峯均 在判           法名 廓巌翁 享保七年正月十七日         立花彌兵衛増壽 在判           法名 随翁 明和四年亥九月十九日         丹羽五兵衛信英 在判 寛政三年亥四月十九日         渡部六右衛門 文政元年戊寅十月十九日  信行[花押朱印]       伊藤藤太郎殿

 【近藤家丙本】

右、他流の兵法を、九ヶ条として、風之巻に有増書付所、一々流々、口より奥に至迄、定かに書顕すべき【脱字】なれども、わざと何流の何の大事とも名を書しるさず。其故ハ、一流/\の見立、その道々の云分、人により、心にまかせて、夫々の存分有物なれば、同ジ流にも、少々心のかハるものなれバ、後/\迄のために、何流の筋とも書のせず。他流の大抵、九ツにいひ分、世の中の人のおこなふわざを見れバ、長きにかたつき、みじかきを利とし、強きとかたつき、あらき、こまかなると云事、ミなへんなる道なれバ、他流の口奥とあらハ【脱字】ずとも、皆、人のしるべき儀也。我一流に於て、太刀に奥口なし。搆に極りなし。只、心をもつて其徳をわきまゆる、是兵法の肝心也。         新免武藏守玄信               在判 正保二年五月十二日         寺尾孫之亟信正               在判 承應二年十月二日         柴任三左右衛門美矩               在判 寛文九年四月十七日         吉田太郎右衛門實連               在判 元禄十二年五月十日         立花專太夫峯均           法名 廓巌翁 在判 享保七年正月十七日         立花彌兵衛増壽           法名 随翁 在判 明和四年亥九月十九日         丹羽五兵衛 寛政三年辛亥四月十九日   信英 [花押形]               在判         渡部六右衛門       (以下欠如)

 【中山文庫本】

右、他流の兵法を、九ヶ条として、風の巻に有増書付ところ、一々流々、口より奥に至まで、さだかに書顕すべき事なれども、わざと何流の何の大事とも名を書記さず。其故ハ、一流々の見立、其道々の云分、人により、心にまかせて、夫々の存分有物なれバ、おなじ流にも、少々心のかはるものなれバ、後々迄のために、何流の筋とも書のせず。他流の大躰、九ツにいひ分、世の中の人のおこなふわざをミれバ、長きにかたつき、ミじかきを利にし、強きとかたつき、あらき、こまかなると云事、ミなへんなる道なれバ、他流の口奥とあらわさずとも、皆、人のしるべき儀也。我一流におゐて、太刀におくくちなし、搆に極りなし。只、心をもつて其徳をわきまゆる、是兵法の肝心也。          新免武藏守 玄信  正保二年五月十二日          寺尾孫之允 信正            柴任三左衛門尉 美矩            吉田太郎右衛門尉               病氣故印判  元禄十三年九月晦日          早川瀬兵衛殿            月成八郎左衛門 実久            大塚作太夫 重寧            月成彦之進 実誠            大塚初平  天明四年五月十九日          大塚可生殿         七十翁書之          大塚可生 重庸  文化十五年五月十九日        大塚助左衛門殿

 【赤見家乙本】

右他流の兵法を九ヶ条として、風之巻に【脱字】書付所、一々流々、口より奥に至まで、さだかに書顕すべき事なれども、わざと何流のなにの大事とも名を書記さず。其ゆへハ、一流【脱字】の見立、其道々の云分、人により心にまかせて、夫々の存分有物なれバ、同じ流にも、少々心のかハものなれバ、後々迄の為に、何流の筋とも書のせず、他流の大抵、九ツにいひ分。世の中の人の行ふわざを見れバ、長きにかたつき、みじかきを利とし、強きとかたつき、あらき、こまかなると云事、皆変なる道なれバ、他流の口奥とあらハ(さ)ずとも、みな人の知べき義也。我が一流におゐて、太刀に奥口なし。搆に極りなし。只心【脱字】もつて、其徳をわきまゆる、これ兵法の肝要なり。         新免武藏守玄信 在判 正保二年五月十二日         寺尾孫之亟信正 在判 承應二年十月二日         柴任三左衛門美矩 在判 寛文九年四月十七日         吉田太郎右衛門實連 在判 元禄十三年八月十九日         立花專太夫峯均           法名 廓巌翁 在判 享保七年正月十七日         立花彌兵衛増壽             随翁 在判 明和四年九月十九日          丹羽五兵衛 寛政三年三月廿四日      信英[花押写]   (以下異筆にて書き足し)         赤見俊平有久 在判 寛政十年四月十九日            木村亦六              時親[花押]  文化七庚午歳    七月廿九日        赤見俊平殿* (註)この赤見俊平は、八代赤見俊平有久の   嫡男、初名岩治郎

 【神田家本】

右、他流の兵法を九ヶ条として、風之巻に有増書附所、一々流々、口より奥に至迄、さだかに書顕すべき事なれども、わざと何流の何の大事とも名を書記さず。其故ハ、一流々々の見立、其道々の云分、人により心にまかせて、夫々の存分有物なれバ、同流にも、少々心のかハるものなれバ、後々迄のために、何流の筋とも書のせず。他流の大抵、九つにいひ分、世中の人のおこなふわざを見れバ、長きにかたつき、み【脱字】かきを利とし、強きとかたつき、あらき、こまかなると云事、ミなへんなる道なれバ、他流の口奥とあらハ【脱字】ずとも、皆人のしるべき儀也。我一流に於て、太刀におくくちなし。搆に極りなし。只心をもつて、其徳【脱字】わきまゆる、是兵法の肝心也。         新免武藏守玄信 在判 正保二年五月十二日         寺尾孫之亟信正 在判 承應二年十月二日         柴任三左衛門美矩 在判 寛文九年四月十七日         吉田太郎右衛門實連 在判 元禄十二年夘五月十日         立花專太夫峯均 在判           法名 廓巌翁 享保七年寅正月十七日         立花彌兵衛増壽 在判           法名 随翁 明和四年亥九月十九日         丹羽五兵衛信英 在判 寛政三年亥四月十九日         渡部六右衛門信行 在判 文政十三庚寅十月十九日         五十嵐平左衛門 在判 弘化四年未六月廿八日    正一[花押写]       (宛名なし)

 【伊丹家本】

右、他流の兵法を、九ヶ条として、風之巻に荒増書付ところ、一々流々、口より奥に至るまで、さだかに書顕すべき事なれども、わざと何流の何の【脱字】事とも名を書記さず。其故は、一流々の見立、其道々の云分、人により、心に任せて、夫々の存分有ものなれバ、おなじ流にも、少々心のかはる【脱字】なれバ、後々迄のために、何流のとも書のせず。他流の大躰、九ツにいひ分。世の中の人のおこなふ業をミれバ、長きにかたつき、みじかきを利にし、強とかたつき、あらき、細かなると云事、ミなへんなる道なれば、他流の口奥とあらはさずとも、皆、人のしるべき儀也。我一流におゐて、太刀に奥口なし、搆に極りなし。唯、心をもつて其徳をわきまゆる、是兵法の肝心也。   (伝系記載なし)           大塚作太夫              [朱印花押]  安政三年丙辰     五月十九日        伊丹九郎左衛門殿  

 【猿子家本】

右、他流の兵法を、九ヶ条として、風之巻に有増書附所、一々流々、口より奥に至迄、さだかに書顕すべき事なれども、わざと何流の何の大事とも名を書記さず。其故ハ、一流々々の見立、其道々の云分、人により、心にまかせて、夫/\の存分有物なれバ、同ジ流にも、少々心のかわるものなれバ、後々迄のために、何流の筋とも書のせず。他流の大抵、九つにいひ分、世の中の人のおこなふわざを見れバ、長きにかたつき、みじかきを利とし、強きとかたつき、あらき、こまかなると云事、ミなへんなる道なれバ、他流の口奥とあらハ【脱字】ずとも、皆、人のしるべき儀也。我一流に於て、太刀におくくちなし。搆に極りなし。只、心をもつて、其徳をわきまゆる、是兵法の肝心也。         新免武藏守玄信 在判 正保二年五月十二日         寺尾孫之亟信正 在判 承應二年十月二日         柴任三左衛門美矩 在判 寛文九年四月十七日         吉田太郎右衛門實連 在判 元禄十二年五月十日         立花專太夫峯均 在判           法名 廓巌翁 享保七年正月十七日         立花彌兵衛増壽 在判           法名 随翁 明和四年亥九月十九日         丹羽五兵衛信英 在判 寛政三年亥四月十九日         渡部六右衛門信行 在判 文政十三庚寅十月十九日           五十嵐作左衛門 文久三年亥五月十九日    正一[花押朱印]       田中六郎殿

 【楠家本】

右、他流の兵法を、九ヶ条として、風の巻に有増書付る所、一々流々、口よりおくに至るまで、さだかに書顕すべきことなれ共、わざと何流の何の大事とも名を書しるさず。そのゆへハ、一流/\のみたて、其道/\のいひわけ、人により、心にまかせて、それ/\の存分有ものなれバ、同じ流にも少々心の替るものなれバ、後々迄のために、ながれ筋共書のせず。他流の大躰、九ツにいひわけて、世の中の道、人の直なる道理よりミせバ、長きにかたつき、短かきを理にし、つよきよはきとかたつき、あらき、こまかなるといふ事も、ミなへんなる道なれバ、他流の口奥と顕はさずとも、皆、人のしるべき儀なり。わが一流におゐて、太刀におく口なし、搆に極りなし。只、心をもつて其徳をわきまゆる事、これ兵法の肝心なり。  (年月日記載なし)   新免武蔵守玄信  寛文八年五月日     寺尾夢世 [花押印]       槇嶋甚介殿

 【細川家本】

右、他流の兵法を、九ヶ条として、風の巻に有増書付る所、一々流々、口より奥に至る迄、さだかに書顕すべき事なれども、わざと何流の何の大事とも名を書しるさず。其故は、一流々の見たて、其道/\のいひわけ、人により、心にまかせて、それ/\の存分あるものなれば、同じ流にも少々心の替るものなれば、後々迄の為に、ながれ筋共書のせず。他流の大躰、九ツにいひわけて、世の中の道、人の直なる道理より見せバ、長きにかたつき、短きを理にし、つよきよハきとかたつき、あらき、こまかなると云事も、ミなへんなる道なれば、他流の口奥と顕ハさずとも、皆、人の知べき儀也。我一流におゐて、太刀に奥口なし、搆に極りなし。唯、心をもつて其徳をわきまゆる事、是兵法の肝心也。  正保二年五月十二日     新免武蔵        寺尾孫丞殿  寛文七年    二月五日    寺尾夢世勝延 [花押]        山本源介殿

 【丸岡家本】

右、他流の兵法を、九ヶ條として、風之巻にあらまし書【脱字】る所、一々流々、口より奥に至まで、定かに書著すべき事なれども、わざと何流の何の大事とも、名を書記さず。其故は、一流々の見立、其道々々の云分、人により、心にまかせて、それ/\の存分あるものなれば、同じ流にも少々心の替る者なれば、後々までのために、流れ筋とも書載ず。他流の大躰、九ツに言分て、世の中の道、人の直なる道理より見せば、長キに片付、短キを利ニして、強キ弱キと片つき、粗キ、細かなるといふ事も、皆偏なる道なれば、他流の口奥と顯さずとも、皆、人の知べき義なり。吾一流ニおゐて、太刀に奥口なし、搆に極りなし。唯、心を以其徳を辨ること、是兵法の肝要也。   正保二年五月       新免武蔵              玄信識       (宛名なし)

 【富永家本】

右、他の流の兵法を、九ヶ条として、風の巻に荒増書付る所、一々流々、口より奥に至る迄、さだかに書顕すべき事なれども、態、何流の何の大事と云、名を書記さず。其故ハ、一流/\の見立、其道/\の云わけ、人により、心に任せて、夫/\【脱字】有物なれども、同流にも少々心の替るものなれば、後々までの為に、ながれ筋とも書のせず。他流の大躰、九つニいゐわけ、世の中の人の直成道理より見せバ、長きに片付、短きを理にして、強きと片付、悪敷、細成と云事、皆へんなる道なれバ、他流の口奥と顕さずとも、皆、人の知るべき儀なり。我一流におゐて、太刀に無口奥、搆に無極。唯、心を以其徳をわきまゆる、是兵法の肝心也。  正保二年五月十二日 新免武藏守玄信在判       (宛名なし)

 【常武堂本】

右、他流の兵法を、九ヶ条として、風の巻に有増書付る所、一々流々、口より奥に至るまで、さだかに書顕すべき事なれども、わざと何流の何の大事とも名を書しるさず。其故ハ、一流々の見たて、其道/\のいひわけ、人により、心にまかせて、それ/\の存分あるものなれバ、同じ流にも少々心の替るものなれば、後々までの為に、ながれ筋共書のせず。他流の大躰、九ツにいひわけて、世【脱字】中の道、人の直なる道理より見れバ、長きにかたつき、短きを理にし、つよきよはきとかたつき、あらき、こまかなると云事も、みなへんなる道なれバ、他流の口奥と顕はさずとも、皆、人のしるべき儀也。我一流に於てハ、太刀に奥口なし、搆に極りなし。唯、心をもつて其徳をわきまゆる事、是兵法の肝心也。  正保二年五月十二日     新免武藏       寺尾孫丞殿  寛文七年二月五日      寺尾夢世勝延       山本源介殿

 【田村家本】

右、他流ノ兵法ヲ、九箇条トシテ、風ノ巻ニアラマシ書シルス事處、一々流々、口ヨリ奥ニ至ルマデ、サダカニ書著スベキ事ナレ共、ワザト何流ノ何ノ大事共、名ヲ書シルサズ。其故ハ、一流々々ノ見立、ソノ道々々ノ言分、【脱字***************】有者ナレバ、同流ニモ少々心ノ替ル物ナレバ、後々迄ノ為ニ、流レ筋共書ノセズ。他流ノ大躰、九ツニ言分テ、世中ノ道、人ノ直ナル道理ヨリ見セバ、長キニ片付、短ヲ理ニシテ、強弱キト片付、粗キ、細カナルト云事モ、皆偏ナル道ナレバ、他流ノ口奥トアラワサズ共、皆、人ノ知ベキ儀也。我一流ニ於、太刀ニ奥口ナシ、搆ニ極リ無シ。只、心ヲ以テ其徳ヲ辨ル事、コレ兵法ノ肝要也。  正保二年五月          新免武藏守            藤原玄信            [朱印二顆模写]       (宛名なし)

 【狩野文庫本】

右、他流の兵法【脱字】、九ヶ条として、風之巻にあらまし書付所、一々流々、口より奥ニ至る迄、さだかにかきあらハすべき事なれども、態と何流の何の大事共、名を書記さず。其故ハ、一流/\の見立、其道/\の云分、人により、心に任て、夫々の存分有ものなれば、同じ流ニも少々心の替るものなれば、後々迄の為メに、【脱字】流の筋とも書キのせず。他流の大躰、九ツに云分ケ而、世ノ中の道、人の直成道理より見せば、長に片付、短きを理にし、強き弱きと片付、あらき、こまか成と云事も、皆へん成道なれば、他流の口奥とあらハさずとも、ミな、人の可知義なり。我一流ニおゐて、太刀に奥口なし、搆に極なし。唯心を以其徳を弁ゆる事、【脱字】兵法の肝要也。           新免武藏守玄信  正保二年五月十二日      在判       寺尾孫亟殿       古橋惣左衛門殿

 【多田家本】

一 右、他【脱字】の兵法【脱字】、九ヶ条として、風の巻に有増書附る處、一々流々、口より奥に至る迄、さだかに書顕すべき事なれども、態と何流の何の大事共、名を書しるさず。其故ハ、一流/\の見立、其道/\【脱字】云分て、人により、心にまかせて、夫/\の存分有者なれバ、同じ流にも少々心【脱字】替ものなれば、後々迄の為に、流筋をも書のせず。【脱字************】、人の直成道理より見てハ、長きにかたつき、短きを理にして、強き弱きとかたつき、あらき、こまかなると云事も、皆變成道なれバ、他流【脱字****************】にをひて、太刀に奥となし、搆に極りなし。唯、心を以其徳を辨ゆる事、是兵法の肝心也。よく/\鍛練すべきもの也。      (記名・年月日・宛名なし)

 【山岡鉄舟本】

右、他流ノ兵法ヲ九ヶ条トシテ、風ノ巻ニ有増書付ル所、一々流々、口ヨリ奥ニ至ル迄、サダカニ書顕スベキ事ナレ共、ワザト何流之何ノ大事共、名ヲ書シルサズ。其故ハ、一流々々之見立、其道々々之云分、人ニヨリ、心ニ任セテ、夫々ノ存分有物ナレバ、同ジ流ニモ少シ心ノ変ル物ナレバ、後々迄ノ為ニ、ナラン筋其書乗セズ。他流ノ大躰、九ツ【脱字】云分ケテ、世ノ中【脱字】道、人ノ直成ル道理ヨリ見レバ、長キニ片附キ、短キ【脱字】理ニシテ、強キ弱キト片付、ニ非ズ、細カナルト云事モ、皆偏成ル道理ナレバ、他流之口奥ト顕【脱字】ズ共、皆、人ノ知ベキ義也。我一流ニ於テ、太刀ニ奥口ナシ、搆ヘニ極リナシ。只、心ヲ以テ、其徳ヲ辨ユル事、是兵法ノ肝要也。 正保二年五月十二日     新免武蔵        (宛名なし) 風ノ巻終

 【稼堂文庫本】

右、他流の兵法を、九ヶ条として、風の巻に有増書付所、一々流々、口より奥に至る迄、さだかに書顕すべきこと成れ共、態と何流の何の大事とハ、名を書記さず。其故は、一流々の見立、其道々の云分、人により、心々に任せて、夫々の存分有物なれば、同流【脱字*************】、流れ筋共書のせず。他流の大躰、九ツに云分て、世の中の道、人の直成る道理より見ては、長き【脱字**】、短きを利とし、強き弱きと片付き、悪しき、細成ると云ことも、皆へん成る道なれば、他流の口奥と顕【脱字】ず共、皆、人の知べき儀也。我一流に於て、太刀に奥口無く、搆に極り無し。唯、心をば【脱字】徳を弁る、是兵法の肝心也。   正保二年五月十二日           新免武藏守              玄信在判       (宛名なし)

 【大瀧家本】

右、他流の兵法【脱字】、九ヶ条として、風の巻に顕し書付る所、一々流々、口より奥に至る迄、さだかに書顕すべき事なれ共、態と何流の何の大事共名を書に記さず。其故ハ、一流一流の見立、其道々の云分、【脱字】により、心に任せて、夫々の存分有者なれバ、同じ流にも少し心【脱字】替るものなれバ、後々迄の為に、流筋共書に載ず。他流の大躰、九ツに云分て、世の中の道、人の直なる事道理より見せバ、長きにかた付、短きを利にして、強き弱きとかた付、あられ、こまか成と云事も、皆へん成べし成道なれば、他流の口奥と顕はせ共、皆、人の知べき義なり。我一流におゐてハ、太刀に奥口なし、搆に極なし。唯、心を以て其徳を弁ゆべし、是兵法の肝要なり。  正保二年五月十二日 新免武藏守玄信 在判       (宛名なし)