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五輪書異本集 火之巻

この火之巻では、異本二十二本を提示する。すなわち、筑前系諸本として、吉田家本・中山文庫本・鈴木家本、そして立花隨翁本。加えて越後系の、赤見家甲本・近藤家甲本及び乙本・石井家本・伊藤家本・神田家本・猿子家本を掲載する。また、肥後系諸本としては、楠家本・細川家本・丸岡家本・富永家本・常武堂本・田村家本・山岡鉄舟本、円明流系統では、狩野文庫本・多田家本・稼堂文庫本を掲載し、その他に大瀧家本を収録する。

 

1 火之巻 序
2 場の次第と云事
3 三つの先と云事
4 枕をおさゆると云事
5 渡をこすと云事
6 景気をしると云事
7 けんをふむと云事
8 崩れをしると云事
9 敵になると云事
10 四手〔よつで〕をはなすと云事
11 陰をうごかすと云事
12 影をおさゆると云事
13 うつらかすと云事
14 むかづかすると云事
15 おびやかすと云事
16 まぶるゝと云事
17 かどにさわると云事
18 うろめかすと云事
19 三つの聲と云事
20 まぎると云事
21 ひしぐと云事
22 山海のかわりと云事
23 底をぬくと云事
24 あらたになると云事
25 鼠頭午首〔そとうごしゆ〕と云事
26 将、卒をしると云事
27 つかをはなすと云事
28 いわをの身と云事
29 火之巻 後書

 

 

 

  1 火之巻 序

 【吉田家本】

二刀一流の兵法、戦の事を火に思ひとつて、戦勝負の事を、火之巻として、此巻に書顕す也。先、世間の人毎に、兵法の利をちいさくおもひなして、或ハゆびさきにて、手くび五寸三寸の利をしり、或ハ扇をとつて、ひぢよりさきの先後のかちをわきまへ、又ハしなひなどにて、わづかのはやき利を覚へ、手をきかせならひ、足をきかせならひ、少の利のはやき所を専とする事也。我兵法におゐて、数度の勝負に、一命をかけてうち合、生死二ツの利をわけ、刀の道をおぼへ、敵の打太刀の強弱をしり、刀のはむねの道をわきまへ、敵をうちはたす所の鍛練を得るに、ちいさき事、弱き事、思ひよらざる所也。ことに六具かためてなどの利に、ちいさき事、思ひいづる事にあらず。されバ、命をばかりの打あひにおゐて、一人して五人十人ともたゝかひ、其勝道をたしかにしる事、我道の兵法也。然によつて、一人して十人に勝、千人をもつて万人に勝道理、何のしやべつあらむや。能々吟味有べし。さりなから、常々の稽古のとき、千人万人をあつめ、此道しならふ事、なる事に非ず。獨太刀をとつても、其敵々の智略をはかり、敵の強弱、手だてを知り、兵法の智徳をもつて、万人に勝所をきわめ、此道の達者となり、我兵法の直道、世界におゐてたれか得む、又、何れかきわめむと、たしかに思ひとつて、朝鍛夕錬して、ミがきおほせて後、獨、自由を得、おのづから奇特を得、通力不思儀有所、是、兵として法をおこなふ息也。

 【立花隨翁本】

   (書巻欠損により欠落)

 【赤見家甲本】

二刀一流の兵法、戦の事を火に思ひとつて、戦勝負の事を、火の巻として、此巻に書顕す也。先、世間の人毎に、兵法の利をちいさくおもひなして、或はゆびさきにて、手くび五寸三寸の利をしり、或は扇をとつて、ひぢより先の先後のかちをわきまへ、亦ハしなひなどにて、わづかのはやき利を覚へ、手をきかせならい、足をきかせならひ、少の利のはやき所を専とする事也。我兵法におひて、数度の勝負に、一命をかけてうち合、生死二つの利をわけ、刀の道を覚へ、敵の打太刀の強弱をしり、刀のはむねの道をわきまへ、敵をうちはたす所の鍛錬を得るに、ちいさき事、弱き事、思ひよらざる所也。ことに六具かためてなどの利に、ちいさき事、思ひいづる事にあらず。されば、命をばかりの打あいに於て、一人して五人十人ともたゝかひ、其勝道をたしかにしる事、我道の兵法也。然るによつて、一人して十人に勝、千人を以て万人に勝道理、何の差別あらんや。能々吟味有るべし。さりなから、常々の稽古の時、千人万人をあつめ、此道しならふ事、なる事にあらず。獨太刀をとつても、其敵々の智略をはかり、敵の強弱、手立を知り、兵法の智徳をもつて、万人に勝所をきわめ、此道の達者となり、我兵法の直道、世界に於てたれか得ん、又、いづれかきハめむと、たしかに思ひとつて、朝鍛夕錬して、ミがきおほせて後、獨自由を得、をのづから奇特を得、通力不思儀有所、是兵として法をおこなふ息也。

 【中山文庫本】

    火之巻 二刀一流の兵法、戦の事を火に思ひとつて、戦勝負の事を、火之巻として、此巻に書顕す也。先、世間の人毎に、兵法の利をちいさくおもひなして、或ハ指さきにて、手くび五寸三寸の利をしり、或ハ扇をとつて、ひぢよりさきの先後の勝をわきまへ、又【脱字】しなひなどにて、わづかのはやき利を覚へ、手をきかせならひ、足をきかせならひ、少の利のはやき所を専とする事也。我兵法におゐて、数度の勝負に、一命をかけてうち合、生死二ツの利をわけ、刀の道をおぼへ、敵の打太刀の強弱をしり、刀のはむねの道をわきまへ、敵をうちはたす所の鍛練を得るに、ちいさき事、弱き事、おもひよらざる所也。ことに六具かためてなどの利に、ちいさき事、思ひいづる事にあらず。されバ、命をばかりの打あひに於て、一人して五人十人ともたゝかひ、其勝道をたしかにしる事、我道の兵法也。然によつて、一人して十人に勝、千人を以て万人に勝道理、何のしやべつあらむや。能々吟味有べし。さりなから、常々の稽古の時、千人万人をあつめ、此道しならふ事、なる事に非ず。独太刀を取ても、其敵々の智略をはかり、敵の強弱、手だてを知、兵法の智徳をもつて、万人に勝所をきわめ、此道の達者となり、我兵法の直道、世界におゐてたれか得む、又、何れかきわめむと、たしかに思ひとつて、朝鍛夕練して、ミがきおほせて後、独、自由を得、おのづから奇特を得、通力不思儀有所、是兵として法をおこなふ息也。

 【近藤家甲本】

二天一流の兵法、戰の事を火に思ひとつて、戦勝負の事を、火之巻として、此巻に書顕す也。先、世間の人毎に、兵法の利をちいさくおもひなして、或はゆびさきにて、手くび五寸三寸の利をしり、或は扇をとつて、ひぢより先の先後のかちをわきまへ、亦はしなひなどにて、わづかのはやき利を覚へ、手をきかせならひ、足をきかせならひ、少の利のはやき所を専とする事也。我兵法におゐて、数度の勝負に、一命をかけてうち合、生死二つの利をわけ、刀の道を覚へ、敵の打太刀の強弱を知り、刀のはむねの道をわきまへ、敵をうちはたす所の鍛錬を得るに、ちいさき事、弱き事、思ひよらざる所也。殊に六具かためてなどの利に、ちいさき事、思ひいづる事にあらず。されば、命をばかりの打あひにおゐて、一人して五人十人ともたゝかひ、其勝道をたしかにしる事、我道の兵法也。然るによつて、一人して十人に勝、千人を以万人に勝道理、何の差別あらんや。能々吟味有べし。さりなから、常/\の稽古の時、千人万人をあつめ、此道しならふ事、なる事にあらず。獨太刀をとつても、其敵々の智略をはかり、敵の強弱、手立を知り、兵法の智徳を以て、萬人に勝所をきわめ、此道の達者となり、我兵法の直道、世界に於てたれか得ん、又ハ、いづれかきハめむと、たしかに思ひとつて、朝鍛夕錬して、ミがきおほせて後、獨、自由を得、おのづから奇特を得、通力不思儀有所、是兵として法をおこなふ息也。

 【近藤家乙本】

二天一流の兵法、戰の事を火に思ひとつて、戦勝負の事を、火之巻として、此巻に書顕す也。先、世間の人毎に、兵法の利をちいさくおもひなして、或はゆびさきにて、手くび五寸三寸の利をしり、或は扇をとつて、ひぢより先の先後のかちをわきまへ、亦はしなひなどにて、わづかのはやき利を覚へ、手をきかせならい、足をきかせならひ、少の利のはやき所を専とする事也。我兵法におゐて、數度の勝負に、一命をかけてうち合、生死二ツの利をわけ、刀の道を覚へ、敵の打太刀の強弱を知り、刀のはむねの道をわきまへ、敵をうちはたす所の鍛錬を得るに、ちいさき事、弱き事、思ひよらざる所也。殊に六具かためてなどの利に、ちいさき事、思ひいづる事にあらず。されば、命をばかりの打あいにおゐて、壱人して五人十人ともたゝかひ、其勝道をたしかにしる事、我道の兵法也。然るによつて、一人して拾人に勝、千人を以万人に勝道理、何の差別あらんや。能々吟味有べし。さりなから、常/\の稽古の時、千人万人をあつめ、此道しならふ事、なる事にあらず。獨太刀をとつても、其敵々の智略をはかり、敵の強弱、手立を知り、兵法の智徳を以て、萬人に勝所をきわめ、此道の達者となり、我兵法の直道、世界に於てたれか得ん、また、いづれかきわめむと、たしかに思ひとつて、朝鍛夕錬して、ミがきおほせて後、獨、自由を得、おのづから奇特を得、通力不思儀有所、是兵として法をおこなふ息也。

 【鈴木家本】

二刀一流【脱字】兵法、戦の事を火に思ひとつて、戦勝負の事を、火之巻として、此巻に書顕す也。先、世間の人毎に、兵法の利をちいさく思ひなして、或ハゆび先にて、手くび五寸三寸の利をしり、或ハ扇をとつて、ひぢより先の先後のかちをわきまへ、又ハしなひなどにて、わづかのはやき利を覚へ、手をきかせならひ、足をきかせならひ、少の利のはやき所を専とする事也。我兵法におゐて、数度の勝負に、一命をかけてうち合、生死二ツの利をわけ、刀の道を覚へ、敵の打太刀の強弱をしり、刀のはむねの道をわきまへ、敵を打はたす所の鍛練を得るに、ちいさき事、弱き事、思ひよらざる所也。ことに六具かためてなどの利に、ちいさき事、思ひいづる事にあらず。されバ、命をばかりの打あひにおゐて、一人して五人十人ともたゝかひ、其勝道をたしかにしる事、我道の兵法也。然るによつて、一人して十人に勝、千人をもつて万人に勝道理、何のしやべつあらんや。能々吟味有べし。さりなから、常々の稽古の時、千人萬人をあつめ、此道しならふ事、なる事に非ず。獨太刀をとつても、其敵々の智略をはかり、敵の強弱、手だてをしり、兵法の智徳をもつて、万人に勝所をきわめ、此道の達者となり、我兵法の直道、世界におゐてたれか得む、又何かきわめむと、たしかに思ひとつて、朝鍛夕錬して、ミがきおほせて後、獨自由を得、おのづから奇特を得、通力不思儀有所、是兵として法をおこなふ息なり。

 【伊藤家本】

二天一流の兵法、戦の事を火に思ひとつて、戦勝負の事を、火之巻として、此巻に書顕す也。先、世間の人毎に、兵法の利をちいさくおもひなして、或はゆびさきにて、手くび五寸三寸の利をしり、或は扇をとつて、ひぢより先の先後のかちをわきまへ、亦はしなひなどにて、わづかのはやき利を覚へ、手をきかせならひ、足をきかせならひ、少の利のはやき所を専とする事也。我兵法におゐて、数度の勝負に、一命をかけてうち合、生死二つの利をわけ、刀の道を覚へ、敵の打太刀の強弱を知り、刀のはむねの道をわきまへ、敵をうちはたす所の鍛練を得るに、ちいさき事、弱き事、思ひよらざる所也。殊に六具かためてなどの利に、ちいさき事、思ひいづる事にあらず。されバ、命をはかりの打あひにおゐて、一人して五人十人ともたゝかひ、其勝道をたしかにしる事、我道の兵法也。然るによつて、一人して十人に勝、千人を以万人に勝道理、何の差別あらんや。能々吟味有べし。さりなから、常/\の稽古の時、千人万人をあつめ、此道しならふ事、なる事にあらず。獨太刀をとつても、其敵々の智略をはかり、敵の強弱、手立を知り、兵法の智徳を以て、萬人に勝所をきわめ、此道の達者となり、我兵法の直道、世界に於てたれか得ん、又、いづれかきハめむと、たしかに思ひとつて、朝鍛夕錬して、ミがきおほせて後、獨、自由を得、おのづから奇特を得、通力不思儀有所、是兵として法をおこなふ息也。

 【石井家本】

二天(刀)一流の兵法、戦の事を火に思ひとつて、戦勝負の事を、火之巻として、此巻に書顕す也。先、世間の人毎に、兵法の利をちいさくおもひなして、或はゆびさきにて、手くび五寸三寸の利をしり、或は扇をとつて、ひぢより先の先後のかちをわきまへ、亦はしなひなどにて、わづかのはやき利を覚へ、手をきかせならひ、足をきかせならひ、少の利のはやき所を専とする事也。我兵法におゐて、数度の勝負に、一命をかけてうち合、生死二つの利をわけ、刀の道を覚へ、敵の打太刀の強弱を知り、刀のはむねの道をわきまへ、敵をうちはたす所の鍛練を得るに、ちいさき事、弱き事、思ひよらざる所也。殊に六具かためてなどの利に、ちいさき事、思ひいづる事にあらず。されバ、命をばかりの打あひにおゐて、一人して五人十人ともたゝかひ、其勝道(を)たしかにしる事、我道の兵法也。然るによつて、一人して十人に勝、千人を以万人に勝道理、何の差別あらんや。能々吟味有べし。さりなから、常/\の稽古の時、千人万人をあつめ、此道しならふ事、なる事にあらず。獨太刀をとつても、其敵/\の智略をはかり、敵の強弱、手立を知り、兵法の智徳を以、萬人に勝所をきはめ、此道の達者となり、我兵法の直道、世界に於てたれか得ん、又(ハ)いづれかきハめむと、たしかに思ひとつて、朝鍛夕錬して、ミがきおほせて後、獨、自由を得、おのづから奇特を得、通力不思儀有所、是兵として法をおこなふ息也。  

 【神田家本】

二天(刀)一流の兵法、戦の事を火に思ひとつて、戦勝負の事を、火之巻として、此巻に書顕す也。先、世間の人毎に、兵法の利をちいさくおもひなして、或はゆびさきにて、手くび五寸三寸の利をしり、或は扇をとつて、ひぢより先の先後のかちをわきまへ、亦はしなひなどにて、わづかのはやき利を覚へ、手をきかせならひ、足をきかせならひ、少の利のはやき所を専とする事也。我兵法におゐて、数度の勝負に、一命をかけてうち合、生死二つの利をわけ、刀の道を覚へ、敵の打太刀の強弱を知り、刀のはむねの道をわきまへ、敵をうちはたす所の鍛練を得るに、ちいさき事、弱き事、思ひよらざる所也。殊に六具かためてなどの利に、ちいさき事、思ひいづる事にあらず。されども(バ)、命をばかりの打あひにおゐて、一人して五人十人ともたゝかひ、其勝道をたしかにしる事、我道の兵法也。然るによつて、一人して十人に勝、千人を以万人に勝道理、何の差別あらんや。能々吟味有べし。さりなから、常/\の稽古の時、千人万人をあつめ、此道しならふ事、なる事にあらず。獨太刀をとつて(も)、其敵/\の智略をはかり、敵の強弱、手立を知り、兵法の智徳を以、萬人に勝所をきはめ、此道の達者となり、我兵法の直道、世界に於てたれか得ん、又、いづれかきハめむと、たしかに思ひとつて、朝鍛夕錬して、ミがきおほせて後、獨、自由を得、おのづから奇特を得、通力不思儀有所、是兵として法をおこなふ息也。

 【猿子家本】

二天一流の兵法、戦の事を火に思ひ取て、戦勝負の事を、火之巻として、此巻に書顕す也。先、世間の人毎に、兵法の利をちいさくおもひなして、或は指先にて、手首五寸三寸の利を知り、或は扇を取て、ひぢよりさきの先後の力を弁まへ、亦はしない抔にて、僅の早き利をおぼへ、手をきかせ習ひ、足をきかせ習ひ、少の利のはやき所を専とする事也。我兵法におゐて、數度の勝負に、一命をかけて打合、生死二つの利をわけ、刀の道を覚へ、敵の打太刀の強弱を知り、刀のはむねの道を弁まへ、敵を打はたす所の鍛練を得るに、ちいさき事、弱き事、思ひよらざる所也。殊ニ六具かためて抔の利に、ちいさき事、思ひいづる事にあら【脱字】されバ、命をばかりの打あひに於て、一人して五人十人共たゝかひ、其勝道を慥に知る事、我が道の兵法也。しかるに依て、一人して十人に勝、千人を以万人に勝道理、何の差別あらんや。能々吟味有べし。乍去、常/\の稽古の時、千人万人を集め、此道し習ふ事、なる事にあらず。獨太刀を取ても、其敵【脱字】の智略を計り、敵の強弱、手立を知り、兵法の智徳を以、萬人に勝所を究め、此道の達者となり、我兵法の直道、世界に於て誰か得ん、又、何れかきわめんと、慥に思ひ取て、朝鍛夕錬して、ミがきおほせて後、獨、自由を得、おのづから奇特を得、通力不思儀有所、是兵法として法を行ふ息也。

 【楠家本】

二刀一流の兵法、戦の事を火におもひとつて、戦勝負の事を、火の巻として、此巻に書顯す也。先、世間の人毎に、兵法の利をちいさく思ひなして、或ハゆびさきにて、手くび五寸三寸の利をしり、或ハ扇子をとつて、ひぢよりさきの先後のかちをわきまへ、又ハしないなどにて、わづかのはやき利を覚え、手をきかせならひ、足をきかせならひ、少の利のはやき所を専とする事也。わが兵法におゐて、数度の勝負に一命をかけて打合、生死二ツの利をわけ、刀の道をおぼえ、敵の打太刀の強弱をしり、刀のはむねの道をわきまへ、敵を打はたす所の鍛練を得るに、ちいさき事、よわき事、思ひよらざる所也。ことに六具かためてなどの利に、ちいさき事、思ひ出ることにあらず。されバ、命をばかりの打あひにおゐて、一人して五人十人ともたゝかひ、其勝道をたしかにしる事、わが道の兵法也。然によつて、一人して十人ニかち、千人をもつて万人にかつ道理、何のしやべつあらんや。能々吟味有べし。さりながら、常々の稽古の時、千人万人をあつめ、此道しならふ事、なる事にあらず。獨太刀をとつても、其敵々の智略をはかり、敵の強弱、手だてをしり、兵法の智徳をもつて、萬人にかつ所をきはめ、この道のたつしやとなり、わが兵法の直道、世界におゐてたれか得る、また、いづれかきハめんと、慥に思ひとつて、朝鍛夕練して、みがきおほせて後、獨、自由を得、をのづから奇特を得、通力不思議有處、是、兵として法をおこなふ息也。

 【細川家本】

二刀一流の兵法、戦の事を火におもひとつて、戦勝負の事を、火の巻として、此巻に書顕す也。先、世間の人毎に、兵法の利をちいさく思ひなして、或ハゆびさきにて、手くび五寸三寸の利をしり、或は扇をとつて、ひぢよりさきの先後のかちをわきまへ、又ハしないなどにて、わづかのはやき利を覚へ、手をきかせならい、足をきかせならひ、少の利のはやき所を専とする事也。我兵法におゐて、数度の勝負に一命をかけて打合、生死二ツの利をわけ、刀の道をおぼへ、敵の打太刀の強弱をしり、刀のはむねの道をわきまへ、敵を打果す所の鍛練を得るに、ちいさき事、よハき事、思ひよらざる所也。殊【脱字】六具かためてなどの利に、ちいさき事思ひ出ることにあらず。更バ、命をばかりの打あいにおゐて、一人して五人十人ともたゝかい、其勝道を慥に知る事、わが道の兵法也。然によつて、一人して十人にかち、千人をもつて万人に勝道理、何の差別あらんや。能々吟味有べし。さりながら、常々の稽古の時、千人万人を集、此道しならふ事、成事にあらず。獨太刀をとつても、其敵々の智略をハかり、敵の強弱、手だてをしり、兵法の智徳を以て、萬人に勝所を極、此道の達者と成、我兵法の直道、世界におゐて誰か得ん、又、いづれかきわめんと、慥に思ひとつて、朝鍛夕練して、みがきおほせて後、独、自由を得、おのづからきどくを得、通力不思議有所、是、兵として法をおこなふ息也。

 【丸岡家本】

二天一流兵法書火之巻 二刀一流の兵法、戦の事を火に思取て、戦勝負の事を、火の巻として、此巻に書著す也。先、世間の人毎に、兵法の理を小く思ひなして、或は指さきにて、手首五寸三寸の利をしり、或は扇を取て、臂よりさきの先後の勝を辨へ、又ハしなゐなどにて、纔のはやき利を覺、手をきかせ習ひ、足をきかせならひ、少の利の早き處を専とする事也。吾兵法におゐて、數度の勝負に一命をかけて打あひ、生死二ツの理をわけ、刀の道をゝぼへ、敵の打太刀の強弱をしり、刀の刃脊の道を辨へ、敵を打果す所の鍛煉を得るに、小キ事、弱きこと、思寄ざる所なり。ことに六具かためてなどの利に、ちいさき事、思ひ出ることにあらず。されバ、命をばかりの打合におゐて、一人して五人十人とも戦ひ、其勝みちをたしかに知こと、吾道の兵法也。然ニ因て、一人して十人に勝、千人を以て万人に勝道理、何の差別あらんや。能々吟味有べし。去ながら、常々の稽古の時、千人万人を集め、此道をしならふこと、なる事にあらず。獨太刀を取ても、其敵々の智略を計り、敵の強弱、手だてをしり、兵法の智徳を以、萬人に勝所を極メ、此道の達者となり、我兵法の直通、世界におゐて誰か得ん、又、何れかきハめんと、たしかに思ひ取て、朝鍛夕煉して、磨き覚へて後、獨、自由を得、おのづから奇特を得、通力不思議ある所、是、兵として法を行ふ息也。

 【富永家本】

    火 二刀一流の兵法、戦の事【脱字】火に思ひ取て、戦勝負の事を、火【脱字】巻として、此巻に書顯す也。先、世間の人ごとに、兵法の利をちゐさくおもひなして、或ハゆびの先にて、手首五寸三寸の【脱字**************】先後の勝をわきまへ、又ハしなゐなどにて、わづかの早き利を覚、手を切らせ習ひ、足を切らせ習ひ、少の利のはやき處を先とする事也。我兵法ニおゐて、数度の勝負に一命をかけ【脱字】打合、生死二ツの利をわけ、刀の道を覚、敵の打太刀の強弱を知り、刀のはむねの道をわきまへ、敵を打はたす所の鍛練を得るに、ちゐさき事と、よわき事、おもひよらざる所なり。殊に六具かため【脱字】などの利に、ちゐさき事おもひ出る事ニあらず。されバ、命をばかりの打合におゐて、一人して五人拾人とも戦、其勝道を慥に知る事、我道の兵法なり。然によつて、一人して十人に勝、千人を以て萬人に勝道理、何の差別あらんや。能々吟味有べし。乍去、常/\の稽古の時、千人萬人を集、此道仕習ふ事、成事に非ず。獨り太刀を取ても、其敵【脱字】の知略をはかり、敵の強弱、手立を知り、兵法の道の知徳を以て、萬人に勝所をきわめ、此道の達者となり、我兵法の直道、世界ニおゐて誰か得ん、又、いづれかきわめんと、たしかに思ひ取て、朝鍛夕練して、ミがきおほせて後、獨、自由を得、おのづから奇特を得、通力不思義有所、是、兵として法を行息也。

 【常武堂本】

    兵法五輪書火之巻 二刀一流の兵法、戦の事を火に思ひ取て、戦勝負の事を、火の巻として、此巻に書顕す也。先、世間の人毎に、兵法の利をちいさくおもひなして、或ハゆびさきにて、手くび五寸三寸の利をしり、或は扇をとつて、ひぢよりさきの先後のかちをわきまへ、又ハしないなどにて、わづかのはやき利をおぼえ、手をきかせならひ、足をきかせならひ、少の利のはやき所を専とする事也。我兵法に於て、数度の勝負に一命をかけて打合、生死二ツの利をわけ、刀の道をおぼえ、敵の打太刀の強弱をしり、刀の【脱字】むねの道をわきまへ、敵を打果す所の鍛練を得るに、ちいさき事、よわき事、思ひよらざる所也。殊【脱字】六具かためてなどの利に、ちいさき事思ひ出ることにあらず。更バ、命をばかりの打合に於て、一人して五人十人ともたゝかひ、其勝道を慥に知る事、わが道の兵法也。然によつて、一人して十人にかち、千人を以て万人へ勝道理、何の差別あらんや。能々吟味有べし。さりながら、常々の稽古の時、千人万人を集、此道しならふ事、成事にあらず。獨太刀を取ても、其敵々の智略をはかり、敵の強弱、手だてをしり、兵法の智徳を以て、万人に勝所を極、此道の達者と成、我兵法の直道、世界に於て誰か得む、又ハ、いづれかきわめんと、慥に思ひ取て、朝鍛夕練して、みがきおほせて後、獨、自由を得、おのづからきどくを得、通力不思議有所、是、兵として法をおこなふ息也。

 【田村家本】

二天一流   火之巻 二刀一流ノ兵法、戦ノコトヲ火ニ思ヒトツテ、闘勝負ノ事ヲ、火ノ巻トシテ、此書ニ書顯ス也。先、世間ノ人毎ニ、兵法ノ利ヲチイサク思ヒナシテ、或ハ指先ニテ、手クビ五寸三寸ノ利ヲシリ、或ハ扇子ヲ取テ、ヒヂヨリサキノ先後ノ勝ヲワキマヱ、又ハシナイ〔竹刀〕抔ニテ、ワヅカノ早キ利ヲ覚、手【脱字】キカセナラヒ、足ヲキカセ習ヒテ、少ノ利ノ早処ヲ専トスル【脱字】。我兵法ニ於、数度ノ勝負ニ一命ヲカケテ打合、生死二ツノ利ヲワケ、刀ノ道ヲ覺、敵ノ打太刀ノ強弱ヲ知、刀ノハムネノ道ヲワキマエ、敵ヲ打ハタス処ノ鍛練ヲ得ルニ、小キ事、弱キ事、思モヨラザル処也。コトニ六具ヲカタメテナドノ利ニ、少キ事思出ル事ニ非ズ。サレバ、命ヲバカリノ打合ニ於テ、一人ニシテ五人十人トモ戦、其勝道ヲ慥ニ知ル事、吾道ノ兵法也。然ニ依テ、一人シテ十人ニカチ、千人ヲ用テ万人ニ勝道利、何ノシヤベツアランヤ。能々吟味有ベシ。去ナガラ、常ヅネノ稽古ノ時、千人万人ノ集、此道シナラフ事、ナル事ニ非。独太刀ヲ取テモ、其敵テキノ智略ヲハカリ、敵ノ強弱、手ダテヲシリ、【脱字】其智徳ヲ以テ、万人ニ勝処ヲ極メ、此道ノ達者トナリ、我兵法ノ直通、世界ニ於誰カ得ン、亦、イヅレカキワメント、慥ニ思取テ、朝鍛夕練シテ、ミガキ覚テ後、独、自由ヲ得、自奇特ヲ得、通力不思儀アル処、是、兵トシテ法ヲ行フ息也。

 【狩野文庫本】

    火 二刀一流の兵法、戦の事を火に思ひ取て、戦勝負の事を、火之巻として、此巻ニ書顯【脱字】。先、世間の人毎に、兵法の利を少く思ひなして、或ハ指先にて、手首五寸三寸の利ヲ知、或ハ扇を取、ひぢより先の前後の勝を弁へ、又ハ品物抔ニて、纔の早き利を覚、手をきかせ習ひ、足をきかせ習ひ、少の利の早所を専とする事なり。我兵法ニおゐて、數度の勝負、一命をかけて打合、生死二ツの利をわけ、刀の道を覚、敵の打太刀の強弱を知、刀のはむねの道を弁へ、敵を打果す所の鍛練を得るに、ちいさき事、弱キ事、おもひよらざる所なり。殊ニ六具かためてなどの利に、少キ事思ひ出る事にあらず。されば、命をばかりの打合におゐてハ、一人して五人十人共戦、其勝道を慥ニ知事、我道の兵法なり。然によつて、一人して十人に勝、千人を以万人に勝道利、何の差別あらんや。能々吟味有べし。乍去、常々【脱字】稽古の時、千人万人をあつめ、此道仕習事、成事ニあらず。獨太刀を取ても、其敵/\の智畧を斗、敵の強弱、手だてを知、兵法の知徳を以、万人に勝所をきわめ、此道の達者となり、我兵法の直道、世界におゐて誰か得ん、又、何れか極と、【脱字】思ひ取て、朝鍛夕練してみがきおほせて後、獨、自由を得、自ラ奇特を得、通力不思儀有所、是、兵として法を行ふ道也。

 【多田家本】

二天一流圓明巻之三   火之巻 一 二刀一流の兵法、戦の事を火に思ひとつて、戦勝負の事を、火の巻として、此巻に書顕す所也。先、世間の人毎に、兵法の利をちいさく思ひなして、或はゆびの先にて、手首五寸三寸の利をしり、或ハ扇を取て、肘より先の先後の勝を弁へ、又ハしなひ抔にて、わづかの早き利を覚へ、手をきかせ習ひ、足をきかせならひ、少【脱字】利の早き所を専とする【脱字】也。我兵法におゐて、数度の勝負に、一命を懸て打合、生死二つの利をわけ、刀の道を覚、敵の打太刀の強弱を知事、刀のはむねの道を辨へ、敵を打果す所の鍛練を得るに、ちいさき事、弱き事、思ひよらざる所也。殊に六具堅めて抔の利に、ちいさき事、思ひ出る事にあらず。去ば、命をばかりの打合にをひてハ、一人して五人拾人共戦ひ、其勝道を慥に知事、我道の兵法也。然るに依て、壱人して十人に勝、千人を以て萬人に勝道【脱字】、何の差別あらんや。能々吟味有べし。乍去、常々の稽古に、千人万人を集、此道を仕習事、成事にあらず。獨太刀を取ても、其敵々の智略を斗、敵【脱字】強弱、手だてをしり、兵法の智徳を以て、万人に勝所をきわめ、此道の達者と成、我兵法の直道、世界にをひて誰か得ん、又、何かきわめんと、慥に思取て、朝鍛夕練して、みがきおほせて【脱字】自由を得、自ら奇特を得、通力不思儀有所、是、兵として法を行ふ道也。

 【山岡鉄舟本】

二刀一流ノ兵法、戦ノ事ヲ火ニ思ヒ取テ、戦勝負ノ事ヲ、火ノ巻トシテ、此巻ニ書顕ス也。先、世間ノ人毎ニ、兵法ノ利ヲ細ク思ナシテ、或ハ指先キニテ、手首五寸三寸ノ利ヲ知リ、或ハ扇子ヲ取テ、臂ヨリ先キノ先後ノ勝負ヲ辨ヘ、又ハシナヒ抔ニテ、ハヅカノ早キ利ヲ覚、手ヲキカセ習ヒ、足ヲキカセ習ヒ、少シノ利ノ早キ所ヲ専トスル事也。我兵法ニ於テ、数度ノ勝負ニ一命ヲ懸テ打合、生死二ツノ利ヲ分、刀ノ道ヲ覚、敵ノ打太刀ノ強弱ヲ知リ、刀ノ刄宗ノ道ヲ辨ヘ、敵ヲ打果ス処ノ鍛錬ヲ得ルニ、チイサキ事、弱事、思ヒ寄ラザル処也。殊ニ六具堅メテ抔ノ利ニ、チイサキ事、思出ル事ニ非ズ。去レ共、命【脱字】斗リノ打合ニ於テ、一人シテ五人十人共戦ヒ、其勝道ヲ慥ニ知ル事、我道ノ兵法也。然ルニ依テ、一人シテ十人ニ勝、千人ヲ以万人ニ勝道理、何ノ差別アランヤ。能々吟味有ベシ。去ナガラ、常々ノ稽古ノ時、千人万人ヲ集メ、此道仕習事、成ル事ニ非ズ。獨太刀ヲ取テモ、其敵々ノ智略ヲ斗リ、敵ノ強弱、ノキ立ヲ知リ、兵法ノ智徳ヲ以テ、万人ニ勝所ヲ極メ、此道ノ達者ト成、我兵法ノ直道、世界ニ於テ誰カ得ン、又、何レカ極ント、慥ニ思取テ、朝鍛夕錬シテ、磨キ覚テ後、獨、自由ヲ得、自ラ奇特ヲ得、通力不思儀有処、是、兵トシテ法ヲ行息也。

 【稼堂文庫本】

    火之巻 一 二刀一流の兵法、戦の事【脱字】火に思ひ取て、戦勝負のこと、を火の巻として、此巻に書顕す也。先、世間の人毎に、兵法の利を細さく思ひなして、或は指のさきにて、手首五寸三寸の利を知、或は扇子を取て、肘より先の先後の勝を弁へ、又はしなひ抔にて、纔のはやき利を覚えて、手をきかせ習ひ、足をきかせ習、少の利の早き所を専とすること也。我兵法におゐては、数度の勝負に一命を懸打合、生死二ツの利を分ケ、刀の道を覚、敵の打太刀の強弱を知り、刀の刄むねの道を弁へ、敵を打果ス所の鍛練の得るに、細きこと、弱きこと、思ひ寄らざる所也。殊に、六具を堅めてなどの利に、ちいさきこと、おもひ出すことに非。去バ、命を張るの利の打合に於ては、一人して五人十人共戦ひ、其勝道を慥ニ知ること、我道の兵法也。然るに依て、一人して十人に勝、千人を以万人に勝道理、何の差別有んや。【脱字】吟味有べし。乍去、常【脱字】の稽古の時、千人万人を集、此道仕習ふこと、成べき事に非ず。獨太刀を取ても、其敵々の智畧を斗り、敵の弱強、手並を知、我兵法の智徳を以、万人に勝所を極め、此道の達者と成、我兵法の直道、世界に於て誰か得ん、又、誰か極んと、慥に思ひ取て、朝鍛夕練して、磨おほせて後、獨、自由を得、自ら奇特を得、通力不思議有所、是、兵として法を行ふ基也。  

 【大瀧家本】

二刀一流の兵法、戦の事を火に思ひ取て、戦勝負の事を、火の巻として、此巻に書顕すなり。先、世間の毎人【脱字】、兵法の利を小くおもひなして、或は指差にて、手首五寸三寸の利を知り、或ハ扇を取て、臂より先の先後の勝を弁ひ、又はしなへなどにて、僅の早き利を覚へ、手をきかせ習ひ、足をきかせ習ひ、少の利のはやき所を専とする事也。我兵法におゐて、数度の勝負に一命を懸て打合、生死二ツの利を分け、刀の道を覚へ、敵の打太刀の強弱を知り、刀の刄むねの道を弁ひ、敵を打果す所の鍛練を得るに、小き事、弱き事、思ひ寄らざる所なり。殊に六具かためて抔の利に、小き事おもひ出る事にあらず。されば、命を斗りの打合におゐて、壱人して五人拾人とも戦ひ、其勝道を慥ニ知る事、我道の兵法也。然る【脱字】よつて、壱人して拾人に勝、千人を以て万人に勝道理、何の差別あらんや。能々吟味有べし。乍去、常々【脱字】稽古の時、千人万人を集め、此道仕習ふ事、成事にあらず。獨り太刀を取ても、其敵々の智略を斗り、敵の強弱、手立を知り、兵法の智徳を以て、万人に勝処を極め、此道の達者と成、我兵法の直道、世界におゐて誰か得ん、又、何れか極めんと、慥ニ思ひ取て、朝鍛夕練して、磨き負ふせて後、獨り自由を得、おのづから奇特の【脱字】、通力不思議有所、是、兵として法を行ふ道なり。    PageTop    Back   Next 

  2 場の次第と云事

 【吉田家本】

一 場の次第と云事。場の位を見分る所、場におゐて日をおふと云事有。日をうしろになして搆也。若、所により、日をうしろにする事ならざるときハ、右の脇へ日をなす様にすべし。座敷にても、あかりをうしろ、右わきとなす事、同前也。うしろの場つまらざる様に、左の場をくつろげ、右脇の場をつめて、搆たき事也。よるにても、敵のミゆる所にてハ、火をうしろにおひ、あかりを右脇にする事、同前と心得て、搆べきもの也。敵を見おろすと云て、少も高き所に搆やうに心得べし。座敷にてハ、上座を高き所と思べし。さて、戦になりて、敵をおひまハす事、我左のかたへ追まハす心、難所を敵のうしろにさせ、何れにても難所へ追かくる事、肝要也。難所にて、敵に場をミせずといひて、敵にかほをふらせず、油断なくせりつむる心也。座敷にても、敷居、鴨居、戸障子、縁など、又、柱などの方へ、おひつむるにも、場をミせずと云事、同前也。いづれも敵をおひ懸る方、足場のわろき所、又ハわきにかまいの有所、何れも場の徳を用て、場の勝を得と云心専にして、能々吟味し、鍛錬有べきもの也。

 【立花隨翁本】

   (書巻欠損により欠落)

 【赤見家甲本】

一 場の次第と云事。場の位を見分る所、場におゐて、日をおふと云事有。日をうしろになして構也。若、所により、日をうしろにする事ならざるときハ、右の脇へ日をなす様にすべし。座敷にても、あかりをうしろ、右わきとなす事、同前也。うしろの場つまらざる様に、左の場をくつろげ、右脇の場をつめて、構たき事也。よるにても、敵のミゆる所にてハ、火をうしろにおひ、あかりを右脇にする事、同前と心得て構べきもの也。敵を見をろすと云て、少も高き所に構やうに心得べし。座敷にてハ、上座を高き所と思べし。さて、戦になりて、敵を追まハす事、我左のかたへ追まハす心、難所を敵のうしろにさせ、何れにても難所へ追かくる事、肝要也。難所にて、敵に場をミせず、といひて、敵にかほをふらせず、油断なくせりつむる心也。座敷にても、敷居、鴨居、戸障子、縁など、亦、柱などの方へ、追つむるにも、場をミせずと云事、同前也。いづれも敵を追掛る方、足場のわろき所、又ハわきにかまひの有所、何れも場の徳を用て、場の勝を得といふ心専にして、能々吟味【脱字】、鍛錬有べきもの也。

 【中山文庫本】

一 場の次第と云事。場の位を見分る所、場におゐて、日をおふと云事有。日をうしろになして搆也。若、所により、日をうしろにする事ならざる時は、右の脇へ日をなす様にすべし。座敷にても、あかりをうしろ、右わきとなす事、同前也。うしろの場つまらざる様に、左の場をくつろげ、右の脇場をつめて、搆たき事也。よるにても、敵の見ゆる所にてハ、火をうしろにおひ、あかりを右わきにする事、同前と心得て搆べきもの也。敵を見おろすと云て、少も高き所に搆るやうに心得べし。座敷にてハ、上座を高き所と思べし。さて、戦になりて、敵をおひまハす事、我左の方へ追まハす心、難所を敵のうしろにさせ、何れにても難所へ追かくる事、肝要也。難所にて、敵に場をミせず、と云て、敵にかほをふらせず、由断なくせりつむる心なり。座敷にても、敷居、鴨居、戸障子、縁など、又、柱などの方へ、おひつむるにも、場を見せずと云事、同前也。いづれも敵をおひ懸る方、足場のわろき所、又ハ脇にかまいの有所、何れも場の徳を用て、場の勝を得と云心専にして、能々吟味し、鍛練有べきもの也。

 【近藤家甲本】

一 場の次第と云事。場の位を見分所、場におゐて、日をおふと云事有。日をうしろになして搆也。若、所により、日をうしろにする事ならざる時は、右の脇へ日をなす様にすべし。座敷にても、あかりをうしろ、右わきとなす事、同前也。うしろの場つまらざる様に、左の場をくつろげ、右脇の場をつめて、搆たき事也。よるにても、敵のミゆる所にては、火をうしろにおひ、あかりを右脇にする事、同前と心得て搆べきもの也。敵を見おろすと云て、少も高き所に搆やうに心得べし。座敷にては、上座を高き所と思ふべし。さて、戦になりて、敵を追まハす事、我左のかたへ追まハす心、難所を敵のうしろにさせ、何れにても難所へ追かくる事、肝要也。難所にて、敵に場をミせず、といひて、敵にかほをふらせず、油断なくせりつむる心也。座敷にても、敷居、鴨居、戸障子、縁など、亦、柱などの方へ、追つむるにも、場をミせずと云事、同前也。いづれも敵を追懸方、足場のわろき所、又はわきにかまひの有所、何れも場の徳を用ひて、場の勝を得といふ心専にして、能々吟味【脱字】、鍛錬有べきもの也。

 【近藤家乙本】

一 場の次第と云事。場の位を見分る所、場におゐて、日をおふと云事有。日をうしろになして搆也。若、所により、日をうしろにする事ならざる時は、右の脇へ日をなす様にすべし。座敷にても、あかりをうしろ、右わきとなす事、同前也。うしろの場つまらざる様に、左の場をくつろげ、右脇の場をつめて、搆たき事なり。よるにても、敵のミゆる所にては、火をうしろにおひ、あかりを右脇にする事、同前と心得て搆べきもの也。敵を見おろすと云て、少も高き所に搆やうに心得べし。座敷にては、上座を高き所と思ふべし。さて、戦になりて、敵を追まわす事、我左のかたへ追まわすこゝろ、難所を敵のうしろにさせ、何れにても難所へ追かくる事、肝要也。難所にて、敵に場をミせず、といひて、敵にかほをふらせず、油断なくせりつむる心也。座敷にても、敷居、鴨居、戸障子、縁など、亦、柱などの方へ、追つむるにも、場をミせずと云事、同前也。いづれも敵を追懸る方、足場のわろき所、亦ハわきにかまひの有所、何れも場の徳を用て、場の勝を得といふ心専にして、能々吟味【脱字】、鍛錬有べきもの也。

 【鈴木家本】

一 場の次第と云事。場の位を見分所、場におゐて、日をおふと云事有。日をうしろになして搆也。若、所により、日をうしろにする事ならざる時ハ、右の脇え日をなす様にすべし。座敷にても、あかりをうしろ、右わきとなす事、同前也。うしろの場つまらざる様ニ、左の場をくつろげ、右脇の場をつめて、搆たき事也。よるにても、敵のミゆる所にてハ、火をうしろにおひ、あかりを右脇にする事、同前と心得て搆べきもの也。敵を見おろすと云て、少も高き所に搆やうに心得べし。座敷にてハ、上座を高き所と思ふべし。さて、戦になりて、敵をおひまハす事、我左のかたへ追廻す心、難所を敵のうしろにさせ、何にても難所へ追かくる事、肝要也。難所にて、敵に場をミせず、といひて、敵にかほをふらせず、由断なくせりつむる心也。座敷にても、敷居、鴨居、戸障子、縁など、又、柱などの方へ、おひつむるにも、場をミせずと云事、同前也。いづれも敵をおひかくる方、足場のわろき所、又ハ脇にかまひの有所、いづれも場の徳を用て、場の勝を得と云心専にして、能々吟味し、鍛錬有べきものなり。

 【伊藤家本】

一 場の次第と云事。場の位を見分所、場におゐて、日をおふと云事有。日をうしろになして搆也。若、所により、日をうしろにする事ならざる時は、右の脇へ日をなす様にすべし。座敷にても、あかりをうしろ、右わきとなす事、同前也。うしろの場つまらざる様に、左の場をくつろげ、右脇の場をつめて、搆たき事也。よるにても、敵のミゆる所にては、火をうしろにおひ、あかりを右脇にする事、同前と心得て搆べきもの也。敵を見おろすと云て、少も高き所に搆やうに心得べし。座敷にては、上座を高き所と思ふべし。さて、戦になりて、敵を追まハす事、我左のかたへ追まハす心、難所を敵のうしろ【脱字】させ、何れ【脱字】も難所へ追かくる事、肝要也。難所にて、敵に場をミせず、といひて、敵にかほをふらせず、油断なくせりつむる心也。座敷にても、敷居、鴨居、戸障子、縁など、亦、柱などの方へ、おひつむるにも、場をミせずと云事、同前也。いづれも敵を追懸る方、足場のわろき所、又ハわきにかまひの有所、何れも場の徳を用て、場の勝を得といふ心専にして、能々吟味【脱字**】有べきもの也。

 【石井家本】

一 場の次第と云事。場の位を見分所、場におゐて、日をおふと云事有。日をうしろになして搆也。若、所により、日をうしろにする事ならざる時は、右の脇へ日をなす様にすべし。座敷にても、あかりをうしろ、右わきとなす事、同前也。うしろの場つまらざる様に、左の場(を)くつろげ、右脇の場をつめて、搆たき事也。よるにても、敵のミゆる所にては、火をうしろにおひ、あかりを右脇にする事、同前と心得て搆べきもの也。敵を見おろすと云て、少も高き所を(に)搆やうに心得べし。座敷にては、上座を高き所と思ふべし。さて、戦になりて、敵を追まハす事、我左のかたへ追まハす心、難所を敵のうしろにさせ、何れにても難所へ追かくる事、肝要也。難所にて、敵に場をミせず、といひて、敵にかほをふらせず、油断なくせりつむる心也。座敷にても、敷居・鴨居・戸障子・縁など、亦、柱などの方へ、おひつむるにも、場をミせずと云事、同前也。いづれも敵を追懸る方、足場のわろき所、又ハわきにかまひの有所、何れも場の徳を用て、場の勝を得といふ心専にして、能々吟味【脱字】、鍛錬有べきもの也。  

 【神田家本】

一 場の次第と云事。場の位を見分所、場におゐて、日をおふと云事有。日をうしろになして搆也。若、所により、日をうしろにする事ならざる時は、右の脇へ日をなす様にすべし。座敷にても、あかりをうしろ、右わきとなす事、同前也。うしろの場つまらざる様に、左の場(を)くつろげ、右脇の場をつめて、搆たき事也。よるにても、敵のミゆる所にては、火をうしろにおひ、あかりを右脇にする事、同前と心得て搆べきもの也。敵を見おろすと云て、少も高き所に搆やうに心得べし。座敷にては、上座を高き所と思ふべし。さて、戦になりて、敵を追まハす事、我左のかたへ追まハす心、難所を敵のうしろにさせ、何れにても難所へ追かくる事、肝要也。難所にて、敵に場をミせず、といひて、敵にかほをふらせず、油断なくせりつむる心也。座敷にても、敷居、鴨居、戸障子、縁など、亦、柱などの方へ、追つむるにも、場をミせずと云事、同前也。いづれも敵を追懸る方、足場のわるき所、又はわきにかまひの有所、何れも場の徳を用て、場の勝を得といふ心専にして、能々吟味【脱字】、鍛錬有べきもの也。

 【猿子家本】

一 場の次第と云事。場の位を見分場所におゐて、日をおふと云事有。日をうしろになして搆也。若、所により、日をうしろにする事ならざる時は、右の脇へ日をなす様にすべし。座敷にても、あかりをうしろ、右脇となす事、同前也。うしろの場つまらざる様に、左の場【脱字】くつろげ、右脇の場をつめて、搆たき事也。夜にても、敵のミゆる所にてハ、火をうしろにおひ、あかりを【脱字】わきにする事、同前と心得て、搆べきもの也。敵を見おろすと云て、少も高き所に搆る様に心得べし。座敷にては、上座を高き所と思ふべし。扨、戦になりて、敵を追まハす事、我左の方へ追まハす心、難所を敵のうしろにさせ、何れにても難所へ追かくる事、肝要也。難所にて、敵に場【脱字】ミせず、といひて、敵に顔をふらせず、無油断せりつむる【脱字】也。座敷にても、敷居、鴨居、戸障子、縁抔ど、亦、柱抔の方へ、追詰るニも、場をミせずと云事、同前也。何れも敵を追懸る方、足場の悪敷所、又ハ脇に搆ひの有所、何れも場の徳を用て、場の勝を得といふ心専にして、能々吟味【脱字】、鍛錬有べきもの也。

 【楠家本】

一 場の次第といふ事。場のくらゐを見わくる所、場ニおゐて日をおふと云事あり。日をうしろニなしてかまゆるなり。若、所により日をうしろニする事ならざる時ハ、右のわきへ日をなすやうにすべし。座敷にても、あかりをうしろ、右わきとなす事、同前也。うしろの場つまらざるやうに、左の場をくつろげ、右のわきの場をつめてかまへたき物也。よるにても、敵のミゆる所にてハ、火をうしろにおい、あかりを右わきにする事、同前と心得て、かまゆべきもの也。敵を見をろすといひて、少も高き所にかまゆるやうに心得べし。座敷にてハ、上座を高き處とおもふべし。扨、戦になりて、敵を追まはす事、我左の方へおゐまはす心、難所を敵のうしろ【脱字】させ、いづれにても難所へ追かくる事、肝要也。難所にて、敵に場を見せずといひて、敵にかほをふらせず、ゆだんなくせりつむる心也。座敷にても、敷居、かもゐ、戸障子、ゑんなど、又、柱などの方へ追つむるにも、場をミせずといふ事、同前也。いづれも敵を追かくる方、足場のわろき所、又ハわきにかまいのある所、いづれも場の徳を用て、場のかちを得るといふ心専にして、能々吟味し、鍛練あるべきもの也。

 【細川家本】

一 場の次第と云事。場のくらいを見わくる所、場におゐて日をおふと云事有。日をうしろになしてかまゆる也。若、所により日をうしろにする事ならざる時ハ、右のわきへ日をなすやうにすべし。座敷にても、あかりをうしろ、右脇となす事、同前也。うしろの場つまらざるやうに、左の場をくつろげ、右のわきの場をつめてかまへたき事也。夜るにても、敵のミゆる所にてハ、火をうしろにおい、あかりを右脇にする事、同前と心得て、かまゆべきもの也。敵をミおろすといひて、少も高き所にかまゆるやうに心得べし。座敷にては、上座を高き所とおもふべし。扨、戦になりて、敵を追廻す事、我左の方へ追まハす心、難所を敵のうしろにさせ、いづれにても難所へ追掛る事、肝要也。難所にて、敵に場を見せずといひて、敵に顔をふらせず、油斷なくせりつむる心也。座敷にても、敷居、鴨居、戸障子、縁など、亦、柱などの方へ追つむるにも、場をミせずと云事、同前也。いづれも敵を追懸る方、足場のわるき所、亦は脇にかまいの有所、いづれも場の徳を用て、場のかちを得ると云心専にして、能々吟味し、鍛練有べきもの也。

 【丸岡家本】

一 場の次第と云事。場の位を見分る所、場におゐて日を負といふ事あり。日を後になして搆るなり。若、所により日を後にすることならざる時は、右の脇に日をなすやうにすべし。座敷にても、明りを後にし、右脇となすこと同前也。後の場つまらざるやうに、左の場をくつろげ、右の脇の場をつめてかまへたき事也。夜にても、敵の見ゆる所にては、火を後に負、明りを右脇にすること、同前と心得て、可搆者なり。敵を見下すと云て、少も高き處に搆る樣に心得べし。座敷にては。上座を高き處と思ふべし。扨、戦になりて、敵を追廻すこと、我左の方え追まハす心、難所を敵の後にさせ、何れにても難所え追懸る事、肝要也。難處にて、敵に場を見せずと云て、敵に顔をふらせず、油斷なくせりつむる心也。座敷にても、しきゐ、鴨居、戸障子、縁など、又、柱などの方へ追つむるにも、場を見せずと云事、同前なり。何も敵を追懸る方、足場のわるき處、又ハ脇にかまひのある所、何れも場の徳を用て、場の勝を得ると云心専ニして、能々吟味し、鍛煉有べき者也。

 【富永家本】

一 場の次第といふ事。場の位を見分る處、場におゐて日をおふと云事有。日を後になして搆なり。もし、所により日を後にする事ならざる時ハ、右の脇へ日をなす様にすべし。座敷にても、明りを後ロに、右脇になす事、同前也。後の場つまらざるやうに、右の場をくつろげ、左の【脱字】場をつめてかまえたき事なり。よるにても、敵の見ゆる所にてハ、火を後ロにおゐ、明かりを【脱字】脇にする事、同前と心得て、かまゆべき者也。敵を見をろすといふて、少も高き處にかまゆる様【脱字】心得べし。座敷にてハ、上座を高き所と思ふべし。扨、戦になりて、敵を追廻す事、我左の方へ追廻す心、難所を敵の後にさせ、いづれにても難所へ追かくる事、肝要なり。難所にて、敵に場を見せずと云て、敵にかをゝふらせず、油断なくせり詰るこゝろ也。座敷にても、敷居、鴨居、戸障子、ゑんなど、又ハ、柱などの方へ追つむるにも、場を見せずと云事、同前也。いづれも敵を追かくる方、足場のわるき所、又は【脱字】かまひの有所、何れも場【脱字】徳有て、場の勝をうるといふ心を専にして、好々吟味し、鍛練可有者也。

 【常武堂本】

一 場の次第と云事。場のくらゐを見わくる所、場に於て日をおふと云事有。日をうしろになしてかまゆる也。若し、所により日をうしろにする事ならざる時ハ、右のわきへ日をなすやうにすべし。座敷にても、あかりをうしろ、右脇となす事、同前也。うしろの場つまらざる様に、左の場をくつろげ、右のわきの場をつめてかまへたき事也。夜る見も、敵のみゆる所にてハ、火をうしろにおひ、あかりを右脇にする事、同前と心得て、かまゆるもの也。敵をみおろすといひて、少も高き所にかまゆる様に心得べし。座敷にてハ、上座を高き所と思ふべし。扨、戦になりて、敵を追廻す事、我左の方へ追まはす心、難所を敵のうしろにさせ、いづれにても難所へ追掛る事、肝要也。難所にて、敵に場を見せずといひて、敵に顔をふらせず、油斷なくせりつむる心也。座敷にても、敷居、鴨居、戸障子、縁など、亦、柱などの方へ追つむるにも、場をみせずと云事、同前也。いづれも敵を追懸る方、足場のわるき所、亦ハ脇にかまいの有所、いづれも場の徳を用て、場のかちを得るといふ心専にして、能々吟味し、鍛練あるべきもの也。

 【田村家本】

 場ノ次第ト云事 バノ位ヲ見ワクル所、場ニ於テ日ヲ丶フト云事有、日ヲ後ニナシテ搆也。若、所ニヨリ日ヲ後ニスル事ナラザル時ハ、右ノ脇エ日ヲナスヤウニスベシ。座敷ニテモ、アカリヲ後ニシ、右脇トナス事同前也。後ロノバツマラザルヤウニ、左ノ場ヲクツロゲ、右脇ノ場ヲツメテ搆度コト也。夜ニテモ、敵ノ見ユル所ニテハ、火ヲ後ニヲヒ、明リヲ右脇ニスル事、同前ト心得テ搆ベキ者也。敵ヲ見下スト云テ、少ニテモ高キ所ニ搆ヤウニ心得ベシ。座敷ニテハ、上座ヲ高所ト思ベシ。扨、戦ニナリテ、敵ヲ追マワスコト、吾左ノ方ヘ追マワス心、難所ヲ敵ノ後ニサセ、何レニテモ難所エ追掛ル事、肝要也。難所ニテ、敵ニ場ヲ見セズト云テ、敵ニ顔ヲフラセズ、由断ナクセリツムルコ丶ロ也。座シキニテモ、敷居、鴨居、戸障子、ヱンナド、又、柱ナドノ方ヘ追ツムルニモ、場ヲ見セズト云事、同前也。何モ敵ヲ追掛ル方、足場ノ悪キ所、亦ハ脇エカマイノアル所、イヅレモ場ノ徳ヲ用テ、場ノ勝ヲ得ト云心専ニシテ、能々吟味シテ、タンレンアルベキモノ也。

 【狩野文庫本】

一 場の次第の事。場の位を見分所、場におゐて日をおふと云事、日を後になして搆る也。若、所ニより日を後にする事ならざる時は、右の脇へ日をなす樣ニすべし。座敷にても、あかりを後、右脇となす事【脱文*******************************************************************】同前と心得て搆べき者也。敵を見おろすと云て、少も高き所に搆樣ニ心得べし。座敷ニ而も、上座を高所と思ふべし。扨、戦に成て、敵を追廻す事、我左の方え追廻す心、難所を敵の後ニさせ、何れにても難所え追懸る事、肝要也。難所ニ而、敵に場を見せずといふて、敵に顔をふらせず、油斷なくせりつめる心也。座敷ニ而も、敷居、鴨居、戸障子、椽抔、又、柱などの方え追詰ニも、場を見せずといふこと、同前也。何レも敵を追かくる方、足場の悪キ所、又、脇にかまひの有所、何れも場の徳を用て、場の勝を得ると云心専にして、能々吟味して、鍛練可有者也。  【狩野文庫本特異箇条】 一 兵法の道を行ふ者ハ、常に其道に心を付て、座敷に居ても其座の損徳を知り、座の道具に付けても、其理を得、又外面にても、山を見て其山の理を知り、川を見てハ、其徳を覚、沼ふけまでも、兵法の利を受る心、肝要なり。

 【多田家本】

一 場の次第の事。場の位を見分る所、肝要也、場にをひて、日をおふと云事有り。日を後になしてかまゆる也。若、所により、日を後にする事ならざる時ハ、右【脱字】へ日をなすやうにすべし。座敷にてハ、明りを後に右脇となすやうにすべし。後の場つまらざる様に、右の場をくつろげ、左脇の場を詰て、搆度【脱字】也。夜にても、敵の見ゆる所にてハ、火を後におひ、明りを右脇にする事、同前と心得て搆べきもの也。 (★改行。別条立て)一 敵を見おろすと云て、少も高き所にかまゆる様に心得べし。座敷にてハ、上座を高き所と思ふべし。扨、戦になりて、敵を追回す事、我が左の方へ追回す心、難所を敵の後にさせ、何れにても難所へ追懸る事、肝要也。難所にて、敵に場を見せず、といひて、敵に顔をふらせず、油断なくせりつめる心なり。座敷にても、敷居、鴨居、戸障子、縁抔、又、柱抔の方へ、追つむるにも、場を見せずと云事、同前也。何れも敵を追懸る【脱字】、足場のわるき處、又ハ脇に搆い【脱字】有所、何れも場の徳を用て、場の勝を得ると云心専也、能々吟味すべし。

 【山岡鉄舟本】

一 場之次第ト云事。場ノ位ヲ見分ル所、場ニ於テ、日ヲ逐ト云事有。日ヲ後ニ成シテ搆也。若シ、所ニ依リ、日ヲ後ニスル事ナラザル時ハ、右ノ脇前日ヲ成ス様ニスベシ。坐舗ニテモ、明リヲ後ニ、右脇ト成ス事、同前也。後ノ場ツマラザル様ニ、左ノ場ヲクツロゲ、右ノ脇ノ場ヲツメテ搆タキ事也。夜ニテモ、敵ノ見ユル所ニテハ、火ヲ後ニ追、明ヲ右脇ニスル事、同前ト心得テ、搆ユベキ者也。敵ヲ見ヲロスト云テ、少ニテモ高キ所ニ搆ル様ニ心得ベシ。座舗ニテハ、上座ヲ高キ處ト思ベシ。扨、戦ニ成テ、敵ヲ追廻ス事、我左ノ方ヘ追廻ス心、難所ヲ敵ノ後ロニサセ、何レニテモ難所ヘ追掛ケル事、肝要也。難所ニテ、敵ニ場ヲ見セズト云テ、敵ニ顔ヲフラセズ、油断ナクセリ詰ル心也。坐舗ニテモ、敷居、鴨居、戸障子、椽抔、又、柱抔ノ方ヘ追積ルニモ、場ヲ見セズト云事、同前也。何レモ敵ヲ追掛ル方、足場ノ悪キ所、又ハ脇ニ搆ノ有所、何レモ場ノ徳ヲ用テ、場ノ勝ヲ得ルト云心専ニシテ、能々吟味シ、鍛錬有ベキ者也。

 【稼堂文庫本】

一 場の次第と云事。場の位を見分ルこと、肝要也、場に於て日を覆と云事有り。日を後になして搆也。若し、所ニよりて、日を後にすること成ざる時は、右の脇へ日を成す様にすべし。座敷にても、明りを後ろ、右脇となすこと、同前也。後の場詰らざる様に、右の場をくつろげ、左【脱字】の場を詰て、搆たきこと也。夜にても、敵の見ゆる所にては、火を後に覆ひ、明りを右脇にすること、同前と心得て、搆べき者也。敵を見おろすと云て、少ニても高き所に搆る様に心得べし。座敷にてハ、上座を高き所と思ふべし。扨、戦に成て、敵を追廻すこと、我左の方へ追廻す心、とかく難所を敵の後にさせ、何れにても難所へ追懸ること、肝要也。難所にて、敵に場を見せずと云て、敵に顔をふらせず、由断なくせり詰る心也。座敷にても、敷居、鴨居、戸障子、ゑんなど、又、柱抔の方へ、追詰る事、場を見せずと云こと、同前也。何れも敵を追懸る事、足場のわるき所、又は脇にかまひの有所、何れも場の徳を用ひて、場の勝を得ると云心専にして、能々吟味して、鍛錬有べき者也。  

 【大瀧家本】

一 場の次第の事。場の位を見分る事、場におゐて日を負ふといふ事有。日を後になして搆ふる也。若、所により日を後にする事ならざる時ハ、右の脇へ日をなす様にすべし。座敷にても、あかりを後ろ、右の脇になす事、同前也。後ろ【脱字】場つまらざる様に、左り【脱字】脇をくつろげ、右の脇【脱字】を詰て搆度事也。夜にても、敵の見ゆる処にては、火を後におひ、明りを右の脇にする事、同前也心得て、搆ゆべきもの也。敵を見おろすと云て、少も高き所に搆る様に心得べし。座敷にてハ、上座を高き所と心得べし。扨、戦に成て、敵を追廻す事、我左の方へ追廻す心、難處を敵の後にさせ、何れにても難所へ追懸る事、肝要【脱字】にて、敵に場を見せずといふて、敵に顔を振せず、油断なくせり詰る心也。座敷にても、敷居、鴨居、戸障子、縁抔、又、柱抔の方へ追詰るにも、場を見せずと云事、同前也。何れも敵を追懸る事、足場の悪しき所、又脇【脱字】搆ひの有所、いづれ【脱字】場の徳を用ひて、場の勝を得ると云所の心専にして、能々吟味して、鍛練有べきもの也。    PageTop    Back   Next 

  3 三つの先と云事

 【吉田家本】

一 三ツの先と云事。三の先、一ツハ我方より敵へかゝる先。けんの先と云也。又一ツハ、敵より我方へかゝる時の先。是ハたいの先と云也。又一ツハ、我もかゝり、敵も懸りあふときの先、躰々の先と云。これ三の先也。何れの戦初にも、此三ツの先より外ハなし。先の次第をもつて、はや勝事を得ものなれば、先と云事、兵法の第一也。此先の子細、様々有といへども、其時【脱字】の理を先とし、敵のこゝろを見、我兵法の智恵をもつて勝事なれば、こまやかに書わくる事にあらず。第一、懸の先。わが懸らんと思とき、静にして居、俄にはやく懸る先、うへを剛くはやくし、底を残す心の先。又、我心をいかにも強して、足ハ常の足に少はやく、敵のきわへよると、早もミ立る先。又、心をはなつて、初中後、同じ事に、敵をひしぐ心にて、底迄強き心に勝。是、何れも懸の先也。第二、待の先。敵我方へかゝりくる時、少もかまわず、よハき様にミせて、敵ちかくなつて、づんと強くはなれて、とびつくやうにミせて、敵のたるミを見て、直に強く勝事。これ一ツの先。又、敵かゝりくるとき、我もなを剛くなつて出るとき、敵の懸る拍子の替間をうけ、其まゝ勝を得事、是、待の先の理也。第三、躰々の先。敵はやく懸るにハ、我静に強くかゝり、敵ちかくなつて、づんとおもひきる身にして、敵のゆとりのミゆる時、直に強くかつ。又、敵静にかゝる時、わが身うきやかに、少はやくかゝりて、敵近くなつて、ひともミもミ、敵の色にしたがひ、強勝事、是躰々の先也。此儀、こまかに書わけがたし。此書付をもつて、大かた工夫有べし。此三ツの先、時にしたがひ、理にしたがひ、いつにても、我方よりかゝる事にハあらざるものなれども、おなじくバ、我方より懸りて、敵を自由にまはしたき事也。何れも先の事、兵法の智力をもつて必勝事を得心、能々鍛錬有べし。

 【立花隨翁本】

   (書巻欠損により欠落)

 【赤見家甲本】

一 三つの先と云事。三の先、一つハ我方より敵へかゝる先、けんの先といふ也。又一つハ、敵より我方へかゝる時の先、是ハたいの先と云也。又一つハ、我もかゝり、敵もかゝりあふときの先、躰々の先といふ。これ三の先也。何れの戦初にも、此三つの先より外ハなし。先の次第をもつて、はや勝事を得ものなれバ、先といふ事、兵法の第一也。此先の子細、さま/\有といへども、其時々の理を先とし、敵の心を見、我兵法の智恵をもつて勝事なれバ、こまやかに書分る事にあらず。第一、懸の先。わが懸らんとおもふ時、静にして居、俄にはやく懸る先、うへを強くはやくし、底を残す心の先。亦、我心をいかにも強して、足ハ常の足に少はやく、敵のきハへよると早もミ立る先。又、心をはなつて、初中後同じ事に、敵をひしぐ心にて、底まで強き心に勝。是何れも懸の先也。第二、待の先。敵我方へかゝりくる時、少もかまハず、よハきやうにミせて、敵ちかくなつて、づんと強くはなれて、とびつくやうにミせて、敵のたるみをミて、直に強く勝事。これ一つの先。亦、敵のかゝりくるとき、我もなを強くなつて出るとき、敵のかゝる拍子の替間をうけ、其まゝ勝を得事。是待の先の理也。第三、躰々の先。敵はやく懸るにハ、我静につよくかゝり、敵ちかくなつて、づんとおもひきる身にして、敵のゆとりのミゆる時、直に強くかつ。又、敵静にかゝるとき、我身うきやかに、少はやくかゝりて、敵近くなつて、ひともミもミ、敵の色にしたがひ、強く勝事。これ躰々の先也。此儀、こまかに書分けがたし。此書付を以て、大かた工夫有べし。此三つの先、時にしたがひ、理にしたがひ、いつにても我方よりかゝる事にハあらざるものなれども、同じくハ、我方より懸りて、敵を自由にまわしたき事也。何れも先の事、兵法の智力をもつて必勝事を得る心、能々鍛錬有べし。

 【中山文庫本】

一 三ツの先と云事。三ツの先、一ツハ我方より敵へ懸る先。けんの先と云也。又一ツハ、敵より我方へかゝる時の先。是ハたいの先と云也。又一ツハ、我もかゝり、敵もかゝりあふときの先、躰々の先と云。これ三の先也。何れの戦初にも、此三ツの先より外ハなし。先の次第をもつて、はや勝事を得るものなれバ、先と云事、兵法の第一なり。此先の子細、様々有といへども、其時々の理を先とし、敵のこゝろを見、我兵法の智恵をもつて勝事なれバ、こまやかに書わくる事にあらず。第一、懸の先。わが懸んと思時、静にして居、俄にはやく懸る先、うへを剛くはやくし、底を残す心の先。又、我心をいかにも強して、足ハ常の足に少はやく、敵のきわへよると、早もみ立る先。又、心をはなつて、初中後、同じ事に、敵をひしぐ心にて、底まで強き心に勝。是何れも懸の先也。第二、待の先。敵我方へかゝりくる時、少もかまはず、よわき様にミせて、敵ちかくなつて、づんと強くはなれて、とびつくやうにミせて、敵のたるミを見て、直に強く勝事。これ一ツの先。又、敵懸りくる時、我もなほ剛くなつて出るとき、敵の懸る拍子の替間をうけ、其まゝ勝を得事。是待の先の理也。第三、躰々の先。敵はやく懸るにハ、我静に強くかゝり、敵ちかくなつて、づんとおもひきる身にして、敵のゆとりのミゆる時、直に強くかつ。又、敵静に懸る時、わが身うきやかに、少はやくかゝりて、敵近くなつて、ひともみもみ、敵の色にしたがひ、強勝事。これ躰々の先也。此儀、こまかに書わけがたし。此書付をもつて、大方工夫有べし。此三ツの先、時にしたがひ、理にしたがひ、いつにても我方よりかゝる事にはあらざるものなれども、おなじくハ、我方より懸りて、敵を自由にまはしたき事也。何れも先の事、兵法の智力をもつて必勝事を得心、能々鍛練有べし。

 【近藤家甲本】

一 三つの先と云事。三つの先と云は、ひとつハ我方より敵へかゝる先。けんの先といふ也。又一つは、敵より我方へかゝる時の先。是【脱字】たいの先と云也。又一つは、我もかゝり、敵もかゝりあふときの先、躰々の先といふ。これ三つの先也。何の戦【脱字】にも、此三つの先より外はなし。先の次第を以て、はや勝事を得ものなれバ、先といふ事、兵法の第一也。此先の子細、さま/\有といへども、其時々の理を先とし、敵の心を見、我兵法の智恵をもつて勝事なれバ、こまやかに書分る事にあらず。第一、懸の先。我懸らんとおもふ時、静にして居、俄にはやく懸る先、うへを強くはやくし、底を残す心の先。亦、我心をいかにも強くして、足は常の足に少はやく、敵のきハへよると、早もミたつる先。又、心をはなつて、初中後、同じ事に、敵をひしぐ心にて、底まで強き心に勝。是何れも懸の先也。第二、待の先。敵我方へかゝりくる時、少もかまハず、よハきやうにミせて、敵ちかくなつて、づんと強くはなれて、とびつくやうにミせて、敵のたるミを見て、直に強く勝事。是一つの先。又、敵のかゝりくるとき、我もなを強くなつて出るとき、敵のかゝる拍子の替る間をうけ、其まゝ勝を得事。是待の先の理也。第三、躰々の先。敵はやく懸るにハ、我静につよくかゝり、敵ちかくなつて、づんとおもひきる身にして、敵のゆとりのミゆる時、直に強く勝。又、敵静にかゝるとき、我身うきやかに、少はやくかゝりて、敵近くなつて、ひともミもみ、敵の色にしたがひ、強勝事。これ躰々の先也。此儀、こまかに書分けがたし。此書附を以て、大かた工夫有べし。此三つの先、時にしたがひ、理にしたがひ、いつにても我方よりかゝる事にはあらざるものなれども、同じくハ、我方より懸りて、敵を自由にまわしたき事也。何れも先の事、兵法の智力をもつて必勝事を得る心、能々鍛錬有べし。

 【近藤家乙本】

一 三ツの先と云事。三ツの先と云は、ひとつハ我方より敵へかゝる先。けんの先といふ也。又一つは、敵より我方へかゝる時の先。是はたいの先と云也。又一ツは、我もかゝり、敵もかゝりあふときの先、躰々の先といふ。これ三つの先也。何の戦【脱字】にも、此三つの先より外はなし。先の次第を以て、はや勝事を得るものなれば、先といふ事、兵法の第一也。此先の子細、さま/\有といへども、其時々の理を先とし、敵の心を見、我兵法の智恵をもつて勝事なれバ、こまやかに書分る事にあらず。第一、懸の先。我懸らんとおもふとき、静にして居、俄にはやく懸る先、うへを強くはやくし、底を残す心の先。亦、我心をいかにも強くして、足は常の足に少はやく、敵のきわへよると、早もミたつる先。又、心をはなつて、初中後、同じ事に、敵をひしぐ心にて、底まで強き心に勝。是何れも懸の先也。第二、待の先。敵我方へかかりくる時、少もかまハず、よハきやうにミせて、敵ちかくなつて、づんと強くはなれて、とびつくやうにミせて、敵のたるミを見て、直に強く勝事。これ一ツの先。亦、敵のかゝりくるとき、我もなを強くなつて出るとき、敵のかゝる拍子の替る間をうけ、其まゝ勝を得事。是待の先の理也。第三、躰々の先。敵はやく懸るにハ、我静につよくかゝり、敵ちかくなつて、づんとおもひきる身にして、敵のゆとりのミゆる時、直に強く勝。又、敵静にかゝるとき、我身うきやかに、少はやくかゝりて、敵近くなつて、ひともミもみ、敵の色にしたがい、強く勝事。これ躰々の先也。此儀、こまかに書分けがたし。此書附を以て、大かた工夫有べし。此三つの先、時にしたがひ、理にしたがひ、いつにても我方よりかゝる事にはあらざるものなれども、同じくハ、我方より懸りて、敵を自由にまわしたき事也。何れも先の事、兵法の智力をもつて必勝事を得る心、能々鍛錬有べし。

 【鈴木家本】

一 三ツの先と云事。三ツの先、一ツハ我方より敵へかゝる先、けんの先と云也。又一ハ、敵より我方へかゝる時の先、是ハたいの先と云也。又一ツハ、我もかゝり、敵も懸合時の先、躰々の先と云。是三ツの先也。何の戦初にも、此三ツの先より外ハなし。先の次第をもつて、はや勝事を得ものなれバ、先と云事、兵法の第一也。此先の子細、様々有といへども、其時【脱字】の理を先とし、敵のこゝろを見、我兵法の智恵をもつて勝事なれば、こまやかに書分事にあらず。第一、懸の先。わが懸らんと思とき、静にして居、俄にはやく懸る先、うへを剛くはやくし、底を残す心の先。又、我心をいかにも強して、足ハ常の足に少はやく、敵のきわへよると早もミ立る先。又、心をはなつて、初中後同じ事に、敵をひしぐ心にて、底迄強き心に勝。是何も懸の先也。第二、待の先。敵我方へかゝりくる時、少もかまハず、よわき様にミせて、敵近くなつて、づんと強くはなれて、とびつくやうにミせて、敵のたるミを見て、直に強く勝事。是一ツの先。又、敵かゝりくる時、我もなを剛くなつて出る時、敵の懸る拍子の替間をうけ、其侭勝を得事。是待の先の理也。第三、躰々の先。敵はやく懸るにハ、我静に強くかゝり、敵ちかくなつて、づんとおもひきる身にして、敵のゆとりのミゆる時、直に強く勝。又、敵静にかゝる時、わが身うきやかに、少はやくかゝりて、敵近くなつて、ひともミもみ、敵の色にしたがひ、強く勝事。これ躰々の先也。此儀、こまかに書わけがたし。此書付をもつて、大かた工夫有べし。此三ツの先、時にしたがひ、理にしたがひ、いつにても我方よりかゝる事にハあらざるものなれども、おなじくハ、我方より懸りて、敵を自由にまハしたき事也。いづれも先の事、兵法の智力を以、必勝事を得心、能々鍛錬有るべし。

 【伊藤家本】

一 三つの先と云事。三つの先と云は、ひとつハ我方より敵へかゝる先。けんの先といふ也。又一つは、敵より我方へかゝる時の先。是はたいの先と云也。又一つは、我もかゝり、敵もかゝりあふときの先、躰々の先といふ。これ三つの先也。何の戦【脱字】にも、此三つの先より外はなし。先の次第を以て、はや勝事を得ものなれバ、先といふ事、兵法の第一也。此先の子細、さま/\有といへども、其時々の理を先とし、敵の心を見、我兵法の智恵をもつて勝事なれバ、こまやかに書分る事にあらず。第一、懸の先。我懸らんとおもふ時、静にして居、俄にはやく懸る先、うへを強くはやくし、底を残す心の先。亦、我心をいかにも強くして、足は常の足に少はやく、敵のきハへよると、早もミたつる先。又、心をはなつて、初中後、同じ事に、敵をひしぐ心にて、底まで強き心に勝。是何れも懸の先也。第二、待の先。敵我方へかゝりくる時、少もかまハず、よハきやうにミせて、敵ちかくなつて、づんと強くはなれて、とびつくやうにミせて、敵のたるミを見て、直に強く勝事。是一つの先。又、敵のかゝりくるとき、我もなを強くなつて出るとき、敵のかゝる拍子の替る間をうけ、其まゝ勝を得事。是待の先の理也。第三、躰々の先。敵はやく懸るにハ、我静につよくかゝり、敵ちかくなつて、づんとおもひきる身にして、敵のゆとりのミゆる時、直に強く勝。又、敵静にかゝるとき、我身うきやかに、少はやくかゝりて、敵近くなつて、ひともミもみ、敵の色にしたがひ、強く勝事。これ躰々の先也。此儀、こまかに書分けがたし。此書付を以て、大かた工夫有べし。此三つの先、時にしたがひ、理にしたがひ、いつにても我方よりかゝる事にはあらざるものなれども、同じくハ、我方より懸りて、敵を自由にまわしたき事也。何れも先の事、兵法の智力をもつて必勝事を得る心、能々鍛錬有べし。

 【石井家本】

一 三つの先と云事。三つの先(と云は)、ひとつハ我方より敵へかゝる先。けんの先といふ也。又一つは、敵より我方へかゝる時の先。是はたいの先と云也。又一つは、我もかゝり、敵もかゝりあふときの先、躰々の先といふ。これ三つの先也。何の戦(初)にも、此三つの先より外はなし。先の次第を以て、はや勝事を得ものなれバ、先といふ事、兵法の第一也。此先の子細、さま/\有といへども、其時々の理を先とし、敵の心を見、我兵法の智恵をもつて勝事なれバ、こまやかに書分る事にあらず。第一、懸の先。我懸らんとおもふ時、静にして居、俄にはやく懸る先、うへを強くはやくし、底を残す心の先。亦、我心をいかにも強くして、足は常の足に少はやく、敵のきハへよると、早もミたつる先。又、心をはなつて、初中後、同じ事に、敵をひしぐ心にて、底まで強き心に勝。是何れも懸の先也。第二、待の先。敵我方へかゝりくる時、少もかまハず、よハきやうにミせて、敵ちかくなつて、づんと強くはなれて、とびつくやうにミせて、敵のたるミを見て、直に強く勝事。これ一つの先。又、敵のかゝりくるとき、我もなを強くなつて出るとき、敵のかゝる拍子の替る間をうけ、其まゝ勝を得事。是待の先の理也。第三、躰々の先。敵はやく懸るにハ、我静につよくかゝり、敵ちかくなつて、づんとおもひきる身にして、敵のゆとりのミゆる時、直に強く勝。又、敵静にかゝるとき、我身うきやかに、少はやくかゝりて、敵近くなつて、ひともミ(もミ)、敵の色にしたがひ、強く勝事。これ躰々の先也。此儀、こまかに書分けがたし。此書付を(以て)、大かた工夫有べし。此三つの先、時にしたがひ、理にしたがひ、いつにても我方よりかゝる事にはあらざるものなれども、同じくハ、我方よりかゝりて、敵を自由にまはしたき事也。何れも先の事、兵法の智力をもつて必勝事を得る心、能々鍛錬有べし。  

 【神田家本】

一 三つの先と云事。三つの先と云は、ひとつハ我方より敵へかゝる先。せんの先といふ也。又一つは、敵より我方へかゝる時の先。是はたいの先と云也。又一つは、我もかゝり、敵もかゝりあふときの先、躰々の先といふ。これ三つの先也。何の戦(初)にも、此三つの先より外はなし。先の次第を以て、はや勝事を得ものなれバ、先といふ事、兵法の第一也。此先の子細、さま/\有といへども、其時々の理を先とし、敵の心を見、我兵法の智恵をもつて勝事なれバ、こまやかに書分る事にあらず。第一、懸の先。我懸らんとおもふ時、静にして居、俄にはやく懸る先、うへを強くはやくし、底を殘す心の先。亦、我心(を)いかにも強くして、足は常の足に少はやく、敵のきハへよると、早もミたつる先。又、心をはなつて、初中後、同じ事に、敵をひしぐ心にて、底まで強き心に勝。是何れも懸の先也。第二、待の先。敵我方へかゝりくる時、少もかまハず、よハきやうにミせて、敵ちかくなつて、づんと強くはなれて、とびつくやうにミせて、敵のたるミを見て、直に強く勝事。これ一つの先。又、敵のかゝりくるとき、我もなを強くなつて出るとき、敵のかゝる拍子の替る間をうけ、其まゝ勝を得事。是待の先の理也。第三、躰々の先。敵はやく懸るにハ、我静につよくかゝり、敵ちかくなつて、づんとおもひきる身にして、敵のゆとりのミゆる時、直に強く勝。又、敵静にかゝるとき、我身うきやかに、少はやくかゝりて、敵近くなつて、ひともミもみ、敵の色にしたがひ、強く勝事。これ躰々の先也。此儀、こまかに書分けがたし。此書附を(もつて)、大かた工夫有べし。此三つの先、時にしたがひ、理にしたがひ、いつにても我方よりかゝる事(に)はあらざるものなれども、同じくハ、我方よりかゝりて、敵を自由にまはしたき事也。何れも先の事、兵法の智力をもつて必勝事を得る心、能々鍛錬有べし。

 【猿子家本】

一 三つの先と云事。三つの先と云は、壱つハ我方より敵へかゝる先。【脱字】の先といふ也。又一つは、敵より我方へかゝる時の先。是はたいの先と云也。又壱つハ、我もかゝり、敵もかゝりあふ時の先、躰々の先といふ。是三つの先也。何の戦【脱字】にも、此三つの先より外ハなし。先の次第を以て、はや勝事を得ものなれバ、先と云事、兵法の第一なり。此先の子細、さま/\有といへども、其時々の理を先とし、敵の心を見、我兵法の智恵を以て勝事なれば、こまやかに書分る事にあらず。第一、懸の先。我懸らんと思ふ時、静にして居、俄にはやく懸る先、うへをつよく早くし、底を残し心の先。亦、我【脱字】いかにも強くして、足は常の足に少はやく、敵のきハへ寄ると、はやもミたつるさき。又、心を放て、初中後、同じ事に、敵をひしぐ心にて、底迄強き心に勝。是何れも懸の先なり。第二、待の先。敵我方へかゝりくる時、少もかまハず、弱き様に見せて、敵ちかくなつて、づんと強く離れて、飛つくやうにミせて、敵のたるみを見て、直に強く勝事。是一つの先。又、敵のかゝりくる時、我も猶強くなつて出る時、敵のかゝる拍子の替る間をうけ、其侭勝を得事。是待の先の理也。第三、躰々の先。敵早く懸るにハ、我静に強くかゝり、敵近くなつて、づんとおもひきる身にして、敵のゆとりの見ゆる時、直に強く勝。又、敵静にかゝる時、我身うきやかに、少早くかゝりて、敵近くなつて、ひともみもミ、敵の色に隨ひ、強く勝事。これ躰々の先也。此儀、こまかに書分けがたし。此書付を【脱字】、大方工夫有べし。此三つの先、時に隨ひ、理に隨ひ、いつにても我方よりかゝる事【脱字】ハあらざるものなれども、同じくハ、我方よりかゝりて、敵を自由にまハしたき事也。何れも先の事、兵法の智力を以て必勝事を得る心、能々鍛錬有べし。

 【楠家本】

一 三ツの先と云事。三ツの先、一ツハわが方より敵へかゝる先。けんの先と云也。又一ツハ、敵よりわが方へかゝる時の先。是ハたいの先といふ也。又一ツハ、我もかゝる、敵もかゝりあふ時の先、躰/\の先といふ。是、三ツの先也。いづれの戦初にも、此三ツの先より外ハなし。先の次第をもつて、はや勝事を得るものなれバ、先と云事、兵法の第一也。此先の子細、さま/\ありといへども、其時【脱字】の理を先とし、敵の心を見、わが兵法の智恵をもつて勝事なれバ、こまやかに書わくる事にあらず。第一、懸の先。我かゝらんとおもふ時、静にして居、俄にはやくかゝる先。うへをつよくはやくし、底を殘す心の先。又、わが心をいかにもつよくして、足ハ常の足に少はやく、敵のきはへよると、はやくもミたつる先。又、心をはなつて、初中後、同じ事に、敵をひしぐ心にて、底までつよき心に勝。是、いづれも懸の先也。第二、待の先。敵わが方へかゝりくる時、少もかまはず、よハきやうに見せて、敵ちかくなつて、づんとつよくはなれて、とび付やうに見せて、敵のたるミを見て、直につよく勝事、是一ツの先。又、敵かゝりくる時、我もなをつよくなつて出る時、敵のかゝる拍子のかはる間をうけ、其まゝかちを得る事、是、待の先の理也。第三、躰/\の先。敵はやくかゝるにハ、我静につよくかゝり、敵ちかくなつて、づんと思いきる身にして、敵のゆとりのミゆる時、直につよく勝。又、敵静にかゝる時、わが身うきやかに、少はやくかゝりて、敵ちかくなりて、ひともミもミ、敵の色にしたがひ、つよく勝事、是、躰/\の先也。此儀、こまかに書わけがたし。此書付を以て、大かた工夫あるべし。此三ツの先、時にしたがひ、理にしたがひ、いつにても、わが方よりかゝる事ニハあらざる物なれども、同じくバ、我方よりかゝりて、敵を【脱字】まはしたき事なり。いづれも先の事、兵法の智力をもつて必勝事を得る心、よく/\鍛練有べし。

 【細川家本】

一 三つの先と云事。三つの先、一ツハ我方より敵へかゝるせん。けんの先と云也。亦一ツは、敵より我方へかゝる時の先。是はたいの先と云也。又一ツは、我もかゝり、敵もかゝりあふ時の先、躰/\の先と云。是、三ツの先也。いづれの戦初めにも、此三ツの先より外はなし。先の次第を以、はや勝事を得る物なれば、先と云事、兵法の第一也。此先の子細、様々ありといへども、其時【脱字】の理を先とし、敵の心を見、我兵法の智恵を以て勝事なれば、こまやかに書わくる事にあらず。第一、懸の先。我かゝらんとおもふとき、静にして居、俄にはやくかゝる先、うへをつよくはやくし、底を殘す心の先。又、我心をいかにもつよくして、足は常の足に少はやく、敵のきわへよると、はやくもみたつる先。亦、心をはなつて、初中後、同じ事に、敵をひしぐ心にて、底迄つよき心に勝。是、いづれも懸の先也。第二、待の先。敵我方へかゝりくる時、少もかまハず、よわきやうに見せて、敵ちかくなつて、づんとつよくはなれて、飛付やうに見せて、敵のたるみを見て、直につよく勝事、是一ツの先。又、敵かゝりくる時、我も猶つよくなつて出る時、敵のかゝる拍子のかハる間をうけ、其儘勝を得る事、是、待の先の理也。第三、躰/\の先。敵はやくかゝるには、我静につよくかゝり、敵近くなつて、づんと思ひきる身にして、敵のゆとりのミゆる時、直につよく勝。又、敵静にかゝる時、我身うきやかに、少はやくかゝりて、敵ちかくなりて、ひともみもミ、敵の色に随ひ、つよく勝事、是、躰/\の先也。此儀、濃に書分がたし。此書付をもつて、大形工夫有べし。此三ツの先、時にしたがひ、理に随ひ、いつにても、我方よりかゝる事にはあらざるものなれども、同じくバ、我方よりかゝりて、敵を【脱字】まハし度事也。いづれも先の事、兵法の智力を以て必勝事を得る心、能々鍛練あるべし。

 【丸岡家本】

一 三つの先と云事。三つの先、一ツハ我方より敵へかゝる先。懸の先と云也。又一ツハ、敵より我方へかゝる時の先。是ハ待の先と云なり。又一ツハ、我もかゝり、敵も懸り遇時の先、對々の先と云。是、三ツの先也。何れの戦初にも、此三ツの先より外はなし。先の次第を以て、はや勝事を得る者なれば、先といふこと、兵法の第一也。此先の子細、樣々有といへども、其時【脱字】の理を先とし、敵の心を見、吾兵法の智恵を以勝ことなれば、細に書分る事にあらず。第一、懸の先。我かゝらんと思ふ時、静ニして居、俄に速くかゝる先、上を強ク早くし、底を殘す心の先。又、我心を如何にも強クして、足ハ常の足に少はやく、敵のきハへよると早クもミ立る先。又、心を放て、初中後、同じことに、敵をひしぐ心にて、底までつよき心に勝、是、何れも懸の先也。第二、待の先。敵我方へかゝりくる時、少もかまハず、弱き樣に見せて、敵近くなりて、ずんと強ク離て、飛付やうに見せて、敵のたるみを見て、直につよく勝こと、是一ツの先。又、敵かゝりくる時、我も猶つよく成て出る時、敵のかゝる拍子の替る間を請、そのまゝ勝を得る事、是、待の先の理也。第三、對々の先。敵はやくかゝるにハ、我静につよくかゝり、敵近く成て、ずんと思ひ切身ニして、敵のゆとりの見ゆる時、直に強ク勝。又、敵静にかゝる時、我身うきやかに、少早クかゝりて、敵近クなりて、一もミもみ、敵の色に隨ひ、強ク勝事、是、對々の先也。此儀、細に書分難し。此書付を以て、大形工夫有べし。此三ツの先、時に隨ひ、理に隨ひ、いつにても、我方より懸ることにはあらざる者なれども、おなじくバ、我方よりかゝりて、敵を【脱字】廻したき事也。何れも先の事、兵法の智力を以必勝ことを得る心、能々鍛煉有べし。

 【富永家本】

一 三ツの先と云事。三ツの先、一ツは我方より敵の方へかゝる先。けんの先と云なり。また一ツハ、敵より我方へかゝる【脱字】先。是【脱字】たいの先と云事。また一ツハ、我もかゝり、敵もかゝりあふ時の先、躰々の先と云。是、三ツの先也。いづれの戦初にも、此三ツの先より外ハなし。先の次第を以て、早勝事を得るものなれバ、先といふ事、兵法の第一也。此先の子細、さま/\有といへども、其時【脱字】の理を先として、敵の心を見、我兵法の知恵を以テ勝事なれバ、こまやかに書分る事に非ず。第一、懸の先。我かゝらんとおもふ時、しづかにして居、俄ニはやくかゝる先。うゑを強【脱字】し、底を残す心の先。又、我心を如何にも強くして、足ハ常の足に少しはやく、敵のきわへよると、早くもみ立る先、又、心をはなつて、初中後、同事に、敵をひしぐ心にて、底まで強心に勝。是、何も懸の先なり。第二、待の先。敵我方へ懸りくる時、少しもかまわず、弱き様に見せて、敵近く成て、づんと強はなれて、飛付様に見せて、敵のたるミを見て、直に強く勝事、是一ツの先。また、敵かゝりくる時、我もなを強く成て出る時、敵の懸る拍子の易間を請、其侭勝を得る事、是、待の先の理也。第三、躰々の先。敵早くかゝるに【脱字】、我しづかに強くかゝり、敵近くなつて、づんと思ひ切身にして、敵のゆとりの見ゆる時、直に強く勝、又、敵しづかに懸る時、我身うきやかに少しはやくかゝりて、敵近くなりて、ひともミ【脱字】、敵の色にしたがひ、強く勝事、是、躰々の先なり。此儀、細かに書分がたし。此書付を以て、大かた工夫有べし。此三ツの先、時にしたがひ、理にしたがひ、いつにても、我方より懸る事ニハあらざるものなれども、同敷バ、我方よりかゝりて、敵を【脱字】まわしたき事也。いづれも先の事、兵法の知力を以て必勝事を得る心、能々鍛練有べし。

 【常武堂本】

一 三つの先と云事。三つの先、一ツハ我方より敵へかゝるせん。けんの先といふ也。亦一ツは、敵より我方へかゝる時の先。是ハたいの先といふ也。又一ツハ、我もかゝり、敵もかゝりあふ時の先、躰/\の先と云。是、三ツの先也。いづれの戦初めにても、此三ツの先より外ハなし。先の次第を以て、はや勝事を得たる物なれバ、先といふ事、兵法の第一也。此先の子細、様々ありといへども、其時【脱字】の理を先とし、敵の心を見、我兵法の智恵を以て勝事なれバ、こまやかに書わくる事にあらず。第一、懸の先。我かゝらんと思ふ時、静にして居、俄にはやくかゝる先、うへをつよくはやくし、底を殘す心の先。又、我心をいかにもつよくして、足ハ常の足に少はやく、敵のきはへよると、はやくもみたつる先。亦、心をはなつて、初中後、同じ事に、敵をひしぐ心にて、底までつよき心に勝。是、いづれも懸の先なり。第二、待の先。敵我方へかゝりくる時、少もかまハず、よわき様に見せて、敵ちかくなつて、づんとつよくはなれて、飛付様に見せて、敵のたるみを見て、直につよく勝事、是一ツ【脱字】先。又、敵かゝりくる時、我もなほつよくなつて出る時、敵のかゝる拍子のかはる間をうけて、其侭勝を得る事、是、待の先の理なり。第三、躰/\の先。敵はやくかゝるには、我静につよくかゝり、敵近くなつて、づんと思ひきる身にして、敵のゆとりのみゆる時、直につよく勝。又、敵静にかゝる時、我身うきやかに、少しはやくかゝりて、敵ちかくなりて、ひともみもみ、敵の色に随ひ、つよく勝事、是、躰/\の先也。此儀、濃に書分がたし。此書付を以て、大形工夫有べし。此三ツの先、時にしたがひ、理に随ひ、いつにても、我方よりかゝる事にはあらざるものなれども、同じくバ、我方よりかゝりて、敵を【脱字】まはし度事也。いづれも先の事、兵法の智力を以て必ず勝事を得る心、能々鍛練有べし。

 【田村家本】

 三ツノ先ト云事 三ツノ先ト云事、一ツハ我方ヨリ敵エカカル先ヲ。懸ノ先ト云也。亦一ツニハ、敵ヨリ吾方ヘカヽル時ノ先ン。是ハ待ノ先ト云也。亦一ツハ、吾モカ丶リ、敵モカ丶リアフトキノ先、是ヲ對々ノ先ト云也。是、三ツノ先也。何ノ戦初ニモ、此三ツノ先ヨリ外ハナシ。先ノ次第ヲ以テ、速ク勝事【脱字】ナレバ、先ト云事兵法ノ第一也。此先ノ子細サマ々有ト云共、其時【脱字】ノ理ヲ先トシ、敵ノ心ヲ見、我兵法ノ智恵ヲ以テ勝コトナレバ、細ニカキワクル【脱字】ニアラズ。  第一、懸ノ先。吾カヽラント思時、静ニシテ居、ニワカニ早カヽル先、ウエヲツヨク早シ、底ヲ残ス心ノ先、又、吾心ヲイカニモ強シテ、足ハ常ノ足ニ少早、敵ノキワエヨルト早クモミ立ル先、又、心ヲハナツテ、初中後、同時ニ、敵ヲヒシグ心ニテ、底マデツヨキ心ニ勝、是、何レモ懸ノ先也。  第二、タイノ先。敵吾方ヘカヽリ来ル時、少シモカマワズ、弱キヤフニミセテ、敵近ク成テ、ヅントツヨクハナレテ、飛付ヤウニミセテ、敵ノタルミヲミテ、直ニツヨク勝事、コレ一ツノ先也。又、敵カヽリクル時、吾モナヲ強クナツテ出ル時、敵ノカヽル拍子ノカハル間ヲウケ、其マ丶勝ヲ得ル事、是、待ノ先ノ理ナリ。  第三、對々ノ先。敵早クカヽルニハ、吾シヅカニツヨクカヽリ、テキ近クナツテ、ヅント思ヒ切身ニシテ、敵ノユトリノ見ユルトキ、直ニツヨク勝、又、敵静ニカヽル時、吾身ウキヤカニ少早ク掛テ、敵近クナツテ、一モミモミ、敵ノ色ニ隨ヒ、強ク勝事也、是、對々ノ先也。此儀、細ニカキワケ難シ。此書付ヲ用テ、大方工夫有ベシ。此三ツノ先、トキニシタガヒ、理ニ隨ヒ、イツニテモ、我方ヨリ掛ル事ニハ非ズ。サレ共、同クバ、吾方ヨリカ丶ツテ、敵ヲ【脱字】マワシタキコト也。何モ先ノ事、兵法ノ智力ヲ以テ必勝事ヲ得ル心、ヨク々吟味シタンレン有ベシ。

 【狩野文庫本】

一 三ツの先といふ事。三つの先の一ツハ我方より敵え懸る先。懸の先といふなり。又一ツは、敵より我方え懸る時の先。是は待の先と云。又一ツハ、我も懸、敵も懸りあふ時の先、對々の先といふ。是、三ツの先なり。何れの戦初メにも、此三ツの先より外ハなし。先の次第を以、はや勝事を得るものなり。先といふこと兵法【脱字】第一也。此先の子細樣々有といへども、其時【脱字】の理を先とし、敵のこゝろを見、【脱字】兵法の智恵を以勝事なれバ、こまかに書分がたし。第一、懸の先。我かゝらんと思ふ時、静にして居、俄ニはやく懸る先、上をつよくはやくし、底をのこす心の先、又、我心を如何ニも強して、足は常の足ニ少早く、敵の際へ寄と早もみたつる先、又、心をはなつて、初中後、同事ニ、敵をひしぐ心にて、底迄強き心に勝、是、何れも懸の先也。第二、待の先。敵我方え懸りくる時、少もかまわず、よハきやうに見せて、敵近く成て、づんと【脱字】はなれて、飛付樣に見せて、敵のたるみを見て、直ニ強勝事、是一ツの先。又、敵懸り来時、我も猶つよく成て出る時、敵の懸る拍子の替る間をうけ、其儘勝を得る事、是、待の先の理也。第三、對々の先。敵早く懸るには、我静に強懸、敵近く成て、づんと思ひ切身にして、敵のゆとりの見ゆる時、直に強勝、又、敵静ニ懸る時、我身うきやかに少はやく懸りて、敵近く成て、一もミ揉、敵の色にしたがひて、強勝事、是、對々の先也。此儀、細やかに書分がたし。此書付を以、大形工夫有べし。此三ツの先、時々ニ隨ひ、利ニしたがひ、何れにても、我方より懸る事にハあらざるものなれ共、同じくバ、我方より懸りて、敵を【脱字】廻し度事也。何れの先の事、兵法の智力を以必勝事を得る心、よく/\鍛練有べし。

 【多田家本】

一 三つの先と云事。三の先、一つは我方より敵へ懸る先。懸の先と云【脱字】。又一つは、敵より我方へ懸る時の先。是ハ待の先と云【脱字】。又一つハ、我も懸り、敵も懸りあふ時の先、對々の先と云。是三つの先也。何れの戦始にも、此三つの先より外ハなし。先の次第を以て、早く勝事を得る物なれバ、先と云事、兵法の第一也。此先の拍子、様々有といへども、其時【脱字】の理を先とし、敵の心を見、我兵法の智恵を以、勝事なれば、細やかに書付る事にあらず。第一、懸る斗の先。我懸らんと思ふ時、静にして居、俄に早く懸る先、上を強く【脱字】して、底を残す心の先。又、我心を如何にも強くして、足ハ常の足に少し早く、敵の脇へ寄ると早くもみ立る先。又、心をはなつて、初中後同じ事に、敵を挫ぐ心にて、底まで強き心に勝。是何も懸の先なり。第二、待の先。敵我方へ懸り来る時も、少も搆はず、弱き様に見せて、敵の近く成て、づんと強くなつて、飛付様に見せて、敵の弱みを見て、直に強く勝事。是一つの先。又、敵懸りくる時、我も猶強く成て出る時、敵の懸る拍子の替る【脱字】を請、其侭勝を得る事。是待の先の利なり。第三、對々の先。敵早く懸るには、我静に強く懸り、敵近く成て、づんと思ひきる身にして、敵のゆとり【脱字】見ゆる時、直に強く勝。又、敵静に懸る時、我身浮やかに、少早く懸り【脱字】、敵近くなつて、一もみ【脱字】、敵の色に隨ひ、強く勝事。是對々の先なり。此儀、細やかに書分がたし。此書【脱字】を以て、大形工夫あるべし。此三つの先、時に隨ひ、利に隨ひ、何れにても、我方より懸る事にはあらざる物なれ共、同じくバ、我方より懸つて、敵を【脱字】廻し度事也。何れの先の事も、兵法の智力を以【脱字】勝事を得る心、能々鍛練すべし。

 【山岡鉄舟本】

一 三ツノ先ト云事。三ツノ先、【脱字】我方ヨリ敵ヘ懸ル先、是懸ノ先ト云也。又一ツハ、敵ヨリ我方ヘ懸リ、我モ懸ル時ノ先、是對々ノ先ト云也。又一ツハ、敵ヨリ我方ヘ懸ル時ノ先、是對ノ先ト云。是ヲ三ツノ先ト云也【★語順】。何ノ戦【脱字】ニモ、此三ツノ先ヨリ外ハナシ。先ノ次第ヲ以、早勝事ヲ得ル物ナレバ、先ト云事、兵法ノ第一也。此先ノ子細、様々有ト云共、其時【脱字】ノ利ヲ先トシ、敵ノ心ヲ見、我兵法ノ智恵ヲ以勝事ナレバ、細カニ書分ル【脱字】ニ非ズ。第一、懸ノ先。我懸ラント思時、静ニシテ居、俄ニ早ク懸ル先也。上ヲ強早クシ、底ヲ残心之先。又、【脱字】心ヲ如何ニモ強シテ、足ハ常ノ足ニ少シ早ク、敵ノキワヘ寄ルト早クモシタツル先。又、心ヲ放テ、初中後、同ジ事ニ、敵ヲヒシグ心トテ、底マデ強キ心ニ勝。是、何レモ懸ノ先也。第二、對々ノ先。敵我方ヘ懸リ来ル時、少シモカマワズ、弱様ニ見セテ、敵近成テ、寸度強ク離レテ、飛付様ニ見セテ、敵ノタルミヲ見テ、直ニ強勝事、是一ツノ先。亦、敵懸リ来る時、我モ猶強成テ出ル時、敵ノ懸ル拍子ノ変ル間ヲ受テ、其侭勝ヲ得ル事、是、對ノ先ノ理也。第三、對々ノ先。敵早懸ルニハ、我静ニ強懸リ、敵近ク成テ、寸度思切ル身ニシテ、敵ノユトリノ見ユル時、直ニ強勝。亦、敵静ニ懸ル時、我身ウキヤカニ、少シ早ク懸リテ、敵近成テ、一トモミ/\、敵ノ色ニ隨ヒ、強ク勝事。是、對々ノ先也。此儀、細カニ書分チ難シ。此書【脱字】ヲ以テ、大方工夫有ベシ。此三ツノ先、時ニ隨ヒ、理ニ隨ヒ、イツニテモ、我方ヨリ懸ル事ニハアラザル者ナレ共、同バ、我方ヨリ懸リテ、敵ヲ【脱字】廻シ度事也。何レ共先ノ事、兵法ノ智力ヲ以テ必勝事ヲ得ル【脱字】、能々鍛錬アルベシ。

 【稼堂文庫本】

一 三つの先と云事。三つの先、一ツハ我方より敵の方へ懸る先。懸の先と云也。又一ツは、【脱字**********************】我もかゝり、敵も懸あふ時の先、是を對々の先と云。是、三ツの先也。何れの戦場にも、此三ツの先より外はなし。先の次第を以、はや勝ことを得る物成れば、先と云事、兵法の第一也。此先の子細、様々有といへども、其時【脱字】の利を先として、敵の心を見分ケ、我兵法の智恵を以勝事成ば、細かに書分ることに非ず。第一、懸の先。我懸らんと思ふ時、静にして居り、俄に早懸る先、上を強く早く【脱字】、底を残す心の先、又、我心を如何にも強くして、足は常の足に少早く、敵のきわへ寄せ、早くもみ立る先、又、心を放つて、初中後、同じ事に、敵をひしぐ心にて、底迄強き心に勝ツ。是、何れも懸の先也。第二、待の先。敵我方へ懸り来る時、少もかまわず、弱き様に見せて、敵近く成て、づんと【脱字】放れて、飛付様に見せて、敵のたミみを見て、直に強く勝事、是一ツの先。又、敵懸り来る時、我もなを強く成つて出る時、敵の懸る拍子のカワル間を請、其侭勝を得る事、是、待の先の利也。第三、躰(對と訂正)々の先。敵早く懸るにハ、我静につよく懸り、敵近く成て、づんと思ひ切身にし【脱字】てきのゆとりの見ゆる時、直ニ強く勝ツ、又、敵静に懸る時、我身浮やかに少早く懸りて、敵近く成て、ひともみ【脱字】、敵の色に随ひ、つよく勝事、是、躰(對と訂正)々の先也。此儀、細に書分がたし。此書付を以、大形工夫有べし。此三ツの先の、時に隨ひ、理に随、何にても、我方より懸ることに非ず、同くバ、我方より懸りて、敵を【脱字】廻し度事也。何レも先のこと、兵法の智力を以必勝事を得る心、能々鍛練有べし。  

 【大瀧家本】

一 三つの先と云事。三つの先、一ツハ我方より敵へ懸る先。【脱字】の先と云【脱字】。又一ツハ、敵より我方へ懸る時の先。は是待の先と云【脱字】。又一ツハ、我も懸る、敵も懸り逢ふ時の先、對々の先と云。是、三ツの先なり。何れの戦ひ初るにも、此三ツの先より外【脱字】なし。先の次第を以て、早く勝事を得るものなれバ、先と云事、兵法【脱字】第一也。此先の子細、様々有といへども、其時【脱字】の利を先とし、敵の心を見、我兵法の智惠を以て勝事なれバ、細に書分ル事にあらず。第一、先懸の先。我懸らんと思ふ時、静にして居、俄にはやく懸る先、是上を強く早くし、底を殘し心の先、又、我心得如何にも強くして、足ハ常の足に少し早く、敵の際へ寄ると、はやくもみ立る先、又、心を放して、初中後、同じ事に、敵をひしぐ心にて、底迄を強き心に勝。見、何れも懸の先なり。第二、待の先。敵我方へ懸り来る時、少もかまはず、よわき様に見せて、敵近く成て、づんと強くはなれ【脱字】、飛付様に見せて、敵のたるみを見て、直に強く勝事、是一ツの先。又、敵の懸り来る時、我も猶強くはつて出る時、敵の懸る拍子の替る間を受、其侭勝を得る事、是、待の先の利なり。第三、對々の先。敵はやく懸るにハ、我静に強く懸り、敵近く成て、づんと思ひ切身にして、敵のゆとりの見ゆる時、直に強く勝、又、敵静に懸る時、我身うきやかに少し早く懸りて、敵近く成て、一トもみもミ、敵の色に随ひ、強く勝事、是、對々の先なり。此儀、こまやかに書キ分ケ難し。此書付を以て、大かた工夫有べし。此三ツの先、時に隨ひ、利に随ひ、いつにても、我方より懸る事にハあらざるものなれども、同ハ、我方より懸りて、敵を自由にまはしたき事也。何れも先の事、兵法の智力を以て必勝事を得る心、能々鍛練あるべきなり。    PageTop    Back   Next 

  4 枕をおさゆると云事

 【吉田家本】

一 枕を押【脱字】と云事。枕をおさゆるとハ、かしらをあげさせず、と云心也。兵法勝負の道にかぎつて、人に我身をまわされて、あとにつく事悪し。いかにもして、敵を自由にまハしたき事也。然によつて、敵もさ様に思ひ、われも其こゝろあれども、人のする事をうけがわずしてハ、叶がたし。兵法に、人のうつ所をとめ、つく所をおさへ、くむ所をもぎはなしなどする事也。枕を押ると云は、我実の道を得て、敵にかゝりあふ時、敵何事にても思氣ざしを、敵のせぬうちに見しりて、敵の打と云、うの字のかしらをおさへて、跡をさせざる心、是、枕をおさゆるこゝろ也。たとヘバ、敵のかゝると云、かの字【◇】をおさへ、飛と云、との字のかしらをおさへ、きると云、きの字のかしらをおさゆる事、ミなもつておなじ心也。敵、我にわざをなす事につけて、役にたゝざる事をバ、敵に任せ、役に立ほどの事をバ、おさへて、敵にさせぬやうにする所、兵法の専也。これも、敵のする事を、おさへん/\とする心、後手也。先、我ハ何事にても、道にまかせてわざをなすうちに、敵もわざをせむと思かしらをおさへて、何事も役にたゝせず、敵をこなす所、是、兵法の達者、鍛錬の故也。まくらをおさゆる事、能々吟味有べき也。

 【立花隨翁本】

   (書巻欠損により欠落)

 【赤見家甲本】

一 枕を押ゆると云事。枕をおさゆるとハ、かしらをあげさせず、といふ心也。兵法勝負の道にかぎつて、人に我身をまわされて、あとにつく事、悪し。いかにもして、敵を自由にまわしたき事也。然るによつて、敵もさやうに思ひ、われも其心あれども、人のする事をうけがハずしてハ、叶がたし。兵法に、人のうつ所をとめ、つく所をおさへ、くむ所をもぎはなちなどする事也。枕を押るといふは、我實の道を得て、敵にかゝりあふ時、敵何事にても思氣ざしを、敵のせぬうちに見しりて、敵のうつと云、うの字のかしらをおさへて、跡をさせざる心、是枕をおさゆる心也。たとヘバ、敵のかゝるといふ、かの字【◇】を押へ、飛といふ、との字のかしらをおさへ、きるといふ、きの字のかしらを押ゆる事、ミなもつて同じ心也。敵我にわざをなす事につけて、役にたゝざる事をバ敵に任せ、役に立ほどの事をバ、おさへて、敵にさせぬやうにする所、兵法の専也。これも、敵のする事をおさへん/\とする心、後手なり。先、我ハ何事にても、道にまかせてわざをなすうちに、敵もわざをせんとおもふかしらをおさへて、何事も役にたゝせず、敵をこなす所、是兵法の達者、鍛錬の故也。まくらをおさゆる事、能々吟味有べき也。

 【中山文庫本】

一 枕を押【脱字】と云事。枕をおさゆるとハ、かしらをあげさせず、と云所也。兵法勝負の道にかぎつて、人に我身をまわされて、あとにつく事、悪し。いかにもして、敵を自由にまわしたき事也。然によつて、敵も左様に思ひ、われも其心あれども、人のする事をうけがわずしてハ、叶がたし。兵法に、人のうつ所をとめ、つく所をおさへ、くむ所をもぎはなしなどする事也。枕を押ると云は、我実の道を得て、敵にかゝりあふ時、敵何事にても思氣ざしを、敵のせぬうちに見しりて、敵の打と云、うの字のかしらをおさへて、跡をさせざる心、是枕をおさゆる心也。たとヘバ、敵の懸ると云、かの字【◇】をおさへ、飛と云、との字のかしらをおさへ、切ると云、きの字のかしらをおさゆる事、ミなもつておなじ心也。敵我に業をなす事につけて、役にたゝざる事をば敵に任せ、役に立ほどの事をバ、おさへて、敵にさせぬやうにする所、兵法の専也。これも、敵のする事をおさへん/\とする心、後手也。先、我ハ何事にても、道にまかせてわざをなすうちに、敵もわざをせんと思かしらを押へて、何事も役にたゝせず、敵をこなす所、是、兵法の達者、鍛練の故也。まくらをおさゆる事、能々吟味有べき也。

 【近藤家甲本】

一 枕を押ゆると云事。枕をおさゆるとは、かしらをあげさせず、といふ心也。兵法勝負の道にかぎつて、人に我身をまハされて、あとにつく事、悪し。いかにもして、敵を自由にまハしたき事也。然るによつて、敵もさやうに思ひ、われも其心あれども、人のする事をうけがハずしてハ、叶がたし。兵法に、人の打處をとめ、つく所をおさへ、くむ所をもぎはなちなどする事也。枕を押ると云は、我實の道を得て、敵にかゝりあふ時、敵何事にても思ふ氣ざしを、敵のせぬうちに見しりて、敵のうつと云、うの字のかしらをおさへて、跡をさせざる心、是枕をおさゆる心也。たとヘバ、敵のかゝるといふ、かの字【◇】を押へ、飛ぶと云、との字のかしらを【脱字************】押ゆる事、ミなもつて同心也。敵我にわざをなす事につけ【脱字】、役にたゝざる事をバ敵に任せ、役に立ほどの事をバ、おさへて、敵にさせぬやうにする處、兵法の専也。これも、敵のする事(を)おさへん/\とする心、後手なり。先、我は何事にても、道にまかせてわざをなすうちに、敵もわざをせんと思ふかしらをおさへて、何事も役にたゝせず、敵をこなす處、是、兵法の達者、鍛錬の故也。枕をおさゆる事、能々吟味有べき也。

 【近藤家乙本】

一 枕を押ゆると云事。枕をおさゆるとは、かしらをあげさせず、といふ心也。兵法勝負の道にかぎつて、人に我身をまわされて、あとにつく事、悪し。いかにもして、敵を自由にまわしたき事也。然るによつて、敵もさやうに思ひ、われも其心あれども、人のする事をうけがわずしてハ、叶がたし。兵法に、人の打處をとめ、つく所をおさへ、くむ所をもぎはなちなどする事也。枕を押ると云は、我實の道を得て、敵にかゝりあふ時、敵何事にても思ふ氣ざしを、敵のせぬうちに見しりて、敵のうつと云、うの字のかしらをおさへて、跡をさせざる心、是枕をおさゆる心也。たとヘば、敵のかゝるといふ、かの字【◇】を押へ、飛ぶといふ、との字のかしらを【脱字************】押ゆる事、ミなもつて同心也。敵我にわざをなす事につけ【脱字】、役にたゝざる事をバ敵に任せ、役に立ほどの事をば、おさへて、敵にさせぬやうにする處、兵法の専也。これも、敵のする事をおさへん/\とする心、後手なり。先、我は何事にても、道にまかせてわざをなすうちに、敵もわざをせんと思ふかしらをおさへて、何事も役にたゝせず、敵をこなす所、是、兵法の達者、鍛錬の故也。枕をおさゆる事、能々吟味有べき也。

 【鈴木家本】

一 枕を押ると云事。枕を押とハ、かしらをあげさせず、と云心なり。兵法勝負の道にかぎつて、人に我身をまハされて、あとにつく事、悪し。いかにもして、敵を自由にまハしたき事也。然によつて、敵もさ様に思ひ、われも其心あれども、人のする事をうけがはずしてハ、叶がたし。兵法に、人のうつ所をとめ、つく所をおさへ、くむ所をもぎはなしなどする事也。枕を押ると云ハ、我実の道を得て、敵にかゝりあふ時、敵何事にても思ふ気ざしを、敵のせぬ内に見しりて、敵のうつと云、うの字のかしらをおさへて、跡をさせざる心、是枕をおさゆる心なり。たとヘバ、敵のかゝると云、かの字【◇】をおさへ、飛と云、との字のかしらをおさへ、きるといふ、きの字のかしらを押る事、ミなもつておなじ心也。敵我にわざをなす事につけて、役にたゝざる事【脱字】バ敵に任せ、役に立ほどの事をバ、おさへて、敵にさせぬ様ニする所、兵法の専也。これも、敵のする事をおさへん/\とする心、後手也。先、我ハ何事にても、道に任せてわざをなす内に、敵もわざをせむと思かしらを押て、何事も役にたゝせず、敵をこなす所、是兵法の達者、鍛錬の故也。枕を押事、能々吟味有べき也。

 【伊藤家本】

一 枕を押ゆると云事。枕をおさゆるとは、かしらをあげさせず、といふ心也。兵法勝負の道にかぎつて、人に我身をまハされて、あとにつく事、悪し。いかにもして、敵を自由にまハしたき事也。然るによつて、敵もさやうに思ひ、われも其心あれども、人のする事をうけがハずしてハ、叶がたし。兵法に、人の打處をとめ、つく所をおさへ、くむ所をもぎはなちなどする事也。枕を押ると云は、我實の道を得て、敵にかゝりあふ時、敵何事にても思ふ氣ざしを、敵のせぬうちに見しりて、敵のうつと云、うの字のかしらをおさへて、跡をさせざる心、是枕をおさゆる心也。たとヘバ、敵のかゝるといふ、かの字【◇】を押へ、飛ぶといふ、との字のかしらを【脱字************】押ゆる事、ミなもつて同心也。敵我にわざをなす事につけて、役にたゝざる事をバ敵に任せ、役に立ほどの事をば、おさへて、敵にさせぬやうにする處、兵法の専也。これも、敵のする事をおさへん/\とする心、後手なり。先、我は何事にても、道にまかせてわざをなすうちに、敵もわざをせんと思ふかしらをおさへて、何事も役にたゝせず、敵をこなす處、是、兵法の達者、鍛錬の故也。枕をおさゆる事、能々吟味有べき也。

 【石井家本】

一 枕を押ゆると云事。枕をおさゆるとは、かしらをあげさせず、と云心也。兵法勝負の道にかぎつて、人に我身をまハされて、あとにつく事、悪し。いかにもして、敵を自由にまハしたき事也。然るによつて、敵もさやうに思ひ、われも其心あれども、人のする事をうけがハずしてハ、叶がたし。兵法に、人の打處をとめ、つく所をおさへ、くむ所をもぎはなちなどする事也。枕を押ると云は、我実の道を得て、敵にかゝりあふ時、敵何事にて(も)思ふ氣ざしを、敵のせぬうちに見しりて、敵のうつと云、うの字のかしらをおさへて、跡をさせざる心、是枕をおさゆる心也。たとヘバ、敵のかゝるといふ、かの字【◇】を押へ、飛ぶと云、との字のかしらを(おさへ、きるといふ、きの字のかしらを)押ゆる事、ミなもつて同心也。敵我にわざをなす事につけて、役にたゝざる事をバ敵に任せ、役に立ほどの事をば、おさへて、敵にさせぬやうにする處、兵法の専也。これも、敵のする事をおさへん/\とする心、後手なり。先、我は何事にても、道にまかせてわざをなすうちに、敵もわざをせんと思ふかしらをおさへて、何事も役にたゝせず、敵をこなす處、是、兵法の達者、鍛錬の故也。(枕を)おさゆる事、能々吟味有べき也。  

 【神田家本】

一 枕を押ゆると云事。枕をおさゆるとは、かしらをあげさせず、といふ心也。兵法勝負の道にかぎつて、人に我身をまハされて、あとにつく事、悪し。いかにもして、敵を自由にまハしたき事也。然るによつて、敵もさやうに思ひ、われも其心あれども、人のする事をうけがハずしてハ、叶がたし。兵法に、人の打處をとめ、つく所をおさへ、くむ所をもぎはなちなどする事也。枕を押ると云は、我實の道を得て、敵にかゝりあふ時、敵何事にても思ふ氣ざしを、敵のせぬうちに見しりて、敵のうつと云、うの字のかしらをおさへて、跡をさせざる心、是枕をおさゆる心也。たとヘバ、敵のかゝるといふ、かの字【◇】を押へ、飛ぶと云、との字のかしらを【脱字************】押ゆる事、ミなもつて同心也。敵我にわざをなす事につけて、役にたゝざる事をバ敵に任せ、役に立ほどの事をバ、おさへて、敵にさせぬやうにする處、兵法の専也。これも、敵のする事をおさへん/\とする心、後手なり。先、我は何事にても、道にまかせてわざをなすうちに、敵もわざをせんと思ふかしらをおさへて、何事も役にたゝせず、敵をこなす處、是、兵法の達者、鍛錬の故也。枕をおさゆる事、能々吟味有べき也。

 【猿子家本】

一 枕を押ゆると云事。枕をおさゆると云ハ、かしらを揚げさせず、と云事也。兵法勝負の道にかぎつて、人に我身をまハされて、跡に付事、悪し。いかにもして、敵を自由にまハしたき事也。然るに依て、敵も左様に思ひ、我も其心あれ共、人のする事をうけがハずしてハ、難叶。兵法に、人の打處をとめ、突所を押へ、くむ所をもぎはなち抔する事也。枕を押ると云は、我實の道を得て、敵にかゝりあふ時、敵何事にても思ふ【脱字】ざしを、敵のせぬ内に見しりて、敵の打と云、うの字の頭を押へて、跡をさせざる心、是枕を押ゆる心也。譬ヘバ、敵のかゝるといふ、かの字【◇】を押へ、飛と云、との字の頭を【脱字************】おさゆる事、皆以て同心也。敵我にわざをなす事に付て、役にたゝざる事をバ敵に任せ、役に立程の事をバ、押へて、敵にさせぬ様にする處、兵法の専也。是も、敵のする事を押へん/\とする心、後手也。先、我は何事にても、道に任せてわざをなす内に、敵もわざをせんと思ふ頭を押へて、何事も役にたゝせず、敵をこなす處、是、兵法の達者、鍛錬の故也。枕を押ゆる事、能々吟味有べき也。

 【楠家本】

一 枕をおさゆると云事。枕をおさゆるとハ、かしらをあげさせず、といふ心なり。兵法勝負の道ニかぎつて、人にわが身をまはされて、あとにつく事あしし。いかにもして、敵を自由にまハしたき事也。然によつて、敵もさやうにおもひ、われも其心あれども、人のする事をうけがはすしてハ、叶がたし。兵法に、敵の打所をとめ、つく處をおさへ、くむ所をもぎはなしなどする事也。枕をおさゆるといふハ、我実の道を得て、敵にかゝりあふ時、敵何ごとにてもおもふ氣ざしを、敵のせぬうちにミしりて、敵のうつといふ、うつのうの字のかしらをおさへて、跡をさせざる心、是、枕をおさゆる心也。たとへバ、敵のかゝるといふ、かの字【◇】をおさへ、とぶといふ、との字のかしらをおさへ、きるといふ、きの字のかしらをおさゆる、ミなもつておなじ心也。敵、我にわざをなす事につけて、役にたゝざる事をバ、敵にまかせ、役にたつほどの事をバ、おさへて、敵にさせぬようにする所、兵法の専也。これも、敵のする事を、おさゑん/\とする心、後手也。先、我ハ何事にても、道にまかせてわざをなすうちに、敵もわざをせんとおもふかしらをおさへて、何事も役にたゝせず、敵をこなす處、是、兵法のたつしや、鍛練の故也。枕をおさゆる事、能々吟味あるべきなり。

 【細川家本】

一 枕をおさゆると云事。枕をおさゆるとは、かしらをあげさせず、と云心也。兵法勝負の道にかぎつて、人に我身をまわされて、あとにつく事悪シ。いかにもして、敵を自由にまわし度事なり。然によつて、敵もさやうに思ひ、我も其心あれども、人のする事をうけがわずしてハ、叶がたし。兵法に、敵の打所をとめ、つく所をおさへ、くむ所をもぎはなしなどする事也。枕をおさゆると云は、我實の道を得て、敵にかゝりあふ時、敵何ごとにてもおもふ氣ざしを、敵のせぬ内に見知りて、敵のうつと云、うつのうの字のかしらをおさへて、跡をさせざる心、是、枕をおさゆる心也。たとへば、敵のかゝると云、かの字【◇】をおさへ、とぶと云、との字のかしらをおさへ、きると云、きの字のかしらをおさゆる、ミなもつておなじ心なり。敵、我にわざをなす事につけて、役にたゝざる事をば、敵にまかせ、役に立ほどの事をば、おさへて、敵にさせぬやうにする所、兵法の専也。是も、敵のする事を、おさゑん/\とする心、後手也。先、我は何事にても、道にまかせてわざをなすうちに、敵もわざをせんとおもふかしらをおさへて、何事も役にたゝせず、敵をこなす所、是、兵法の達者、鍛練の故也。枕をおさゆる事、能々吟味有べき也。

 【丸岡家本】

一 枕を押ると云事。枕をゝさゆるとは、頭をあげさせず、といふ心也。兵法勝負の道に限りて、人に我身をまハされて、後につく事あしゝ。如何にもして、敵を自由に廻したき事也。然に因て、敵も左樣ニおもひ、我も其心あれども、人のすることをうけがハずしてハ、かなひがたし。兵法に、敵の打所をとめ、突所を押へ、組所をもぎ離しなどすること也。枕を押るといふハ、我実の道を得て、敵にかゝり逢時、敵ノ何事にても思ふ氣ざしを、敵のせぬうちに見知て、敵の打といふ、うつのうの字の頭を押て、跡をさせざる心、是、枕をゝさゆる心也。譬バ、敵のかゝると云、カノ字の頭を押へ、飛といふ、との字の首を押、切と云、キノ字の頭をゝさゆる、皆以おなじ心なり。敵、我にわざをなすことに付て、益に立ざることをバ、敵にまかせ、やくにたつほどの事をば、押へて、敵にさせぬやうにする所、兵法の先也。是も、敵のする事を、押ん/\とする心、却て後手なり。先、我ハ何事にても、道にまかせて技を為うちに、敵もわざをせんとおもふ頭をゝさへて、何事も益にたゝせず、敵をこなす所、是、兵法の達者、鍛煉の故也。枕を押る事、能々吟味有べきなり。

 【富永家本】

一 枕をおさゆると云事。枕をおさゆるとハ、頭を上ゲさせず、といふ心なり。兵法勝負の道にかぎつて、人に我身をまわされて、跡につく事あしゝ。如何にもして、敵を自由に廻したき事也。然によつて、敵も左様に思ひ、我も其心あれども、人のする事を請がわすしてハ、叶がたし。兵法に、敵の打処をとめ、突所をおさへ、くむ所をもぎはなしなどする事也。枕をおさゆると云ハ、我実の道を得て、敵にかゝりあふ時、敵何事にても思ふ氣ざしを、【脱字】せぬ内に見知て、敵の打といふ、打のうの字の頭をおさへて、跡をさせさる心、是、枕をおさゆる心なり。たとへバ、敵のかゝると云、かの字【◇】をおさへ、とぶといふ、との字【脱字】を押、切といふ、きの字の頭を押る、皆以て同じ心也。敵、我にわざをなす事につけて、役に立ざる事をバ、敵にまかせ、役に立ほどの事をバ、おさへて、敵にさせぬ様にする処、兵法の専ら也。是も、敵のする事を、おさへん/\とする心ハ、後手なり。先、我ハ何事にても、道にまかせてわざをなす内に、敵もわざをせんと思ふ頭を押て、何事も役にたゝせず、敵をこなす處、是、兵法の達者、鍛練の故なり。枕をおさゆる事、能々吟味可有なり。

 【常武堂本】

一 枕をおさゆると云事。枕をおさゆるとハ、かしらをあげさせず、と云心也。兵法勝負の道に限て、人に我身をまわされて、あとにつく事悪し。いかにもして、敵を自由にまわし度事なり。然によつて、敵も左様に思ひ、我も其心あれども、人のする事をうけがわずしてハ、叶がたし。兵法に、敵の打所をとめ、つく所をおさへ、くむ所をもぎはなしなどする事也。枕をおさゆると云ハ、我實【脱字】を得て、敵にかゝりあふ時、【脱字】何事にても思ふ気ざしを、敵のせぬ内に見知りて、敵のうつといふ、うつのうの字のかしらをおさへて、跡をさせざる心、是、枕をおさゆる心也。たとへば、敵のかゝるといふ、かの字【◇】をおさへ、とぶと云、との字のかしらをおさへ、きると云、きの字のかしらをおさゆる、みな以ておなじ心也。敵、我にわざをなす事につけて、役にたゝざる事をバ、敵にまかせ、役にたつ程の事をバ、おさへて、敵にさせぬ様にする所、兵法の専也。是も、敵のする事を、おさえむ/\とする心、後手也。先、我ハ何事にても、道にまかせてわざをなすうちに、敵もわざをせんとおもふかしらをおさへて、何事も役にたゝせず、敵をこなす所、是、兵法の達者、鍛練の故也。枕をおさゆる事、能々吟味有べき也。

 【田村家本】

 枕ヲ押ルト云事 【脱字****】頭ヲ上サセズ、ト云心也。兵法勝負ノ道ニ限テ、人ニ吾身ヲマワサレテ、アトニ付コトアシ丶。イカニモシテ、敵ヲ自由ニ廻シタキ事也。然ニ因テ、敵モ左ヨウニ思、吾モ其心アレ共、人ノスル事ヲウケガワズシテ【脱字】、叶ヒガタシ。兵法ニ、敵ノ打処ヲトメ、突処ヲオサエ、クム処ヲモギハナシナドスル事也。枕ヲ押ユルト云ハ、我實ノ道ヲ得テ、敵ニカヽリ合時、敵何事ニテモ思気ザシヲ、敵ノセヌ内ニ見シリテ、敵ノ打ト云、ウツノウノ字ノ頭ヲ押ヘテ、跡ヲサセザル心【脱字*****】也。タトエバ、敵ノカヽルト云、カノ字ノ頭ラヲヽサヘ、トブト云、トノ字【脱字】ヲ押ヘ、キルト云、キノ字ノ頭ヲ押ル、皆以同心也。敵、吾ニワザヲナス事ニ付テ、益【脱字】タヽザル事ヲバ、敵ニマカセ、益ニ立程ノコトヲバ押エ【脱字】、敵ニサセヌヤウニスル処、兵法ノ先也。是モ、敵ノスル事ヲ、オサヱンオサヱントスル心、後手也。先、ワレハ何事ニテモ、道ニマカセテワザヲナスウチニ、テキモワザヲセント思頭ヲ押エテ、何事モ益ニタヽセズ、テキヲマワス処、是、兵法ノ達者、鍛練ノ故也。枕ヲ押ル事、ヨク々吟味有ベキナリ。

 【狩野文庫本】

一 枕をおさゆると云事。枕をおさゆるとハ、頭をあげさせぬ、と云心也。兵法の勝負の道に限て、人に我身をまハされて、あとに付事悪し。いかにもして、敵を自由に廻度事なり。然ニ仍而、敵も左樣ニ思ひ、我も其心有ども、人のする事をうけがわずして【脱字】、叶がたし。兵法ニ、敵の打所を留、つく所を押へ、くむ所ヲもぎハなしなどする事也。枕を押ゆるといふハ、我実の道を得て、敵に懸あふ時、敵何事にても思ふきざしを、敵のせぬ内に見知て、敵の打と云、うの字の頭をおさへて、跡をさせざる心、是、枕をおさゆる【脱字】也。たとへバ、敵の懸るといふ、かの字の頭をおさへ、【脱字**********】切といふ、きの字の頭をおさゆる、皆【脱字】同心也。敵我に業をなす事ニ付而、役にたゝざる事をバ、敵に任せ、役に立程の事をバ、おさへて、敵ニさせぬ樣ニする所、兵法の専也。是も、敵のする事【脱字】おさへん/\とする心、後手なり。先、我は何事にても、道に任せて業をなすうちニ、敵も業をせんと思ふ頭をおさへて、何事も役に立せず、敵をこなす所、是、兵法の達者、鍛練の故也。枕を押ゆる事、能々可有吟味也。

 【多田家本】

一 枕をおさゆると云事。枕をおさゆるとハ、頭をあげさせずと云事也。兵法勝負の道に限て、人に我身を廻させて、跡につく事、悪し。如何にもして、敵を自由に廻したき事也。然るに依て、【脱字】左様に思ひ、我も其心あれども、人のする事を請がわずしてハ、叶がたし。兵法に、人の打所を留、突所を押へ、組所をもぎはなし抔する事なり。枕をおさゆると云ハ、我実の道を得て、敵に懸りあふ時、敵何事【脱字】も思ふ氣指を、敵のせぬうちに見知て、敵の打といふ、うの字の頭をおさへて、跡をさせざる心、是枕をおさゆる【脱字】也。縦令バ、敵のかゝると云、かの字の頭をおさへ、とうと云、との字の頭をおさへ、き【脱字】と云、きの字の頭をおさゆる【脱字】、皆【脱字】同じ心なり。敵我にわざをなす事に付て、役にたゝざる事を見敵に任せ、役に立程の事をバ、押而、敵にさせぬ様にする所、兵法の専也。是も、敵のする事を押へん/\とする心、後手也。先、我も何事にても、道に任て業をなす内に、敵も業をせんと思ふ頭をおさへて、何事も役に立せず、敵をこなす所、是兵法の達者、鍛練の故也。枕をおさゆる事、よく/\吟味有べきもの也。

 【山岡鉄舟本】

一 枕ヲ押ユルト云事。枕ヲ押ルトハ、頭ヲ上ゲサセズ、ト云心也。兵法ノ勝負ノ道ニ限テ、人ニ我身ヲマハサレテ、跡ニ付事悪ク。イカニモシテ、敵ヲ自由ニ廻シ度事也。然ル【脱字】依テ、敵モ左様ニ思ヒ、我モ其心アレ共、人ノスル事ヲ受ガワズシテハ、難叶。兵法ニ、敵ノ打処ヲ留メ、付処ヲ押ヘ、組所ヲモギ離シ抔スル事也。枕ヲ押ヘルト【脱字】ハ、我實ノ道ヲ得テ、敵ニ懸リ合時、敵何事ニテモ思キザシヲ、敵ノセヌ内ニ見知リテ、敵ノ打ト云、打ツノウノ字ノ頭ヲ押ヘテ、跡ヲサセザル心、是、枕ヲ押ル心也。譬バ、敵ノ懸ルト云、カノ字【◇】ヲ押ヘ、飛ト云、トノ字ノ頭ヲ押ヘ、切ト云、キノ字ノ頭ヲ押ル、皆以同ジ心也。敵、我ニワザヲ成ス事ニ付テ、益ニタヽザル事ヲバ、敵ニ任セ、益ニ立程ノ事ヲバ押ヘテ、敵ニサセヌ様ニスル所、兵法ノ先也。是モ、敵ノスル事ヲ、押ヘン/\トスル心、後手也。先、我ハ何事ニテモ、道ニ任セテワザヲナス内ニ、敵モワザヲセント思フ頭ヲ押テ、何事モ役ニ立セズ、敵ヲコナス処、是、兵法ノ達者、鍛錬ノ故也。枕ヲ押ル事、能々吟味有ベシ。

 【稼堂文庫本】

一 枕を押ると云事。枕を押るとハ、かしらを上させずと云心也。兵法勝負の道にかぎつて、人に我身を廻されて、跡につくこと悪し。如何にもして、敵を自由に廻したきことなり。然るに依て、敵も其通りに思ひ、我も其心有レ共、人のすることを請替ずしては、叶がたし。兵法に、【脱字】打所を留、突所を押へ、組所をもぎはなしなどすること也。枕を押と云は、我實の道を得て、敵にかゝり逢時、敵何事にても思ふ氣ざしを、【脱字】せぬ内に見知て、敵の打と云、打のウノ字の頭を押へて、跡をさせざる心、是、枕を押る心也。縦ば、敵のかゝると云、カの字【◇】を押へ、とぶと云、トの字【脱字】を押へ、切と云、きの字の頭を押る、皆以同じ心也。敵、我にわざをなす事に付て、役に立ざることをば、敵に任せ、役に立ほどのことをば、押へて、敵にさせぬ様にする所、兵法の専也。是も、敵のすることを、押へん/\とする心は、後手也。先、我ハ何事にても、道にまかせて業をなす内に、敵も業をせんと思ふ頭を押へて、何事も役に立せず、かたきをこなす所、是、兵法の達者、鍛練の故也。枕をおさゆること、能々吟味有べき也。  

 【大瀧家本】

一 枕をおさゆるといふ事。まくらをおさゆるといふハ、頭をあげさせず、と云心なり。兵法勝負の道に限つて、人に我身を廻ハされて、跡に付事悪し。如何にもして、敵を自由に廻し度事也。然るに依て、敵も左様に思ひ、我も其心あれ共、人のする事をうけがはずしてハ、難叶。兵法に、人の打處を止め、突所をおさへ、組所をもぎ放しなどする事也。枕をおさゆると云ハ、我実の道を得て、敵に懸り合時、敵何事にても思ふ氣ざしを、敵のせぬ内に【脱字**】、敵【脱字】打と云、打のうの字の頭をおさへて、跡をさせざる心、是、枕をおさゆる心なり。たとへバ、敵の懸ると云、かの字【◇】をおさへ、飛といふ、との字の頭をおさへ、切と云、きの字の頭をおさへる、皆以て同事也。敵、我に業をなす事に付て、役に立ざる事をバ、敵に任せ、役に立程の事をば、おさへて、敵にさせぬ様にする所、兵法の専一也。是も、敵のする事を、おさへん/\とする心、後手也。先、我ハ何事にても、道に任せて業をなす内に、敵も業をせんと思ふ頭をおさへて、何事も役に立せず、敵をこなす処、是、兵法の達者、鍛練の故也。枕を抑ゆる事、能々吟味あるべきものなり。    PageTop    Back   Next 

  5 渡をこすと云事

 【吉田家本】

一 とをこすと云事。渡をこすと云ハ、たとヘバ、海をわたるに、瀬とと云所も有、又ハ、四十里五十里とも長き海をこす所を、渡と云。人間の世をわたるにも、一代のうちにハ、渡をこすと云所、多かるべし。舟路にしても、其との所を知り、舟の位を知り、日なミを能知りて、たとひ友舩ハ出さずとも、其ときのくらゐをうけ、或ハひらきの風にたより、或ハおひ風をもうけ、若、風かはりても、二里三里ハ、ろかひをもつて湊に着と心得て、舩をのりとり、渡を越所也。其心を得て、人の世をわたるにも、一大事にかけて、渡をこすと思心有べし。兵法、戦のうちに、とをこす事肝要也。敵の位をうけ、我身の達者を覚へ、其理をもつてとをこす事、能船頭の海路を越すと同じ。渡を越てハ、又心安き所也。渡をこすと云事、敵によわミをつけ、我身先になりて、大かたはや勝所也。大小の兵法のうへにも、とをこすと云心、肝要也。能々吟味有べし。

 【立花隨翁本】

   (書巻欠損により欠落)

 【赤見家甲本】

一 とをこすと云事。渡をこすといふは、縱バ海をわたるに、せとゝいふ所も有、亦【脱字】、四十里五十里とも長き海をこす所を渡と云。人間の世をわたるにも、一代のうちにハ、渡をこすと云所多かるべし。舩路にして、其との所を知り、舟の位をしり、日なミを能知りて、たとひ友舩は出さずとも、其時のくらゐをうけ、或はひらきの風にたより、或は追風をもうけ、若、風かはりても、二里三里は、ろかいを以て湊に着と心得て、舩をのりとり、渡を越所也。其心を得て、人の世をわたるにも、一大事にかけて、渡をこすと思ふ心有べし。兵法、戦のうちに、とをこす事、肝要也。敵の位をうけ、我身の達者をおぼへ、其理を以て、とをこす事、能船頭の海路を越と同じ。渡を越てハ、又心安き所也。渡を越といふ事、敵によハミをつけ、我身先になりて、大かたはや勝所也。大小の兵法のうへにも、とをこすといふ心、肝要也。能々吟味有べし。

 【中山文庫本】

一 とをこすと云事。渡をこすと云ハ、たとヘバ、海をわたるに、瀬とと云所も有、又ハ、四十里五十里とも長き海をこす所を渡と云。人間の世をわたるにも、一代のうちには、渡をこすと云所多かるべし。舟路にして、其との所を知り、舟の位をしり、日なみを能知て、たとひ友舩ハ出さずとも、其ときのくらゐをうけ、或ハひらきの風にたより、或はおひ風をもうけ、若、風かはりても、二里三里は、ろかひをもつて湊に着と心得て、舩をのり【脱字】、渡を越所也。其心を得て、人の世をわたるにも、一大事にかけて、渡をこすと思心有べし。兵法、戦のうちに、とをこす事肝要也。敵の位をうけ、我身の達者を覚へ、其理をもつて、とをこす事、能舩頭の海路を越すと同じ。渡を越てハ、又心安き所也。渡をこすと云事、敵によはミをつけ、我身先になりて、大かたはや勝所也。大小の兵法のうへにも、とをこすと云心、肝要也。能々吟味有べし。

 【近藤家甲本】

一 とをこすと云事。渡をこすといふは、縱バ、海をわたるに、せとゝいふ所も有、亦【脱字】、四十里五十里とも長き海をこす所を渡と云。人間の世をわたるにも、一代のうちにハ、渡をこすと云所多かるべし。舩路にして、其との所を知り、舟の位をしり、日なミを能知りて、たとひ友舩は出さずとも、其時のくらゐをうけ、或はひらきの風にたより、或は追風をもうけ、若、風かはりても、二里三里ハ、ろかひを以て湊に着と心得て、舩をのりとり、渡を越す所也。其心を得て、人の世を渡るにも、一大事にかけて、渡をこすと思ふ心有べし。兵法、戦の道に、渡をこす事肝要也。敵の位をうけ、我身の達者をおぼへ、其理を以て、とをこす事、能船頭の海路を越と同じ。渡を越ては、又心安き所也。渡を越といふ事、敵によハミをつけ、我身先になりて、大かたはや勝所也。大小の兵法のうへにも、とをこすといふ心、肝要也。能々吟味有べし。

 【近藤家乙本】

一 とをこすと云事。渡をこすといふは、縱バ、海をわたるに、せとゝいふ所も有、亦【脱字】、四十里五十里とも長き海をこす所を渡と云。人間の世をわたるにも、一代のうちにハ、渡をこすと云所多かるべし。舩路にして、其との所を知り、舟の位をしり、日なミを能知りて、たとひ友舩は出さずとも、その時のくらゐをうけ、或はひらきの風にたより、或は追風をもうけ、若、風かはりても、二里三里ハ、ろかひを以て湊に着と心得て、舩をのりとり、渡を越す所也。其心を得て、人の世を渡るにも、一大事にかけて、渡をこすと思ふ心有べし。兵法、戦のうちに、渡をこす事肝要也。敵の位をうけ、我身の達者をおぼへ、其理を以て、とをこす事、能船頭の海路を越と同じ。渡を越ては、又心安き所也。渡を越といふ事、敵によハミをつけ、我身先になりて、大かたはや勝所也。大小の兵法のうへにも、とをこすといふ心、肝要也。能々吟味有べし。

 【鈴木家本】

一 とをこすと云事。渡をこすと云ハ、たとヘバ海を渡るに、瀬【脱字】と云所も有、又ハ、四十里五十里とも長き海をこす所を渡と云。人間の世をわたるにも、一代のうちには、渡をこすと云所多かるべし。舟路にして、其との所を知り、舟の位をしり、日なミを能知りて、たとひ友舩ハ出さずとも、其時のくらゐを受、或ハひらきの風にたより、或ハおひ風をもうけ、若、風かはりても、二里三里ハ、ろかひをもつて湊に着と心得て、舩をのりとり、渡をこす所也。其心を得て、人の世をわたるにも、一大事にかけて、渡をこすと思心有べし。兵法、戦の内に、とを越事肝要也。敵の位をうけ、我身の達者を覚へ、其理をもつて、とをこす事、能船頭の海路を越と同じ。渡を越てハ、又心安き所也。渡をこすと云事、敵によわミを付、我身先になりて、大かたはや勝所也。大小の兵法のうへにも、とをこすと云心、肝要也。能々吟味有べし。

 【伊藤家本】

一 とをこすと云事。渡をこすといふは、縱バ、海をわたるに、せとゝいふ所も有、亦【脱字】、四十里五十里とも長き海をこす所を渡と云。人間の世をわたるにも、一代のうちには、渡をこすと云所多かるべし。舩路にして、其との所を知り、舟の位をしり、日なミを能知りて、たとひ友舩は出さずとも、その時のくらゐをうけ、或はひらきの風にたより、或は追風をもうけ、若、風かはりても、二里三里は、ろかひを以て湊に着と心得て、舩をのりとり、渡を越す所也。其心を得て、人の世を渡るにも、一大事にかけて、渡をこすと思ふ心有べし。兵法、戦の内に、渡をこす事肝要也。敵の位をうけ、我身の達者をおぼへ、其理を以て、とをこす事、能船頭の海路を越と同じ。渡【脱字】越ては、又心安き所也。渡を越といふ事、敵によハミをつけ、我身先になりて、大かたはや勝所也。大小の兵法のうへにも、とをこすといふ心、肝要也。能々吟味有べし。

 【石井家本】

一 とをこすと云事。渡をこすといふハ、縱バ、海をわたるに、せとゝいふ所も有、亦【脱字】、四十里五十里とも長き海をこす所を、渡と云。人間の世をわたるにも、一代のうちには、渡をこすと云所多かるべし。舩路にして、其との所を知り、舟の位をしり、日なミを能知りて、たとひ友舩は出さずとも、その時のくらゐをうけ、或はひらきの風にたより、或は追風をもうけ、若、風かはりても、二里三里は、ろかひを以て湊に着と心得て、舩をのりとり、渡を越す所也。其心を得て、人の世を渡る(に)も、一大事にかけて、渡をこすと思ふこゝろ有べし。兵法、戦の道(うち)に、渡をこす事肝要也。敵の位をうけ、我身の達者をおぼへ、其理を以て、とをこす事、能船頭の海路を越と同じ。渡を越ては、又心安き所也。渡を越といふ事、敵によハミをつけ、我身先になりて、大かたはや勝所也。大分の兵法のうへにも、とをこすといふ心、肝要也。能々吟味有べし。  

 【神田家本】

一 とをこすと云事。渡をこすといふは、縱バ、海をわたるに、せとゝいふ所も有、亦【脱字】、四十里五十里とも長き海をこす所を渡と云。人間の世をわたるにも、一代のうちには、渡をこすと云所多かるべし。舩路にして、其との所を知り、舟の位をしり、日なミを能知りて、たとひ友舩は出さずとも、その時のくらゐをうけ、或はひらきの風にたより、或ハ追風をもうけ、若、風かはりても、二里三里は、ろかひを以て湊に着と心得て、舩をのりとり、渡を越す所也。其心を得て、人の世を渡る(に)も、一大事にかけて、渡をこすと思ふ心有べし。兵法、戦の道(うち)に、渡をこす事肝要也。敵の位をうけ、我身の達者をおぼへ、其理を以て、とをこす事、能船頭の海路を越と同じ。渡を越ては、又心安き所也。渡を越といふ事、敵によハミをつけ、我身先になりて、大かたはや勝所也。大分(小)の兵法のうへにも、とをこすといふ心、肝要也。能々吟味有べし。

 【猿子家本】

一 渡をこすと云事。とをこすといふハ、縱バ、海を渡るに、せとゝいふ所も有、又【脱字】、四十里五十里とも長き海をこす所を渡と云。人間の世を渡るにも、一代のうちにハ、渡をこすと云所多かるべし。舩路にして、其との所を知り、舟の位を知り、日なミを能知りて、たとひ友舩ハ出さずとも、その時の位をうけ、或はひらきの風にたより、或は追風をもうけ、若、風かはりても、二里三里ハ、艪かひを以て湊に着と心得て、舩を乗とり、渡をこす所也。其心【脱字】得て、人の世を渡る【脱字】も、一大事にかけて、渡をこすと思ふ心有べし。兵法、戦の道に、渡をこす事肝要也。敵の位をうけ、我身の達者を覚へ、其理を以て、とをこす事、能船頭の海路を越と同じ。渡を越てハ、又心安き所也。渡を越といふ事、敵に弱ミをつけ、我身先になりて、大方はや勝所也。大分の兵法のうへにも、渡をこすといふ心、肝要也。能々吟味有べし。

 【楠家本】

一 とをこすと云事。渡を越と云ハ、縦バ、海をわたるニ、瀬【脱字】といふ所も有、又ハ、四十里五十里とも長き海を越所を、渡といふ。人間の世をわたるにも、一代の内にハ、とをこすといふ所、多かるべし。舟路にして、其との所をしり、舟のくらゐをしり、日なミをよくしりて、【脱字】友船ハ出さずとも、其時のくらゐをうけ、或ハひらきの風にたより、或ハ追風をもうけ、若、風かはしりても、二里三里ハ、ろかずを以て湊につくと心得て、舟をのりとり、渡を越所也。其心を得て、人の世を渡るにも、一大事にかけて、渡をこすと思ふ心あるべし。兵法、戦の内にも、とをこす事肝要也。敵のくらゐをうけ、わが身の達者をおぼえ、其理を以てとをこす事、よき船頭の海路をこすと同じ。渡を越てハ、又心やすき處也。渡をこすといふ事、敵によはミをつけ、わが身も先になりて、大かたはや勝所也。大小の兵法のうへにも、とをこすといふ心、肝要也。よく/\吟味有べし。

 【細川家本】

一 とをこすと云事。渡を越と云は、縦ば、海を渡るに、瀬戸と云所もあり、亦は、四十里五十里とも長き海を越所を、渡と云也。人間の世を渡るにも、一代の内には、とをこすと云所、多かるべし。舟路にして、其との所を知り、舟の位を知、日なミを能知りて、【脱字】友舟は出さず共、其時の位を受、或、ひらきの風にたより、或、追風をも受、若、かぜ替りても、二里三里ハ、ろかずをもつても湊に着と心得て、舟を乗とり、渡を越所也。其心を得て、人の世を渡るにも、一大事にかけて、渡をこすと思ふ心有べし。兵法、戦の内にも、とをこす事肝要なり。敵の位を受、我身の達者を覚へ、其理を以てとをこす事、よき船頭の海路を越と同ジ。渡を越ては、亦心安き所也。渡をこすと云事、敵によハみをつけ、我身も先になりて、大形はや勝所也。大小の兵法のうへにも、とをこすと云心、肝要なり。能々吟味あるべし。

 【丸岡家本】

一 度を越と云事。とをこすといふは、たとへば、海を渡るに、瀬とゝいふ處も有、又ハ、四十里五十里とも長き海を越所を、渡といふ也。人間の世を渡るにも、一代の内には、度を越といふ所、多かるべし。舟路ニして、其度の處をしりて、舟のくらゐをしり、日なミを能知て、【脱字】友舟は出さずとも、其時のくらゐをうけ、或は開きの風にたより、或は追風をも請、若、風変りても、二里三里は、櫓の数を以も湊に着と心得て、船を乗とり、度をこす處なり。其心を得て、人の世を渡るにも、一大事にかけて、度を越と思ふ心有べし。兵法、戦のうちにも、度をこす事肝要也。敵のくらゐを受、我身の達者をゝぼえ、其理を以度を越事、能船頭の海路を越と同じ。渡を越ては、又心安き處也。度を越といふこと、敵に弱ミをつけ、我身も先になりて、大形はや勝所也。大小の兵法の上にも、度を越といふ心、肝要なり。よく/\吟味有べし。

 【富永家本】

一 とをこすといふ事。渡を越と云ハ、縦バ、海を渡るに、瀬【脱字】と云所もあり、またハ、四十里五十里とも長き海を越所を、渡と云なり。人間【脱字】世を渡るにも、一代の内ニハ、渡を越と云處、多かるべし。舟路にして、其渡の所を知り、舟の位を知り、日なミをよくしりて、【脱字】友舩ハ出さずとも、其時の位を請、【脱字*************】、若、風替りても二里三里ハ、ろかひを以ても湊に付と心得て、舟を乗取、渡を越處なり。其心を得て、人の世を渡るにも、一大事に懸て、渡を渡る越すと思ふ心あるべし。兵法、戦の内にも、渡を越事肝要なり。敵の位を請、我身の達者を覚、其理を以渡を越す事、能船頭の海路をこすと同じ。渡を越てハ、また心安き處なり。渡を越といふ事、敵によわみを付、我身も先に成て、大形はや勝所なり。大小の兵法の上ニも、渡を越と云心、肝要也。能々吟味有べし。

 【常武堂本】

一 とをこすと云事。渡を越と云ハ、縦バ、海を渡るに、瀬戸と云所もあり、亦ハ、四十里五十里とも長き海を越所を、渡と云也。人間の世を渡るにも、一代の内にハ、とをこすと云所、多かるべし。舟路にして、其との所を知り、舟の位を知、日なみを能知りて、【脱字】友舟は出さずとも、其時の位を受、或、ひらきの風にたより、或ハ、追風をも受、若、かぜ替りても、二里三里ハ、ろかずを以ても湊に着と心得て、舟を乗とり、渡を越所也。其心を得て、人の世を渡るにも、一大事にかけて、渡をこすと思ふ心有べし。兵法、戦の内にも、とをこす事肝要也。敵の位を受、我身の達者をおぼえ、其理を以てとをこす事、よき船頭の海路を越と同ジ。渡を越てハ、亦心安き所也。渡をこすと云事、敵によはみをつけ、我身も先になりて、大形はや勝所也。大小の兵法のうへにも、とをこすといふ心、肝要也。能々吟味有べし。

 【田村家本】

 度ヲ越ト云事 【脱字******】縦、海ヲ渡ルニ、セトヽ云所モ有、亦ハ、四十里五十里共長キ海ヲ越処ヲ、渡ト云也。人間ノ世ヲ渡ニモ、一代ノ内ニハ、トヲ越ト云処、多カルベシ。舟路ニ【脱字】テ、其度ノ所ヲシリ、舟ノ位ヲシリ、日ナミヲ【脱字】シリ、【脱字】友船ハ出サズ共、其時ノ位ヲウケ、或ハヒラキノ風ニタヨリ、或ハ追風【脱字】モウケ、若風替リテモ、二里三里ハ、櫓員ヲ用テモ湊ニツクト心得テ、舟ヲノリトリ、度ヲ越所也。其心ヲ得テ、人ノ世ヲ渡ニモ、一大事ニカケテ、度ヲ越トヲモウ心有ベシ。兵法、闘ノ内ニモ、トヲコス事肝要也。敵ノ位ヲ受、吾ミノ達者ヲ覚、其理ヲ以テ度ヲ越コト、ヨキ船頭ノ海路ヲコスト同。度ヲ越テハ、又【脱字】安キ処也。度ヲ越ト云コト、敵ニヨワミヲツケ、吾身モ先ニナリテ、大形ハヤ勝處也。大小ノ兵法ノウヱニモ、度ヲ越ト云心、肝要ナリ。能々吟味アルベシ。

 【狩野文庫本】

一 渡を越【脱字】事。渡を越と云ハ、縦バ、海を渡ニ、瀬渡と云所も有、又、四十里五十里とも長海ヲ越所を、渡ると云也。人間の【脱字】渡りニにも、一代の内ニ【脱字】、渡を越すと云所、多かるべし。船路にして、其渡の所を知、船の位をも智、波を能知て、【脱字】友船ハ不出共、其時の位を受、或はひらきの風に便、或は追風をも請、若風替ても、二里三里ハ、ろかずを以湊に着と心得て、船を乗取、渡ヲ越所也。其心を得て、人の世を渡にも、一大事ニ懸て、渡を越と思ふ心有べし。兵法、戦の内ニも、渡を越事肝要也。敵の位を請、我身の達者も覚、其理を以渡を越事、能船頭の海路を越と同じ。渡を越ては、又心易き所也。渡を越と云事、敵に弱ミを付、我身を先に成て、大形はや勝所なり。大小の兵法の上にも、渡を越といふ心、肝要也。能々吟味有べし。

 【多田家本】

一 戸をこすと云【脱字】。渡を越と云ハ、縦バ海を渡るに、瀬渡と云所も有、又ハ、四拾里五拾里【脱字】長き海をこゆる所を、渡と云也。人間【脱字】世を渡るにも、一代のうちには、渡を越ると云所多かるべし。舟路にして、其渡りの所を知、船の位をしり、日なみをよくしりて、【脱字】友舟ハ出さず共、其時の位をうけ、或ハひらきの風を便り、或ハ追風をもふけ、若、風替りても、二里三里ハ、艪かずを以湊につくと心得て、舟を乗取事も、渡を越所也。其心を得て、人の世を渡るにも、一大事に懸て、渡をこすといふ事有べし。兵法、戦の内にも、渡をこすと思ふ事肝要也。敵の位を請、我身の達者を覚へ、其理を以、戸を越事、能船頭の海路を越ると同じ。渡を越てハ、又心易所也。渡りを越ると云こと、敵に弱みを付、我身も先になりて、大形はや勝所也。大小の兵法の上にも、渡りを越といふこゝろ、肝要也。能々吟味有べし。

 【山岡鉄舟本】

一 度ヲ越ト云事。度ヲ越スト云ハ、【脱字】、海ヲ渡ルニ、瀬【脱字】ト云所モアリ、又ハ、四十里五十里トモ長キ海ヲ越処ヲ、渡ト云也【×衍字】。人間之世ヲ渡ルニモ、一代ノ内ニハ、渡ヲ越ト云處、多アルベシ。舟路ニシテ、其渡ノ所ヲ知リ、舟ノ位ヲ知リ、波ヲ能ク知テ、【脱字】友舩ヲ出サズトモ、其時ノ位ヲ受ケ、或ハ響ノ風ニタヨリ、或ハ追風ヲモ受ケ、【脱字】風変テモ、二里三里ハ、櫓カイヲ以テ湊ニ付ト心得テ、舟ヲ乗取リ、渡ヲ越処ナリ。其心ヲ得テ、人ノ世ヲ渡ルニモ、一大事ニカケテ、渡ヲ越ト思心有ベシ。兵法、戦ノ内ニモ、渡ヲ越事肝要也。敵ノ位ヲ受、我身ノ達者ヲ覚、其理ヲ以テ渡ヲ越事、能船頭【脱字】海路ヲ越スト同ジ。渡ヲ越テハ、又心安キ処也。渡ヲ越ト云事、敵ニ弱ミヲ付、我身モ先ニ成リテ、大方早勝所也。大小ノ兵法之上ニモ、渡ヲ越ト云心、肝要也。能々吟味アルベシ。

 【稼堂文庫本】

一 渡を越すと云こと。とを越と云は、縦ば、海を渡るに、瀬【脱字】と云所も有、又は、四十里五十里【脱字】長き海を越す所を、渡すと云也。人間【脱字】世を渡るにも、一代の内には、渡を越すと云所、多かるべし。舟路にして、其渡の所を知り、舟の位をしり、日なミを能知つて、【脱字】友舩は出さず共、其時の位を受、或は、ひらきの風にたより、或は、追風をも受、若は、風替りても、二【脱字】三里は、櫓械を以も湊に付と心得て、舩を取こと、是渡を越す所也。其心を以、人の世を渡るにも、一大事に懸ツて、渡を越と思ふ心有べし。兵法、戦の内にも、渡を越ること肝要也。敵の位を受、我身の達者を覚、其理を以て渡を越すこと、能々船頭の舩路を越ると同じ。渡を越ては、又心安きこと也。渡を越すと云事、敵によわみを付、我【脱字】も先に成て、大形はや勝所也。大小の兵法の上にも、渡を越すと云心、肝要也。能々吟味有べし。  

 【大瀧家本】

一 渡を越といふ事。とをこすといふハ、たとへバ、海を渡るに、瀬戸といふ所も有、又ハ、四十里五十里共長き海を越所を、渡といふなり。人間の世を渡るにも、一代の内にハ、渡をこすと云処、多かるべし。舩路にして、其渡の所を知り、舩の位を知り、日並を能知りて、たとひ友舩ハ出さぬとも、其時の位を受、或ハ、ひらきの風に便り、或ハ、追風をも受、若、風替りても、二里三里ハ、ろかいを以て湊に付と心得て、舩を乗取り、渡を越す所也。其心を得て、人の世を渡るにも、一大事にかけて、渡をこすと思ふ心あるべし。兵法、戦の中にも、渡を越事肝要也。敵の位を受、我身の達者を覚ひ、其利を以て渡を越事、能く舩頭の海路をこすとおなじ。渡を越てハ、又心安き所なり。渡をこすといふ事、敵に弱みを付、我身も先に成て、大形はやく勝所也。大分の兵法の上にも、渡をこすと云心、肝要也。能々吟味あるべきなり。    PageTop    Back   Next 

  6 景気をしると云事

 【吉田家本】

一 けいきを知と云事。景氣をミると云ハ、大分の兵法にしてハ、敵のさかへおとろへを知り、相手の人数の心をしり、其場のくらゐをうけ、敵の景氣を能見わけ、我人数何としかけ、此兵法の理にてたしかに勝、と云ところをのミこミて、先の位をしつて、戦所也。又、一分の兵法も、敵のながれをわきまへ、相手の強弱、人がらを見分、敵の氣色にちがふ事をしかけ、敵のめりかりをしり、其間の拍子を能知て、先をしかくる所、肝要也。物毎の景氣と云事ハ、我智力強けれバ、必ミゆる所也。兵法、自由の身になりてハ、敵の心を能斗て、勝道多かるべき事也。工夫有べし。

 【立花隨翁本】

   (書巻欠損により欠落)

 【赤見家甲本】

一 けいきを知と云事。景氣をみるといふハ、大分の兵法にしてハ、敵のさかへ、おとろへを知り、相手の人数の心をしり、其場の位をうけ、敵のけいきを能見わけ、我人数何としかけ、此兵法の理にてたしかに勝といふところをのミ込て、先の位をしつて戦所也。又、一分の兵法も、敵のながれをわきまへ、相手の強弱、人がらを見分け、敵の氣色にちがふ事をしかけ、敵のめりかりをしり、其間の拍子を能知て、先をしかくる所、肝要也。物毎の景氣といふ事ハ、我智力強けれバ、かならずミゆる所也。兵法自由の身になりてハ、敵の心を能斗て、勝道多かるべき事也。工夫有べし。

 【中山文庫本】

一 けいきを知と云事。景氣をミると云ハ、大分の兵法にしてハ、敵のさかへ、おとろへを知り、相手の人数の心をしり、其場の位をうけ、敵の景氣を能見わけ、我人数何としかけ、此兵法の理にてたしかに勝と云所をのミこミて、先の位をしつて戦所也。又、一分の兵法も、敵のながれをわきまへ、相手の強弱、人がらを見分、敵の氣色にちがふ事をしかけ、敵のめりかりをしり、其間の拍子を能知て、先をしかくる所、肝要也。物毎の景氣と云事ハ、我智力強けれバ、必見ゆる所也。兵法自由の身になりてハ、敵の心を能斗て、勝道多かるべき事也。工夫有べし。

 【近藤家甲本】

一 けいきを知と云事。景氣をみるといふは、大分の兵法にしては、敵のさかへ、おとろへを知り、相手の人数の心を知り、其場の位をうけ、敵のけいきを能見分、我人数何としかけ、此兵法の理にてたしかに勝といふところをのミ込て、先の位をしつて戦所也。又、一分の兵法も、敵のながれをわきまへ、相手の強弱、人がらを見分け、敵の氣色にちがふ事をしかけ、敵のめりかりをしり、其間の拍子を能知て、先をしかくる所、肝要也。物毎のけいきといふ事は、我智力強けれバ、かならずミゆる所也。兵法自由の身になりては、敵の心を能斗て、勝道多かるべき事也。工夫有べし。

 【近藤家乙本】

一 けいきを知と云事。景氣をみるといふは、大分の兵法にしてハ、敵のさかへ、おとろへを知り、相手の人数の心をしり、其場の位をうけ、敵のけいきを能見分、我人数何としかけ、此兵法の理にてたしかに勝といふところをのミ込て、先の位をしつて戦所也。又、一分の兵法も、敵のながれをわきまへ、相手の強弱、人がらを見分け、敵の氣色にちがふ事をしかけ、敵のめりかりをしり、其間の拍子を能知て、先をしかくる所、肝要也。物毎のけいきといふ事は、我智力強けれバ、かならずミゆる所也。兵法自由の身になりてハ、敵の心を能斗て、勝道多かるべき事也。工夫有べし。

 【鈴木家本】

一 けいきを知と云事。景氣をミると云ハ、大分の兵法にしてハ、敵のさかへ、おとろへを知り、相手の人数の心を知り、其場のくらゐをうけ、敵の景氣を能見分、我人数何としかけ、此兵法の理にてたしかに勝と云所をのミこミて、先の位を知て戦所也。又、一分の兵法も、敵のながれをわきまへ、相手の強弱、人がらを見分、敵の気色にちがふ事をしかけ、敵のめりかりをしり、其間の拍子を能知て、先をしかくる所、肝要也。物毎の景氣と云事ハ、我智力強けれバ、必ミゆる所也。兵法自由の身になりてハ、敵の心を能斗て、勝道多かるべき事也。工夫有べし。

 【伊藤家本】

一 けいきを知と云事。景氣をみるといふは、大分の兵法にしては、敵のさかへ、おとろへを知り、相手の人数の心を知り、其場の位をうけ、敵のけいきを能見分、我人数何としかけ、此兵法の理にてたしかに勝といふところをのミ込て、先の位をしつて戦所也。又、一分の兵法も、敵のながれをわきまへ、相手の強弱、人がらを見分け、敵の氣色にちがふ事をしかけ、敵のめりかりを知り、其間の拍子を能知て、先をしかくる所、肝要也。物毎のけいきといふ事は、我知力強けれバ、かならずミゆる所也。兵法自由の身になりては、敵の心を能斗て、勝道多かるべき事也。工夫有べし。

 【石井家本】

一 けいきを知と云事。景氣をみるといふは、大分の兵法にしては、敵のさかへ、おとろへを知り、相手の人数の心を知り、其場の位をうけ、敵のけいきを能見分、我人数何としかけ、此兵法の理にてたしかに勝といふところをのミ込て、先の位をしつて戦所也。又、一分の兵法も、敵のながれをわきまへ、相手の強弱、人がらを見分け、敵の氣色にちがふ事をしかけ、敵のめりかりを知り、其間の拍子を能知て、先をしかくる所、肝要也。物毎のけいきといふ事は、我智力強けれバ、かならず(ミ)ゆる所也。兵法自由の身になりては、敵の心を能斗て、勝道多かるべき事也。工夫有べし。  

 【神田家本】

一 けいきを知と云事。景氣をみるといふは、大分の兵法にしては、敵のさかへ、おとろへを知り、相手の人数の心を知り、其場の位をうけ、敵のけいきを能見分、我人数何としかけ、此兵法の理にてたしかに勝といふところをのミ込て、先の位をしつて戦所也。又、一分の兵法も、敵のながれをわきまへ、相手の強弱、人がらを見分け、敵の氣色にちがふ事をしかけ、敵のめりかりを知り、其間の拍子を能知て、先をしかくる所、肝要也。物毎のけいきといふ事は、我智力強けれバ、かならずミゆる所也。兵法自由の身になりては、敵の心を能斗て、勝道多かるべき事也。工夫有べし。

 【猿子家本】

一 景氣を知と云事。けいきを知ると云ハ、大分の兵法にしてハ、敵のさかへ、おとろへを知り、相手の人数の心を知り、其場の位をうけ、敵の景氣を能見分、我人数何としかけ、此兵法の理にて慥に勝と云ところをのミ込て、先の位をしつて戦所也。又、一分の兵法も、敵のながれを弁まへ、相手の強弱、人がらを見分け、敵の氣色にちがふ事をしかけ、敵のめりかりを知り、其間の拍子を能知つて、先をしかける所、肝要也。物事の景氣と云事は、我知力強けれバ、必みゆる所也。兵法自由の身になりてハ、敵の心を能計て、勝道多かるべき事也。工夫有べし。

 【楠家本】

一 けいきを知と云事。景氣をミるといふは、大分の兵法にしてハ、敵のさかへおとろへをしり、相手の人数の心をしり、其場のくらゐをうけ、敵のけいきをよく見うけ、わが人数何としかけ、此兵法の理にて慥にかつ、といふ所をのミこミて、先のくらゐをしつて、たゝかふ所也。又、一分の兵法も、敵のながれをわきまへ、相手の人がらを見うけ、人のつよきよハき所を見つけ、敵の氣色にちがふ事をしかけ、敵のめりかりをしり、其間の拍子をよくしりて、先をしかくる所、肝要也。物毎のけいきといふ事ハ、我智力つよけれバ、かならずミゆる所也。兵法、自由の身になりてハ、敵の心をよく斗て、勝道多かるべき事也。工夫あるべし。

 【細川家本】

一 けいきを知と云事。景氣を見ると云は、大分の兵法にしては、敵のさかへおとろへを知、相手の人数の心を知り、其場の位を受、敵のけいきを能見うけ、我人数何としかけ、此兵法の理にて慥に勝、と云所をのミこミて、先の位をしつて、たゝかふ所也。又、一分の兵法も、敵のながれをわきまへ、相手の人柄を見うけ、人のつよきよわき所を見つけ、敵の氣色にちがふ事をしかけ、敵のめりかりを知り、其間の拍子をよくしりて、先をしかくる所、肝要也。物毎の景氣と云事ハ、我智力つよければ、必ミゆる所也。兵法、自由の身になりては、敵の心をよく斗て、勝道多かるべき事也。工夫有べし。

 【丸岡家本】

一 景氣を知と云事。景氣を見るといふは、大分の兵法ニしては、敵の榮え衰を知り、相手の人数の心を知り、其場の位を受、敵の景氣をよく見受、我人数何としかけ、此兵法の理にてたしかに勝、といふ所を呑込て、先の位を知て、戦所也。又、一分の兵法も、敵のながれを辨へ、相手の人柄を見請、人の強キ弱き所を見付、敵の氣色に違ふ事をしかけ、敵のめりかりを知り、其間の拍子をよく知て、先をしかくる所、肝要也。物ごとの景氣といふことは、我智力つよければ、必見ゆる所なり。兵法、自由の身に成ては、敵の心を能計りて、勝道多かるべき事なり。工夫有べし。

 【富永家本】

一 けゐきを知るといふ事。景氣を見るといふハ、大分の兵法にして【脱字】、敵のさかへおとろへを知り、逢手の人数の心を知り、其場の位を請、敵の景氣を能見請、我人数何と仕懸、此兵法の理にて慥に勝、といふ処を呑込て、先の位を知て、戦處なり。また、一分の兵法も、敵のながれをわきまへ、相手の人がらを見請、人のつよきよわき所を見付、敵の氣色に違ふ方を仕懸、敵のめりかりを知り、其間の拍子を能しりて、先を仕懸る事、肝要なり。物ごとの景氣と云事ハ、我知力つよけれバ、必見ゆる處なり。兵法、自由の身ニ成てハ、敵の心を能斗て、勝道多かるべき事なり。工夫あるべし。

 【常武堂本】

一 けいきを知と云事。景氣をみると云ハ、大分の兵法にしてハ、敵のさかへおとろへを知、相手の人数の心を知り、其場の【脱字***】けいきを能見うけ、我人数何としかけ、此兵法の理にて慥に勝、と云所をのみこみて、先の位をしつて、たゝかふ所也。又、一分の兵法も、敵のながれをわきまへ、相手の人柄を見うけ、人のつよきよわき所を見つけ、敵の氣色にちがふ事をしかけ、敵のめりかりをしり、其間の拍子をよくしりて、先をしかくる所、肝要也。物毎の景氣と云事ハ、我智力つよけれバ、必ずみゆる所也。兵法、自由の身になりてハ、敵の心をよく斗りて、勝道多かるべき事也。工夫有べし。

 【田村家本】

 景氣ヲ知ト云事 ケイキヲシルト云ハ、大分ノ兵法ニシテハ、敵ノ衰ヘサカヘヲ知リ、相手ノ人数ノ心ヲ知リ、其場ノ位ヲ受テ、敵ノ景気ヲヨクミ受、吾人数何トシカケ、此兵法ノ理ニテ慥ニ勝、ト云処ヲ呑込テ、先ノ位ヲ知テ、戦処也。又、一分ノ兵法モ、敵ノナガレヲ辨、相手ノ人ガラヲ見ウケ、人ノツヨキヨワキ処ヲ見付、敵ノ氣色ニチゴウ事ヲシカケ、テキノメリカヽリヲシリ、其間ノ拍子ヲヨク知テ、先ヲシカクル処、肝要也。物毎ノケイ気ト云事ハ、吾智力ツヨケレバ、必見ユル處也。兵法、自由ノ身ニナツテハ、敵ノ心【脱字】ヨク計テ、勝道多カルベキ事【脱字】。工夫スベシ。

 【狩野文庫本】

一 けいきを知と云事。けいきを知と云ハ、大分の兵法ニして【脱字】、敵のさかへおとろへを知、相手の人数の心を知、其場の位を請、敵のけいきヲ知、能見請て、我人数何とし懸、此兵法の理ニ而慥ニ勝、と云所をのみこミて、先の位を知て、戦所也。又、一分の兵法も、敵の流を弁へ、相手の人柄を見請、人の強き弱き所を見付、敵の氣色に違ふ事を仕掛、敵のめりいかりを知、其間の拍子を能知て、先を仕懸る所、肝要也。物毎にけいきと云こと【脱字】、我智力強けれバ、必見ゆる所也。兵法、自由の身ニ成てハ、敵の心【脱字】能斗て、勝道多かるべき事也。可有工夫。

 【多田家本】

一 けいきを知ると云事。けいきを見ると云【脱字】、大分の兵法にしてハ、敵の栄へ衰へをしり、相手の人数の心をしり、其場の位をうけ、敵のけいきを能見請、我人数何としかけ、此兵法の利にて慥に勝といふ所をのミ込て、先の位をしり【脱字】戦ふ所也。又、一分の兵法も、敵の流儀を弁、相手の人柄を見請、人の弱き強き所を見付て、敵の氣色に違ふことをしかけ、敵のめりかりを知り、【脱字】間の拍子を能知て、先を【脱字】懸る所、肝要なり。物ごとにけいきと云こと【脱字】智力強けれバ、必見ゆる所也。兵法、自由の身に成ては、敵の心を能斗て、勝道多かるべき事【脱字】。工夫有べし。

 【山岡鉄舟本】

一 景氣ヲ知ト云事。景氣を見ト云ハ、大分ノ兵法ニシテハ、敵ノ榮ヘ衰ヲ知リ、相手ノ人数ノ心ヲ知リ、其場ノ位ヲ受、敵ノ景氣ヲ能見受、我人数何ト仕懸テ、此兵法ノ理ニテ、慥ニ勝ト云処ヲ呑込テ、先ノ位ヲ知リ【脱字】戦処也。又、一分ノ兵法モ、敵ノ流ヲ辨ヘ、相手ノ人柄ヲ見受、人ノ強キ弱キ処ヲ見付、敵ノ氣色ニ違フ事ヲ仕懸、敵ノメリカリヲ知、其間ノ拍子ヲ能知テ、先ヲ仕懸ル処、肝要也。物毎ノ景氣ト云事ハ、我智力強ケレバ、必見ユル處也。兵法、自由ノ身ニ成リテハ、敵ノ心ヲ能計テ、勝道多カルベキ事也。工夫有ベシ。

 【稼堂文庫本】

一 景氣を知ると云事。けひきを見ると云ハ、大分の兵法にしてハ、敵の栄え衰を知り、相手の人数の心を知り、其場の位を受、敵の景氣を能見請、我人数何と仕懸け、此兵法の理にて慥に勝、と云所を呑込て、先の位を知りて、戦所也。又、一分の兵法も、敵の流儀を弁へ、相手の人がらを見請、人の強き弱き所【脱字】見分け、敵の氣色知り、其間の拍子を能知りて、違ふかたを仕懸て、敵めりかりを知り(語順)、先の仕懸る所、肝要也。物毎の景氣と云ことハ、我知力強けれバ、必見ゆる所也。兵法、自由の身に成ては、敵の心を能斗りて、勝道多かるべきことなり。工夫有べし。  

 【大瀧家本】

一 景氣を知るといふ事。けいきを見ると云ハ、大分の兵法にしてハ、敵のさかひおとろひを知り、相手の人数の心を知り、其場の位を受、敵の景氣を能見分ケ、我人数何と仕懸ケ、此兵法の利にて慥ニ勝、と云所をのみ込て、先の位を知て、戦處也。又、一分の兵法も、敵の流をわきまひ、相手【脱字】強弱の人柄を見分ケ、敵の氣色に違ふ事を仕懸、敵の目かゝりを知り、其間の拍子を能知て、先を仕懸る所、肝要也。物事の景氣と云事【脱字】、我知力強けれバ、必見ゆる處也。兵法、自由の身に成てハ、敵の心を能斗て、勝道多かるべき事【脱字】。工夫すべし。    PageTop    Back   Next 

  7 劔をふむと云事

 【吉田家本】

一 けんをふむと云事。劔を踏と云心ハ、兵法に専用る儀也。先、大なる兵法にしてハ、弓鉄炮におゐても、敵、我方へうちかけ、何事にてもしかくる時、敵の弓鉄炮にてもはなしかけて、其跡にかゝるによつて、又、矢をつがひ、鉄炮にくすりをこミ合するによつて、又新敷なつて、追こミがたし。弓鉄炮にても、敵のはなつ内に、はや懸る心也。はやくかゝれバ、矢もつがひがたし。鉄炮もうち得ざる心也。物ごとに敵のしかくると、其まゝ其理をうけて、敵のする事を踏付てかつこゝろ也。又、一分の兵法も、敵の打出す太刀の跡へうてバ、とたん/\となりて、はかゆかざる所也。敵の打出す太刀ハ、足にて踏付る心にして、打出す所を勝、二度めを敵の打得ざる様にすべし。踏と云ハ、足にハ限べからず。身にてもふミ、心にても踏、勿論、太刀にてもふミ付て、二のめを敵に能させざる様に心得べし。是則、物毎の先の心也。敵と一度にと云て、ゆきあたる心にてハなし。其まゝ跡に付心也。能々吟味有べし。

 【立花隨翁本】

   (前半欠落) ふミ、心にても蹈、勿論太刀にてもふミ付て、二のめを敵に能させざる様に心得べし。是則、物毎の先の心也。敵と一度にと云て、ゆきあたる心にてハなし。其まゝ跡に付心也。能【蝕損】味有べし。

 【赤見家甲本】

一 けんをふむと云事。劔を踏といふ心ハ、兵法に専用る儀也。先、大なる兵法にしてハ、弓鉄炮におゐても、敵、我方へうちかけ、何事にてもしかくる時、敵の弓鉄炮にてもはなしかけて、其跡にかゝるによつて、亦、矢をつがひ、鉄炮にくすりをこミ合するによつて、又新しくなつて、追込がたし。弓鉄炮にても、敵のはなつ内に、はや懸る心也。はやくかゝれバ、矢もつがひがたし。鉄炮もうち得ざるこゝろ也。物ごとに敵のしかくると、其まゝ其理をうけて、敵のする事を踏付てかつこゝろ也。亦、一分の兵法も、敵の打出す太刀の跡へうてバ、とたん/\となりて、はかゆかざる所也。敵のうち出す太刀ハ、足にて踏付る心にして、打出す所を勝、二度目を敵の打得ざる様にすべし。踏といふハ、足にハ限るべからず。身にてもふミ、心にても踏、勿論太刀にてもふミ付て、二のめを敵に能させざる様に心得べし。是則、物毎の先の心也。敵と一度にと云て、ゆきあたる心にてハなし。其まゝ跡に付心也。能々吟味有べし。

 【中山文庫本】

一 けんをふむと云事。劔を蹈と云心ハ、兵法に専用る儀也。先、大なる兵法にしてハ、弓鉄炮におゐても、敵、我方へうちかけ、何事にてもしかくる時、敵の弓鉄炮にてもはなしかけて、其跡にかゝるによつて、又矢をつがひ、鉄炮に薬をこミ合するによつて、又新敷なつて、追込がたし。弓鉄炮にても、敵のはなつ内に、はや懸る心也。はやくかゝれバ、矢もつがひがたし。鉄炮もうち得ざる心也。物ごとに敵のしかくると、其まゝ其理をうけて、敵のする事を蹈付て勝心也。又、一分の兵法も、敵の打出す太刀の跡へうてバ、とたん/\となりて、はかゆかざる所也。敵の打出す【脱字***********】所を勝、二度目を敵の打得ざる様にすべし。蹈と云は、足には限【脱字】らず。身にても蹈、心にても蹈、勿論太刀にてもふみ付て、二のめを敵に能させざる様に心得べし。是則、物毎の先の心也。敵と一度にと云て、ゆきあたる心にてハなし。其侭跡に付心也。能々吟味有べし。

 【近藤家甲本】

一 けんをふむと云事。劔を蹈といふ心は、兵法に専用る儀也。先、大なる兵法にしては、弓鉄炮におゐても、敵、我方へうちかけ、何事にてもしかくる時、敵の弓鉄炮にてもはなしかけて、其跡にかゝるによつて、亦矢をつがひ、鉄炮にくすりりをこミ合するによつて、又新しくなつて、追込がたし。弓鉄炮にても、敵のはなつ内に、はや懸る心也。はやくかゝれバ、矢もつがひがたし。鉄炮もうち得ざるこゝろ也。物ごとに敵のしかくると、其まゝ其理をうけて、敵のする事を蹈付てかつこゝろ也。又、一分の兵法も、敵の打出す太刀の跡へうてバ、とたん/\となりて、はかゆかざる所也。敵のうち出す太刀は、足にて蹈付る心にして、打出す所を勝、二度目を敵の打得ざる様にすべし。蹈といふは、足には限るべからず。身にてもふミ、心にても蹈、勿論太刀にてもふミ付て、二の目を敵に能させざる様に心得べし。是則、物毎の先の心也。敵と一度にと云て、ゆきあたる心にてハなし。其まゝ跡に付心也。能々吟味有べし。

 【近藤家乙本】

一 けんをふむと云事。劔を蹈といふ心は、兵法に専用る儀也。先、大なる兵法にしては、弓鉄炮におゐても、敵、我方へうちかけ、何事にてもしかくる時、敵の弓鉄炮にてもはなしかけて、其跡にかゝるによつて、亦矢をつがひ、鉄炮にくすりをこミ合するによつて、亦新しくなつて、追込がたし。弓鉄炮にても、敵のはなつ内に、はや懸る心也。はやくかゝれバ、矢もつがひがたし。鉄炮もうち得ざるこゝろ也。物ごとに敵のしかくると、其まゝ其理をうけて、敵のする事を蹈付てかつこゝろ也。又、一分の兵法も、敵の打出す太刀の跡へうてバ、とたん/\となりて、はかゆかざる所也。敵のうち出す太刀は、足にて蹈付る心にして、打出す所を勝、二度目を敵の打得ざる様にすべし。蹈といふは、足にハ限るべからず。身にてもふミ、心にても蹈、勿論太刀にてもふミ付て、二のめを敵に能させざる様に心得べし。是則、物毎の先の心也。敵と一度にと云て、ゆきあたる心にてハなし。其まゝ跡に付心也。能々吟味有べし。

 【鈴木家本】

一 けんをふむと云事。劔を蹈と云心ハ、兵法に専用る儀也。先、大なる兵法にしてハ、弓鉄炮におゐても、敵、我方へうちかけ、何事にてもしかくる時、敵の弓鉄炮にてもはなしかけて、其跡にかゝるによつて、又矢をつがひ、鉄炮にくすりをこミ合するによつて、又新敷なつて追込がたし。弓鉄炮にても、敵のはなつ内に、はや懸る心也。はやくかゝれバ、矢もつがひがたし。鉄炮も打得ざる心也。物ごとに敵のしかくると、其まゝ其理をうけて、敵のする事を蹈付て勝心也。又、一分の兵法も、敵の打出す太刀の跡へ打てバ、とたん/\となりて、はかゆかざる所也。敵の打出す太刀ハ、足にて踏付る心にして、打出す所を勝、二度めを敵の打得ざる様にすべし。蹈と云ハ、足にハ限るべからず。身にてもふミ、心にても蹈、勿論太刀にてもふミ付て、二のめを敵に能させざる様に心得べし。是則、物毎の先の心也。敵と一度にと云て、ゆきあたる心にてハなし。其侭跡に付心也。能々吟味有べし。

 【伊藤家本】

一 けんをふむと云事。劔を蹈といふ心は、兵法に専用る儀也。先、大なる兵法にしては、弓鉄炮におゐても、敵、我方へうちかけ、何事にてもしかくる時、敵の弓鉄炮にてもはなしかけて、其跡にかゝるによつて、亦矢をつがひ、鉄炮にくすりをこミ合するによつて、又新しくなつて、追込がたし。弓鉄炮にても、敵のはなつ内に、はや懸る心也。はやくかゝれバ、矢もつがひがたし。鉄炮もうち得ざるこゝろ也。物ごとに敵のしかくると、其まゝ其理をうけて、敵のする事を蹈付てかつこゝろ也。又、一分の兵法も、敵の打出す太刀の跡へうてバ、とたん/\となりて、はかゆかざる所也。敵のうち出す太刀は、足にて蹈付る心にして、打出す所を勝、二度目を敵の打得ざる様にすべし。蹈といふは、足には限るべからず。身にてもふミ、心にても蹈、勿論太刀にてもふミ付て、二の目を敵に能させざる様に心得べし。是則、物毎の先の心也。敵と一度にと云て、ゆきあたる心にてハなし。其まゝ跡に付心也。能々吟味有べし。

 【石井家本】

一 けんをふむと云事。劔を蹈といふ心は、兵法に専用る儀也。先、大なる兵法にしては、弓鉄炮におゐても、敵、我方へうちかけ、何事にてもしかくる時、敵の弓鉄炮にてもはなしかけて、其跡にかゝるによつて、亦矢をつがひ、鉄炮にくすりをこミ合するによつて、又新しくなつて、追込がたし。弓鉄炮にても、敵のはなつ内に、はやかゝる心也。はやくかゝれバ、矢もつがひがたし。鉄炮もうち得ざるこゝろ也。物ごとに敵のしかくると、其まゝ其理をうけて、敵のする事を蹈付てかつこゝろ也。又、一分の兵法も、敵の打出す太刀の跡へうてバ、とたん/\となりて、はかゆかざる所也。敵のうち出す太刀ハ、足にて蹈付る心にして、打出す所を勝、二度目を敵の打得ざる様にすべし。蹈といふは、足には限るべからず。身にてもふミ、心にても蹈、勿論太刀にてもふミ付て、二の目を敵に能させざる様に心得べし。是則、物毎の先の心也。敵と一度にと云て、ゆきあたる心にてハなし。其まゝ跡に付心也。能々吟味有べし。  

 【神田家本】

一 けんをふむと云事。劔を蹈といふ心は、兵法に専用る儀也。先、大なる兵法にしては、弓鉄炮におゐても、敵、我方へうちかけ、何事にてもしかくる時、敵の弓鉄炮にてもはなしかけて、其跡にかゝるによつて、亦矢をつがひ、鉄炮にくすりをこミ合するによつて、又新しくなつて、追込がたし。弓鉄炮にても、敵のはなつ内に、はやかゝる(心)也。はやくかゝれバ、矢もつがひがたし。鉄炮もうち得ざるこゝろ也。物ごとに敵のしかくると、其まゝ其理をうけて、敵のする事を蹈付てかつこゝろ也。又、一分の兵法も、敵の打出す太刀の跡へうてバ、とたん/\となりて、はかゆかざる所也。敵のうち出す太刀ハ、足にて蹈付る心にして、打出す所を勝、二度目を敵の打得ざる様にすべし。蹈といふは、足には限るべからず。身にてもふミ、心にても蹈、勿論太刀にてもふミ付て、二の目を敵に能させざる様に心得べし。是則、物毎の先の心也。敵と一度にと云て、ゆきあたる心にてハなし。其まゝ跡に付心也。能々吟味有べし。

 【猿子家本】

一 劔を蹈と云事。けんを蹈といふ心は、兵法に専用る儀也。先、大なる兵法にしてハ、弓鉄炮におゐても、敵、我方へ打懸ケ、何事にても仕懸る時、敵の弓鉄炮にても放しかけて、其跡にかゝるに依て、又矢を遣ひ、鉄炮に薬をこミ合ハするに依て、又新くなつて、追込がたし。弓鉄炮にても、敵のはなつ内に、はやかゝる心也。早くかゝれバ、矢もつがひがたし。鉄炮も打得ざる心也。物ごとに敵のしかくると、其侭其理をうけて、敵のする事を蹈付て勝こゝろ也。又、一分の兵法も、敵の打出す太刀の跡へ打バ、とたん/\となりて、はかゆかざる所也。敵の打出す太刀ハ、足にて蹈付る心にして、打出所を勝、二度めを敵の打得ざる様にすべし。蹈といふハ、足には限るべからず。身にてもふミ、心にても蹈、勿論太刀にても蹈付て、二の目を敵に能させざる様に心得べし。是則、物毎の先の心也。敵と一度にと云て、ゆきあたる心にてハなし。其侭跡に付心也。能々吟味有べき也。

 【楠家本】

一 けんをふむと云事。劔をふむといふ心ハ、兵法にもつはら用る儀也。先、大きなる兵法にしてハ、弓鉄炮におゐても、敵、我方へ打かけ、何事にてもしかくる時、敵の弓鉄炮にてもはなしかけて、其あとにかゝるによつて、又、弓をつがい、又、鉄炮にくすりこミて、かゝりこむ時、こミ入がたし。弓鉄炮にても、敵のはなつ内に、はやかゝる心也。はやくかゝれば、矢もつがひがたし。鉄炮もうち得ざる心也。物毎を敵のしかくると、そのまゝ其理をうけて、敵のする事をふミつけて勝心也。又、一分の兵法も、敵の打出す太刀のあとへうてバ、とたん/\となりて、はかゆかさる所也。敵の打出す太刀ハ、足にてふミ付る心にして、打出す所をかち、二度めを敵の打得ざるやうにすべし。ふむといふハ、足にハかぎるべからず。身にてもふミ、心にてもふミ、勿論、太刀にてもふミつけて、二のめを敵によくさせざるやうに心得べし。是則、物事の先の心也。敵と一度にといひて、ゆきあたる心にてハなし。其まゝあとに付心なり。よく/\吟味有べし。

 【細川家本】

一 けんをふむと云事。劔をふむと云心は、兵法に専用る儀なり。先、大きなる兵法にしてハ、弓鉄炮におゐても、敵、我方へうちかけ、何事にてもしかくる時、敵の弓鉄炮にてもはなしかけて、其あとにかゝるによつて、又、弓をつがい、亦、鉄炮にくすりこミて、かゝりこむ時、こミ入がたし。弓鉄炮にても、敵のはなつ内に、はやかゝる心也。はやくかゝれば、矢もつがいがたし。鉄炮もうち得ざる心也。物毎を敵のしかくると、其儘其理を受て、敵のする事を蹈つけて勝心なり。亦、一分の兵法も、敵の打出す太刀のあとへうてバ、とたん/\となりて、はかゆかざる所也。敵の打出す太刀は、足にてふミ付る心にして、打出す所をかち、二度めを敵の打得ざるやうにすべし。踏と云は、足にハ限るべからず。身にてもふミ、心にても踏、勿論、太刀にてもふミ付て、二のめを敵によくさせざるやうに心得べし。是則、物毎の先の心也。敵と一度にといひて、ゆきあたる心にてはなし。其儘あとに付心なり。能々吟味有べし。

 【丸岡家本】

一 劔を踏と云事。劔を踏といふ心は、兵法に専用る儀也。先、大キなる兵法にしては、弓鉄炮におゐても、敵、我方へ打かけ、何事にてもしかくる時、敵の弓鉄炮にても放かけて、其あとにかゝるに因て、又、弓をつがひ、又、鉄炮に莢込て、かゝりこむ時、こミ入がたし。弓鉄炮にても、敵の放つうちに、ハヤかゝる心なり。ハやくかゝれば、矢もつがひがたし。鉄炮も打得ざる心也。物ごとを敵のしかくると、其まゝ其理を受て、敵のする事を踏つけて勝心也。又、一分の兵法も、敵の打出す太刀のあとへうてば、とたん/\となりて、はか行ざる所なり。敵の打出す太刀は、足にて踏着るこゝろニして、打出す所を勝、二度目を敵の打得ざるやうにすべし。踏といふは、足には限るべからず。身にてもふミ、心にてもふミ、勿論、太刀にてもふミつけて、二ノ目を敵に能させざるやうに心得べし。是則、物ごとの先の心なり。敵と一度にと云て、行當る心にてはなし。其儘跡につく心なり。能々吟味有べし。

 【富永家本】

一 劔をふむといふ事。劔をふむといふ心ハ、兵法に専ら用る儀なり。先、大なる兵法にして【脱字】、弓鉄炮におゐても、敵、我方へ打懸、何事にても仕懸る時、敵の弓鉄炮にてもはなし懸て、其跡に懸るによつて、又、弓を遣ひ、また、鉄炮に莢込て、懸り込時、込入がたし。弓鉄炮にても、敵のはなつ内に、早く懸る心なり。はやく懸れバ、矢もつがゐがたし。鉄炮も打得ざる心なり。物毎を敵の仕懸ると、其まゝ其理を受て、敵のする事を踏付て勝心なり。また、一分の兵法も、敵の打出す太刀の跡へうてバ、とたん/\と成て、はかゆかざる処なり。敵の打出す太刀ハ、足にてふミ付る心にして、打出す所を勝、二度目を敵の打得ざるやうにすべし。ふむと云ハ、足にハかぎるべからず。身にてもふミ、心にてもふミ、勿論、太刀にてもふミ付【脱字】、二のめを敵に能させざるやうに心得べし。是則、物毎の先の心也。敵と一度にといふて、行當る心にてハなし。其まゝ跡に付心なり。能々吟味すべし。

 【常武堂本】

一 けむをふむと云事。劔をふむと云心ハ、兵法に専用る儀也。先、大きなる兵法にしてハ、弓鉄炮に於ても、敵、我方へうちかけ、何事にてもしかくる時、敵の弓鉄炮にてもはなしかけて、其あとにかゝるによつて、又、弓をつがひ、亦、鉄炮にくすりこみて、かゝりこむ時、こみ入がたし。弓鉄炮にても、敵のはなつ内に、はやかゝる心也。はやくかゝれバ、矢もつがひがたし。鉄炮も打得ざる心也。物毎を敵のしかくると、其侭其理を受て、敵のする事を蹈つけて勝心也。亦、一分の兵法も、敵の打出す太刀のあとへうけてバ、とたん/\となりて、はかゆかざる所也。敵の打出す太刀は、足にてふみ付る心にして、打出す所をかち、二度めを敵の打得ざるやうにすべし。踏といふハ、足にハ限るべからず。身にてもふみ、心にても踏、勿論、太刀にてもふみ付て、二のめを敵によくさせざる様に心得べし。是則、物毎の先の心也。敵と一度にといひて、ゆきあたる心にてハなし。其侭あとに付心也。能々吟味有べし。

 【田村家本】

 劔ヲ踏ト云事 【脱字】兵法ニ専ラ用ル儀也。先、大ナル兵法ニシテハ、弓鉄炮ニ於モ、敵、吾方エ打カケ、何事ニテモシカ【脱字】ル時、敵ノ弓鉄炮ニテモ放カケテ、其アトニカヽルニ依テ、亦、弓ヲツガヒ、【脱字】鉄炮ニ莢込テ、カヽリ込トキ、コミ入ガタシ。弓鉄炮ニテモ、敵ノ放内ニ、速クカヽル心也。【脱字********************】物事ヲテキノシカクルト、其マヽ其理ヲ受テ、敵ノスル事ヲフミ付テ勝心也。亦、一分ノ兵法モ、敵ノ打出ス太刀ノアトヱ打バ、トタン々々トナリテ、ハカユカザル所ナリ。敵ノ打出ス太刀ヲ、足ニテ踏ツクル心ニシテ、打出ス処ヲ勝、二度目ヲ敵ヲウチ得ザルヤウニスベシ。踏ト云ハ、足ニハカギルベカラズ。身ニテモフミ、心ニテモフミ、勿論、太刀ニテモ踏付テ、二ノメヲ敵ニ【脱字】サセザルヤウニ心得ベシ。是則、物ゴトノ先ノ心也。敵ト一ドニト【脱字】、行アタル心ニテハナシ。其マヽアトニ付心也。能々吟味スベシ。

 【狩野文庫本】

一 劔をふむと云事。劔を踏と云こゝろハ、兵法ニ専用ル義也。先、大キ成兵法ニしてハ、弓鉄炮ニおゐても、敵、我方へ打懸、何事ニても仕懸る時、敵の弓鉄炮ニても放【脱字***********************************************】内に、早懸る心なり。はやく懸レバ、矢もつがひがたし。鉄炮も打得ざる心也。物毎を敵の仕懸ると、其儘其理を請て、敵方のする事を踏付て勝心也。又、一分の兵法も、敵の打出ス太刀の跡先をうてバ、とたん【脱字】と成て、はかゆかざる所也。敵の打出ス太刀ハ、足ニて踏付る心にして、打出ス所を勝、二度めを敵の打得ざる樣ニすべし。踏といふハ、足には限るべからず。身にてもふみ、心ニてもふみ、勿論、太刀ニ而もふミ付て、二のめを能敵にさせざる樣ニ心得べし。是則、物毎の先の心也。敵と一度にと云て、行當心にてハなし。其儘跡ニ付心也。能々吟味すべし。

 【多田家本】

一 劔を踏と云事。劔をふむといふ心は、兵法に専用る儀也。先、大き成兵法にしてハ、弓鉄炮にをひても、敵、わがかたへ打懸、何事にても仕懸る時、敵の弓鉄炮にても放懸て、其跡に懸るに依て、又矢をつがひ、又、鉄炮に薬を込て、懸込時【脱字】入がたし。弓鉄炮にても、敵の放つ内に、はや【脱字***】懸れバ、矢もつがひがたし。鉄炮も打得ざる心也。物毎を敵のしかくると、其侭其理を請て、敵のする事を踏付て勝心也。又、壱分の兵法も、敵の打出す太刀の跡へうてバ、とたん/\と成て、はかゆかざる所也。敵の打出す太刀は、足にて踏付る心にして、打出す所を勝、弐度目を敵の打得ざる様にすべし。踏といふは、足に【脱字】不限。身にても踏、心にてもふミ、勿論太刀にても踏付て、二の目を敵によくさせざるやうに心得べし。是【脱字】、物毎の先の心也。敵と一度にとつと、行當る心にてハなし。其侭跡に付心也。能々吟味有べし。

 【山岡鉄舟本】

一 釼ヲ踏ト云事。釼ヲ踏ト云心ハ、兵法ニ専用ル儀也。先、大キ成ル兵法ニシテハ、弓鉄炮ニ於テモ、敵我方エ打懸ケ、何事ニテモ仕懸ル時、敵ノ弓鉄炮ニテモ放シ懸テ、其跡ニ懸ルニ依テ、又、弓ニツガヒ、又、鉄炮ニ薬コミシテ、懸込時、込ミ入難シ。弓鉄炮ニテモ、敵ノ放ツ内ニ、早【脱字】懸ル心也。早ク懸レバ、矢モ遣難シ。鉄炮モ打得ザル心也。物事ヲ敵ノ仕懸ト、其侭其理ヲ受テ、敵ノスル事ヲ踏付テ勝心也。又、一分ノ兵法モ、敵ノ打出ス太刀ノ跡ヘ打ニヨリテ、トタン/\ト成リテ、ハカユカザル所也。敵ノ打出ス太刀ハ、足ニテ踏付ル心ニシテ、打出ス処ヲ勝、二度目ヲ敵ノ打得ザル様ニスベシ。踏ト云ハ、足ニ【脱字】限ベカラズ。身ニテモ踏、心ニテモ踏、勿論太刀ニテモ踏付テ、二度目ヲ敵ニ能サセザル様ニ心得ベシ。是則、物事ノ先ノ心也。敵ト一度ニト云テ、行當ル心ニテハナシ。其侭跡ニ付心也。能々吟味有べシ。

 【稼堂文庫本】

一 劔の蹈と云事。劔をふむと云心は、兵法に専ら用る儀也。先、大成る兵法にして【脱字】、弓鉄炮に於ても、敵、我方へ打懸ケ、何ごとニても仕懸ル時、敵【脱字】鉄炮にてもはなしかけて、其跡にかゝるに依て、また、弓矢をつがひ、又、鉄炮に莢込て、懸込時、込入がたし。弓鉄炮ニても、敵の放つ内に、はや懸る心也。早くかゝれバ、矢もつがひがたし。鉄炮も打得ざる心也。物毎を敵の仕懸ると、其侭其理を受て、敵のする事を蹈付て勝心なり。又、一分の兵法も、敵の打出す太刀の跡へ打てば、だん/\と成て、はかゆかざる所也。敵の打出す太刀は、足にて蹈付る心にして、打出す所を勝、二度目を敵の打得ざる様にすべし。蹈と云【脱字】、足には限るべからず。身にても蹈、心にてもふミ、勿論、太刀にても蹈付【脱字】、二度めを敵に好くさせざる様に心得べし。是則、物毎の先の心也。敵と一度にと云て、行あたる心にてはなし。其侭跡に付心也。能々吟味すべし。  

 【大瀧家本】

一 劔を踏といふ事。けんをふむと云心ハ、兵法に専用ゆる義なり。先、大なる兵法にしてハ、弓鉄炮に依ても、敵、我方へ打懸、何事にても仕懸る時、敵の弓鉄炮にても放し懸て、其跡に懸るに依て、又、矢をつがひ、又、鉄炮に莢をこみて、懸り込時、又新しくなりて込入難し。弓鉄炮にても、敵の放つ内に、早く懸る心也。はやく懸れバ、矢もつがひ難し。鉄炮も打得ざる心也。物ごとに敵の仕懸ると、其侭其理を受て、敵のする事を踏付て勝心也。又、一分の兵法も、敵の打出す太刀の跡へ打てバ、とたん/\と成てハ、墓行ざる処也。敵の打出す太刀を、足にて踏付る心にして、打出す処を勝、二度目を敵の打得ざる様にすべし。踏といふハ、足にハ限べからず。身にてもふみ、心にてもふミ、勿論、太刀にてもふみ付て、二の目を敵に能させざる様に可心得。是則、物事の先の心也。敵と一度にと云て、行當る心にてハなし。其侭跡に付心なり。能々吟味有べし。    PageTop    Back   Next 

  8 崩れをしると云事

 【吉田家本】

一 くずれを知と云事。崩と云事ハ、ものごとに有もの也。其家の崩るゝ、身のくずるゝ、敵のくずるゝ事も、時にあたりて、拍子ちがひになつて、くずるゝ所也。大分の兵法にしても、敵のくずるゝひやうしを得て、其間をぬかさぬ様に追立る事、肝要也。くずるゝ所のいきをぬかしてハ、たてかへす所有べし。又、一分の兵法にも、戦内に敵の拍子ちがひて、くずれめのつくものなり。其ほどを弓断すれバ、又、立かへり、新敷なりて、はかゆかざる所也。其くずれめにつき、敵のかほたてなをさゞる様に、たしかに追かくる所、肝要也。追かくるは、直に強きこゝろ也。敵立かへさゞるやうに、打はなすもの也。うちはなすと云事、能々分別有べし。はなれざれば、したるきこゝろ有。工夫すべき者也。

 【立花隨翁本】

一 くづれを知と云事。崩といふ事ハ、物毎に有もの也。其家の崩るゝ、身のくづるゝ。敵の崩るる事も、時にあたりて、拍子ちがひになつて、くづるゝ所也。大分の兵法にしても、敵の崩るゝひやうしを得て、其間をぬかさぬやうに【破損】、肝要也。くづるゝ所のいきをぬかしてハ、たてかへす所有べし。亦、一分の兵法にも、戦内に、敵の拍子ちがひてハ、くづれめのつくもの也。其ほどを油断すれバ、又立かへり、新敷なりて、はかゆかざる所也。其くづれめにつき、敵のかほたてなをさゞる様に、たしかに追かくる所、肝要也。追かくるハ、直に強きこゝろ也。敵立かへさゞるやうに、打はなすもの也。うちはなすといふ事、能々分別有べし。はなれざれバ、したるきこゝろ有。工夫すべ【破損】。

 【赤見家甲本】

一 くづれを知と云事。崩といふ事ハ、物毎に有もの也。其家の崩るゝ、身のくづるゝ。敵の崩るる事も、時にあたりて、拍子ちがひになつて、くづるゝ所也。大分の兵法にしても、敵の崩るゝひやうしを得て、其間をぬかさぬやうに追立る事、肝要也。くづるゝ所のいきをぬかしてハ、たてかへす所有べし。亦、一分の兵法にも、戦内に、敵の拍子ちがひてハ、くづれめのつくもの也。其ほどを油断すれバ、又立かへり、新敷なりて、はかゆかざる所也。其くづれめにつき、敵のかほたてなをさゞる様に、たしかに追かくる所、肝要也。追かくるハ、直に強きこゝろ也。敵立かへさゞるやうに、打はなすもの也。うちはなすといふ事、能々分別有べし。はなれざれバ、したるきこゝろ有。工夫すべき者也。

 【中山文庫本】

一 くずれを知と云事。崩と云事ハ、物毎に有もの也。其家の崩るゝ、身のくずるゝ、敵のくずるゝ事も、時にあたりて、拍子ちがひになつて、崩るゝ所也。大分の兵法にしても、敵の崩るゝ拍子を得て、其間をぬかさぬ様に追立る事、肝要也。くずるゝ所のいきをぬかしてハ、たてかへす所有べし。又、一分の兵法にも、戦内に、敵の拍子ちがひて、くずれめのつくものなり。其ほどを弓断すれバ、又立かへり、新敷なりて、はかゆかざる所也。其くずれめにつき、敵のかほたてなをさゞる様に、たしかに追かくる所、肝要也。追かくるは、直に強き心也。敵立かへさゞるやうに、打はなすもの也。うちはなすと云事、能々分別有べし。はなれざれバ、したるきこゝろ有。工夫すべきもの也。

 【近藤家甲本】

一 くづれを知と云事。崩を知と云事は、物毎に有物也。其家の崩るゝ、身のくづるゝ。敵の崩るゝ事も、時にあたりて、拍子ちがひになつて、くづるゝ所也。大分の兵法にしても、敵の崩るゝひやうしを得て、其間をぬかさぬやうに追立る事、肝要也。くづるゝ所のいきをぬかしては、たてかへす所有べし。亦、一分の兵法にも、戦内に、敵の拍子ちがひてハ、くづれめのつくもの也。其ほどを油断すれバ、又立かへり、新敷なりて、はかゆかざる所也。其くづれめにつき、敵のかほたてなをさゞる様に、たしかに追かくる所、肝要也。追かくるは、直に強き心也。敵立かへさゞる様に、打はなすもの也。打ハなすといふ事、能々分別有べし。はなれざれば、したるき心あり。工夫すべき者也。

 【近藤家乙本】

一 くづれを知と云事。崩を知と云事は、物毎に有物也。其家の崩るゝ、身のくづるゝ。敵の崩るゝ事は、時にあたりて、拍子ちがひになつて、くづるゝ所也。大分の兵法にしても、敵の崩るゝひやうしを得て、其間をぬかさぬやうに追立る事、肝要也。くづるゝ所のいきをぬかしてハ、たてかへす所有べし。亦、一分の兵法にも、戦内に、敵の拍子ちがひてハ、くづれめのつくもの也。其ほどを油断すれバ、又立かへり、新敷なりて、はかゆかざる所也。其くづれめにつき、敵のかほたてなをさゞる様に、たしかに追かくる所、肝要也。追かくるは、直に強き心也。敵立かへさゞるやうに、打ハなすもの也。うちはなすといふ事、能々分別有べし。はなれざれバ、したるき心あり。工夫すべき者也。

 【鈴木家本】

一 くずれを知と云事。崩と云事ハ、ものごとに有ものなり。其家の崩るゝ、身のくずるゝ、敵のくずるゝ事も、時にあたりて、拍子ちがひになつて、くずるゝ所也。大分の兵法にしても、敵の崩るひやうしを得て、其間をぬかさぬ様に追立る事、肝要也。くずるゝ所のいきをぬかしてハ、たてかへす所有べし。又、一分の兵法にも、戦内に、敵の拍子ちがひて、くずれめのつくもの也。其ほどを弓断すれバ、又立かへり、新敷なりて、はかゆかざる所也。其くずれめにつき、敵のかほたてなをさゞる様に、たしかに追かくる處、肝要也。追かくるハ、直に強き心也。敵立かへさゞる様に、打はなすもの也。打はなすと云事、能々分別有べし。はなれざれバ、したるき心有。工夫すべきもの也。

 【伊藤家本】

一 くづれを知と云事。崩を知といふ【脱字】は、物毎に有物也。其家の崩るゝ、身のくづるゝ。敵の崩るゝ事も、時にあたりて、拍子ちがひになつて、くづるゝ所也。大分の兵法にしても、敵の崩るゝ事ひや【脱字】しを得て、其間をぬかさぬやうに追立る事、肝要也。くづるゝ所のいきをぬかしては、たてかへす所有べし。亦、一分の兵法にも、戦内に、敵の拍子ちがひてハ、くづれめのつくもの也。其ほどを油断すれバ、又立かへり、新敷なりて、はかゆかざる所也。其くづれめにつき、敵のかほたてなをさゞる様に、たしかに追かくる所、肝要也。追かくるは、直に強きこゝろ也。敵立かへさゞるやうに、打ハなすもの也。打はなすといふ事、能々分別有べし。はなれざれば、したるき心あり。工夫すべき者也。

 【石井家本】

一 くづれを知といふ事。崩を知と云事は、物毎に有物也。其家の崩るゝ、身のくづるゝ。敵の崩るゝ事も、時にあたりて、拍子ちがひになつて、くづるゝ所也。大分の兵法にしても、敵の崩るゝひやうしを得て、其間をぬかさぬやうに追立る事、肝要也。くづるゝ所のいきをぬかしては、たてかへす所有べし。(亦)一分の兵法にも、戦内に、敵の拍子ちがひて、くづれめのつくもの也。其ほどを油断すれバ、又立かへり、新敷なりて、はかゆかざる所也。其くづれめにつき、敵のかほたてなをさゞる様に、たしかに追かくる所、肝要也。追かくる(に)は、直に強きこゝろ也。敵立かへさゞるやうに、打ハなすもの也。打はなすといふ事、能々分別有べ(し)。はなれざれば、したるき心あり。工夫すべき者也。  

 【神田家本】

一 くづれを知といふ事。崩を知と云事ハ、物毎に有物也。其家の崩るゝ、身のくづるゝ、敵の崩るゝ事も、時にあたりて、拍子ちがひになつて、くづるゝ所也。大分の兵法にしても、敵の崩るゝひやうしを得て、其間をぬかさぬやうに追立る事、肝要也。くづるゝ所のいきをぬかしては、たてかへす所有べし。又、一分の兵法にも、戦内に、敵の拍子ちがひてハ、くづれめのつくもの也。其ほどを油断すれバ、又立かへり、新敷なりて、はかゆかざる所也。其くづれめにつき、敵のかほたてなをさゞる様に、たしかに追かくる所、肝要也。追かくる(に)は、直に強きこゝろ也。敵立かへさゞるやうに、打ハなすもの也。打はなすといふ事、能々分別有べし。はなれざれバ、したるき心あり。工夫すべき者也。

 【猿子家本】

一 崩を知と云事。くづれを知と云【脱字】ハ、物毎に有もの也。其家の崩るゝ、身の崩るゝ。敵の崩るゝ事【脱字】、時に當りて、拍子違ひになつて、崩る所也。大分の兵法にしても、敵の崩るゝ拍子を得て、其間をぬかさぬ様に追立る事、肝要也。崩るゝ所のいきをぬかしてハ、たてかへす所有べし。又、一分の兵法にも、戦内に、敵の拍子違ひ【脱字】、崩れめのつくもの也。其程を油断すれバ、又立かへり、新敷なりて、はかゆかざる所也。其崩れめに付、敵の顔たてなをさゞる様に、慥に追かくる所、肝要【脱字】。追かくるにハ、直に強き心也。敵立かへさゞる様に、打はなす者也。打はなすと云事、能々分別有べし。離れざれバ、したるき心有。工夫すべきもの也。

 【楠家本】

一 くづれを知と云事。崩といふ事ハ、物毎【脱字】有物也。其家のくづるゝ、身のくづるゝ、敵のくづるゝ事も、時のあたりて、拍子ちがひになりて、くづるゝ所也。大分の兵法にしても、敵のくづるゝ拍子を得て、其間をぬかさぬやうに追たつる事、肝要也。くづるゝ所のいきをぬかしてハ、たてかへす處有べし。又、一分の兵法にも、たゝかふ内に敵の拍子ちがひて、くづれめの付もの也。其ほどをゆだんすれバ、又、たちかへり、あたらしくなりて、はかゆかざる所也。其くづれめにつき、敵のかほたてなをさゞるやうに、慥に追かくる所、肝要也。追かくるハ、直につよき心也。敵たてかへさゞるやうに、打ハなすもの也。打はなすといふ事、能々分別有べし。はなれざれバ、したるき心有。工夫すべきものなり。

 【細川家本】

一 くづれを知と云事。崩と云事ハ、物毎【脱字】ある物也。其家のくづるゝ、身のくづるゝ、敵のくづるゝ事も、時のあたりて、拍子ちがいになりて、くづるゝ所也。大分の兵法にしても、敵のくづるゝ拍子を得て、其間をぬかさぬやうに追たつる事、肝要也。くづるゝ所のいきをぬかしては、たてかへす所有べし。又、一分の兵法にも、戦内に敵の拍子ちがいて、くづれめのつくもの也。其ほどを油斷すれば、又、たちかへり、新敷なりて、はかゆかざる所也。其くづれめにつき、敵のかほたてなをさざるやうに、慥に追かくる所、肝要也。追懸るは、直につよき心也。敵たてかへさゞるやうに、打はなすもの也。打はなすと云事、能々分別有べし。はなれざれば、したるき心有。工夫すべきもの也。

 【丸岡家本】

一 崩を知と云事。くづれといふ事は、物ごとに有者也。其家の崩るゝ、身の崩るゝ、敵のくづるゝ事も、時にあたりて、拍子違に成て、崩るゝ所也。大分の兵法にしても、敵の崩るゝ拍子を得て、其間をぬかさぬやうに追立る事、肝要也。崩るゝ所の息をぬかしては、立回す所有べし。又、一分の兵法にも、戦ふ内に敵の拍子違て、くづれめのつく者也。其程を油斷すれば、又、立返り、新く成て、はか行ざる所也。其くづれめにつき、敵の顔たて直さゞるやうに、たしかに追かくる所、肝要なり。追かくるは、直に強き心也。敵立回さゞるやうに、打放す者也。打はなすといふ事、能々分別有べし。離れざれば、したるき心あり。工夫すべき者なり。

 【富永家本】

一 くづれを知ると云事。崩れと云事ハ、物毎【脱字】あるものなり。其家の崩るゝ、身のくづるゝ、敵のくづるゝ事も、時【脱字】當りて、拍子違に成て、崩るゝ處也。大分の兵法にしても、敵のくづるゝ拍子を得て、其間をぬかさぬ様に追立る事、肝要なり。くづるゝ處のいき【脱字】ぬかしてハ、立返す処有べし。又、一分の兵法ニも、戦ふ内ニ敵の拍子違ふて、崩れめの付ものなり。其程を油断すれバ、また立返り、新敷成て、はかゆかざる處なり。其くづれ目に付、敵のかほたてなをさゞる様に、慥に追懸る事、肝要なり。追かくるハ、直につよき心也。敵【脱字】かゑさゞるやうに、打はなすものなり。打はなすと云事、能々分別有べし。はなれざれバ、したるきこゝろ有。工夫すべき者なり。

 【常武堂本】

一 くづれをしると云事。崩と云事ハ、物毎【脱字】ある物也。其家のくづるゝ、身のくづるゝ、敵のくづるゝ事も、時のあたりて、拍子ちがひになりて、くづるゝ所也。大分の兵法にしても、敵のくづるゝ拍子を得て、其間をぬかさぬ様に追たつる事、肝要也。くづるゝ所のいきをぬかしてハ、たてかへす所有べし。又、一分の兵法にも、戦内に敵の拍子ちがひて、くづれめのつくもの也。其ほどを油斷すれバ、又、たちかへり、新敷なりて、はかゆかざる所也。其くづれめにつき、敵のかほたてなほさゞる様やうに、慥に追かくる所、肝要也。追懸るは、直につよき心也。敵たてかへさゞる様に、打はなすもの也。打はなすといふ事、能々分別有べし。はなれざれバ、したるき心あり。工夫すべきもの也。

 【田村家本】

 崩ヲ知ト云事 【脱字***】物ゴト【脱字】有事也。其家ノクヅルヽ、身ノ崩、敵ノクヅルヽ事モ、時ニ當テ、拍子違ヒニナリテ、クヅルヽ【脱字】也。大分ノ兵法ニシテモ、敵ノクヅルヽ拍子ヲ得テ、其間ヲヌカサズ、追立ル事、肝要也。崩処ノ息ヲヌカシテハ、立テ反ス処有ベシ。亦、一分ノ兵法ニテモ、戦フウチニ敵ノ拍子違テ、崩メノツクモノ也。其程ヲ油断スレバ、又、立返リ、新シクナリテ、ハカユカザル処也。其崩レメニ付、敵ノ顔タテナヲサヾルヤウニ、慥ニ追カクル処、肝要也。追カクルハ、直ニツヨキ心也。敵タテカエサヾルヤウニ、打ハナスモノ也。打放ト云事、能々分別有ベシ。放レザレバ、シタルキ心有。工夫スベシ。

 【狩野文庫本】

一 崩レを知といふ事。崩を知る事ハ、物毎ニ有もの也。其家の崩、身の崩、敵の崩るゝ【脱字】も、時の當りて、拍子に違ふに成て、崩るゝ【脱字】なり。大分の兵法ニ而も、敵の崩拍子を得て、其間をぬかさぬ樣ニ追立る事、肝要也。崩所のいきをぬかしてハ、立退所有べし。又、一分の兵法にも、戦内に敵の拍子違て、崩【脱字】のつくもの也。其程を油斷すれバ、又、立返り、あたらしく成て、はかゆかざる所也。其崩めに付、敵の顔立直さゞる樣ニ、慥ニ追懸る所、肝要也。追懸るハ、直に強心也。敵立返ざるやうに、うちはなすもの也。打はなすと云事、能々分別有べし。はなれ【脱字】バ、したるき心也。可有工夫者也。

 【多田家本】

一 くづれを知と云こと。【脱字***】、物毎にある物也。其家の崩るゝ、身の崩るゝ。敵のくづるゝ事も、時に當りて、拍子違ひに成て、崩るゝ所也。大分の兵法にしても、敵の崩るゝ拍子を得て、其間をぬかざる様に追立る事、肝要也。崩るゝ所のいきをぬかしてハ、たてかへす所有べし。又、一分の兵法にも、戦ふ内に、敵の拍子違ひて、崩れめ【脱字】つく物也。其程を油断すれバ、又、立帰り、新敷成て、はかゆかざる所也。其崩めにつき、敵の顔たてなをさゞる様に、慥に追懸る所、肝要也。追懸るハ、直に強き心也。敵立かへさゞる様に、打はなすもの也。打はなすと云事、能々分別有べし。はなれ【脱字】バ、したるき心有。工夫すべきもの也。

 【山岡鉄舟本】

一 崩レヲ知ルト云事。崩ト云事ハ、物毎ニ有者也。其家ノ崩ルヽ、身ノ崩ルヽ、敵ノ崩ル【脱字】事モ、時ノアタリテ、拍子違ニ成テ、崩ルヽ処也。大分ノ兵法ニシテモ、敵ノ崩ル拍子ヲ得テ、其間ヲヌカサヌ様ニ追立ル事、肝要也。崩処ノイキヲヌカシテハ、立カヘス處アルベシ。又、一分ノ兵法ニモ、戦フ内ニ敵ノ拍子違テ、崩目ノ付者也。其程ヲ油断スレバ、又、立帰リ、新シク成テ、ハカユカザル處也。其崩目ニ付、敵ノ顔立直サザル様ニ、慥ニ追掛ル處、肝要也。追掛ルハ、直ニ強キ心也。敵タテカヘ【脱字】ザル様ニ、打離スモノ也。打放ト云事、能々分別有ベシ。離レザレバ、シタルキ心有。工夫スベキ者也。

 【稼堂文庫本】

一 崩を知ると云事。崩れと云事ハ、物毎に有こと也。【脱字】家の崩、身の崩、敵の崩るゝことも、時に當りて、拍子違ニ成て、崩所也。大分の兵法にしても、敵の崩るゝ拍子を得て、其間をぬかさぬ様に追立る事、肝要也。崩るゝ所のいきをぬかしては、たて返す所有てあしゝ。亦、一分の兵法にしても、戦ふ内に敵の拍子違ひて、崩れめの付者也。其ほどを油断すれバ、又、立返し、新敷成て、はか行ざる所より。其崩めに付、敵の皃〔かお〕たてなをさゞる様に、慥ニ追懸ること、肝要也。追懸るハ、直に強き心也。敵立返さざる様に、打【脱字】なすもの也。打放すと云事、能々分別有べし。はなれざれバ、したるき也。工夫すべき物也。  

 【大瀧家本】

一 崩れを知るといふ事。くづれを知ると云事ハ、物毎に有物也。其家の崩るゝ、身の崩るゝ、敵の崩るゝ事も、時に當て、拍子違に成て、崩るゝ処也。大分の兵法にしても、敵の崩るゝ拍子を得て、其間をぬがさぬ様に追立る事、肝要也。崩るゝ処のいきをのかしてハ、立返す事有べし。又、一分の兵法にも、戦の内に敵の拍子違て、崩れ目の付もの也。其程を油断すれバ、又、立返り、新敷成て、はか行ざる処也。其崩目に付、敵の顔立直さゞる様に、慥に追懸る處、肝要也。追懸るハ、直に強き心也。敵立返さゞる様に、打放すもの也。打放すといふ事、能々分別有べし。離れざれバ、したるき心有。工夫すべきものなり。    PageTop    Back   Next 

  9 敵になると云事

 【吉田家本】

一 敵になると云事。敵になると云ハ、我身を、敵になり替りておもふべきと云所也。世の中をミるに、ぬすミなどして、家のうちへとり籠やうなるものをも、敵を強くおもひなすもの也。敵になりておもへば、世の中の人をミな相手として、にげこミて、せむかたなき心也。とりこもる者ハきじ也、打はたしに入人ハ鷹也。よく/\工夫有べし。大なる兵法にしても、敵といへば、剛くおもひて、大事にかくるもの也。我常に能人数をもち、兵法の道理を能知り、敵に勝と云所をよくうけてハ、氣遣すべき道にあらず。一分の兵法も、敵になりて思べし。兵法能心得て、道理強く、其【脱字】達者なる者にあひてハ、かならず負と思所也。能々吟味すべし。

 【立花隨翁本】

一 敵になると云事。敵になるといふハ、我身を、敵になり替りておもふべきと云所也。世の中を見るに、ぬすミなどして、家のうちへとり籠るやうなるものをも、敵を強くおもひなすもの也。敵になりておもへバ、世の中の人をミな相手として、にげこミて、せんかたなき心也。とりこもる者ハ、雉子也。打はたしに入人ハ、鷹也。よく/\工夫有べし。大なる兵法にしても、敵といへバ、強くおもひて、大事にかくるもの也。我常ニ能人数を持、兵法の道理を能知り、敵に勝といふ所をよくうけてハ、氣づかひすべき道にあらず。一分の兵法も、敵になりて思ふべし。兵法能心得て、道理強く、其道達者なる者にあひてハ、かならず負と思ふ所也。能々吟味すべし。

 【赤見家甲本】

一 敵になると云事。敵になるといふハ、我身を、敵になり替りておもふべきと云所也。世の中を見るに、ぬすミなどして、家のうちへとり籠るやうなるものをも、敵を強くおもひなすもの也。敵になりておもへバ、世の中の人をミな相手として、にげこミて、せんかたなき心也。とりこもる者ハ、雉子也。打はたしに入人ハ、鷹也。よく/\工夫有べし。大なる兵法にしても、敵といへバ、強くおもひて、大事にかくるもの也。我常々能人数を持、兵法の道理を能知り、敵に勝といふ所をよくうけてハ、氣づかひすべき道にあらず。一分の兵法も、敵になりて思ふべし。兵法能心得て、道理強く、其道達者なる者にあひてハ、かならず負と思ふ所也。能々吟味すべし。

 【中山文庫本】

一 敵になると云事。敵になると云ハ、我身を、敵になり替りておもふべきと云所也。世の中をミるに、ぬす【脱字】などして、家のうちへとり籠やうなるものをも、敵を強くおもひなすもの也。敵になりておもへバ、世の中の人を皆相手として、にげこミて、せむかたなき心也。取籠る者ハ、きじ也。打はたしに入人ハ、鷹也。よく/\工夫有べし。大なる兵法にしても、敵といへバ、剛くおもひて、大事にかくるもの也。我常に能人数をもち、兵法の道理を能知り、敵に勝と云所をよくうけては、氣遣すべき道にあらず。一分の兵法も、敵になりて思べし。兵法能心得て、道理強く、其【脱字】達者なる者にあひてハ、必ず負と思所也。能々吟味すべし。

 【近藤家甲本】

一 敵になると云事。敵になるといふは、我身【脱字】、敵になり替りておもふべきと云所也。世の中を見るに、ぬすミなどして、家のうちへとり籠るやうなるものをも、敵を強くおもひなすもの也。敵になりておもへバ、世の中の人をミな相手として、にげこミ【脱字】、せんかたなき心也。とりこもる者は、雉子也。打はたしに入人は、鷹也。よく/\工夫有べし。大なる兵法にしても、敵といへバ、強くおもひて、大事にかくるもの也。我常々能人数を持、兵法の道理を能知り、敵に勝といふ所をよくうけてハ、氣づかひすべき道にあらず。一分の兵法も、敵になりて思ふべし。兵法能心得て、道理強く、其道達者なる者にあひては、かならず負と思ふ所也。能々吟味すべし。

 【近藤家乙本】

一 敵になると云事。敵になるといふは、我身を、敵になり替りておもふべきと云所也。世の中を見るに、ぬすミなどして、家のうちへとり籠るやうなるものをも、敵を強くおもひなすもの也。敵になりておもへバ、世の中の人をミな相手として、にげこミ【脱字】、せんかたなき心也。とりこもる者は、雉子也。打はたしに入人は、鷹也。よく/\工夫有べし。大なる兵法にしても、敵といへバ、強くおもひて、大事にかくるもの也。我常々能人数を持、兵法の道理を能知り、敵に勝といふ所をよくうけてハ、氣づかひすべき道にあらず。一分の兵法も、敵になりて思ふべし。兵法能心得て、道理強く、其道達者なる者にあひては、かならず負と思ふ所也。能々吟味すべし。

 【鈴木家本】

一 敵になると云事。敵になると云ハ、我身を、敵になりかはりておもふべきと云所也。世の中をミるに、ぬすミなどして、家のうちへとり籠やうなるものをも、敵を強くおもひなすもの也。敵になりておもへバ、世の中の人をミな相手として、にげこミて、せんかたなき心也。とりこもるものハ、きじなり。打はたしに入人ハ、鷹也。よく/\工夫有べし。大なる兵法にしても、敵といへバ、剛くおもひて、大事にかくるもの也。我常に能人数をもち、兵法の道理を能知り、敵に勝と云所をよくうけてハ、氣遣すべき道に非ず。一分の兵法も、敵になりておもふべし。兵法能心得て、道理強く、其【脱字】達者なるものにあひてハ、かならず負と思所也。能々吟味すべし。

 【伊藤家本】

一 敵になると云事。敵になるといふは、我身を、敵になり替りておもふべきと云所也。世の中を見るに、ぬすミなどして、家のうちへとり籠るやうなるものをも、敵を強くおもひなすもの也。敵になりておもひバ、世の中の人をミな相手として、にげこミ【脱字】、せんかたなき心也。とりこもる者は、雉子也。打はたしに入人は、鷹也。よく/\工夫有べし。大なる兵法にしても、敵といへば、強くおもひて、大事にかくるもの也。我常々能人数を持、兵法の道理【脱字】能知り、敵に勝といふ所をよくうけてハ、氣づかひすべき道にあらず。一分の兵法も、敵になりて思ふべし。兵法能心得て、道理強く、其道達者なる者にあひては、かならず負と思ふ所也。能々吟味すべし。

 【石井家本】

一 敵になると云事。敵になるといふは、我身(を)、敵になり替りておもふべきと云所也。世の中を見るに、ぬすミなどして、家のうちへとり籠るやうなるものをも、敵を強くおもひなすもの也。敵になりておもへバ、世の中の人をミな相手として、にげこミ(て)、せんかたなき心也。とりこもる者は、雉子也。打はたしに入人は、鷹也。よく/\工夫有べし。大なる兵法にしても、敵といへば、強くおもひて、大事にかくるもの也。我常々能人数を持、兵法の道理を能知り、敵に勝といふ所をよくうけてハ、氣づかひすべき道にあらず。一分の兵法も、敵になりて思ふべし。兵法能心得て、道理強く、其道達者なる者にあひては、かならず負と思ふ所也。能々吟味すべし。  

 【神田家本】

一 敵になると云事。敵になるといふは、我身【脱字】、敵になり替りておもふべきと云所也。世の中を見るに、ぬすミなどして、家のうちへとり籠るやうなるものをも、敵を強くおもひなすもの也。敵になりておもひバ、世の中の人をミな相手として、にげこミ【脱字】、せんかたなき心也。とりこもる者は、雉子也。打はたしに入人は、鷹也。よく/\工夫有べし。大なる兵法にしても、敵といへば、強くおもひて、大事にかくるもの也。我常々能人数を持、兵法の道理を能知り、敵に勝といふ所をよくうけてハ、氣づかひすべき道にあらず。一分の兵法も、敵になりて思ふべし。兵法能心得て、道理(強)く、其道達者なる者にあひては、かならず負と思ふ所也。能々吟味すべし。

 【猿子家本】

一 敵になるといふ事。敵になると云は、我身【脱字】、敵になり替りて思ふべきと云所也。世の中を見るに、ぬすみ抔どして、家の内へ取籠る様なるものをも、敵を強く思ひなすもの也。敵になりて思ひバ、世の中の人をみな相手として、にげ込【脱字】、せん方なき心也。とり籠る者は、雉子なり。打はたしに入人ハ、鷹也。能々工夫有べし。大なる兵法にしても、敵といへバ、強く思ひて、大事にかくるもの也。我常々能人数を持、兵法の道理を【脱字】知り、敵に勝といふ所を能受けてハ、氣遣ひすべき道にあらず。一分の兵法も、敵になりて思ふべし。兵法能心得て、道理強く、其道達者成ものにあふては、かならず負と思ふ所也。能々吟味すべし。

 【楠家本】

一 敵になると云事。敵になるといふハ、わが身を、敵になり替りて思ふべきといふ所也。よの中を見るに、ぬすミなどして、家の内へとり籠るやうなるものをも、敵をつよく思ひなすもの也。敵になりておもへバ、世の中の人をミな相手とし、にげこみて、せんかたなき心なり。とり籠るものハきじ也、打はたしに入人ハ鷹なり。能々工夫有べし。大きなる兵法にしても、敵といへバ、つよく思ひて、大事にかくるもの也。【脱字】よき人数をもち、兵法の道理をよくしり、敵に勝といふ所をよくうけてハ、氣遣すべき道にあらず。一分の兵法も、敵になりておもふべし。兵法よく心得て、道理つよく、其道達者なるものにあひてハ、かならずまくると思ふ所也。能々吟味すべし。

 【細川家本】

一 敵になると云事。敵になるといふは、我身を、敵になり替て思ふべきと云所也。世中をミるに、ぬすミなどして、家の内へ取籠るやうなるものをも、敵をつよく思ひなすもの也。敵になりておもへば、世中の人を皆相手とし、にげこミて、せんかたなき心なり。取籠るものは雉子也、打果しに入人は鷹也。能々工夫あるべし。大キなる兵法にしても、敵をいへば、つよく思ひて、大事にかくるもの也。【脱字】よき人数を持、兵法の道理を能知り、敵に勝と云所をよくうけては、氣遣すべき道にあらず。一分の兵法も、敵になりておもふべし。兵法よく心得て、道理つよく、其道達者なるものにあいてハ、必まくると思ふ所也。能々吟味すべし。

 【丸岡家本】

一 敵になるといふ事。敵に成と云は、我身を、敵になり替りて思ふべきと云所也。世の中を見るに、盗などして、家の内へ取籠る樣なる者をも、敵を強く思ひなす者也。敵に成ておもへば、世の中の人を皆相手とし、逃籠て、為方なき心なり。取籠る者は雉子なり、打果に入人は鷹なり。能々工夫あるべし。大なる兵法ニしても、敵といへば、強ク思て、大事にかくる者也。【脱字】能人数を持、兵法の道理を能知て、敵に勝と云所を能受ては、氣遣すべき道に非ず。一分の兵法も、敵に成ておもふべし。兵法能心得て、道理つよく、其道の達者【脱字】に逢ては、必負ると思ふ所也。能々吟味すべし。

 【富永家本】

一 敵になると云事。敵になると云事ハ、我身を、敵になり替りて思ふべきといふ心也。世の中をミるに、ぬすミなどして、家の内に取籠様なる者【脱字】も、敵をつよく思ひなす者なり。敵に成ておもへバ、世の中の人を皆相手として、にげこミ【脱字】せんかたなき心なり。取籠る者ハきじ也、打はたしに入人ハ鷹也。好々工夫有べし。大きなる兵法にしても、敵といゑバ、強く思ひて、大事にかくるものなり。【脱字】能人数を持、兵法の道理を能知り、敵に勝と云事を能く受てハ、氣遣すべき道に非ず。一分の兵法も、敵になつて思ふべし。兵法能心得て、道理ニ強く、其道達者成者にあゐてハ、必まくる事とおもふ處なり。能々吟味有べし。

 【常武堂本】

一 敵になると云事。敵になるといふハ、我身を、敵になり替て思ふべきといふ所也。世中をみるに、ぬすみなどして、家の内へ取籠る様なるものをも、敵をつよく思ひなすものなり。敵になりておもへバ、世中の人を皆相手とし、にげこみて、せんかたなき心也。取籠るものハ雉子也、打果しに入人は鷹也。能々工夫あるべし。大キなる兵法にしても、敵をいへバ、つよく思ひて、大事にかくるもの也。【脱字】よき人数を持、兵法の道理を能知り、敵に勝といふ所をよくうけてハ、気遣すべき道にあらず。一分の兵法も、敵になりて思ふべし。兵法よく心得て、道理つよく、其道達者なるものにあひてハ、必まくると思ふ所也。能々吟味すべし。

 【田村家本】

 敵ニ成ト云事 【脱字****】吾身ヲ、テキニナリ替リテ思ベキト云処也。世中ヲ見ルニ、盗ナドシテ、家ノ内ニ取篭ルヤウナル者ヲモ、敵ヲツヨク思ヒナス物也。敵ニナツテ思エバ、世中ノ人ヲ皆相手トシ、ニゲ込テ、センカタナキ心ナリ。トリ篭ル者ハ雉子也、打果シニ入者ハ鷹也。能々工夫スベシ。大キナル兵法ニシテモ、敵ト云バ、強ク思テ、大事ニカクル者也。【脱字】能人数ヲ持、兵法ノ道理ヲヨクシリ、敵ニ勝ト云処ヲヨクウケテハ、気遣スベキ道ニ非ズ。一分ノ兵法モ、敵ニナリテ思ベシ。兵法ヨク心得テ、道理ツヨク、其道達者ナルモノニヲイテハ、必負ルト思處也。能々吟味スベシ。

 【狩野文庫本】

一 敵に成と云事。敵になるといふハ、我身を、敵に成替て思へと云心也。世中を見るに、盗抔シテ、家の内へ取籠樣成ものをも、敵を強見なす者也。敵に成て思バ、世中の人を皆相手として、迯込て、せんかたなき心也。取籠ものは雉子也、打果に行人は鷹也。能々工夫有べし。大き成兵法ニしても、敵を強シといへバ、強思ふて、大事に懸るもの也。【脱字】能人数ヲ持、兵法の道理を【脱字】知、敵に勝と云所を能請ては、氣遣すべき道にあらず。一分の兵法も、敵に成て思べし。兵法能心得て、道理強、其道達者成者に逢ば、必負と思ふ所也。能々可有吟味也。

 【多田家本】

一 敵になると云こと。敵になるといふは、我身を、敵に成替りて思ふべきと云所也。世の中を見るに、盗ミなどして、家の内へ取籠樣成者をも、敵を強くみなす者也。敵に成て思へば、世の中の人を皆相手として、迯込て、せんかたなき心也。取籠るものハ雉子なり、打はたしに入者ハ、鷹也。能々工夫有べし。大き成兵法にしても、敵を強きといへば、強く思ひて、大事にかくる者也。【脱字】よく人数をもち、兵法の道理を能知り、敵に勝と云所を能請てハ、氣遣ひすべき道にあらず。一分の兵法も、敵に成て思ふべし。兵法能心得て、道理強く、其道達者成ものに逢てハ、必負と云所也。能々吟味すべき也。

 【山岡鉄舟本】

一 敵ニ馴ルト云事。敵ニ馴ルト云ハ、我身【脱字】ニ成替テ思フベキト云処也。世ノ中ヲ見ルニ、盗ナドノ、家ノ内ニ取篭ル様成ル物ヲモ、敵ヲ強ク思ナスモノ也。敵ニ成テ思ヘバ、世ノ中ノ人ヲ皆相手トシ、迯込テ、詮方ナキ心也。【脱字】篭ル者ハ雉子也、打果シニ入ル人ハ鷹也。能々工夫有ベシ。大キ成ル兵法ニシテモ、敵トイヘバ、強思テ、大事ニ懸ル物也。【脱字】能人数ヲ持、兵法之道理ヲ能知リ、敵ニ勝ト云処ヲ能受テハ、氣遣イスベキ道ニアラズ。一分之兵法モ、敵ニ成テ思ベシ。兵法能ク心得テ、道理ニ強ク、其道達者成者ニ逢テハ、必負ルト思処也。能々吟味アルベシ。

 【稼堂文庫本】

一 敵になると云事。敵になると云事ハ、我身を、敵になりかわりて思ふべきと云所也。世中を見るに、ぬすみ抔して、家【脱字】内に取籠る様成者【脱字】も、敵をつよく思ひ成す物也。敵に成りて思へば、世の中の人を皆相手として、迯込【脱字】、全方無心也。取籠者は雉子也、打果しに入る人は鷹也。能々工夫有べし。大成る兵法にしても、敵といへば、つよく思ひて、大事にかくる者也。【脱字】好き人数を持、兵法の道理を【脱字】知、敵に勝と云所【脱字】よく請ては、氣遣ひすべき道に非ず。一分の兵法も、敵に成て思ふべし。兵法よく心得て、道理に強く、其道達者成者に逢ては、かならず負くると思ふ所也。能々吟味すべし。  

 【大瀧家本】

一 敵に成ると云事。敵に成といふハ、我身を、敵になり替りて思ふべきと云所也。世の中を見るに、盗抔して、家の中に取篭る様成者をも、敵を強く見なすもの也。敵に成て思へバ、世の中の人を皆相手として、迯込て、詮方なき心也。取篭るものハ雉子也、打果しに入人ハ鷹也。能々工夫有べし。大なる兵法にしても、敵といへば、強く思ひ【脱字】、大事に懸るもの也。我常に能人数を持、兵法の道理を【脱字】知り、敵に勝と云所を能受てハ、氣遣ひすべき道にあらず。一分の兵法も、敵に成て思ふべし。兵法能心得て、道理強く、其道達者成【脱字】に逢ふてハ、必負ると思ふ所也。能々吟味すべし。    PageTop    Back   Next 

  10 四手〔よつで〕をはなすと云事

 【吉田家本】

一 四手をはなすと云事。四手をはなすとハ、敵も我も同じこゝろに、はりあふ心になつてハ、戦はかゆかざるもの也。はりやう心になるとおもわば、其まゝ心を捨て、別の利にて勝事をしる也。大分の兵法にしても、四手のこゝろにあれバ、はかゆかず、人も多くそんずる事なり。はやく心を捨て、敵のおもわざる利にて勝事、専也。又、一分の兵法にても、四手になるとおもわば、其まゝ心をかへて、敵の位を得て、各別かわりたる利を以て、かちをわきまゆる事肝要也。能々分別すべし。

 【立花隨翁本】

一 四手をはなすと云事。四手をはなすとハ、敵も我も、同じこゝろに、はりあふ心になつてハ、戦はかゆかざるもの也。はりあふ心になるとおもハヾ、其まゝ心を捨て、別の利にて勝事をしる也。大分の兵法にしても、四手の心になれバ、はかゆかず、人も多く損ずる事なり。はやく心を捨て、敵のおもハざる利にて勝事、専也。又、一分の兵法にても、四手になるとおもハヾ、其まゝ心をかへて、敵の位を得て、各別かわりたる利を以て、かちをわきまゆる事、肝要なり。能々分別すべし。

 【赤見家甲本】

一 四手をはなすと云事。四手をはなすとハ、敵も我も、同じこゝろに、はりあふ心になつてハ、戦はかゆかざるもの也。はりあふ心になるとおもハヾ、其まゝ心を捨て、別の利にて勝事をしる也。大分の兵法にしても、四手の心になれバ、はかゆかず、人も多く損ずる事なり。はやく心を捨て、敵のおもハざる利にて勝事、専也。又、一分の兵法にても、四手になるとおもハヾ、其まゝ心をかへて、敵の位を得て、各別かわりたる利を以て、かちをわきまゆる事、肝要なり。能々分別すべし。

 【中山文庫本】

一 四手をはなすと云事。四手をはなすとハ、敵も我も、同じこゝろに、はりあふ心になつてハ、戦はかゆかざるもの也。はりやう心になると思ハヾ、其まゝ心を捨て、別の利にて勝事をしる也。大分の兵法にしても、四手の心にあれバ、はかゆかず、人も多く損ずる事也。早く心を捨て、敵のおもわざる利にて勝事、専也。又、一分の兵法にても、四手になるとおもわば、其まゝ心をかへて、敵の位を得て、各別替りたる利を以て、かちをわきまゆる事、肝要也。能々分別すべし。

 【近藤家甲本】

一 四手をはなすと云事。四手をはなすとハ、敵も我も、同じ心に、はりあふこゝろになつてハ、戦はかゆかざるもの也。はりあふ心になるとおもハヾ、其まゝ心を捨て、別の利にて勝事を知る也。大分の兵法にしても、四手の心になれバ、はかゆかず、人も多く損ずる事也。はやく心を捨て、敵のおもハ【脱字】る利にて勝事、専也。又、一分の兵法にても、四手になるとおもハヾ、其まゝ心をかえて、敵の位を得て、各別のかわりたる利を以て、かちをわきまゆる事、肝要也。能々分別すべし。

 【近藤家乙本】

一 四手をはなすと云事。四手をはなすとハ、敵も我も、同じ心に、はりあふこゝろになつてハ、戦はかゆかざるもの也。はりあふ心になるとおもハヾ、其まゝ心を捨て、別の利にて勝事をしる也。大分の兵法にしても、四手の心になれバ、はかゆかず、人も多く損ずる事なり。はやく心を捨て、敵のおもわざる利にて勝事、専也。又、一分の兵法にても、四手になるとおもハヾ、其まゝ心をかえて、敵の位を得て、各別のかわりたる利を以て、かちをわきまゆる事、肝要也。能々分別すべし。

 【鈴木家本】

一 四手をはなすと云事。四手をはなすとハ、敵も我も、同じこゝろに、はり合心になつてハ、戦はかゆかざるもの也。はり合心になるとおもわバ、其まゝ心を捨て、別の利にて勝事をしる也。大分の兵法にしても、四手の心【脱字】あれバ、はかゆかず、人も多くそんずる事なり。はやく心を捨て、敵のおもハざる利にて勝事、専なり。又、一分の兵法にても、四手に成るとおもわバ、其まゝ心をかへて、敵の位を得て、各別かはりたる利を以て、かちをわきまゆる事、肝要なり。能々分別すべし。

 【伊藤家本】

一 四手をはなすと云事。四手をはなすとハ、敵も我も、同じ心に、はりあふこゝろになつて【脱字】、戦はかゆかざるもの也。はりあふ心になるとおもハヾ、其まゝ心を捨て、別の利にて勝事をしる也。大分の兵法にしても、四手の心になれバ、はかゆかず、人も多く損ずる事なり。はやく心を捨て、敵のおもハざる利にて勝事、専也。又、一分の兵法にても、四手になるとおもハヾ、其まゝ心をかえて、敵の位を得て、各別のかわりたる利を以て、かちをわきまゆる事、肝要也。能々分別すべし。

 【石井家本】

一 四手をはなすと云事。四手をはなすとハ、敵も我も、同じ心に、はりあふこゝろになつてハ、戦はかゆかざるもの也。はりあふ心になるとおもハヾ、其まゝ心を捨て、別の利にて勝事を知る也。大分の兵法にしても、四手の心になれバ、はかゆかず、人も多く損ずる事也。はやく心を捨て、敵のおもハざる利にて勝事、専也。又、一分の兵法にても、四手(に)なるとおもハヾ、其まゝ心をかえて、敵の位を得て、各別のかはりたる利を以て、かちをわきまゆる事、肝要也。能々分別すべし。  

 【神田家本】

一 四手をはなすと云事。四手をはなすとハ、敵も我も、同じ心に、はりあふこゝろになつてハ、戦はかゆかざるもの也。はりあふ心になるとおもハヾ、其まゝ心を捨て、別の利にて勝事を知る也。大分の兵法にしても、四手の心になれバ、はかゆかず、人も多く損ずる事也。はやく心を捨て、敵のおもハざる利にて勝事、専也。又、一分の兵法にても、四手(に)なるとおもハヾ、其まゝ心をかえて、敵の位を得て、各別のかわりたる利を以て、かちをわきまゆる事、肝要也。能々分別すべし。

 【猿子家本】

一 四手をはなすと云事。四手をはなすとハ、敵も我も、同じ心に、はりあふ心になつてハ、戦ひはかゆかざる所也。張あふ心に成ると思ハヾ、其侭心を捨て、別の利にて勝事を知る也。大分の兵法にしても、四手の心になれバ、はかゆかず、人も多く損ずる事也。早く心を捨て、敵の思ハざる利にて勝事、専也。又、一分の兵法にても、四手【脱字】なると思ハヾ、其侭心を替へて、敵の位を得て、各別のかわりたる利を以、勝を弁ゆる事、肝要也。能々分別すべし。

 【楠家本】

一 四手をはなすと云事。四手をはなすとハ、敵も我も同じ心に、はりやう心になつて【脱字】、たゝかひのはかゆかざるもの也。張やう心になるとおもはゞ、其まゝ心をすてゝ、別の利にて勝事をしる也。大分の兵法にしても、四手の心にあれバ、はかゆかず、人の【脱字】そんずる事也。はやく心をすてゝ、敵のおもはざる利にて勝事、専也。又、一分の兵法にても、四手になるとおもはゞ、其まゝ心をかへて、敵のくらゐを得て、各別かはりたる利を以て、かちをわきまゆる事、肝要なり。よく/\分別すべし。

 【細川家本】

一 四手をはなすと云事。四手をはなすとは、敵も我も同じ心に、はりやう心になつては、戦のはかゆかざるもの也。はりやう心になるとおもハゞ、其儘心をすてゝ、別の利にて勝事をしる也。大分の兵法にしても、四手の心にあれば、果敢ゆかず、人の【脱字】そんずる事也。はやく心をすてゝ、敵のおもハざる利にて勝事、専也。亦、一分の兵法にても、四手になるとおもハヾ、其まゝ心をかへて、敵の位を得て、各別替りたる利を以て、かちをわきまゆる事、肝要也。能々分別すべし。

 【丸岡家本】

一 四ツ手を離すと云事。四ツ手を放といふは、敵も我もおなじ心に、張合心に成てハ、戦のはか行ざる者也。張合心になるとおもハゞ、其まゝ心を捨て、別の理にて勝ことを知べし。大分の兵法ニしても、四手の心【脱字】あれば、はか行ず、人の【脱字】損ること也。早ク心を捨て、敵の思ハざる理にて勝こと、専なり。又、一分の兵法にても、四手に成と思ハヾ、其まゝ心を替て、敵の位を得て、各別替りたる理を以、勝を辨る事、肝要也。能々分別すべし。

 【富永家本】

一 四手をはなすと云事。四手をはなすとハ、敵も我も同じ心に【脱字****】成て【脱字】、戦のはかゆかざるもの也。はりあふ心に成とおもハゞ、其まゝ心をすてゝ、別の利にて勝事を知るなり。大分の兵法にしても、四手の心にあるハ、はかゆかず、人の【脱字】そんずる事なり。早く心をすてゝ、敵のおもハざる利にて勝事、専也。又、一分の兵法にても、四手になると思はゞ、其まゝ心を替へて、敵の位を得て、各別易りたる利を以、勝をわきまゆる事肝要なり。能々分別すべし。

 【常武堂本】

一 四手をはなすと云事。四手をはなすとハ、敵も我も同じ心に、はりやう心になつてハ、戦のはかゆかざるもの也。はりやう心になるとおもハゞ、其侭心をすてゝ、別の利にて勝事をしる也。大分の兵法にしても、四手の心にあれば、はかゆかず、人の【脱字】そんずる事也。はやく心をすてゝ、敵のおもはざる利にて勝事、専也。亦、一分の兵法にても、四手になるとおもハば、其まゝ心をかへて、敵の位を得て、各別替りたる利を以て、かちをわきまゆる事、肝要也。能々分別すべし。

 【田村家本】

 四手ヲ放ト云事 【脱字*******】敵モ吾モ同心ニ、張合心ニナツテハ、戦ノハカユカザルモノ也。張合心ニ成ト思バ、ソノマヽ心ヲ捨テ、別ノ利ニテ勝事ヲ知也。大分ノ兵法ニシテモ、四手ノ心【脱字】アレバ、ハカユカズ、人ノ【脱字】損ル事也。早ク心ヲステヽ、敵ノ思ハザル利ニテ勝事、専也。亦、一分ノ兵法ニテモ、四手ニナルトヲモハヾ、其マヽ心ヲカエテ、敵ノ位ヲ得テ、格別替タル利ヲ以、勝ヲ辨ル事、肝要也。能々分別スベシ。

 【狩野文庫本】

一 四手をはなつと云事。四手をはなつといふハ、敵も我も同心に、はりあふ心に成てハ、戦はかゆかざるもの也。はりあふ心ニ成と思ハヾ、其儘心を捨て、別の利にて勝事を知也。大分の兵法にしても、四手の心にあれば、はかゆかざる所を、ひとのミにする事。はやく心を捨て、敵のおもハざる利にて勝事、専也。又、一分の兵法にしても、四手に成と思ハヾ、其まゝ心を替て、敵の位を得て、各別替たる利を以、勝を弁事、肝要也。能々可分別。

 【多田家本】

一 四手をはなつと云【脱字******】ハ、敵も我も、同じ心に、はりやう心に成てハ、戦ひはかゆかざるもの也。はりやう心に成て思ハヾ、其まゝ心を捨て、別の利に【脱字】勝様を知也。大分の兵法にしても、四手の心にあれば、はかゆかず、人の【脱字】損ずる事なり。早く心を捨て、敵の思ハざる理に【脱字】勝事、専也。又、一分の兵法にても、四手に成とをもハヾ、其侭心を替て、敵の位を得て、各別かわりたる利を以、勝を辨ゆる事、肝要也。能々分別すべし。

 【山岡鉄舟本】

一 四手ヲ放スト云事。四手ヲ放ストハ、敵モ我モ同ジ心ニ、張リ合心ニ成テハ、戦ノハカユカザル物也。張リ合心ニ成ルト思ハヾ、其侭心ヲ捨テ、別ノ利ニテ勝事ヲ知也。大分ノ兵法ニシテモ、四手ノ心【脱字】アレバ、ハカユカズ、人ノ【脱字】損ズル事也。早ク心ヲ捨テ、敵ノ思ハザル利ニテ勝事、専也。又、一分之兵法ニテモ、四手ニ成ルト思ハヾ、其侭心ヲ変テ、敵ノ位ヲ得テ、各別変タル利ヲ以テ、勝ヲ辨ル事、肝要也。【脱字*****】。

 【稼堂文庫本】

一 四手を放つと云事。四手を放と云は、敵も我も同じ心に、張合心に成ては、戦のはか行ざる者也。張合心に成ると思ハば、其侭心をすてゝ、別の利にて勝事を可知也。太刀の兵法にしても、四手の心にあれバ、はかゆかず、人の【脱字】損ること也。早く心を捨て、敵の思ざる利にて勝事、専らなり。又、一分の兵法にても、四手ニ成ると思ハヾ、其侭心をかえて、敵の位を得て、各別かわりたる利を以、勝を弁る事肝要也。能々分別すべし。  

 【大瀧家本】

一 四手を放つと云事。四手をはなすと云ハ、敵も我も同じ心に、張合心に成てハ、戦墓行ざる所也。張合心に成と思はゞ、其侭心を捨て、別の利にて勝事を知るなり。大分の兵法にしても、四手の心になれバ、はか行ず、人も多く損ずる事也。はやく心を捨て、敵の思はざる利にて勝事、専也。又、一分の兵法にても、四手に成と思はゞ、其侭心を替て、敵の位を得て、格別替りたる利を以て、勝を弁ふる事肝要也。能々分別有べき也。    PageTop    Back   Next 

  11 陰をうごかすと云事

 【吉田家本】

一 かげをうごかすと云事。かげをうごかすと云ハ、敵の心のミヘわかぬときの事也。大分の兵法にしても、何とも敵の位のミわけざる時ハ、我かたより強くしかくる様にミせて、敵の手だてをミるもの也。手だてをミてハ、各別の利にてかつ事、やすき所也。又、一分の兵法にしても、敵うしろに太刀を搆、わきに搆たる様なるときハ、ふつとうたんとすれバ、敵思心を太刀にあらわすもの也。顕れしるゝにおゐてハ、其まゝ利をうけて、たしかにかちをしるべきもの也。油断すれば、拍子ぬくる者也。よく/\吟味有べし。

 【立花隨翁本】

一 かげをうごかすと云事。かげをうごかすと云ハ、敵の心のミヘわかぬときの事也。大分の兵法にしても、何とも敵の位の見わけざる時は、我方より強くしかくる様にミせて、敵の手だてを見るもの也。手だてを見てハ、各別の利にて勝事、やすき所也。亦、一分の兵法にしても、敵うしろに太刀を搆、わきに搆たる様なるときハ、ふつとうたんとすれバ、敵思ふ心を太刀にあらハすもの也。あらハれしるゝにおゐてハ、其まゝ利をうけて、たしかにかちをしるべきもの也。油断すれバ、拍子ぬくる者也。能々吟味有べし。

 【赤見家甲本】

一 かげをうごかすと云事。かげをうごかすと云ハ、敵の心のミヘわかぬときの事也。大分の兵法にしても、何とも敵の位の見わけざる時は、我方より強くしかくる様にミせて、敵の手だてを見るもの也。手だてを見ては、格別の利にて勝事、やすき所也。亦、一分の兵法にしても、敵うしろに太刀を構、わきに構たる様なるときハ、ふつとうたんとすれバ、敵おもふ心を太刀にあらハすもの也。あらハれしるゝにおゐてハ、其まゝ利をうけて、たしかにかちをしるべきもの也。油断すれバ、拍子ぬくる者也。能々吟味有べし。

 【中山文庫本】

一 かげをうごかすと云事。かげをうごかすと云ハ、敵の心のミヘわかぬときの事也。大分の兵法にしてハ、何とも敵の位のミわけざる時ハ、我かたより強くしかくる様にミせて、敵の手だてをミるもの也。手だてをミてハ、各別の利にて勝事、やすき所也。又、一分の兵法にしても、敵うしろに太刀を搆、わきに搆たる様なる時ハ、ふつと打んとすれバ、敵思心を太刀にあらわすもの也。顕れしるゝにおゐては、其侭利をうけて、たしかに勝をしるべきもの也。油断すれバ、拍子ぬくるもの也。能々吟味有べし。

 【近藤家甲本】

一 かげをうごかすと云事。かげをうごかすと云は、敵の心のミヘわかぬ時の事也。大分の兵法にしても、何とも敵の位の見わけざる時は、我方より強くしかくる様にミせて、敵の手だてを見るもの也。手だてを見ては、各別の利にて勝事、やすき所也。又、一分の兵法にしても、敵うしろに太刀を搆、脇に搆たる様なるときは、ふつとうたんとすれバ、敵思ふ心を太刀にあらハすもの也。あらわれしるゝにおゐては、其まゝ利をうけて、たしかに勝をしるべきもの也。油断すれバ、拍子ぬくる者也。能々吟味有べし。

 【近藤家乙本】

一 かげをうごかすと云事。かげをうごかすと云は、敵の心のミヘわかぬ時の事也。大分の兵法にしても、何とも敵の位の見わけざる時は、我方より強くしかくる様にミせて、敵の手だてを見るもの也。手だてを見ては、各別の利にて勝事、やすき所也。亦、一分の兵法にしても、敵うしろに太刀を搆、脇に搆たる様なるときは、ふつとうたんとすれバ、敵思ふ心を太刀にあらハすもの也。あらハれしるゝにおゐてハ、其まゝ利をうけて、たしかに勝をしるべきもの也。油断すれバ、拍子ぬくる者也。能々吟味有べし。

 【鈴木家本】

一 かげをうごかすと云事。かげをうごかすと云ハ、敵の心のミヘわかぬ時の事なり。大分の兵法にしても、何とも敵の位の見分ざるときハ、我方より強くしかくる様にミせて、敵の手だてをミるもの也。手だてをミてハ、各別の利にてかつ事、やすき所也。又、一分の兵法にしても、敵うしろに太刀を搆、わきに搆たる様なる時ハ、ふつとうたんとすれバ、敵思心を太刀にあらハすものなり。顕れしるゝにおゐてハ、其侭利をうけて、たしかにかちを知るべきもの也。油断すればバ、拍子ぬくる者也。よく/\吟味有べし。

 【伊藤家本】

一 かげをうごかすと云事。かげをうごかすと云は、敵の心のミヘわかぬ時の事也。大分の兵法にしても、何とも敵の位の見わけざる時は、我方より強くしかくる様にミせて、敵の手だてを見るもの也。手だてを見ては、格別の利にて勝事、やすき所也。亦、一分の兵法にしても、敵うしろに太刀を搆、脇に搆たる様なるときは、ふつとうたんとすれバ、敵思ふ心を太刀にあらハすもの也。あらはれしるゝにおゐてハ、其まゝ利をうけて、たしかに勝をしるべきもの也。油断すれバ、拍子ぬくる者也。能々吟味有べし。

 【石井家本】

一 かげをうごかすと云事。かげをうごかすと云は、敵の心のミヘわかぬ時の事也。大分の兵法にしても、何とも敵の位の見わけざる時は、我方より強くしかくる様にミせて、敵の手だてを見るもの也。手だてを見ては、各別の利にて勝事、やすき所也。亦、一分の兵法にして(も)、敵うしろに太刀を搆、脇に搆たる様なるときは、ふつとうたんとすれバ、敵思ふ心を太刀にあらハすもの也。あらはれしるゝにおゐては、其まゝ利をうけて、たしかに勝をしるべきもの也。油断すれバ、拍子ぬくる者也。能々吟味有べし。  

 【神田家本】

一 かげをうごかすと云事。かげをうごかすといふは、敵の心のミヘわかぬ時の事也。大分の兵法にしても、何とも敵の位の見わけざる時は、我方より強くしかくる様にミせて、敵の手だてを見るもの也。手だてを見ては、各別の利にて勝事、やすき所也。亦、一分の兵法にしても、敵うしろに太刀を搆、脇に搆たる様なるときは、ふつとうたんとすれバ、敵思ふ心を太刀にあらハすもの也。あらはれしるゝにおゐては、其まゝ利をうけて、たしかに勝をしるべきもの也。油断すれバ、拍子ぬくる者也。能々吟味有べし。

 【猿子家本】

一 かげをうごかすと云事。かげを動かすと云は、敵の心の見ヘわかぬ時の事也。大分の兵法にしても、何とも敵の位の見分ざる時ハ、我方より強くしかくる様にミせて、敵の手立を見るもの也。手だてを見てハ、格別の利にて勝事、安き所也。又、一分の兵法にしても、敵うしろに太刀を搆ひ、脇に搆ひたる様なる時は、不圖打んとすれバ、敵思ふ心を太刀にあらハすもの也。あらわれしるゝに於てハ、其侭利を受て、慥に勝をしるべきもの也。油断すれバ、拍子ぬくる者也。能々吟味有べし。

 【楠家本】

一 かげをうごかすと云事。陰をうこかすといふハ、敵の心のみえわかぬ時の事也。大分の兵法にしても、何とも敵のくらゐの見わけざる時ハ、我方よりつよくしかくるやうにミせて、敵の手だてを見るものなり。手だてを見てハ、各別の利にて勝事、やすき所也。又、一分の兵法にしても、敵うしろに太刀を搆、わきにかまへたるやうなる時ハ、ふつとうたんとすれバ、敵おもふ心を太刀に顕すもの也。あらはれしるゝにおゐてハ、其まゝ利をうけて、慥にかち【脱字】しるべきもの也。ゆだんすれバ、拍子ぬくるものなり。よく/\吟味有べし。

 【細川家本】

一 かげをうごかすと云事。陰をうごかすと云ハ、敵の心の見えわかぬ時の事也。大分の兵法にしても、何とも敵の位の見わけざる時は、我かたよりつよくしかくるやうに見せて、敵の手だてをミるもの也。手だてをミてハ、各別の利にて勝事、やすき所也。亦、一分の兵法にしても、敵うしろに太刀を搆、わきにかまへたるやうなる時は、ふつとうたんとすれば、敵思ふ心を太刀に顯す物也。あらハれしるゝにおゐてハ、其儘利を受て、慥にかち【脱字】しるべきもの也。ゆだんすれば、拍子ぬくるもの也。能々吟味あるべし。

 【丸岡家本】

一 陰を動すと云事。かげを動すと云は、敵の心の見え分ぬ時の事也。大分の兵法にしても、何とも敵の位の見分ざる時は、我方よりつよくしかくるやうに見せて、敵の手だてを見る者なり。手だてを見ては、各別の理にて勝こと、易き所也。又、一分の兵法ニしても、敵後に太刀を搆、脇にかまへたるやうなる時ハ、ふつと打んとすれば、敵思ふ心を太刀にあらハす者也。顯れ知るゝにおゐては、其まゝ理を受て、たしかに勝【脱字】知べき者也。油斷すれば、拍子ぬくる者也。能々吟味有べし。

 【富永家本】

一 影をうごかすと云事。陰をうこかすと云ハ、敵の心を見分ぬ時のことなり。大分の兵法にしても、何とも敵の位の見分ざる時ハ、我方より強く仕懸る様子に見せて、敵の手立を見る者也。手立【脱字】見てハ、各別の利にて勝事、やすき所なり。【脱字】一分の兵法にしても、敵後に太刀を搆、脇に搆たる様なる時ハ、ふつとうたんとすれバ、敵おもふ心を太刀に顕す者なり。顕れ知る【脱字】におゐてハ、其まゝ利を請て、たしかに勝と知るべき者なり。油断すれば、拍子ぬくる者なり。好々吟味すべし。

 【常武堂本】

一 かげをうごかすといふ事。陰をうごかすと云ハ、敵の心のみえわかぬ時の事也。大分の兵法にしても、何とも敵の位の見わけざる時ハ、我かたよりつよくしかくる様に見せて、敵の手だてをみるもの也。手だてをみてハ、各別の利にて勝事、やすき所也。亦、一分の兵法にしても、敵うしろに太刀を搆、わきにかまへたる様なる時ハ、ふつとうたんとすれバ、敵思ふ心を太刀に顯す物也。あらはれしるゝに於てハ、其侭利を受て、慥にかち【脱字】しるべきもの也。ゆだんすれば、拍子ぬくるもの也。能々吟味あるべし。

 【田村家本】

 陰ヲ動ト云事 【脱字*******】敵ノ心ノ見エワカヌ時ノ事也。大分ノ兵法ニシテモ、何共敵ノ位ノ見分ザル時ハ、吾方ヨリ強クシカクルヤウニ見セテ、ヽキノテダテヲ見ルモノ也。手ダテヲミテハ、各別ノ理ニテ勝事、安キ処也。亦、一分ノ兵法ニシテモ、敵後ニ太刀ヲ搆、脇ニカマヱタルヤウナルトキハ、フツト打ントスレバ、敵思心ヲ太刀ニ顯スモノ也。アラハレシルヽニ於ハ、其マヽ利ヲ受テ、慥ニ勝【脱字】知ベキモノ也。油斷スレバ、拍子ヌクルモノ也。ヨク々吟味スベシ。

 【狩野文庫本】

一 かげをうごかすといふ事。陰をうごかすといふハ、敵の心の見へ【脱字】ぬ時の事也。大分の兵法ニしても、何共敵の位の見分ざる時は、我方より強【脱字】懸る樣ニ見せて、敵の手立を見る者也。手段ヲ見てハ、各別の利にて勝こと、やすき所也。又、一分の兵法にしても、敵後に太刀を搆、脇に搆たる樣成時は、ふつと打んとすれバ、敵思ふ心を太刀に顯す者也。顯知におゐてハ、其儘利を請而、慥ニ可勝所知もの也。油斷すれば、拍子ぬくるもの也。能々吟味有べし。

 【多田家本】

一 かげを動すと云事。【脱字******】、敵の心の見ヘ分かぬ時の事也。大分の兵法にしても、何共敵の位の見分ざる時ハ、我方より強く仕懸る様に見せて、敵の手立をみるもの也。手段を見てハ、各別の利にて勝事、やすき【脱字】也。又、一分の兵法にしても、敵後に太刀を搆、脇に搆たる様に見たる時ハ、ふつと打んとすれば、敵思ふ心を太刀に顕すもの也。顕れたるにをひてハ、其侭利を請て、慥に勝べき所知物也。油断すれば、拍子ぬくる者也。能々吟味有べし。

 【山岡鉄舟本】

一 陰ヲ動スト云事。カゲヲ動スト云ハ、敵ノ心ノ見ヘ分ヌ時ノ事也。大分之兵法ニシテモ、何トモ敵之位ヲ見分ザル時ハ、我方ヨリ強ク仕懸ル様ニ見セテ、敵ノ手ダテヲ見ル物也。手ダテヲ見テハ、各別ノ利ニテ勝事易キ処也。亦、一分之兵法ニシテモ、敵ノ後ロニ太刀ヲ搆、脇ニ搆タル様成ル時ハ、フツト打ントスレバ、敵思心ヲ太刀ニ顕ス物也。顕レ知ルヽニ於テハ、其侭利ヲ受テ、慥ニ勝ト知ベキ物也。油断スレバ、拍子ヌクル物也。能々吟味アルベシ。

 【稼堂文庫本】

一 陰を動すと云事。陰を動すと云ハ、敵の心を見分ぬ時の事也。太分の兵法にしても、何共敵の位を見分ケざる時は、我方より強くしかくる様に見せて、敵の手立を見る者なり。手立【脱字】見へては、各別の利にて勝こと、安き所也。又、一分の兵法にしても、敵後ロに太刀を搆へ、脇に搆たる様成る時は、ふつとうたんとすれバ、敵思ふ心を太刀に顕すもの也。顕れ知るゝに於てハ、其侭利を請て、慥ニ勝を知るべき物なり。油断すれバ、拍子ぬくるもの也。能々吟味すべし。  

 【大瀧家本】

一 陰を動すといふ事。かげを動すと云ハ、敵の心の見へわかぬ時の事也。大分の兵法にしても、何共敵の位の見分ざる時ハ、我方より強く仕懸る様に見せて、敵の手立を見るもの也。手立を見而ハ、格別の利にて勝事、安き所也。【脱字】、一分の兵法に【脱字】ても、敵後ろに太刀を搆ひ、脇に搆ひたる様成時ハ、ふつと打んとすれば、敵思ふ心を太刀に顕すもの也。あらはれ知るゝにおゐてハ、其侭利を受て、慥ニ勝べき所知るゝもの也。油断すれバ、拍子のけるもの也。能々吟味すべし。    PageTop    Back   Next 

  12 影をおさゆると云事

 【吉田家本】

一 影をおさゆると云事。影を押ると云ハ、敵のかたより、しかくる心のミヘたるときの事也。大分の兵法にしてハ、敵のわざをせむとする所をおさゆると云て、我方より其利を押る所を、敵に強くミすれバ、強きにおされて、敵の心かはる事也。我も心をちがへて、空なる心より、先をしかけて勝所也。一分の兵法にしても、敵のおこる剛き氣ざしを、利の拍子を以てやめさせ、やミたる拍子に、我勝利をうけて、先をしかくるもの也。よく/\工夫有べし。

 【立花隨翁本】

一 影をおさゆると云事。影を押ゆるといふハ、敵のかたより、しかくる心の見ヘたるときの事也。大分の兵法にしてハ、敵のわざをせんとする所を押ゆると云て、我方より其利を押ゆる所を、敵に強く見すれバ、強きにおされて、敵の心かわる事也。我も心をちがへて、空なる心より、先をしかけて勝所也。一分の兵法にしても、敵のおこる強き氣ざしを、利の拍子を以てやめさせ、やミたる拍子に、我勝利をうけて、先をしかくるもの也。能々工夫有べし。

 【赤見家甲本】

一 影をおさゆると云事。影を押ゆるといふハ、敵のかたより、しかくる心の見ヘたるときの事也。大分の兵法にしてハ、敵のわざをせんとする所を、押ゆると云て、我方より其利を押ゆる所を、敵に強く見すれバ、強きにおされて、敵の心かわる事也。我も心をちがへて、空なる心より先をしかけて勝所也。一分の兵法にしても、敵のおこる強き氣ざしを、利の拍子を以てやめさせ、やミたる拍子に、我勝利をうけて、先をしかくるもの也。能々工夫有べし。

 【中山文庫本】

一 影をおさゆると云事。影を押ると云ハ、敵の方より、しかくる心のミヘたる時の事也。大分の兵法にしてハ、敵のわざをせむとする所を押ると云て、我方より其利を押る所を、敵に強くミすれバ、強きにおされて、敵の心かはる事也。我も心をちがへて、空なる心より、先をしかけて勝所也。一分の兵法にしても、敵のおこる剛き氣ざしを、利の拍子を以てやめさせ、やミたる拍子に、我勝利をうけて、先をしかくるもの也。能々工夫有べし。

 【近藤家甲本】

一 影をおさゆると云事。かげを押ゆるといふハ、敵のかたより、しかくる心の見ヘたる時の事也。大分の兵法にしては、敵のわざをせんとする所を押ゆると云て、我方より其利を押ゆる所を、敵に強く見すれバ、強きにおされて、敵の心かわる事也。我も心をちがへて、空なる心より、先をしかけて勝所也。一分の兵法にしても、敵のおこる強き氣ざしを、利の拍子を以てやめさせ、やミたる拍子に、我勝利をうけて、先をしかくる物也。能々工夫有べし。

 【近藤家乙本】

一 影をおさゆると云事。かげを押ゆるといふハ、敵のかたより、しかくる心の見ヘたる時の事也。大分の兵法にしては、敵のわざをせんとする所を押ゆると云て、我方より其利を押ゆる所を、敵に強く見すれバ、強きにおされて、敵の心かわる事也。我も心をちがへて、空なる心より、先をしかけて勝所也。一分の兵法にしても、敵のおこる強き氣ざしを、利の拍子を以てやめさせ、やミたる拍子に、我勝利をうけて、先をしかくる物也。能々工夫有べし。

 【鈴木家本】

一 影をおさゆると云事。影を押ると云ハ、敵のかたより、しかくる心のミヘたる時の事也。大分の兵法にしてハ、敵のわざをせんとする所を、おさゆると云て、我方より其利を押る所を、敵に強くミすれバ、強きにおされて、敵のこゝろかはる事なり。我も心をちがへて、空なる心より先をしかけて勝所也。一分の兵法にしても、敵のおこる剛き氣ざしを、利の拍子を以てやめさせ、やミたる拍子に、我勝利をうけて、先をしかくるもの也。能々工夫有べし。

 【伊藤家本】

一 影をおさゆると云事。かげを押ゆるといふハ、敵のかたより、しかくる心の見ヘたる時の事也。大分の兵法にしては、敵のわざをせんとする所を押ゆると云て、我方より其利を押ゆる所を、敵に強く見すれバ、強きにおされて、敵の心かわる事也。我も心をちがへて、空なる心より、先をしかけて勝所也。一分の兵法にしても、敵のおこる強き氣ざしを、利の拍子を以てやめさせ、やミたる拍子に、我勝利をうけて、先をしかくる物也。能々工夫有べし。

 【石井家本】

一 影をおさゆると云事。かげを押ゆるといふハ、敵のかたより、しかくる心の見ヘたる時の事也。大分の兵法にしては、敵のわざをせんとする所を押ゆると云て、我方より其利を押ゆる所を、敵に強く見すれバ、強きにおされて、敵の心かわる事也。我も心をちがへて、空なる心より、先をしかけて勝所也。一分の兵法にしても、敵のおこる強き氣ざしを、利の拍子を以てやめさせ、やミたる拍子に、我勝利をうけて、先をしかくるもの也。能々工夫有べし。  

 【神田家本】

一 影をおさゆると云事。かげを押ゆるといふは、敵のかたより、しかくる心の見ヘたる時の事也。大分の兵法にしては、敵のわざをせんとする所を押ゆると云て、我方より其利を押ゆる所を、敵に強く見すれバ、強きにおされて、敵の心かわる事也。我も心をちがひて、空なる心より、先をしかけて勝所也。一分の兵法にしても、敵のおこる強き氣ざしを、利の拍子を以てやめさせ、やミたる拍子に、我勝利をうけて、先をしかくる物也。能々工夫有べし。

 【猿子家本】

一 影を押ゆると云事。かげをおさゆるといふハ、敵の方より、しかくる心の見ヘたる時の事也。大分の兵法にしてハ、敵のわざをせんとする所を押ゆると云て、我方より其利を押ゆる所を、敵に強く見すれバ、強きに押れて、敵の心かわる事也。我も心を違ひて、空なる心より、先をしかけて勝所也。一分の兵法にしても、敵のおこる強き氣ざしを、利の拍子を以やめさせ、やミたる拍子に、我勝利を受て、先をしかくる物也。能々工夫有べし。

 【楠家本】

一 かげをおさゆると云事。影をおさゆるといふハ、敵の方より、しかくる心のみえたる時の事也。大分の兵法にしてハ、敵のわざをせんとする所をおさゆるといひて、わが方より其利をおさゆる處を、敵につよくミすれバ、つよきにおされて、敵の心かはる事也。われも心をちがへて、空なる心より、先をしかけて勝所也。一分の兵法にして【脱字】、敵のおこるつよき氣ざしを、利の拍子を以てやめさせ、やミたる拍子に、わが勝利をうけて、先をしかくるもの也。能々工夫あるべし。

 【細川家本】

一 かげをおさゆると云事。影をおさゆると云は、敵のかたより、しかくる心のミへたる時の事なり。大分の兵法にしては、敵のわざをせんとする所をおさゆるといひて、わが方より其利をおさゆる所を、敵につよく見すれば、つよきにおされて、敵の心かはる事也。我も心をちがへて、空なる心より、先をしかけて勝所也。一分の兵法にしても、敵のおこるつよき氣指を、利の拍子を以てやめさせ、やミたる拍子に、我勝利をうけて、先をしかくるもの也。能々工夫有べし。

 【丸岡家本】

一 影を押るといふ事。かげを押ると云は、敵の方より、しかくる心の見えたる時の事也。大分の兵法ニしては、敵のわざをせんとする所を押ると云て、我方より其理を押る處を、敵に強く見すれば、つよきにおされて、敵の心替る事也。我も心をちがへて、空なる心より、先をしかけて勝所也。一分の兵法ニしても、敵の興る強キ氣ざしを、理の拍子を以やめさせ、止たる拍子に、我勝利を受て、先をしかくる者也。能々工夫有べし。

 【富永家本】

一 影を押ると云事。影を押ると【脱字】ハ、敵の方より、仕懸る心の見えたる時の事也。大分の兵法にしても、敵のわざを先とする處を押ると云て、我方より【脱字】利をおさ【脱字】る處を、敵に強く見すれバ、強きにおされて、敵の心替ることなり。我も心を違て、空なる心より、先を仕懸て勝處也。一分の兵法にしても、敵のおこる強き氣ざしを、利の拍子を以てやめさせ、やミたる拍子に、我勝利を請て、先を仕懸る者なり。好々工夫すべし。

 【常武堂本】

一 かげをおさゆると云事。影をおさゆるといふハ、敵のかたより、しかくる心のみえたる時の事也。大分の兵法にしてハ、敵のわざをせんとする所をおさゆるといひて、わが方より其利をおさゆる所を、敵につよく見すれバ、つよきにおされて、敵の心かはる事也。我も心をちがへて、空なる心より、先をしかけて勝所也。一分の兵法にしても、敵のおこるつよき気ざしを、利の拍子を以てやめさせ、やみたる拍子に、我勝利をうけて、先をしかくるもの也。能々工夫有べし。

 【田村家本】

 影ヲ押ト云事 【脱字******】テキノ方ヨリ、シカクル心ノ見エタル時ノ事也。大分ノ兵法ニシテ【脱字】、敵ノワザヲセントスル処ヲ押ルト云テ、吾方ヨリ其利ヲ押ユル処ヲ、敵ニツヨクミスレバ、強ニヲサレテ、敵ノ心替ル事也。我モ心ヲチガヘテ、空ナル心ヨリ、先ヲシカケテ勝処也。一分ノ兵法ニシテモ、テキノヲコル強キ氣ザシヲ、利ノ拍子ヲ以テヤメサセ、ヤミタル拍子ニ、我勝利ヲ受テ、先ヲシカクルモノ也。能々工夫有ルベシ。

 【狩野文庫本】

一 かげをおさゆると云事。影をおさゆると云は、敵の方より、仕懸る心の見へたる時の事也。大分の兵法にしてハ、敵の業をせんとする所を押ゆると云て、我方より其利をおさゆる所ヲ、敵に強見すれバ、強ミニおされて、敵の心替事也。我も心を違てハ、空成心より、先を仕懸て勝所也。一分の兵法ニしても、敵のおこる強き氣ざしを、利の拍子を以止メさせ、止たる拍子も、我勝りを請て、先を仕懸るもの也。能々工夫有べし。

 【多田家本】

一 影をおさゆると【脱字******】ハ、敵の方より、仕懸る心の見えたる時の事也。大分の兵法にしてハ、敵の業をせんとする所を、おさゆるといひて、我方より其利をおさゆる處を、敵に強く見すれば、強きにおされて、敵の心替るものなり。我も心を違へて、空なる心より先をしかけ【脱字】勝所也。一分の兵法にしても、敵の發る強き氣ざきを、利の拍子を以てやめさせ、やみたる拍子を、【脱字】勝利を請て、先を仕懸るもの也。能々工夫有べし。

 【山岡鉄舟本】

一 影ヲ押ユルト云事。影ヲ押ユルト云ハ、敵ノ方ヨリ仕懸ル心ノ見ヘタル時ノ事也。大分ノ兵法ニシテハ、敵ノワザヲセントスル處ヲ、押ユルト云テ、我方ヨリ其利【脱字】押ル処ヲ、敵ニ強見スレバ、強キニ押サレテ、敵ノ心変事也。我モ心ヲ違ヘテ、空ナル心ヨリ先ヲ【脱字】カケテ勝処也。一分ノ兵法【脱字】シテモ、敵ノ起ル強キ氣ザシヲ、利之拍子ヲ以テヤメサセ、ヤミタル拍子ニ、我勝利ヲ受ケ【脱字】、先ヲ仕懸ル者也。能々工夫アルベシ。

 【稼堂文庫本】

一 影を押ると云事。影を押ると云ハ、敵の方より、仕懸る心の見得たる時の事也。太分の兵法にしも、敵の業をせむとする所をおさゆると云て、我方より【脱字】利を押る所を、敵に強く見すれバ、強きにおされて、敵の心かはる事也。我も心を違て、空成心より、先をしかけて勝所也。一分の兵法にしても、其敵の發る強き氣差を、利の拍子を以やメさせ、やめたる拍子に、我勝【脱字】を受て、先を仕懸るもの也。能々工夫すべし。  

 【大瀧家本】

一 影をおさゆるといふ事。かげを抑ゆるといふは、敵の方より、仕懸る心の見へたる時の事也。大分の兵法にしてハ、敵のわざをせんとする処を抑ゆると云て、我方より其利をおさゆる処を、敵に強く見すれバ、強におされて、敵の心替る事なり。我も心を違て、空成心より、先を仕懸て勝所なり。一分の兵法にしても、敵のおこる強き氣ざしを、利の拍子を以て止させ、止たる拍子に、我勝利を受て、先を仕懸るもの也。能々工夫あるべし。    PageTop    Back   Next 

  13 うつらかすと云事

 【吉田家本】

一 うつらかすと云事。うつらかすと云ハ、もの毎に有もの也。或ハねむりなどもうつり、或ハあくびなどもうつるもの也。時の移もあり。大分の兵法にして、敵うわきにして、ことをいそぐ心のミゆる時ハ、少もそれにかまわざる様にして、いかにもゆるりとなりてミすれバ、敵も我事にうけて、氣ざしたるむもの也。其うつりたると思とき、我方より、空の心にして、はやく強くしかけて、勝利を得るもの也。一分の兵法にしても、我身も心もゆるりとして、敵のたるミの間をうけて、剛くはやく先にしかけて勝所、専也。又、よハすると云て、是に似たる事有。一ツハたひくつの心、一ツはうかつくこゝろ、一ツは弱くなる心。能々工夫有べし。

 【立花隨翁本】

一 うつらかすと云事。うつらかすといふハ、もの毎に有もの也。或ハねむりなどもうつり、或はあくびなどもうつるもの也。時の移もあり。大分の兵法にして、敵のうハきにして、ことをいそぐ心のミゆる時は、少もそれにかまハざるやうにして、いかにもゆるりとなりて見すれば、敵も我事にうけて、氣ざしたるむもの也。其うつりたると思とき、我方より空の心にして、はやく強くしかけて、勝利を得るもの也。一分の兵法にしても、我身も心もゆるりとして、敵のたるミの間をうけて、強くはやく先にしかけて勝所、専也。亦、よハすると云て、是に似たる事有。一つは、たいくつの心、一つハ、うかつく心、一つは、弱くなる心。能々工夫有べし。

 【赤見家甲本】

一 うつらかすと云事。うつらかすといふハ、もの毎に有もの也。或ハねむりなどもうつり、或はあくびなどもうつるもの也。時の移もあり。大分の兵法にして、敵のうハきにして、ことをいそぐ心のミゆる時は、少もそれにかまハざるやうにして、いかにもゆるりとなりて見すれバ、敵も我事にうけて、氣ざしたるむもの也。其うつりたると思とき、我方より空の心にして、はやく強くしかけて、勝利を得るもの也。一分の兵法にしても、我身も心もゆるりとして、敵のたるミの間をうけて、強くはやく先にしかけて勝所、専也。亦、よハすると云て、是に似たる事有。一つは、たいくつの心、一つハ、うかつく心、一つは、弱くなる心。能々工夫有べし。

 【中山文庫本】

一 うつらかすと云事。うつらかすと云ハ、物毎に有もの也。或ハねむりなどもうつり、或ハあくびなどもうつるもの也。時の移もあり。大分の兵法にして、敵うわきにして、ことをいそぐ心のミゆる時ハ、少しも夫にかまはざるやうにして、いかにもゆるりとなりてミすれば、敵も我事にうけて、氣ざしたるむもの也。其うつりたると思とき、我方より空の心にして、早く強くしかけて、勝利を得る物也。一分の兵法にしても、我身も心もゆるりとして、敵のたるみの間をうけて、剛くはやく先にしかけて勝所、専也。又、よハすると云て、是に似たる事有。一ツハ、退屈の心、一ツは、うかつくこゝろ、一ツは、弱くなる心。能々工夫有べし。

 【近藤家甲本】

一 うつらかすと云事。うつらかすといふは、物ごとに有るもの也。或はねむりなどもうつり、或はあくびなどもうつるもの也。時の移るもあり。大分の兵法にして、敵のうわきにして、ことをいそぐ心のミゆる時は、少もそれにかまハざるやうにして、いかにもゆるりとなりて見すれバ、敵も我事にうけて、きざしたるむ物也。其うつりたると思ふとき、我身より空の心にして、はやく強くしかけて、勝利を得るもの也。一分の兵法にしても、我身も心もゆるりとして、敵のたるミの間をうけて、強くはやく先にしかけて勝所、専也。亦、よハすると云て、是に似たる事有。一つは、たいくつの心、一つハ、うかつく心、一つは、弱くなる心。能々工夫有べし。

 【近藤家乙本】

一 うつらかすと云事。うつらかすといふは、物ごとに有るもの也。或はねむりなどもうつり、或はあくびなどもうつるもの也。時の移るもあり。大分の兵法にして、敵のうわきにして、ことをいそぐ心のミゆる時は、少もそれにかまハざるやうにして、いかにもゆるりとなりて見すれバ、敵も我事にうけて、きざしたるむ物也。其うつりたると思ふとき、我身より空の心にして、はやく強くしかけて、勝所を得るもの也。一分の兵法にしても、我身も心もゆるりとして、敵のたるミの間をうけて、強くはやく先にしかけて勝所、専也。亦、よわすると云て、是に似たる事有。一つは、たいくつの心、一つハ、うかつく心、一つは、弱くなる心。能々工夫有べし。

 【鈴木家本】

一 うつらかすと云事。うつらかすと云ハ、もの毎に有もの也。或ハねむりなどもうつり、或ハあくびなどもうつるもの也。時のうつるも有。大分の兵法にしても、敵うわきにして、ことをいそぐ心のミゆる時は、少もそれにかまハざる様にして、いかにもゆるりとなりてミすれバ、敵も我事にうけて、氣ざしたるむもの也。其うつりたると思ふ時、我方より空の心にして、はやく強くしかけて、勝利を得るものなり。一分の兵法にしても、我身も心もゆるりとして、敵のたるミの間をうけて、剛くはやく先にしかけて勝所、専也。又、よハすると云て、是に似たる事有。一ツハ、たいくつの心、一ツハ、うかつく心、一ツハ、弱くなる心。能々工夫有べし。

 【伊藤家本】

一 うつらかすと云事。うつらかすといふは、物ごとに有るもの也。或はねむりなどもうつり、或はあくびなどもうつるもの也。時の移るもあり。大分の兵法にして、敵のうわきにして、ことをいそぐ心のミゆる時は、少もそれにかまハざるやうにして、いかにもゆるりとなりて見すれバ、敵も我事にうけて、きざしたるむ物也。其うつりたる【脱字】とき、我方より空の心にして、はやく強くしかけて、勝利を得るもの也。一分の兵法にしても、我身も心もゆるりとして、敵のたるミの間をうけて、強くはやく先にしかけて勝所、専也。亦、よハすると云て、是に似たる事有。一つは、たいくつの心、一つは、うかつく心、一つは、弱くなる心。能々工夫有べし。

 【石井家本】

一 うつらかすと云事。うつらかすといふは、物ごとに有るもの也。或はねむりなどもうつり、或はあくびなどもうつるもの也。時の移るもあり。大分の兵法にして(も)、敵のうはきにして、ことをいそぐ心のミゆる時は、少もそれにかまハざるやうにして、いかにもゆるりとなりて見すれバ、敵も我事にうけて、きざしたるむ物也。其うつりたると思とき、我方より空の心にして、はやく強くしかけて、勝利を得るもの也。一分の兵法にしても、我身も心もゆるりとして、敵のたるミの間をうけて、強くはやく先にしかけて勝所、専也。亦、よハすると云て、是に似たる事有。一つは、たいくつの心、一つは、うかつく心、一つは、弱くなる心。能々工夫有べし。  

 【神田家本】

一 うつらかすと云事。うつらかすといふは、物ごとに有るもの也。或はねむりなどもうつり、或はあくびなどもうつるもの也。時の移るもあり。大分の兵法にしても、敵のうわきにして、ことをいそぐ心のミゆる時は、少もそれにかまハざるやうにして、いかにもゆるりとなりて見すれバ、敵も我事にうけて、きざしたるむ物也。其うつりたると思とき、我方より空の心にして、はやく強くしかけて、勝利を得るもの也。一分の兵法にしても、我身も心もゆるりとして、敵のたるミの間をうけて、強くはやく先にしかけて勝所、専也。亦、よハすると云て、是に似たる事有。一つは、たいくつの心、一つは、うかつく心、一つは、弱くなる心。能々工夫有べし。

 【猿子家本】

一 うつらかすと云事。うつらかすといふハ、物ごとに有もの也。或は眠り抔も移り、或ハあくび抔も移る物也。時の移る有。大分の兵法にしても、敵のうわきにして、事をいそぐ心のミゆる時ハ、少もそれにかまハざる様にして、いかにもゆるりとなりて見すれバ、敵も我事にうけて、きざしたる【脱字】物也。其移たると思とき、我方より空の心にして、早く強しかけて、勝利を得るもの也。一分の兵法にしても、我が身も心もゆるりとして、敵のたるみの間をうけて、強早く先ニしかけて勝所、専也。又、よハすると云て、是に至る事有。一つハ、退屈の心、一つハ、うかつく心、一つハ、弱くなる心。能々工夫有べし。

 【楠家本】

一 うつらかすと云事。うつらかすといふハ、物毎に有もの也。或ハねむりなどもうつり、或ハあくびなどのうつるもの也。時のうつるも有。大分の兵法にして、敵うわきにして、ことをいそぐ心のミゆる時ハ、少もそれにかまはざるやうにして、いかにもゆるりとなりてミすれバ、敵もわが事にうけて、氣ざしたるむもの也。其うつりたると思ふ時、わがかたより、空の心にして、はやくつよくしかけて、かつ利を得るもの也。一分の兵法にしても、わが身も心もゆるりとして、敵のたるミの間をうけて、つよくはやく先にしかけて勝所、専也。又、よハするといひて、是に似たる事有。一ツハたいくつの心、一ツハうかつく心、一ツハよハくなる心。能々工夫あるべし。

 【細川家本】

一 うつらかすと云事。移らかすと云は、物毎にあるもの也。或はねむりなどもうつり、或【脱字】あくびなどのうつるもの也。時のうつるもあり。大分の兵法にして、敵うわきにして、ことをいそぐ心のミゆる時は、少もそれにかまハざるやうにして、いかにもゆるりとなりてミすれば、敵も我事に受て、氣ざしたるむ物なり。其うつりたるとおもふ時、我方より、空の心にして、はやくつよくしかけて、かつ利を得るもの也。一分の兵法にしても、我身も心もゆるりとして、敵のたるみの間をうけて、つよくはやく先にしかけて勝所、専也。亦、よハするといひて、是に似たる事あり。一ツはたいくつの心、一ツはうかつく心、一ツハよハく成心。能々工夫有べし。

 【丸岡家本】

一 移ラかすといふ事。うつらかすといふは、物ごとに有もの也。或は眠なども移り、或ハあくびなどの移る者なり。時のうつるもあり。大分の兵法ニして、敵浮氣ニして、事を急ぐ心の見ゆる時は、少もそれにかまハざるやうにして、如何ニも緩りとなりて見すれば、敵も我事に受て、氣ざし撓むものなり。其移りたると思ふ時、我方より、空の心ニして、迅く強クしかけて、勝利を得る者也。一分の兵法ニしても、我身も心も緩りとして、敵のたるみの間を受て、強ク速ク先ニしかけて勝所、専也。又、醉すると云て、是に似たる事あり。一ハ退屈の心、一ハうかつく心、一ハ弱クなる心。能々工夫すべし。

 【富永家本】

一 うつらかすといふ事。移らかすと云ハ、物毎に有者なり。或ハねぶりなどをも移り、或ハあくびなども移るものなり。【脱字*****】。大分の兵法にしても、敵うわきにして、事をいそぐ心の見ゆる時は、少もそれに不搆様にして、如何にもゆるりと成て見すれバ、敵も我ことに受て、氣ざしたるむものなり。其移りたるとおもふ時、我方より、空の心にして、早く強く仕懸て、勝利を得る者也。一分の兵法にしても、我身も心もゆるりとして、敵のたるミの間を受て、強く早く先に仕懸て勝處、専ら也。又、よわりと云て、是に似たる事有。一ツハたゐくつの心、一ツハうかつく心、一ツハよわくなる心。能/\工夫有べし。

 【常武堂本】

一 うつらかすといふ事。移らかすと云ハ、物毎にあるもの也。或ハねむりなどもうつり、或ハあくびなどのうつるもの也。時のうつるもあり。大分の兵法にして、敵うわきにして、ことをいそぐ心のみゆる時ハ、少もそれにかまはざる様にして、いかにもゆるりとなりてみすれバ、敵も我事に受て、氣ざしたるむ物也。其うつりたると思ふ時、我方より、空の心にして、はやくつよくしかけて、かつ利を得るもの也。一分の兵法にしても、我身も心もゆるりとして、敵のたるみの間をうけて、つよくはやく先にしかけて勝所、専也。亦、よはするといひて、是に似たる事あり。一ツハたいくつの心、一ツハうかつく心、一ツハよはく成心。能々工夫有べし。

 【田村家本】

 移ラカスト云事 【脱字******】物ゴトニ有事也。或ハ眠抔モ移、或ハ欠ビナド【脱字】移ルモノ也。時ノウツルモ有。大分ノ兵法ニシテ、敵ウワキニシテ、コトヲ急心ノ見ユル時ハ、少モソレニカマワザルヤウニシテ、イカニモユルリトナリテ見スレバ、敵モ吾事ニウケテ、気ザシタルムモノ也。【脱字】移タルト思時、吾方ヨリ、空ノ心ニシテ、速ク強クシカケテ、勝利ヲ得モノ也。一分ノ兵法ニシテモ、我身モ心モユルリトシテ、敵ノタルミノ間ヲウケテ、強ク早ク先ニシカケテ勝処、専也。又、醉スルト云テ、是ニ似タル事有。一ツハ退屈ノ心、一ツハウカツク心、一ツハヨワクナル心、能々工夫有ベシ。

 【狩野文庫本】

一 うつらかすと云事。移かすと云ハ、物毎に有事也。或はねむりなども移、或ハあくび抔も移物也。時の移も有。大分の兵法ニしては、敵うハきにして、事急心見ゆる時は、少も夫にかまハざる樣ニにして、いかにもゆるりと成て見すれば、敵も我事になして、氣ざしたるむもの也。其移たると思ふとき、我方より、空の心ニして、早強仕懸て、勝利を得る者也。一分の兵法ニしても、我身も心もゆるりとして、敵のたるミの間を請て、強早先ニ仕懸て勝所、専也。又、よわすると云て、是に似たる事有。一ツはたいくつの心、一ツハうかつく心、一ツは弱く成心。能々工夫有べし。

 【多田家本】

一 【脱字****】。移かすと云ハ、物毎に有物也。或は眠抔も移り、或はあくび抔も移る物なり。時の移るも有。大分の兵法にしても、敵うわきにして、事を急ぐ心の見ゆる時は、少もそれにかまハざる様にして、如何にもゆるりと成てみすれバ、敵も我事に請て、氣ざし弱ものなり。其移りたると思ふ時、我方より空の心にして、早く強くしかけて、勝利を得るもの也。一分の兵法にしても、我身も心も緩りとして、敵の弱みの間を請て、強く早く先に仕懸て勝所、専也。又、よわすると云て、是に似【脱字】る事あり。一つハ退屈の心、一つハうかつく心、一つハ弱く成心。能々工夫有べし。

 【山岡鉄舟本】

一 ウツラカスト云事。移ラカスト云ハ、物ゴトニ有物也。或ハ眠抔モ移ル、或ハ欠ビ抔之移ル物也。時ノ移ルモ有。大分ノ兵法ニシテ、敵ウワキニシテ、コトヲ急グ心ノ見ユル時ハ、少モ夫レニカマワザル様ニシテ、イカニモユルリト成テ見スレバ、敵モ我事ニ受テ、氣差シタルム物也。其移リタルト思フ時、我方ヨリ空ノ心ニシテ、早ク強ク仕懸テ、勝利ヲ得ル物也。一分ノ兵法ニシテモ、我身モ心モユルリトシテ、敵ノタルミノ間ヲ受テ、強ク早ク先ニ仕懸テ勝所、専ナリ。又、ヨハスルト云テ、是ニ似タル事有。一ツハ退屈之心、一ツハウカツク心、一ツハ弱ク成ル心、能々工夫アルベシ。

 【稼堂文庫本】

一 移らかすと云事。移らかすと云ハ、物毎に有物也。【脱字】ねむり抔も移り、或はあくび抔も移る者也。時の移りも有り。大分の兵法にしても、かたきうわきにして、ことを急ぐ心の見ゆる時は、少も夫に搆はぬ様にして、如何にもゆるりと成て見すれば、敵も我ことに受て、氣差たるむ者也。其移りたると思ふ時、我方より、空の心にして、早く強く仕懸て、勝利を得るもの也。一分の兵法にしても、我身も心もゆるりとして、敵のたるみの間を受て、強く早く先に仕懸て勝所、専也。又、よわす【脱字】と云て、是に似たることあり。一つはたひくつの心、一ツハうか付く心、一ツハよわく成心。よく/\工夫すべし。  

 【大瀧家本】

一 移らかすといふ事。うつらかすと云ハ、物毎に有もの也。或ハねぶり抔も移り、或ハあくび抔も移るもの也。時のうつるも有。大分の兵法にして、敵のうはきにして、事を急ぐ心の見ゆる時は、少も夫に搆ハざる様にして、いかにもゆるりと成て見すれバ、敵も我事に受て、氣ざしたるむものなり。其移りたると思ふ時、我方より、空の心にして、はやく強く仕懸て、勝利を得るもの也。一分の兵法にしても、我身も心もゆるりとして、敵のたるみの間を受て、強く早く先を仕懸て可勝処、専也。又、ゆわらするといふて、是に似たる事有。一ツハ退屈の心、一ツハうろつく心、一ツハ弱く成心、能々工夫有べし。    PageTop    Back   Next 

  14 むかづかすると云事

 【吉田家本】

一 むかづかすると云事。むかづかすると云ハ、物毎に有。一ツにハきわどき心、二ツにハむりなる心。三ツにハ思ハざる心。能吟味有べし。大分の兵法にして、むかづかする事、肝要也。敵のおもわざる所へ、いきどう敷しかけて、敵の心のきわまらざる内に、わが利をもつて、先をしかけて勝事、肝要也。又、一分の兵法にしても、初ゆるりとミせて、俄強かゝり、敵の心のめりかり、はたらきにしたがひ、いきをぬかさず、其まゝ利をうけて、かちをわきまゆる事、肝要也。能々吟味有べし。

 【立花隨翁本】

一 むかづかすると云事。むかづかするといふハ、物毎にあり。一つ【◇】はきわどき心、二つ【◇】ハむりなる心。三つにハ思ハざる心。能吟味有べし。大分の兵法にして、むかづかする事、肝要也。敵のおもハざる所へ、いきどふしくしかけて、敵の心のきハまらざるうちに、わが利を以て、先をしかけて勝【破損】、肝要也。亦、一分の兵法にしても、初ゆる【破損】見せて、俄に強くかゝり、敵の心のめりかり、はたらきにしたがひ、いきをぬかさず、其まゝ利をうけて、かちをわきまゆる事、肝要也。能々吟味有べし。

 【赤見家甲本】

一 むかづかすると云事。むかづかするといふハ、物毎にあり。一つ【◇】はきわどき心、二つ【◇】ハむりなる心。三つにハ思ハざる心。能吟味有べし。大分の兵法にして、むかづかする事、肝要也。敵のおもハざる所へ、いきどふしくしかけて、敵の心のきハまらざるうちに、わが利を以て、先をしかけて勝事、肝要也。亦、一分の兵法にしても、初ゆるりと見せて、俄に強くかゝり、敵の心のめりかり、はたらきにしたがひ、いきをぬかさず、其まゝ利をうけて、かちをわきまゆる事、肝要也。能々吟味有べし。

 【中山文庫本】

一 むかづかすると云事。むかづかすると云ハ、物毎に有。一ツにハ、きわどき心、二ツにハ、むりなる心。三ツにハ、思はざる心。能吟味有べし。大分の兵法にして、むかづかする事、肝要也。敵のおもわざる所へ、いきどう敷しかけて、敵の心のきわまらざる内に、わが利をもつて、先をしかけて勝事、肝要也。又、一分の兵法にしても、初ゆるりと見せて、俄強かゝり、敵の心のめりかり、はたらきにしたがひ、いきをぬかさず、其まゝ利をうけて、かちをわきまゆる事、肝要也。能々吟味有べし。

 【近藤家甲本】

一 むかづかすると云事。むかづかするといふは、物毎にあり。一つ【◇】はきハどき心、二つ【◇】はむりなる心。三つには思ハざる心。能吟味有べし。大分の兵法にして、むかづかする事、肝要也。敵のおもハざる所へ、いきどふしくしかけて、敵の心のきハまらざるうちに、わが利を以て、先をしかけて勝事、肝要也。亦、一分の兵法にしても、初ゆるりと見せて、俄に強くかゝり、敵の心のめりかり、はたらきにしたがひ、いきをぬかさず、其まゝ利をうけて、かちをわきまゆる事、肝要也。能々吟味有べし。

 【近藤家乙本】

一 むかづかすると云事。むかづかするといふは、物毎にあり。一つ【◇】はきハどき心、二つ【◇】はむりなる心。三つには思ハざる心。能吟味有べし。大分の兵法にして、むかづかする事、肝要也。敵のおもハざる所へ、いきどふしくしかけて、敵の心のきハまらざるうちに、わが利を以て、先をしかけて勝事、肝要也。亦、一分の兵法にしても、初ゆるりと見せて、俄に強くかゝり、敵の心のめりかり、はたらきにしたがひ、いきをぬかさず、其まゝ利をうけて、かちをわきまゆる事、肝要也。能々吟味有べし。

 【鈴木家本】

一 むかづかすると云事。むかづかすると云ハ、物毎に有。一ツにハ、きハどき心、二ツにハ、むりなる心。三ツにハ、思ハざる心。能吟味有べし。大分の兵法にして、むかづかする事、肝要也。敵の思ハざる所【脱字】、いきどうしくしかけて、敵の心のきハまらざる内に、わが利をもつて、先をしかけて勝事、肝要也。又、一分の兵法にしても、初ゆるりとミせて、俄に強かゝり、敵の心のめりかり、はたらきにしたがひ、いきをぬかさず、其侭利をうけて、かちをわきまゆる事、肝要也。能々吟味有べし。

 【伊藤家本】

一 むかづかすると云事。むかづかするといふハ、物毎にあり。一つ【◇】はきハどき心、二つ【◇】はむりなる心。三つにハ思ハざる心。能吟味有べし。大分の兵法にして、むかづかする事、肝要也。敵のおもハざる所へ、いきどふしくしかけて、敵の心のきハまらざるうちに、わが利を以て、先をしかけて勝事、肝要也。亦、一分の兵法にしても、初ゆるりと見せて、俄に強くかゝり、敵の心のめりかり、はたらきにしたがひ、いきをぬかさず、其まゝ利をうけて、かちをわきまゆる事、肝要也。能々吟味有べし。

 【石井家本】

一 むかづかすると云事。むかづかするといふは、物毎にあり。一つ【◇】はきハどき心、二つ【◇】はむりなる心。三つには思ハざる心。能々吟味有べし。大分の兵法にして、むかづかする事、肝要也。敵のおも(ハ)ざる所へ、いきどふしくしかけて、敵の心のきハまらざるうちに、わが利を以て、先をしかけて勝事、肝要也。亦、一分の兵法にしても、初ゆるりと見せて、俄に強くかゝり、敵の心のめりかり、はたらきにしたがひ、いきをぬかさず、其まゝ利をうけて、かちをわきまゆる事、肝要也。能々吟味有べし。  

 【神田家本】

一 むかづかすると云事。むかづかするといふは、物毎にあり。一つ【◇】はきハどき心、二つ【◇】はむりなる心。三つには思ハざる心。能吟味有べし。大分の兵法にして、むかづかする事、肝要也。敵のおもハざる所へ、いきどふしくしかけて、敵の心のきハまらざるうちに、わが利を以て、先をしかけて勝事、肝要也。亦、一分の兵法にしても、初ゆるりと見せて、俄に強くかゝり、敵の心のめりかり、はたらきにしたがひ、いきをぬかさず、其まゝ利をうけて、かちをわきまゆる事、肝要也。能々吟味有べし。

 【猿子家本】

一 むかづかすると云事。むかづかするといふハ、物毎に有。一つ【◇】ハきはどき心、二つ【◇】ハむりなる心。三つ【脱字】ハ思ハざるこゝろ。能吟味有べし。大分の兵法にしても、むかづかする事、肝要也。敵の思ハざる所へ、いき遠くしかけて、敵の心のきハまらざる内に、我が利を以、先をしかけて勝事、肝要也。又、一分の兵法にしても、初めゆるりと見せて、俄に強くかゝり、敵の心のめりかり、はたらきにしたがい、いきをぬかさず、其侭利を請て、勝を弁ゆる事、肝要也。能々吟味有べし。

 【楠家本】

一 むかづかすると云事。むかづかするといふハ、物毎にあり。一ツにはきわどき心、二ツにハむりなる心、三ツにハ思はざる心、能吟味有べし。大分の兵法にして、むかづかする事、肝要也。敵のおもはざる所へ、いきどふしくしかけて、敵の心のきわまらざる内に、わが利を以て、先をしかけて勝事、肝要也。又、一分の兵法にしても、初ゆるりとミせて、俄につよくかゝり、敵の心のめりかり、はたらきにしたがひ、いきをぬかさず、そのまゝ利をうけて、かちをわきまゆる事、肝要なり。能々吟味有べし。

 【細川家本】

一 むかづかすると云事。むかづかすると云は、物毎にあり。一ツにはきわどき心、二ツにはむりなる心、三ツには思ハざる心、能吟味有べし。大分の兵法にして、むかづかする事、肝要也。敵の思ハざる所へ、いきどふしくしかけて、敵の心のきわまらざる内に、我利を以て、先をしかけて勝事、肝要也。亦、一分の兵法にしても、初ゆるりと見せて、俄につよくかゝり、敵の心のめりかり、働に随ひ、いきをぬかさず、其儘利を受て、かちをわきまゆる事、肝要也。克々可有吟味也。

 【丸岡家本】

一 むかづかするといふ事。むかづかするといふは、物ごとに有。一ツにはきハどきこゝろ、二ツには無理なる心、三には思ハざる心、能吟味有べし。大分の兵法ニして、むかづかする事、肝要なり。敵の思ハざる所へ、息どをしくしかけて、敵の心の極らざる内に、我利を以、先をしかけて勝こと肝要なり。又、一分の兵法ニしても、初ゆるりと見せて、俄につよくかゝり、敵の心のめりかり、働キに隨ひ、息をぬかさず、其儘理を受て、勝を辨る事、肝要也。能々吟味有べし。

 【富永家本】

一 むかづかすると云事。むかづかすると云ハ、ものごとに有。一ツニハきわどき心、二ツにハむり成心、三ツにハ思ハざる心、能々吟味有べし。大分の兵法にしても、むかづかする事、肝要なり。敵のおもハざる處へ、いきどふしく仕懸て、敵の心のきわまらざる内に、我利を以て、先を仕懸て勝事、肝要なり。又、一分の兵法にしても、初ゆるりと見せて、俄ニ強ク懸り、敵の【脱字】めりかり、はたらきにしたがひ、息をぬかさず、其侭利を受て、勝をわきまゆる事、肝要也。能々吟味有べし。

 【常武堂本】

一 むかづかすると云事。むかづかすると云ハ、物毎にあり。一ツにハきわどき心、二ツにハむりなる心、三ツにハ思はざる心、能吟味有べし。大分の兵法にしてハ、むかづかする事、肝要也。敵の思はざる所へ、いきどふしくしかけて、敵の心のきわまらざる内に、我利を以て、先をしかけて勝事、肝要也。亦、一分の兵法にしても、初ゆるりとみせて、俄につよくかゝり、敵の心のめりかり、働に随ひ、いきをぬかさず、其侭利を受て、かちをわきまゆる事、肝要也。克々可有吟味也。

 【田村家本】

 煩嘔〔ムカヅカ〕スルト云事 【脱字*****】モノゴトニ在。一ツニハキワドキ心、二ニハムリナル心、三ニハ思ザル心、能吟味有ベシ。大分ノ兵法ニシテ、ムカ【脱字】スル事、肝要也。テキノ思ハザル所エ、息ドヲシクシカケテ、敵ノ心ノ極ラザル内ニ、吾利ヲ以テ、先ヲシカケテ勝事、肝要也。又、一分ノ兵法ニシテモ、初ユル々々ト見セテ、俄ニ強カヽリ、敵ノ心ノメリカリ、働ニ隨ヒ、息ヲヌカサズ、其マヽ利ヲウケテ、勝ヲワキモフル事、肝要也。能々吟味有ベシ。

 【狩野文庫本】

一 むかづかすると云事。むかづかすると云ハ、物毎ニあり。一ツにハきわどき心、二ツには無理成心、三ツニハおもハざる心、能吟味有べし。大分の兵法ニしても、むかづかする事、肝要也。敵の不思所也、息どをしく仕掛て、敵の心の不極内ニ、我利を以、先を仕懸て勝事、肝要なり。又、一分の兵法にしても、初ゆるりと見せて、俄ニ強懸り、敵の心のめりいかり、働きニ隨ひ、息をぬかさず、其まゝ利を請、勝を弁ふ【脱字】事、肝要也。能々可有吟味。

 【多田家本】

一 【脱字*****】むかづかすると云ハ、物毎に有。一つ【脱字】ハ氣ふとき心、二ツにハ無理成心。三ツにハ思ハざる心。能吟味有べし。大分の兵法にしても、むかづかする事、肝要なり。敵の思はざる所へ、いきどふしく仕懸て、【脱字******************】勝事、肝要也。又、一分の兵法にしても、初緩りと見せて、俄に強く懸り、敵の心のめりかり、働きに隨ひ、いきをぬかさず、其侭利を請て、勝を弁ゆる事、肝要也。【脱字****】

 【山岡鉄舟本】

一 ムカヅカスルト云事。ムカヅカスルト云ハ、物毎ニ有リ。一ツニハ氣ハドキ心、二ツニハ無理成ル心、三ツニハ思ハザル心。能吟味有ベシ。大分之兵法ニシテモ、ムカヅカスル事、肝要也。敵ノ思ハザル所ヘ、イキドウシク仕懸テ、敵ノ心ノ極マラザル内ニ、我利ヲ以先ヲ仕懸テ勝事、肝要也。又、一分之兵法ニシテモ、初ユルリト見セテ、俄ニ強ク懸リ、敵ノ心ノメリカリ、働ニ随ヒ、息ヲヌカサズ、其侭利ヲ受テ、勝ヲ辨ル事、肝要也。能々吟味有ベシ。

 【稼堂文庫本】

一 むかづかす【脱字】と云事。むかづかす【脱字】と云ハ、物毎に有り。一ツ【脱字】はきわどき心、二ツには無理成心、三ツには思はざる心、能々吟味有べし。大分の兵法にしても、むかづかすること、肝要也。敵の思ハざる処に、行通ヲして仕懸て、敵の心の不究内ニ、我理を以て、先を仕かけて勝こと、肝要也。又、一分の兵法にしても、初ゆるりと見せて、俄に強く懸り、てきの心のめりかり、働にしたがひ、息をぬかさず、其侭利を請て、勝を弁ること、肝要也。能々吟味有べし。  

 【大瀧家本】

一 むかづかすると云事。むかづかするといふハ、物毎にあり。一ツにはきわどき心、二ツにハ無理成心、三ツにハ思はざる心、能々吟味有べし。大分の兵法にして、むかづかする事、肝要也。敵の思はざる処へ、いきどう【脱字】く仕懸て、敵の心の極らざる内に、我利を以て、先を仕懸て勝事、肝要也。又、一分の兵法にしても、はじめゆるりと見せて、俄に強く懸り、敵の【脱字】目かゝり、働に随ひ、息をのかさず、其侭利を受て、勝を弁ゆる事、肝要なり。能々吟味すべし。    PageTop    Back   Next 

  15 おびやかすと云事

 【吉田家本】

一 おびやかすと云事。をびゆると云ハ、物毎に有事也。思ひもよらぬ事におびゆる心也。大分の兵法にしても、敵をおびやかす事、眼前の事也。或ハ、ものゝ聲にてもおびやかし、あるひハ、小を大にしておびやかし、又、片脇より、ふつとおびやかす事。是おびゆる所也。其おびゆる拍子を得て、其利を以て勝べし。一分の兵法にしても、身をもつておびやかし、太刀をもつておびやかし、聲をもつておびやかし、敵の心になき事、ふつとしかけて、おびゆる所の利をうけて、其まゝ勝を得事、肝要也。能々吟味有べし。

 【立花隨翁本】

一 おびやかすと云事。をびゆるといふハ、物毎に有事也。思ひもよらぬ事にをびゆる心也。大分の兵法にして【◇】、敵ををびやかす事、眼前也。あるひハ、ものゝ声にてもをびやかし、あるひハ、小を大に【脱字】をびやかし、又、片脇よりふつとをびやかす事。是をびゆる所也。其をびゆる拍子を得て、其利を以て勝べし。一分の兵法にしても、身を以てをびやかし、太刀を以てをびやかし、声をもつてをびやかし、敵の心になき事、ふつとしかけて、をびゆる所のの利をうけて、其まゝ勝を得事、肝要也。能々吟味有べし。

 【赤見家甲本】

一 をびやかすと云事。をびゆるといふハ、物毎に有事也。思ひもよらぬ事にをびゆる心也。大分の兵法にして【◇】、敵ををびやかす事、眼前也。あるひハ、ものゝ声にてもをびやかし、あるひハ、小を大に【脱字】をびやかし、又、片脇よりふつとをびやかす事。是をびゆる所也。其をびゆる拍子を得て、其利を以て勝べし。一分の兵法にしても、身を以てをびやかし、太刀を以てをびやかし、声をもつてをびやかし、敵の心になき事ふつとしかけて、をびゆる所の利をうけて、其まゝ勝を得事、肝要也。能々吟味有べし。

 【中山文庫本】

一 おびやかすと云事。をびゆると云ハ、物毎に有事也。思ひもよらぬ事におびゆる心也。大分の兵法にしても、敵をおびやかす事、眼前の事也。或は、物の声にてもおびやかし、或は、小を大にしておびやかし、又、片脇よりふつとおびやかす事。是おびゆる所也。其おびゆる拍子を得て、其利を以て勝べし。一分の兵法にしても、身を以ておびやかし、太刀を以ておびやかし、声を以ておびやかし、敵の心になき事、ふつとしかけて、おびゆる所の利をうけて、其まゝ勝を得事、肝要也。能々吟味有べし。

 【近藤家甲本】

一 おびやかすと云事。おびゆるといふハ、物毎に有事也。思ひもよらぬ事におびゆる心也。大分の兵法にして【◇】、敵をおびやかす事、眼前也。あるひは、ものゝ聲にて【脱字】おびやかし、あるひは、小を大に【脱字】おびやかし、又、片脇よりふつとおびやかす事。是おびゆる所也。其おびゆる拍子を得て、其利を以て勝べし。一分の兵法にしても、身を以ておびやかし、太刀を以ておびやかし、聲を以ておびやかし、敵の心になき事、ふつとしかけて、おびゆる処の利をうけて、其まゝ勝を得事、肝要也。能々吟味有べし。

 【近藤家乙本】

一 おびやかすと云事。おびゆるといふハ、物毎に有事也。思ひもよらぬ事におびゆる心也。大分の兵法にして【◇】、敵をおびやかす事、眼前也。あるひは、ものゝ聲にて【脱字】おびやかし、或は、小を大に【脱字】おびやかし、又、片脇よりふつとおびやかす事。是おびゆる所也。其おびゆる拍子を得て、其利を以て勝べし。一分の兵法にしても、身を以おびやかし、太刀を以ておびやかし、聲を以ておびやかし、敵の心になき事、ふつとしかけて、おびゆる処の利をうけて、其まゝ勝を得事、肝要也。能々吟味有べし。

 【鈴木家本】

一 おびやかすと云事。おびゆると云ハ、物毎に有事なり。思もよらぬ事におびゆる心也。大分の兵法にしても、敵をおびやかす事、眼前の事也。或ハ、ものゝ聲にてもおびやかし、あるひハ、小を大にしてもおびやかし、又、片脇よりふつとおびやかす事。是おびゆる所也。其おびゆる拍子を得て、其利を以て勝べし。一分の兵法にしても、身をもつておびやかし、太刀をもつておびやかし、聲を以ておびやかし、敵の心になき事、ふつとしかけて、おびゆる所の利をうけて、其侭勝を得事、肝要也。能々吟味有べし。

 【伊藤家本】

一 おびやかすと云事。おびゆると云ハ、物毎に有事也。思ひもよらぬ事におびゆる心也。大分の兵法にして【◇】、敵をおびやかす事、眼前也。あるひは、ものゝ聲にてもおびやかし、あるひは、小を大に【脱字】おびやかし、又、片脇よりふつとおび【脱字】かす事。是おびゆる所也。其おびゆる拍子を得て、其利を以て勝べし。一分の兵法にしても、身を以おびやかし、太刀を以ておびやかし、聲を以ておびやかし、敵の心になき事、ふつとしかけて、おびゆる処の利をうけて、其まゝ勝を得事、肝要也。能々吟味有べし。

 【石井家本】

一 おびやかすと云事。おびゆると云ハ、物毎に有事也。思ひもよらぬ事におびゆる心也。大分の兵法にして【◇】、敵をおびやかす事、眼前也。あるひは、ものゝ聲にて(も)おびやかし、あるひは、小を大に【脱字】おびやかし、又、片脇よりふつとおびやかす事。是おびゆる所也。其おびゆる拍子を得て、其利を以て勝べし。一分の兵法にしても、身を以ておびやかし、太刀を以ておびやかし、聲を以ておびやかし、敵の心になき事、ふつとしかけて、おびゆる所の利をうけて、其まゝ勝を得事、肝要也。能々吟味有べし。  

 【神田家本】

一 おびや(か)すと云事。おびゆると云ハ、物毎に有事也。思ひもよらぬ事におびゆる心也。大分の兵法にして【◇】、敵をおびやかす事、眼前也。あるひは、ものゝ聲にてもおびやかし、あるひは、小を大に【脱字】おびやかし、又、片脇よりふつとおびやかす事。是おびゆる所也。其おびゆる拍子を得て、其利を以て勝べし。一分の兵法にしても、身を以ておびやかし、太刀を以ておびやかし、聲を以ておびやかし、敵の心になき事、ふつとしかけて、おびゆる処の利をうけて、其まゝ勝を得事、肝要也。能々吟味有べし。

 【猿子家本】

一 劫かすと云事。おびゆると云は、物毎に有事也。思ひもよらぬ事におびゆる心也。大分の兵法にしても、敵をおびやかす事、眼前也。或ハ、ものゝ聲にて【脱字】おびやかし、或ハ、小を大に【脱字】おびやかし、又、片脇より不圖おびやかす事。是おびゆる所也。其おびゆる拍子を得て、其利を以て勝べし。一分の兵法にしても、身を以ておびやかし、太刀を以ておびやかし、聲を以ておびやかし、敵の心になき事、不圖しかけて、おびゆる所の利を請て、其侭勝を得事、肝要也。能々吟味有べし。

 【楠家本】

一 おびやかすと云事。おびゆるといふ事、物毎に有事也。思ひもよらぬことにおびゆる心なり。大分の兵法にしても、敵をおびやかす事、眼前の事ニあらず。或ハ、物の聲にてもおびやかし、或ハ、小を大にしておびやかし、又、片わきより、ふつとおびやかす事、是おびゆる所也。其おびゆる拍子を得て、其利を以て勝べし。一分の兵法にしても、身を以ておびやかし、太刀を持ておびやかし、聲を以ておびやかし、敵の心になき事、ふつとしかけて、おびゆる所の利をうけて、其まゝかちを得る事、肝要なり。よく/\吟味有べし。

 【細川家本】

一 おびやかすと云事。おびゆると云事、物毎に有事也。思ひもよらぬことにおびゆる心なり。大分の兵法にしても、敵をおびやかす事、眼前の事にあらず。或ハ、物の声にてもおびやかし、或は、小を大にしておびやかし、亦、かたわきより、不斗おびやかす事、是おびゆる所也。其おびゆる拍子を得て、其利を以て勝べし。一分の兵法にしても、身を以ておびやかし、太刀を以ておびやかし、聲を以ておびやかし、敵の心になき事、与得しかけて、おびゆる所の利を受て、其儘かちを得る事、肝要也。能々吟味あるべし。

 【丸岡家本】

一 おびやかすといふ事。勡〔ヲビユ〕るといふ事、物ごとにあること也。思ひもよらぬ事におびゆるこゝろ也。大分の兵法ニしても、敵をおびやかすこと、眼前の事に非ず。或は、物の聲にてもおびやかし、或は、小を大ニしておびやかし、又、片脇より、ふつとおびやかすこと、是おびゆる所也。其勡る拍子を得て、其理を以勝べし。一分の兵法にしても、身を以おびやかし、太刀を以て勡かし、聲を以ておびやかし、敵の心になき事を、風としかけて、おびゆる所の利を受て、其まゝ勝を得る事、肝要なり。能々吟味有べし。

 【富永家本】

一 おびやかすと云事。おびやかすと云ハ、物毎に有事也。思ひもよらぬ事におびゆる心也。大分の兵法ニしても、敵をおびやかす事、眼前の事にあらず。或ハ、物の聲にてもおびやかし、或ハ、小を大にしておびやかし、又、片脇より、ふつとおびやかす事、是おびゆる所也。其おびゆる拍子を得て、其利を以て勝べしなり。一分の兵法にしても、身を以ておびやかし、【脱字************】、敵の心になき事、ふつと仕懸て、をびゆる所の利をうけて、其まゝかちを得る事、肝要なり。能々吟味有べし。

 【常武堂本】

一 おびやかすと云事。おびやかすと云事、物毎に有事也。思ひもよらぬ事におびゆる心なり。大分の兵法にしても、敵をおびやかす事、眼前の事にあらず。或は、物の声にてもおびやかし、或ハ、小を大にしておびやかし、亦、かたわきより、不斗おびやかす事、是おびゆる所也。其おびゆる拍子を得て、其利を以て勝べし。一分の兵法にしても、身を以ておびやかし、太刀を以ておびやかし、声を以ておびやかし、敵の心になき事、よ得しかけて、おびゆる所の利を受て、其侭かちを得る事、肝要也。能々吟味あるべし。

 【田村家本】

 勡〔ヲビ〕ヤカスト云事 【脱字****】物毎ニ有事也。思モヨラヌ事ニ勡ル心也。大分ノ兵法ニシテモ、敵ヲヽビヤカスコト、眼前ノ事ニ非ズ。或ハ、物ノ色ニテモヲビヤカシ、或ハ、小ヲ大ニシテオビヤカシ、又、片ワキヨリ、フツトオビヤカス事、是ヲビユル所也。其勡ル拍子ヲエテ、其利ヲ以テ勝ベシ。一分ノ兵法ニシテ【脱字】、身ヲ以テオビヤカシ、太刀ヲ以テ勡シ、聲ヲ以テオビヤカシ、敵ノ心ニ無事ヲ、フツトシカケテ、勡ル處ノ利ヲ受テ、ソノマヽ勝ヲウル事、肝要也。ヨク々吟味有ルベシ。

 【狩野文庫本】

一 おびやかすと云事。おびゆると云事、物毎ニ有事也。思ひ【脱字】よらぬ事におびゆる心なり。大分の兵法ニしても、敵をおびやかす事、眼前の事ニあらず。或は、物の聲にてもおびやかし、或は、小を大にしておびやかし、又、片脇よりふつとおびやかす事、是おびゆる【脱字】也。其おびゆる拍子を得て、其利を以勝べし。一分の兵法ニしても、身を以おびやかし、太刀を以おびやかし、聲を以おびやかし、敵の心ニなき事を、風と仕掛て、おびゆる所の利を請て、其儘勝を得る事、肝要也。能【脱字】可有吟味。

 【多田家本】

一 おびやかす【脱字*****】と云ハ、物毎に有事也。思ひ【脱字】よらぬ事にをびゆる心也。大分の兵法にしても、敵をおびやかす事、眼前の事にあらず。或ハ、物の聲にてもおびやかし、或ハ、小を大にしておびやかし、又、片脇よりふつとおびやかす事。是おびゆる處也。其おびゆる拍子を得て、其利を以ておびやかし勝べし。又一分の兵法にしても、太刀を以おびやかし、身を以ておびやかし(語順)、聲を以ておびやかし、敵の心になき事、ふつとしかけて、おびゆる所の利を請て、其侭勝を得る事、肝要也。【脱字*****】

 【山岡鉄舟本】

一 勡ヤカスト云事。ヲビユルト云事、物毎ニ有事也。思モヨラヌ事ニ勡ル心也。大分ノ兵法ニシテモ、敵ヲ勡カス事、眼前ノ事ニ非ズ。或ハ物之聲ニテモ勡カシ、或ハ小ヲ大ニシテモ勡カシ、又、片脇ヨリフツト勡カス事、是勡ユル所也。其勡ユル拍子ヲ得テ、其利ヲ以テ勝ベシ。一分ノ兵法ニシテモ、身ヲ以勡シ、太刀ヲ以勡シ、声ヲ以勡シ、敵ノ心ニ無キ事、フツト仕懸テ、勡ユル所ノ利ヲ以テ、其侭勝ヲ得ル事、肝要也。能々吟味有ルベシ。

 【稼堂文庫本】

一 おびやかすと云事。おびやかすと云ことハ、物毎に有こと也。思ひも寄らぬことにおびゆる心なり。大分の兵法にして【脱字】、敵をおびやかすこと、眼前のことに非ず。或は、物のこへにてもおびやかし、【脱字】小を大きにしておびやかし、亦、片脇より、ふつとおびやかすこと、是おびゆる所也。其おびゆる拍子を得て、其利を以勝べし。一分の兵法にしても、身を以おびやかし、太刀を以おびやかし、こゑを以おびやかし、敵の心になき事を、ふつと仕懸て、おびゆる所の利を受て、其侭勝を得ること、肝要也。能々吟味有べし。  

 【大瀧家本】

一 おびやかすと云事。おびゆるといふハ、物毎に有事也。おもひも寄らぬ事におびゆる心なり。大分の兵法にしても、敵をおびやかす事、眼前の事にあらず。或ハ、物の聲に【脱字】もおびやかし、或ハ、小を大に【脱字】おびやかし、又、片脇より、ふつとおびやかス事、是おびゆる処なり。其おびゆる拍子を得【脱字】、其理を持て勝べし。一分の兵法にしても、身をもつておびやかし、太刀を以おびやかし、【脱字******】、敵の心になき事を、ふ【脱字】と仕懸て、おびゆる【脱字】の利を受て、其侭勝を得事、肝要也。能々吟味有べし。    PageTop    Back   Next 

  16 まぶるゝと云事

 【吉田家本】

一 まぶるゝと云事。まぶるゝと云ハ、敵我ちかくなつて、たがひ【脱字】強くはりあひて、はかゆかざるとミれバ、其まゝ敵とひとつにまぶれあひて、まぶれあひたる其内の利をもつて勝事、肝要也。大分小分の兵法にも、敵我かたわけてハ、たがひに心はりあひて、勝のつかざるときハ、其儘敵にまぶれて、たがひにわけなくなる様にして、其内の徳を得て、其内の勝をしりて、剛く勝事、専也。よく/\吟味有べし。

 【立花隨翁本】

一 まぶるゝと云事。まぶるゝと云ハ、敵我ちかくなつて、たがひに強くはりあひて、はかゆかざるとミれバ、其まゝ敵とひとつにまぶれあひて、まぶれあひたる其内の利を以て勝事、肝要也。大分小分の兵法にも、敵我かたわけてハ、たがひに心はりあひて勝事つかざるときハ、其まゝ敵にまぶれて、たがひにわけなくなるやうにして、其内の徳を得て、其内の勝をしりて、強く勝事、専也。能々吟味有べし。

 【赤見家甲本】

一 まぶるゝと云事。まぶるゝと云ハ、敵我ちかくなつて、たがひに強くはりあひて、はかゆかざるとミれバ、其まゝ敵とひとつにまぶれあひて、まぶれあひたる其内の利を以て勝事、肝要也。大分小分の兵法にも、敵我かたわけてハ、たがひに心はりあひて勝事つかざるときハ、其まゝ敵にまぶれて、たがひにわけなくなるやうにして、其内の徳を得て、其内の勝をしりて、強く勝事、専也。能々吟味有べし。

 【中山文庫本】

一 まぶるゝと云事。まぶるゝと云ハ、敵我近くなつて、たがひ【脱字】強くはりあひて、はかゆかざるとミれバ、其侭敵とひとつにまぶれあひて、まぶれあいたる其内の利を以て勝事、肝要也。大分小分の兵法にも、敵我かたわけてハ、たがひに心はり合て、勝のつかざる時ハ、其侭敵にまぶれて、たがひにわけなくなる様にして、其内の徳を得て、其内の勝をしりて、剛く勝事、専也。能々吟味有べし。

 【近藤家甲本】

一 まぶるゝと云事。まぶるゝと云は、敵我ちかくなつて、たがひに強くはり合て、はかゆかざるとミれバ、其まゝ敵とひとつにまぶれあひて、まぶれ【脱字】たる其内の利を以て勝事、肝要也。大分小分の兵法にも、敵我かたわけてハ、たがひに心はりあひて、勝事つかざるときは、其まゝ敵にまぶれて、たがひにわけなくなるやうにして、其内の徳を得て、其内の勝をしりて、強く勝事、専也。能々吟味有べし。

 【近藤家乙本】

一 まぶるゝと云事。まぶるゝと云は、敵我ちかくなつて、たがひに強くはり合て、はかゆかざるとミれバ、其まゝ敵とひとつにまぶれあひて、まぶれあひたる其内の利を以て勝事、肝要也。大分小分の兵法にも、敵我かたわけてハ、たがひに心はりあひて、勝事つかざるときは、其まゝ敵にまぶれて、たがひにわけなくなるやうにして、其内の徳を得て、其内の勝をしりて、強く勝事、専也。能々吟味有べし。

 【鈴木家本】

一 まぶるゝと云事。まぶるゝと云ハ、敵我ちかくなつて、たがひに強くはり合て、はかゆかざるとミれバ、其まゝ敵とひとつにまぶれあひて、まぶれ合たる其内の利をもつて勝事、肝要也。大分小分の兵法にも、敵我かたわけてハ、たがひに心はりあひて、勝のつかざる時【脱字】、其侭敵にまぶれて、たがひにわけなくなる様にして、其内の徳を得て、其内の勝をしりて、剛く勝事、専也。よく/\吟味有べし。

 【伊藤家本】

一 まぶ【脱字】ゝと云事。まぶ【脱字】ゝと云は、敵我ちかくなつて、たがひに強くはり合て、はかゆかざるとミれバ、其まゝ敵とひとつにまぶれあひて、まぶれあいたる其内の利を以て勝事、肝要也。大分小分の兵法にも、敵我かたわけてハ、たがひに心はりあひて勝事つかざるときは、其まゝ敵にまぶれて、たがひにわけなくなるやうにし【脱字】、其内の徳を得て、其内の勝を知り【脱字】、強く勝事、専也。能々吟味有べし。

 【石井家本】

一 まぶるゝと云事。まぶるゝと云は、敵我ちかくなつて、たがひに強くはり合て、はかゆかざるとミれバ、其まゝ敵とひとつにまぶれあひて、まぶれ合たる其内の利を以て勝事、肝要也。大分小分の兵法にも、敵我かたわけてハ、たがひに心はりあひて、勝事つかざるときは、其まゝ敵にまぶれて、たがひにわけなくなるやうにして、其内の徳を得て、其内の勝をしりて、強く勝事、専也。能々吟味有べし。  

 【神田家本】

一 まぶるゝと云事。まぶるゝと云は、敵我ちかくなつて、たがひに強くはり合て、はかゆかざるとミれバ、其まゝ敵とひとつにまぶれあひて、まぶれ(あひ)たる其内の利を以て勝事、肝要也。大分小分の兵法にも、敵我かたわけてハ、たがひに心はりあひて勝事つかざるときは、其まゝ(敵に)まぶれて、たがひにわけなくなるやうにして、其内の徳を得て、其内の勝をしりて、強く勝事、専也。能々吟味有べし。

 【猿子家本】

一 まぶるゝと云事。まぶるゝと云ハ、敵我近くなつて、たがひに強くはり合て、はかゆかざると見れバ、其侭敵と一つにまぶれあいて、まぶれ【脱字】たる其内の利を以勝事、肝要也。大分小分の兵法にても、敵我方わけてハ、たがひに心はりあふて、勝事付ざる時は、其侭敵にまぶれて、たがひにわけなく成よふにして、其内の徳を得て、其内の勝をしりて、強く勝事、専也。能々工夫有べし。

 【楠家本】

一 まぶると云事。まぶるといふハ、敵我手ちかくなつて、互につよく張やいて、はかいかざると見れバ、其まゝ敵とひとつにまぶれあひて、まぶれあひたる其うちの利を以て勝事、肝要也。大分小分の兵法にも、敵我かたわけてハ、互に心張合て、かちのつかざる時ハ、其まゝ敵にまぶれて、たがいにわけなくなるやうにして、其うちの徳を得【脱字】、其うちの勝をしりて、つよく勝事、専也。能々吟味有べし。

 【細川家本】

一 まぶるゝと云事。まぶるゝと云ハ、敵我手近くなつて、互に強くはりあひて、はかゆかざると見れば、其儘敵とひとつにまぶれあいて、まぶれあいたる其うちに利を以て勝事、肝要なり。大分小分の兵法にも、敵我かたわけては、互に心はりあいて、かちのつかざる時は、其儘敵にまぶれて、互にわけなくなるやうにして、其うちの徳を得【脱字】、其内の勝をしりて、つよく勝事、専也。克々吟味あるべし。

 【丸岡家本】

一 まぶるゝと云事。まぶるゝといふは、敵我手近く成て、たがいに強ク張合て、果敢行ざると見バ、其まゝ敵と一ツにまぶれあひて、まぶれあひたる其うちの理を以勝事、肝要也。大分小分の兵法にも、敵我かたわけてハ、互に心はりあひて、勝の付ざる時は、其儘敵ニまぶれて、互にわけなくなる樣ニして、そのうちの徳を得【脱字】、其内の勝を知て、強ク勝事、専也。能々吟味有べし。

 【富永家本】

一 まぶると云事。まぶると云ハ、敵我手近く成て、互に強く張合て、はかゆかざると見れバ、其まゝ敵と一ツにまぶれ合て、まぶれ合たる其内の利を以て勝事、肝要なり。大分小分の兵法にも、敵我かたわけてハ、互に心張合て、勝の付ざる時ハ、其まゝ敵にまぶれて、互にわけ無【脱字】様にして、其内の徳を得【脱字】、其内の勝を知りて、強く勝事、専ら也。能々吟味有べし。

 【常武堂本】

一 まぶるゝと云事。まぶるゝと云は、敵我手近くなつて、たがひに強くはりあひて、はかゆかざるとみれバ、其侭敵とひとつにまぶれあひて、まぶれあひたる其内に利を以て勝事、肝要也。大分小分の兵法にも、敵我かたわけてハ、たがひに心はりあひて、かちのつかざる時ハ、其侭敵にまぶれて、たがひにわけなくなる様にして、其うちの徳を得【脱字】、其内の勝をしりて、つよく勝事、専也。克々吟味あるべし。

 【田村家本】

 染〔マブ〕ルヽト云事 【脱字****】敵吾手近クナツテ、互ニツヨクハリ合テ、ハカユカズトミレバ、ソノマヽ敵ト一ツニマブレ合テ、染レ合タル其内ノ利ヲ以テ勝事、肝要也。大分小分ノ兵法ニモ、敵吾カタワケテハ、互ニ心ハリ合テ、勝ノツカザル時ハ、其マヽテキニマブレテ、互ニワケナクナルヤウニシテ、其内ノ徳ヲ得、其内ノ勝ヲ知テ、ツヨク勝事、専也。能々吟味有ベシ。

 【狩野文庫本】

一 まぶるゝと云事。【脱字****】敵我手近ニ成て、互ニつよく張合て、はかゆかざると見バ、其儘敵と一つにまぶれ合て、まぶれ合たる其内の利を以勝事、肝要也。大分小分の兵法ニも、敵【脱字】方わけては、互ニ【脱字】はり合て、勝【脱字】つかざる時は、其儘敵にまぶれて、互ニ分なく成様にして、其内の徳を得て、其内の勝を知、強勝事、専也。【脱字】可有吟味。

 【多田家本】

一 【脱字****】まぶるゝと云は、敵を我近く成て、互に強く張やいて、はかゆかざると見れバ、其侭敵と一つにまぶれあひて、まぶれ合たる其内の利を以て勝事、肝要也。大分小分の兵法にても、敵と我とかたわけてハ、互に心張あひて勝【脱字】つかざる時ハ、其侭敵にまぶれて、互に分なく成様にして、其内の徳を得て、其内の勝をしりて、強く勝事、要用也。【脱字****】 (★改行なしで次条へ連続)

 【山岡鉄舟本】

一 マブルヽト云事。マブルヽト云ハ、敵我手近ク成テ、互ニ強ニ張合テ、ハカユカザルト見レバ、其侭敵ト一ツニマブレ合テ、マブレ合タル其内ノ利ヲ以勝事、肝要也。大分小分之兵法ニモ、敵我ガカタ分テハ、互ニ心張合テ、勝ノ付ザル時ハ、其侭敵ニマブレテ、互ニ分チナク成ル様ニシテ、其内ノ徳ヲ得、其内ノ勝ヲ知テ、強ク勝事、専也。能々吟味有ベシ。

 【稼堂文庫本】

一 まぶるゝと云事。まぶるゝと云ハ、敵と我と手近ク成つて、互に強ク張合【脱字】、はかゆかざると見れバ、其侭敵と一ツにまぶれ合ひて、其まぶれ合たる其内の利を以勝事、肝要なり。大分小分の兵法にも、敵と我とかたわけてハ、互に心張合て、勝の付かざる時は、其侭敵にまぶれて、惣にハけなき様にして、其内の徳を得【脱字】、其内の勝を知りて、強く打事、専也。能々吟味有べし。  

 【大瀧家本】

一 まぶるゝと云事。まぶるゝと云ハ、敵我手近く成て、互に強く張合て、墓行ざると見バ、其侭敵と一ツにまぶれあいて、まぶれあいたる其内の利を以て、勝事肝要也。大分の兵法も小分の兵法【脱字】も、敵我かたわけてハ、互に心張合て、勝負つかざる時ハ、その侭敵にまぶれて、互に分なく成様にして、其内の徳を得【脱字】、其内の徳を知りて、強勝事、専也。能々工夫有べし。    PageTop    Back   Next 

  17 かどにさわると云事

 【吉田家本】

一 かどにさわると云事。角にさわると云ハ、物毎、強き物をおすに、其まゝ直にハをしこミがたきもの也。大分の兵法にしても、敵の人数をミて、はり出強き所のかどにあたりて、其利を得べし。かどのめるに随ひ、惣もミなめる心有。其めるうちにも、角々に心を付て、勝利を得事、肝要也。一分の兵法にしても、敵のたいの角にいたミを付、其躰少も弱くなり、くずるゝ躰になりてハ、勝事安きもの也。此事、能々吟味して、勝所をわきまゆる事、専也。

 【立花隨翁本】

一 かどにさハると云事。角にさハるといふハ、ものごと、強き物ををすに、其まゝ直にハをしこミがたきもの也。大分の兵法にしても、敵の人数を見て、はり出強き所のかどにあたりて、其利を得べし。かどのめるに随ひ、惣もミなめる心有。其めるうちにも、かど/\に心を付て、勝利を得事、肝要也。一分の兵法にしても、敵の躰のかどにいたミを付、其躰【「の」字抹消】も弱くなり、くづるゝ躰になりてハ、勝事安きもの也。此事、能々【以下破損判読不能】。

 【赤見家甲本】

一 かどにさハると云事。角にさハるといふハ、ものごと、強き物ををすに、其まゝ直にハをしこミがたきもの也。大分の兵法にしても、敵の人数を見て、はり出強き所のかどにあたりて、其利を得べし。かどのめるに随ひ、惣もミなめる心有。其めるうちにも、かど/\に心を付て、勝利を得事、肝要也。一分の兵法にしても、敵の躰のかどにいたミを付、其躰【脱字】も弱くなり、くづるゝ躰になりてハ、勝事安きもの也。此事能々吟味して、勝所をわきまゆる事、専也。

 【中山文庫本】

一 かどにさわると云事。角にさわると云ハ、物毎、強き物をおすに、其まゝ直にハをしこみがたきもの也。大分の兵法にしても、敵の人数を見て、はり出強き所のかどにあたりて、其利を得べし。かどのめるに随ひ、惣もミなめる心有。其める内にも、角々に心を付て、勝利を得事、肝要也。一分の兵法にしても、敵のたいの角にいたミを付、其躰少も弱くなり、くずるゝ躰になりてハ、勝事安きもの也。此事、能々吟味して、勝所をわきまゆる事、専也。

 【近藤家甲本】

一 かどにさハると云事。角にさハるといふは、ものごと、強き物をおすに、其まゝ直にはおしこミがたき物也。大分の兵法にしても、敵の人数を見て、はり出強き所のかどにあたりて、其利を得べし。かどのめるに随ひ、惣もミなめる心あり。其める内にも、かど/\に心を付て、勝利を得事、肝要也。一分の兵法にしても、敵の躰のかどにいたミを付、其躰【脱字】も弱くなり、くづるゝ躰になりては、勝事安きもの也。此事、能々吟味して、勝所をわきまゆる事、専也。

 【近藤家乙本】

一 かどにさハると云事。角にさハるといふは、ものごと、強き物をおすに、其まゝ直にはおしこミがたき物也。大分の兵法にしても、敵の人数を見て、はり出強き所のかどにあたりて、其利を得べし。かどのめるに随ひ、惣もミなめる心有。其めるうちにも、かど/\に心を付て、勝利を得事、肝要也。一分の兵法にしても、敵の躰のかどにいたミを付、其躰【脱字】も弱くなり、くづるゝ躰になりては、勝事安きもの也。此事、能々吟味して、勝所をわきまゆる事、専也。

 【鈴木家本】

一 かどにさはると云事。角にさわると云ハ、物毎、強きものを押に、其侭直にハおし込がたきもの也。大分の兵法にしても、敵の人数をミて、はり出強き所のかどにあたりて、其利を得べし。かどのめるに随ひ、惣も皆める心有。其める内にも、角々に心を付て、勝利を得事、肝要也。一分の兵法にしても、敵のたいの角にいたみを付、其躰少も弱くなり、くずるゝ躰になりてハ、勝事安きもの也。此事能々吟味して、勝所を弁る事、専也。

 【伊藤家本】

一 かどにさハると云事。角にさハるといふは、ものごと、強き物をおすに、其まゝ直にはおしこミがたき物也。大分の兵法にしても、敵の人数を見て、はり出強き所のかどにあたりて、其利を得べし。かどのめるに随ひ、惣もミなめる心有。其める内にも、かど/\に心を付て、勝利を得事、肝要也。一分の兵法にしても、敵の躰のかどにいたミを付、其躰【脱字】も弱くなり、くづるゝ躰になりては、勝事安きもの也。此事、能々吟味して、勝所をわきまゆる事、専也。

 【石井家本】

一 かどにさハると云事。角にさハるといふは、ものごと、強き物をおすに、其まゝ直にはおしこミがたき物也。大分の兵法にしても、敵の人数を見て、はり出強き所のかどにあたりて、其利を得べし。かどのめるに随ひ、惣もミなめる心あり。其める内にも、かど/\に心を付て、勝利を得事、肝要也。一分の兵法にしても、敵の躰のかどにいたミを付、其躰【脱字】も弱くなり、くづるゝ躰になりては、勝事安きもの也。此事、能々吟味して、勝所をわきまゆる事、専也。  

 【神田家本】

一 かどにさハると云事。角にさハるといふは、ものごと、強き物をおすに、其まゝ直にはおしこミがたき物也。大分の兵法にしても、敵の人数を見て、はり出強き所のかどにあたりて、其利を得べし。かどのめるに随ひ、惣もミなめる心あり。其める内にも、かど/\に心を付て、勝利を得事、肝要也。一分の兵法にしても、敵の躰のかどにいたミを付、其躰【脱字】も弱くなり、くづるゝ躰になりては、勝事安きもの也。此事、能々吟味して、勝所をわきまゆる事、専也。

 【猿子家本】

一 角にさはると云事。かどにさハるといふハ、物毎、強き物をおすに、其侭直に【脱字】押こみがたきもの也。大分の兵法にしても、敵の人数を見て、はり出強き所の角にあたりて、其利を得べし。かどのめるに随ひ、惣心もみなめる心有。其める内にも、角/\に心を付て、勝利を得る事、肝要也。一分の兵法にしても、敵の躰の角にいたミを付、其躰【脱字】も弱くなり、崩るゝ躰に成てハ、勝事安きもの也。此事、能々吟味して、勝所をわきまゆる事、専也。

 【楠家本】

一 かどにさはると云事。角にさはるといふハ、物毎、つよき物をおすに、其まゝ直にハおしこミがたきもの也。大分の兵法にしても、敵の人数を見て、はり出つよき所のかどにあたりて、其利を得べし。かどのめるにしたがひ、惣もミなめる心あり。其めるうちにも、かど/\に心得て、勝利をうくる事、肝要也。一分の兵法にしても、敵の躰のかどにいたミをつけ、其躰少もよはくなり、くづるゝ躰になりてハ、勝事やすきもの也。此事、よく/\吟味して、勝所をわきまゆる事、専也。

 【細川家本】

一 かどにさわると云事。角にさわると云は、物毎、つよき物をおすに、其儘直にはおしこミがたきもの也。大分の兵法にしても、敵の人数を見て、はり出つよき所のかどにあたりて、其利を得べし。かどのめるに随ひ、惣もミなめる心あり。其める内にも、かど/\に心得て、勝利を受る事、肝要也。一分の兵法にしても、敵の躰のかどにいたミをつけ、其躰少もよハくなり、くづるゝ躰になりては、勝事やすきもの也。此事、能々吟味して、勝所をわきまゆる事、専也。

 【丸岡家本】

一 稜〔カド〕にさハると云事。かどにさハるといふは、物ごとに強キ物を推に、其儘直にはおしこミがたき者也。大分の兵法ニしても、敵の人数を見て、張出強キ處の稜にあたりて、其利を得べし。かどのめるに隨ひ、強キ物も皆める心あり。其める内にも、かど/\に心得て、勝利を得る事、肝要也。一分の兵法ニしても、敵の躰の稜に痛ミをつけ、其躰少もよハくなり、崩るゝ躰になりてハ、勝こと易キ者也。【脱字】能々吟味して、勝所を辨る事、専也。

 【富永家本】

一 角にさわると云事。角にさわると云ハ、物毎に、強き者を押るに、其まゝ直にハ押込がたきものなり。大分の兵法にしても、敵の人数を見て、張出強き所の角に當りて、其利を可得。角のめるに隨、惣て惣て【重複】【脱字】皆める心有り。其める内にも、角/\に心得て、勝利を受る事、肝要也。一分の兵法にしても、敵の躰の角に痛を付、其躰少しもよわくなり、崩れる躰になりてハ、勝事安きものなり。此事、能々吟味して、勝處をわきまゆる事、専ら也。

 【常武堂本】

一 かどにさわると云事。角にさわるといふハ、物毎、つよき物をおすに、其侭直にハおしこみがたきもの也。大分の兵法にしても、敵の人数を見て、はり出つよき所のかどにあたりて、其利を得べし。かどのめるに随ひ、惣もみなめる心あり。其める内にも、かど/\に心得て、勝利を受る事、肝要也。一分の兵法にしても、敵の躰のかどにいたみをつけ、其躰少もよはくなり、くづるゝ躰になりてハ、勝事やすきもの也。此事、能々吟味して、勝所をわきまゆる事、専也。

 【田村家本】

 稜〔カド〕ニサハルト云事 【脱字*****】物ゴトニツヨキ物ヲオスニ、其マヽ直ニハ推難シ。大分ノ兵法ニシテモ、敵ノ人数ヲ見テ、ハリ出ツヨキ処ノ稜ニアタリテ、其利ヲ得ベシ。カドノメルニシタガヒ、モノニミナメル心アリ。ソノメルウチニモ、カド々ニ心エテ、勝利ヲ受ルコト、肝要也。一分ノ兵法ニシテモ、敵ノ躰ノカドニイタミヲ付、其躰少モヨハク也、崩ルヽ躰ニナリテハ、勝事安キモノ也。此事、ヨク々吟味シテ、勝事ヲワキマユル事、専也。

 【狩野文庫本】

一 角にさわると云事。角にさわると云ハ、物毎に強ものをおすに、其儘直ニおし込がたき物なり。大分の兵法ニしても、敵の人数を見【脱字】、張出強所の角に當て、其利を得べし。角のめるに隨ひ、惣も皆める心有。其める内にも、角々にと心得て、勝利をうくる事、肝要也。一分の兵法にしても、敵の躰の角に痛を付、其躰少弱也、崩る躰に成てハ、勝事安きもの也。此事、能々吟味して、勝處を弁事、専也。

 【多田家本】

(★改行なしで前条から連続)【脱字*****】かどにさわると云は、物毎、強き物をおすに、其侭直にハおし込がたきものなり。大分の兵法にしても、敵の人数を見て、張出す【脱字】所の角に當りては、其理を得べし。角のめるに随ひ、惣も皆める心有。其める内にも、角/\にと心得て、勝利を請事、肝要也。一分の兵法にしても、敵の躰の角に痛をつけ、其躰少も弱くなり、崩【脱字】躰に成てハ、勝事安き物也。此事、能々吟味して、勝所を弁る事、専ら也。

 【山岡鉄舟本】

一 カドニサハルト云事。稜ニサハルト云ハ、物毎ニ強キ物ヲ押スニ、其侭直ニハ押込ガタキ物也。大分ノ兵法ニ【脱字】テモ、敵ノ人数ヲ見テ、張リ出強キ處ノ角ドニ當リテ、其利ヲ得ベシ。角ドノメルニ随、物モ皆メル心有。其メル内ニモ、カド/\ニ心得テ、勝利ヲ受ル事、肝要也。一分之兵法ニ【脱字】テモ、敵ノ躰之角ドニ痛ヲ付テ、其躰少シモ弱ク成リ、崩ルヽ躰ニ成テハ、勝事安キ物也。此事、能々吟味シテ、勝処ヲ辨ル事、モツハラ也。

 【稼堂文庫本】

一 角に障ると云事。かどにさわると云ハ、物毎に強き者也押すに、其侭直にハ押込がたき者也。大分の兵法にしても、敵の人数を見て、張出し強き所の角に當りて、其利を得べし。角【脱字】めるに随ひ、惣躰も皆める心有り。其める内にも、かど/\に心得て、勝ことを請ること、肝要也。一分の兵法にしても、敵の躰のかどに痛を付、其躰少もよわく成り、崩るゝ躰に成りてハ、勝こと安き者也。此事、能々吟味して、勝所を弁ること、専ら也。  

 【大瀧家本】

一 廉に障ると云事。かどにさわると云事ハ、物毎に、強物を押に、其侭直にハ押込難きもの也。大分の兵法にしても、敵の人数を見て、張出し強所の角にあたりて、其利を得べし。角のめるに随ひ、惣身も皆める心有。其める内にも、かど/\に心を付て、勝利を得事、肝要也。一分の兵法にしても、敵の體の廉に痛を付、其躰【脱字】も弱くなり、崩るゝ躰になりてハ、勝事安きものなり。此事、能々吟味して、勝所を弁ゆる事、専也。    PageTop    Back   Next 

  18 うろめかすと云事

 【吉田家本】

一 うろめかすと云事。うろめかすと云ハ、敵にたしかなる心をもたせざるやうにする所也。大分の兵法にしても、戦の場におゐて、敵のこゝろをはかり、我兵法の智力を以て、敵の心をそこ爰となし、とのかうのと思ハせ、おそしはやしとおもわせ、敵のうろめく心になる拍子を得て、たしかに勝所をわきまゆる事也。又、一分の兵法にして、時ニあたりて、色々のわざをしかけ、或はうつとミせ、或ハつくとミせ、又ハ入こむと思ハせ、敵のうろめく氣ざしを得て、自由に勝所、是戦の専也。能々吟味有べし。

 【立花隨翁本】

一 うろめかすと云事。うろめかすといふハ、敵にたしかなる心をもたせざるやうにする所也。大分の兵法にしても、戦の場にをひて、敵の心をはかり、我兵法の智力を以て、敵の心をそこ爰となし、とのかうのとおもハせ、【脱字*******】、敵のうろめく心になる拍子を得て、たしかに勝所をわきまゆる事也。又、一分の兵法にして、時にあたりて、色々のわざをしかけ、或ハうつとミせ、或ハつくと見せ、又ハ入こむと思ハせ、敵のうろめく氣ざしを得て、自由に勝所、是戦の専也。能々吟味有べし。

 【赤見家甲本】

一 うろめかすと云事。うろめかすといふハ、敵にたしかなる心をもたせざるやうにする所也。大分の兵法にしても、戦の場におゐて、敵の心をはかり、我兵法の智力を以て、敵の心をそこ爰となし、とのかうのとおもハせ、【脱字*******】、敵のうろめく心になる拍子を得て、たしかに勝所をわきまゆる事也。又、一分の兵法にして、時にあたりて、色々のわざをしかけ、或ハうつとミせ、或ハつくと見せ、又ハ入こむと思ハせ、敵のうろめく氣ざしを得て、自由に勝所、是戦の専也。能々吟味有べし。

 【中山文庫本】

一 うろめかすと云事。うろめかすと云ハ、敵にたしかなる心を持せざるやうにする所也。大分の兵法にしても、戦の場に於て、敵の心をはかり、我兵法の智力を以て、敵の心をそこ爰となし、とのかうのと思はせ、おそしはやしと思はせ、敵のうろめく心になる拍子を得て、たしかに勝所をわきまゆる事也。又、一分の兵法にしても、時にあたりて、色々のわざをしかけ、或ハうつとミせ、或ハつくとミせ、又ハ入こむと思わせ、敵のうろめく氣ざしを得て、自由に勝所、是戦の専也。能々吟味有べし。

 【近藤家甲本】

一 うろめかすと云事。うろめかすといふは、敵にたしかなる心をもたせざるやうにする所也。大分の兵法にしても、戦の場におゐて、敵の心をはかり、我兵法の智力を以て、敵の心をそこ爰となし、とのかうのとおもハせ、【脱字*******】、敵のうろめく心になる拍子を得て、たしかに勝所をわきまゆる事也。又、一分の兵法にして、時にあたりて、色々のわざをしかけ、或はうつと見せ、或ハつくと見せ、又は入こむと思ハせて、敵のうろめく氣ざしを得て、自由に勝所、是戦の専也。能々吟味有べし。

 【近藤家乙本】

一 うろめかすと云事。うろめかすといふは、敵にたしかなる心をもたせざるやうにする所也。大分の兵法にしても、戦の場におゐて、敵の心をはかり、我兵法の智力を以て、敵の心をそこ爰となし、とのかうのとおもハせ、【脱字*******】、敵のうろめく心になる拍子を得て、たしかに勝所をわきまゆる事也。又、一分の兵法にして、時にあたりて、色々のわざをしかけ、或はうつとミせ、或はつくと見せ、又は入こむと思わせ、敵のうろめく氣ざしを得て、自由に勝所、是戦の専也。能々吟味有べし。

 【鈴木家本】

一 うろめかすと云事。うろめかすと云ハ、敵ニたしかなる心をもたせざる様にする所也。大分の兵法にしても、戦の場におゐて、敵のこゝろをはかり、我兵法の智力を以て、敵の心をそこ爰となし、とのかうのと思ハせ、おそしはやしとおもわせ、敵のうろめく心になる拍子を得て、たしかに勝所をわきまゆる事也。又、一分の兵法にして、時にあたりて、色々のわざをしかけ、或ハうつとミせ、或ハつくと見せ、又ハ入こむと思ハせ、敵のうろめく氣ざしを得て、自由に勝所、是戦の専也。能々吟味有べし。

 【伊藤家本】

一 うろめかすと云事。うろめかすといふは、敵にたしかなる心をもたせざるやうにする所也。大分の兵法にしても、戦の場におゐて、敵の心をはかり、我兵法の智力を以て、敵の心をそこ爰となし、とのかうのとおもハせ、【脱字*******】、敵のうろめく心になる拍子を得て、たしかに勝所をわきまゆる事也。又、一分の兵法にして、時にあたり【脱字】、色々のわざをしかけ、或はうつと見せ、或ハつくと見せ、又ハ入こむと思ハせ、敵のうろめく氣ざしを得て、自由に勝所、是戦の専也。能々吟味有べし。

 【石井家本】

一 うろめかすと云事。うろめかすといふは、敵にたしかなる心をもたせざるやうにする所也。大分の兵法にしても、戦の場におゐて、敵の心をはかり、我兵法の智力を以て、敵の心をそこ爰となし、とのかうのとおもハせ、【脱字*******】、敵のうろめく心になる拍子を得て、たしかに勝所をわきまゆる事也。又、一分の兵法にして、時にあたりて、色々のわざをしかけ、或はうつと見せ、或ハつくと見せ、又は入こむと思ハせ、敵のうろめく氣ざしを得て、自由に勝所、是戦の専也。能々吟味有べし。  

 【神田家本】

一 うろめかすと云事。うろめかすといふは、敵にたしかなる心をもたせざるやうにする所也。大分の兵法にしても、戦の場におゐて、敵の心をはかり、我兵法の智力を以て、敵の心をそこ爰となし、とのかうのとおもハせ、【脱字*******】、敵のうろめく心になる拍子を得て、たしかに勝所をわきまゆる事也。又、一分の兵法にして、時にあたりて、色々のわざをしかけ、或はうつと見せ、或ハつくと見せ、又は入こむと思ハせ、敵のうろめく氣ざしを得て、自由に勝所、是戦の専也。能々吟味有べし。

 【猿子家本】

一 うろめかすと云事。うろめかすといふは、敵に慥成る心を持たせざる様にする所也。大分の兵法にしても、戦の場におゐて、敵の心を計、我兵法の智力を以て、敵の心をそこ爰となし、とのかうのと思ハせ、【脱字*******】、敵のうろめく心になる拍子を得て、慥に勝所をわきまゆる事也。又、一分の兵法にして、時にあたりて、色々のわざを仕懸、或ハ打と見せて、或ハ突と見せ、又ハ入込と思ハせ、敵のうろめく氣ざしを得て、自由に勝所、是戦の専也。能々吟味有べし。

 【楠家本】

一 うろめかすと云事。うろめかすといふハ、敵に慥になる心をもたせざるやうにする所也。大分の兵法にしても、たゝかひの場におゐて、敵の心を斗、わが兵法の智力【脱字】以て、敵の心をそここゝとなし、とのこうのと思はせ、おそしはやしと思はせ、敵【脱字】うろめく心になる拍子を得て、慥に勝所をわきまゆる事也。又、一分の兵法にして、わが時にあたりて、いろ/\のわざをしかけ、或ハ打とミせ、或ハつくとミせ、又ハ入こむと思はせ、敵のうろめく氣ざしを得て、自由に勝所、是たゝかひの専也。能々吟味有べし。

 【細川家本】

一 うろめかすと云事。うろめかすと云は、敵に慥なる心をもたせざるやうにする所也。大分の兵法にしても、戦の場におゐて、敵の心を斗、我兵法の智力を以て、敵の心をそこ爰となし、とのかうのと思ハせ、おそしはやしと思ハせ、敵【脱字】うろめく心になる拍子を得て、慥に勝所を弁ゆる事也。亦、一分の兵法にして、我時にあたりて、色々のわざをしかけ、或ハ打と見せ、或ハつくとミせ、又は入こむと思ハせ、敵のうろめく氣ざしを得て、自由に勝所、是たゝかいの専也。能々吟味あるべし。

 【丸岡家本】

一 うろめかすと云事。うろめかすといふは、敵にたしかなる心を持せざるやうにする所也。大分の兵法ニしても、戦の場におゐて、敵の心を計り、我兵法の智力を以、敵の心をそここゝとなし、菟の角のとおもハせ、遅シ速シと思ハせ、敵【脱字】うろめく心になる拍子を得て、たしかに勝處を辨る事也。又、一分の兵法ニして、我時にあたりて、色々の技をしかけ、或は打と見せ、或は突と見せ、又は入こむと思ハせ、敵のうろめく氣ざしを得て、自由に勝所、是戦の詮なり。能々吟味有べし。

 【富永家本】

一 うろめかすと云事。うろめかすと云ハ、敵に慥に成心を持せざるやうにする處也。大分の兵法にしても、戦の場におゐて、敵の心を斗、我兵法の知力を以て、敵の心をそこ/\となし、とのかうのとおもわせ、おそしはやしとおもハせ、敵【脱字】うろめく心に成拍子を得て、慥に勝所をわきまゆる事也。【脱字】一分の兵法にしても、我時に當りて、色/\のわざを仕懸、或ハ打と見せ、或ハつくと見せ、又【脱字】入込とおもわせ、敵【脱字】うろめく氣ざしを得て、自由に勝處、是戦の専也。【脱字】吟味有べし。

 【常武堂本】

一 うろめかすと云事。うろめかすといふハ、敵に慥なる心をもたせざる様にする所也。大分の兵法にしても、戦の場に於て、敵の心を斗、我兵法の智力を以て、敵の心をそこ爰となし、とのかうのと思はせ、おそしはやしと思はせ、敵【脱字】うろめく心になる拍子を得て、慥に勝所をわきまゆる事也。亦、一分の兵法にして、我時にあたりて、色々のわざをしかけ、或ハ打とみせ、或ハつくとみせ、又ハ入こむと思はせ、敵のうろめく気ざしを得て、自由に勝所、是たゝかひの専也。能々吟味有べし。

 【田村家本】

 胡乱〔ウロ〕メカスト云事 【脱字】敵ニ慥ナル心ヲモタセザルヨウニスル処也。大分ノ兵法ニシテモ、戦ノ場ニ於、敵ノ心ヲ計リ、吾兵法ノ智力ヲ以、テキノ心ヲソコ爰トナシ、菟ノ角ノト思ハセ、遅シ速シト思ハセ、敵【脱字】ウロメク【脱字】拍子ヲ得テ、慥ニ勝処ヲ辨ル事ナリ。又、一分ノ兵法ニシテ、吾時ニアタリテ、色々ノワザヲシカケ、或ハ打トミセ、或ハ突トミセ、又ハ入込ト思ハセ、敵ノウロメク氣ザシヲ得テ、自由ニ勝処、是戦ノ専也。能々吟味スベシ。

 【狩野文庫本】

一 うろめかすると云事。うろめかすると云は、敵に慥成心【脱字】持せざる樣【脱字】する所也。大分の兵法にしても、戦の場におゐて、敵の心を斗、我兵法の智力を以、敵の心をそこ爰となし、とのかふのと思ハせ、遅く早しと思ハせ、敵【脱字】うろめく心に成拍子を得て、慥ニ勝所を弁る事也。又、一分の兵法にしても、我時ニ當て、色々の業を仕懸、或は打と見せ、或は突と見せ、又ハ入込とおもハせ、敵のうろめく氣ざしを得て、自由に勝所、是戦の専也。能々可有吟味。

 【多田家本】

一 【脱字*****】うろめかすと云ハ、敵に慥なる心を持せざる様にする【脱字】也。大分の兵法にしても、戦の場にをひて、敵の心を【脱字**********】そこ爰となし、とのこうのと思ハせ、遅し早しと思はせて、敵【脱字】うろめく心に成拍子を得て、慥に勝所を弁ゆる事也。又、一分の兵法にしても、戦ふ時にあたつて、色々の業をしかけ、或ハ打と見せ、或ハ突と見せ、又ハ入込と思はせ、敵のうろめく氣指を得て、自由に勝所、是戦【脱字】専為め也。【脱字****】

 【山岡鉄舟本】

一 ウロメカスト云事。ウロメカスト云ハ、敵ニ慥成ル心ヲ持セザル様ニスル処也。大分ノ兵法ニシテモ、戦ノ場ニ於テ、敵之心ヲ【脱字***********】ソコ/\トナシ、トノカウノト思ハセ、遅シ早シト思ハセ、敵【脱字】ウロメク心ニ成ル拍子ヲ得テ、慥ニ勝所ヲ辨ル事也。又、一分之兵法ニシテ、我時ニ當リテ、色々ノワザヲ仕懸、或ハ打ト見セ、或ツクト見セ、亦【脱字】入込ト思ハセ、敵ノウロメク氣ザシヲ得テ、自由ニ勝所、是戦ノ専也。能々吟味有ベシ。

 【稼堂文庫本】

一 うろめかすと云事。うろめかすと云ことハ、敵に慥成る心を持せざる様にする【脱字】也。大分の兵法にしても、戦の場に於て、敵の心を斗り、我兵法の知力をもつて、敵の心をそここゝとなし、とのこふのと思ハせ、遅し早しと思はせ、敵のうろめく心に成る拍【脱字】を得て、慥ニ勝所を弁ること也。又、一分の兵法にしても、戦時に當りて、色々の業を仕懸、或は打と見せ、或は突と見せ、又は入込と思ハせ、敵のうろめく氣ざしを得て、自由に勝所、是たゝかひの専也。【脱字】吟味有べし。  

 【大瀧家本】

一 うろめかすと云事。うろめかすと云ハ、敵に慥成心を持せざる様にする所也。大分の兵法にしても、戦の場におゐて、敵の心を計り、我兵法の智力を以て、敵の心をそここゝとなし、とのかうのとおもはせ、【脱字*******】、敵のうろめく心になる拍子を得て、慥に勝処を弁ゆる事也。又、一分の兵法にして、時に當りて、色々の業を仕かけ、或ハ打と見せ、或ハ突と見せ、又ハ入込とおもはせ、敵のうろめく氣ざしを得て、自由に勝処、是戦の専也。克々吟味有べし。    PageTop    Back   Next 

  19 三つの聲と云事

 【吉田家本】

一 三ツの聲と云事。三ツのこゑとハ、初中後の聲と云て、三ツにかけわくる事也。所により聲をかくると云事、専也。聲ハいきおひなるによつて、火事などにもかけ、風波にもこゑをかけ、勢力をミする也。大分の兵法にしても、戦よりはじめにかくる聲ハ、いかほどもかさをかけて聲をかけ、又、戦間のこゑハ、調子をひきく、底より出る聲にてかゝり、かちて後に、大き【脱字】強かくる聲、是三ツの聲也。又、一分の兵法にしても、敵をうごかさむため、打とミせて、かしらより、ゑいとこゑをかけ、聲の跡より太刀をうち出すもの也。又、敵をうちてあとに聲をかくる事、かちをしらする聲也。これを先後のこゑと云。太刀と一度に、大きに聲をかくる事なし。若、戦の中にかくるハ、拍子に乗る聲、ひきくかくる也。能々吟味有べし。

 【立花隨翁本】

一 三つの聲と云事。三つのこゑとハ、初中後の声と云て、三つにかけわくる事也。所により、声をかくるといふ事、専也。声ハ、いきをいなるによつて、火事などにもかけ、風波にもこゑをかけ、勢力をミする也。大分の兵法にしても、戦よりはじめにかくる声ハ、いかほどもかさを懸て聲をかけ、又、戦間のこゑハ、調子をひきく、底より出る声にてかゝり、かちて後に、大き【破損】強くかくる声、是三つの聲也。又、一分の兵法にしても、敵をうごかさんため、打と見せて、かしらより、ゑひとこゑをかけて、声の跡より太刀を打出すもの也。又、敵を打てあとに声をかくる事、かちをしらする声也。これを先後のこゑといふ。太刀と一度に、大きに声をかくる事なし。若、戦の中にかくるハ、拍子に乗る声、ひきくかくる也。能々吟味有べし。

 【赤見家甲本】

一 三つの聲と云事。三つのこゑとは、初中後の聲と云て、三つにかけわくる事也。所により、声をかくるといふ事、専也。声ハ、いきをいなるによつて、火事などにもかけ、風波にもこゑをかけ、勢力をミする也。大分の兵法にしても、戦よりはじめにかくる声は、いかほどもかさを懸て聲をかけ、又、戦間のこゑハ、調子をひきく、底より出る声にてかゝり、かちて後に大きに強くかくる声、是三つの声也。又、一分の兵法にしても、敵をうごかさんため、打と見せて、かしらより、ゑひとこゑをかけ、声の跡より太刀を打出すもの也。又、敵を打てあとに、聲をかくる事、かちをしらする聲也。これを先後のこゑといふ。太刀と一度に大きに声をかくる事なし。若、戦の中にかくるハ、拍子に乗る聲ひきくかくる也。能々吟味有べし。

 【中山文庫本】

一 三ツの声と云事。三ツのこゑとハ、初中後の聲と云て、三ツニかけわくる事也。所により、聲を懸ると云事、専也。聲はいきをひなるに依て、火事抔にもかけ、風波にもこゑをかけ、勢力をミする也。大分の兵法にしても、戦よりはじめに懸る聲ハ、いかほどもかさをかけて聲をかけ、又、戦間のこゑハ、調子をひきく、底より出る聲にてかゝり、かちて後に、大き【脱字】強かくる聲、是三ツの声也。又、一分の兵法にしても、敵をうごかさむため、打とミせて、かしらより、ゑいと聲をかけ、聲の跡より太刀をうち出すもの也。又、敵をうちて跡に聲をかくる事、勝をしらする声也。是を前後の聲と云。太刀と一度に、大きに聲をかくる事なし。若、戦の中にかくるハ、拍子に乗る聲、ひきく懸る也。能々吟味有べし。

 【近藤家甲本】

一 三つの聲と云事。三つの聲とハ、初中後の聲と云て、三つにかけわくる事也。所により、聲をかくると云事、専也。聲ハ、いきおひなるによつて、火事などにもかけ、風波にも聲をかけ、勢力をミする也。大分の兵法にしても、戦よりはじめにかくる聲は、いかほどもかさを懸て聲をかけ、又、戦間のこゑは、調子をひきく、底より出聲にてかゝり、かちて後に、大きに強くかくる聲、是三つの聲也。又、一分の兵法にしても、敵をうごかさんため、打と見せて、かしらより、ゑひとこゑをかけて、聲の跡より太刀を打出すもの也。又、敵を打てあとに聲をかくる事、かちをしらする聲也。これを先後の聲といふ。太刀と一度に、大きに聲をかくる事なし。若、戦の中にかくるハ、拍子に乗聲、ひきくかくる也。能々吟味有べし。

 【近藤家乙本】

一 三つの聲と云事。三つの聲とハ、初中後の聲と云て、三つにかけわくる事也。所により、聲をかくるといふ事、専也。聲は、いきおいなるによつて、火事などにもかけ、風波にも聲をかけ、勢力をミする也。大分の兵法にしても、戦よりはじめにかくる聲は、いかほどもかさを懸て聲をかけ、又、戦間のこゑは、調子をひきく、底より出る聲にてかゝり、かちて後に、大きに強くかくる聲、是三つの聲也。亦、一分の兵法にしても、敵をうごかさんため、打と見せて、かしらより、ゑひとこゑをかけて、聲の跡より太刀を打出すもの也。又、敵を打てあとに聲をかくる事、かちをしらする聲也。これを先後の聲といふ。太刀と一度に、大きに聲をかくる事なし。若、戦の中にかくるは、拍子に乗る聲、ひきくかくる也。能々吟味有べし。

 【鈴木家本】

一 三ツの聲と云事。三ツのこゑとハ、初中後の聲と云て、三ツにかけわくる事也。所により、聲をかくると云事、専也。聲ハ、いきおひなるによつて、火事などにもかけ、風波にもこゑをかけ、勢力をミする也。大分の兵法にして【脱字】、戦よりはじめにかくる聲ハ、いかほどもかさをかけて聲をかけ、又、戦間のこゑは、調子をひきく、底より出る聲にてかゝり、かちて後に、大(き)に強かくる聲、是三ツの聲也。又、一分の兵法にしても、敵をうごかさんため、打とミせて、かしらより、ゑひとこゑをかけ、聲のあとより太刀をうち出すもの也。又、敵を打て跡に、聲をかくる事、かちをしらする聲也。これを先後のこゑと云。太刀と一度に大きに聲をかくる事なし。若、戦の中にかくるハ、拍子に乗る聲ひきくかくる也。能々吟味有べし。

 【伊藤家本】

一 三つの聲と云事。三つの聲とハ、初中後の聲と云て、三つにかけわくる事也。所により、聲をかくるといふ事、専也。聲は、いきおひなるによつて、火事などにもかけ、風波にも聲をかけ、勢力をミする也。大分の兵法にしても、戦よりはじめにかくる聲は、いかほどもかさを懸て聲をかけ、又、戦間のこゑは、調子をひきく、底より出聲にてかゝり、かちて後に、大きに強くかくる聲、是三つの聲也。又、一分の兵法にしても、敵をうごかさんため、打と見せて、かしらより、ゑひとこゑをかけて、聲の跡より太刀を打出すもの也。又、敵を打てあとに聲をかくる事、かちをしらする聲也。これを先後の聲といふ。太刀と一度に、大きに聲をかくる事なし。若、戦の中にかくるハ、拍子に乗聲、ひきくかくる也。能々吟味有べし。

 【石井家本】

一 三つの聲と云事。三つの聲とハ、初中後の聲といふて、三つにかけわくる事也。所により、聲をかくるといふ事、専也。聲は、いきおひなるによつて、火事などにもかけ、風波にも聲をかけ、勢力をミする也。大分の兵法にしても、戦よりはじめにかくる聲は、いかほどもかさを懸て聲をかけ、又、戦間のこゑは、調子をひきく、底より出聲にてかゝり、かちて後に、大きに強くかくる聲、是三つの聲也。又、一分の兵法にしても、敵をうごかさんため、打と見せて、かしらより、ゑひとこゑをかけて、聲の跡より太刀を打出すもの也。又、敵を打てあとに聲をかくる事、かちをしらする聲也。これを先後のこゑといふ。太刀と一度に、大きに聲をかくる事なし。若、戦の中にかくるハ、拍子に乗る聲、ひきくかくる也。能々吟味有べし。  

 【神田家本】

一 三つの聲と云事。三つの聲とハ、初中後の聲と云て、三つにかけわくる事也。所により、聲をかくるといふ事、専也。聲は、いきおひなるによつて、火事などにもかけ、風波にも聲をかけ、勢力をミする也。大分の兵法にしても、戦よりはじめにかくる聲は、いかほどもかさを懸て聲をかけ、又、戦間のこゑは、調子をひきく、底より出聲にてかゝり、かちて後に、大きに強くかくる聲、是三つの聲也。又、一分の兵法にしても、敵をうごかさんため、打と見せて、かしらより、ゑひとこゑをかけて、聲の跡より太刀を打出すもの也。又、敵を打てあとに聲をかくる事、かちをしらする聲也。これを先後の聲といふ。太刀と一度に、大きに聲をかくる事なし。若、戦の中にかくる(ハ)、拍子に乗聲、ひきくかくる也。能々吟味有べし。

 【猿子家本】

一 三つの聲と云事。三つの聲とハ、初中後の聲と云て、三つにかけわくる事也。所により、聲をかくるといふ事、専也。聲ハ、勢ひなるに依て、火事抔にもかけ、風波にも聲をかけ、勢力を見する也。大分の兵法にしても、戦より初にかくる聲は、いか程もかさを懸て聲をかけ、又、戦間のこゑは、調子をひきく、底より出聲にてかゝり、かちて後に、大きに強くかくる聲、是三つの聲也。又、一分の兵法にしても、敵をうごかさんため、打と見せて、かしらより、ゑひとこゑ をかけて、聲の跡より太刀を打出ものなり。又、敵を打て跡に聲をかくる事、かちをしらする聲聲也。是を先後の聲といふ。太刀と一度に、大きに聲をかくる事なし。若、戦の内にかくる【脱字】、拍子に乗聲、ひきくかくる也。能々吟味有べし。

 【楠家本】

一 三ツの聲と云事。三ツの聲とは、初中後の聲といひて、三ツにかけ分る事也。處により聲をかくるといふ事、専也。聲はいきおいなるによつて、火事などにもかけ、風波にもかけ、聲ハ勢力を見する也。大分の兵法にしても、戦より初にかくる聲ハ、いか程もかさをかけて聲をかけ、又、たゝかふ間の聲ハ、調子をひきく、底より出る聲にてかゝり、かちて後跡に、大きにつよくかくる聲、是三ツの聲也。又、一分の兵法にしても、敵をうごかさんため、打とミせて、かしらより、ゑいと聲をかけ、聲のあとより太刀を打出すもの也。【脱字】敵を打てあとに聲をかくる事、かちをしらする聲也。是を先後の聲といふ。太刀と一度に、大きに聲をかくる事なし。若、たゝかひの中にかくるハ、拍子にのる聲、ひきくかくる也。能々吟味有べし。

 【細川家本】

一 三ツの声と云事。三ツのこゑとは、初中後の声といひて、三ツにかけ分る事也。所によりこゑをかくると云事、専也。声ハいきをいなるによつて、火事などにもかけ、風波にもかけ、声ハ勢力を見する也。大分の兵法にしても、戦より初にかくる声は、いかほどもかさをかけて声をかけ、亦、戦ふ間の声ハ、調子をひきく、底より出る声にてかゝり、かちて後跡に、大きにつよくかくる声、是三ツの声也。又、一分の兵法にしても、敵をうごかさん為、打と見せて、かしらより、ゑいと声をかけ、声の跡より太刀を打出すもの也。又、敵を打てあとに声をかくる事、勝をしらする声也。是を先後の声と云。太刀と一度に、大きに声をかくる事なし。若、戦の内にかくるは、拍子にのるこゑ、ひきくかくる也。能々吟味あるべし。

 【丸岡家本】

一 三ツの聲と云事。三ツの聲とは、初中後の聲と云て、三ツにかけ分る事也。處により聲をかくるといふ事、専也。聲は勢ひなるに因て、火事などにもかけ、風波にもかけ、聲は勢力を見する也。大分の兵法ニしても、戦より初にかくる聲は、いかほどもかさをかけて聲をかけ、又、戦ふ間の聲は、調子をひきく、底より出る聲にてかゝり、勝て後跡に、大キに強くかくる聲、是三ツの聲也。又、一分の兵法ニしても、敵を動さんため、打と見せて、首より、ゑいと聲をかけ、聲のあとより太刀を打出す者也。又、敵を打て後に聲をかくること、勝をしらする聲也。是を先後の聲と云。太刀と一度に、大キに聲をかくることなし。若、戦の中にかくるは、拍子に乘聲、ひきくかくる也。能々吟味あるべし。

 【富永家本】

一 三ツの聲といふ事。三ツの聲とハ、初中後の聲といふて、三ツに懸分る事なり。所により聲を懸るといふ事、専なり。聲ハいきをゐ成によつて、火事抔にも懸、風波にも【脱字】聲ハ勢力を見するなり。大分の兵法にしても、戦より初に懸る聲ハ、如何程もかさを懸て聲を懸、又、戦の間の聲ハ、調子をひきく、底より出る聲にてかゝり、かちて後跡に、大きにつよくかくる聲、是三ツのこゑ也。又、一分の兵法にしても、敵をうごかさんため、打と見せて、頭より、ゑひと聲をかけ、聲の跡より太刀を打出すものなり。又、敵を打て跡に聲を懸る事、勝を知らする聲なり。是を先後の聲といふ。太刀と一度に、大きに聲を懸る事なし。若、戦の中にかくるハ、拍子にのる聲、ひきく懸る也。能々吟味有べし。

 【常武堂本】

一 三ツの声と云事。三ツのこゑとハ、初中後の声といひて、三ツにかけわくる事也。所によりこゑをかくると云事、専也。声ハいきをいなるによつて、火事などにもかけ、声波にもかけ、声ハ勢力をみする也。大分の兵法にしても、戦より初にかくる声ハ、いかほどもかさをかけて声をかけ、亦、戦ふ間の声ハ、調子をひきく、底より出る声にてかゝり、かちて後跡に、大きにつよくかくる声、是三ツの声也。又、一分の兵法にしても、敵をうごかさんため、打とみせて、かしらより、ゑいと声をかけ、声の跡より太刀を打出すもの也。又、敵を打てあとに声をかくる事、勝をしらする声也。是を先後の声と云。太刀と一度に、大きに声をかくる【脱字】なし。若、戦の内にかくる声ハ、拍子にのるこゑ、ひきくかくる也。能々吟味あるべし。

 【田村家本】

 三ツノ声ト云事 【脱字****】初中後ノ声ト云テ、三ツカケワクルコト也。所ニヨリ声ヲカクルト云事、専也。声ハ勢ヒナルニ因テ、火事ナドニモカケ、風波ニモカケ、声ハ勢力ヲミスルナリ。大分ノ兵法ニシテモ、戦ヨリ初ニカクルコヱハ、イカニモカサヲ【脱字】カケ、又、闘間ノコヱハ、調子ヲヒキク、底ヨリ出ル声ニテ【脱字*************】カヽル声、是三ツノ声也。又、一分ノ兵法ニシテモ、敵ヲ動サンタメ、打トミセテ、カシラヨリヱイト声ヲカケ、声ノ跡ヨリ太刀ヲ打出物也。又、テキヲウツテアトニコヘヲカクル事、勝ヲシラスル声也。是ヲ先後ノ声ト云。太刀ト一度ニ、大キニ声ヲカクル事ナシ。若、戦ノウチニカクルハ、拍子ニノル声、ヒキクカクル也。能々吟味アルベシ。

 【狩野文庫本】

一 三ツの聲と云事。三ツの聲と云ハ、初中後の聲と云て、三ツにかけわくる聲也。所ニより聲を懸ると云事、専也。聲ハ息をいなるによつて、火事抔ニも掛、風波ニも懸、聲ハ勢力を見するなり。大分の兵法にしても、戦より初に懸ハ聲いかほどもかさを懸て聲を懸ケ、また、戦間の聲は、調子をひきゝ、底より出聲ニ而かゝり、勝て後跡に、大につよく懸る聲、是三ツの聲也。又、一分の兵法にしても、敵をうごかさんため、打と見せて、かしらより、ゑいと聲を懸、聲の跡より太刀を打出物也。又、敵を打て跡に聲を懸る事、勝をしらする聲也。是を前後の聲と云。太刀と一度に、大きにこゑを懸る【脱字】なし。若戦の内に懸ハ、拍子に乘聲、ひきく掛也。能々吟味有べし。

 【多田家本】

一 【脱字*****】三つの聲とハ、初中後の聲と云て、三つにかけわくる事也。所により、聲をかくると云事ハ、専也。聲ハ、いきほひ成に依て、火事抔にもかけ、風波にもかけ、聲ハ勢力を見する者也。大分の兵法にしても、戦より初にかくる聲ハ、如何程もかさを懸て聲をかけ、又、戦間の聲ハ、調子をひきく、底より出る聲にてかゝり、勝て後跡に、大きに強くかくる聲、是三つの聲也。又、一分の兵法にしても、敵をうごかさん為、打と見せ【脱字】、かしらより、ゑひと聲をかけ、聲の跡より太刀を打出すもの也。又、敵を打て跡に、聲をかくる事、勝をしらする聲也。是を前後の聲と云。太刀と一度に大きに【脱字*************】拍子にのる聲、ひきくかくる【脱字】。能々吟味有べし。

 【山岡鉄舟本】

一 三ツノ聲ト云事。三ツノ声トハ、初中後ノ声ト云テ、三ツニ懸分ル事也。所ニヨリ聲ヲ掛ルト云事、専也。聲ハ勢成ルニヨリテ、火事抔ニモ懸ケ、風波ニモカケ、声ハ勢力ヲ見スル也。大分之兵法ニシテモ、戦ヨリ初ニ掛ル声ハ、イカ程モカサヲ掛テ聲ヲ掛ケ、亦、戦間之声ハ、調子【脱字】ヒキク、底ヨリ出ル声ニテ懸リ、勝テ後、跡ニ大キニ強く掛ル声、是三之物也。又、一分ノ兵法ニシテモ、敵ヲ動サン為、打ト見セテ、頭ヨリ、ヱイト声ヲ懸ケ、聲ノ跡ヨリ太刀ヲ打出ス物也。又、敵ヲ打テ跡ニ声ヲ懸ル事、勝ヲ知スル声也。是ヲ先後ノ聲ト云。太刀ト一度ニ、大キニ声ヲ掛ル事ナシ。若シ戦ノ中ニ懸ルハ、拍子ニ乗ル聲、ヒキク懸ル也。能々吟味有ベシ。

 【稼堂文庫本】

一 三ツの聲と云事。三ツの聲と云ハ、初中後の聲と云て、三ツに懸分ること也。所により聲をかくると云事、専也。聲は勢ひ成によりて、火事抔にも懸、風波にもかけ、聲ハ勢【脱字】を見する為也。大分の兵法にしても、戦方より懸るこへは、如何程もかさを懸けて聲を高く懸、又、戦間の聲ハ、調子をひきく、底より出る聲にてかゝり、勝て後跡に、【脱字】強くつくる聲、是三ツの聲也。又、一分の兵法にしても、敵をうごかさん為、打と見せて、頭より、ゑひと聲をかけ、聲の跡より太刀を打出す者也。又、敵を打て跡に聲を懸ること、勝を知らする聲也。是を先後の聲と云。太刀と一度に、大きに聲をかくることなし。若、戦の内にかくる聲は、拍子に乗る聲、ひきく懸る也。よく/\吟味有べし。  

 【大瀧家本】

一 三ツ【脱字】聲と云事。三ツの聲と云ハ、初中後の聲といふて、三ツに懸分る事也。所により聲を懸ると云事、専也。聲ハ勢ひなるに依て、火事抔にもかけ、風波にも聲を懸るハ、勢力を見する也。大分の兵法にしても、戦より初に懸る聲ハ、如何程もかさを懸て聲を懸、又、戦の間の聲ハ、調子をひきく、底より出る聲にて懸り、勝て後に大きに強く懸る聲、是三ツの聲也。又、一分の兵法にしても、敵を動かさん為、打と見せて、かしらより、えいと聲を懸て、聲の跡より太刀を打出すもの也。また、敵を打て跡に聲を懸る事、勝を知らする聲なり。是を先後の聲と云。太刀と一度に、大に聲を懸る事なし。若、戦の中にかくる【脱字】、拍子に乗聲、ひきく懸るなり。能々吟味あるべし。    PageTop    Back   Next 

  20 まぎる(ゝ)と云事

 【吉田家本】

一 まぎるゝ【以下同じ】と云事。まぎるゝと云ハ、大分の戦にしてハ、人数をたがひに立合、敵の強きとき、まぎるゝと云て、敵の一方へかゝり、敵くずるゝとミば、すてゝ、又強き方々へかゝる。大かた、つゞらをりに懸る心也。一分の兵法にして、敵を大勢よするも、此心専也。方々をかたす、方々にげば、又、強き方へかゝり、敵の拍子を得て、能拍子に、左右とつゞらをりの心に思ひて、敵【脱字】色を見合てかゝるもの也。其敵の位を得、打とをるにおゐてハ、少も引心なく、強くかつ利也。一分入身のときも、敵の強きにハ、其心あり。まぎるゝと云事、一足も引事をしらず、まぎれゆくと云心、能々分別すべし。

 【立花隨翁本】

一 まぎるゝ【以下同じ】と云事。まぎるゝと云ハ、大分の戦にしてハ、人数をたがひに立合、敵の強きとき、まぎるゝと云て、敵の一方へ懸り、敵くづるゝとミば、すてゝ、又強き方々へかゝる。大方、つゞら折にかゝる心也。一分の兵法にして、敵を大勢よするも、此心専也。方々をかたす、方々にげバ、又強き方へかゝり、敵の拍子を得て、能拍子に、左右とつゞら折の心に思ひて、敵のいろを見合てかゝるもの也。其敵の位を得、打通るにをいてハ、少も引心なく、強くかつ利也。一分入身のときも、敵の強きにハ、其心あり。まぎるゝと云事、一足も引事をしらず、まきれゆくと云心、能々分別すべし。

 【赤見家甲本】

一 まぎるゝ【以下同じ】と云事。まぎるゝと云ハ、大分の戦にしてハ、人数をたがひに立合、敵の強きとき、まぎるゝと云て、敵の一方へ懸り、敵くづるゝとミばすてゝ、又強き方【脱字】にかゝる。大方、つゞら折にかゝる心也。一分の兵法にして、敵を大勢よするも、此心専也。方々をかたす、方々にげバ、又強き方へかゝり、敵の拍子を得て、能拍子に、左右とつゞら折の心に思ひて、敵のいろを見合てかゝるものなり。其敵の位を得、打通るにおゐてハ、少も引心なく、強くかつ利也。一分入身のときも、敵の強きにハ、其心あり。まぎるゝと云事、一足も引事をしらず、まきれゆくと云心、能々分別すべし。

 【中山文庫本】

一 まぎるゝ【以下同じ】と云事。まぎるゝと云ハ、大分の戦にしてハ、人数を互に立合、敵の強とき、まぎるゝと云て、敵の一方へかゝり、敵くずるゝとミば、すてゝ、又強き方々へかゝる。大かた、つゞらをりに懸る心也。一分の兵法にして、敵を大勢よするも、此心専也。方々をかたす、方々にげバ、又強き方へかゝり、敵の拍子を得て、能拍子に左右とつゞらをりの心に思ひて、敵【脱字】色を見合てかゝるもの也。其敵の位を得、打とをるに於てハ、少も引心なく、強く勝利也。一分入身の時も、敵の強きには、其心あり。まぎるゝと云事、一足も引事をしらず、まぎれゆくと云心、能々分別すべし。

 【近藤家甲本】

一 まぎるゝ【以下同じ】と云事。まぎるゝと云ハ、大分の戦にしてハ、人数をたがひに立合、敵の強きとき、まぎるゝと云て、敵の一方へ懸り、【脱字】くづるゝと見ば、すてゝ、又強き方【脱字】へかゝる。大方、つゞら折にかゝる心也。一分の兵法にして、敵を大勢よするも、此心専也。方々をかたす、方/\にげバ、又強き方へかゝり、敵の拍子を得て、能拍子に、左右とつゞら折の心に思ひて、敵のいろを見合てかゝるもの也。其敵の位を得、打通るにおゐては、少も引心なく、強くかつ利也。一分入身のときも、敵の強きにハ、其心あり。まぎるゝと云事、一足も引事をしらず、まきれゆくと云心、能々分別すべし。

 【近藤家乙本】

一 まぎるゝ【以下同じ】と云事。まぎるゝと云は、大分の戦にしてハ、人数をたがひに立合、敵の強きとき、まぎるゝと云て、敵の一方へ懸り、敵くづるゝと見ば、すてゝ、又強き方【脱字】へかゝる。大方、つゞら折にかゝる心也。一分の兵法にして、敵を大勢よするも、此心専也。方々をかたす、方/\にげバ、又強き方へかゝり、敵の拍子を得て、能拍子に、左右とつゞら折の心に思ひて、敵のいろを見合てかゝるもの也。其敵の位を得、打通るにおひては、少も引心なく、強くかつ利也。一分入身のときも、敵の強きには、其心あり。まぎるゝと云事、一足も引事をしらず、まきれゆくと云心、能々分別すべし。

 【鈴木家本】

一 まぎるゝ【以下同じ】と云事。まぎるゝと云ハ、大分の戦にしてハ、人数をたがひに立合、敵の強きとき、まぎるゝと云て、敵の一方え(へ)かゝり、敵くずるゝとミばすてゝ、又強き方々へかゝる。大かた、つゞらをりに懸心也。一分の兵法にして、敵を大勢よするも、此心専也。方々をかたす、方々にげば、又強き方へかゝり、敵の拍子を得て、能拍子に左右とつゞらをりの心に思ひて、敵【脱字】色を見合てかゝるもの也。其敵の位を得、打とをるにおゐてハ、少も引心なく、強くかつ利なり。一分入身のときも、敵の強きにハ、其心有。まぎるゝと云事、一足も引事をしらず、まぎれゆくと云心、能々分別すべし。

 【伊藤家本】

一 まぎるゝ【以下同じ】と云事。まぎるゝと云ハ、大分の戦にしては、人数をたがひに立合、敵の強きとき、まぎるゝと云て、敵の一方へ懸り、敵くづるゝと見ば、すてゝ、又強き方【脱字】へかゝる。大方、つゞら折にかゝる心也。一分の兵法にして、敵【脱字】大勢よするも、此心専也。方々をかたす、方々にげバ、又強き方へかゝり、敵の拍子を得て、能拍子に、左右とつゞら折の心に思ひて、敵のいろを見合てかゝるもの也。其敵の位を得、打通るにおゐては、少も引心なく、強くかつ利也。一分入身のときも、敵の強きにハ、其心あり。まぎるゝと云事、一足も引事をしらず、まきれゆくと云心、能々分別すべし。

 【石井家本】

一 まぎるゝ【以下同じ】と云事。まぎるゝと云ハ、大分の戦にしてハ、人数をたがひに立合、敵の強きとき、まぎるゝと云て、敵の一方へかゝり、敵くづるゝ と見ば、すてゝ、又強き方【脱字】へかゝる。大方、つゞら折にかゝる心也。一分の兵法にして、敵を大勢よするも、此心専也。方々をかたす、方/\にげバ、又強き方へかゝり、敵の拍子を得て、能拍子に、左右とつゞら折の心に思ひて、敵のいろを見合てかゝるもの也。其敵の位を得、打通るにおひては、少も引心なく、強く勝利也。一分入身のときも、敵の強きにハ、其心あり。まぎるゝと云事、一足も引事をしらず、まぎれゆく(といふ)心、能々分別すべし。  

 【神田家本】

一 まぎるゝ【以下同じ】と云事。まぎるゝと云ハ、大分の戦にしてハ、人数をたがひに立合、敵の強きとき、まぎるゝと云て、敵の一方へ懸り、敵くづるゝと見ば、すてゝ、又強き方【脱字】へかゝる。大方、つゞら折にかゝる心也。一分の兵法にして、敵を大勢よするも、此心専也。方々をかたす、方/\にげバ、又強き方へかゝり、敵の拍子を得て、能拍子に、左右とつゞら折の心に思ひて、敵のいろを見合てかゝるもの也。其敵の位を得、打通るにおひては、少も引心なく、強く勝利也。一分入身のときも、敵の強きにハ、其心あり。まぎるゝと云事、一足も引事をしらず、まきれゆく(といふ)心、能々分別すべし。

 【猿子家本】

一 まぎるゝ【以下同じ】と云事。まぎるゝと云ハ、大分の戦にしてハ、人数をたがひに立合、敵の強き時、まぎるゝと云て、敵の一方へ懸り、敵崩るゝと見ば、捨て、又強き方【脱字】へかゝる。大方、つゞら打にかゝる心也。一分の兵法にして、敵を大勢よするも、此心専也。方々をかたす、方/\にげバ、又強き方へかゝり、敵の拍子を得て、能拍子に、左右とつゞら折の心に思ひて、敵の色を見合てかゝるもの也。其敵の位を得、打通るにおいてハ、少も引心なく、強く勝利也。一分入身の時も、敵の強きにハ、其心あり。まぎるゝと云事、一足も引事をしらず、まきれ行【脱字】心、能々分別すべし。

 【楠家本】

一 まぎるゝ【以下同じ】と云事。まぎるゝといふハ、大分のたゝかひにしてハ、人数を互にたて合、敵のつよき時、まぎるゝといひて、敵の一方へかゝり、敵くづるゝとミバ、すてゝ、又つよき方々へかゝる。大かた、つゞらおりにかゝる心也。一分の兵法にして、敵を大勢よするも、此心専也。方々をかたす、方々にげば、又、つよき方へかゝり、敵の拍子を得て、よき拍子ニ、左右とつゞらおりの心に思ひて、敵のいろを見合てかゝるもの也。其敵のくらゐを得、打とをるにおゐてハ、少も引心なく、つよくかつ利也。一分入身の時も、敵のつよきにハ、其心あり。まぎるゝといふ事、一足も引事をしらず、まぎれゆくといふ心、能々分別すべし。

 【細川家本】

一 まぎるゝ【以下同じ】と云事。まぎるゝといふハ、大分の戦にしてハ、人数を互にたて合、敵のつよき時、まぎるゝといひて、敵の一方へかゝり、敵くづるゝと見バ、すてゝ、又つよき方々へかゝる。大形、つゞらおりにかゝる心也。一分の兵法にして、敵を大勢よするも、此心専也。方々をかたす、方々にげバ、亦、つよき方へかゝり、敵の拍子を得て、よき拍子に、左みぎとつゞらおりの心におもひて、敵の色を見合てかゝるもの也。其敵の位を得、打とをるにおゐては、少も引心なく、つよくかつ利也。一分入身の時も、敵のつよきには、其心あり。まぎるゝと云事、一足も引事をしらず、まぎれゆくと云心、能々分別すべし。

 【丸岡家本】

一 紛るゝ【以下同じ】と云事。まぎるゝと云ハ、大分の戦にしては、人数を互に立合せ、敵のつよき時、まぎるゝと云て、敵ノ一方へ懸り、敵くづるゝと見バ、捨て、又、強キ方々へかゝる。大かた、つゞら折にかゝる心也。一分の兵法ニして、敵を大勢寄るも、此心専也。方々をかたす、方々にげば、又、つよき方へかゝり、敵の拍子を得て、能拍子に、左右とつゞらおりの心に思て、敵の色を見合てかゝる者也。其敵の位を得、打とをふるにおゐては、少も引心なく、強く勝つ利也。一分入身の時も、敵の強キには、其心あり。紛るゝといふ事、一足も引ことをしらず、まぎれ行と云心、能々分別すべし。

 【富永家本】

一 まぎるゝ【以下同じ】と云事。まぎるゝと云ハ、大分の戦ニしてハ、人数を互に立合、敵の強き時、まぎるゝと云て、敵の一方へ懸り、敵崩るゝと見バ、すてゝ、また強き方【脱字】へ懸る。大かた、つゞら折に懸る心也。一分の兵法ニして、敵を大勢寄【脱字】るも、此心専なり。方々をかたす、方々にげバ、又、強き方へ懸り、敵の拍子を得て、能拍子に、左右とつゞら折の心に思ひて、敵の色を見分て懸る者なり。其敵の位を得、打と見るにおゐてハ、少も引心なく、強勝利なり。一分の入身の時も、敵の強きにハ、其心有。まぎるゝと云事、一足も引事を知らず。まぎれ行と云心、能々分別すべし。

 【常武堂本】

一 まぎるゝ【以下同じ】と云事。まぎるゝといふハ、大分の戦にしてハ、人数をたがひにたてあはせ、敵のつよき時、まぎるゝといひて、敵の一方へかゝり、敵くづるゝと見バ、すてゝ、又つよき方【脱字】へかゝる。大形、つゞらおりにかゝる心也。一分の兵法にして、敵を大勢よするも、此心専也。方々をかたす、方々にげバ、亦、つよき方へかゝり、敵の拍子を得て、よき拍子に、左みぎとつゞらおりの心におもひて、敵の色を見合てかゝるもの也。其敵の位を得、打とをりに於てハ、少も引心なく、つよくかつ利也。一分入身の時も、敵のつよきにハ、其心あり。まぎるゝといふ事、一足も引事をしらず、まぎれゆくといふ心、能々分別すべし。

 【田村家本】

 紛ルヽ【以下同じ】ト云事 【脱字****】大分ノ戦ニシテハ、人数ヲ互ニ立合、テキノ強キ時、紛ルヽト云テ、敵ノ一方ヘカヽリ、敵ノ崩ルヽト見バ、捨テ、亦、強キ方々ヱカヽル。大方、ツヾラ折ニカヽル心也。一分ノ兵法ニシテ、敵ヲ大ゼイ寄ルモ、此心専也。方々ヲカタス、方々エニゲバ、亦、ツヨキ方ヘカヽリ、敵ノ拍子ヲ受テ、能拍子ニ、左右トツヾラ折ノ心ニ思ヒテ、敵ノ色ヲ見合セテ懸ルモノ也。ソノ敵ノ位ヲ得、打通ルニヲヒテハ、少モ引心ナク、ツヨク勝利也。一分入身ノ時モ、敵ノツヨキニハ。其心有。紛ルヽト云事、一足モ引事ヲシラズ、マギレ行ト云心、能々分別スベシ。

 【狩野文庫本】

一 まぎるゝ【以下同じ】と云事。まぎるゝと云ハ、大分の戦にしてハ、人数を互ニ立合、敵の強時、まぎるゝといつて、敵の一方へ懸、敵崩るゝと見ば、捨【脱字】、また、強き方/\へ懸。大形、つゞら折ニ懸る心也。一分の兵法ニしても、敵を大勢寄も、此心専也。方/\をかたす、方/\へ迯ば、又、強方へ懸、敵の拍子を得て、能拍子ニ、左右もつゞら折の心に思ひて、敵の色を見合て懸る者也。其敵の位を得、打通るにおゐて【脱字】、少も引心なく、強勝利なり。一分入身の時も、敵の強にも、其心有。まぎるゝと云事、一足も引事をしらず、まぎれ行と云心、能々分別すべし。

 【多田家本】

一 【脱字****】。まぎる【◇】と云ハ、大分の戦にしてハ、人数を互に立合、敵の強き時、まぎるゝ【以下同じ】と云て、敵の一方へ懸り、敵崩るゝとみば、捨て、又強き方【脱字】へ懸る。大形、つゞら折に懸る心也。一分の兵法にしても、敵を大勢よするも、此心専也。方々をかたす、方々にげば、又強き方へ懸り、敵の拍子を得て、能拍子に、左右とつゞら折のこゝろに思ひて、敵の色を見合て懸るもの也。其敵の位を得、打とをるにをひてハ、少も引心なく、強く勝利也。一分の入身の時も、敵の強きにハ、其心有。まぎるゝと云事、一足も引事をしらず、まきれ行と云心、よく/\分別すべし。(★改行なしで次条へ連続)

 【山岡鉄舟本】

一 マギルヽ【以下同じ】ト云事。紛ト云ハ、大分ノ戦ニシテハ、人数ヲ互ニ立合、敵ノ強時、紛ルト云テ、敵ノ一方ヘ懸リ、敵崩ルヽト見バ捨テ、亦、【脱字】方々ヘ懸ル。大形ツヾラヲリニ懸ル心也。一分ノ兵法ニシテ、敵【脱字】大勢寄ルモ、此心専也。方々大形【脱字】ニゲバ、又、強キ方ヘ掛リ、敵ノ拍子ヲ得テ、【脱字**】左右トツヾラヲリノ心ニ思テ、敵ノ色ヲ見合テ懸ル物也。其敵ノ位ヲ得、打トヲル【脱字】於テハ、少モ引心ナク、強ク勝利也。一分入身之時モ、敵ノ強キニハ、其心有。紛ト云事、一足モ引事ヲシラズ、紛レユクト云心、能々分別スベシ。

 【稼堂文庫本】

一 まぎるゝ【以下同じ】と云事。まぎるゝと云ハ、大分の戦にしては、人数を互に立合せ、敵の強き時、まぎるゝと云て、敵の一方よりかゝり、敵崩るゝと見ば、捨て、又つよき方【脱字】へ懸る。大形、つゞら折に懸る心也。一分の兵法にしても、敵を大勢寄ルも、此心専也。方々をかたす、方々にげバ、また、強き方へかゝり、敵の拍子を得て、能き拍子に、左右とつゞら折の心に思ひて、敵の色を見合て懸る者也。凡その敵の位を得て、打とめるにおひては、少も引心なく、強く勝利也。一分の入身の時も、敵の強きには、其心有り。まぎるゝと云こと、一足もひく事に非ず、紛レ行と云心ニて、能々分別すべし。  

 【大瀧家本】

一 紛るゝ【以下同じ】と云事。まぎるゝといふハ、大分の戦にしてハ、人数を互に立合せ、敵の強き時、まぎるゝと云て、敵の一方へ懸り、敵崩るゝと見ば、捨て、又強き方【脱字】へ懸り、大方、つゞら折にかゝる心なり。一分の兵法にしても、敵を大勢寄するも、此心専也。かた/\をかたす、かた/\にげば、又、強き方へ懸り、敵の拍子を得て、能拍子に、左右【脱字】つゞら折の心に思ひて、敵の色を見合て懸るもの也。其敵の位を得、打て通るにおゐてハ、少も引心なく、強く勝利也。一分入身の時も、敵の強きにハ、其心有。まぎるゝと云事、一足も引事を知らず、紛れ行【脱字】云心、能々分別有べし。    PageTop    Back   Next 

  21 ひしぐと云事

 【吉田家本】

一 ひしぐと云事。ひしぐと云ハ、たとヘバ、敵を弱ミなして、我つよめになつて、ひしぐと云心専也。大分の兵法にしても、敵小人数の位をミこなし、又ハ、大勢なりとも、敵うろめきてよハミ付所なれバ、ひしぐと云て、かしらよりかさをかけて、おつひしぐ心也。ひしぐ事弱ければ、もてかへす事有。手のうちににぎつてひしぐ心、能々分別すべし。又、一分の兵法のときも、我手に不足のもの、又ハ、敵の拍子ちがひ、すさりめになる時、少もいきをくれず、めを見合ざる様になし、真直にひしぎつくる事、肝要也。少もおきたてさせぬ所、第一也。よく/\吟味有べし。

 【立花隨翁本】

一 ひしぐと云事。ひしぐといふハ、たとヘバ、敵を弱ミなして、我つよめになつて、ひし【破損◇◇◇】。大分の兵法にしても、敵小人数の位を見こなし、又ハ、大勢なりとも、敵うろめきて、よハミ付所なれバ、ひしぐと云て、かしらよりかさをかけて、をつひしぐ心也。ひしぐ事弱けれバ、もてかへす事有。手のうちににぎつてひしぐ心、能々分別すべし。又、一分の兵法の時も、我手に不足のもの、又ハ、敵の拍子ちがひ、すさりめになる時、少もいきをくれず、めを見合ざる様になし、真直にひしぎつくる事、肝要也。【脱字】おきたてさせぬ所、第一也。能々吟味有べし。

 【赤見家甲本】

一 ひしぐと云事。ひしぐといふハ、たとヘバ、敵を弱ミなして、我つよめになつて、ひしぐと云心【脱字】也。大分の兵法にしても、敵小人数の位を見こなし、又は大勢なりとも、敵うろめきて、よハミ付所なれバ、ひしぐと云て、かしらよりかさをかけて、をつひしぐ心也。ひしぐ事弱けれバ、もてかへす事有。手のうちににぎつてひしぐ心、能々分別すべし。又、一分の兵法の時も、我手に不足のもの、又は、敵の拍子ちがひ、すさりめになる時、少もいきをくれず、めを見合ざる様になし、真直にひしぎつくる事、肝要也。【脱字】おきたてさせぬ所、第一也。能々吟味有べし。

 【中山文庫本】

一 ひしぐと云事。ひしぐと云ハ、たとヘバ、敵を弱ミなして、我つよめになつて、ひしぐと云心専也。大分の兵法にしても、敵小人数の位をミこなし、又ハ、大勢なりとも、敵うろめきて、よわみ付所なれバ、ひしぐと云て、かしらよりかさをかけて、おひひしぐ心也。ひしぐ事弱けれバ、もてかへす事有。手のうちににぎつてひしぐ心、能々分別すべし。又、一分の兵法のときも、我手に不足のもの、又ハ、敵の拍子ちがひ、すさりめになる時、少もいきをくれず、めを見合ざる様になし、真直にひしぎつくる事、肝要也。少もおきたてさせぬ所、第一なり。能々吟味あるべし。

 【近藤家甲本】

一 ひしぐと云事。ひしぐと云は、たとヘバ、敵を弱ミなして、我つよめになつて、ひしぐと云心【脱字】也。大分の兵法にしても、敵小人数の位を見こなし、又は、大勢なりとも、敵うろめきて、よハミ付所なれバ、ひしぐと云て、かしらよりかさをかけて、おつひしぐ心也。ひしぐ事弱けれバ、もてかへす事有。手のうちににぎつてひしぐ心、能々分別すべし。又、一分の兵法の時も、我手に不足のもの、には、敵の拍子ちがひ、すさりめになる時、少もいきをくれず、めを見合ざる様になし、真直にひしぎつくる事、肝要也。【脱字】おきたてさせぬ所、第一也。能々吟味有べし。

 【近藤家乙本】

一 ひしぐと云事。ひしぐと云は、たとヘバ、敵を弱ミなして、我つよめになつて、ひしぐと云心【脱字】也。大分の兵法にしても、敵小人数の位を見こなし、又は、大勢なりとも、敵うろめきて、よハミ付所なれバ、ひしぐと云て、かしらよりかさをかけて、おつひしぐ心也。ひしぐ事弱けれバ、もてかへす事有。手のうちににぎつてひしぐ心、能々分別すべし。亦、一分の兵法の時も、我手に不足のもの、又は、敵の拍子ちがひ、すさりめになる時、少もいきをくれず、めを見合ざる様になし、真直にひしぎつくる事、肝要也。【脱字】おきたてさせぬ所、第一也。能々吟味有べし。

 【鈴木家本】

一 ひしぐと云事。ひしぐと云ハ、たとヘバ、敵を弱ミなして、我つよめになつて、ひしぐと云心専也。大分の兵法にしても、敵小人数の位をミこなし、又ハ大勢なりとも、敵うろめきて、よハミ付所なれバ、ひしぐと云て、かしらよりかさをかけて、おつひしぐ心也。ひしぐ事弱けれバ、もてかへす事有。手の内ににぎつてひしぐ心、能々分別すべし。又、一分の兵法の時も、我手に不足のもの、又ハ、敵の拍子違ひ、すさりめになる時、少もいきをくれず、めを見合ざる様になし、真直ニひしぎつくる事、肝要也。少もおきたてさせぬ所、第一也。よく/\吟味有べし。

 【伊藤家本】

一 ひしぐと云事。ひしぐと云は、たとヘバ、敵を弱ミなして、我つよめになつて、ひしぐと云心【脱字】也。大分の兵法にしても、敵小人数の位を見こなし、又は、大勢なりとも、敵うろめきて、よハミ付所なれバ、ひしぐと云て、かしらよりかさをかけて、おつひし【脱字】心也。ひしぐ事弱けれバ、もてかへす事有。手のうちににぎつてひしぐ心、能々分別すべし。又、一分の兵法の時も、我手に不足のもの、又は、敵の拍子ちがひ、すさりめになる時、少もいきをくれず、めを見合ざる様になし、真直にひしぎつくる事、肝要也。【脱字】おきたてさせぬ所、第一也。能々吟味有べし。

 【石井家本】

一 ひしぐと云事。ひしぐと云は、たとヘバ、敵を弱ミなして、我つよめになつて、ひしぐと云心【脱字】也。大分の兵法にしても、敵小人数の位を見こなし、又は、大勢なりとも、敵うろめきて、よハミ付所なれバ、ひしぐと云て、かしらよりかさをかけて、おつひしぐ心也。ひしぐ事弱けれバ、もてかへす事有。手のうちににぎつてひしぐ心、能々分別すべし。又、一分の兵法の時も、我手に不足のもの、に(又)は、敵の拍子ちがひ、すされめになる時、少もいきをくれず、めを見合ざる様になし、真直にひしぎつくる事、肝要也。【脱字】おきたてさせぬ所、第一也。能々吟味有べし。  

 【神田家本】

一 ひしぐと云事。ひしぐと云は、たとヘバ、敵を弱ミなして、我つよめになつて、ひしぐと云心【脱字】也。大分の兵法にしても、敵小人数の位を見こなし、又は、大勢なりとも、敵うろめきて、よハミ付所なれバ、ひしぐと云て、かしらよりかさをかけて、おつひしぐ心也。ひしぐ事弱けれバ、もてかへす事有。手のうちににぎつてひしぐ心、能々分別すべし。又、一分の兵法の時も、我手に不足のもの、に(又)は、敵の拍子ちがひ、すされ(り)めになる時、少もいきをくれず、めを見合ざる様になし、真直にひしぎつくる事、肝要也。【脱字】おきたてさせぬ所、第一也。能々吟味有べし。

 【猿子家本】

一 ひしぐと云事。ひしぐと云ハ、譬ヘバ、敵を弱みなして、我つよめになつて、ひしぐと云心【脱字】也。大分の兵法にしても、敵小人数の位を見こなし、又は、大勢成とも、敵うろめきて、弱み付所なれバ、ひしぐと云て、かしらよりかさを懸て、おつひしぐ心也。ひしぐ事弱けれバ、もてかへす事有。手のうちににぎつてひしぐ心、能々分別すべし。又、一分の兵法の時も、我手に不足のもの、には、敵の拍子ちがひ、すされめになる時、少もいきをくれず、めを見合ざる様になし、真直にひしぎつくる事、肝要也。【脱字】おき立させぬ所、第一也。能々吟味有べし。

 【楠家本】

一 ひしぐと云事。ひしぐといふハ、縦バ、敵【脱字】よハくミなして、我つよめになつて、ひしぐといふ心専也。大分の兵法にしても、敵小人数のくらゐをミこなし、又ハ、大勢成共、敵うろめきて、よハミつく所なれバ、ひしぐといひて、かしらよりかさをかけて、おつひしぐ心也。ひしぐ事よはけれバ、もてかへす事有。手の内ニにぎつてひしぐ心、能々分別すべし。又、一分の兵法の時も、わが手に不足のもの、又ハ、敵の拍子ちがい、すさりめになる時、少もいきをくれず、めを見合ざるやうになし、真直にひしぎつくる事、肝要也。少もおきたてさせぬ所、第一也。能々吟味有べし。

 【細川家本】

一 ひしぐと云事。ひしぐと云は、縦バ、敵【脱字】よハく見なして、我つよめになつて、ひしぐと云心専也。大分の兵法にしても、敵小人数のくらいを見こなし、又は、大勢也とも、敵うろめきて、よハミつく所なれば、ひしぐといひて、かしらよりかさをかけて、おつひしぐ心なり。ひしぐ事よハければ、もてかへす事あり。手の内ににぎつてひしぐ心、能々分別すべし。亦、一分の兵法の時も、我手に不足のもの、又は、敵の拍子ちがい、すさりめになる時、少もいきをくれず、目を見合ざるやうになし、真直にひしぎつくる事、肝要也。少もおきたてさせぬ所、第一也。能々吟味有べし。

 【丸岡家本】

一 ひしぐと云事。ひしぐといふハ、たとへば、敵【脱字】よハく見なして、我つよめに成て、ひしぐといふ心専也。大分の兵法にしても、敵小人数の位を見こなし、又は、大勢なりとも、敵うろめきて、弱ミつく所なれば、ひしぐと云て、首よりかさをかけて、おつひしぐこゝろ也。ひしぐ事弱ければ、もてかへす事あり。手の中に握つてひしぐこゝろ、能々分別すべし。又、一分の兵法の時も、我手にたらざる者、又は、敵の拍子ちがひ、すさりめになる時、少も息をくれず、目を見合ざるやうになし、眞直にひしぎつくる事、肝要也。すこしも起たてさせぬ處、第一なり。能々吟味あるべし。

 【富永家本】

一 ひしぐと云事。ひしぐと云ハ、【脱字】弱く見なして、我つよめに成て、ひしぐと云心専也。大分の兵法にしても、敵小人数の位を見こなし、又【脱字】、大勢なりとも、敵うろめきて、よわミつく所なれバ、ひしぐといふて、頭よりかさを懸て、おつひしぐ心なり。ひしぐこゝろよわければ、もて返す事有。手の内に切てひしぐ心、能々分別すべし。又、一分の兵法のときも、我手に不足の者、又は、敵の拍子違、すさり目になる時、少も息をくれず、目を見合ざる様になし、真直にひしぎつくる事、肝要也。少もおき立させぬ處、第一也。能々吟味有べし。

 【常武堂本】

一 ひしぐと云事。ひしぐと云ハ、縦バ、敵【脱字】よはく見なして、我つよめになつて、ひしぐと云心専也。大分の兵法にしても、敵小人数のくらゐをみこなし、又は、大勢なりとも、敵うろめきて、よわみつく所なれバ、ひしぐといひて、かしらよりかさをかけて、おつひしぐ心なり。ひしぐ事よはけれバ、もてかへす事あり。手の内ににぎつてひしぐ心、能々分別すべし。亦、一分の兵法の時も、我手に不足のもの、又ハ、敵の拍子ちがひ、すさりめになる時、少もいきをくれず、目を見合ざる様になし、真直にひしぎつくる事、肝要也。少もおきたてさせぬ所、第一也。能々吟味有べし。

 【田村家本】

 砕〔ヒシ〕グト云事 【脱字***】タトヘバ、敵【脱字】ヨワクト見ナシテ、吾ツヨメニ成テ、ヒシグト云心専也。大分ノ兵法ニシテモ、敵小人員ノ位ヲミ【脱字】ナシ、又ハ、大勢ナリ共、敵ウロメキテ、ヨワミツク処ナレバ、ヒシグト云テ、頭ヨリカサヲカケテ、追砕グ心也。ヒシグ事ヨハケレバ、モテ反ス事有。テノ内ニ握リ砕グ心也。能々分別スベシ。又、一分ノ兵法ノ時モ、吾手ニ不足ノ者、亦ハ、敵ノ拍子チガヒ、スザリメニナル時、【脱字】息ヲクレズ、目ヲミアワセザルヤウニナシ、眞直ニヒシグ事、肝要也。【以下脱文*******************】

 【狩野文庫本】

一 ひしぐと云事。ひしぐと云ハ、縦、敵【脱字】よわく見なして、我強めになりて、ひしぐと云心専也。大分の兵法にしても、敵小人数の位を見こなし、又は、大勢成とも、敵うろめきて、よハみつく所なれバ、ひしぐと云て、頭よりかさをかけて、おつひしぐ心也。ひしぐ事よハければ、もてかやス事有。手の内ニ握てひしぐ心、能々分別すべし。又、一分の兵法の時も、我手ニ不足のもの、又は、敵の拍子違ひ、しさりめに成時、少も息おくれず、目を見合ざるやうになし、眞直にひしぎ付事、肝要也。少もおき立させぬ、所第一也。よく/\吟味有べし。

 【多田家本】

(★改行なしで前条から連続)【脱字*****】ひしぐと云事ハ、縱ば、【脱字】弱く見なして、我強めに成て、ひしぐと云心専也。大分の兵法にしても、敵【脱字】人数の位を見こなし、又は大勢成とも、【脱字****************】かさをかけて、おつひしぐ心也。ひしぐ事弱けれバ、もて返す事あるもの也。【脱字】内に握りてひしぐ心、能々分別すべし。又、一分の兵法の時も、我手に不足の者、又ハ、敵の拍子違、すさりめになる時、少しもいきをくれず、目を見合ざる様になし、真直にひしぎつくる事、肝要也。少もおきたてさせぬ所、第一也。【脱字】吟味有べし。

 【山岡鉄舟本】

一 ヒシグト云事。挫ト云ハ、【脱字】、敵【脱字】弱ク見成テ、我強メニ成テ、挫ト云心専也。大分之兵法ニシテモ、敵小人数ノ位ヲ見成シ、亦【脱字】大勢成リ共、敵ウロメキテ、弱ミ付処ナレバ、【脱字****】、頭ヨリカサヲ懸テ、追挫グ心也。挫グ事弱ケレバ、モテ返ス事有。手ヲ内ニ握テ挫心、能々分別スベシ。又、一分ノ兵法ノ時モ、我手ニ不足ノ者、亦【脱字】敵ノ拍子違ヒ、スザリメニ成時、少モ息キヲクレズ、目ヲ見合ザル様【脱字】ナシ、真スグニ挫ギ付ル事、肝要也。少モ【脱字】立テサセヌ処、第一也。能々吟味有ベシ。

 【稼堂文庫本】

一 ひしぐと云事。ひしぐと云ハ、少も弱ミ無く、たとへば、敵【脱字】弱く見なして、我つよく成て、ひしぐと云心専也。大分の兵法にしても、敵の人数の位を見すべし、亦【脱字】、大勢成共、敵うろめきて、よわみ付所なれバ、ひしぐと云て、頭よりかさを懸て、おひひしぐ心也。ひしぐことよわけれバ、もて返す事有。手の内ににぎつてひしぐ心也、能【脱字】分別すべし。亦、一分の兵法の時も、我が手に不足の者も、又は、敵の拍子違ひ、すさりめに成時、すこしも息おくれず、目を見合ざる様になし、真直にひしぎ付ること、肝要也。少もをきたゝせぬ所、第一也。能々吟味有べし。  

 【大瀧家本】

一 挫と云事。ひしぐと云ハ、縦バ、敵を弱く見なして、我強めに成て、ひしぐと云心専なり。大分の兵法にしても、敵小人数の位を見こなし、又ハ、大勢なりとも、敵うろめきて、弱ミ付く処なれば、挫と云て、頭よりかさをかけて、おつひしぐ心なり。ひしぐ事弱ければ、もてかへす事有。手の内に握つてひしぐ心、能々分別すべし。又、一分の兵法の時も、我手に不足のものには、敵の拍子違ひ、すさりめになる時、少もいきおくれず、目を見合せざる様になし、真直に挫ぎ付る事、肝要也。少もおき立させぬ所、第一也。克々吟味有べし。    PageTop    Back   Next 

  22 山海のかわりと云事

 【吉田家本】

一 さんかいのかわりと云事。山海のかわりと云ハ、敵我戦のうちに、同じ事を度々する事、悪敷所也。おなじ事、二度ハ是非におよばず、三度とするに非ず。敵にわざをしかくるに、一度にてもちいずバ、今一ツもせきかけて、其利に及ばずバ、各別かはりたる事を、ぼつとしかけ、夫にもはかゆかずば、又、各別の事をしかくべし。然によつて、敵、山とおもはゞ、海としかけ、海と思はゞ、山としかくる心、兵法の道也。能々吟味有べき事也。

 【立花隨翁本】

一 さんかいのかハりと云事。山海のかわりといふハ、敵我戦のうちに、同じ事を度々する事、悪敷所也。同じ事、二度ハ是非に及バず、三度とするにあらず。敵にわざをしかくるに、一度にてもちゐずバ、今一つもせきかけて、其利に及バずバ、各別【「の」字抹消】はりたる事を、ぼつとしかけ、夫にもはかゆかずば、又、各別の事をしかくべし。然に依て、敵、山とおもハヾ、海としかけ、海と思ハヾ、山としかくる心、兵法の道也。能々吟味有べき事也。

 【赤見家甲本】

一 さんかいのかハりと云事。山海のかわりといふハ、敵我戦のうちに、同じ事を度々する事、悪敷所也。同じ事、二度ハ是非に及バず、三度とするにあらず。敵にわざをしかくるに、一度にてもちゐずバ、今一つもせきかけて、其利に及バずバ、格別【脱字】はりたる事を、ぼつとしかけ、夫にもはかゆかずバ、又、各別の事【脱字】しかくべし。然に依て、敵、山とおもハヾ、海としかけ、海と思ハヾ、山としかくる心、兵法の道也。能々吟味有べき事也。

 【中山文庫本】

一 さんかいのかはりと云事。山海のかわりと云ハ、敵我戦のうちに、同じ事を度々する事、悪敷所也。おなじ事、二度ハ是非に及ず、三度とするに非ず。敵にわざをしかくるに、一度にてもちいずバ、今一ツもせきかけて、其利に及ばずバ、各別かはりたる事を、ぼつとしかけ、夫にもはかゆかずバ、又、各別の事をしかくべし。然によつて、敵、山と思はゞ、海としかけ、海と思ハヾ、山としかくる心、兵法の道也。能々吟味可有事也。

 【近藤家甲本】

一 さんかいのかハりと云事。山海のかハりといふは、敵我戦のうちに、同じ事を度々する事、悪敷所也。同じ事、二度は是非に及バず、三度とするにあらず。敵にわざをしかくるに、一度にてもちいずバ、今一つもせきかけて、其利に及バずバ、各別かはりたる事を、ぼつとしかけ、夫にもはかゆかずバ、又、各別の事をしかくべし。然るに依て、敵、山とおもハヾ、海としかけ、海と思ハヾ、山としかくる心、兵法の道也。能々吟味有べき事也。

 【近藤家乙本】

一 さんかいのかわりと云事。山海のかわりといふは、敵我戦のうちに、同じ事を度々する事、悪敷所なり。同じ事、二度は是非に及バず、三度とするにあらず。敵にわざをしかくるに、一度にてもちいずバ、今一つもせきかけて、其利に及バずバ、各別かはりたる事を、ぼつとしかけ、夫にもはかゆかずバ、亦、各別の事をしかくべし。然るに依て、敵、山と思ハヾ、海としかけ、海と思ハヾ、山としかくる心、兵法の道也。能々吟味有べき事也。

 【鈴木家本】

一 さんかいのかわりと云事。山海のかわりと云ハ、敵我戦のうちに、同じ事を度々する事、悪き所なり。おなじ事、二度ハ是非におよバず、三度とするに非ず。敵にわざをしかくるに、一度にてもちいずバ、今一ツもせきかけて、其利に及ばずバ、各別かはりたる事を、ぼつとしかけ、夫にもはかゆかずバ、又、各別の事をしかくべし。然によつて、敵、山とおもハゞ、海と【脱字】かけ、海と思はゞ、山としかくる心、兵法の道也。能々吟味有べき事也。

 【伊藤家本】

一 さんかいのかハりと云事。山海のかハりといふは、敵我戦のうちに、同【◇】事を度々する事、悪敷所也。同じ事、二度は是非に及バず、三度とするにあらず。敵にわざをしかくるに、一度にてもちいずバ、今一つもせきかけて、其利に及バずバ、格別かはりたる事を、ぼつとしかけ、夫にもはかゆかずバ、又、格別の事をしかくべし。然るに依て、敵、山とおもハヾ、海としかけ、海と思ハヾ、山としかくる心、兵法の道也。能々吟味有べき事也。

 【石井家本】

一 さんかいのかハりと云事。山海のかハりといふは、敵我戦のうちに、同じ事を度々する事、悪敷所也。同じ事、二度は是非に及バず、三度とするにあらず。敵にわざをしかくるに、一度にてもちいずバ、今一つもせきかけて、其利に及バずバ、各別かはりたる事を、ぼつとしかけ、夫にもはかゆかずバ、又、各別の事をしかくべし。然るに依て、敵、山とおもハヾ、海としかけ、海と思ハヾ、山としかくる心、兵法の道也。能々吟味有べき事也。  

 【神田家本】

一 さんかいのかハりと云事。山海のかハりといふは、敵我戦のうちに、同じ事を度々する事、悪敷所也。同じ事、二度は是非に及バず、三度とするにあらず。敵にわざをしかくるに、一度にてもちいずバ、今一つもせきかけて、其利に及バずバ、各別かはりたる事を、ぼつとしかけ、夫にもはかゆかずバ、又、各別の事をしかくべし。然るに依て、敵、山とおもハヾ、海としかけ、海と思ハヾ、山としかくる心、兵法の道也。能々吟味有べき事也。

 【猿子家本】

一 さんかいのかわりと云事。山海のかわりといふハ、敵我戦の内に、同じ事を度々する事、悪敷所也。同事、二度ハ是非に及バず、三度とするにあらず。敵にわざをしかくるに、一度にてもちいずバ、今一つもせきかけて、其利に及バずバ、格別替りたる事を、ほつとしかけ、夫にもはかゆかずバ、又、格別の事をしかけべし。然に依て、敵、山と思ハヾ、海としかけ、海と思ハヾ、山としかくる心、兵法の道也。能々吟味有べき事也。

 【楠家本】

一 さんかいのかはると云事。山海の心といふハ、敵我たゝかひのうちに、同じ事を度々する事、あしき所也。同じ事、二度ハ是非に不及、三度とするにあらず。敵にわざをしかくるに、一度にてもちいずバ、今一ツもせきかけて、其利におよばず【脱字】、各別替りたる事を、ぼつとしかけ、それにもはかゆかずバ、又、各別の事をしかくべし。然によつて、敵、山とおもはゞ、海としかけ、海とおもはゞ、山としかくる心、兵法の道也。能々吟味有べき事也。

 【細川家本】

一 さんかいのかわりと云事。山海の心と云は、敵我たゝかいのうちに、同じ事を度々する事、悪き所也。同ジ事、二度は是非に及バず、三度【脱字】するにあらず。敵にわざをしかくるに、一度にてもちいずば、今一ツもせきかけて、其利に及バず【脱字】、各別替りたる事を、ぼつとしかけ、それにもはかゆかずば、亦、各別の事をしかくべし。然によつて、敵、山と思はゞ、海としかけ、海と思ハゞ、山としかくる心、兵法の道也。能々吟味有べき事也。

 【丸岡家本】

一 山海の替と云事。山海の心といふは、敵我戦のうちに、同事を度々する事、あしき處也。同事、二度は是非に及ず、三度とするにあらず。敵に技をしかくるに、一度にて用ずば、今一ツもせきかけて、其理に及バず【脱字】、各別替りたる事を、ぼつとしかけ、それにてもはか行ずば、又、各別の事をしかくべし。然によりて、敵、山とおもはゞ、海としかけ、海とおもハゞ、山としかくる心、兵法の道也。能々吟味有べき事なり。

 【富永家本】

一 さんかひの替りと云事。山海の替りと云ハ、敵【脱字】戦の内に、同じ事【脱字】度/\する事、悪所也。同じ事、二度ハ是非に不及、三度とする事に非ず。敵にわざを仕懸るに、一度にて用ずバ、今一度もせきかけて、其利に不及【脱字】、各別替りたる事を、ぼつと仕懸、夫にもはかゆかずバ、又、各別の事を仕懸べし。然によつて、敵、山とおもハゞ、海と仕懸、海とおもハゞ、山と仕懸る心、兵法の道なり。能々吟味有べき事也。

 【常武堂本】

一 さんかいのかわりと云事。山海の心と云ハ、敵我たゝかひのうちに、同じ事を度々する事、悪き所なり。同じ事、二度ハ是非に及ばず、三度【脱字】するにあらず。敵にわざをしかくるに、一度にてもちひずバ、今一ツもせきかけて、其利に及ばず【脱字】、各別替りたる事を、ぼつとしかけ、それにもはかゆかずバ、亦、各別の事をしかくべし。然によつて、敵、山と思はゞ、海としかけ、海と思ハゞ、山としかくる心、兵法の道也。能々吟味有べき事也。

 【田村家本】

 山海ノ替リト云事 【脱字*****】敵吾戦ノ内ニ、同事ヲ度々スル事、アシキ事也。同事、二ドハゼヒニ及ズ、三ドトスルニ非ズ。敵ニワザヲシカクルニ、一度ニテ用ヒズバ、今一ツモセキカケテ、其利ニ及バズ【脱字】、カク別カワリタル事ヲ、ボツトシカケ、ソレニモハカユカズバ、亦、各別ノ事ヲシカクベシ。然ニヨツテ、敵、山ト思バ、海トシカケ、海トヲモハヾ、山トシカクル心、兵法ノ道也。能々吟味有ベシ。

 【狩野文庫本】

一 山海の替と云事。山海の替と云ハ、敵我戦の内ニ、同事を度々する事、悪所也。同じこと、二度ニハ及び是非、三度【脱字】するに非ず。敵に業を仕懸る【脱字】、一度にて用ひずば、今一度【脱字】せきかけて、其利に不及ば、各別替りたる事を、ぼつと仕懸、それニもはかゆかずバ、又、各別の事を仕懸べし。然に【脱字】、敵、山と思ハゞ、海と仕懸、海とおもハゞ、山と仕懸る心、兵法の道也。【脱字】可有吟味事也。

 【多田家本】

一 【脱字*****】山海の替りと云ハ、敵と戦の内に、同じことを度々する事、悪敷所也。同じ事、二度ハ不及是非、三度【脱字】するにあらず。敵に業を仕かくるに、一度にて用ひずバ、今一度もせきかけて、其利に及バずバ、各別替りたる事を、ぼつとしかけ、夫【脱字】もはかゆかずば、亦各別の事をしかくべし。然るに依て、敵、山と思ば海としかけ、海と思ば山としかくべし、兵法の道也。【脱字*****】

 【山岡鉄舟本】

一 山海之変リト云事。山海ノ心ト云ハ、敵我戦ノ内ニ、同ジ事【脱字】度々スル事、悪処也。同ジ事、二度ハ是非【脱字】ス、三度【脱字】スルニ非ズ。敵ニワザヲシカクルニ、一度ニテ用ズバ、今一ツモセキカケテ、其利ニ不及【脱字】、格別変リタル事ヲ、ホツト仕懸ケ、夫レニモハカユカズバ、亦、各前之事ヲ仕カクベシ。然ルニ依テ、敵、山ト思ハヾ海ト仕カケ、海ト思ハヾ山ト仕懸ル心、兵法之道也。能々吟味アルベキ事ナリ。

 【稼堂文庫本】

一 山海の替りと云事。山海の替りと云ハ、敵と戦の内に、同じ事【脱字】度々する事、悪所也。同じ事、二度は是非に及ず、三度【脱字】することに非ず。敵に業を仕懸るに、一度にて用ひずバ、今一度もせり懸て、其利に及ずば、各別替りたることを、ぼつと仕懸、夫にもはか行ざれば、又、各別の事を仕懸くべし。然るに於て、敵、山と思へ(は)ば、海と仕懸、海と思ハゞ、山と【脱字】懸る心、兵法の道也。能々吟味有べき事也。  

 【大瀧家本】

一 山海の替りと云事。山海の替りといふは、敵我戦の内に、同じ事を度々する事、悪き所なり。同じ事、弐度は是非に及ばず、三度とするにあらず。敵に業を仕懸るに、壱度にて用ずバ、今一度もせきかけて、其利に及ばずバ、格別替りたる事を、ぼつと仕懸、夫にてもはか行ずバ、又、格別の事を仕懸べし。然るに依て、敵、山とおもはゞ、海と仕懸、海とおもはゞ、山と仕懸る心、兵法の道なり。能々吟味有べき【脱字】なり。    PageTop    Back   Next 

  23 底をぬくと云事

 【吉田家本】

一 そこをぬくと云事。底を抜と云ハ、敵と戦に、其道の利をもつて、上ハ勝とミゆれども、心をたえさゞるに依て、上にてハまけ、下の心ハまけぬ事有。其儀におゐてハ、我俄に替りたる心になつて、敵の心をたやし、底よりまくる心に敵のなる所、ミる事専也。此底を抜事、太刀にても抜、又、身にて【脱字】ぬき、こゝろにてもぬく所あり。一道にハ、わきまふべからず。底よりくづれたるハ、我心残すにおよばず。さなきときハ、残心也。残す心あれば、敵くづれがたき事也。大分小分の兵法にしても、底を抜所、よく/\鍛練あるべし。

 【立花隨翁本】

一 そこをぬくと云事。底を抜といふハ、敵と戦に、其道之利をもつて、上ハ勝と見ゆれども、心をたへさゞるに依て、上にてハまけ、下【破損◇◇】けぬ事有。其儀に於てハ、我俄に替りたる心になつて、敵の心をたやし、底よりまくる心に敵のなる所、ミる事専也。此底をぬく事、太刀にてもぬき、又身にてもぬき、心にてもぬく所あり。一道にハ、わきまふべからず。底よりくづれたるハ、我心残すに及バず。さなき時ハ、残心也。残す心あれバ、敵くづれがたき事也。大分小分の兵法にしても、底をぬく所、能々鍛練有べし。

 【赤見家甲本】

一 そこをぬくと云事。底を抜といふハ、敵と戦に、其道の利をもつて、上ハ勝と見ゆれども、心をたへさゞるに依て、上にてハまけ、下の心ハまけぬ事有。其儀に於てハ、我俄に替りたる心になつて、敵の心をたやし、底よりまくる心に敵のなる所、ミる事専也。此底をぬく事、太刀にてもぬき、又身にてもぬき、心にてもぬく所あり。一道にハ、わきまふべからず。底よりくづれたるハ、我心残すに及バず。さなき時ハ、残心也。残す心あれバ、敵くづれがたき事也。大分小分の兵法にしても、底をぬく所、能々鍛練有べし。

 【中山文庫本】

一 そこをぬくと云事。底を抜と云ハ、敵と戦に、其道の利をもつて、上ハ勝とミゆれども、心をたえさゞるに依て、上にてハまけ、下の心ハまけぬ事有。其儀に於てハ、我俄に替りたる心になつて、敵の心をたやし、底よりまくる心に敵のなる所、ミる事専也。此底を抜事、太刀にても抜、又、身にて【脱字】抜、心にても抜く所あり。一道にハ、わきまふべからず。底よりくづれたるハ、我心残すにおよばず。さなき時ハ、残心也。残す心あれバ、敵くづれがたき事也。大分小分の兵法にしても、底を抜所、能々鍛練あるべし。

 【近藤家甲本】

一 そこをぬくと云事。底を抜といふハ、敵と戦に、其道の利をもつて、上は勝と見ゆれども、心をたへさゞるに依て、上にてはまけ、下の心はまけぬ事有。其儀に於ては、我俄に替りたる心になつて、敵の心をたやし、底よりまくる心に敵のなる所、ミる事専也。此底をぬく事、太刀にてもぬき、又身にてもぬき、心にてもぬく所あり。一道にハ、わきまふべからず。底よりくづれたるハ、我心残すに及バず。さなき時は、残す心也。残す心あれバ、敵くづれがたき事也。大分小分の兵法にしても、底をぬく所、能々鍛練有べし。

 【近藤家乙本】

一 そこをぬくと云事。底を抜といふハ、敵と戦に、其道の利をもつて、上は勝と見ゆれども、心をたへさゞるに依て、上にてハまけ、下の心はまけぬ事有。其儀に於てハ、我俄に替りたる心になつて、敵の心をたやし、底よりまくる心に敵のなる所、ミる事専也。此底をぬく事、太刀にてもぬき、又、身にてもぬき、心にてもぬく所あり。一道にハ、わきまふべからず。底よりくづれたるハ、我心残すに及バず。さなき時は、残心也。残す心あれバ、敵くづれがたき事也。大分小分の兵法にしても、底をぬく所、能々鍛練有べし。

 【鈴木家本】

一 そこをぬくと云事。底を抜と云ハ、敵と戦に、其道の利を以て、上ハ勝とミゆれども、心をたへさゞるによつて、上にてハまけ、下の心ハまけぬ事有。其儀におゐてハ、我俄に替りたる心になつて、敵の心をたやし、底よりまくる心に敵のなる所、ミる事専也。此底を抜事、太刀にても抜、又身にて【脱字】ぬき、心にても抜所あり。一道にハ、わきまふべからず。底よりくづれたるハ、我心残すに及バず。さなき時ハ、残す心也。 残す心あれバ、敵くづれがたき事也。大分小分の兵法にしても、底を抜所、よく/\鍛練あるべし。

 【伊藤家本】

一 そこをぬくと云事。底を抜といふハ、敵と戦に、其道の利をもつて、上は勝と見ゆれど【脱字】、心をたへさゞるに依て、上にてハまけ、下の心はまけぬ事有。其儀に於ては、我俄に替りたる心になつて、敵の心をたやし、底よりまくる心に敵のなる所、ミる事専也。此底をぬ【脱字】事、太刀にてもぬき、又身にてもぬき、心にてもぬく所あり。一道にハ、わきまふべからず。底よりくづれたるハ、我心残すに及バず。さなき時は、残す心也。残す心あれバ、【脱字】くづれがたき事【脱字】。大分小分の兵法にしても、底をぬく處、能々鍛練有べし。

 【石井家本】

一 そこをぬくと云事。底を抜といふハ、敵と戦に、其道の利をもつて、上は勝と見ゆれども、心をたへさゞるに依て、上にてはまけ、下の心はまけぬ事有。其儀に於ては、我俄に替りたる心になつて、敵の心をたやし、底よりまくる心に敵のなる所、ミる事専也。此底をぬく事、太刀にてもぬき、又、身にてもぬき、心にてもぬく所あり。一道にハ、わきまふべからず。底よりくづれたるハ、我心残すに及バず。さなき時は、残す心也。残す心あれバ、敵くづれがたき事也。大分小分の兵法にしても、底をぬく處、能々鍛練有べし。  

 【神田家本】

一 そこをぬくと云事。底を抜といふハ、敵と戦に、其道の利をもつて、上は勝と見ゆれども、心をたへさゞるに依て、上にてはまけ、下の心はまけぬ事有。其儀に於ては、我俄に替りたる心になつて、敵の心をたやし、底よりまくる心に敵のなる處、ミる事専也。此底をぬく事、太刀にてもぬき、又、身にてもぬき、心にてもぬく所あり。一道にハ、わきまふべからず。底よりくづれたるハ、我心残すに及バず。さなき時は、残す心也。残す心あれバ、敵くづれがたき事【脱字】。大分小分の兵法にしても、底をぬく處、能々鍛練有べし。

 【猿子家本】

一 底を抜と云事。そこを抜といふハ、敵と戦に、其道の利を以、上ハ勝と見ゆれ共、心をたへさゞるに依て、上にてハまけ、下の心ハ負ぬ事有。其儀に於てハ、我俄に替りたる心になつて、敵の心をたやし、底よりまくる心に敵のなる所、見る事専也。此底を拔事、太刀にてもぬき、又、身にてもぬき、心にてもぬく所あり。一道にハ、弁まふべからず。底より崩たるハ、我心残すに及バず。さなき時ハ、残す心也。残す心有れバ、敵崩れがたき事【脱字】。大分小分の兵法にしても、底を抜處、能々鍛練有べし。

 【楠家本】

一 そこをぬくと云事。底を抜といふは、敵とたゝかふに、其道の利を以て、上ハ勝とミゆれ共、心をたえさゞるによつて、上にてハまけ、下の心ハまけぬ事あり。其儀におゐてハ、我俄に替りたる心になつて、敵の心をたやし、底よりまくる心に敵のなる所、見る事専也。此底をぬく事、太刀にてもぬき、又、身にてもぬき、心にてもぬく所あり。一道にハ、わきまふべからず。底よりくづれたるハ、わが心残すにおよばず。さなき時ハ、のこす心なり。残す心あれバ、敵くづれがたき事也。大分小分の兵法にしても、底をぬく所、能々鍛練有べし。

 【細川家本】

一 そこをぬくと云事。底を抜と云は、敵とたゝかふに、其道の利を以て、上は勝と見ゆれ共、心をたへさゞるによつて、上にてはまけ、下の心はまけぬ事あり。其義におゐては、我俄に替たる心になつて、敵の心をたやし、底よりまくる心に敵のなる所、見る事専也。此底をぬく事、太刀にてもぬき、又、身にてもぬき、心にてもぬく所有。一道には、わきまヘベからず。底よりくづれたるハ、我心残すに及ず。さなき時は、のこす心なり。残す心あれば、敵くづれがたき事也。大分小分の兵法にしても、底をぬく所、能々鍛練あるべし。

 【丸岡家本】

一 底をぬくといふ事。そこを抜と云は、敵と戦に、其道の理を以、上は勝と見ゆれども、心をたへさゞるによつて、上にてはまけ、下の心はまけぬ事あり。其義におゐてハ、我俄に替りたる心に成て、敵の心をたやし、底より負る心に敵のなる所、見る事専也。此底を抜事、太刀にてもぬき、又、身にてもぬき、心にてもぬく所あり。一道には、辨ベからず。底よりくづれたるは、我心殘すに及バず。さなき時は、殘す心也。殘す心あれば、敵くづれ難き事也。大分小分の兵法ニしても、底を抜所、能々たんれん有べし。

 【富永家本】

一 底をぬくといふ事。底を抜と云ハ、敵と戦ふに、其道の理を以て、上ハ勝と見ゆれども、心をたへさゞるによつて、上にて【脱字】まけ、下の心ハまけぬ事有り。其儀におゐてハ、我俄に替りたる心に成て、敵の心を絶し、底よりまくる心に敵のなる處、【脱字】専也。此底をぬく事、太刀にてもぬき、又、身にてもぬき、心にてもぬく處あり。一道にハ、わきまふべからず。底よりくづれたるハ、我心残すに不及。さなき時ハ、残す心なり。残す心あれば、敵崩れがたき事也。大分小分の兵法にしても、底をぬく所、能々鍛練有べし。

 【常武堂本】

一 そこをぬくと云事。底を抜と云ハ、敵とたゝかふに、其道の利を以て、上は勝と見ゆれども、心をたへさゞるによつて、上にてハまけ、下の心はまけぬ事あり。其義に於てハ、我俄に替たる心になつて、敵の心をたやし、底よりまくる心に敵のなる所、見る事専也。此底をぬく事、太刀にてもぬき、又、身にてもぬき、心にてもぬく所あり。一道にハ、わきまヘベからず。底よりくづれたるハ、我心残すに及ばず。さなき時ハ、のこす心なり。残す心あれば、敵くづれがたき事也。大分小分の兵法にしても、底をぬく所、能々鍛練あるべし。

 【田村家本】

 底ヲ抜ト云事 【脱字******】戰ニ、其道ノ利ヲ以、上ハ勝ト見ユレ共、心ヲタエサヾルニヨツテ、上ニテハ負、下ノ心ハマケヌ事アリ。其儀ニ於ハ、吾俄ニ替リタル心ニ成【脱字】、敵ノ心ヲタヤシ、底ヨリ負ル心ニ敵ノナル処、見ル事専也。此底ヲ抜事、太刀ニテモ抜、又、身ニテモ抜、心ニテモヌク処アリ。一道ニハ、辨ベカラズ。底ヨリ崩レタルハ、吾コヽロ殘ス【脱字***********】心アレバ、敵クヅレガタキ事也。大分小分ノ兵法ニシテモ、底ヲ抜処、ヨク能タンレン有ベシ。

 【狩野文庫本】

一 底を抜と云事。底を抜と云ハ、敵と戦ニ、其道の利を以、上は勝と見ゆるとも、心をたやさゞるによつて、上にてハ負、下の心はまけぬ事有。其儀におゐてハ、我俄に替たる心ニ成て、敵の心をたやし、底より負心に敵の成所を、見る事専也。此底を抜と云事、太刀ニ而も抜、又、身ニても抜、心ニ而も抜所有。一通にハ、不可弁。底より崩レたるハ、我心のこすにおよバず。左なき時は、殘す心也。殘心あれバ、敵崩れがたき事【脱字】。大分小分の兵法にしても、底をぬく處、能々鍛練有べし。

 【多田家本】

一 そこをぬくと云事。【脱字****】、敵と戦ふに、其道の利を以て、上ハ勝とみゆる共、心をたやさゞるに依て、上にては負、下の心ハ負ぬ事有。其儀に於てハ、我俄に替りたる心に成て、敵の心をたやし、底より負る心に敵の成所を、見る事専也。此底をぬく事、太刀にてもぬき、又身にてもぬき、心にてもぬく所有。一道には、弁べからず。底よりくずれたるは、我心残すに不及。さなき時は、残心也。残す心あれバ、敵崩れがたき事なり。大分小分の兵法にしても、底をぬく所、能々鍛練有べし。

 【山岡鉄舟本】

一 底ヲ抜ト云事。ソコヲヌクト云ハ、敵ト戦フニ、其道ノ利ヲ以、上ハ勝ト見ユレ共、心ヲタヘサヾルニ依テ、上ニ【脱字】ハ負、下ノ心ハ負ヌ事有。其儀ニ於テハ、我俄ニ替リタル心ニ成リテ、敵ノ心ヲ絶シ、底ヨリ負ル心ニ敵ノ成ル処ヲ、見ル事専也。此底ヲ抜ク処、太刀ニテモ抜、【脱字】身ニテモ抜、心ニテモ抜処有。一道ニハ、辨ベカラズ。底ヨリ崩タルハ、我心残ニ不及。左ナキ【脱字】ハ残ル心也。残ス心アレバ、敵崩レ難キ事也。大分小分ノ兵法ニ【脱字】テモ、底手抜処、能々鍛錬有ルベキ事也。

 【稼堂文庫本】

一 そこをぬくと云事。底を抜と云ハ、敵と戦に、其道の理を以、上は勝と見ゆれ共、心のたえ【脱字】ざるに依て、上にてハ負、下の心は負ぬこと有り。其儀に於ては、我俄に替たる心に成つて、敵の心をたやし、底より負る心に敵の成る所、見こと専也。此底を抜こと、太刀にても抜、【脱字】身にても抜、心にても抜所也。一通には、弁ベからず。底より崩れたるは、我心残すに及バず。さなき時は、残す心なり。残心あれバ、敵くずれ難き事也。大分小分の兵法にしても、底より抜處、能々鍛練有べし。  

 【大瀧家本】

一 底を抜と云事。そこをのくと云ハ、敵と戦に、其道の利を以て、上ハ勝と見ゆれ共、心をたやさゞるに依て、上にてハ負、下の心ハまけぬ事有。其儀におゐてハ、我俄に替りたる心に成て、敵の心をたやし、底より負る心に敵の成処を、見る事専也。此底を抜く事、太刀にても抜、又、身にても抜、心にてものく處有。一道にハ、弁ふベからず。底より崩れたるハ、我心殘すに不及。さなき時ハ、殘す心なり。殘す心あれば、敵崩れがたき事也。大分小分の兵法にしても、底をのく所、能々鍛錬あるべし。    PageTop    Back   Next 

  24 あらたになると云事

 【吉田家本】

一 あらたになると云事。新になると云ハ、敵我もつるゝ心になつて、墓ゆかざるとき、わが気をふり捨て、物毎を新敷はじむる心に思ひて、其拍子をうけて、かちをわきまゆる所也。あらたになる事ハ、何時も敵と我きしむ心になると思はゞ、其まゝ心をかへて、各別の利をもつて勝べき也。大分の兵法におゐても、新になると云所、わきまゆる事肝要也。兵法の智力にてハ、忽ミゆる所也。能々吟味有べし。

 【立花隨翁本】

一 あらたになると云事。新に成といふハ、敵我もつるゝ心になつて、はかゆかざる時、わが氣をふり捨て、物毎を新しくはじむる心に思ひて、其拍子をうけて、かちをわきまゆる所也。あらたになる事ハ、何時も、敵と我きしむ心になると思ハヾ、其まゝ心をかへて、各別の利を以て勝べきなり。大分の兵法に於ても、新になると云所、わきまゆる事肝要也。兵法の智力にてハ、忽見ゆる所也。能々吟味有べし。

 【赤見家甲本】

一 あらたになると云事。新に成といふハ、敵我もつるゝ心になつて、はかゆかざる時、わが氣をふり捨て、物毎を新しくはじむる心に思ひて、其拍子をうけて、かちをわきまゆる所也。あらたになる事ハ、何時も、敵と我きしむ心になると思ハヾ、其まゝ心をかへて、各別の利を以て勝べきなり。大分の兵法に於ても、新になると云所、わきまゆる事肝要也。兵法の智力にては、忽見ゆる所也。能々吟味有べし。

 【中山文庫本】

一 あらたになると云事。新になると云ハ、敵我もつるゝ心になつて、墓ゆかざる時、我気をふり捨て、物毎を新敷はじむる心に思ひて、其拍子をうけて、勝をわきまゆる所也。あらたになる事は、何時も、敵と我きしむ心になると思はゞ、其侭心をかへて、各別の利をもつて勝べき也。大分の兵法に於ても、新になると云所、わきまゆる事肝要也。兵法の智力にてハ、忽見ゆる所也。能々吟味有べし。

 【近藤家甲本】

一 あらたになると云事。新に成といふは、敵我もつるゝ心になつて、はかゆかざる時、我氣をふり捨て、物毎を新しくはじむる心に思ひて、其拍子をうけて、かちをわきまゆる所也。あらたになる事ハ、何時も、敵と我きしむ心になると思ハヾ、其まゝ心をかへて、各別の利を以て勝べき也。大分の兵法に於ても、新になると云所、わきまゆる事肝要也。兵法の智力にては、忽見ゆる所也。能々吟味有べし。

 【近藤家乙本】

一 あらたになると云事。新に成といふは、敵我もつるゝ心になつて、はかゆかざる時、我氣をふり捨て、物毎を新しくはじむる心に思ひて、其拍子をうけて、かちをわきまゆる所也。あらたになる事ハ、何時も、敵と我きしむ心になると思ハヾ、其まゝ心をかへて、各別の利を以て勝べき也。大分の兵法に於ても、新になると云所、わきまゆる事肝要也。兵法の智力にてハ、忽見ゆる所也。能々吟味有べし。

 【鈴木家本】

一 あらたになると云事。新になると云ハ、敵我もつるゝ心になつて、はかゆかざるとき、わが気をふり捨て、物毎を新敷はじむる心に思ひて、其拍子をうけて、勝をわきまゆる所也。あらたになる事ハ、何時も、敵と我きしむ心になると思はゞ、其侭心をかへて、各別の利をもつて勝べき也。大分の兵法におゐても、新になるといふ所、わきまゆる事肝要也。兵法の智力にてハ、忽ミゆる所也。能々吟味有べし。

 【伊藤家本】

一 あらたになると云事。新に成といふは、敵我もつるゝ心になつて、はかゆかざる時、我氣をふり捨て、物毎を新しくはじむる心に思ひて、其拍子をうけて、かちをわきまゆる所也。あらたになる事ハ、何時も、敵と我きしむ心になると思ハヾ、其まゝ心をかへて、各別の利を以て勝べき也。大分の兵法に於ても、新になると云所、わきまゆる事肝要也。兵法の智力にては、忽見ゆる所也。能々吟味有べし。

 【石井家本】

一 あらたになると云事。新に成といふは、敵我もつるゝ心になつて、はかゆかざる時、我氣をふり捨て、物毎を新しくはじむる心に思ひて、其拍子をうけて、かちをわきまゆる所也。あらたになる事ハ、何時も、敵と我きしむ心になると思ハば、其まゝ心をかへて、各別の利を以て勝べき也。大分の兵法に於ても、新になると云所、わきまゆる事肝要也。兵法の智力にては、忽見ゆる所也。能々吟味有べし。  

 【神田家本】

一 あらたになると云事。新に成といふは、敵我もつるゝ心になつて、はかゆかざる時、我氣をふり捨て、物毎を新しくはじむる心に思ひて、其拍子をうけて、かちをわきまゆる所也。あらたになる事は、何時も、敵と我きしむ心になると思ハば、其まゝ心をかへて、各別の利を以て勝べき也。大分の兵法に於ても、新になると云所、わきまゆる事肝要也。兵法の智力にては、忽見ゆる所也。能々吟味有べし。

 【猿子家本】

一 新たに成と云事。あらたになるといふハ、敵我もつるる心になつて、はかゆかざる時、我氣を振捨て、物毎を新しく初る心に思ひて、其拍子を受て、勝をわきまゆる所也。あらたになる事ハ、何時も、敵と我ときしむ心になると思ハヾ、其侭心をかへて、格別の利を以勝べき也。大分の兵法に於も、新になると云所、弁ゆる事肝要也。兵法の智力にては、忽見ゆる所也。能々吟味有べし。

 【楠家本】

一 あらたに成と云事。新になると【脱字】ハ、敵我たゝかふ時、もつるゝ心になつて、はかゆかざる時、わが氣をふりすてゝ、物毎をあたらしくはじむる心に思ひて、其拍子をうけて、かちをわきまゆる處也。あらたに成事ハ、何時も敵と我きしむ心になるとおもはゞ、其まゝ心をかへて、各別の利を以て勝べき也。大分の兵法におゐても、あらたになるといふ所、わきまゆる事肝要なり。兵法の智力にてハ、忽ミゆる處なり。よく/\吟味有べし。

 【細川家本】

一 あらたになると云事。新に成と【脱字】は、敵我たゝかふ時、もつるゝ心になつて、はかゆかざる時、わが氣を振捨て、物毎をあたらしくはじむる心に思ひて、其拍子を受て、勝をわきまゆる所也。あらたに成事は、何時も敵と我きしむ心になると思ハゞ、其儘心を替て、各別の利を以て勝べき也。大分の兵法におゐても、あらたに成と云所、わきまゆる事肝要也。兵法の智力にては、忽見ゆる所也。能々吟味あるべし。

 【丸岡家本】

一 あらたに成ると云事。新タに成と【脱字】ハ、敵我戦ふ時、もつるゝ心になりて、はかゆかざる時、我氣をふりすてゝ、物ごとに新しく初る心に思ひて、其拍子を受て、勝を辨る所也。新に成事は、何時も敵と我きしむ心になるとおもハゞ、其まゝ心をかへて、各別の理を以勝べきなり。大分の兵法におゐても、新ニ成といふ所、辨る事肝要也。兵法の智力にては、忽ミゆる所也。能々吟味有べし。

 【富永家本】

一 あらたになると云事。新に成ると【脱字】ハ、敵と我戦ふ時、もつるゝ心に成て、はかゆかざる時、我氣をふりすてゝ、物毎を新敷始る心に思ひて、其拍子を請【脱字】、勝をわきまゆる所也。新たに成事ハ、何時も敵と我きしむ心ニ成と思ハゞ、其まゝ心を替て、各別の利を以勝べき也。大分の兵法においてハ、あらたになると云所、わきまゆる事肝要なり。兵法の知力にてハ、忽見【脱字】る処なり。能々吟味あるべし。

 【常武堂本】

一 新になると云事。あらたに成と【脱字】ハ、敵我たゝかふ時、もつるゝ心になつて、ハかゆかざる時、わが氣を振捨て、物毎をあたらしくはじむる心に思ひて、其拍子を受て、勝をわきまゆる所也。あらたに成事ハ、何時も敵と我きしむ心になると思ハゞ、其侭心を替て、各別の利を以て勝べき也。大分の兵法に於ても、あらたに成と云所、わきまゆる事肝要也。兵法の智力にてハ、忽みゆる所也。能々吟味あるべし。

 【田村家本】

 新ニ成ト云事 【脱字******】敵吾戦トキ、モツルヽ心ニ成テ、ハカユカザル時、吾氣ヲフリ捨テ、物毎ニアタラシク初ル心ニ思テ、其拍子ヲ受テ、勝ヲ辨ル処也。新ニナル事ハ、何時モ敵ト吾キシム心ニナルト思ヘバ、ソノマヽ心ヲカエテ、各別ノ利ヲ以勝ベキ也。大分ノ兵法ニ於、新ニナルト云処、弁ル事肝要也。兵法ノ智力ニテハ、忽見ユル処也。能々吟味スベシ。

 【狩野文庫本】

一 あらたに成と云事。新に成と云ハ、敵我戦時、もつるゝ心に成て、はかゆかざる時、我氣を振捨て、物毎を新敷初むる心ニ思ひて、其拍子を請て、勝を弁ふ【脱字】所也。新ニ成事ハ、何時も敵と我ときしむ心に成と思ハゞ、【脱字】心を替て、各別の利を以勝べき也。大分の兵法におゐても、あらたに成と云事を弁ふ肝要也。兵法の智力ニ而ハ、忽見ゆる處也。能々可有吟味。

 【多田家本】

一 新に成と云事。【脱字*****】、敵と戦ふ時もつるゝ心に成て、はかゆかざる時ハ、我氣をふり捨て、物毎を新敷始る心におもひて、其拍子を請て、勝を弁ゆる所也。新に成事ハ、何時も敵と我ときしむ心に成と思ハヾ、【脱字】心をかへて、各別の利を以て勝【脱字】なり。大分の兵法にをひても、新に成と云所、弁ゆる事肝要也。兵法の智力にてハ、忽に見ゆる所なり。能々吟味有べし。

 【山岡鉄舟本】

一 アラタニ成ト云事。新ニ成ト【脱字】ハ、敵我戦フ時、モツルヽ心ニ成テ、ハカユカザル時、我氣ヲ振リ捨テ、物毎ニ新シク初ル心ニ思テ、其拍子ヲ受テ、勝ヲ辨ル所也。新ニ成ル事ハ、何時モ敵ト我キシム心ニ成ルト思ハヾ、其侭心ヲ変テ、格別之利ヲ以勝ベキ也。大分之兵法ニ於テ、新タニ成ルト云事、辨ル事肝要也。兵法之智力ニテハ、思見ユル所也。能々吟味アルベシ。

 【稼堂文庫本】

一 新たに成と云事。新に成と云は、敵と我戦時、もつるゝ心に成て、はか行ざる時、我氣をふりかえて、物毎を新敷始る心に思ひて、其拍子を受て、勝を弁る所也。新に成ことハ、何時も敵と我きしむ心に成と思ハゞ、其侭心をかへて、各別の利を以勝べき也。大分の兵法に於ても、新に成ると云所、弁ること肝要也。兵法の智力にては、忽見得る所也。能々吟味有べし。  

 【大瀧家本】

一 新になると云事。新に成と云ハ、敵我戦の時、もつるゝ心に成【脱字】、墓行かざる時ハ、我氣のふるきを捨て、物毎を新敷初る心に思ひて、其拍子を受て、勝を弁ゆる所也。新になる事は、何時も敵と我きしむ心に成るとおもはゞ、其侭心を替て、各別の利を以て可勝也。大分の兵法におゐても、新になると云処、弁ゆる事肝要也。兵法の智力にてハ、忽ち見ゆる処なり。能々吟味有べし。    PageTop    Back   Next 

  25 鼠頭午首〔そとうごしゆ〕と云事

 【吉田家本】

一 そとうごしゆと云事。鼠頭牛首と云ハ、敵と戦の内に、たがひにこまかなる所をおもひ合て、もつるゝ心になる時、兵法の道を、常に鼠頭牛首/\とおもひて、いかにもこまかなるうちに、俄に大きなる心にして、大小に替事、兵法一ツの心だて也。平生人の心も、そとふごしゆと思べき所、武士の肝心也。兵法、大分小分にしても、此心はなるべからず。此事、よく/\吟味有べき者也。

 【立花隨翁本】

一 そとうごしゆと云事。鼠頭牛首といふハ、敵と戦のうちに、たがひにこまかなる所を思ひ合て、もつるゝ心になる時、兵法の道を、常に鼠頭牛首/\とおもひて、いかにもこまかなる【破損】、俄に大きなる心にして、大小に替る事、兵法一つの心だて也。平生人の心も、そとうごしゆと思べき所、武士の肝心也。兵法、大分小分にしても、此心はなるべからず。此事、能々吟味有べき物也。

 【赤見家甲本】

一 そとうごしゆと云事。鼠頭牛首といふハ、敵と戦のうちに、たがひにこまかなる所を思ひ合て、もつるゝ心になる時ハ、兵法の道を、常に鼠頭牛首/\とおもひて、いかにもこまかなるうちに、俄に大きなる心にして、大小に替る事、兵法一ツの心だて也。平生人の心も、そとうごしゆと思べき所、武士の肝心也。兵法大分小分にしても、此心はなるべからず。此事、能々吟味有べきもの也。

 【中山文庫本】

一 そとうごしゆと云事。鼠頭午首と云ハ、敵と戦の内に、たがひにこまかなる所をおもひ合て、もつるゝ心になる時、兵法の道を、常に鼠頭午首/\と思ひて、いかにもこまかなる内に、俄に大きなる心にして、大小に替る事、兵法一ツの心だて也。平生の人の心も、鼠頭午首と思べき所、武士の肝心也。兵法、大分小分にしても、此心離るべからず。此事、能々吟味可有【脱字】なり。

 【近藤家甲本】

一 そとうごしゆと云事。鼠頭牛首といふハ、敵と戦のうちに、たがひにこまかなる所を思ひ合て、もつるゝ心になるとき、兵法の道を、常に鼠頭牛首々々とおもひて、いかにもこまかなるうちに、俄に大きなる心にして、大小に替る事、兵法一つの心だて也。平生人の心も、そとふごしゆと思ふべき所、武士の肝心也。兵法、大分小分にしても、此心はなるべからず。此事、能々吟味有べき物也。

 【近藤家乙本】

一 そとうごしゆと云事。鼠頭牛首といふハ、敵と戦のうちに、たがひにこまかなる所を思ひ合て、もつるゝ心になるとき、兵法の道を、常に鼠頭牛首々々とおもひて、いかにもこまかなるうちに、俄に大きなる心にして、大小に替る事、兵法一つの心だて也。平生人の心も、そとふごしゆと思ふべき所、武士の肝心也。兵法、大分小分にしても、此心はなるべからず。此事、能々吟味有べき物也。

 【鈴木家本】

一 そとうごしゆと云事。鼠頭牛首といふハ、敵と戦の内に、たがひにこまかなる所をおもひ合て、もつるゝ心になる時、兵法の道を、常に鼠頭牛首/\とおもひて、いかにもこまかなるうちに、俄に大きなる心にして、大、小に替事、兵法一ツの心だて也。平生人の心も、そとうごしゆと思べき所、武士の肝心也。兵法大分小分にしても、此心はなるべからず。此事、能々吟味有べきもの也。

 【伊藤家本】

一 そとうごしゆと云事。鼠頭牛首といふハ、敵と戦のうちに、たがひにこまかなる所を思ひ合て、もつるゝ心になるとき、兵法の道を、常に鼠頭牛首々々とおもひて、いかにもこまかなるうちに、俄に大きなる心にして、大小に替る事、兵法一つの心だて也。平生人の心も、そとうごしゆと思べき所、武士の肝心也。兵法、大分小分にしても、此心はなるべからず。此事、能々吟味有べ【脱字】物也。

 【石井家本】

一 そとうごしゆと云事。鼠頭午首といふハ、敵と戦のうちに、たがひにこまかなる所を思ひ合て、もつるゝ心になるとき、兵法の道を、常に鼠頭午首々々とおもひて、いかにもこまかなるうちに、俄に大きなる心にして、大小に替る事、兵法一つの心だて也。平生人の心も、そとふごしゆと思べき所、武士の肝心也。兵法、大分小分にしても、此心はなるべからず。此事、能々吟味有べき物也。  

 【神田家本】

一 そとうごしゆと云事。鼠頭牛首といふハ、敵と戦のうちに、たがひにこまかなる所を思ひ合て、もつるゝ心になるとき、兵法の道を、常に鼠頭牛首々々とおもひて、いかにもこまかなるうちに、俄に大きなる心にして、大小に替る事、兵法一つの心だて也。平生人の心も、そとうごしゆと思べき所、武士の肝心也。兵法、大分小分にしても、此心はなるべからず。此事、能々吟味有べき物也。

 【猿子家本】

一 鼠頭午首と云事。そとふごしゆといふハ、敵と戦ひのうちに、たがひにこまかなる所を思ひ合て、もつるゝ心になる時、兵法の道を、常に鼠頭午首々々とおもひて、いかにもこまかなる内に、俄に大きなる心にして、大小に替る事、兵法壱つの心立也。平生人の心も、そとふごしゆと思ふべき所、武士の肝要也。兵法、大分小分にしても、此心離るべからず。此事、能々吟味有べきもの也。

 【楠家本】

一 そとうごしゆと云事。鼠頭牛首といふハ、敵とたゝかひのうちに、互にこまかなる所を思ひ合て、もつるゝ心になる時、兵法の道を、常ニ鼠頭牛首/\とおもひて、いかにもこまかなりうちに、俄に大きなる心にして、大小にかはる事、兵法一ツの心だて也。平生人の心も、そとうごしゆと思ふべき所、武士の肝心也。兵法、大分小分にしても、此心をはなるべからず。此事、能々吟味あるべきものなり。

 【細川家本】

一 そとうごしゆと云事。鼠頭午首と云は、敵と戦のうちに、互にこまかなる所を思ひ合て、もつるゝ心になる時、兵法の道を、つねに鼠頭午首/\とおもひて、いかにもこまかなるうちに、俄に大きなる心にして、大小にかわる事、兵法一ツの心だて也。平生人の心も、そとうごしゆと思ふべき所、武士の肝心也。兵法、大分小分にしても、此心をはなるべからず。此事、能々可有吟味者也。

 【丸岡家本】

一 鼠頭牛首と云事。そとうごしゆといふは、敵と戦のうちに、互に細なる所を思ひ合て、もつるゝ心になる時、兵法の道を、常に鼠頭牛首々々々々と思ひて、いかにも細なる中に、俄に大キになる心にして、大小に替る事、兵法一ツの心だて也。平生人の心も、鼠頭牛首と思ふべき處、武士の肝要也。兵法、大分小分ニしても、此心を離るべからず。此事、能々吟味有べし。

 【富永家本】

一 そとうごしゆと云事。鼠頭午首と云ハ、敵と戦の内に、互に細なる処をおもゐ合せて、もつるゝ心になる時、兵法の道を、常に鼠頭午首/\と思ゐて、如何にも細成内に、俄ニ大きなる心にして、大小に替る事、兵法一ツの心立なり。平生人の心も、鼠頭午首と思ふべき處、武士の肝要なり。兵法、大分小分ニしても、此心をはなるべからず。此事、能々吟味有べきもの也。

 【常武堂本】

一 そとうごしゆと云事。鼠頭午首と云ハ、敵と戦のうちに、たがひにこまかなる所を思ひ合て、もつるゝ心になる時、兵法の道を、つねに鼠頭午首/\と思ひて、いかにもこまかなるうちに、俄に大きなる心にして、大小にかわる事、兵法一ツの心だて也。平生人の心も、そとうごしゆとおもふべき所、武士の肝心【脱字】。兵法、大分小分にしても、此心をはなるべからず。此事、能々可有吟味もの也。

 【田村家本】

 鼠頭牛首ト云事 【脱字*****】敵ト戦ノ中ニ、互ニコマカナル処ヲヲモヒ合テ、モツルヽ心ニ成トキ、兵法ノ道ヲ、常ニ鼠頭牛首々々ト思テ、イカニモ細ナルウチニ、俄ニ大キナル心ニシテ、大小ニカワル事、兵法一ノ心ダテ也。平生人ノ心モ、ソトウゴシユト思フベキ処、武士ノ肝要也。兵法、大分小分ニシテモ、此心ヲハナルベカラズ。此事、能々吟味スベシ。

 【狩野文庫本】

一 鼠頭牛首と云事。そとふごしゆと云は、敵と戦【脱字】内ニ、互ニこまか成所を思ひ合て、 もつるゝ心に成時、兵法の道を、常に鼠頭牛首/\と思ひて、如何ニも細か成内ニ、俄【脱字】大に成心にして、大小【脱字】替る事、兵法一の心だて也。平生の人の心も、鼠頭牛首と思ふべき所、【脱字】肝要也。兵法の大分小分にしても、此心をはなるべからず。此事、能々吟味有べき者也。

 【多田家本】

一 【脱字*****】鼠頭牛首と云ハ、敵と戦ふ内に、互にこまか成所を思ひ合せて、もつるゝ心に成時、兵法の道を、常に鼠頭牛首/\と思ひて、如何にもこまか成内に、俄に大きに成心にして、大【脱字】に替る事、兵法第一の心立也。平生人の心持も、我と動かじ思ふ所、一。又、鼠頭牛首と思べき所、一。是、武士の肝要也。兵法、大分小分にしても、此心をはなるべからず。此事、よく/\吟味有べし。

 【山岡鉄舟本】

一 鼠頭牛首ト云事。ソトヲゴシユト云ハ、敵ト戦之内ニ、互ニ細カナル処ヲ思合テ、モツルヽ心ニ成ル時、兵法之道ヲ、常ニ、鼠頭牛首々々々々ト思ヒテ、イカニモ細カナル内ニ、俄ニ大キ成ル心ニシテ、大小【脱字】変ル事、兵法一ツノ心ダテ也。平生、人ノ心モ、鼠頭牛首ト思ベキ所、武士ノ肝要也。兵法、大分小分ニシテモ、此心ヲ離ルベカラズ。【脱字】、能々吟味有ベシ。

 【稼堂文庫本】

一 鼠頭牛首と云事。そとふごしゆと云ハ、敵と戦の内に、互に細か成所を思ひ合せて、もつるゝ心に成時、兵法の道を、常に鼠頭牛首【脱字】と思ひて、如何にも細成る内に、俄に大き成る心にして、大小に替ること、兵法第一の心立也。平生人の心持も、我と動ずと思ふべき所、又、そとうごしゆと思べき所、是武士の肝要【脱字】。兵法、大分小分にしても、此心はなるべからず。此こと、能々吟味有べき物也。  

 【大瀧家本】

一 鼠頭牛首といふ事。そとうごしゆと云ハ、敵と戦の内に、互にこまかなる処をおもひ合せて、もつるゝ心になる時、兵法の道を、常に鼠頭牛首/\とおもひて、いかにもこまかなる内に、俄に大き成心にして、大小に替事、兵法一の心だて也。平生人の心も、そとうごしゆとおもふべき處、武士の肝要也。兵法、大分小分にしても、此心離るべからず。此事、能々吟味有べき事也。    PageTop    Back   Next 

  26 将、卒をしると云事

 【吉田家本】

一 しやうそつをしると云事。将卒を知るとハ、何も戦に及とき、我おもふ道に至てハ、たへず此法をおこなひ、兵法の智力を得て、わが敵たるものをば、ミな我が卒なりと思ひとつて、なしたきやうになすべしと心得、敵を自由にまわさむと思所、われハ将也、敵ハ卒也。工夫有べし。

 【立花隨翁本】

一 しやうそつをしると云事。将卒を知るとハ、何も戦に及とき、我思ふ道に至てハ、たへず此法をおこない、兵法の智力を得て、わが敵たるものをバ、ミなわが卒なりと思ひとつて、なしたきやうになすべしと心得、敵を自由にまハさんと思ふ所、われハ将也、敵は卒也。工夫有べし。

 【赤見家甲本】

一 しやうそつをしると云事。将卒を知るとハ、何も戦に及とき、我思ふ道に至てハ、たへず此法をおこなひ、兵法の智力を得て、わが敵たるものをば、ミなわが卒なりと思ひとつて、なしたきやうになすべしと心得、敵を自由にまハさんと思ふ所、われハ将也、敵は卒也。工夫有べし。

 【中山文庫本】

一 しやうそつをしると云事。将卒を知るとハ、何も戦に及時、我おもふ道に至てハ、たへず此法をおこなひ、兵法の智力を得て、我敵たるものをバ、ミな我が卒なりと思ひとつて、なしたきやうになすべしと心得、敵を自由にまはさむと思所、われハ将也、敵ハ卒也と、工夫有べし。

 【近藤家甲本】

一 しやうそつをしると云事。将卒を知るとハ、何も戦に及とき、我思ふ道に至てハ、たへず此法をおこない、兵法の智力を得て、わが敵たるものをバ、ミなわが卒なりと思ひとつて、なしたきやうになすべしと心得、敵を自由にまハさむと思ふ所、我は将也、敵は卒也。工夫有べし。

 【近藤家乙本】

一 しやうそつをしると云事。将卒を知るとハ、何も戦に及とき、我思ふ道に至ては、たへず此法をおこない、兵法の智力を得て、わが敵たるものをバ、ミなわが卒なりと思いとつて、なしたきやうになすべしと心得、敵を自由にまわさむと思ふ所、我は将也、敵は卒也。工夫有べし。

 【鈴木家本】

一 しようそつをしると云事。将卒を知るとハ、何も戦に及とき、我おもふ道に至てハ、たへず此法をおこなひ、兵法の智力を得て、わが敵たるものをバ、ミな我卒也と思ひとつて、なしたき様になすべしと心得、敵を自由にまわさんと思所、我ハ将也、敵ハ卒也。工夫有べし。

 【伊藤家本】

一 しやうそつをしると云事。将卒を智とハ、何も戦に及ぶとき、我思ふ道に至ては、たへず此法をおこなひ、兵法の智力を得て、わが敵たるものをバ、ミなわが卒なりと思ひとつて、なしたきやうになすべしと心得、敵を自由にまハさん【脱字】思ふ所、我は将也、敵は卒也。工夫有べし。

 【石井家本】

一 しやうそつをしると云事。将卒を知るとハ、何も戦に及ぶとき、我思ふ道に至ては、たへず此法をおこなひ、兵法の智力を得て、わが敵たるものをバ、ミなわが卒なりと思ひとつて、なしたきやうになすべしと心得、敵を自由にまハさむと思ふ所、我は将也、敵は卒也。工夫有べし。  

 【神田家本】

一 しやうそつをしると云事。将卒を知るとハ、何も戦に及ぶとき、我思ふ道に至ては、たへず此法をおこない、兵法の智力を得て、わが敵たるものをバ、ミなわが卒なりと思ひとつて、なしたきやうになすべしと心得、敵を自由にまハさんと思ふ所、我ハ将也、敵は卒也。工夫有べし。

 【猿子家本】

一 将卒を知ると云事。しやうそつを知るとハ、何も戦に及とき、我思ふ道に至ては、たへず此法を行ない、兵法の智力を得て、我敵たるものをバ、皆我が卒なりと思ひとつて、なしたきやうになすべしと心得、敵を自由にまハさんと思ふ所、我ハ将なり、敵ハ卒也。工夫有べし。

 【楠家本】

一 しやうそつをしると云事。將卒をしるとハ、いづれもたゝかひに及時、わが思ふ道に至てハ、たえず此法をおこなひ、兵法の智力を得て、わが敵たるものをバ、ミなわが卒なりと思ひとつて、なしたきやうになすべしと心得、敵を自由にまはさんとおもふ所、われハ將也、敵ハ卒也。工夫あるべし。

 【細川家本】

一 しやうそつをしると云事。將卒を知とハ、いづれも戦に及時、わが思ふ道に至ては、たへず此法をおこなひ、兵法の智力を得て、我敵たるものをば、皆我卒成りとおもひとつて、なしたきやうになすべしと心得、敵を自由にまわさんと思ふ所、我ハ將也、敵は卒なり。工夫あるべし。

 【丸岡家本】

一 將卒を知と云事。將卒を知とハ、何れも戦に及時、我思ふ道に至てハ、絶ず此法を行ひ、兵法の智力を得て、我敵たる者をば、皆我卒なりと思取て、なしたきやうになすべしと心得、敵を自由にまハさんとおもふ處、我は將なり、敵は卒也。工夫有べし。

 【富永家本】

一 将卒を知ると云事。将卒をしるとハ、何も戦ニおよぶ時、我おもふ道に至つてハ、絶ず此法を行ゐ、兵法の知力を得て、我敵たる者をバ、皆我卒なりと思ゐ取て、なしたき様になすべしと心得、敵を自由にまわさんとおもふ処、我【脱字】将なり、敵ハ卒なり。工夫すべし。

 【常武堂本】

一 しやうそつをしると云事。將卒を知とハ、いづれも戦に及時、わが思ふ道に至てハ、たへず此法をおこなひ、兵法の智力を得て、我敵たるものをば、皆我卒成りと思ひとつて、なしたき様になすべしと心得、敵を自由にまわさんと思ふ所、我ハ將也、敵は卒なり。工夫あるべし。

 【田村家本】

 將卒ヲ知ト云事 【脱字****】何レモ戦ニ及トキ、我思処ニ至テハ、タエズ此法ヲ行ヒ、兵法ノ智力ヲ得テ、我敵タル者ヲバ、皆吾卒也ト思ヒトツテ、ナシタキヨウニナスベシト心得、敵ヲ自由ニマワサント思処、我ハ將也、敵ハ卒也。能々工夫有ベシ。

 【狩野文庫本】

一 將卒を知と云事。將卒を知とハ、何も戦に及時、我思ふ道に至而ハ、不絶此法を行、兵法の智力を得て、我敵たる者をバ、皆我卒也と思ひ取て、なし度樣ニなすべしと心得、敵を自由に廻さんと思ふ処、我は將也、敵ハ卒也。工夫有べし。

 【多田家本】

一 将卒を知ると云事。【脱字****】、何れも戦ひに及時、我おもふ道に至てハ、不絶此法を行ひ、兵法の智力を得て、我敵たるものをバ、皆我が卒也とおもふて、なしたき様になすべし【脱字】、将卒とハ敵を自由に廻さんと思ふ所、我は将也、敵は卒也。工夫有べし。

 【山岡鉄舟本】

一 将卒ヲ知ルト云事。将卒ヲ知ルトハ、何レモ戦ニ及時、我【脱字】道ニ至テハ、絶ヘズ此法ヲ行ヒ、【脱字】智力ヲ得テ、我敵タル者ヲバ、皆我卒也ト思ヒトツテ、ナシタキ様ニ成スベシト心得、敵ヲ自由ニ廻サント思処、我ハ将也、敵ハ卒ナリ。工夫アルベシ。

 【稼堂文庫本】

一 将卒を知ると云事。将卒を知ると云ハ、何も戦に及ぶ時、我思ふ道に至りてじは、たへず此法を行ひ、兵法の知力を得て、我敵たる者をば、皆我卒成りと思ひ取て、なしたき様になすべしと心得、敵を自由に廻さんと思ふ処、我は将也、敵は卒也。能々工夫すべし。  

 【大瀧家本】

一 將卒を知ると云事。將卒を知るとハ、何れも戦に及ぶ時、我思ふ道に至てハ、たえず此法を行ひ、兵法の智力を得て、我敵たるものをば、皆我卒なりとおもひ取て、成度様になすべしと心得、敵を自由にまわさんと思ふ所、我ハ將なり、敵ハ卒也。工夫有べし。    PageTop    Back   Next 

  27 つかをはなすと云事

 【吉田家本】

一 つかをはなすと云事。束をはなすと云に、色々心ある事也。無刀にて勝心有、又、太刀にてかたざる心あり。さま/\心のゆく所、書つくるに非ず。能々鍛練すべし。

 【立花隨翁本】

一 つかをはなつと云事。束をはなつといふに、色々心ある事也。無刀にて勝心有。又、太刀にてかたざる心あり。さま/\心のゆく所、書つくるにあらず。能々鍛練すべし。

 【赤見家甲本】

一 つかをはなつと云事。束をはなつといふに、色々心ある事也。無刀にて勝心有。又、太刀にてかたざる心あり。さま/\心のゆく所、書つくるにあらず。能々鍛練すべし。

 【中山文庫本】

一 つかをはなすと云事。束をはなすと云に、色々心ある事也。無刀にて勝心有。又、太刀にてかたざる心あり。さま/\心のゆく所、書つくるに非ず。能々鍛練すべし。

 【近藤家甲本】

一 つかをはなつと云事。束をはなつといふに、色々心ある事也。無刀にて勝心有。又、太刀にてかたざる心あり。さま/\心のゆく所、書つくるにあらず。能々鍛練すべし。

 【近藤家乙本】

一 つかをはなつと云事。束をはなつといふは、色々心ある事也。無刀にて勝心有。又、太刀にてかたざる心あり。さま/\心のゆく所、書つくるにあらず。能々鍛練すべし。

 【鈴木家本】

一 つかをはなすと云事。束をはなすと云に、色々心ある事也。無刀にて勝心有。又、太刀にてかたざる心あり。様々の心のゆく所、書つくるに非ず。能々鍛練すべし。

 【伊藤家本】

一 つかをはなつと云事。束をはなつといふに、色々心ある事也。無刀にて勝心有。又、太刀にてかたざる心あり。さま/\心のゆく所、書つく【脱字】にあらず。能々鍛練すべし。

 【石井家本】

一 つかをはなつと云事。束をはなつといふに、色々心ある事也。無刀にて勝心有。又、太刀にてかたざる心あり。さま/\心のゆく所、書つくるにあらず。能々鍛練すべし。  

 【神田家本】

一 つかをはなつと云事。束をはなつといふに、色々心ある事也。無刀にて勝心有。又、太刀にてかたざる心あり。さま/\心のゆく所、書つくるにあらず。能々鍛練すべし。

 【猿子家本】

一 束を放と云事。つかをはなつといふに、色々こゝろ有事也。無刀にて勝心有。又、太刀にてかたざる心有。さま/\心のゆく所、書付るにあらず。能々鍛錬すべし。

 【楠家本】

一 つかをはなすと云事。束をはなすといふは、いろ/\心ある事也。無刀にて勝心あり、又、太刀にてかたする心有。さま/\心のゆく所、書付るにあらず。よく/\鍛練すべし。

 【細川家本】

一 つかをはなすと云事。束をはなすとゆふに、色々心ある事也。無刀にて勝心あり、又、太刀にてかたざる心あり。さま/\心のゆく所、書付るにあらず。能々鍛練すべし。

 【丸岡家本】

一 束を放すと云事。つかをはなすといふに、色々心有こと也。無刀にて勝心あり、又、太刀にてかたざる心あり。樣/\心の行處、書付るに非ず。能々鍛煉すべし。

 【富永家本】

一 つかをはなすと云事。【脱字】はなすと云に、色々心ある(こと)也。無刀にて勝心あり、また太刀にてうたざる心あり。様々【脱字】の行所、書付るにあらず。能々鍛練すべし。

 【常武堂本】

一 つかをはなすと云事。束をはなすといふに、色々心ある事なり。無刀にて勝心あり、又、太刀にてかたざる心あり。さま/\心のゆく所、書付るにあらず。能々鍛練すべし。

 【田村家本】

 束ヲ放スト云事 ツカヲハナツト云ニ、色々ノ心有事ナリ。無刀ニテ勝心有、マタ、太刀ニテカタザル心有。サマ々心ノ行処、書付ニ非。能々鍛練スベシ。

 【狩野文庫本】

一 束をはなつと云事。束をはなつと云は、色々心有事也。無刀にて勝心有、又、太刀ニ而不勝心あり。さま/\の心の行所、書付にあらず。能々鍛練すべし。

 【多田家本】

一 つかをはなつと云事。【脱字*****】、色々【脱字】有事也。無刀にて勝心也。又、太刀にて勝ざる心有。様々心の行所ハ、書附るにあらず。能々鍛練すべき也。

 【山岡鉄舟本】

一 ツカヲ放スト云事。束ハ放スト云ニ、色々心有事ナリ。無刀ニテ勝心有。【脱字】太刀ニテカタザル心【脱字】。様々心【脱字】ユク処、書附ニ非ズ。能々鍛錬スベシ。

 【稼堂文庫本】

一 柄をはなすと云事。つかをはなすと云に、色々【脱字】有こと也。無刀ニて勝心有り、亦、太刀にてかたざる心有り。様々心の行所、書付ルに有らず。能々鍛練有べし。  

 【大瀧家本】

一 束を放つと云事。つかをはなつと云ハ、色々心有事也。無刀にて勝心あり、また、太刀にて勝ざる心有。様々心の行處、書付にあらず。能々鍛練すべし。    PageTop    Back   Next 

  28 いわをの身と云事

 【吉田家本】

一 いはをのミと云事。巖の身と云事、兵法を得道して、忽巖のごとくになつて、萬事あたらざる所、うごかざる所。 口傳

 【立花隨翁本】

一 いはほの身と云事。巖の身といふ事、兵法を得道して、忽巖のごとくになつて、万事あたらざる所、うごかざる所。 口傳

 【赤見家甲本】

一 いはほの身と云事。巖の身といふハ、兵法を得道して、忽巖のごとくになつて、万事あたらざる所、うごかざる所。 口傳

 【中山文庫本】

一 いは【脱字】のミと云事。巖の身と云事、兵法を得道して、忽巖のごとくになつて、萬事あたらざる所、うごかざる所。 口傳

 【近藤家甲本】

一 いはほの身と云事。巖の身といふは、兵法を得道して、忽巖のごとくになつて、萬事あたらざる所、うごかざる所。 口傳

 【近藤家乙本】

一 いはほの身と云事。巖の身といふは、兵法を得道して、忽巖のごとくになつて、萬事あたらざる所、うごかざる所。 口傳

 【鈴木家本】

一 いはをのミと云事。巖の身と云事、兵法を得道して、忽巖のごとくになつて、萬事あたらざる所、うごかざる所。口傳。

 【伊藤家本】

一 いはほの身と云事。巖の身といふは、兵法を得道して、忽巖のごとくになつて、萬事あたらざる所、うごかざる所。 口傳

 【石井家本】

一 いはほの身と云事。巖の身といふは、兵法を得道して、忽巖のごとくになつて、萬事あたらざる所、うごかざる所。 口傳  

 【神田家本】

一 いはほの身と云事。巖の身といふは、兵法を得道して、忽巖のごとくになつて、萬事あたらざる所、うごかざる所。 口傳

 【猿子家本】

一 いはほの身と云事。巖の身といふは、兵法を得道して、忽巖のごとくになつて、萬事あたらざる所、うごかざる所。 口傳

 【楠家本】

一 いわをのミといふ事。岩尾の身といふ事、兵法を得道して、忽岩尾のごとくに成て、萬事あたらざる所、うごかざる所。 口傳

 【細川家本】

一 いわをのミと云事。岩尾の身と云事、兵法を得道して、忽岩尾のごとくに成て、万事あたらざる所、うごかざる所。 口傳

 【丸岡家本】

一 巖の身と云事。岩ほの身と云こと、兵法を得道して、忽巖の如く【脱字】成て、萬事あたらざる處、動かざる所。 口傳

 【富永家本】

一 岩尾の身と云事。岩尾の身と云事、兵法を徳道して、忽岩尾の如くに成て、萬事あたらざる処、動かざる処。 口傳

 【常武堂本】

一 いわをのミと云事。岩尾の身と云事、兵法を得道して、忽岩尾のごとくに成て、万事あたらざる所、うごかざる所。 口傳

 【田村家本】

 巖ノ身ト云事 【脱字*****】兵法ヲ徳道シテ、忽岩尾ノゴトクニナツテ、万事アタラザル處、ウゴカザル処。口傳

 【狩野文庫本】

一 岩尾の身と云事。磐の身と云は、兵法の得道して、忽磐石のごとく【脱字】成て、万事あたらざる所、うごかざる所。 

口傳 (★改行なしで次条へ連続  【多田家本】

一 いはほの身と云事。【脱字****】、兵法を得道して、忽磐石のごとく【脱字】成て、万事當らざる所、動ざる所。口傳有。(★改行なしで次条へ連続)

 【山岡鉄舟本】

一 イワヲノミト云事。岩尾ノ身ト云ハ、兵法ヲ得道シテ、忽岩尾ノ如クニ成テ、萬事ア【脱字】ラザル所、動ザル処。口傳。

 【稼堂文庫本】

一 岩尾の身と云事。岩尾の身と云所こと、兵法の得道して、忽岩尾の如くに成て、万事あたらざる所、動ざる所也。    右    口傳  

 【大瀧家本】

一 いはをの身と云事。岩尾の身と云ハ、兵法【脱字】得道して、忽ち巖の如くに成て、万事あたらざる所、動かざる所。 口傳    PageTop    Back   Next 

  29 火之巻 後書

 【吉田家本】

右、書付所、一流劔術の場にして、たへず思ひよる事のミ、云顕し置者也。今始て此利を記すものなれば、跡先と書紛るゝ心ありて、こまやかにはいひわけ難し。さりながら、此道をまなぶべき人のためにハ、こゝろしるしになるべきもの也。我、若年より已來、兵法の道に心をかけ、劔術一通の事にも、手をからし身をからし、いろ/\さま/\の心になり、他の流々をも尋ミるに、或は口にていひかこつけ、或ハ手にてこまかなるわざをし、人めに能様にミすると云ても、一ツも実の心に有べからず。勿論、かやうの事しならひても、身をきかせならひ、心をきかせつくる事とおもへども、皆是、道のやまひとなりて、のち/\迄もうせがたくして、兵法の直道、世にくち、道のすたるもとひ也。劔術、実の道になつて、敵と戦勝事、此法、聊かはる事有べからず。我兵法の智力を得て、直なる所をおこなふにおゐてハ、勝事うたがひ有べからざる者也。           新免武藏守玄信 正保二年五月十二日           寺尾孫之允信正           柴任三左衛門尉 寛文九年四月十七日     美矩[花押朱印]      吉田忠左衛門殿

 【立花隨翁本】

右、書付所、一流劔術の場にして、たへず思ひよる事のミ、書顕し置もの也。【破損】此利を記すものなれバ、跡先と書紛るゝ心ありて、こまやかにはいひわけがたし。さりながら、此道をまなぶべき人のためにハ、心しるしになるべきもの也。我、若年より以來、兵法の道に心をかけ、劔術一通の事にも、手をからし、身をからし、いろ/\さま/\の心になり、他の流々を【脱字】尋ミるに、或ハ口にていひかこつけ、或ハ手にてこまかなるわざをし、人めに能様ニミすると云ても、一つも實の心に有べからず。勿論、かやうの事しならひても、身をきかせならひ、心をきかせつくる事とおもへども、皆是道のやまひとなりて、のち/\迄もうせがたくして、兵法の直道、世にくち、道のすたるもとひ也。劔術、實の道になつて、敵と戦勝事、此法聊かハる事有べからず。我兵法の智力を得て、直なる所を行のふに於てハ、勝事うたがひ有べからざる者也。         新免武藏守玄信 在判 正保二年五月十二日         寺尾孫之丞信正 在判 承應二年十月二日         柴任三左衛門美矩 在判 寛文九年四月十七日        吉田太郎右衛門尉實連 在判 元禄十三年八月十九日         立花專太夫峯均 在判             法名 廓巖翁 享保七年正月十七日         立花彌兵衛            法名 隨翁              [朱印] 寶暦十一年九月十九日      増壽 [花押]         丹羽五兵衛殿

 【赤見家甲本】

右、書付所、一流劔術の場にして、たへず思ひよる事のミ、書顕し置もの也。今始て此利を記すものなれバ、跡先と書紛るゝ心ありて、こまやかにはいひわけがたし。さりながら、此道をまなぶべき人のためにハ、心しるしになるべきもの也。我、若年より以來、兵法の道に心をかけ、劔術一通の事にも、手をからし、身をからし、いろ/\さま/\の心になり、他の流々を【脱字】尋ミるに、或ハ口にていひかこつけ、或は手にてこまかなるわざをし、人めに能様ニミすると云ても、一ツも實の心に有べからず。勿論、かやうの事しならひても、身をきかせならひ、心をきかせつくる事とおもへども、皆是道のやまひとなりて、のち/\迄もうせがたくして、兵法の直道、世にくち、道のすたるもとひ也。劔術、實の道になつて、敵と戦勝事、此法聊かハる事有べからず。我兵法の智力を得て、直なる所を行のふに於てハ、勝事うたがひ有べからざる者也。         新免武藏守玄信 在判 正保二年五月十二日         寺尾孫之丞信正 在判 承應二年十月二日         柴任三左衛門美矩 在判 寛文九年四月十七日        吉田太郎右衛門尉實連 在判 元禄十三年八月十九日         立花專太夫峯均            法名 廓巖翁 在判 享保七年正月十七日         立花彌兵衛増壽            法名 隨翁 在判 寶暦十一年九月十九日           丹羽五兵衛 寛政元年酉八月廾五日      信英 [花押]        赤見俊平殿

 【中山文庫本】

右、書付所、一流劔術の場にして、たへず思ひよる事のミ、云顕し置者也。今始て此利を記すものなれバ、跡先と書紛るゝ心ありて、こまやかには、いひわけ難し。さりながら、此道を学ぶべき人のためには、こゝろしるしになるべきもの也。我、若年より已來、兵法の道に心をかけ、劔術一道の事にも、手をからし、身をからし、色々様々の心になり、他の流々をも尋ミるに、或ハ口にていひかこつけ、或ハ手にてこまかなる業をし、人目に能様にミすると云ても、一ツも実の心【脱字】有べからず。勿論、かやうの事しならひても、身をきかせならひ、心をきかせつくる事とおもふとも、皆是道のやまひとなりて、後々迄もうせがたくして、兵法の直道、世にくち、道のすたるもとひなり。劔術、実の道になつて、敵と戦勝事、此法、聊替る事有べからず。我兵法の智力を得て、直なる所をおこなふに於てハ、勝事うたがひ有べからざる者也。         新免武藏守 玄信  正保二年五月十二日         寺尾孫之允 信正           柴任三左衛門尉 美矩           吉田太郎右衛門尉              病氣故印判  元禄十三年九月晦日         早川瀬兵衛殿           月成八郎左衛門尉 実久           大塚作太夫 重寧           月成彦之進 実誠           大塚初平 藤実  天明四年五月十九日        大塚可生殿       七十翁書之         大塚可生 重庸  文化十五年五月十九日       大塚助左衛門殿

 【近藤家甲本】

右、書附所、一流劔術の場にして、たへず思ひよる事のミ、書顕し置もの也。今始て此利を記すものなれバ、跡先と書紛るゝ心ありて、こまやかに【脱字】いひわけがたし。さりながら、此道をまなぶべき人のためには、心しるしになるべきもの也。我、若年より以來、兵法の道に心をかけ、劔術一通の事にも、手をからし、身をからし、いろ/\さま/\の心になり、他の流々を【脱字】尋ミるに、或ハ口にていひかこつけ、或は手にてこまかなるわざをし、人めには能様にミすると云ても、一つも實の心にあるべからず。勿論、かやうの事しならひても、身をきかせならい、心をきかせつくる事とおもひども、皆是道のやまひとなりて、のち/\迄もうせがたくして、兵法の直道、世にくち、道のすたるもとひ也。劔術、實の道になつて、敵と戦勝事、此法聊かハる事有べからず。我兵法の智力を得て、直なる所を行ふに於てハ、勝事うたがひ有べからざる者也。         新免武藏守玄信 在判 正保二年五月十二日         寺尾孫之丞信正 在判 承應二年十月二日         柴任三左衛門美矩 在判 寛文九年四月十七日         吉田太郎右衛門實連 在判 元禄十三年八月十九日         立花專太夫峯均 在判             法名 廓巖翁 享保七年正月十七日         立花彌兵衛増壽 在判             法名 隨翁 寶暦十一年九月十九日         丹羽五兵衛信英 在判 天明五年九月十九日         渡部六右衛門 文化七庚午九月十九日   信行[花押朱印]       伊藤藤太郎殿

 【近藤家乙本】

右、書附所、一流劔術の場にして、たへず思ひよる事のミ、書顕し置もの也。今始て此利を記すものなれバ、跡先と書紛るゝ心ありて、こまやかに【脱字】いひわけがたし。さりながら、此道をまなぶべき人のためには、心しるしになるべきもの也。我、若年より以來、兵法の道に心をかけ、劔術一通の事にも、手をからし、身をからし、いろ/\さま/\の心になり、他の流々を【脱字】尋ミるに、或は口にていひかこつけ、或は手にてこまかなるわざをし、人めには能様にミすると云ても、一ツも實の心に有べからず。勿論、かやうの事しならひても、身をきかせならい、心をきかせつくる事とおもへども、皆是道のやまひとなりて、のち/\迄もうせがたくして、兵法の直道、世にくち、道のすたるもとひ也。劔術、實の道になつて、敵と戦勝事、此法聊かわる事有べからず。我兵法の智力を得て、直なる所を行ふに於てハ、勝事うたがひ有べからざる者也。         新免武藏守玄信 在判 正保二年五月十二日         寺尾孫之丞信正 在判 承應二年十月二日         柴任三左衛門美矩 在判 寛文九年四月十七日         吉田太郎右衛門實連 在判 元録十三年八月十九日         立花專太夫峯均 在判             法名 廓巖翁 享保七年正月十七日         立花彌兵衛増壽 在判             法名 隨翁 寶暦十一年九月十九日         丹羽五兵衛信英 在判 天明五年九月十九日         渡部六右衛門信行 在判 文政三年五月十九日         大沼忠司 弘化三丙午年五月十九日  美正[花押朱印]         須貝惣四郎殿

 【鈴木家本】

右、書付所、一流劔術の場にして、たへず思ひよる事のミ、云顕し置者也。今始て此利を記すものなれば、跡先【脱字】書紛るゝ心有て、こまやかにハ、いひわけ難し。さりながら、此道【脱字】まなぶべき人のためにハ、こゝろしるしになるべきもの也。我若年より已來、兵法の道に心をかけ、劔術一通の事にも、手をからし、身をからし、いろ/\さま/\の心になり、他の流々をも尋ミるに、或ハ口にていひかこつけ、或ハ手にてこまかなるわざをし、人めに能様にミすると云ても、一ツも実の心に有べからず。勿論、かやうの事しならひても、身をきかせならひ、心をきかせつくる事と思へども、皆是道のやまひとなりて、のち/\までもうせがたくして、兵法の直道、世にくち、道のすたるもとひ也。劔術、実の道になつて、敵と戦勝事、此法、聊かはる事有べからず。我兵法の智力を得て、直なる所をおこなふにおゐてハ、勝事うたがひ有べからざる者也。           新免武藏守玄信  正保二年五月十二日      (以下、書巻欠損)

 【伊藤家本】

右、書附所、一流劔術の場にして、たへず思ひよる事のミ、書顕し置もの也。今始て此利を記すものなれバ、跡先と書紛るゝ心ありて、こまやかに【脱字】いひわけがたし。さりながら、此道をまなぶべき人のためには、心しるしになるべきもの也。我、若年より以來、兵法の道に心をかけ、劔術一通りの事にも、手をからし、身をからし、いろ/\さま/\の心になり、他の流々を【脱字】尋ミるに、或は口にていひかこつけ、或ハ手にてこまかなるわざをし、人めには能様にミすると云ても、一つも實の心に有べからず。勿論、かやうの事しならひても、身をきかせならい、心をきかせつくる事と思へども、皆是道のやまひとなりて、のち/\迄もうせがたくして、兵法の直道、世にくち、道のすたるもとひ也。劔術、實の道になつて、敵と戦勝事、此法聊かハる事有べからず。我兵法の智力を得て、直なる所を行ふに於て【脱字】、勝事うたがひ有べからざる者也。         新免武藏守玄信 在判 正保二年五月十二日         寺尾孫之丞信正 在判 承應二年十月二日         柴任三左衛門美矩 在判 寛文九年四月十七日         吉田太郎右衛門實連 在判 元禄十三年八月十九日         立花專太夫峯均 在判             法名 廓巖翁 享保七年正月十七日         立花彌兵衛増壽 在判 宝暦十一年九月十九日         丹羽五兵衛信英 在判 天明五年九月十九日         渡部六右衛門信行 在判 文政七申年五月九日         渡部六右衛門 弘化三年五月九日     安信[花押朱印]         伊藤馬之助殿

 【石井家本】

右、書付る所、一流劔術の場にして、たへず思ひよる事のミ、書顕し置もの也。今始て此利を記すものなれバ、跡先と書紛るゝ心ありて、こまやかに(は)いひわけがたし。さりながら、此道をまなぶべき人のためには、心しるしになるべきもの也。我、若年より以來、兵法の道に心をかけ、劔術一通りの事にも、手をからし、身をからし、いろ/\さま/\の心になり、他の流々を【脱字】尋ミるに、或は口にていひかこつけ、或ハ手にてこまかなるわざをし、人めに(は)能様にミすると云ても、一つも實の心にあるべからず。勿論、かやうの事しならひても、身をきかせならひ、心をきかせつくる事と思へども、皆是道のやまひとなりて、のち/\迄もうせがたくして、兵法の直道、世にくち、道のすたるもとひ也。劔術、實の道になつて、敵と戦勝事、此法聊かハる事有べからず。我兵法の智力を得て、直なる所を行ふに於てハ、勝事うたがひ有べからざる者也。         新免武藏守玄信 在判 正保二年五月十二日         寺尾孫之丞信正 在判 承應二年十月二日         柴任三左衛門美矩 在判 寛文九年四月十七日         吉田太郎右衛門實連 在判 元禄十三年八月十九日         立花專太夫峯均 在判             法名 廓巖翁 享保七年正月十七日         立花彌兵衛増壽 在判             法名 隨翁 寶暦十一年九月十九日         丹羽五兵衛信英 在判 天明五年九月十九日         渡部六右衛門信行 在判             法名 賢翁 文政三年四月十九日         五十嵐平左衛門 弘化四丁未年六月廿八日  正一[花押朱印]         田中六次郎殿 (追記)   明治廿丙亥年四月三日          増子源匡行[花押朱印]       石井與想治殿  

 【神田家本】

右、書附所、一流劔術の場にして、たへず思ひよる事のミ、書顕し置もの也。今始て此利を記すものなれバ、跡先と書紛るゝ心ありて、こまやかに(は)いひわけがたし。さりながら、此道をまなぶべき人のためには、心しるしになるべきもの也。我、若年より以來、兵法の道に心をかけ、劔術一通りの事にも、手をからし、身をからし、いろ/\さま/\の心になり、他の流々【脱字】も尋ミるに、或は口にていひかこつけ、或ハ手にてこまかなるわざをし、人めには能様にミすると云ても、(一つも)実の心にあるべからず。勿論、かやうの事しならひても、身をきかせならい、心をきかせつくる事と思ひ(へ)ども、皆是道のやまひとなりて、のち/\迄もうせがたくして、兵法の直道、世にくち、道のすたるもとひ也。劔術、實の道になつて、敵と戦勝事、此法聊かハる事有べからず。我兵法の智力を得て、直なる所を行ふに於てハ、勝事うたがひ有べからざる者也。         新免武藏守玄信 在判 正保二年五月十二日         寺尾孫之丞信正 在判 承應二年十月二日         柴任三左衛門美矩 在判 寛文九年四月十七日         吉田太郎右衛門實連 在判 元禄十三年八月十九日         立花專太夫峯均 在判             法名 廓巖翁 享保七年正月十七日         立花彌兵衛増壽 在判 宝暦十一年九月十九日         丹羽五兵衛信英 在判 天明五年九月十九日         渡部六右衛門信行 在判             法名 賢翁 文政三年四月十九日         五十嵐平左衛門 天保十五年甲辰十月十九日 正一[花押朱印]         神田仁太郎殿

 【猿子家本】

右書附所、一流劔術の場にして、たへず思ひよる事のミ、【脱字】顕し置もの也。今始て此利を記すものなれバ、跡先と書紛るゝ心ありて、こまやかに【脱字】いひわけがたし。さりながら、此道を学べき人のためにハ、心しるしになるべきもの也。我、若年より以來、兵法のみちにこゝろをかけ、劔術一通りの事にも、手をからし、身をからし、色々さま/\の心になり、他の流々を【脱字】尋ね見るに、或は口にていひかこつけ、或ハ手にてこまかなるわざをし、人目には能き様にミすると云ても、壱つも實の心にあるべからず。勿論、ケ様の事仕習ひても、身をきかせ習ひ、心をきかせつくる事と思へども、皆是道の病ひとなりて、後/\迄もうせがたくして、兵法の直道、世にくち、道のすたるもとひ也。劔術、實の道になつて、敵と戦勝事、此法聊替る事有べからず。我兵法の智力を得て、直なる所を行ふに於ては、勝事疑ひあるべからざる者也。         新免武藏守玄信 在判 正保二年五月十二日         寺尾孫之丞信正 在判 承應二年十月二日         柴任三左衛門美矩 在判 寛文五年四月十七日         吉田太郎右衛門實連 在判 元禄十三年八月十九日         立花專太夫峯均 在判             法名 廓巖翁 享保七年正月十七日         立花彌兵衛増壽 在判 宝暦十一年九月十九日         丹羽五兵衛信英 在判 天明五年九月十九日         渡部六右衛門信行 在判             法名 賢翁 文政三年庚辰四月十九日         五十嵐平左衛門 弘化三丙午年五月十九日  正一[花押朱印]         (宛名なし)

 【楠家本】

右、書付る所、一流劔術の場にして、たえずおもひよる事のミ、いひ顕し置物也。今初而此利を書しるすものなれバ、あとさきと書まぎるゝ心ありて、こまやかにハいひわけがたし。さりながら、此道をまなぶべき人のためにハ、心しるしになるべきものなり。我、若年より已来、兵法の道に心をかけて、劔術一通の事にも、手をからし身をからし、いろ/\さま/\の心になり、他の流々をもたづね見るに、 【蝕損】ハ口にていひかこつけ、或ハ手にてこ まかなるわざをし、ひとめによきやうに 【蝕損】するといひても、一ツも実の心に有 【蝕損】らず。勿論、かやうの事しならひ 【蝕損】も、身をきかせならひ、心をきかせつくる 【蝕損*】おもへども、皆是、道のやまひとな 【蝕損*】、後々迄もうせがたくして、兵法の 【蝕損*】にくちて、道のすたるもといなり。 【蝕損**】の道になつて、敵とたゝかひ勝 【蝕損**】聊かはる事有べからず。わが 【蝕損***】を得て、直なる處をおこなふニ 【蝕損***】事、うたがひ不可有者也。 【蝕損***】(年月日なし) 新免武蔵守玄信 【蝕損****】五月日  寺尾夢世 [花押印] 【蝕損*****】嶋甚介殿

 【細川家本】

右、書付る所、一流劔術の場にして、不絶思ひよる事而己、云顕し置物也。今初而此利を書記物なれば、あと先とかきまぎるゝ心ありて、こまやかにハいひわけがたし。乍去、此道をまなぶべき人の為には、心しるしに成べきもの也。我、若年より以来、兵法の道に心をかけて、劔術一通りの事にも、手をからし身をからし、色々様々の心に成り、他の流々をも尋見るに、或ハ口にていひかこつけ、或ハ手にてこまかなるわざをし、人目に能やうに見すると云ても、一ツも實の心にあるべからず。勿論、かやうの事しならひても、身をきかせならひ、心をきかせつくる事と思へども、皆是、道のやまひとなりて、後々迄もうせがたくして、兵法の直道、世にくちて、道のすたるもとい也。劔術、實の道になつて、敵とたゝかひ勝事、此法、聊替事有べからず。我兵法の智力を得て、直なる所をおこなふにおゐては、勝事うたがい有べからざるもの也。  正保二年五月十二日      新免武蔵           寺尾孫丞殿  寛文七年    二月五日      寺尾夢世勝延 [花押]           山本源介殿

 【丸岡家本】

右、書付る所、一流劔術の場にして、絶ず思寄る事のミ、言著ハし置者也。今初て此理を書記ものなれば、後先と書まぎるゝ心ありて、細には云分がたし。去ながら、此道を學べき人のためには、心しるしになるべきものなり。我、若年より以来、兵法の道に心をかけて、劔術一通りの事にも、手をからし、身を枯し、色々さま/\の心になり、他の流々をも尋見るに、或ハ口にて云かこつけ、或は手にて細かなる技をし、人目に能樣に見すると云ても、一ツも実の心に有べからず。勿論、か樣の事しならひても、身をきかせ習ひ、心をきかせつくる事とおもへども、皆是、道の病となりて、後々迄もうせがたくして、兵法の直道、世に朽て、道の廃る基なり。劔術、實の道に成て、敵と戦勝こと、此法、聊替る事あるべからず。我兵法の智力を得て、直なる所を行ふにおゐては、勝こと疑あるべからざる者也。   正保二年五月       新免武蔵              玄信識       (宛名なし)

 【富永家本】

右、書付る處、一流劔術の場にして、絶ずおもひ寄事のミ、書顕し置者なり。今初て此利を書印ものなれバ、跡先と書まぎるゝ心有て、細にハ書分がたし。乍去、此道を学ぶべき人の為にハ、心印と可成者也。我、若年より【脱字】、兵法の道に心を懸て、劔術一通の事にも、手をからし身をからし、色々様々の心になり、他の流々をも尋見るに、或ハ口にて云かこつけ、或ハ手にて細成わざをし、人目にハ能様に見するといふても、一ツも実の心にあるべからず。勿論、ケ様の事仕習ひても、身を聞せ習ても、心を聞せつくる事とおもへども、皆是、道の病と成つて、後【脱字】までも失せがたくして、兵法の直道、【脱字*************】実の道ニ成て、敵を戦勝事、此法聊替事不可有。我兵法の知力を得て、直なる處をおこのふにおゐてハ、勝事うたがひ不可有者也。  正保二年五月十二日 新免武藏守玄信在判       (宛名なし)

 【常武堂本】

右、書付る所、一流の劔術の場にして、不絶思ひよる事のみ、云顕し置物也。今初て此利を書記物なれば、あと先とかきまぎるゝ心ありて、こまやかにはいひわけがたし。乍去、此道をまなぶべき人の為にハ、心しるしに成べきもの也。我、若年より以来、兵法の道に心をかけて、劔術一通りの事にも、手をからし身をからし、色々様々の心に成り、他の流々をも尋みるに、或ハ口にていひかこつけ、或ハ手にてこまかなるわざをし、人目に能やうに見すると云ても、一ツも實の心にあるべからず。勿論、かやうの事【脱字】ならひても、身をきかせならひ、心をきかせつくる事と思へども、皆是、道のやまいとなりて、後々までもうせがたくして、兵法の直道、世にくちて、道のすたるもとい也。劔術、實の道になつて、敵とたゝかひ勝事、此法、聊替事有べからず。我兵法の智力を得て、直なる所をおこなふに於てハ、勝事うたがひ有べからざるもの也。  正保二年五月十二日     新免武藏       寺尾孫丞殿  寛文七年二月五日      寺尾夢世勝延       山本源介殿

 【田村家本】

右、書付ル處、一流劔術ノ場ニシテ、絶ズ思ヒ寄ル事ノミ、云顯シ置者也。今初テ此利ヲ書シルス者ナレバ、後先トカキ紛ルヽ心在テ、細ニハ云分難シ。サリナガラ、此道ヲ學ベキ人ノ爲ニハ、心シルシニナル可者也。我、若年ヨリ以来、兵法ノ道ニ心ヲカケ、劔術一通リノコトニモ、手ヲカラシ、身ヲカラシ、色々サマ々ノ心ニ成リ、他ノ流々【脱字】モ尋見ニ、或ハ口ニテ云カコツケ、或ハ手ニテ細カナル技ヲシ、人目ニヨキヨウニ見スルト云テモ、一ツモ実ノ心ニ非。勿論、カヨウノ事シナラヒテモ、身ヲキカセナラヒ、心ヲキカセツクル事ト思トモ、皆是、道ノ病ト也テ、後々マデモウセ難クシテ、兵法ノ直道、世ニクチテ、道ノスタルモトヒ也。劔術、実ノ道ニナツテ、敵ト戦勝事、此法、イサヽカ替ル事有ベカラズ。吾兵法ノ智力ヲ得テ、直ナル處ヲ行フニ於ハ、勝事ウタガヒ有ベカラザル者也。  正保二年五月          新免武藏守            藤原玄信            [朱印二顆模写]       (宛名なし)

 【狩野文庫本】

(★改行なしで前条から連続) 右、書付所、一流劔術の場にして、不絶思寄る事而己、云顯置者也。今初而此利を書記物成ば、跡先と書紛心有て、細かにハ云分がたし。乍去、此道を学べき人の爲メにハ、心しるしニ可成者也。我、若年より以来、兵法の道に心を懸、劔術一通の事ニも、身をからし、手をからし、色々様々の心になり、他の流々をも尋見るに、或ハ口ニ而云かこつけ、或は手にて細か成業をし、人目ニ能樣ニ見するといへども、【脱字】実の道にあらず。勿論、ケ樣の事仕習ても、身をきかせ習、心をきかせつくるゝ事と思へども、皆是、道の病と成て、後々迄も失難して、兵法の直道、世にくちて、道のすたるもとひなり。劔術、実の道に成て、敵と戦勝事、此法。聊替事不可有。我兵法の智力を得て、直成所【脱字】行ふニおゐてハ、勝事うたがひ有べからざる者也。           新免武藏守玄信  正保二年五月十二日      在判       寺尾孫亟殿       古橋惣左衛門殿

 【多田家本】

(★改行なしで前条から連続) 右、書附る所、一流劔術の場にして、絶ず思ひ寄事のみ、いひ顕し置者也。今初而此利を書記すものなれば、跡先と書まぎるゝ心ありて、細には云分がたし。乍去、此道を学ぶべき人の為には、心しるしに成べき者也。我、若年より以來、兵法の道に心をかけ、劔術一通の事にも、手をからし、身をからし、色々さま/\の心になり、他の流々をも尋見るに、或は口にていひかこつけ、或は手にて細成業を仕覚、人目にハ能様にみするといへども、一つも実の心に有べからず。勿論、ケ様の事しならひても、身をきかせならひ、心をきかせつくる事とおもへども、皆是道の病と成て、後々迄も失がたくして、兵法の直道、世にくちて、道のすたるもとい也。劔術、實の道に成て、敵と戦ひ勝事、此法聊替る事有べからず。【脱字】兵法の智力を得て、直成所を行ふにをひてハ、勝事疑有べからず。能/\鍛練執行すべき者也。      (記名・年月日・宛名なし)

 【山岡鉄舟本】

右書附ル處、一流釼術之場ニシテ、絶ヘズ思寄ル事ノミ云顕シ置モノナリ。今初テ此利ヲ書記スモノナレバ、後先ト書マギルヽ心有テ、細ニハカキ分難シ。去ナガラ、此道ヲ学ベキ人之為ニハ、心印シニ成ベキ物也。我、若年ヨリ以来、兵法ノ道ニ心ヲ懸テ、釼術一通ノ事ニモ、手ヲカラシ、身ヲカラシ、色々様々ノ心ニ成リ、他之流々ノモ尋見ルニ、或ハ口ニテ云イカコツケ、或ハ手ニテ細カナルワザヲシ、人目ニ能キ様ニ見スルト云テモ、一ツモ實ノ心ニ有ベカラズ。勿論、ケ様ノ事仕習テモ、身ヲキカセ習、心ヲキカセツクル事ト思ヘ共、皆是、道之病ト成テ、後々マデモ失難クシテ、兵法ノ直道、世ニクチテ、道ノ捨タル基也。釼術、實ノ道ニ成テ、敵ト戦ヒ勝事、此法、聊変事有ベカラズ。我兵法ノ智力ヲ得テ、直成ル處ヲ行ニ於テハ、勝事疑有ベカラザル者也。 正保二歳五月十二日     新免武蔵        (宛名なし) 火ノ巻終

 【稼堂文庫本】

右、書附る所、一流の劔術の場にして、絶ず思ひ寄こと【脱字】己、云記置者也。今初て此利を書顕す物なれば、跡先と書まぎるゝ心有て、細かには書分がたし。乍去、此道を学ぶべき人の為には、心しるしと成べき者也。我、若年の昔より、兵法の道に心を懸て、劔術一通りのことにも、手をからし身をからし、色々様々の心に成て、他の流々をも尋見るに、或は口にて云かこつけ、或は手にて細成業を仕覚、人めにハ好き様に見ゆると云ても、一ツも実の心に有べからず。勿論、ケ様のこと仕習ても、身を利せ習ても、心をきかせ習ても、心を利せ付ることゝ思へ共、皆是、道の病と成て、後々迄も失がたくして、兵法の直道、世に朽て、道のすたるもとひ也。劔術、実の道に成て、敵と戦ひ勝こと、此法、聊替こと有べからず。我兵法の知力を得て、直なる所を行にをゐては、勝ことうたがひ有【脱字】からざる者也。   正保二年五月十二日           新免武藏守              玄信在判       (宛名なし)  

 【大瀧家本】

右、書付所、一流劔術の場にして、たえず思ひよる事のミ、云顕し置もの也。今初而此理をしるすものなれば、跡先と書紛るゝ心有て、細には云分難し。乍去、此道を学ぶべき人の為にハ、心しるしに可成ものなり。我、若年より以来、兵法の道に心をかけて、劔術一ト通りの事にも、手をからし身をからし、色々様々の心に成り、他の流々をも尋見るに、或ハ口にて云かこつけ、或ハ手にてこまか成業をして、人目にハ能やうに見すると云ても、一ツも実の心に有べからず。勿論、ケ様の事仕習ひても、身をきかせ習ひ、心をきかせつくる事とおもへども、皆是、道の病となりて、後々までもうせがたくして、兵法の直道、世にくち、道の廃る基也。劔術、実の道に成て、敵と戦ひ勝事、此法、聊替る事有べからず。我兵法【脱字】智力を得て、直なる所を行ふにおゐてハ、勝事疑ひ有べからざるものなり。  正保二年五月十二日 新免武藏守玄信 在判       (宛名なし)