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五輪書異本集 地之巻

この地之巻では、異本二十本を提示する。すなわち、筑前系諸本として、吉田家本・中山文庫本・伊丹家本、そして立花隨翁本、加えて越後系の、渡辺家本・近藤家乙本・石井家本・伊藤家本・神田家本を掲載する。また、肥後系諸本としては、楠家本・細川家本・丸岡家本・富永家本・常武堂本・田村家本・山岡鉄舟本、また円明流系統では、狩野文庫本・多田家本・稼堂文庫本を掲載し、その他に大瀧家本を収録する。


1 自 序 五輪書全体の序文
2 地之巻序 地之巻の前文
3 兵法の道と云事
4 兵法の道大工にたとへたる事
5 兵法の道士卒たるもの
6 此兵法の書五卷に仕立る事
7 此一流二刀と名付る事
8 兵法二つの字の利を知る事
9 兵法に武具の利を知ると云事
10 兵法の拍子の事
11 地之巻後書

 

  1 自 序

 【吉田家本】

兵法の道、二天一流と号之、数年鍛練の事、始て書物に顕さむと思。時寛永二拾年十月上旬の比、九州肥後の地岩戸山に上り、天を拜し、観音を礼し、佛前に向。生國幡磨の武士、新免武藏守藤原玄信、年つもりて六拾。われ若年の昔より、兵法の道に心を懸け、十三歳にして始て勝負をす。其あひて、新當流有馬喜兵衛と云兵法者にうち勝、拾六歳にして、但馬國秋山と云強力の兵法者に打かち、二十一歳にしてミやこへのぼり、天下の兵法者に逢、数度の勝負をけつすといへ共、勝利を得ざると云事なし。其後、國々所々に至り、諸流の兵法者に行合、六十余度迄勝負をすといへども、一度も其利をうしなわず。其ほど、年十三より二十八九迄の事也。われ三十を越て、跡をおもひミるに、兵法至極してかつにハあらず、おのづから道の器用有りて、天理をはなれざる故か、又ハ、他流の兵法不足なる所にや。其後、猶もふかき道理を得むと、朝鍛夕錬してミれば、をのづから兵法の道に逢事、我五拾歳の比也。それより已來は、尋入べき道なくして光陰を送る。兵法の利に任て、諸藝諸能の道となせバ、万事におひて、われに師匠なし。今此書を作といへ共、佛法儒道の古語をもからず、軍記軍法のふるきことをも用ず。此一流のミたて、實の心を顕事、天道と観世音を鏡として、十月十日の夜、寅の一天に、筆をとつて書始るもの也。

 【立花隨翁本】

   (書巻欠損により欠落)

 【渡辺家本】

兵法の道二天一流と号て、数年鍛練之事、始て書物に顕さむと思ふ。時寛永二十年十月上旬の比、九州肥後の地岩戸山に上り、天を拜し、観音を礼し、佛前に向ひ、生國播磨之武士、新免武藏守藤原玄信、年つもりて六十。われ若年の昔より、兵法の道に心を懸、十三歳にして始て勝負をす。其あひて、新當流有馬喜兵衛と云兵法者にうち勝、十六歳にして、但馬國秋山といふ強力の兵法者に打かち、二十一歳にして都へのぼり、天下の兵法者に逢、数度の勝負を決すといへども、勝利を得ざると云事なし。其後、國々所々に至り、諸流の兵法者に行合、六十餘度迄勝負をすといへども、一度も其利をうしなハず。其程年十三より二十八九までの事也。我三十を越て、跡をおもひミるに、兵法至極してかつにハあらず、をのづから道の器用ありて、天理をはなれざるゆへか、又は、他流の兵法不足なる所にや。其後、猶もふかき道理を得んと、朝鍛夕錬して見れバ、をのづから兵法の道にあふ事、我五十歳の比也。それより以來は、尋入べき道なくして光陰を送る。兵法の利に任て、諸藝諸能の道となせバ、万事におゐて、われに師匠なし。今此書を作るといへども、佛法儒道の古語をもからず、軍記軍法のふるきことをも用ひず。此一流のミたて、實の心を顕す事、天道と観世音を鏡として、十月十日の夜、寅の一天に、筆をとつて書初る物也。

 【中山文庫本】

    地之巻 兵法の道、二天一流と号之、数年鍛練の事、始て書物ニ顕さむと思。時寛永二拾年十月上旬の頃、九州肥後の地岩戸山に上り、天を拜し、観音を礼し、佛前に向。生國播磨の武士、新免武藏守藤原玄信、年つもりて六十。われ若年の昔より、兵法の道に心を懸け、十三歳にして始て勝負をす。其あひて、新當流有馬喜兵衛と云兵法者にうち勝、拾六歳にして、但馬國秋山と云強力の兵法者に打勝、二十二歳にして都へ登り、天下の兵法者に逢、数度の勝負をけつすといへども、勝利を得ざると云事なし。其後、國々所々に至り、諸流の兵法者に行合、六十余度まで勝負をすといへども、一度も其利をうしなはず。其ほど年十三より二十八九迄の事也。われ三十を越て、跡をおもひミるに、兵法至極して勝にハあらず、をのづから道の器用有りて、天理をはなれざる故か、又ハ、他流の兵法不足なる所にや。其後、猶もふかき道理を得むと、朝鍛夕錬してミれバ、をのづから兵法の道に逢事、我五拾歳の頃也。それより已來ハ、尋入べき道なくして光陰を送る。兵法の利に任て、諸藝諸能の道となせバ、万事において、われに師匠なし。今此書を作といへども、佛法儒道の古語をもからず、軍記軍法のふるきことをも用ず。此一流のミたて、実の心を顕事、天道と観世音を鏡として、十月十日の夜、寅の一天に筆をとつて、書始るもの也。

 【近藤家乙本】

兵法之道二天一流と号して、数年鍛練之事、始て書物に顕さむと思ふ。時寛永二十年十月上旬の比、九州肥後の地岩戸山に上り、天を拜し、観音を礼し、佛前に向ひ、生國播磨之武士、新免武藏守藤原玄信、年つもりて六十。われ若年の昔より、兵法の道に心をかけ、十三歳にして始て勝負をす。其あひて、新當流有馬喜兵衛と云兵法者にうち勝、十六歳にして、但馬國秋山といふ強力の兵法者に打かち、二十一歳にして都へのぼり、天下の兵法者に逢、数度の勝負を決すといへ共、勝利を得ざると云事なし。其後、國々所々に至り、諸流の兵法者に行合、六十餘度迄勝負をすといへども、壱度も其利をうしなハず。其程年十三より二十八九までの事也。我三十を越て、跡をおもひミるに、兵法至極してかつにハあらず、おのづから道の器用ありて、天理をはなれざるゆへか、亦ハ、他流の兵法不足なる所にや。其後、猶もふかき道理を得んと、朝鍛夕錬して見れバ、をのづから兵法の道にあふ事、我五十歳の比也。それより以來は、尋入べき道なくして光陰を送る。兵法の利に任て、諸藝諸能の道となせば、萬事におゐて、われに師匠なし。今此書を作るといへども、佛法儒道の古語をもからず、【脱字】軍法のふるきことをも用ひず。此一流のミたて、實の心を顕す事、天道と観世音を鏡として、十月十日の夜、寅の一天に筆をとつて、書初る物也。

 【石井家本】

兵法の道、二天一流と号て、数年鍛練之事、始て書物に顕さんと思ふ。時寛永二十年十月上旬の比、九州肥後の地岩戸山に上り、天を拜し、觀音を礼し、佛前に向ひ、生国播磨之武士、新免武藏守藤原玄信、年つもりて六十。われ若年の昔より、兵法の道に心を懸、十三歳にして始て勝負をす。其あいて、新當流有馬喜兵衛と云兵法者にうち勝、十六歳にして、但馬國秋山と云強力の兵法者に打勝、二十一歳にして都へのぼり、天下の兵法者に逢、数度の勝負を決すといへども、勝利を得ざると云事なし。其後、國々所々に至り、諸流の兵法者に行合、六十餘度迄勝負をすといへども、一度も其利をうしなハず。其程、年十三より二十八九までの事也。我三十を越て、跡をおもひミるに、兵法至極して勝にハあらず、をのづから道の器用ありて、天理をはなれざるゆへか、又は、他流の兵法不足なる所にや。其後、猶も深き道理を得んと、朝鍛夕錬して見れバ、をのづから兵法の道にあふ事、我五十歳の比也。それより以來は、尋入べき道なくして光陰をおくる。兵法の利に任て、諸藝諸能の道となせば、万事におゐて、われに師匠なし。今此書を作るといへども、佛法儒道の古語をもからず、軍記軍法のふるき事(を)も用ひず。此一流のミたて、實の心を顕す事、天道と觀世音を鏡として、十月十日の夜、寅の一天に、筆をとつて書初る物也。

 【伊丹家本】

兵法の道、二天一流と号し、数年鍛練の事、始て書物に顕さむと思。時寛永二拾年十月上旬の比、九州肥後の地岩戸山に上り、天を拜し、觀音を禮し、佛前に向。生國播磨の武士、新免武藏守藤原玄信、年積りて六拾。我若年の昔より、兵法の道に心を懸、十三歳にして初めて勝負をす。其あひて、新當流有馬喜兵衛と云兵法者に打勝、十六歳にして、但馬國秋山と云強力の兵法者に打勝、二十二歳にして都へ登り、天下の兵法者に逢、数度の勝負をを決すといへども、勝利を得ざると云事なし。其後、國々所々に至り、諸流の兵法者に行合、六十余度まで勝負をすといへども、一度も其利をうしなはず。其程年十三より二十八九迄の事也。われ三十を越て、跡を思ミるに、兵法至極して勝には非ず、おのづから道の器用有て、天理をはなれざる故か、又ハ、他流の兵法不足なる所にや。其後、猶もふかき道理を得むと、朝鍛夕錬してミれば、お【脱字】づから兵法の道に逢事、我五拾歳の比也。其より已来ハ、尋入べき道もなくして光陰を送る。兵法の利に任て、諸藝諸能の道となせば、万事ニ於て、我に師匠無し。今此書を作といへ共、佛法儒道の古語【脱字】もからず、軍記軍法の古き事をも用ず。此一流の見たて、實の心を顕す事、天道と觀世音を鏡として、十月十日の夜、寅の一天に筆を取て、書始る物也。

 【伊藤家本】

兵法の道二天一流と号て、数年鍛練の事、始て書物に顕さむと思。時寛永二拾年十月上旬の比、九州肥後の地岩戸山に上り、天を拜し、観音を礼し、佛前に向ひ。生國播磨の武士、新免武藏守藤原玄信、年つもりて六十。われ若年の昔より、兵法の道に心を懸、十三歳にして始て勝負をす。其あひて、新當流有馬喜兵衛と云兵法者にうち勝、十六歳にして、但馬國秋山といふ強力の兵法者に打かち、二十一歳にして都へのぼり、天下の兵法者に逢、数度の勝負を決すといへ共、勝利を得ざると云事なし。其後、國々所々に至り、諸流の兵法者に行合、六十餘度迄勝負をすといへども、一度も其利をうしなハず。其程年十三より二十八九までの事也。我三十を越て、跡をおもひミるに、兵法至極してかつにハあらず、おのづから道の器用ありて、天理をはなれざるゆへか、又は、他流の兵法不足なる所にや。其後、猶もふかき道理を得んと、朝鍛夕錬して見れバ、をのづから兵法の道にあふ事、我五十歳の比也。それより以來は、尋入べき道なくして光陰を送る。兵法の利に任て、諸藝諸能の道となせば、万事【脱字】おゐて、われに師匠なし。今此書を作るといへども、佛法儒道の古語をもからず、軍記軍法のふるきことをも用ひず。此一流のミたて、實の心を顕す事、天道と観世音を鏡として、十月十日之夜、寅の一天に筆をとつて、書初る物也。

 【神田家本】

兵法之道二天一流と号て、数年鍛練之事、始て書物に顕さむと思ふ。時寛永二十年十月上旬の比、九州肥後の地岩戸山に上り、天を拜し、觀音を礼し、佛前に向ひ。生国播磨之武士、新免武藏守藤原玄信、年つもりて六十。われ若年の昔より、兵法の道に心を懸、十三歳にして始て勝負をす。其あひて、新當流有馬喜兵衛と云兵法者にうち勝、十六歳にして、但馬國秋山といふ強力の兵法者に打勝、二十一歳にして都へのぼり、天下の兵法者に逢、数度の勝負を決すといへども、勝利を得ざると云事なし。其後、國々所々に至り、諸流の兵法者に行合、六十餘度まで勝負をすといへども、一度も其利をうしなハず。其程、年十三より二十八九までの事也。我三十を越て、跡をおもひミるに、兵法至極して勝にハあらず、をのづから道の器用ありて、天理をはなれざるゆへか、又は、他流の兵法不足なる所にや。其後、猶もふかき道理を得んと、朝鍛夕錬して見れバ、をのづから兵法の道にあふ事、我五十歳の比也。それより以來は、尋入べき道なくして光陰を送る。兵法の利に任て、諸藝諸能の道となせば、万事におゐて、われに師匠なし。今此書を作るといへども、佛法儒道の古語をもからず、軍記軍法のふるきこと(を)も用ひず。此一流のミたて、實の心を顕す事、天道と觀世音を鏡として、十月十日の夜、寅の一天に筆をとつて、書初る物也。

 【楠家本】

兵法の道、二天一流と号し、数年鍛練の事、初而書物に顕さんと思ふ。時寛永二十年十月上旬の比、九州肥後の地岩戸山に上り、天を拝し、観音を禮し、佛前に向ひ、生國幡摩の武士、新免武蔵守藤原玄信、年つもつて六十。我若年の昔より、兵法の道に心をかけ、十三歳にして初而勝負をす。其あひて、新當流有馬喜兵衛といふ兵法者に打勝、十六歳にして、但馬の國秋山といふ強力の兵法者に打勝、廿一歳にして都へ上り、天下の兵法者にあひ、數度の勝負をけつすといへども、勝利を得ざるといふ事なし。其後、國々所々に至り、諸流の兵法者に行合、六十余度迄勝負【脱字】すといへども、一度も其利をうしなハず。其程、年十三より廿八九までの事也。われ三十を越て、あとをおもひミるに、兵法至極してかつにハあらず。をのづから道のきようありて、天理をはなれざるゆへか、又ハ、他流の兵法、不足なる所にや。其後、なをもふかき道理を得んと、朝鍛夕練して見れバ、をのづから兵法の道にあふ事、我五十歳の比也。其より以来ハ、たづね入べき道なくして光陰を送る。兵法の利にまかせて、諸藝諸能の道となせバ、万事におゐて、我に師匠なし。今此書を作るといへども、佛法儒道の古語をもからず、軍記軍法の古きことをももちゐず。此一流のミたて、実の心を顕す事、天道と観世音を鏡として、十月十日の夜、寅の一天に、筆をとつて書始る者也。

 【細川家本】

兵法の道、二天一流と号し、数年鍛練の事、初而書物に顕さんと思。時寛永二十年十月上旬の比、九州肥後の地岩戸山に上り、天を拜し、観音を礼し、佛前にむかひ、生國播磨の武士、新免武蔵守藤原の玄信、年つもつて六十。我若年のむかしより、兵法の道に心をかけ、十三歳にして初而勝負をす。其あいて、新當流有馬喜兵衛と云兵法者に打勝、十六歳にして、但馬國秋山と云強力の兵法者に打勝。廿一歳にして都へ上り、天下の兵法者にあひ、数度の勝負をけつすといへども、勝利を得ざるといふ事なし。其後、國々所々に至り、諸流の兵法者に行合、六十余度迄勝負【脱字】すといへども、一度も其利をうしなハず。其程、年十三より廿八九迄の事也。我三十を越へて、跡をおもひミるに、兵法至極してかつにはあらず。をのづから道の器用有りて、天理をはなれざる故か。又は、他流の兵法、不足なる所にや。其後、なをもふかき道理を得んと、朝鍛夕練してみれば、をのづから兵法の道にあふ事、我五十歳の比也。其より以来は、尋入べき道なくして光陰を送る。兵法の利にまかせて、諸藝諸能の道となせば、万事におゐて、我に師匠なし。今此書を作るといへども、佛法儒道の古語をもからず、軍記軍法の古きことをももちひず。此一流の見たて、實の心を顕す事、天道と観世音を鏡として、十月十日の夜、寅の一てんに、筆をとつて書初るもの也。

 【丸岡家本】

  二天一流兵法書地之巻 兵法の道、二天一流と號し、数年鍛錬の事、初て書物に顯さんと思ひ、時寛永二十年十月上旬の比、九州肥後の地岩戸山に登り、天を拝し、観音を禮し、佛前にむかひ、生國は播摩の武士、新免武蔵守藤原玄信、年つもつて六十。我若年のむかしより兵法の道に心をかけ、十三歳ニして始て勝負を決す。其あい手、新當流有間喜兵衛と云兵法者に打勝、十六歳ニして、但馬國秋山と云強力の兵法者に打勝。廿一歳にして都え上り、天下の兵法者に逢、数度の勝負を決すといへども、勝利を得ざるといふ事なし。其後、國々所々に至り、諸流の兵法者に行逢、六十餘度迄勝負【脱字】すといへども、一度も其利をうしなハず。其程、年十三より廿八九迄の事なり。我三十を越て、跡を思ひ見るに、兵法至極して勝にはあらず。おのづから道の器用ありて、天理をはなれざる故か。又は他流の兵法、不足なる所にや。其後、猶も深き道理を得んと、朝鍛夕錬して見れば、自ら兵法の道に逢事、我五十歳の比なり。それより以来は、尋入べき道なくして光陰を送。兵法の利にまかせて、諸藝諸能の道となせば、萬事におゐて、我に師匠なし。今此書を作るといへども、佛法儒道の古語をも假らず、軍記軍法の古き事を用ひず。此一流の見たて、実の心を顕す事、天道と観世音を鑑として、十月十日の朝、寅の一天に、筆を採て書始る者也。

 【富永家本】

   地 兵法の道、二天一流と号し、数年鍛練の事、初而書物に著さんとおもふ。時に寛永廾年十月上旬の比、九刕肥後の地岩戸山に上り、天を拜し、觀音を礼し、佛前に向ひ、生國幡摩の武士、新免武蔵守藤原玄信、年積て六十。我、若年の昔より、兵法の道に心をかけ、十三歳にして初て勝負をす。其あゐて、新當流有馬喜兵衛と云兵法者に打勝ち、十六歳にして、但馬の國秋山といふ強力の兵法者に打勝、廾一歳にして都へ上り、天下の兵法者に逢、数度の勝負を決すといへども、勝利を得ざるといふことなし。其後、国々所々に至り、諸流の兵法者に行逢、六十余度迄勝負【脱字】すといゑども、一度も其利を失なわず。其程、年十三より廾八九迄の事なり。われ三十を越えて、跡を思ひ見るに、兵法至極して勝に【脱字】非ず。おのづから道のきよふ有て、天理をはなれざる故か、又ハ、他流の兵法、不足なる所にや。其後、【脱字】深き道理を得んと、朝鍛夕練して見れバ、おのづから兵法の道に合ふ事、我五十【脱字】の比なり。夫より以来ハ、尋入べき道なくして光陰を送る。兵法の理にまかせて、諸藝諸能の道となせバ、萬事におゐて、我に師匠なし。今此書を作るといゑども、佛法儒道の古語を【脱字】からず、軍記軍法の古き事を【脱字】用ゐず。此一流の見立、実の心を顕す事、天道と観世音を鏡として、十月十日の夜、寅の一天に、筆を取て書始るものなり。

 【常武堂本】

   兵法五輪書地之巻 兵法の道、二天一流と号して、数年鍛練の事、初て書物に顕さんと思ふ。時寛永二十年十月上旬のころ、九州肥後の地岩戸山に上り、天を拜し、観音を礼し、佛前にむかひ、生国播磨の武士、新免武蔵守藤原しの玄信、年つもつて六十。我、若年のむかしより、兵法の道に心をかけ、十三歳にして初て勝負をす。其あひて、新當流有馬喜兵衛と云兵法者に打勝、十六歳にして、但馬国秋山と云強力の兵法者に打勝。二十一歳にして都へ上り、天下の兵法者にあひ、数度の勝負をけつすといへども、勝利を得ざるといふ事なし。其後、国々所々に至り、諸流の兵法者に行合、六十余度まで勝負【脱字】すといへども、一度も其利をうしなはず。其程、年十三より二十八九までの事なり。我三十を越へて、跡をおもひみるに、兵法至極してかつにハあらず。おのづから道の器用有て、天理をはなれざる故か。又ハ、他流の兵法、不足なる所にや。其後、なほもふかき道理を得んと、朝鍛夕練してみれバ、おのづから兵法の道にあふ事、我五十歳のころ也。其より以来ハ、尋入べき道なくして光陰をおくる。兵法の利にまかせて、諸藝諸能の道となせば、萬事に於て、我に師匠なし。今此書を作るといへども、佛法儒道の古語をもからず、軍記軍法の古き事をも用ひず。此一流の見たて、實の心を顕す事、天道と觀世音を鏡として、十月十日の夜、寅の一てんに、筆を取て書初るもの也。

 【田村家本】

   地之巻 兵法ノ道、二天一流ト号シ、数年鍛練ノ事、初テ書物ニ顯サント思ヒ、時ニ寛永二十年十月上旬ノ比、九州肥後ノ地、岩戸山ニ上リ、天ヲ拜シ、観音ヲ礼、佛前ニ向ヒ、生國播摩ノ武士、新免武蔵守藤原玄信、年ツモリテ六十。我若年ノ昔シヨリ、兵法ノ道ニ心ヲカケ、十三歳ニシテ初テ勝負ヲス。其アイテ、新當流有間喜兵衛ト云兵法【脱字】ニ打勝、十六歳ニシテ、但馬國秋山ト云強力ノ兵法者ニ打勝。二十一歳ニシテ都エ上リ、天下兵法者ニアヒ、数度【脱字】勝負ヲ決ト云共、勝利ヲ不得【脱字】云コトナシ。其後、国々處々ニ到リ、諸流ノ兵法者ニ行合、六十余度マデ勝負【脱字】ストイヱ共、一度モ其利【脱字】ウシナワズ。其程、歳十三ヨリ二十八九マデノ事也。我三十ヲ越テ、跡ヲ思ヒ見ニ、兵法至極シテ勝ニハ非ズ。自、道ノ器用在テ、天理ヲ離レザル故カ。又ハ他流ノ兵法、不足ナル処ニヤ。其後、猶モ深キ道理ヲエント、朝鍛夕煉シテ見レバ、自兵法ノ道ニ逢コト、吾五十歳ノ比也。夫ヨリ以来ハ、尋入ベキ道ナクシテ光陰ヲ送ル。兵法ノ利ニ任テ、諸藝シヨ能ノ道トナセバ、萬事ニヲヒテ、我ニ師【脱字】ナシ。今此書ヲ作ルト云ドモ、佛法儒道ノ古語ヲモカラズ、軍記軍法ノ故キコトヲモ不用。此一流ノ見タテ、實ノ心ヲアラハス事、天道ト観【脱字】音ヲ鏡トシテ、十月十日曉、寅ノ一天【脱字】筆ヲトツテ書初ル者ナリ。

 【狩野文庫本】

   二天一流五倫巻 兵法の道、二天一流と号し、数年鍛練【脱字】事、始而書物にあらハさんと思ふ。時寛永廿年十月上旬の比、九州肥後の地岩戸山に登り、天を拝し、観世音を禮し、佛前に向。生國播磨の武士、新免武蔵守藤原玄信、年積て六拾歳。我、若年の昔より兵法の道に心をかけ、十三にして初而勝負をす。其相手、新當流有馬喜兵衛といふ兵法者に打勝、十六歳にして、但馬の國秋山といふ強力の兵法者に打勝。廿一歳にして都え上り、天下の兵法者に逢、数度の勝負を決すといへども、勝利【脱字】得ざるといふ事なし。其後、國々所々ニ至、諸流の兵法者に行逢、六十余度まで勝負をするといへども、壱度も其利を失ず。其程、年十三より廿八九迄の事也。我三十を越て、跡を思ひ見るに、兵法至極ニして勝にはあらず。おのづから道の器用有て、天理をはなれざる故か。又は他流の兵法、不足成所にや。其後、猶も深キ道理を得んと、朝鍛夕練して見れバ、自ラ兵法の道にあふ事、我五十歳の比也。夫より以来ハ、尋入べき道なくして光陰を送り、兵法の理に任て、諸藝諸能の道となせバ、万事【脱字】師道なし。今此書を作といへども、仏法儒法の古語をもからず、軍談軍法の古キ事をも不用。【脱字】一流の見立、実の心【脱字】顯す事、天道との観世音を鏡として、十月十日の夜、寅の一天に、筆を取て書初る者也。

 【多田家本】

二天一流圓明巻之一   地之巻 兵法の道、二天一流と号し、数年鍛練の事、初て書物に顯さんと思ふ。時寛永廿年十月上旬の比、九州肥後の地、岩戸山に登り、天を拝し、観世音を礼し、佛前に向。生國播磨の武士、新免武蔵守藤原玄信、年つもつて六十。我、若年の昔より兵法の道に心を懸、十三歳にて初て勝負す。其相手、新當流有馬喜兵衛と云兵法者に打勝、十六歳にして但馬國秋山と云強力の兵法者に打勝。廿一歳にして都へ登り、天下の兵法者にあひ、数度勝負を決といへども、勝利を得ざると云事なし。其後國々處々に至り、諸流の兵法者に行逢事、六十余度也。勝負を決すといへども、一度も其利を失ひし事なし。其程、年十三より廿八九迄の事也。我、三十を越て跡を思ひ見るに、兵法至極して勝にはあらず。自ら道の器用ありて、天理をはなれざる故か。又ハ他流の兵法、不足成所にや。其後、猶も深き道理を得んと、朝鍛夕錬してみれば、自ら兵法の道に合事、五十歳の比也。夫よりこのかたハ、尋入べき道なくして、光陰を送る。兵法の理に任せて、諸藝諸能の道となれバ、萬事にをひて、われに師匠なし。今此書を作るといへども、佛法儒道の古語をもからず、軍記諸軍法の古き事をも用ず、此一流の見立、実の心を顕す事、天道と観世音を鏡として、十月十日の夜寅の一天に、筆を取て書始者也。

 【山岡鉄舟本】

二天一流兵法地之巻 兵法ノ道、二天一流ト号シ、数年鍛錬ノ事、初テ書物【脱字】顕サント思。時、寛永廿年十月上旬ノ比、九州肥後ノ地、岩戸山ニ登、天ヲ拜シ、観音ヲ禮シ、佛前ニ向ヒ。生國播摩ノ武士、新免武藏守藤原玄信、年積テ六十。我、若年ノ昔ヨリ兵法ノ道ニ心ヲ懸ケ、十三歳ニシテ初勝負ヲス。其相手、新當流有間喜兵衛ト云兵法者ニ打勝、十六歳ニシテ但馬國龝山ト云強力ノ兵法者ニ打勝。二十一歳ニシテ都へ上リ、天下兵法者ニ逢、数度ノ勝負ヲ決ト雖、勝利ヲ得ザルト云事ナシ。其後国々所々ニ至リ、諸流之兵法者ニ行合、六十余度迄勝負スト雖、一度モ其利ヲ失ワズ。其程、年十三ヨリ廿八九迄ノ事也。我、三十ヲ越テ、跡ヲ思見ルニ、兵法至極シテ勝ニハ非ズ。自ラ、道ノキヤウ有テ、天理ヲ離レザル故カ。又ハ他流ノ兵法、不足ナル故ニヤ。其後、猶モ深キ道理ヲ得ント、朝夕鍛錬シテ見レバ、自兵法ノ道ニ逢事、我五十歳ノ比也。夫ヨリ已来ハ、尋入ベキ道ナクシテ、光陰ヲ送ル。兵法之利ニ任セテ、諸藝諸能ノ道トナセバ、萬事【脱字】ヲイテ、我ニ師匠ナシ。今【脱字】書ヲ作ルト雖モ、佛法儒道ノ古語ヲ【脱字】借ラズ、軍記軍法ノ古キ事ヲモ用ズ、此一流之見タテ、實ノ心ヲ顕ス事、天道ト観世音ヲ鏡トシテ、十月十日ノ夜、寅ノ一天ニ、筆ヲ取テ書初ル者也。

 【稼堂文庫本】

   地之巻 一 兵法の道、二天一流と号し、数年鍛練の事、初て書物に顕さんと思ふ。于時寛永二十年十月上旬の比、九州肥後の地岩戸山に登り、天を拝し、観音を禮し、【脱字**】、生國幡摩の武士、新免武蔵守藤原玄信、歳積て六十歳。我、若年の昔より、兵法の道に心を寄、十三歳にして初て勝負をす。其相手、新當流有馬喜兵衛と云兵法者に打勝、十六歳にして、但馬國秋山と云強力の兵法者に打勝、二十一歳にして都へ登り、天下の兵法者に逢、数度の勝負を決すと云共、勝利を得ずと云事なし。其後、國々所々に至り、諸流の兵法者に行合、六拾余度迄勝負をすと云へども、一度も其利を失ず。其程、年十三歳より二十八九歳迄の事也。我三十歳を越て、跡をおもひ見るに、兵法の至極して勝には非ず。自ら道の器用有りて、天理をはなれざる故か、又は、他流の兵法、不足成所にや。其後、猶も深き道理を得んと、朝鍛夕練して見しかバ、自ら兵法の道にあふ事、我五十歳の比也。夫より以来ハ、尋入【脱字】道なくして光陰を送る。兵法の利にまかせて、諸藝諸能の道となせば、萬事に於て、我に師匠なしと。今此書を作ると云共、仏法儒道の古語をもからず、軍礼軍法の古き事をも持ハず。此一流の見立、実の心を顕す事、天道と観【脱字】音を鏡として、十月十日の夜、寅の一天に、筆を採て書始者也。  

 【大瀧家本】

兵法の道、二天流と号し、数年鍛錬の事、初而書物に顕さんと思ふ。時寛永廿年十月上旬の頃、九州肥後の地岩戸山に登り、天を拜し、観世音を禮し、佛前に向ひ、生國播磨の武士、新免武蔵守藤原玄信、年つもりて六十。我、若年の昔より、兵法の道に心を懸、十三歳にして始て勝負をす。其相手、新當流有馬喜兵衛と云兵法者に打勝、十六歳にして、但馬國秋山と云強力の兵法者に打勝。廿壱歳にして都へ登り、天下の兵法者に逢ひ、数度の勝負を決すといへ共、勝利を得ざるといふ事なし。其後、國々所々に至り、諸流の兵法者に行逢ひ、六十餘度迄勝負をすといへ共、一度も其利を失はず。其程、年拾三歳より廿八九歳迄の事也。我三十を越て、跡を思ひ見るに、兵法至極して勝にハあらず。おのづから道の器用有て、天理をはなれざる故か。又ハ、他流の兵法、不足なる所にや。其後、猶も深き道理を得んと、朝鍛夕錬して見れば、おのづから兵法の道にあふ事、我五十歳の比也。夫より已來は、尋入べき道なくして光陰を送る。兵法の理に任せて、諸藝諸能の道となせば、万事におゐて、我に師匠なし。今此書を作るといへ共、佛道儒道の古語をもからず、軍記軍法の古き事をも用ひず。此一流を見立、実の心を顕はす事、天道と観世音を鏡として、十月十日の夜、寅の一天に、筆を取て書初るもの也。    PageTop    Back   Next 

  2 地之巻 序

 【吉田家本】

夫、兵法と云事、武家の法也。将たるものハ、とりわき此法をおこなひ、卒たる者も、此道を知べき事なり。今世の間に、兵法の道、たしかにわきまへたると云武士なし。先、道を顕して有ハ、佛法として人をたすくる道、又、儒道として文の道を糺し、醫者と云て諸病を治する道、或、哥道者とて和歌のミちををしへ、或ハ数寄者、弓法者、其外、諸藝諸能迄も思々に稽古し、心々にすくもの也。兵法の道にハ、すく人まれ也。先、武士ハ、文武二道と云て、二の道を嗜事、是道也。たとひ此道不器用なりとも、武士たるものハ、おのれ/\が分才ほどは、兵の法をバ勤べき事也。大形武士の思心をはかるに、武士ハ只、死と云道を嗜事、と覚ほどの儀なり。死道におゐてハ、武士斗に限らず、出家にても、女にても、百姓已下に至まで、ぎりをしり、はぢをおもひ、死【脱字】所を思ひ切事ハ、その差別なきもの也。武士の兵法をおこなふ道ハ、何事におゐても、人にすぐるゝ所を本とし、或、一身の切合に勝、或、数人の戦に勝、主君のため、我身のため、名をあげ、身をもたてんとおもふ、これ兵法の徳を以てなり。又、世の間に、兵法の道を習ても、實のとき、役にハ立間敷とおもふ心有べし。其儀におひてハ、何どきにても役に立様に稽古し、萬事に至り、役に立様にをしゆる事、是兵法の実の道也。

 【立花隨翁本】

   (書巻欠損により欠落)

 【渡辺家本】

夫、兵法と云事、武家の法也。将たるものハ、とりわき此法をおこなひ、卒たる者も、此道を知べき事なり。今世の間に、兵法の道たしかにわきまへたるといふ武士なし。先、道を顕して有ハ、佛法として人をたすくる道、又、儒道として文の道を糺し、醫者と云て諸病を治する道、或歌道者とて和歌の道をおしへ、或数寄者、弓法者、其外、諸藝諸能までも思ひ/\に稽古し、心々にすくもの也。兵法の道にハ、すく人まれなり。先、武士ハ、文武二道と云て、二の道を嗜む事、是道也。たとひ此道不器用なりとも、武士たるものハ、おのれ/\が分才ほどは、兵の法をバ勤むべき事也。大形武士のおもふ心をはかるに、武士ハたヾ、死と云道を嗜む事と覚ゆるほどの儀也。死道におゐてハ、武士ばかりに限らず、出家にても女にても、百姓以下に至迄、義理をしり、恥をおもひ、死する所を思ひ切事ハ、其差別なきもの也。武士の兵法をおこなふ道ハ、何事におゐても、人にすぐるゝ所を本とし、或ハ一身の切合に勝、或ハ数人の戦に勝、主君のため、我身のため、名をあげ、身をもたてんとおもふ、これ兵法の徳を以てなり。又、世の間に、兵法の道を習ても、實のとき役にたつまじきとおもふ心あるべし。其儀におゐてハ、何時にても役にたつ様に稽古し、万事に至り、役に立様におしゆる事、是兵法の實の道也。

 【中山文庫本】

夫、兵法と云事、武家の法也。将たるものハ、とりわき此法をおこなひ、卒たる者も、此道を知べき事なり。今世の間に、兵法の道、たしかにわきまへたると云武士なし。先、道を顕して有ハ、佛法として人をたすくる道、又、儒道として文の道を糺し、醫者と云て諸病を治する道、或ハ哥道者とて和歌の道をおしへ、或ハ数奇者、弓法者、其外、諸藝諸能迄も思々に稽古し、心々にすくもの也。兵法の道にハ、すく人まれ也。先、武士ハ、文武二道と云て、二の道を嗜事、是道也。たとひ此道不器用なりとも、武士たるものハ、をのれ/\が分才ほどハ、兵の法をバ勤べき事也。大形武士の思心をはかるに、武士ハ只、死と云道を嗜事と覚ほどの儀なり。死道におゐてハ、武士ばかりに限らず、出家にても女にても、百姓以下に至まで、ぎりをしり、はぢをおもひ、死【脱字】所を思ひ切事ハ、その差別なきもの也。武士の兵法をおこなふ道は、何事におゐても、人にすぐるゝ所を本とし、或ハ一身の切合に勝、或ハ数人の戦に勝、主君のため、我身のため、名をあげ、身をも立むとおもふ、これ兵法の徳を以なり。又、世の間に、兵法の道を習ても、実のとき、役には立間敷とおもふ心有べし。其儀におゐてハ、何時にても役に立様に稽古し、萬事に至り、役に立様ニをしゆる事、是兵法の実の道也。

 【近藤家乙本】

夫、兵法と云事、武家之法也。将たるものハ、とりわき此法をおこなひ、卒たる者も、この道を知べき事也。今世の間に、兵法の道たしかにわきまへたるといふ武士なし。先、道を顕して有ハ、佛法として人をたすくる道、又、儒道として文の道を糺し、醫者と云て諸病を治する道、或歌道者とて和歌のミちをおしへ、或は数寄者、弓法者、其外、諸藝諸能までも思ひ/\に稽古し、心々にすくもの也。兵法の道には、すく人まれなり。先、武士ハ、文武二道と云て、二の道を嗜む事、是道也。たとひ此道不器用なりとも、武士たるものハ、おのれ/\が分量ほどは、兵の法をバ勤むべき事也。大形武士のおもふ心をはかるに、武士はたヾ、死と云道を嗜む事と覚ゆるほどの儀也。死道におゐてハ、武士ばかりに限らず、出家にても女にても、百姓以下に至迄、義理をしり、恥をおもひ、死する所を思ひ切事ハ、其差別なきもの也。武士の兵法をおこなふ道ハ、何事におゐても、人にすぐるゝ所を本とし、或ハ一身の切合に勝、或は数人の戦に勝、主君のため、我身のため、名をあげ、身をもたてんとおもふ、これ兵法の徳を以てなり。亦、世の間に、兵法の道を習ても、實のとき役にハたつまじきとおもふ心あるべし。其儀におゐてハ、何時にても役にたつ様に稽古し、萬事に至り、役に立様におしゆる事、是兵法の實の道也。

 【石井家本】

夫、兵法と云事、武家の法也。将たるものハ、とりわき此法をおこなひ、卒たる者も、此道を知べき事なり。今世の間に、兵法の道、たしかにわきまへたるといふ武士なし。先、道を顕して有ハ、佛法として人をたすくる道、又、儒道として文の道を糺し、醫者と云て諸病を治する道、或歌道者とて和歌の道をおしへ、或数寄者、弓法者、其外、諸藝諸能までも思ひ/\に稽古し、心々にすくもの也。兵法の道にハ、すく人まれなり。先、武士ハ、文武二道と云て、二の道を嗜む事、是道也。たとひ此道不器用なりとも、武士たるものハ、おのれ/\が分才ほどは、兵の法をバ勤むべき事也。大形武士の思ふ心をはかるに、武士ハたヾ、死と云道を嗜む事と覚ゆるほどの儀也。死道におゐてハ、武士バかりに限らず、出家にても女にても、百姓以下に至迄、義理をしり、恥をおもひ、死する所を思ひ切事ハ、其差別なきもの也。武士の兵法をおこなふ道ハ、何事におゐても、人にすぐるゝ所を本とし、或ハ一身の切合に勝、或ハ数人の戦に勝、主君のため、我身のため、名をあげ、身をもたてんとおもふ、これ兵法の徳を以てなり。又、世の間に、兵法の道を習ても、實のとき、役にたつまじきとおもふ心あるべし。其儀におゐてハ、何時にても役にたつ様に稽古し、万事に至り、役に立様におしゆる事、是兵法の実の道也。

 【伊丹家本】

夫、兵法と云事、武家の法也。将たるものハ、とりわき此法を行なひ、卒たる者も、此道を知るべき事也。今世の間に、兵法の道たしかにわきまへたると云武士なし。先、道を顕して有は、佛法として人を助くる道、又、儒道として文の道を糺し、醫者と云て諸病を治する道、或歌道者とて和歌の道をおしへ、或数奇者、弓法者、其外、諸藝諸能までも思々に稽古し、心々にすく物也。兵法の道には、すく人まれなり。先、武士ハ、文武二道と云て、二の道を嗜事、是道也。たとへ此道不器用なりとも、武士たる者は、おのれ/\が分寸ほどは、兵の法をバ勤べき事なり。大形武士の思心をはかるに、武士は只、死と云道を嗜事と覚程の儀也。死道に於は、武士ばかりに限らず、出家にても【脱字**】、百性已下【脱字】至まで、義理を思ひ、恥をおもひ、死【脱字】所を思ひ切事は、其差別なき物なり。武士の兵法をおこなふ道ハ、何【脱字】に於ても、人にすぐる/\所を本とし、或は一身の切合に勝、或ハ数人の戦に勝、主君の為、我身の為、名を揚、身をも立むとおもふ、是兵法の徳を以て也。又世の間に、兵法の道を習ても、實の時役には立間敷とおもふ心有べし。其儀におゐてハ、何時ニ【脱字】も役に立様に稽古し、万事に至り、役に立様におしゆる事、是兵法の實の道也。

 【伊藤家本】

夫兵法と云事、武家の法也。将たるものハ、とりわき此法をおこなひ、卒たる者も、此道を知べき事なり。今世の間に、兵法の道たしかにわきまへたるといふ武士なし。先、道を顕して有ハ、佛法として人をたすくる道、【脱字】、儒道として文の道を糺し、醫者と云て諸病を治する道、【★以下脱文して、次条へ連続】

 【神田家本】

夫兵法と云事、武家の法也。将たるものハ、とりわき此法をおこなひ、卒たる者も、此道を知べき事なり。今世の間に、兵法の道たしかにわきまへたるといふ武士なし。先、道を顕して有ハ、佛法として人をたすくる道、(又)、儒道として文の道を糺し、醫者と云て諸病を治する道、或歌道者とて和歌の道をおしへ、或数寄者、弓法者、其外、諸藝諸能までも思ひ/\に稽古し、心々にすくものなり。兵法の道に【脱字】、すく人まれなり。先、武士ハ、文武二道と云て、二の道を嗜む事、是道也。たとひ此道不器用なりとも、武士たるものハ、おのれ/\が分等(才)ほどは、兵の法をバ勤むべき事也。大形武士の思ふ心をはかるに、武士ハたヾ、死と云道を嗜む事と覚ゆるほどの儀也。死道におゐてハ、武士バかりに限らず、出家にても女にても、百姓以下に至る迄、義理をしり、恥をおもひ、死する所を思ひ切事ハ、其差別なきもの也。武士の兵法をおこなふ道ハ、何事におゐても、人にすぐるゝ所を本とし、或ハ一身の切合に勝、或ハ数人の戦に勝、主君のため、我身のため、名をあげ、身をもたてんとおもふ、これ兵法の徳を以てなり。又世の間に、兵法の道を習ても、實のとき役にたつまじきとおもふ心あるべし。其儀におゐてハ、何時にても役にたつ様に稽古し、万事に至り、役に立様におしゆる事、是兵法の實の道也。

 【楠家本】

夫、兵法と云事、武家の法也。將たるものハ、とりわき此法をおこなひ、卒たるものも、此道をしるべき事也。今世の中に、兵法の道、慥にわきまへたると云武士なし。先、道を顯して有ハ、佛法として人をたすくる道、又、儒道として文の道を糺し、醫者といひて諸病を治する道、或ハ哥道者とて和歌の道をおしへ、或ハ數奇者、弓法者、其外、諸藝諸能迄も、おもひ/\に稽古して、心/\にすくものなり。兵法の道にハ、すく人まれ也。先、武士ハ、文武二道といひて、二ツの道を嗜事、是道也。縦、此道ぶきようなりとも、武士たるものハ、をのれ/\が分才ほどハ、兵の法をバつとむべき事也。大かた武士のおもふ心をはかるに、武士ハたゞ、死ぬるといふ道をたしなむ事、と覚る程の儀也。死する道におゐてハ、武士計にかきらず。出家にても、女にても、百姓以下に至る迄、ぎりをしり、はぢをおもひ、死する所を思ひきる事ハ、其しやべつなきものなり。武士の兵法をおこなふ道ハ、何事におゐても、人にすぐるゝ所を本とし、或ハ一身の切合にかち、或ハ數人のたゝかひにかち、主君のため、わが身のため、名をあげ身をもたてんとおもふ。是、兵法の徳を持て也。又、世の中に兵法の道をならひても、實の時の役にハたつまじきと思ふ心有べし。其儀におゐてハ、何時にても役にたつやうに稽古し、萬事に到り、役にたつやうにをしゆる事、是兵法の實の道なり。

 【細川家本】

夫、兵法と云事、武家の法なり。將たるものは、とりわき此法をおこなひ、卒たるものも、此道を知るべき事也。今世の中に、兵法の道、慥にわきまへたると云武士なし。先、道を顯して有ハ、佛法として人をたすくる道、又、儒道として文の道を糺し、醫者といひて諸病を治する道、或ハ哥道者とて和哥の道をおしへ、或は数寄者、弓法者、其外、諸藝諸能までも、思ひ/\に稽古し、心/\にすくもの也。兵法の道には、すく人まれ也。先、武士は、文武二道といひて、二ツの道を嗜事、是道也。縦、此道ぶきようなりとも、武士たるものは、おのれ/\が分際程ハ、兵の法をバつとむべき事なり。大形武士の思ふ心をはかるに、武士は只、死ぬると云道を嗜事、と覚ゆるほどの儀也。死する道におゐては、武士斗にかぎらず、出家にても、女にても、百性已下に至る迄、義理をしり、恥をおもひ、死する所を思ひきる事は、其差別なきもの也。武士の兵法をおこなふ道ハ、何事におゐても、人にすぐるゝ所を本とし、或ハ一身の切合にかち、或ハ数人の戦に勝、主君の為、我身の為、名をあげ身を【脱字】たてんと思ふ。是、兵法の徳をもつてなり。又、世の中に、兵法の道をならひても、實の時の役にハたつまじきとおもふ心あるべし。其儀におゐてハ、何時にても役にたつやうに稽古し、万事に至り、役にたつやうにおしゆる事、是兵法の實の道也。

 【丸岡家本】

夫、兵法と云事、武家の法なり。將たる者は、取分此法を行ひ、卒たる者も、此道を知べき事也。今世の中に、兵法の道、たしかに辨へたると云武士なし。先、道を顕て有は、佛法として人をたすくる道、又、儒道として文の道を糺し、醫者といひて諸病を治する道、或は歌道者といひて倭歌の道をゝしへ、或は数寄者、弓法者、其外、諸藝諸能までも、思ひ/\に稽古し、心々にすく物也。兵法の道には、すく人まれ也。先、武士は、文武二道といひて、二ツの道を嗜事、是道なり。縦、此道不器用なりとも、武士たる者は、おのれ/\が分際ほどは、兵の法をば勉べき事なり。大形武士の思ふ心を料〔ハカ〕るに、武士は唯、死るといふ道を嗜事、と覚るほどの義也。死する道におゐては、武士ばかりに限るべからず、出家にても、女にても、百姓以下に至るまで、義理を知、恥をゝもひ、死する所を思ひ切事は、其差別なき者也。武士の兵法を行ふ道は、何事におゐても、人に勝るゝ所を本とし、或は一身の切合に勝、或は数人の戦に勝、主君のため、我身のため、名をあげ身を【脱字】たてん共思ふ。是、兵法の徳を以てなり。又、世の中に、兵法の道を習ても、実の時のやくにはたつまじきと思ふ心あるべし。其儀におゐては、何時にても、やくにたつやうに稽古し、萬事にいたり、役に立樣におしゆる事、是兵法の実の道なり。

 【富永家本】

夫、兵法といふ事、武家の法なり。将たる者ハ、とりわき此法を行ひ、卒たるものも、【脱字】しるべき事也。今世の中に、兵法の道を、【脱字】わきまへたるといふ武士なし。先、道を顯して有ハ、仏法として人をたすくる道、【脱字】儒道として文の道を糺し、醫者といゐて諸病を治する道、或ハ哥道者とて和歌の道を教へ、或ハ数奇者、弓法者、其外、諸藝諸能迄も、思ひ/\に稽古して、心/\にすくものなり。兵法の道に【脱字】、すく人まれなり。先、武士ハ、文武二道といゐて、二の道を嗜む事、是道也。縦、其道不器用成とも、武士たるものハ、おのれ/\が分才ほどハ、兵の法をバ勤べき事なり。大形武士の思ふ心をはかるに、武士ハたゞ、死ると云道をたしなむ事、と覚る程の儀也。死する道におゐてハ、武士斗にかぎらず。出家にても、女にても、百姓以下に至迄、ぎりを知り、はぢを思ゐ、死る處を思ひきる事ハ、其差別なきもの也。武士の兵法を行ふ道ハ、何事におゐても、人にすぐるゝ所を本として、或ハ一身の切合ニ勝、或ハ数人のたゝかひに勝、主君の為、我身の為、名をあげ身をも立んとおもふ。是、兵法の徳を持て也。又、世の中に兵法の道をならひても、実の時の役にハ立間敷と思ふ心あるべし。其儀におゐてハ、何時にても役ニ立樣に【脱字**************】教る事、是兵法の実の道なり。

 【常武堂本】

夫、兵法と云事、武家の法なり。將たるものハ、とりわき此法をおこなひ、卒たるものも、此道をしるべき事也。今世中に、兵法の道、慥にわきまへたるといふ武士なし。先、道を顕して有ハ、佛法として人をたすくる道、又、儒道として文の道を糺し、醫者といひて諸病を治する道、或ハ歌道者とて和歌の道をおしへ、或ハ数寄者、弓法者、其外、諸藝諸能までも、思ひ/\に稽古し、心/\にすくもの也。兵法のみちには、すく人まれ也。先、武士ハ、文武二道といひて、二ツの道をたしなむ事、是道なり。縦、此道ぶきようなりとも、武士たるものハ、おのれ/\が分際程ハ、兵の法をばつとむべき事也。大形武士の思ふ心をはかるに、武士ハ只、死ぬると云道を嗜事、とおぼゆるほどの儀也。死する道に於てハ、武士斗にかぎらず、出家にても、女にても、百性已下に至るまで、義理をしり、恥をおもひ、死する所を思ひきる事ハ、其差別なきものなり。武士の兵法をおこなふ道ハ、何事に於ても、人にすぐるゝ所を本とし、或は一身の切合にかち、あるひハ数人の戦に勝、主君の為、我身の為、名をあげ身を【脱字】たてむと思ふ。是、兵法の徳を以てなり。また、世中に、兵法の道をならひても、實の時の役にハたつまじきと思ふ心あるべし。其儀に於てハ、何時に【脱字】も、役にたつ様に稽古し、萬事に至り、役にたつ様におしゆる事、これ兵法の實のみち也。

 【田村家本】

一 夫、兵法ト云事、武家ノ法也。將タル者ハ、トリワキ此法ヲ行ヒ、卒タル者モ、此道ヲ知ベキ事也。今世ノ中ニ、兵法ノ道、慥ニ辨タルト云武士ナシ。先道ヲ現シテ有ハ、佛法トシテ人ヲ助ル道、マタ儒道トシテ文ノ道ヲタヾシ、醫者ト云テ諸病ヲ治スル道、或ハ歌道【脱字】トテ和哥ノ道ヲ教、アルヒハ數寄者、弓法者、其外諸藝諸能マデ【脱字】、思々ニ稽古シ、心々ニスクモノ也。兵法ノ道ニハ、スク人稀ナリ。先武士ハ、文武二道ト云テ、二ツノ道ヲ嗜コト、是【脱字】ナリ。縦、コノ道ブキヨウナリ共、武士タル者ハ、己々ガ分才ホドハ、兵ノ道ヲバツトムベキナリ。大方ブシノ思心ヲハカルニ、武士ハタヾ、死ト云道ヲ嗜事、ト覚ル程ノ儀也。死スル道ニヲイテハ、武士計ニ限ラズ、出家ニテモ、女ニテモ、百姓以下ニ至マデ、義理ヲ知、恥ヲ思ヒ、死【脱字】處ヲ思切コトハ、其シヤ別ナシ【脱字】。武士ノ兵法ヲ行フ道ハ、何事ニヲイテモ人ニ勝ルヽ処ヲ本トシ、或一身ノ切合ニカチ、【脱字********】主君ノタメ、我身ノタメ、名ヲ揚、身ヲ【脱字】立ント思フ。是、兵法ノ徳ヲ以ナリ。又、世ノ中ニ、兵法ノ道ヲ習テモ、實ノ時ノ役ニハタツマジキト思フ心有ベシ。其儀ニヲイテハ、何時ニテモ、役ニタツヨウニ稽古シ、万事ニ至リ、ヤクニタツヨウニ教ルコト、是兵法ノ實ノ道也。

 【狩野文庫本】

   地 夫、兵法といふ事、武士の法也。將たる者ハ、取分ケ此法を行、卒たる者も、此道を可知事なり。今世中に、兵法の道、慥ニ弁へたる【脱字】武士なし。先道を顯て有ハ、仏法として人を助道、【脱字】儒道として文の道を糺、醫師といふて諸病を治する道、或ハ哥道者とて和哥の道をおしへ、或ハ数寄者、弓法者、其外諸藝諸能迄も、思ひ/\ニ稽古し、心々にすく者也。兵法の道、すく人稀也。先、武士ハ、文武二道といふて、二ツの道を嗜事、是道也。縦バ、此道不器用成とも、武士たる者ハ、おのれ/\が分才程ハ、兵の道をバ可勤事也。大形武士の思ふ心をはかるに、武士ハ唯、死ぬると云道を嗜事、と覚るほどの儀也。死する道におゐてハ、武士斗にかぎらず、出家ニ而も、女ニ而も、百姓以下ニ至迄、義理を知、恥とおもへバ、死する事を思ひ切事ハ、其差別なき者也。武士の兵法を行道ハ、何事ニおゐても人に勝る所を本とし、或ハ一身の切合ニ勝、或ハ数人の戦に勝、主君のため、我身の爲、名をあげ身をもたてんと思ふ。是、兵法の徳を以てなり。又、世中に、兵法の道を習ひても、実の時、役ニ立まじきと思ふ心有べし。其儀ニおゐてハ、何時にても、役に立樣ニ稽古し、万事に至り、役ニ立樣ニおしゆる事、【脱字】兵法の実の道也。

 【多田家本】

一 夫、兵法といふ事、武家の法也。将たる者は、取分此法を行、卒成者も、此道を可知事也。今世の中に、兵法の道、慥に弁たり【×る】といふ武士なし。先道を顕ハして有ハ、佛法と【脱字】て人を助くる道、又儒道として文の道を記し、醫者といひて諸病を治する道、或は哥道とて倭歌の道を敎へ、或は数寄者とて茶道を教、弓法者、其外諸藝諸能までも、思ひ/\に稽古して、心々にすく物也。兵法の道に、すく人貴也。先武士は、文武二道といひて、二ツの道を嗜事、是道也。縦、此道不器用成共、武士たるものハ、己【脱字】が分際程は、兵の道をバ可勤事【脱字】。大形武士の思ふ心をはかるに、武士ハ只、死すると云道を嗜事、と覚る程の儀也。死する道におひて【脱字】、武士斗に不限、出家にても、女にても、百姓以下に至る迄、義理をしり、恥を思ひ、死する所を思ひ切事ハ、其差別なきもの也。武士の兵法を行道は、何事におひても人に勝るゝ所を本とし、或は一身の切合に勝、或は人数の戦に勝、主君のため、我身の為、名を揚、身をも立んと思ふ。【脱字】兵法の徳を以也。又、世の中に、兵法の道を習ひても、実の時の役に立間敷と思ふ心有べし。其義におひては、何時【脱字】も、役に立樣に稽古して、萬事に至り、役に立樣に教る事、是兵法の実の道也。

 【山岡鉄舟本】

夫、兵法ト云事、武家ノ法也。将タル者ハ、取ワケ此法ヲ行ヒ、卒タル者モ、是道ヲ可知事也。今世ノ中ニ、兵法之道ヲ慥【脱字】辨タル【脱字】武士ナシ。先、道ヲ顕シテアルハ、佛法トシテ人ヲタスクル道、【脱字】儒道トシテ文ノ道ヲ正シ、醫者ト云テ諸病ヲ治スル道、或者歌道者トテ和哥ノ道ヲ教へ、或ハ数寄者、弓法者、其外諸藝諸能迄モ、思々ニ稽古シ、心々ニ好者也。兵法ノ道ニハ、スク人稀也。先武士ハ、文武二道ト云テ、二ツノ道ヲ嗜事、是道也。縦ヒ、此道不器用ナリ共、武士タル者ハ、己々ガ分際ホドハ、兵ノ法ヲバ勤ベキ事也。大方武士ノ思心ヲ計ル【脱字】、武士ハタヾ死ルト云道ヲ嗜事ト覚ル程ノ儀也。死ル道ニ於テハ、武士計リニ限ラズ、出家ニテモ、女ニテモ、百姓已下ニ至迄、義理ヲ知リ、恥ヲ思ヒ、死スル所ヲ思キル事ハ、其差別ナキ者也。武士ノ兵法ヲ行フ道ハ、何事ニ於テモ人ニスグルヽ処ヲ本トシ、或ハ一身之切合ニ勝、或ハ数人ノ戦に勝、主君ノ為、我身ノ為、名ヲ揚ゲ、身ヲ【脱字】立ント思フ。是、兵法ノ徳ヲ持テ也。又世ノ中ニ、兵法之道ヲ習テモ、實ノ時ノ役ニハ立マジキト思フ心有ベキ也。其義ニ於テハ、何時ニテモ、役ニ立様ニ【脱字**************×】教ル事、是兵法ノ【脱字】道也。

 【稼堂文庫本】

一 夫、兵法と云事、武家の法也。将たるものは、取分此方を行ひ、卒たる者ハなを【脱字】知べき事也。今世の中に、兵法の道、慥に弁たると云武士なし。先、道を顯てあれハ、佛法として人を助る【脱字】、また儒道としてハ文の道を糺し、醫師としてハ諸病を治する道、或は歌道者とて和歌の道を教へ、或は数奇者、弓法者、其外、諸藝諸能迄も、思ひ/\に稽古して、心/\にすく者也。兵法の道に【脱字】、すく人稀也。先、武士は、文武両道と云て、二ツの道を嗜事、是道也。假令、其道不器用成共、武士たる者は、己々が分限分材程は、兵の法をバ勤べき事也。大形武士の思ふ心を斗るに、【脱字】唯、死ると云道を嗜む事、と覚る程のこと也。死道に於てハ、武士斗に限らず。出家にても、女にても、百姓以下に至る迄、義理を知り、はぢを思ひ、死する所を思ひ切事ハ、其差別なき者也。武士の兵法を行ふ道ハ、何事にをいても、人に勝所を本とし、或は一身の切合に勝、或は数人の戦に勝、主君の為、我身のため、名を挙げ身をも立んと思ふ。是、兵法の徳を以て也。又、世の中に兵法の道を習ひても、實の時の役にハ立間敷と思ふ心有べし。其儀に於てハ、何時にても役に立様に稽古し、萬事に至り、役に立様に教る事、是兵法の實【脱字】道なり。  

 【大瀧家本】

夫、兵法といふ事、武家の法なり。將たる者ハ、取分ケ此法を行ひ、卒たるものも、此道を知るべき事也。今世の中に、兵法の道、慥に弁へたるといふ武士なし。先、道を顕して有ハ、佛法として人を助くる道、又、儒道として文の道を糺し、醫者といふて諸病を治する道、或ハ歌道者とて和哥の道を敎へ、或ハ数寄者、弓法者、其外、諸藝諸能までも、思ひ/\に稽古し、心々にすくもの也。兵法の道には、好く人まれなり。先、武士ハ、文武二道と云て、二の道を嗜む事、是道也。たとひ此道不器用なりとも、武士たるものハ、己れ/\が分【脱字】程ハ、兵の法をば勤むべき事也。大形武士の思ふ心をはかるに、武士ハたゞ、死と云道を嗜む事、と覚る程の儀也。死道におゐては、武士ばかりに限らず、出家にても、女にても、百性已下に至る迄、義理を知り、恥を思ひ、死【脱字】る所を思ヒ切る事ハ、其差別なきもの也。武士の兵法を行ふ道は、何事におゐても、人にすぐるゝ所を本とし、或ハ一身の切合に勝、或ハ数人の戦に勝、主君のため、我身のため、名をあげ身をも立んと思ふ。是、兵法の徳を以なり。又、世の中に、兵法の道を習ふても、実の時、役にたつまじきと思ふ心有べし。其儀におゐてハ、何時にても、役に立様に稽古し、萬事に至り、役に立様に教ゆる事、是兵法の実の道なり。    PageTop    Back   Next 

  3 兵法の道と云事

 【吉田家本】

一 兵法の道と云事。漢土和朝迄も、此道をおこなふものを、兵法達者と云傳たり。武士として、此法を学ばずと云事有べからず。近代、兵法者と云て世を渡もの、これハ劔術一通の儀也。常陸國鹿嶋かんとりの社人共、明神の傳として流々を立て、國々を廻り、人に傳事、近き比の事也。いにしへより十能七藝と有うちに、利方と云て、藝にわたるといへ共、利方と云出すより、劔術一通にかぎるべからず。劔術一へむの利迄にてハ、劔術もしりがたし。勿論、兵の法にハ叶べからず。世の中をミるに、諸藝をうり物に仕立、わが身をうり物の様におもひ、諸道具に付ても、うり物にこしらゆる心、花實の二つにして、花よりもミのすくなき處なり。とりわき此兵法の道に、色をかざり花をさかせて、術をてらし、或ハ一道場、二道場など云て、此道をおしへ、此道を習て、利を得むと思事、誰か謂、なまへいほう大きずのもと、誠なるべし。凡、人の世をわたる事、士農工商とて四の道也。一にハ農の道。農人ハ色々の農具をまうけ、四季轉変のこゝろへ暇なくして、春秋を送事、是農の道也。二にハ商の道。酒を作ものハ、それ/\の道具を求、其善悪の利をゑて、とせいを送る。何もあきなひの道、其身/\のかせぎ、其利をもつて世をわたるなり。是商の道也。三にハ士の道。武士におゐてハ、さま/\の兵具をこしらへ、兵具品々の徳をわきまへたらむこそ、武士の道なるべけれ。兵具をもたしなまず、其具/\の利をも覚ざる事、武家ハ少々たしなミの浅きものか。四にハ工の道。大工の道におゐてハ、種々様々の道具をたくミこしらへ、其具/\を能つかひ覚へ、すミかねをもつて、其さし圖をたゞし、暇もなく其わざをして世をわたる。これ、士農工商、四の道也。兵法を大工の道にたとへていひ顕す也。大工にたとゆる事、家と云事に付ての儀也。公家、武家、四家、其家の破れ、家のつゞくと云事、其流、其風、其家などゝ云バ、家と云より、大工のミちにたとへたり。大工は、大にたくむと書なれバ、兵法の道、大なるたくミに依て、大工に云なぞらへて書顕也。兵の法を学ばむと思ハヾ、此書を思案して、師ハはり、弟子ハ糸となつて、たへず稽古有べき事也。

 【立花隨翁本】

   (前半欠損) をして、世をわたる。是、士農工商、四の道也。兵法を大工の道にたとへていひ顕すなり。大工にたとゆる事、家と云事に付ての儀なり。公家、武家、四家、其家の破、家のつゞくと云事、其流、其風、其家などゝいへバ、家といふより、大工の道にたとへたり。大工は、大にたくむと書なれバ、兵法の道、大なるたくミに依て、大工に云なぞらへて書顕す也。兵の法を学バんと思ハヾ、此書を思案して、師ははり、弟子ハ糸となつて、たへず稽古有べき事也。

 【渡辺家本】

一 兵法の道といふ事。漢土和朝迄も、此道をおこなふものを、兵法達者と云傳たるハ、武士として、此法を学バずと云事有べからず。近代、兵法者と云て世をわたるもの、これハ劔術一通りの儀なり。常陸國鹿嶋かんとりの社人共、明神の傳として流々を立て、國々を廻り人に傳事、近き比の事也。いにしへより十能七藝とあるうちに、利方と云て、藝にわたるといへども、利方と云出すより、劔術一通りにかぎるべからず。劔術一へんの利までにてハ、劔術もしりがたし。勿論兵の法にハ叶べからず。世の中を見るに、諸藝をうり物に仕立、わが身をうり物の様におもひ、諸道具に付ても、うり物にこしらゆる心、花實【脱字】二つにして、花よりも實のすくなき所なり。とりわき此兵法の道に、色をかざり花をさかせて、術をてらし、あるひハ一道場、二道場など云て、此道をおしへ、此道を習て、利を得んと思ふ事、誰か謂、なまへいほう大きずのもと、誠なるべし。凡、人の世をわたる事、士農工商とて四の道也。一にハ農の道。農人ハ色々の農具をまうけ、四季轉変の心得暇なくして、春秋を送る事、是農の道也。二にハ商の道。酒を作るものハ、それ/\の道具を求め、其善悪の利を得て、とせいを送る。何もあきなひの道、其身其身のかせぎ、其利を以て世をわたるなり。是商の道也。三にハ士の道。武士に於てハ、さま/\の兵具をこしらへ、兵具品々の徳をわ【脱字】まへたらんこそ、武士の道なるべけれ。兵具をもたしなまず、其具/\の利をも覚へざる事、武士ハ少々たしなミの浅きものか。四にハ工の道。大工の道に於てハ、種々様々の道具をたくミこしらへ、其具/\を能つかひ覚へ、すミかねをもつて、其指圖をたゞし、暇もなく其わざをして、世をわたる。是、士農工商、四の道也。兵法を大工の道にたとへていひ顕すなり。大工にたとゆる事、家と云事に付ての儀なり。公家、武家、四家、其家の破れ、家のつゞくと云事、其流・其風・其家などゝいへバ、家といふより、大工の道にたとへたり。大工は、大にたくむと書なれバ、兵法の道、大なるたくミに依て、大工に云なぞらへて書顕す也。兵の法を学バんと思ハヾ、此書を思案して、師ハはり、弟子ハ糸となつて、たへず稽古有べき事也。

 【中山文庫本】

一 兵法の道と云事。漢土和朝迄も、此道をおこなふものを、兵法【脱字】者と云傳たり。武士として、此法を学ばずと云事有べからず。近代、兵法者と云て世を渡もの、これハ劔術一通の儀也。常陸国鹿嶋かんとりの社人ども、明神の傳として流々を立て、国々を廻り、人に傳事、近き比の事也。いにしへより十能七藝と有るうちに、利方と云て、藝にわたるといへども、利方と云出すより、劔術一通りにかぎるべからず。劔術一へむの利までにてハ、劔術もしりがたし。勿論兵の法にハ叶べからず。世の中をミるに、諸藝をうり物に仕立、わが身【脱字】うり物の様におもひ、諸道具に付ても、うり物にこしらゆる心、花実の二ツにして、花よりもミのすくなき所也。とりわき此兵法の道に、色をかざり花をさかせて、術をてらし、或は一道場、二道場など云て、此道をおしへ、此道を習て、利を得むと思事、誰か謂、なまへいほう大きずのもと、誠なるべし。凡、人の世をわたる事、士農工商とて四の道也。一にハ農の道。農人ハ色々の農具をまうけ、四季轉変のこゝろへ暇なくして、春秋を送る事、是農の道なり。二にハ商の道。酒を作ものハ、それ/\の道具を求、其善悪の利をゑて、とせいを送る。何もあきなひの道、其身/\のかせぎ、其利をもつて世をわたる也。是商の道也。三にハ士の道。武士に於てハ、さま/\の兵具をこしらへ、兵具品々の徳をわきまへたらむこそ、武士の道なるべけれ。兵具をもたしなまず、其具/\の利をも覚えざる事、武家ハ少々たしなミの浅きものか。四には工の道。大工の道におゐてハ、種々様々の道具をたくみこしらへ、其具/\をよくつかひ覚へ、すみかねをもつて、其さし圖をたゞし、暇もなく其わざをして、世をわたる。これ、士農工商、四の道也。兵法を大工の道にたとへていひ顕す也。大工にたとゆる事、家と云事に付ての儀なり。公家、武家、四家、其家の破れ、家々のつゞくと云こと、其流、其風、其家などゝ云ハ、家と云より、大工の道にたとへたり。大工ハ、大にたくむと書なれバ、兵法の道、大なるたくミに依て、大工に云なぞらへて書顕すなり。兵の法を学ばむと思はゞ、此書を思案して、師ハはり、弟子ハ糸となつて、たへず稽古有べき事也。

 【近藤家乙本】

一 兵法の道といふ事。漢土和朝迄も、此道をおこなふものを、兵法達者と云傳たり。武士として、此法を学バずと云事有べからず。近代、兵法者と云て世をわたるもの、これハ劔術一通りの儀なり。常陸國鹿嶋かんとりの社人共、明神の傳として流々を立て、國々を廻り人に傳事、近き比の事也。いにしへより十能七藝とあるうちに、利方と云て、藝にわたるといへども、利方と云出すより、劔術一通りにかぎるべからず。劔術一へんの利までにてハ、劔術もしりがたし。勿論兵の法にハ叶べからず。世の中を見るに、諸藝をうり物に仕立、わが身をうり物の様におもひ、諸道具に付ても、うり物にこしらゆる心、花實の二ツにして、花よりも實のすくなき所なり。とりわき此兵法の道に、色をかざり花をさかせて、術をてらし、あるひハ一道場二道場など云て、此道をおしへ、此道【脱字】習て、利を得んと思ふ事、誰か謂、なまへいほう大きずのもと、誠なるべし。凡、人の世をわたる事、士農工商とて四の道也。一にハ農の道。農人ハ色々の農具をまうけ、四季轉変のこゝろへ暇なくして、春秋を送る事、是農の道也。二にハ商の道。酒を作るものハ、それ/\の道具を求め、其善悪の利を得て、とせいを送る。何もあきなひの道、其身其身のかせぎ、其利を以て世をわたるなり。是商の道也。三にハ士の道。武士におゐてハ、さま/\の兵具をこしらへ、兵具品々の徳をわきまへたらんこそ、武士の道なるべけれ。兵具をもたしなまず、其具/\の利をも覚へざる事、武士ハ少々たしなミの浅きものか。四にハ工の道。大工の道に於てハ、種々様々の道具をたくミこしらへ、其具/\を能つかい覚へ、すミかねをもつて、其指圖をたゞし、暇もなく其わざをして、世をわたる。是、士農工商、四の道也。兵法を大工の道にたとへていひ顕すなり。大工にたとゆる事、家と云事に付ての儀なり。公家、武家、四家、其家の破れ、家のつゞくと云事、其流、其風、其家などゝいへバ、家といふより、大工の道にたとへたり。大工は、大にたくむと書なれば、兵法の道、大なるたくミに依て、大工に云なぞらへて書顕す也。兵の法を学バんと思ハヾ、此書を思案して、師ははり、弟子ハ糸となつて、たへず稽古有べき事也。

 【石井家本】

一 兵法の道といふ事。漢土和朝迄も、此道をおこなふものを、兵法達者と云傳たり(るハ)、武士として、此法を学バずと云事有べからず。近代、兵法者と云て世をわたるもの、これハ劔術一通りの儀なり。常陸國鹿嶋かんとりの社人共、明神の傳として流々を立て、國々を廻り人に傳事、近き比の事也。いにしへより十能七藝とあるうちに、利方と云て、藝にわたるといへ共、利方と云出すより、劔術一通りにかぎるべからず。劔術一へんの利までにてハ、劔術もしりがたし。勿論兵の法にハ叶べからず。世の中を見るに、諸藝をうり物に仕立、わが身をうり物の様に思ひ、諸道(具)に付ても、うり物にこしらゆる心、花實の二つにして、花よりも実のすくなき所也。とりわき此兵法の道に、色をかざり花をさかせて、術をてらし、あるひハ一道場、二道場など云て、此道をおしへ、此道を習て、利を得んと思ふ事、誰か謂、なまへいほう大きずのもと、誠なるべし。凡、人の世をわたる事、士農工商とて四の道也。一には農の道。農人ハ色々の農具をまうけ、四季轉変のこゝろへ暇なくして、春秋を送る事、是農の道也。二にハ商の道。酒を作るものハ、それ/\の道具を求め、其善悪の利を得て、とせいを送る。何もあきなひの道、其身其身のかせぎ、其利を以て世をわたるなり。是商の道也。三にハ士の道。武士におゐてハ、さま/\の兵具をこしらへ、兵具品々の徳をわきまへたらんこそ、武士の道なるべけれ。兵具をもたしなまず、其具/\の利をも覚へざる事、武士ハ少々たしなミの淺きものか。四にハ工の道。大工の道に於てハ、種々様々の道具をたくミこしらへ、其具/\を能つかひ覚へ、すミかねをもつて、其指圖をたゞし、暇もなく其わざをして、世をわたる。是、士農工商、四の道也。兵法を大工の道にたとへていひ顕す也。大工にたとゆる事、家と云事に付ての儀なり。公家、武家、四家、其家の破れ、家のつゞくと云事、其流、其風、其家などゝいへバ、家といふより、大工の道にたとへたり。大工は、大にたくむと書なれバ、兵法の道、大なるたくミに依て、大工に云なぞらへて書顕す也。兵の法を学バんと思ハヾ、此書を思案して、師ははり、弟子ハ糸となつて、たへず稽古有べき事也。

 【伊丹家本】

一 兵法の道と云事。漢土和朝迄も、此道を行ふ者を、兵法【脱字】者と云傳たり。武士として、此法を學バずと云事有べからず。近代、兵法者と云て世を渡ル者、是は劔術一通の儀也。常陸國鹿嶋かんとりの社人共、明神の傳として流々を立て、国々を廻り、人に傳事、近き頃の事也。いにしへより十能七藝と有内に、利方と云て、藝に渡るといへども、利方と云出すより、劔術一通【脱字】かぎるべからず。劔術一篇むの利までニては、劔術もしり難し。勿論兵の法には叶べからず。世の中をミるに、諸藝を賣物に仕立、我身を賣物の様に思ひ、諸道具に付ても、うり物にこしらゆる心、花實の二ツにして、花よりもミのすくなき所也。とりわき此【脱字】法の道に、色をかざり花をさかせて、術をてらし、或は一道場二道場など云て、此道を敎へ、此道を習て、利を得むと思事、誰か謂、なまへいほう大きずのもと、誠なるべし。凡、人の世を渡る事、士農工商とて四ツの道也。一ツには農の道。農人ハ色々の農具をまうけ、四季轉変の心得暇なくして、春秋を送事、是農の道なり。二ツにハ商の道。酒を作る者ハ、それ/\の道具を求め、其善悪の利を得て、とせいを送る。何もあきなひの道、其身々のかせぎ、其利を以て世をわたる也。是商の道也。三ツにハ士の道。武士に於てハ、様々の兵具をこしらへ、兵具品々の徳をわきまへたらぬこそ、武士の道なるべけれ。兵具をもたしなまず、其具々の利をも覺へざる事、武家は少したしなミの浅き物か。四ツニハ工の道。大工の道に於ては、種々様々の道具をたくミこしらへ、其具々をよく遣ひ覺へ、すミ金を以て、其さし図を糺し、暇もなく其業をして、世を渡る。是、士農工商、四の道也。兵法を大工の道にたとへていひ顕すなり。大工にたとへる事、家と云事ニ付ての儀也。公家、武家、四家、其家の破れ、家のつゞくと云事、其流、其風、其家など【脱字】云は、家といふより、大工の道にたとへたり。大工は、大にたくむと書なれバ、兵法の道、大なるたくミなるに依て、大工に云なぞらへて書顕す也。兵の法を學バむと思はゞ、此書を思案して、師ははり、弟子は糸となつて、たへず稽古有べき事也。

 【伊藤家本】

【★以上脱文して、前条から連続】 近代、兵法者と云て世をわたるもの、これハ劔術一通の儀なり。常陸國鹿嶋かんとりの社人共、明神の傳として流々を立て、國々を廻り人に傳事、近き比の事也。いにしへより十能七藝とあるうちに、利方と云て、藝にわたるといへども、利方と云出すより、劔術一通にかぎるべからず。劔術一へんの利までにてハ、劔術もしりがたし。勿論兵の法にハ叶べからず。世【◇】中を見るに、諸藝をうり物に仕立、わが身をうり物の様におもひ、諸道具に付ても、うり物にこしらゆる心、花實の二つにして、花よりも實のすくなき所なり。とりわき此兵法の道に、色をかざり花をさかせて、術をてらし、あるひハ一道場二道場など云て、【脱字****】、此道を習て、利を得んと思ふ事、誰か謂、なまへいほう大きずのもと、誠なるべし。凡、人の世をわたる事、士農工商とて四の道也。一にハ農の道。農人ハ色々の農具をまうけ、四季轉変のこゝろへ暇なくして、春秋を送る事、是農の道也。二にハ商の道。酒を作るものハ、それ/\の道具を求め、其善悪の利を得て、とせいを送る。何もあきなひの道、其身其身のかせぎ、其利を以て世をわたるなり。是商の道也。三にハ士の道。武士におゐてハ、さま/\の兵具をこしらへ、兵具品々の徳をわきまへたらむこそ、武士の道なるべけれ。兵具をもたしなまず、其具/\の利をも覚へざる事、武士ハ少々たしなミの浅きものか。四にハ工の道。大工の道に於てハ、種々様々の道具をたくミこしらへ、其具/\を能つかひ覚へ、すミかねをもつて、其指圖をたゞし、暇もなく其わざをして、世をわたる。是、士農工商、四の道也。兵法を大工の道にたとへていひ顕すなり。大工にたとゆる事、家と云事に付ての儀なり。公家・武家・四家、其家の破れ、家のつゞくと云事、其流・其風・其家などゝいへバ、家といふより、大工の道にたとへたり。大工は、大にたくむと書なれバ、兵法の道、大なるたくミに依て、大工に云なぞらへて書顕す也。兵の法を学バんと思ハヾ、此書を思案して、師ははり、弟子ハ糸となつて、たへず稽古有べき事也。

 【神田家本】

一 兵法の道といふ事。漢土和朝迄も、此道をおこなふものを、兵法達者と云傳たるハ、武士として、此法を学バずと云事有べからず。近代、兵法者と云て世をわたるもの、これハ劔術一通りの儀なり。常陸國鹿嶋かんとりの社人共、明神の傳として流々を立て、國々を廻り人に傳事、近き比の事也。いにしへより十能七藝とあるうちに、利方と云て、藝にわたるといへ共、利方と云出すより、劔術一通りにかぎるべからず。劔術一へんの利までにてハ、劔術もしりがたし。勿論兵の法にハ叶べからず。世の中を見るに、諸藝をうり物に仕立、わが身をうり物の様に思ひ、諸道具に付ても、うり物にこしらゆる心、花實の二つにして、花よりも實のすくなき所也。とりわき此兵法の道に、色をかざり花をさかせて、術をてらし、あるひハ一道場二道場など云て、此道をおしへ、此道を習て、利を得んと思ふ事、誰か謂、なまへいほう大きずのもと、誠なるべし。凡、人の世をわたる事、士農工商(とて)四の道也。一にハ農の道。農人ハ色々の農具をまうけ、四季轉変のこゝろへ暇なくして、春秋を送る事、是農の道也。二にハ商の道。酒を作るものハ、それ/\の道具を求め、其善悪の利を得て、とせいを送る。何もあきなひの道、其身其身のかせぎ、其利を以て世をわたるなり。是商の道也。三にハ士の道。武士におゐてハ、さま/\の兵具をこしらへ、兵具品々の徳をわきまへたらんこそ、武士の道なるべけれ。兵具をもたしなまず、其具/\の利をも覚へざる事、武士ハ少々たしなミの淺きものか。四にハ工の道。大工の道に於てハ、種々様々の道具をたくミこしらへ、其具/\を能つかひ覚へ、すミかねをもつて、其指圖をたゞし、暇もなく其わざをして、世をわたる。是、士農工商、四の道也。兵法を大工の道にたとへていひ顕すなり。大工にたとゆる事、家と云事に付ての儀なり。公家、武家、四家、其家の破れ、家のつゞくと云事、其流、其風、其家などゝいへバ、家といふより、大工の道にたとへたり。大工は、大にたくむと書なれバ、兵法の道、大なるたくミに依て、大工に云なぞらへて書顕す也。兵(の)法を学バんと思ハヾ、此書を思案して、師ははり、弟子ハ糸となつて、たへず稽古有べき事也。

 【楠家本】

一 兵法の道と云事。漢土和朝迄も、此道をおこなふ者を、兵法達者といひつたへたり。武士として、此法を学ばずといふ事有べからず。近代、兵法者と云て世をわたるもの、是ハ劔術一通の事也。ひたちの國鹿嶋かんとりの社人共、明神の傳へとして流々をたてゝ、國々を廻り、人につたゆる事、ちかき比の儀也。去しへより、十能七藝と有内に、利方と云て、藝にわたるといへども、利方と云出すより、劔術一通にかきるべからず。劔術一へんの利までにてハ、劔術もしりがたし。勿論、兵の法にハ叶べからず。世の中を見るに、諸藝をうり物にしたて、我身をうり物のやうに思ひ、諸道具につけても、うり物にこしらゆる心、花實の二ツにして、花よりもミのすくなき所なり。とりわき此兵法の道に、色をかざり花をさかせて、術とてらし、或ハ一道場、或ハ二道場など云て、此道をおしへ、此道をならひて、利を得んとおもふ事、誰か云、なまへいほう大きずのもと、まことなるべし。凡、人のよをわたる事、士農工商とて、四ツの道なり。一ツにハ農の道。農人ハいろ/\の農具をまうけ、四季轉變の心得いとまなくして、春秋を送る【脱字】、是農の道也。二ツにハ商の道。酒を作るものハ、それ/\の道具をもとめ、其善悪の利を得て、とせひををくる。いづれもあきないの道、其身/\のかせぎ、其利をもつて世をわたる事。是、商のミち也。三ツにハ士の道。武士におゐてハ、さま/\の兵具をこしらへ、兵具しな/\のとくをわきまへたらんこそ、武士の道なるべけれ。兵具をもたしなまず、その具/\の利をもおぼえざる事、武家ハ少々たしなミのあさき物か。四ツにハ工の道。大工の道におゐてハ、種々さま/\の道具をたくミこしらへ、其具/\をよくつかひおぼえ、すミかねをもつて其さしづをたゞし、いとまもなく、其わざをして世をわたる。是、士農工商、四ツの道也。兵法を大工の道にたとへて云あらハす也。大工にたとゆる事、家と云事につけての儀也。公家、武家、四家、其家のやぶれ、家のつゞくと云事、其流、其風、其家などゝいへバ、家と云より、大工の道にたとへたり。大工ハ、大きにたくむと書なれバ、兵法の道、大きなるたくミによつて、大工に云なぞらへて書顕す也。兵の法をまなばんとおもハゞ、此書を思あんして、師ハはり、弟子ハいとゝなつて、たえず稽古有べき事也。

 【細川家本】

一 兵法の道と云事。漢土和朝までも、此道をおこなふ者を、兵法の達者といひ傳へたり。武士として、此法を学ずと云事あるべからず。近代、兵法者と云て世を渡るもの、是は劔術一通の事也。常陸國かしまかんとりの社人共、明神の傳へとして流々をたてゝ、國々を廻り、人につたゆる事、ちかき比の義也。古しへより、十能七藝と有うちに、利方と云て、藝にいたるといへども、利方と云出すより、劔術一通にかぎるべからず。劔術一へんの利までにては、劔術もしりがたし。勿論、兵の法には叶べからず。世の中をみるに、諸藝をうり物にしたて、我身をうり物のやうに思ひ、諸道具につけても、うり物にこしらゆる心、花實の二ツにして、花よりもミのすくなき所なり。とりわき此兵法の道に、色をかざり花をさかせて、術とてらひ、或ハ一道場、或ハ二道場など云て、此道をおしへ、此道を習ひて、利を得んとおもふ事、誰か云、なまへいほう大疵のもと、まこと成べし。凡、人の世を渡る事、士農工商とて四ツの道也。一ツには農の道。農人ハ色々の農具をまうけ、四季轉變の心得いとまなくして、春秋を送る事、是農の道也。二ツにハあきないの道。酒を作るものハ、それ/\の道具をもとめ、其善悪の利を得て、とせいをおくる。いづれもあきないの道、其身/\のかせぎ、其利をもつて世をわたる也。是商の道【脱字】。三ツには士の【脱字】。武士におゐてハ、道さま/\の兵具をこしらゑ、兵具しな/\の徳をわきまへたらんこそ、武士の道なるべけれ。兵具をもたしなまず、其具々の利をも覚ざる事、武家は少々たしなミのあさき物か。四ツには工の道。大工の道におゐては、種々様々の道具をたくミこしらへ、其具々を能つかい覚、すみかねをもつて、そのさしづをたゞし、いとまもなくそのわざをして世を渡る。是、士農工商、四ツの道也。兵法を大工の道にたとへて云あらハす也。大工にたとゆる事、家と云事につけての儀也。公家、武家、四家、其家のやぶれ、家のつゞくと云事、其流、其風、其家などゝいへば、家と云より、大工の道にたとへたり。大工は、大きにたくむと書なれば、兵法の道、大きなるたくみによつて、大工に云なぞらへて書顕す也。兵の法をまなバんとおもハゞ、此書を思案して、師ハはり、弟子ハいとゝなつて、たへず稽古有べき事也。

 【丸岡家本】

一 兵法の道といふ事。漢土倭朝までも、此道を行ふ者を、兵法の達者といひ傳へたり。武士として此法を不学といふ事有べからず。近代、兵法者と云て世を渡る者、是は劔術一通りの事なり。常陸の國かしまかんとりの社人共、明神の傳へとして流々をたてゝ、國々を廻り、人に傳る事、近き比の儀なり。古へより、十能七藝とある内に、利方と云て、藝にわたるといへども、利方と云出すより、劔術一通りに限るべからず。劔術一へんの利迄にては、劔術も知がたし。勿論、兵の法には叶べからず。世の中を見るに、諸藝を賣物にしたて、我身をうり物のやうに思ひ、諸道具につけても、賣物にこしらゆる心、華実の二ツにして、華よりも実のすくなき所なり。とりわき此兵法の道に、色をかざり花を咲せて、術をてらひ、或は一道場、或は二道場などゝ云て、此道をゝしへ、此道を習ひて、利を得んと思ふ事、誰か云、なま兵法は大庇の本、誠なるべし。凡、人の世を渡る事、士農工商とて四ツの道也。一ツには農の道。農人は色々の農具を設、四季轉変の心得暇なくして、春秋を送る事、是農の道也。二にハ商の道。酒を造る者は、それ/\の道具を求、其善悪の利を得て、渡世を送る。何れも商の道、其身/\のかせぎ、其利を以て世をわたる【脱字】。是商の道也。三には士の道。武士におゐてハ、さま/\の兵具をこしらへ、【脱字】品々の徳を辨へたらんこそ、武士の道なるべけれ。兵具をもたしなまず、其具/\の利をも覚ざる事、武家は少々嗜みの淺きものか。四ツニハ工の道。大工の道におゐては、ほど/\さま/\の道具をたくみこしらへ、其具/\をよくつかひおぼへ、墨かねを以て其差圖を糺し、暇もなく其業をして世を渡る。是、士農工商、四ツの道也。兵法を大工に諭へて云顕す也。大工に譬る事、家といふ事につけての儀なり。公家、武家、四家、其家の破れ、家の續くと云事、其流、其風、其家などゝいへば、家といふより、大工の道にたとへたり。大工は大きにたくむと書なれば、兵法の道、大きなるたくみによりて、大工に云なぞらへて書著すなり。兵の法を學んと思ハゞ、此書を思案して、師は針、弟子は糸となりて、不絶けいこ有べき事也。

 【富永家本】

一 兵法の道といふ事。漢土和朝迄も、此道を行ふ者を、兵法の達者といひ傳へたり。武士として、此法を学ばずといふ事不可有。近代、兵法者と云て世を渡る者、是ハ劔術一通の事なり。常陸国鹿嶋かんとりの社人ども、明神の傳へとして流々を立て国々を廻りて、人に傳る事、近比の儀なり。古より、一能七藝と有内に、利方と云て、藝に渡るといえども、利方と云出すより、劔術一通にかきるべからず。劔術一編の利までにてハ、劔術も知りがたし。勿論、兵の法ニハ叶べからず。世の中をミるに、諸藝をうり物に仕立て、我身をうり物の様に思ゐ、諸道具に付ても、賣物に拵る心、花実の二ツにして、花よりも実のすくなき所なり。取分此兵法の道に、色を飾り花を咲せて、術をてらし、或ハ一道場、或二道の場などゝ云て、此道を教、此道を習て、利を得んと思ふこと、誰か云、なま兵法大疵の本、寔成るべし。凡、人の世を渡る事、士農工商とて、四ツの道なり。壱ツにハ農の道の人ハ色/\の農具を設ケ、四氣轉変の心得、暇無して、春秋を贈る【脱字】、是農の道なり。二ツにハ商の道。酒を作るものハ、夫/\の道具を求め、其善悪の利を得て、渡世を送る。何れもあきなひの道、其身/\のかせぎ、其利を以て世を渡る事。是、商の道なり。三ツにハ士の道。武士においてハ、さま/\の兵具を拵、兵具品/\の徳をわきまへたらんこそ、武士の道なるべけれ。兵具をもたしなまず、其具/\の【脱字***********】あさき物か。四ツにハ工の道。大工の道におゐてハ種々様々の道具をたくミ拵へ、其具【脱字】を能遣ひ覚え、すミかねを以、其さしずをたゞし、暇もなく、其わざをして世を渡る。是士農工商【脱字】の道也。兵法を大工の道にたとへて云あらわすなり。大工にたとゆる事、家と云事につけての儀なり。公家、武家、【脱字】、其家のやぶれ、家のつゞくといふ事、其流、其風、其家などゝいふハ、家といふより、大工の道にたとゑたり。大工ハ、大きにたくむと書なれバ、兵法の道、大きなるたくミによつて、大工にいゐなずらゑて書顯すなり。兵の法をまなバんと思わゞ、此書をおもひあんじて、師ハ針、弟子ハ糸となつて、不絶稽古あるべき事なり。

 【常武堂本】

一 兵法の道と云事。漢土和朝までも、此道をおこなふ者を、兵法の達者といひ傳へたり。武士として、此法を学ずと云事あるべからず。近代、兵法者と云て世を渡るもの、是ハ劔術一通の事也。常陸國かしまかんとりの社人共、明神の傳へとして流々をたてゝ、國々を廻り人につたゆる事、ちかきころの義也。古しへより、十能七藝と有うちに、利方と云て藝にわたるといへども、利方と云出すより、劔術一通にかぎるべからず。劔術一へんの利までにてハ、劔術もしりがたし。勿論、兵の法にハ叶べからず。世中をみるに、諸藝をうり物にしたて、我身をうり物の様に思ひ、諸道具につけても、うり物にこしらゆる心、花實の二ツにして、花よりもみのすくなき所也。とりわき此兵法の道に、色をかざり花をさかせて、術と云ひ、あるひは一道場、或ハ二道場など云て、此道をおしへ、此道を習ひて、利を得んとおもふ事、誰か云、なまへいほう大疵のもと、まこと成べし。凡、人の世を渡る事、士農工商とて四ツの道也。一ツにハ農の道。農人ハ色々の農具をまうけ、四季轉変の心得いとまなくして、春秋を送る事、是農の道也。二ツにハあきなひの道。酒を作るものハ、それ/\の道具をもとめ、其善悪の利を得て、とせいをおくる。いづれもあきなひの道、其身/\のかせぎ、其利を以て世をわたるなり。是商の道【脱字】。三ツにハ士の【脱字】。武士に於てハ、道さま/\の兵具をこしらへ、兵具しな/\の徳をわきまへたらむこそ、武士の道なるべけれ。兵具をもたしなまず、其具々の利をもおぼえざる事、武家ハ少々たしなみのあさき物か。四ツには工の道。大工の道に於てハ、種々様々の道具をたくみこしらへ、其具々を能つかひ覚、すみかねを以てそのさしづをたゞし、いとまもなくそのわざをして世を渡る。是士農工商、四ツの道也。兵法を大工の道にたとへて云あらはす也。大工にたとゆる事、家と云事につけての儀也。公家、武家、四家、其家のやぶれ、家のつゞくと云事、其流、其風、其家などゝいへば、家と云より、大工の道にたとへたり。大工は、大きにたくむと書なれバ、兵法の道、大きなるたくみによつて、大工に云なぞらへて書あらはす也。兵の法をまなばんとおもハゞ、此書を思案して、師ハはり、弟子ハいとゝなつて、たへず稽古あるべき事也。

 【田村家本】

一 兵法ノ道ト云事。漢土和朝マデモ、此道ヲ行フ者ヲ、兵法ノ達者ト云傳タリ。武士トシテ此法ヲ學ズト云事アルベカラズ。近代、兵法者ト云テ世ヲワタル者、コレハ劔術一通ノ事ナリ。常陸ノ國鹿島カントリノ社人ドモ、明神ノ傳トシテ流々ヲタテヽ國々ヲ廻リ、人ヲツタユル事、近キ比【脱字】ナリ。昔ヨリ、十能七藝トアルウチニ、利方ト云テ、藝ニワタルト云共、利方ト云出スヨリ、劔術一通ニ限ルベカラズ。劔術一篇ノ利マデニテハ、劔術モ知リ難シ。勿論、兵【脱字】法ニ叶フベカラズ。世ノ中ヲ觀ニ、諸藝ヲ賣物ニシタテ、我身ヲウリ物ノヨウニ思ヒ、諸道具ニ附テモ、賣モノニ拵ユル心、花實ノ二ツニシテ、花ヨリモミノスクナキ処ナリ。トリワキ此兵法ノ道ニ、色ヲカザリ花ヲサカセテ、術トテライ、或ハ一道場、或二道【脱字】ナドヽ云テ、此道ヲ教、コノミチヲナライテ利ヲ得ト思フコト、誰カ云、ナマ兵法大怪我ノモト、マコトナルベシ。凡人ノ世ヲ渡ルコト、士農工商トテ四ツノ道也。一ツニハ農ノ道。農人ハ色々ノ農具ヲマフケ、四季轉變ノ心ヱイトマナクシテ、春秋ヲ送ル。是農ノ道ナリ。二ツニハ商ノ道。酒ヲ造ル者ハ、夫々ノドウグヲ求メ、其善惡ノ利ヲヱテ、渡世ヲ送。何モ商ノ道、其身々ノカセギ、其リヲ以テ【脱字】ワタル事。是、商ノミチ也。三ツニハ士ノミチ。武士ニヲイテハ、サマ々ノ兵グヲ拵ヱ、【脱字】品品ノ徳ヲワキマヱタランコソ、武士ノ道ナルベシ。兵グヲモ嗜マズ、其具ソノグノ利ヲモ覚ヱザル事、武家ハ少々嗜ノアサキモノカ。四ツニハ工ノミチ【脱字】ニヲイテハ、程々様々ノ道具ヲタクミコシラヱ、ソノ具々ノ道具ヲ工ミコシラエ、其具々ヲヨクツカイヲボヱ、スミカネヲ用テ其サシ圖ヲタダシ、イトマモナク其ワザヲシテ世ヲワタル。是士農工商、四ツノ道也。兵法ヲ大工【脱字】ニタトヱテ云アラワス也。大工ニタトユルコト、家ト云事ニ付テ【脱字】ギ也。公家、武家【脱字********】ノツヾクト云事、其流、其風、其家ナドヽ云バ、家ト云ヨリ、大工ノミチニタトヱタリ。大工ハ大ニタクムト書クナレバ、兵法ノ道、大キナル工ニヨリ、大工ニ云準ヘテ書アラハス也。兵ノ法ヲ学ント思ハヾ、此書ヲ思案シテ、師ハ鍼、弟子ハ絲トナリテ、絶ズケイコ有ベキコトナリ。

 【狩野文庫本】

一 兵法の道と云事。漢土和朝までも、此道を行者を、兵法の達者と云傳たり。武士として此兵法を不学【脱字】云事不可有。近代、兵法者と云て世を渡者、是は劔術一通【脱字】事也。常陸國鹿嶋神捕の社人ども、明神の傳として流々を立、國々を廻り、人に傳る事、近比の義也。古より、十能七藝とある内ニ、利方と云て、藝に渡ると云ども、利方と云出すより、劔術一通にかぎるべからず。劔術一篇の利【脱字】にては、劔術も知がたし。勿論、兵の法にハ不可叶。世の中を見るに、諸藝を賣物に仕立、我身を賣物【脱字】に思ひ、諸道具ニ付ても、賣物ニ拵心、実花の二ツにして、花よりも実のすくなき所なり。取分此兵法の道に、色をかざり花を咲せて、術をてらし、或は一道場、或は二道場抔と云て、此道をおしへ、此道を習ひて利を得んと思ふ事、誰か云、生兵法大庇の本、誠成べし。凡人の世を渡る事、士農工商とて四ツの道也。一ツニハ農の道。農人ハ色々の農具をもふけ、四季轉変の心得いとまなくして、春秋を送事、是農の道也。二ツにハあきなひのみち。酒を作る者は、夫々の道具を求、其善悪の利を得て、渡世を送る。何も商の道、其身/\の拤、其利を以、世を渡る事。是、商の道也。三ツニハ士の道。武士におひてハ、樣々の兵具を拵、兵具の品々の徳を弁、正さんこと、武士の道なるべケれ。兵具をも不嗜は、其具/\の利をも覚ざる事、武士ニハ少々嗜の淺きものか。四ツニハ工の道。大工の道ニおゐてハ、種々様々の道【脱字】をたくミ拵へ、其具々をよくつかい覚、墨がね【脱字*******】、いとま【脱字】なくその業をして世を渡る事。是士農工商、四ツの道也。兵法を大工の道にたとへて云あらハすなり。大工ニたとゆる事、家と云事に付ての儀也。公家、武家、四家、その家の破、家のつゞく【脱字】云事、其流、其風、其家などゝ云ば、家といふより、大工の道ニたとへたり。大工は大にたくむと云なれバ、兵法の道、大きなる工により、大工ニ云なぞらへて書顕也。兵【脱字】法を学と思ハゞ、此書を思案して、師ははり、弟子ハ糸と成て、不絶稽古可有事なり。

 【多田家本】

一 兵法の道と云事。漢土倭朝【脱字】も、此道を行ふ者を、兵法の達者と云傳へたり。武士として此兵法を学ばずと云事なし。近代、兵法者と【脱字】て世を渡る【脱字】、是は劔術一通りの事也。常陸の國鹿嶋かんとりの社人共、明神の傳へとして流々を立て國々を廻り、人に傳る事、近き比の義也。古より、十能七藝と有内に、利方と云て、藝に渡るといへども、利方と云出すより、劔術一通【脱字********】の利迄にてハ、劔術もしりがたし。勿論、兵の法にハ叶ふべからず。世の中を見るに、諸藝を賣物に仕立、我身を賣物【脱字***********】に拵ゆる心、実花の二つにして、華よりも実のすくなき所也。取分此兵法の道に、色をかざり花を咲せて、術を照し、或は一道場、二道場【脱字】といひて、此道を教へ、此道を習ひて利を得んと思ふ事、誰かいふ、なま兵法は大庇の本、【脱字】成べし。凡人の世を渡る事、士農工商とて四の道也。壹ツにハ農の道。農人は【脱字】道具をまふけ、四季轉変の心得暇なくして、春秋をしる事、是農人の道也。二つにハ商の道、酒を作る者は、夫々の道具を求、其善悪の利を得て、渡世を送る。何も商の道、其身/\の拤、其利を以て世を渡る事。是、商の道也。三つには士の道。武士におひてハ、様々の兵具を拵、兵具の品々のことを弁へたらん社〔こそ〕、武士の道成べけれ。兵具をも不嗜、其具/\の利をも覚ざる事、武家ハ少々嗜の淺きものか。四つにハ工の道。大工の道にをひては、種々様々の道具を【脱字】拵、【脱字】具々を能つかひ覚、すミ曲尺〔かね〕を以て其差圖を正し、暇もなく其業をして世を渡る。是士農工商、四ツの道也。兵法を大工【脱字】にたとへて云顕す也。大工にたとゆる事、家と云事につけての儀也。公家、武家、四家、【脱字】の破れ、家の續と云事、其流、其風、其家抔といへば、家と云より、大工の道にたとへたり。大工ハ大きに工むと書なれバ、兵法のミち、大き成工によつて、大工に云なぞらへて書顕也。兵【脱字】法を学ばんと思ハゞ、此書を思案し、師ハ針、弟子ハ糸と成て、終日稽古有べき事【脱字】。(★改行なしで次条へ連続)

 【山岡鉄舟本】

一 兵法之道ト云事。漢土和朝迄モ、此道ヲ行フ者ヲ、兵法ノ達者ト云傳へ【脱字】リ。武士トシテ此法ヲ学ズト云事有ベカラズ。近代、兵法者ト云テ世ヲ渡ル者、是ハ釼術一通ノ事也。常陸ノ国鹿島カントリノ社人共、明神ノ傳ヘトシテ流々ヲ立テ国々ヲ廻リ、人ニ傳ル事、近キ頃ノ儀ナリ。古ヨリ、十能八藝ト有ル内ニ、利方ト云テ藝ニ渡ルト云共、利方ト云出ヨリ、釼術一通ニカギルベカラズ。釼術一ヘンノ利迄【脱字】ハ、釼術モ知リガタシ。勿論、兵【脱字】法ニハ叶ベカラズ。世ノ中ヲ見ルニ、諸藝ヲ賣物ニシタテ、我身ヲ賣物ノヤウニ思フ、諸道具ニ付テ【脱字】、賣物ニ拵ル心、花實ノ二ツニシテ、花ヨリモ實ノ少キ処也。取リワケ此兵法ノ道ニ、色ヲ飾リ花ヲ咲セテ、術ヲテラシ、或ハ一道場、二道場ナド云テ、此道ヲ教ヘ、此道ヲ習ヒテ利ヲ得ント思フ事、誰【脱字】云、生兵法大キズノ本、實ナルベシ。凡人ノ世ヲ渡ル事、士農工商トテ四ツノ道也。一ツニハ農ノ道。農人ハ色々ノ農具ヲ設ケ、四季轉変ノ心得、暇ナクシテ春秋ヲ送ル。是農ノ道也。二ツニハ商ノ道。酒ヲ造ル者ハ、夫々ノ道具ヲ求、其善悪ヲ知リ、渡世ヲ送ル。何レモ商ノ道、其身々ノカセギ、其利ヲ以テ世ヲ渡ル事、是商ノ道也。三ツニハ士ノ道。武士ニ於テハ、サマ/\ノ兵具ヲ拵ヘ、【脱字】品々ノ徳ヲ辨ヘタランコソ、武士ノ道ナルベシ。兵具ヲモ嗜マズ、其具々ノ利ヲモ覺ザル事、武家ハ少シ嗜ノ淺キ物カ。四ツニハ工ノ道。大工ノ道ニ於テハ、種々サマ/\ノ道具ヲタクミ拵ヘ、其具々ヲ能ツカヒ覺ヘ、墨カ子ヲ以テ其指図ヲ正シ、暇モナク其業ヲシテ世ヲ渡ル。是士農工商、四ノ道也。兵法ヲ大工ノ道ニタトヘテ云顕ス也。夫工ニタトユル事、家ト云事ニ付テノ儀也。公家、武家、四家、【脱字】ノヤブレ、家ノツヾクト云事、其流其風其家ナドヽイヘ共、家ト云ヨリ、大工ノ道トタトヘタリ。大工ハ大キニタクムト書ナレバ、兵法ノ道、大キナルタクミニヨリテ、大工ニ云ナゾラヘテ書キ顕ス也。兵ノ道ヲマナバント思バ、此書ヲ思案シテ、師ハ針、弟子ハ糸トナリテ、絶ヘズ稽古アルベキ事也。

 【稼堂文庫本】

一 兵法の道と云事。和朝唐土迄も、此道を能行ふ者を、兵法の達者と云傳へたり。武士として、此法を不学と云こと有べからす。近代、兵法者と云て、世を渡る者、是ハ劔術一通の事也。常陸國鹿嶋かんとりの社人共、明神の傳として流々を立て、国々を廻り、人に傳ること、近比の事也。古より、十能八藝と有内に、利方と云て、藝に渡ると云へ共、利方と云出すより、劔術一通に限るべからず。劔術一遍の利迄にては、劔術も知がたし。勿論、兵の法には叶ふべからず。世の中を見るに、諸藝を賣物に仕立て、我身を賣物の様に思ひ、諸道具に付ケても、賣物に拵へ心を、花実の二ツにして、華よりも実の少なき所也。取分此兵法の道に、色をかさり花を咲せて、術を照し、或ハ【脱字***】二道場など云て、此道をおしへ、此道を習ひて、利を得んと思ふ事、誰ゾヤ云ル、生兵法大疵のもと、誠なるべし。凡、人の世を渡ること、士農工商とて、四の道なり。一ツには農の道の人々は色々の農具をまふけ、四季轉変の心得暇なくして、春秋を送る。是農の道也。二ツには商の道。酒を作るものハ、夫々の道具を求め、其善悪の利を得て、渡世を送。何れも高賣の道、其身々の拤、其利を以世を渡る事。是、商の道也。三ツにハ士の道。武士にをゐて【脱字】、様々の兵具を拵、兵具品々の徳を弁へたらんこそ、武士の道なるべけれ。然るに兵具をもたしなまず、其具/\の利をも覚ざる事、武士ハ少々嗜の浅き物か。四ツにハ工の道。大工の道にをゐてハ、【脱字】様々の道具を【脱字】拵へ、其具/\を能遣ひ覚へ、すみかねを以其指圖をたゞし、暇も無く、其業を勤て世を渡る。是、士農工商、【脱字】の道也。兵法を大工の道にたとへて云顕す也。大工に譬る事、家と云事に付ての儀也。公家、武家、四家、其外家の傳、家の續くと云事、其流、其法、其家などゝいへば、家と云より、大工の道に譬たり。大工は、大きに工むと書なれバ、兵法の道、大き成る工ミに依て、大工に云なぞらへて書顕也。兵の法を学ばんと思ハゞ、此書を思ひ案じて、師ハ針、弟子は糸と成つて、不絶稽古有べき事也。  

 【大瀧家本】

一 兵法の道といふ事。漢土和朝迄も、此道を行ふ者を、兵法達者と云傳たるハ、武士として、此法を学ばずといふ事あるべからず。近代、兵法者と云て世を渡るもの、是ハ劔術一通の事也。常陸国鹿嶋かんとりの社人共、明神の傳として、流々を立て国々を廻り、人に傳る事、近き比の事也。古しへより、十能七藝とある内に、利方と云て、藝に渡るといへども、利方と云出すより、劔術一通りに限るべからず。劔術一返の利迄にてハ、劔術も知りがたし。勿論、兵の法にハ叶べからず。世の中を見るに、諸藝を賣物に仕立、我身をうり物の様に思ひ、諸道具に付ても、賣物に拵らゆる心、花實の二ツにして、花よりも実のすくなき所なり。取わき此【脱字】法の道に、色を飾り花を咲かせて、術を照らし、或ハ一道場、二道場抔と云て、此道を敎え、此道を習ふて、利を得んと思ふ事、誰か謂、なま兵法大疵の本と、誠なるべし。凡、人の世を渡る事、士農工商とて四ツの道也。一にハ農の道。農人ハ色々の農具を設け、四季轉變の心得暇なくして、春秋を送る事、是農の道也。二ツにハ商の道。酒を造るものハ、夫/\の道具を求め、其善悪の利を得て、渡世を送る。何も商の道、其身/\のかせぎ、其利を以て世を渡る事。是、商の道也。三ツには士の道。武士におゐてハ、様々の兵具を拵へ、兵具品々の徳を弁まひたらんこそ、武士の道なるべけれ。兵具をも嗜まず、其具其具の利をも覚へざる事、武士ハ少々嗜の淺きものか。四ツにハ工の道。大工の道におゐてハ、種々様々の道具を工ミ拵へ、其具/\を能遣ひ覚へ、墨かねを以て其差惣の圖を糺し、暇もなく其業をして世を渡る。是士農工商、四ツの道なり。兵法を大工の道に譬へて云顕すなり。大工に譬る事、家といふ事に付ての儀なり。公家、武家、四家、其家の破れ、家のつゞくといふ事、其流、其風、其家などゝいへども、家といふより、大工の道に譬ひたり。大工は、大にたくむと書なれば、兵法の道、大なる工ミに依て、大工といひなぞらひて書顯す也。兵【脱字】法を学ばんと思はゞ、此書を思案して、師ハ針、弟子ハ糸となつて、たえず稽古有べき【脱字】也。    PageTop    Back   Next 

  4 兵法の道、大工にたとへたる事

 【吉田家本】

一 兵法の道、大工にたとへたる事。大将ハ、大工の棟梁として、天下のかねをわきまへ、其國のかねを糺し、其家のかねをしる事、棟梁の道也。大工の棟梁ハ、堂塔がらんのすミかねを覚へ、くうでんろうかくのさし圖をしり、人々をつかひ、家々をとり立事、大工の棟梁、武家の棟梁もおなじ事也。家を立るに、木くばりする事、直にして節のなく、見付の能を表の柱とし、少ふし有とも、直に強きを裏の柱とし、たとひ少弱くとも節なき木のミさまよきをバ、敷居、鴨居、戸障子と、それ/\につかひ、節有とも、ゆがミたりとも、強き木をば、其家の強ミ/\を見分て、能吟味してつかふにおゐてハ、其家ひさしくくずれがたし。又、材木のうちにしても、節おほく、ゆがミてよハきをば、あしじろともなし、後にハ薪ともなすべき事なり。棟梁におゐて大工をつかふ事、其上中下を知り、或床まハり、或戸障子、或ハ敷居、鴨居、天井已下、それ/\につかひて、あしきにハねだをはらせ、猶悪にハくさびを削せ、人を見分てつかヘバ、其はか行て手ぎわ能もの也。はかの行、手ぎわ能と云所、物ごとをゆるさゞる事、たいゆふを知事、気の上中下を知事、いさミをつくると云事、むたいを知と云事、か様の事ども、棟梁の心持に有事也。兵法の利、かくのごとし。

 【立花隨翁本】

一 兵法の道、大工にたとへたる事。大将ハ、大工の棟梁として、天下のかねをわきまへ、其國のかねを糺し、其家のかねをしる事、棟梁の道也。大工の棟梁ハ、堂塔伽藍のすミかねを覚へ、くうでんろうかくの指圖をしり、人々をつかひ、家々をとり立事、大工の棟梁、武家の棟梁も同じ事也。家を立るに、木くばりする事、直にして節もなく見付のよきを表の柱とし、少ふしありとも直に強きを【破損】の柱とし、たとひ少弱くとも節なき木のミさまよきをバ、敷居、鴨居、戸障子と、それ/\につかひ、節有ともゆがミたりとも、強き木をバ、其家の強ミ/\を見分て、能吟味してつかふにおゐてハ、其家ひさしくくづれがたし。又、材木のうちにしても、節多くゆがミてよハきをバ、あししろともなし、後にハ薪ともなすべき事也。棟梁に於て、大工をつかふ事、其上中下を知り、或ハ床まハり、あるひハ戸障子、或ハ敷居、鴨居、天井已下、それ/\につかひて、あしきにハねだをはらせ、猶悪にハくさびを削せ、人を見分てつかヘバ、其渉行て手ぎハ能もの也。はかのゆき、手ぎハよきといふ所、物ごとをゆるさゞる事、たいゆうを知事、氣の上中下を知事、いさミを【破損】くると云事、むたいを知と云事、か様の事ども、棟梁の心持に有事也。兵法の利、かくのごとし。

 【渡辺家本】

一 兵法の道、大工にたとへたる事。大将ハ、大工の棟梁として、天下のかねをわきまへ、其國のかねを糺し、其家のかねをしる事、棟梁の道也。大工の棟梁ハ、堂塔伽藍のすみかねを覚へ、くうでんろうかくの指圖をしり、人々をつかひ、家々を取立る事、大工の棟梁、武家の棟梁も同じ事也。家を立るに、木くばりする事、直にして節もなく、見付のよきを表の柱とし、少ふしありとも直に強きを裏の柱とし、たとひ少弱くとも節なき木のミさまよきをバ、敷居・鴨居・戸障子と、それ/\につかひ、節有ともゆがミたりとも、強き木をバ、其家の強ミ/\を見分て、能吟味してつかふにおゐてハ、其家ひさしくくづれがたし。又、材木のうちにしても、節多くゆがミてよハきをバ、あしゝろともなし、後にハ薪ともなすべき事也。棟梁におゐて、大工をつかふ事、其上中下を知り、或は床まハり、或ハ戸障子、或は敷居・鴨居・天井以下、それ/\につかひて、あしきにハねだをはらせ、猶悪きにハくさびを削せ、人を見分てつかヘバ、其渉行て手ぎハ能もの也。はかのゆき、手ぎハよきといふ所、物ごと【脱字】ゆるさゞる事、たいゆうを知る事、氣の上中下を知事、いさミをつくると云事、むたいを知と云事、か様の事ども、棟梁の心持に有事也。兵法の利、かくのごとし。

 【中山文庫本】

一 兵法の道、大工にたとへたる事。大将ハ、大工の棟梁として、天下のかねをわきまへ、其国のかねを糺し、其家のかねをしる事、棟梁の道也。大工の棟梁は、堂塔がらんのすミかねを覚、くうでんろうかくのさし圖をしり、人々をつかひ、家々をとり立事、大工の棟梁、武家の棟梁もおなじ事也。家を立るに、木くばりする事、直にして節のなく、見付の能を表の柱とし、少ふしありとも、直に強きを裏の柱とし、たとひ少弱くとも節なき木の見さまよきをば、敷居、鴨居、戸障子と、それ/\につかひ、節ありともゆがみたりとも、強き木をバ、其家の強ミ/\を見分て、能吟味してつかふに於てハ、其家ひさしくくづれがたし。又、材木のうちにしても、節おほくゆがみて弱きをば、あししろともなし、後には薪ともなすべき事也。棟梁に於て、大工をつかふ事、其上中下を知り、或は床まわり、或ハ戸障子、或ハ敷居、鴨居、天井已下、それ/\につかひて、あしきにはねだをはらせ、猶悪にハくさびを削せ、人を見分てつかヘバ、其はか行て手ぎは能もの也。はかの行、手ぎは能と云所、物ごとをゆるさゞる事、たいゆふを知事、氣の上中下を知事、いさみをつくると云事、むたいを知と云事、か様の事ども、棟梁の心持に有事也。兵法の利、かくのごとし。

 【近藤家乙本】

一 兵法の道、大工にたとへたる事。大将ハ、大工の棟梁として、天下のかねをわきまへ、其國のかねを糺し、其家のかねをしる事、棟梁の道也。大工の棟梁ハ、堂塔伽藍のすミかねを覚へ、くうでんろうかくの指圖をしり、人々をつかひ、家々を取立る事、大工の棟梁、武家の棟梁も同じ事也。家を立るに、木くばりする事、直にして節もなく、見付のよきを表の柱とし、少ふしありとも直に強きを裏の柱とし、たとひ少弱くとも節なき木のミさまよきをバ、敷居、鴨居、戸障子と、それ/\につかひ、節有ともゆがミたりとも、強き木をバ、其家の強ミ/\を見分て、能吟味してつかふにおゐてハ、其家ひさしくくづれがたし。亦、材木のうちにしても、節多くゆがミてよハきをバ、あしゝろともなし、後にハ薪ともなすべき事也。棟梁に於て、大工をつかふ事、其上中下を知り、或ハ床まハり、あるひハ戸障子、或は敷居、鴨居、天井以下、それ/\につかひて、あしきにハねだをはらせ、猶悪きにハくさびを削せ、人を見分てつかヘバ、其渉行て手ぎハ能もの也。はかのゆき、手ぎハよきといふ所、物ごとをゆるさゞる事、たいゆうを知る事、氣の上中下を知事、いさミをつくると云事、むたへを知と云事、か様の事ども、棟梁の心持に有事也。兵法の利、かくのごとし。

 【石井家本】

一 兵法の道、大工にたとへたる事。大将ハ、大工の棟梁として、天下のかねをわきまへ、其国のかねを糺し、其家のかねをしる事、棟梁の道也。大工の棟梁ハ、堂塔伽藍のすみかねを覚へ、くうでんろうかくの指圖をしり、人々をつかひ、家々を取立事、大工の棟梁、武家の棟梁も同じ事也。家を立るに、木くばりする事、直にして節もなく、見付のよきを表の柱とし、少ふしありとも直に強きを裏の柱とし、たとひ少弱くとも節(も)なき木のミさまよきをバ、敷居、鴨居、戸障子と、それ/\につかひ、節有ともゆがミたりとも、強き木をバ、其家のつよミ/\を見分て、能吟味してつかふにおゐてハ、其家ひさしくくづれがたし。又、材木のうちにしても、節おほくゆがミてよハきをバ、あしゝろともなし、後にハ薪ともなすべき事なり。棟梁に於て、大工をつかふ事、其上中下を知り、或ハ床まはり、あるひハ戸障子、或ハ敷居、鴨居、天井已下、それ/\につかひ(て)、あしきにハねだをはらせ、猶悪きにハくさびを削せ、人を見分てつかヘバ、其渉行て手ぎハよきもの也。はかのゆき、手ぎハよきといふ所、物ごとをゆるさゞる事、たいゆうを知る事、氣の上中下を知事、いさミをつくると云事、むたいを知と云事、か様の事ども、棟梁の心持に有事也。兵法の利、かくのごとし。

 【伊丹家本】

一 兵法の道、大工にたとへたる事。大将は、大工の棟梁として、天下のかねをわきまへ、其国のかねを糺し、其家のかねをしる事、棟梁の道なり。大工の棟梁は、堂塔がらんのすミかねを覺、くうでんろうかくの差圖をしり、人々をつかひ、家々をとり立事、大工の棟梁、武家の棟梁も同じ事也。家を立るに、木くばりする事、直にして節の無く、見付の能を表の柱とし、少し節有とも、直に強きを裏の柱とし、たとひ少し弱とも節なき木のミさまよきをバ、敷居、鴨居、戸障子と、それ/\に遣ひ、節有ともゆがミたりとも、強き木をバ、其家の強ミ々を見分て、能吟味して遣ふに於てハ、其家ひさしく崩れ難し。又、材木の内にしても、節多くゆがミてよはきをば、あし代ともなし、後ニは薪ともなすべき事也。棟梁に於て、大工を遣ふ事、其上中下を知り、或は床まわり、或、戸障子、或、敷居、鴨居、天井已下、それ/\に遣ひて、あしきにはねだをはらせ、猶悪きにはくさびを削せ、人をミ分てつかヘバ、其博行て手ぎわよき物也。はか【脱字】行、手ぎハ能と云所、物毎をゆるさゞる事、たいゆふを知る事、氣の上中下を知事、いさミをつくると云事、むたいを知と云事、か様の事ども、棟梁の心持に有事なり。兵法の利、かくの如し。

 【伊藤家本】

一 兵法の道、大工にたとへたる事。大将ハ、大工の棟梁として、天下のかねをわきまへ、其國のかねを糺し、其家のかねをしる事、棟梁の道也。大工の棟梁ハ、堂塔伽藍のすみかねを覚へ、くうでんろうかくの指圖をしり、人々をつかひ、家々を取立る事、大工の棟梁、武家の棟梁も同じ事也。家を立るに、木くばりする事、直にして節もなく見付のよきを表の柱とし、少ふし有とも直に強きを裏の柱とし、たとひ少弱くとも節なき木のミさまよきをバ、敷居、鴨居、戸障子と、それ/\につかひ、節有ともゆがミたりとも、強き木をバ、其家の強ミ/\を見分て、能吟味してつかふにおゐてハ、其家ひさしくくづれがたし。又、材木のうちにしても、節おほくゆがミてよハきをバ、あしゝろともなし、後にハ薪ともなすべき事也。棟梁に於て、大工をつかふ事、其上中下を知り、或は床まハり、あるひハ戸障子、或は敷居、鴨居、天井已下、それ/\につかひて、あしきにハねだをはらせ、猶悪きにハくさびを削せ、人を見分てつかヘバ、其渉行て手ぎハ能もの也。はかのゆき、手ぎハよきといふ所、物ごとをゆるさゞる事、たいゆうを知る事、氣の上中下を知事、いさミをつくると云事、むたいを知と云事、か様の事ども、棟梁の心持に有事也。兵法の利、かくのごとし。

 【神田家本】

一 兵法の道、大工にたとへたる事。大将ハ、大工の棟梁として、天下のかねをわきまへ、其国のかねを糺し、其家のかねをしる事、棟梁の道也。大工の棟梁ハ、堂塔伽藍のすミかねを覚へ、くうでんろうかくの指圖をしり、人々をつかひ、家々を取立事、大工の棟梁、武家の棟梁も同じ事也。家に立るに、木くばりする事、直にして節もなく見付のよきを表の柱とし、少ふしありとも直に強きを裏の柱とし、たとひ少弱くとも節なき木のミさまよきをバ、敷居、鴨居、戸障子と、それ/\につかひ、節有ともゆがミたりとも、強き木をバ、其家のつよミ/\を見分て、能吟味してつかふにおゐてハ、其家ひさしくくづれがたし。又、材木のうちにしても、節おほくゆがミてよハきをバ、あしゝろともなし、後にハ薪ともなすべき事也。棟梁に於て、大工をつかふ事、其上中下を知り、(或ハ)床まわり、あるひハ戸障子、或ハ敷居、鴨居、天井已下、それ/\につかひ、あしきにハねだをはらせ、猶悪きにハくさびを削せ、人を見分てつかヘバ、其渉行て手ぎハよきもの也。はかのゆき、手ぎハよきといふ所、物ごとをゆるさゞる事、たいゆうを知る事、氣の上中下を知事、いさミをつくると云事、むたいを知と云事、か様の事ども、棟梁の心持に有事也。兵法の利、かくのごとし。

 【楠家本】

一 兵法の道、大工にたとへたる事。大将ハ、大工の棟梁として、天下のかねをわきまへ、其国のかねを糺し、其家のかねを知事、棟梁の道也。大工の棟梁ハ、だうたうがらんのすミかねをおぼえ、くうでんろうかくのさしづをしり、人々をつかひ、家々をとりたつる事、大工の棟梁も武家の棟梁も同じ事也。家をたつるに、木くばりをする事、直にして節もなく、見つきのよきをおもての柱とし、少ふしありとも、直につよきをうらの柱とし、たとひ少よハくとも、ふしなき木の見ざまよきをバ、敷居、かもゐ、戸障子と、それ/\につかひ、ふしありとも、ゆがミたりとも、つよき木をバ、其家のつよミ/\を見わけて、よく吟味してつかふにおゐてハ、其家久しくくづれがたし。又、材木のうちにしても、ふしおゝく、ゆがミてよハきをバ、あしじろともなし、のちにハ薪ともなすべき事也。棟梁におゐて大工をつかふ事、其上中下をしり、或ハとこまはり、或ハ戸障子、或ハ敷居、かもゐ、天井以下、それ/\につかひて、あしきにハ、ねだをはらせ、なをあしきにハ、くさびをけづらせ、人を見わけてつかへバ、其はかゆきて、手ぎはよきもの也。はかの行、手ぎはよきと云所、物ごとをゆるさゞる事、たいゆうを知事、氣の上中下を知事、いさミをつくると云事、むたひをしると云事、かやうの事ども、頭量の心持に有事也。兵法の利、かくのごとし。

 【細川家本】

一 兵法の道、大工にたとへたる事。大将は、大工の統領として、天下のかねをわきまへ、其國のかねを糺し、其家のかねを知事、統領の道也。大工の統領は、堂塔がらんのすミかねを覚、くうでんろうかくのさしづを知り、人々をつかひ、家/\を取立る事、大工の統領も武家の統領も同じ事也。家を立るに、木くばりをする事、直にして節もなく、見つきのよきをおもての柱とし、少ふしありとも、直につよきをうらの柱とし、たとい少よハくとも、ふしなき木のみざまよきをば、敷居、鴨居、戸障子と、それ/\につかひ、ふしありとも、ゆがミたりとも、つよき木をば、其家のつよミ/\を見わけて、よく吟味してつかふにおゐては、其家久敷くづれがたし。又、材木のうちにしても、ふしおほく、ゆがミてよわきをば、あしじろともなし、後には薪ともなすべき【脱字】也。統領におゐて大工をつかふ事、其上中下を知り、或ハとこまハり、或戸障子、或敷居、鴨居、天井已下、それ/\につかひて、あしきにはねだをはらせ、猶悪きにハくさびをけづらせ、人をみわけてつかへば、其はか行て、手際よきもの也。果敢の行、手ぎわよきと云所、物毎をゆるさゞる事、たいゆう【脱字】知事、氣の上中下を知事、いさミを付ると云事、むたいを知と云事、かやうの事ども、統領の心持に有事也。兵法の利、かくのごとし。

 【丸岡家本】

一 兵法の道、大工に喩へたる事。大將は、大工の棟梁として、天下のかねを辨へ、其国のかねを糺し、其家のかねを知事、棟梁の道也。大工の棟梁は、堂塔伽藍の墨かねをおぼへ、宮殿楼閣のさしづをしり、人々をつかひ、家/\を取立る事、大工の棟梁も武家の棟梁も同事也。家を建るに木くばりをする事、直にして節もなく、見付【脱字】好きを表の柱とし、少節ありとも、直に強きを裏の柱とし、假令少弱くとも、節なき木の見ざま能をば、しきゐ、鴨居、戸障子と、それ/\につかひ、節ありとも、ゆがミたりとも、強き木をば、其家のつよみ/\を見分て、能吟味してつかふにおいては、其家久しく崩がたし。又、材木の中にしても、節多く、ゆがミてよわきをば、足しろともなし、後には薪ともなすべ事なり。棟梁において大工を使ふ事、も上中下を知り、或は床廻り、或は戸障子、或敷居、鴨居、天井已下、それ/\につかひて、あしきにはねだを張せ、猶あしきにはくさびを削せ、人を見分て使ば、其はか行【脱字】、手ぎわ能もの也。はかのゆき、手ぎわ能といふ所、物ごとを許ざる事、大用【脱字】知事、氣の上中下を知事、いさみをつくると云事、むたひを知と云事、か樣の事ども、統領の心持に有事也。兵法の利、かくのごとし。

 【富永家本】

一 兵法の道、大工にたとゑたる事。大将ハ、大工の棟梁として、天下のかねをわきまへ、其国のかねを糺し、其家のかねを知る事、棟梁の道なり。大工の棟梁ハ、だうたうがらんのすミかねを覚へ、宮殿楼閣の指圖を知り、人々を遣ひ、家々を取立事、大工の棟梁も武家の棟梁も同じ事なり。家をたてるに、木くばりをする事、直にして節もなく、見付の能を表の柱とし、【脱字************】、たとゐすこしよわくとも、節もなく木の見ざま能をバ、敷居、鴨居、戸障子と、夫/\に遣ひ、節ありとも、ゆがミたりとも、強き木をバ、【脱字】家のつよミ/\を見わけて、能吟味して遣ふにおゐてハ、其家久敷崩がたし。又、材木の内にしても、節多く、ゆがミてよわきをバ、あしじろともなし、後にハ薪ともなすべき事なり。棟梁ニおゐて大工を遣ふ事、其上中下を知り、或ハとこまわり、或ハ戸障子、或は敷居、鴨居、天井以下、それ/\に遣ゐて、悪敷にハ、ねだをはらせ、猶悪敷にハ、くさびをけづらせ、人を見わけて遣へバ、其はか行て手ぎわ能き物なり。はかの行、手ぎわよきと云所、物ごとをゆるさゞる事、たゐゆうを知る事、氣の上中下を知る事、いさミをつくると云事、むたゐを知るといふ事、ケ様の事共、頭量の心持に有事也。兵法の利、如是。

 【常武堂本】

一 兵法の道、大工にたとへたる事。大将ハ大工の統領として、天下のかねをわきまへ、其國のかねを糺し、其家のかねを知事、統領の道也。大工の統領ハ、堂塔がらんのすみかねを覚、くうでんろうかくのさしづをしり、人々をつかひ、家/\を取立る事、大工の統領も武家の統領も同じ事也。家をたつるに、木くばりをする事、直にして節もなく、みつきのよきをおもての柱とし、少ふしありとも、直につよきをうらの柱とし、たとひ少よはくとも、ふしなき木のみざまよきをバ、敷居、鴨居、戸障子と、それ/\につかひ、ふしありとも、ゆがみたりとも、つよき木をば、其家のつよみ/\をみわけて、よく吟味してつかふに於てハ、其家久敷くづれがたし。又、材木のうちにしても、ふしおほく、ゆがみてよわきをバ、あしじろともなし、後にハ薪ともなすべき【脱字】也。統領に於て大工をつかふ事、其上中下をしり、或ハとこまハり、或ハ戸障子、或ハ敷居、鴨居、天井已下、それ/\につかひて、あしきにハねだをはらせ、猶悪きにはくさびをけづらせ、人をみわけてつかへバ、其はか行きて手際よきもの也。はかの行、手ぎはよきと云所、物毎をゆるさゞる事、たいゆう【脱字】知事、氣の上中下を知事、いさみを付ると云事、むたいを知と云事、かやうの事ども、統領の心持に有事也。兵法の利、かくのごとし。

 【田村家本】

一 兵法ノ道、大工ニ準タル事 大將ハ、大工ノ頭量ニシテ、天下ノ規〔カネ〕ヲワキマエ、其国ノ規ヲ糺シ、其家ノ規ヲ知ル事、頭量ノ道也。大工ノ頭量ハ堂塔伽藍ノスミガネヲ覚、宮殿樓閣ノサシヅヲシリ、人々ノツカヒ、家ヲ取立ル事、大工ノ頭量モ武家ノトウリヨウモ同コト也。家ヲ建ルニ木賦リヲスル事、直ニシテ節モナク、見ツキノヨキヲ表ノ柱トシ、少フシ有共、直ニツヨキヲ裏ノ柱トシ、タトヒ少ヨハク共、節ナキ木ノ見ザマヨキヲバ、シキイ、鴨居、戸障子ト、夫々ニツカイ、節有【脱字】、ユガミタリ共、強キ木ヲバ、ソノ家ノツヨミ【脱字】ヲ見ワケテ、能吟味シテツコウニヲヒテハ、其家久クヅレガタシ。又材木ノ内ニシテモ、節多、ユガミテ弱キヲバ、アシヾロト【脱字】ナシ、後ニハ薪トモナスベキ【脱字】也。頭量ニヲイテ大工ヲツコフ事、モ上中下ヲ知、或ハ床回リ、或戸障子、或敷居、鴨居、天上以下、ソレ々ニツカイテ、アシキ【脱字】ハネダヲハラセ、【脱字********】人ヲ見ワケテツカヱバ、【脱字】墓行テ手ギワ能モノ也。ハカノ行、テギワヨキト云処、物ゴトヲユルサヾル事、大用【脱字】知事、氣ノ上中下ヲ知ル事、イサミヲツクルト云コト、ムタイヲ知ト云コト、カヨウノコト共、頭量ノ心持ニアルコト也。兵法ノ利、カクノゴトシ。

 【狩野文庫本】

一 兵法の道、大工ニたとへたる事。大將は、大工の棟梁として、天下のかねを弁へ、其國のかねを糺し、其家のかねを知る事、棟梁の道也。大工の棟梁、塔堂がらんの墨かねを覚へ、宮殿楼客の指圖を知る、人々を遣ひ、家々を取立事、大工の棟梁と武士の棟梁と同事【脱字】。家を建るニ木配をする事、直ニして節のなき、見付の能を面の柱とし、少節有とも、直ニ強きを裏の柱とし、たとへ少よハく共、節なき木の見ざま能をバ、敷居、【脱字】、戸障子と、夫々に遣ひ、節有共、ゆがミたり共、強木をば、其家の強ミ/\を見分て、能吟味してつかふにおゐて【脱字】、其家久しく崩がたし。又材木の内にしても、節多、ゆがみてよハきをバ、足代ともなし、後ニハ薪ともなすべき【脱字】なり。棟梁におゐて大工を遣ふ事、その上中下を知、或ハ床廻り、【脱字】戸障子、或ハ敷居、鴨居、天井以下、夫々ニ遣ひて、悪ニハ根太を為張、猶悪ニハくさびをけづらせ、人を見分【脱字】つかへば、其はかゆきて手際能者なり。はかの行、手際能と云所、物毎をゆるさるゝ事、たいゆふを知と云事、氣の上中下を知ル事、いさみを付ると云事、むたいを知といふ事、か樣の事共、棟梁の心持に有事なり。兵法の利、如此。

 【多田家本】

(★改行なしで前条から連続)兵法の道、大工にたとへたる事。大将ハ、大工の棟梁として、天下のかねを弁へて、其國のかねを糺し、其家のかねを知る事、棟梁の道也。大工の棟梁【脱字】堂塔伽藍の墨曲尺〔かね〕を覚、宮殿樓閣の指圖を知り、人々をつかひ、家々を【脱字】立る事、大工の棟梁も武家の棟梁も同じ事也。家を立るに木配りをする事、直にして節のなく、見つきの能を表の柱とし、少節有共、直に強きを裏の柱とし、たとひ少弱く共、節なき木の見樣よきをば、敷居、鴨居、戸障子と、夫々につかひ、節有共、ゆがみたりとも、強き【脱字】をバ、其家の強ミ/\を見分て、能吟味しつかふにをひてハ、其家久敷崩がたし。又材木の内にしても、節多く、ゆがミて弱きをバ、足代ともなし、後にハ薪共なすべき【脱字】也。棟梁にをひて大工をつかふ事、其上中下を知事、或は床廻り、或は戸障子、或ハ敷居、鴨居、天井以下、夫々につかひて、悪敷にハねだを張せ、猶悪敷にハくさびをけづらせ、人を見分てつかへば、其はか行て、手際よき【脱字】也。はかの行て、手際能と云所、物毎ゆるさゞる事、たいゆふを知ると云事、氣の上中下を知事、いさみを作ると云事、むたいを知と云事、か様の事迄、棟梁の心持に有事也。兵法の利、如此。

 【山岡鉄舟本】

一 兵法之道、大工ニ準タル事。大将ハ大工ノ頭量トシテ、天下ノカネヲワキマヘ、其国ノカネヲタヾシ、其家ノカネヲ知ル事、頭量ノ道也。大工ノ頭量ハ堂塔ガランノスミカネヲ覚、宮殿樓閣ノ指圖ヲ知リ、人々ヲツカヒ、家ヲ取立ル事、大工ノ頭量モ武家ノ頭量モ同事也。家ヲ建ルニ木斗リヲスル事、直ニシテ節モナク、見付ノヨキヲ表ノ柱トシ、少シフシ有トモ、直ニ強ヲ裏ノ柱トシ、タトヒ少シ弱ク共、フシナキ木ノ見ザマヨキヲバ、敷居、【脱字】、戸障子ト、ソレ/\ニツカヒ、節有共、ユガミタリ共、強キ木ヲバ、ソノ家ノツヨミ【脱字】ヲ見分テ、能吟味シテツカウニ於テハ、其家久シク崩レガタシ。又材木ノウチニシテモ、節多ク、ユガミテ弱キ【脱字】バ、足シロト【脱字】ナシ、後ニハ薪トモ【脱字】スベキ事也。頭量ニ於テ大工ヲツカフ事モ、【脱字】上中下ヲ知、或ハ床回リ、或ハ戸障子、或ハ敷居、鴨居、天井已下、【脱字**】ニツカヒテ、悪キ【脱字】ハネダヲハラセ、猶悪キニハクサビヲケヅラセ、人ヲ見分ケ【脱字】ツカヘバ、其ハカ行テ手ギハヨキモノ也。ハカノ行、テギハ【脱字】ト云處、物事ヲユルサヾル事、タヒヤウ【脱字】知ル事、気ノ上中下ヲ知ル事、イサミヲ付ルト云事、ムタヒヲ知ルト云事、ケヤウノ事共、頭量之心持ニ有ル事也。兵法ノ利、如此。

 【稼堂文庫本】

一 兵法の道、大工にたとへたる事。大将ハ、大工の棟梁として、天下の規矩〔かね〕を弁へ、其國を正しかねを糺し、其家のかねを知こと、棟梁【脱字*****】は、堂塔伽藍の墨かねを覚へ、宮殿楼閣の差圖を知り、人々を遣ひ、家々を取建事、大工の棟梁も武家の棟梁も同事也。家を建たるに。木賦〔くばり〕をする事、直にして節もなく、見付の能を表の柱とし、少假令弱く共、直に強きを裏の柱とし、【脱字******】、節もなく木の見ざま能を【脱字】、敷居、鴨居、戸障子と、夫々につかひ、節有共、ゆがみたり共、強き木をバ、其家の強ミ/\を見分て、能吟味して遣ふに於ひてハ、其家久しく崩がたし。【脱字】材木の内にしても、節多く、ゆがみてよはきをバ、細代ともなし、後には薪共成すべき【脱字】也。扨棟梁におゐては、大工を遣ふ事、其上中下を知、或ハ床廻り、或ハ戸障子、或ハ敷居、鴨居、天井以下と、夫々に遣ひ【脱字】、悪敷には、ねだをはらせ、猶あしきにハ、くさびを削らせ、人を見分て遣へバ、其はか行て手際は能き物也。果敢の行、手際は好と云所、物毎をゆるさゞる事、大ゆうを知る事、氣の上中下を知る事、勇ミを付ると云事、むたひを知ると云事、ケ様の事共、頭量の心持に有事【脱字】。兵法の利、(かくの)如し。  

 【大瀧家本】

一 兵法の道、大工に譬たる事。大将ハ、大工の棟梁として、天下のかねを弁ひ、其国のかねを糺し、其家のかねを知る事、棟梁の道也。大工の棟梁ハ、堂塔伽藍の墨かねを覚へ、宮殿楼閣の指圖を知り、人々を遣ひ、家々を取建る事、大工の棟梁、武家の棟梁も同じ事也。家を建るに、木配りする事、直にして節もなく、見付のよきを表の柱とし、少節ありとも、直に強きを裏の柱とし、たとひ少し弱くとも、節なき木の見ざまのよきをば、敷居、鴨居、戸障子と、夫/\に遣ひ、節有共、ゆがみたり共、強き木をば、其家の強み/\を見分て、【脱字***】遣ふにおゐてハ、其家久しく崩れがたし。又、材木の内にしても、節多く、ゆがミて弱きをば、足代共なして、後にハ薪ともなすべき事也。棟梁において大工を遣ふ事、其上中下を知り、或は床まはり、或ハ戸障子、或ハ敷居、鴨居、天井以下、夫れ/\に遣ひ【脱字】、悪敷にハねだをはらせ、猶悪敷にはくさびを削らせ、人を見分て遣へば、其博行て手際よきものなり。はかの行、手際よきといふ所、物ごとをゆるさるゝ事、体用を知る事、氣の上中下を知る事、いさみを付ると云事、むたいを知るといふ事、ケ様の事共、棟梁の心持にある事也。兵法の利、如斯。    PageTop    Back   Next 

  5 兵法の道、士卒たるもの

 【吉田家本】

一 兵法の道、士卒たるものハ、大工にして、手ずから其道具をとぎ、色々のせめ道具をこしらへ、大工の箱に入てもち、棟梁の云付る所をうけ、柱、かうりやうをも、てうなにてけずり、床棚をもかんなにて削り、すかし物、彫物をもして、能かねを糺し、すミ/\めんどうまでも、手ぎわ能仕立所、大工の法也。大工のわざ、手にかけて能仕覚へ、すミがねをよくしれバ、後【脱字】棟梁となるもの也。大工のたしなミ、能きるゝ道具をもち、すき/\にとぐ事肝要なり。其道具をとつて、ミずし、書棚、机つくゑ、又ハあんどん、まな板、なべのふた迄も、達者にする所、大工の専也。士卒たる者、此ごとくなり。能々吟味有べし。大工の嗜ミ、ひずまざる事、とめを合【脱字】事、かむなにて能削事、すりミかゝざる事、後にひすかざる事、肝要なり。此道を学ばんと思ハヾ、書顕す所の一こと/\に心を入て、よく吟味有べき者なり。

 【立花隨翁本】

一 兵法の道、士卒たるものハ、大工にして、手づから其道具をとぎ、色々のせめ道具をこしらへ、大工の筥に入てもち、棟梁の云付る所をうけ、柱、こうりやうをも、てうなにてけづり、床【破損】をもかんなにて削り、すかし物、彫物をもして、能かねを糺し、すミ/\めんどうまでも、手ぎハよく仕立所、大工の法也。大工のわざ、手にかけてよく仕覚へ、すミかねをよくしれバ、後ハ棟梁となるもの也。大工のたしなミ、能きるゝ道具をもち、すき/\にとぐ事肝要也。其道具をとつて、御厨子、書棚、机つくゑ、又ハ行燈、まな板、なべのふた迄も、達者にする所、大工の専也。士卒たる者、此ごとくなり。能々吟味有べし。大工の嗜、ひづまざる事、とめを合する事、かんなにて能削事、すりミかゝざる事、後にひすかざる事、肝要也。此道を学バんと思ハヾ、書顕す所の一こと/\に心を入て、よく吟味有べき者也。

 【渡辺家本】

一 兵法の道、士卒たるものハ、大工にして、手づから其道具をとぎ、色々のせめ道具をこしらへ、大工の筥に入てもち、棟梁の云付る所をうけ、柱、こうりやうをも、てうなにてけづり、床棚をもかんなにて削り、すかし物、彫物をもして、能かねを糺し、すミ/\めんどうまでも、手ぎハよく仕立所、大工の法也。大工のわざ、手にかけてよく仕覚へ、すミかねをよくしれバ、後は棟梁となるもの也。大工のたしなミ、能きるゝ道具をもち、すき/\にとぐ事肝要也。其道具をとつて、御厨子、書棚、机つくゑ、又ハ行燈、まな板、なべのふた迄も、達者にする所、大工の専也。士卒たる者、此ごとくなり。能々吟味有べし。大工の嗜、ひづまざる事、とめを合する事、かんなにて能削事、すりミかゝざる事、後にひずかざる事肝要也。此道を学バんと思ハヾ、書顕す所の一ことひとことに心を入て、よく吟味有べき者也。

 【中山文庫本】

一 兵法の道、士卒たるものハ、大工にして、手ずから其道具をとぎ、色々のせめ道具をこしらへ、大工の箱に入てもち、棟梁の云付る所をうけ、柱、かうりやうを【脱字】、てうなにてけずり、床棚をもかんなにて削り、すかし物、彫物をもして、能かねを糺し、すみ/\めんどうまでも、手ぎは能仕立所、大工の法也。大工のわざ、手にかけて能仕覚、すみかねをよくしれバ、後ハ棟梁となるもの也。大工のたしなみ、能きるゝ道具をもち、すき/\にとぐ事肝要なり。其道具をとつて、みずし、書棚、机【脱字】、又ハあんどん、まな板、なべのふたまでも、達者にする所、大工の専也。士卒たる者、此ごとくなり。能々吟味有べし。大工の嗜、ひずまざる事、とめを合【脱字】事、かむなにて能削事、すりみかゝざる【脱字】、後にひすかざる事、肝要なり。此道道を学ばんと思はゞ、書顕す所の一こと/\に心を入て、よく吟味有べきもの也。

 【近藤家乙本】

一 兵法の道、士卒たるものハ、大工にして、手づから其道具をとぎ、色々のせめ道具をこしらへ、大工の筥に入てもち、棟梁の云付る所をうけ、柱、こうりやうをも、てうなにてけづり、床棚をもかんなにて削り、すかし物、彫物をもして、能かねを糺し、すミ/\めんどうまでも、手ぎハよく仕立所、大工の法也。大工のわざ、手にかけてよく仕覚へ、すミかねをよくしれバ、後は棟梁となるもの也。大工のたしなミ、能きるゝ道具をもち、すき/\にとぐ事肝要也。其道具をとつて、御厨子、書棚、机つくゑ、又ハ行燈、まな板、なべのふた迄も、達者にする所、大工の専也。士卒たる者、此ごとくなり。能々吟味有べし。大工の嗜、ひづまざる事、とめを合する事、かんなにて能削事、すりミかゝざる事、後にひすかざる事肝要也。此道を学バんと思ハヾ、書顕す所の一ことひとことに心を入て、よく吟味有べき者也。

 【石井家本】

一 兵法の道、士卒たるものハ、大工にして、手づから其道具をとぎ、色々のせめ道具をこしらへ、大工の筥に入てもち、棟梁の云付る所をうけ、柱、こうりやうをも、てうなにてけづり、床棚をもかんなにて削り、すかし物、彫物をもして、能かねを糺し、すミ/\めんだうまでも、手ぎハよく仕立所、大工の法也。大工のわざ、手にかけてよく仕覚へ、すミかねをよくしれバ、後は棟梁となるもの也。大工の嗜、能きるゝ道具をもち、すき/\にとぐ事肝要也。其道具をとつて、御厨子、書棚、机つくゑ、又ハ行燈、まな板、なべのふた迄も、達者にする所、大工の専也。士卒たる者、此ごとくなり。能々吟味有べし。大工の嗜、ひづまざる事、とめを合する事、かんなにて能削事、すりミかゝざる事、後にひすかざる事、肝要也。此道を学バんと思ハヾ、書顕所の一ことひとことに心を入て、よく吟味有べき者也。

 【伊丹家本】

一 兵法の道、士卒たるものは、大工にして、手ずから其道具をとぎ、色々のせめ道具をこしらへ、大工の箱に入て持、棟梁の云付る所を受、柱、かうりやうを【脱字】、てうなにてけづり、床棚をもかんなにて削り、すかし物、彫物をもして、能かねを糺し、すミ/\めむどう迄も、手ぎハよく仕立所、大工の法也。大工の業、手ニかけて能仕覺、すミかねをよく知れば、後ハ棟梁となる物也。大工のたしなミ、能きるゝ道具を持、すき/\にとぐ事肝要也。其道具を取て、ミずし、書棚、机つくゑ、またハあんどん、まな板、なべのふたまでも、達者にする所、大工の専也。士卒たる者、此如くなり。能々吟味有べし。大工の嗜、ひずまざる事、とめを合する事、かむなニて能削事、すりミかゝざる【脱字】、後にひすかざる事、肝要也。此道ヲ學バむと思ば、書顕す所の一事々に心を入て、よく吟味有べき物也。

 【伊藤家本】

一 兵法の道、士卒たるものハ、大工にして、手づから其道具をとぎ、色々のせめ道具をこしらへ、大工の箱に入てもち、棟梁の云付る所をうけ、柱、こうりやうをも、てうなにてけづり、床棚をもかんなにて削り、すかし物、彫物をもして、能かねを糺し、すミ/\めんどうまでも、手ぎハよく仕立所、大工の法也。大工のわざ、手にかけてよく仕覚へ、すミかねをよくしれバ、後は棟梁となるもの也。大工のたしなミ、能きるゝ道具をもち、すき/\にとぐ事肝要也。其道具をとつて、御厨子、書棚、机つくゑ、又ハ行燈、まな板、なべのふた迄も、達者にする所、大工の専也。士卒たる者、此ごとくなり。能々吟味有べし。大工の嗜、ひづまざる事、とめを合する事、かんなにて能削事、すりミかゝざる事、後にひずかざる事肝要也。此道を学バんと思ハヾ、書顕す所の一ことひとことに心を入て、よく吟味有べき者也。

 【神田家本】

一 兵法の道、士卒たるものハ、大工にして、手づから其道具をとぎ、色々のせめ道具をこしらへ、大工の筥に入てもち、棟梁の云付る所をうけ、柱、こうりやうをも、てうなにてけづり、床棚をもかん(な)にて削り、すかし物、彫物をもして、能かねを糺し、すミ/\めんだうまでも、手ぎハよく仕立所、大工の法也。大工のわざ、手にかけてよく仕覚へ、すミかねをよくしれバ、後は棟梁となるもの也。大工の嗜、能きるゝ道具をもち、すき/\にとぐ事肝要也。其道具をとつて、御厨子、書棚、机つくゑ、又ハ行燈、まな板、なべのふた迄も、達者にする所、大工の専也。士卒たる者、此ごとくなり。能々吟味有べし。大工の嗜、ひづまざる事、とめを合する事、かんなにて能削事、すりミかゝざる事、後にひすかざる事肝要也。此道を学バんと思ハヾ、書顕所の一ことひとことに心を入て、よく吟味有べき者也。

 【楠家本】

一 兵法の道、士卒たるものハ、大工にして、手づから其道具をとぎ、色々のせめ道具をこしらへ、大工の箱にいれてもち、棟梁の云付る所をうけ、柱、かうりやうをも、てうなにてけづり、とこたなをもかんなにてけづり、すかし物、ほり物をもして、よくかねを糺し、すミ/\めんどうまでも、手ぎハよくしたつる處、大工の法也。大工のわざ、手にかけてよくしおぼえ、すミかねをよくしれバ、のちハ頭量となる物也。大工の嗜、よくきるゝ道具をもち、すき/\にとぐ事肝要なり。其道具をとつて、ミづし、書棚、机つくへ、又ハあんどん、まな板、なべのふたまでも、たつしやにする所、大工の専也。士卒たるもの、此ごとく也。よく/\吟味有べし。大工のたしなみ、ひずまざる事、とめをあハする事、かんなにてよくけづる事、すりミかゝざる事、のちにひすかざる事、肝要なり。此道をまなばんとおもはゞ、書顕す処の一こと/\に心を入て、よく吟味あるべきものなり。

 【細川家本】

一 兵法の道、士卒たるものは、大工にして、手づから其道具をとぎ、色々のせめ道具をこしらへ、大工の箱に入て持、統領【脱字】云付る所をうけ、柱、かやうりやうをも、てうのにてけづり、とこたなをもかんなにてけづり、すかし物、ほり物をもして、よくかねを糺し、すミ/\めんどう迄も、手ぎわ能したつる所、大工の法也。大工のわざ、手にかけて能しおぼへ、すミかねをよくしれば、後は統領となる物也。大工のたしなミ、よくきるゝ道具を持、透々にとぐ事肝要也。其道具をとつて、ミヅし、書棚、机卓、又はあんどん、まないた、鍋のふた迄も、達者にする所、大工の専也。士卒たるもの、このごとく也。能々吟味有べし。大工のたしなミ、ひずまざる事、とめをあハする事、かんなにて能けづる事、すりみかゝざる事、後にひすかざる事、肝要なり。此道をまなバんとおもハゞ、書顕す所の【脱字】こと/\に心を入て、よく吟味有べきもの也。

 【丸岡家本】

一 兵法の道、士卒たる者は大工にして、手づから其道具を磨、色々の攻道具をこしらへ、大工の箱ニ入て持、棟梁の云付る所を受、柱、虹梁をも、ておのにて削り、床棚をもかんなにて刪り、すかし物、雕物をもして、能かねを糺し、すみ/\めんどうまでも、手ぎわよくしたつる所、大工の法也。大工の業、手にかけて能しおぼへ、すミがねをよくしれば、後は棟梁となる者也。大工のたしなミ、能切る道具を持、透々に研事肝要なり。其道具を取て、ミづし、書棚、机卓、又ハあんどん、まな板、鍋の蓋までも、達者にする所、大工の専也。士卒たる者、此ごとくなり。能々吟味有べし。大工のたしなみ、ひずまざる事、とめを合する事、かんなにて能削る事、磨琢事、後にひすかざる事、肝要也。此道を學バんと思ハゞ、書顕す所のこと/\くに心を入て、能吟味有べき者也。

 【富永家本】

一 兵法の道、士卒たるものハ、大工ニして、手づから其道具をとぎ、いろ/\のせめ道具をこしらへ、大工【脱字】箱ニ入て持、棟梁の云付る處を請、柱、かうりやうをも、てうのにて削り、とこたなをもかんなにてけづり、すかし物、ほり物をもして、能かねを糺し、すミ/\めんどうまでも、手際能仕立所、大工の法なり。大工のわざ、手にかけて能仕立、すミかねを能しれバ、後ハ頭量と成物也。大工のたしなミ、能切レ道具を持、すき/\にとぐ事肝要なり。其道具を取て、ミずし、書棚、机つくへ、又、あんどん、まな板、なべのふたまでも、達者にする所、大工の専なり。士卒たるもの、此ごとくなり。よく/\吟味有べし。大工のたしなミ、ひずまざる事、とめを合する事、かんなにて能けづる事、すりミかゝざる事、のちにひすかざる事、肝要なり。此道を学んと思はゞ、書顕所の一/\こと/\くに心を入て、能吟味あるべきもの也。

 【常武堂本】

一 兵法の道、士卒たるものハ、大工にして、手づから其道具をとぎ、色々のせめ道具をこしらへ、大工の箱に入て持、統領【脱字】云付る所をうけ、柱、かやうりやうをも、てうのにてけづり、とこたなをもかんなにてけづり、すかし物、ほり物をもして、よくかねを糺し、すみ/\めんどうまでも、手ぎは能くしたつる所、大工の法也。大工のわざ、手にかけてよくしおぼへ、すみかねをよくしれバ、後ハ統領となる物也。大工のたしなみ、よくきるゝ道具を持、透々にとぐ事肝要也。其道具をとつて、みづし、書棚、机卓、又はあんどん、まないた、鍋のふたまでも、達者にする所、大工の専也。士卒たるもの、このごとく也。能々吟味有べし。大工のたしなミ、ひずまざる事、とめをあはする事、かんなにてよくけづる事、すりみかゝざる事、後にひすかざる事、肝要也。此道をまなばんと思ハヾ、書顕す所の【脱字】こと/\に心を入て、よく吟味有べきもの也。

 【田村家本】

一 兵法ノ道、士卒タル者ハ大工ニシテ、手ヅカラ其道具ヲトギ、色々ノ責道具ヲコシラヱ、大工ノ箱ニ入テ持、頭量ノ云付ル処ヲ請、柱、コウリヤフヲモ、テウノ打ニ削リ、トコ或タナヲモカンナニテケヅリ、スカシモノホリ物ヲモシテ、ヨク規ヲタヾシ、スミ/\メンドウマデ【脱字】、手ギワヨクシタツル処、大工ノ法也。大工ノワザ、手ニカケテ能シ覚、スミカネヲヨク知バ、後ハ頭量トナル【脱字】也。大工ノタシナミ、能切ルヽ道具ヲ持、スキ々ニトグ事肝要也。其道具ヲトリテ、ミズシ、書棚、机【脱字】、又ハアンドン、マナイタ、ナベノフタマデモ、タツシヤニスル処、大工ノ専也。士卒タル者、此ノ如ク也。能々吟味有ベシ。大工ノ嗜、ヒズマザル事、トメヲアワスル事、カンナニテヨク削事、【脱字***】、後ニヒズカザル事、肝要也。此道ヲ学ント思ハヾ、書顯ス処ノ如クニ心ヲ入テ、能吟味有ベキ者也。

 【狩野文庫本】

一 兵法の道、士卒たる者は大工にして、手づから其道具を研、色々のせめ道具を拵、大工の箱ニ入て持、棟梁の云付る所を請、柱、かうりやうをも、てうなにてけづり、床たなをも鉋にてけづり、すかし【脱字】ほりものをもして、能かねを糺し、角々めんどふ迄も手際克仕立所、大工【脱字】業也。【脱字**】、手に掛ケて能仕覚、規矩をよく知バ、後ニハ棟梁となる者也。大工の嗜、能切る道具を持、透々ニ研事肝要也。其道具【脱字】取て、ミヅし、書棚、卓机、又ハあんどん、まな板、鍋の蓋迄も達者にする所、大工の専也。士卒たる者、如此也。能々吟味有べし。大工の嗜、ひずかざる事、留を合する事、鉋にて能削る事、すりみかゝざる事、後ニひすかざる事、肝要也。此道を学んと思ハゞ、書に顕ス所の一事/\に心を入て、能々可有吟味【脱字】也。

 【多田家本】

一 兵法の道、士卒たるものは、大工にして、手づから其道具をとぎ、色々の責道具を拵、大工の箱に入て【脱字】、棟梁の云付る所を請、柱、虹梁をも、釿にて削り、床棚【脱字】もかんなにて削り、すかし【脱字】彫物を【脱字】して、能かねを糺し、隅々めんどふまでも、手際よく仕立る所、【脱字***】。大工の業、手にかけて能仕覚、隅曲尺をよくしれるゝ後は棟梁と成て、大工をつかふ也。大工の嗜、よくきるゝ道具を持、透々にとぐ事肝要也。其道具を取て、ミずし、書棚、机棹、又は行燈、眞那板、鍋の蓋迄も、達者にする所、大工の専也。士卒たる者、如斯【脱字】。能々吟味有べし。大工の嗜、ひずまざる事、とめを合る事、かんなにて能削事、すりみかく事、後【脱字】ひすかざる事、肝要也。此道を学ばんと思ハヾ、書顕す所の一事/\に心を入て、能々吟味有べきもの也。

 【山岡鉄舟本】

一 兵法ノ道、士卒タル者ハ、大工ニシテ、手ヅカラ其道具ヲトギ、色々ノセメ道具ヲ拵ヘ、大工ノ箱ニ入テ持テ、頭量ノ云付ル処ヲ受ケ、柱、高梁ヲ【脱字】、手斧ニテケヅリ、猶モカンナニテケヅリ、スカシモノ【脱字】ヲモシテ、ヨクカネヲ正シ、スミ/\メン等迄モ、手ギハ能ク仕立ル事、大工ノ法也。大工ノ業、手ニ掛テ能仕立覚、スミカネヲ能クスレバ、後ハ頭量ト成者也。大工ノ嗜、能ク切ル【脱字】道具ヲ持テ、スキ/\ニ磨事肝要也。其道具ヲ取テ、ミズシ、書棚、机ツクヱ、又ハ行燈、マナ板、鍋ノフタ迄モ、タツシヤニスル処、大工ノ専也。士卒タル者、此事【脱字】。能々吟味有ベシ。大工ノ嗜、ヒズマザル事、トメ【脱字】アワスル事、カンナニテ能削事、スリミカク事、後ニヒヅマザル事、肝要也。此道ヲ学バント思ハヾ、書顕ス處々マト/\ニ心ヲ入テ、【脱字】吟味有ベキ者也。

 【稼堂文庫本】

一 兵法の道、士卒たる者は、大工にして、手づから其道具を研、色々の責道具を拵へ、大工の箱に入れて持、棟梁の云付る所を受け、柱、虹梁をも、てうのにて削り、床棚をもかんなにて削り、すかし物【脱字】をもして、よくかねを糺し、すミ/\面ンどう迄も、手際よく仕立る所、大工の法也。大工の業、手にかけてよく仕覚、すミがねをよく知れバ、後ハ棟梁と成る物也。大工の嗜、好品々道具を持、透々に研事肝要也。其道具を取て、御厨子、書棚、卓机、又ハ行燈、まな板、鍋の蓋迄も、達者にする所、【脱字】専也。士卒たる者、此ごとく也。好々吟味有べし。大工のたしなミ、ひずまざる事、留を合【脱字】事、かんなにて好く削る事、すりみかゝざる事、後にひすかざる事、肝要也。此道を学んと思ハヾ、書顕す所【脱字】一こと/\に心を入れて、好く吟味すべき物也。  

 【大瀧家本】

一 兵法の道、士卒たる者ハ、大工にして、手づから其【脱字】具をとぎ、色々のせめ道具を拵へ、大工の筥に入てもち、棟梁の云付る所を請取、柱、かう梁をも、てうなにて削り、床棚をもかんなにて削り、すかし物、彫物をもして、能かねを糺し、角々めんだう迄も、手ぎは能仕立る所、大工の法也。大工の業、手にかけて能仕覚へ、墨かねを能すれば、後【脱字】、棟梁と成もの也。大工の嗜ミ、能切るゝ道具をもち、すき/\にとぐ事肝要也。其道具を取て、御厨子、書棚、机【脱字】、又は行燈、まな板、鍋の蓋までも、達者にする處、大工の専一也。士卒たるもの、如此なり。よく/\吟味有べし。大工の嗜、ひづまざる事、と目を合する事、かんなにて能削事、すりミかゝざる事、後にひづまざる事、肝要也。此道を学ばんと思はゞ、書顕す所の一事/\に心を入て、能々吟味あるべきもの也。    PageTop    Back   Next 

  6 此兵法の書、五巻に仕立る事

 【吉田家本】

一 此兵法の書、五巻に仕立事。五の道をわかち、一巻々にして、其利をしらしめむために、地水火風空として、五巻に書顕すなり。地之巻におゐてハ、兵法の道の大躰、我一流の見立、劔術一通りにしてハ、まことの道を得がたし。大なる所よりちひさきところをしり、淺より深きに至る。直なる道の地形を引ならすに依て、初を地之巻と名付なり。第二、水の巻。水を本として、心を水になる也。水は方圓の器にしたがひ、一てきとなり、さうかひとなる。水にへきたんの色あり。清き所をもちいて、一流の事を此巻に書顕す也。劔術一通の理、さだかに見分、一人の敵に自由に勝ときハ、世界の人にミな勝處なり。人に勝と云心は、千萬の敵にも同意也。将たる者の兵法、ちいさきを大になす事、尺のかたをもつて大佛をたつるにおなじ。か様の儀、こまやかにハ書分がたし。一を以て万を知る事、兵法の利也。一流の事、此水之巻に書記すなり。第三、火之巻。此巻に戦の事を書記なり。火ハ大小となり、けやけき心なるに依て、合戦の事を書也。合戦の道、一人と一人との戦も、万と萬との戦もおなじ道也。心を大なる事になし、心をちいさくなして、能吟味してミるべし。大なる所は見へやすし、ちいさき所ハ見へがたし。其子細、大人数の事ハ、そくざにもとおりがたし。一人の事ハ、心ひとつにてかわる事はやきに依て、ちいさき所しる事得がたし。能吟味有べし。此火之巻の事、はやき間の事なるに依て、日々に手なれ、常の事とおもひ、心の替らぬ所、兵法の肝要なり。然に依て、戦勝負の所を、火之巻に書あらはす也。第四、風之巻。此巻を風之巻と記す事、我一流の事に非ず。世の中の兵法、其流々の事を書のする所也。風と謂におゐてハ、むかしの風、今の風、其家々の風などゝあれバ、世間の兵法、其流々のしわざを、さだかに書顕す、是風也。他の事をよくしらずしてハ、ミずからのわきまへなりがたし。道々事々をおこなふに、外道と云心有。日々に其道を勤と云とも、心の背けば、其身ハ能道と思とも、直なる所よりミれば、實の道にハあらず。実の道を極めざれば、少心のゆがミにつゐて、後にハ大にゆがむものなり。ものごとに、あまりたるは、たらざるにおなじ。能吟味すべし。他の兵法、劔術ばかり、と世におもふ事、尤也。わが兵法の利わざにおゐてハ、各別の儀也。世間の兵法をしらしめんために、風の巻として、他流の事を書顕すなり。第五、空之巻。此巻空と書顕す事、空と云出すよりしてハ、何をか奥と云、【脱字】くちといはん。道理を得てハ道理を離れ、兵法の道に、おのれと自由有て、おのれときどくを得、時にあひてハ、拍子をしり、おのずから打、をのずからあたる、是皆、空の道也。おのれと實の道に入事を、空の巻にして書とゞむるもの也。

 【立花隨翁本】

一 此兵法之書、五巻に仕立事。五の道をわかち、一巻/\にして、其利をしらしめんために、地水火風空として五巻に書顕すなり。地の巻に於てハ、兵法の道の大躰、我一流の見立、劔術一通りにしてハ、まことの道を得がたし。大なる所よりちいさき所をしり、浅より深きに至る。直なる道の地形を引ならすに依て、初を地の巻と名付る也。第二、水之巻。水を本として、心を水になす也。水ハ方圓の器にしたがひ、一てきとなり、さうかいとなる。水にへきたんの色あり。清き所をもちゐて、一流の事を此巻に書顕す也。劔術一通の理、さだか【蝕損】見分、一人の敵に自由に勝ときハ、世界の人に皆勝所也。人に勝といふ心ハ、千万の敵【蝕損】も同意也。将たるものゝ兵法、ちいさきを大になす事、尺のかねを以て大佛をたつるに同じ。か様の儀、こまやかに【脱字】書分がたし。一を以て万を知事、兵法の利也。一流の【蝕損】、此水の巻に書記す也。第三、火之巻。此巻に戦の事を書記也。火は大小となり、けやけき心なるによつて、合戦の事を書也。合戦の道、一人と一人との戦も、万と万との戦も同じ道也。心を大なる事になし、心をちいさくなして、能吟味して見るべし。大なる所ハ見へ【蝕損】、ちいさき所ハ見へがたし。其子細、大人数の事ハ、そくざにもとをりがたし。一人の事ハ、心ひとつにてかハる事はやきに依て、ちいさき所しる事得がたし。能吟味有べし。此火之巻の事、はやき間の事なるに依て、日々に手なれ、常の事とおもひ、心の替らぬ所、兵法の【破損】。然に依て、戦勝負の所を、火之巻に書顕也。第四、風之巻。此巻を風の巻と記す事、我一流の事にあらず。世の中の兵法、其流々の事を書のする所なり。風と謂に於て【脱字】、むかしの風、今の風、其家々の風などゝあれバ、世間の兵法、其流々のしわざをさだかに書顕す、【蝕損】風也。他の事をよくしらずしてハ、ミづからのわきまへ成がたし。道々事々ををこなふに、外道と云心有。日々に其道を勤と云とも、心の背けば、其身ハ能道とおもふとも、直なる所より見れば、實の道にハあらず。實の道を極めざれバ、少し心のゆがミにつゐて、後にハ大にゆがむもの【蝕損】。ものごとに、あまりたるハ、たらざるに同じ。能吟味すべし。他の兵法、劔術バかり、と世におもふ事尤也。わが兵法の利わざにおゐてハ、各別の儀也。世間の兵法をしらしめんために、風之巻として、他流の事を書顕す也。第五、【破損】巻。此巻空と書顕す事、空と云出すよりしてハ、何をか奥と云、何をかくちといはん。道理を得てハ道理を離れ、兵法の道に、をのれと自由有て、をのれと奇特を得、時にあひてハ拍子をしり、をのづから打、をのづからあた【破損】、是皆空の道也。をのれと實の道に入【蝕損】を、空の巻にして書とゞむるもの也。

 【渡辺家本】

一 此兵法之書、五巻に仕立事。五の道をわかち、一巻/\にして、其利をしらしめんために、地水火風空として五巻に書顕すなり。地の巻に於てハ、兵法の道の大躰、我一流の見立、劔術一通りにしてハ、まことの道を得がたし。大なる所よりちいさき所をしり、淺より深きに至る。直なる道の地形を引ならすに依て、初を地の巻と名付る也。第二、水之巻。水を本として心を水になす也。水ハ方圓の器にしたがひ、一てきとなり、さうかいとなる。水にへきたんの色あり。清き所をもちゐて、一流の事を此巻に書顕也。劔術一通の理、さだかに見分、一人の敵に自由に勝ときは、世界の人に皆勝所也。人に勝といふ心は、千万の敵にも同意也。将たる者の兵法、ちいさきを大になす事、尺のかねを以て大佛をたつるに同じ。か様の儀、こまやかに【脱字】書分がたし。一を以て万を知事、兵法の利也。一流の事、此水の巻に書記すなり。第三、火之巻。此巻に戦の事を書記也。火は大小となり、けやけき心なるによつて、合戦の事を書也。合戦の道、一人と一人との戦も、萬と万との戦も同じ道也。心を大なる事になし、心をちいさくなして、能吟味して見るべし。大なる所ハ見へ安し、ちいさき所ハ見へがたし。其子細、大人数の事ハ、そくざにもとをりがたし。一人の事ハ、心ひとつにてかハる事はやきに依て、ちいさき所しる事得がたし。能吟味有べし。此火之巻の事、はやき間の事なるに依て、日々に手なれ、常の事と思ひ、心の替らぬ所、兵法の肝要也。然に依て、戰勝負の所を、火之巻に書顕也。第四、風之巻。此巻を風の巻と記す事、我一流の事にあらず。世の中の兵法、其流/\の事を書のする所なり。風と謂に於て【脱字】、むかしの風、今の風、其家々の風などゝあれバ、世間の兵法、其流/\のしわざをさだかに書顕す、是風也。他の事をよくしらずしてハ、ミづからのわきまへ成がたし。道々事々をおこなふに、外道と云心有。日々に其道を勤と云とも、心の背けバ、其身は能道とおもふとも、直なる所より見れバ、實の道にハあらず。實の道を極めざれバ、少し心のゆがミにつゐて、後にハ大にゆがむもの也。ものごとに、あまりたるハ、たらざるに同じ。能吟味すべし。他の兵法、劔術バかり、と世におもふ事尤也。わが兵法の利わざにおゐてハ、各別の儀也。世間の兵法をしらしめんために、風之巻として、他流の事を書顕す也。第五、空の巻。此巻空と書顕す事、空と云出すよりしてハ、何をか奥と云、何をかくちといはん。道理を得てハ道理を離れ、兵法の道【脱字】、おのれと自由有て、おのれと奇特を得、時にあひてハ拍子をしり、おのづから打、おのづからあたる、是皆空の道也。おのれと實の道に入事を、空の巻として書とゞむるもの也。

 【中山文庫本】

一 此兵法の書、五巻に仕立る事。五の道をわかち、一巻/\にして、其利をしらしめんために、地水火風空として、五巻に書顕すなり。地之巻に於てハ、兵法の道の大躰、我一流の見立、劔術一通にしてハ、誠の道を得がたし。大なる所よりちいさき所をしり、浅きより深きに至る。直【脱字】る道の地形を引ならすによつて、初を地の巻と名付るなり。第二、水の巻。水を本として、心を水になる也。水ハ方圓の器に従ひ、一てきとなり、さうかひとなる。水にへきたんの色あり。清き所をもちいて、一流の事を此巻に書顕す也。劔術一通の理、さだかに見分、一人の敵に自由に勝ときハ、世界の人にミな勝所也。人に勝と云心ハ、千万の敵にも同意也。将たる者の兵法、ちいさきを大になす事、尺のかたを以て大佛を立るに同じ。か様の儀、こまやかにハ書分がたし。一を以万を知る事、兵法の利也。一流の事、此水の巻に書記すなり。第三、火之巻。此巻に戦の事を書記なり。火ハ大小と【脱字】、けやけき心なるによつて、合戦の事を書なり。合戦の道、一人と一人との戦も、万と萬との戦も同じ道也。心を大なる事になし、心をちいさくなして、能吟味してミるべし。大なる所ハ見へやすし、ちいさき所ハ見へがたし。其子細、大人数の事ハ、そくざにもとおりがたし。一人の事ハ、心ひとつにてかはる事はやきに依て、ちいさき所しる事得がたし。能吟味有べし。此火之巻の事、はやき間の事なるに依て、日々に手なれ、常の事とおもひ、心のかはらぬ所、兵法の肝要也。然に依て、戦勝負の所を、火之巻に書あらはす也。第四、風の巻。此巻を風之巻と記す事、我一流の事に非ず。世の中の兵法、其流々の事を書のする所也。風と謂に於てハ、昔の風、今の風、其家々の風などゝあれバ、世間の兵法、其流々のしわざをさだかに書顕す、是風也。他の事を能しらずしてハ、ミずからのわきまへなりがたし。道々事々をおこなふに、外道と云心有。日々に其道を勤と云とも、心の背けバ、其身ハ能道と思とも、直なる所よりミれバ、実の道にハあらず。実の道を極めざれバ、少心のゆがみにつゐて、後にハ大にゆがむもの也。ものごとに、あまりたるハ、たらざるにおなじ。能吟味すべし。他の兵法、劔術ばかりと世におもふ事、尤也。わが兵法の利わざにおゐてハ、各別の儀也。世間の兵法をしらしめんために、風之巻として、他流の事を書顕す也。第五、空之巻。此巻空と書顕す事、空と云出すよりしてハ、何をか奥と云、何をかくちといはん。道理を得てハ道理を離れ、兵法の道に、をのれと自由有て、をのれときどくを得、時にあひてハ拍子をしり、をのづから打、をのづからあたる、是皆空の道也。おのれと実の道に入事を、空の巻にして書とゞむるもの也。

 【近藤家乙本】

一 此兵法之書、五巻に仕立事。五の道をわかち、一巻/\にして、其利をしらしめんために、地水火風空として五巻に書顕すなり。地の巻に於てハ、兵法の道の大躰、我一流の見立、劔術一通りにしてハ、まことの道を得がたし。大なる所よりちいさき所をしり、浅きより深きに至る。直なる道の地形を引ならすに依て、初を地の巻と名付る也。第二、水之巻。水を本として心を水になす也。水ハ方圓の器にしたがひ、一てきとなり、さうかいとなる。水にへきたんの色有。清き所をもちゐて、一流の事を此巻に書顕す也。劔術一通りの理、さだかに見分、一人の敵に自由に勝ときは、世界の人に皆勝所也。人に勝といふ心は、千万の敵にも同意也。将たる者の兵法、ちいさきを大になす事、尺のかねを以て大佛をたつるに同じ。か様の儀、こまやかに【脱字】書分がたし。一を以て万を知事、兵法の利也。一流の事、此水の巻に書記すなり。第三、火之巻。此巻に戦の事を書記也。火之大小となり、けやけき心なるによつて、合戦の事を書也。合戦の道、壱人と一人との戰も、萬と万との戦も同じ道也。心を大なる事になし、心をちいさくなして、能吟味して見るべし。大なる所ハ見へ安し、ちいさき所ハ見へがたし。其子細、大人数の事ハ、そくざにもとをりがたし。一人の事ハ、こゝろひとつにてかハる事はやきに依て、ちいさき所しる事得がたし。能吟味有べし。此火之巻の事、はやき間の事なるに依て、日々に手なれ、常の事とおもひ、心の替らぬ所、兵法の肝要也。然に依て、戰勝負の所を、火之巻に書顕也。第四、風之巻。此巻を風の巻と記す事、我一流の事にあらず。世の中の兵法、其流/\の事を書のする所也。風と謂に於て【脱字】、むかしの風、今の風、其家々の風などゝあれバ、世間の兵法、其流/\のしわざをさだかに書顕す、是風也。他の事をよくしらずしてハ、ミづからのわきまへ成がたし。道々事々をおこなふに、外道と云心有。日々に其道を勤と云とも、心の背けば、其身は能道とおもふとも、直なる所より見れバ、實の道にハあらず。實の道を極めざれば、少し心のゆがミにつゐて、後にハ大にゆがむもの也。ものごとに、あまりたるハ、たらざるに同じ。能吟味すべし。他の兵法、劔術バかり、と世におもふ事尤也。わが兵法の利わざにおゐてハ、各別の儀也。世間の兵法をしらしめんために、風之巻として、他流の事を書顕す也。第五、空の巻。此巻空と書顕す事、空と云出すよりしてハ、何をか奥と云、何をかくちといはん。道理を得てハ道理を離れ、兵法の道に、おのれと自由有て、おのれと奇特を得、時にあひてハ拍子をしり、おのづから打、をのづからあたる、是皆空の道也。おのれと實の道に入事を、空の巻にして書とゞむるもの也。

 【石井家本】

一 此兵法の書、五巻に仕立事。五の道をわかち、一巻/\にして、其利をしらしめんため(に)、地水火風空として五巻に書顕すなり。地の巻に於てハ、兵法の道の大躰、我一流の見立、劔術一通りにして(ハ)、まことの道を得がたし。大なる所よりちいさき所をしり、淺より深きに至る。直なる道の地形を引ならすに依て、初を地の巻と名付る也。第二、水の巻。水を本として心を水になす也。水ハ方圓の器にしたがひ、一てきとなり、さうかいとなる。水にへきたんの色あり。清き所をもちゐて、一流の事を此巻に書顕也。劔術一通の理、さだかに見分、一人の敵に自由に勝時は、世界の人に皆勝所也。人に勝といふ心は、千万の敵にも同意なり。将たるものゝ兵法、ちいさきを大になす事、尺のかねを以て大佛をたつるに同じ。か様の儀、こまやかに【脱字】書分がたし。一を以て万を知事、兵法の利也。一流の事、此水の巻に書記す也。第三、火の巻。此巻に戦の事を書記也。火は大小となり、けやけき心なるによつて、合戦の事を書也。合戦の道、一人と一人との戦も、萬と万との戦も同じ道也。心を大なる事になし、心をちいさくなして、能吟味して見るべし。大なる所ハ見へ安し、ちいさき所ハ見へがたし。其子細、大人数の事ハ、そくざにもとをりがたし。一人の事ハ、心ひとつにてかハる事はやきに依て、ちいさき所しる事得がたし。能吟味有べし。此火の巻の事、はやき間の事なるに依て、日々に手なれ、常の事とおもひ、心の替らぬ所、兵法の肝要也。然に依て、戦勝負の所を、火之巻に書顕也。第四、風之巻。此巻を風の巻と記す事、我一流の事にあらず。世の中の兵法、其流/\の事を書のする所なり。風と謂に於て【脱字】、むかしの風、今の風、其家々の風などゝあれバ、世間の兵法、其流/\のしわざをさだかに書顕す、是風也。他の事をよくしらずしてハ、ミづからのわきまへ成がたし。道々事々をおこなふに、外道と云心有。日々に其道を勤と云とも、心(の)背けば、其身ハ能道とおもふとも、直なる所より見れバ、實の道にハあらず。實の道を極めざれバ、少し心のゆがみにつゐて、後にハ大にゆがむもの也。ものごとに、あまりたるハ、たらざるに同じ。能吟味すべし。他の兵法、劔術バかり、と世におもふ事尤也。わが兵法の利わざにおゐてハ、各別の儀也。世間の兵法をしらしめんために、風之巻として、他流の事を書顕す也。第五、空の巻。此巻空と書顕す事、空と云出すよりしてハ、何をか奥と云、何をかくちといはん。道理を得てハ道理を離れ、兵法の道(に)、おのれと自由有て、おのれと奇特を得、時にあいてハ拍子をしり、おのづから打、おのづからあたる、是皆空の道也。おのれと實の道に入事を、空の巻と(に)して書とゞむるもの也。

 【伊丹家本】

一 此兵法の書、五巻に仕立る事。五の道をわかち、一巻々にして、其利をしらしめむ為に、地水火風空として、五巻に書顕す也。地之巻ニ於ては、兵法の道の大躰、我一流の見立、劔術一通にしてハ、誠の道を得難し。大なる所よりちいさき所をしり、浅より深きに至る。直なる道の地形を引ならすに依て、初を地之巻と名付る也。第二、水之巻。水を本として、心を水になる也。水は方圓の器にしたがひ、一滴と成、さうかいとなる。水にへきたんの色有。清き所をもちいて、一流の事を此巻に書顕す也。劔術一通の理、さだかに見分、一人の敵に自由に勝時ハ、世界の人に皆勝所也。人に勝と云心は、千萬の敵にも同意也。将たる者の兵法、ちいさきを大になす事、尺のかたを以て大佛を立るに同じ。か様の儀、こまやかにハ書分難し。一を以て萬を知る事、兵法の利也。一流の事、此水之巻に書記也。第三、火之巻。此巻に戦の事を書記なり。火は大小となり、けやけき心なるに依て、合戦の事を書なり。合戦の道、一人と一人との戦も、万と萬との戦も同じ道也。心を大なる事ニなし、心をちいさくなして、能吟味してミるべし。大なる所はミへ安し、ちいさき所はミへ難し。其子細は大人数の事は、そくざにもとおりがたし。一人の事は、心ひとつにてかハる事はやきに依て、ちいさき所しる事得難し。能吟味有べし。此火之巻の事、早き間の事なるに依て、日々に手なれ、常の事とおもひ、心の替ぬ所、兵法の肝要也。然に依て、戦ひ勝負の所を、火之巻に書顕す也。第四、風の巻。此巻を風之巻と記す事、我一流の事ニあらず。世の中の兵法、其流々の事を書のする所也。風と謂に於てハ、むかしの風、今の風、其家々の風などとあれば、世間の兵法、其流々のし業をさだかに書顕す、是風也。他の事を能知ずしては、自のわきまへ成がたし。道々事々をおこのふに、外道といふ心有。日々に其道を勤と云とも、心の背けば、其身ハ能道と思共、直なる所よりミれバ、實の道には非ず。實の道をきわめざれば、少し心のゆがミに付て、後ニハ大にゆがむ物也。物毎に、あまりたるは、不足に同じ。能々吟味すべし。他の兵法、劔術ばかりと世に思事、尤也。我兵法の利業に於ては、各別の儀なり。世間の兵法をしらしめむ為に、風之巻として、他流の事を書顕す也。第五、空之巻。此巻空と書顕す事、空と云出すよりしては、何をか奥と云、何をか口といはむ。道理を得てハ道理を離れ、兵法の道に、おのれと自由有て、おのれときどくを得る、時にあひてハ拍子をしり、おのづから打、をのづから當る、是皆空の道也。おのれと實の道に入事を、空之巻にして書とゞむる者也。

 【伊藤家本】

一 【脱字】兵法之書、五巻に仕立事。五の道をわかち、一巻/\にして、其利をしらしめむために、地水火風空として五巻に書顕すなり。地の巻に於てハ、兵法の道の大躰、我一流の見立、劔術一通にしてハ、まことの道を得がたし。大なる所よりちひさきところをしり、浅より深きに至る。直なる道の地形を引ならすに依て、初を地の巻と名付る也。第二、水の巻。水を本として心を水になす也。水ハ方圓の器にしたがひ、一てきとなり、さうかいとなる。水にへきたんの色あり。清き所をもちゐて、一流の事を此巻に書顕す也。劔術一通の理、さだかに見分、一人の敵に自由に勝ときは、世界の人に皆勝所也。人に勝と云心は、千万の敵にも同意也。将たるものゝ兵法、ちいさきを大になす事、尺のかねを以て大佛をたつるに同じ。か様の儀、こまやかに【脱字】書分がたし。一を以て万を知る事、兵法の利也。一流の事、此水の巻に書記すなり。第三、火之巻。【脱字】に戦の事を書記也。火は大小となり、けやけき心なるによつて、合戦の【脱字*****】道、一人と一人との戦も、萬と万との戦も同じ道也。心を大なる事になし、心をちいさくなして、能吟味して見るべし。大なる所ハ見へ安し、ちいさき所ハ見へがたし。其子細、大人数の事ハ、そくざにもとをりがたし。一人の事ハ、心ひとつにてかハる事はやきに依て、ちいさき所しる事得がたし。能吟味有べし。此火之巻の事、はやき間の事なるに依て、日々に手なれ、常の事とおもひ、心の替らぬ所、兵法の肝要也。然に依て、戦勝負の所を、火之巻に書顕也。第四、風之巻。此巻を風の巻と記す事、我一流の事にあらず。世の中の兵法、其流/\の事を書のする所なり。風と謂に於て【脱字】、むかしの風、今の風、其家々の風などゝあれバ、世間の兵法、其流/\のしわざをさだかに書顕す、是風也。他の事をよくしらずしてハ、ミづからのわきまへ成がたし。道々事々をおこなふに、外道と云心有。日々に其道を勤と云とも、心の背けば、其身は能道とおもふとも、直なる所より見れバ、實の道にハあらず。實の道を極めざれバ、少し心のゆがミにつゐて、後にハ大にゆがむもの也。ものごとに、あまりたるハ、たらざるに同じ。能吟味すべし。他の兵法、劔術バかり、と世におもふ事尤也。わが兵法の利わざにおゐてハ、各別の儀也。世間の兵法をしらしめんために、風之巻として、他流の事を書顕す也。第五、空の巻。此巻空と書顕す事、空と云出すよりしてハ、何をか奥と云、何をかくちといはん。道理を得てハ道理を離れ、兵法の道【脱字】、おのれと自由有て、おのれと奇特を得、時にあひてハ拍子をしり、おのづから打、おのづからあたる、是皆空の道也。おのれも實の道に入事を、空の巻にして書とゞむるもの也。

 【神田家本】

一 此兵法之書、五巻に仕立事。五の道をわかち、一巻/\にして、其利をしらしめんために、地水火風空として五巻に書顕すなり。地の巻に於てハ、兵法の道の大躰、我一流の見立、劔術一通りにして(ハ)、まことの道を得がたし。大なる所よりちいさき所をしり、淺より深きに至る。直なる道の地形を引ならすに依て、初を地の巻と名付る也。第二、水の巻。水を本として心を水になす也。水ハ方圓の器にしたがひ、一てきとなり、さうかいとなる。水にへきたんの色あり。清き所をもちゐて、一流の事を此巻に書顕也。劔術一通の理、さだかに見分、一人の敵に自由に勝時ハ、世界の人に皆勝所也。人に勝といふ心は、千万の敵にも同意也。将たるものゝ兵法、ちいさきを大になす事、尺のかねを以て大佛をたつるに同じ。か様の儀、こまやかに【脱字】書分がたし。一を以て万を知事、兵法の利也。一流の事、此水の巻に書記す也。第三、火の巻。此巻に戦の事を書記也。火は大小となり、けやけき心なるによつて、合戦の事を書也。合戦の道、一人と一人との戦も、萬と万との戦も同じ道也。心を大なる事になし、心をちいさくなして、能吟味して見るべし。大なる所ハ見へ安し、ちいさき所ハ見へがたし。其子細、大人数の事ハ、そくざにもとをりがたし。一人の事ハ、心ひとつにてかわる事はやきに依て、ちいさき所しる事得がたし。能吟味有べし。此火の巻の事、はやき間の事なるに依て、日々に手なれ、常の事ととおもひ、心の替らぬ所、兵法の肝要也。然に依て、戦勝負の所を、火之巻に書顕也。第四、風之巻。此巻を風の巻と記す事、我一流の事にあらず。世の中の兵法、其流/\の事を書のする所也。風と謂に於て【脱字】、むかしの風、今の風、其家々の風などゝあれバ、世間の兵法、其流/\のしわざをさだかに書顕す、是風也。他の事をよくしらずしてハ、ミづからのわきまへ成がたし。道々事々をおこなふに、外道と云心有。日々に其道を勤と云とも、心(の)背けば、其身ハ能道とおもふとも、直なる所より見れバ、實の道にハあらず。実の道を極めざれバ、少し心のゆがみにつゐて、後にハ大にゆがむもの也。ものごとに、あまりたるハ、たらざるに同じ。能吟味すべし。他の兵法、劔術バかり、と世におもふ事尤也。わが兵法の利わざにおゐてハ、各別の儀也。世間の兵法をしらしめんために、風之巻として、他流の事を書顕す也。第五、空の巻。此巻空と書顕す事、空と云出すよりしてハ、何をか奥と云、何をかくちといはん。道理を得てハ道理を離れ、兵法の道(に)、おのれと自由有て、おのれと奇特を得、時にあひてハ拍子をしり、おのづから打、おのづからあたる、是皆空の道也。おのれと実の道に入事を、空の巻として書とゞむるもの也。

 【楠家本】

一 此兵法の書、五巻にしたつる事。五ツの道をわかち、一まき/\にして、其利をしらしめんがために、地水火風空として、五巻に書顕す也。地の巻におゐては、兵法の道の大躰、わが一流のミたて、劔術一通にしてハ、まことの道を得がたし。大きなる所よりちいさき処をしり、あさきよりふかきに到る、直なる道の地形を引ならすによつて、初を地の巻と名付也。第二、水の巻。水を本として、心を水になす也。水ハ方圓のうつハものにしたがひ、一てきとなり、そうかいとなる。水にへきたんの色有。きよき所を用いて、一流のことを此巻に書顕す也。劔術一通の理、さだかに見わけ、一人の敵に自由に勝時ハ、世界の人にミな勝処也。人に勝と云心ハ、千万の敵にも同意也。将たるものゝ兵法、ちいさきを大きになす事、尺のかたをもつて大佛をたつるに同じ。かやうの儀、こまやかにハ書分がたし。一を以て万と知事、兵法の利也。一流の事、此水の巻に書しるす也。第三、火の巻。此まきに戦かひの事を書しるす也。火ハ大小となり、けやけき心なるによつて、合戦の事を書也。合戦の道、一人と一人との戦かひも、万と万とのたゝかひも同じ道也。心を大きなる事になし、心をちいさくなして、よく吟味して見るべし。大きなる所ハみえやすし、ちいさき所はみえがたし。其子細ハ、大人数の事ハ、そくざにもとをりかたし、一人の事ハ、心一ツにてかはる事はやきによつて、ちいさき所しる事得がたし。よく/\吟味有べし。此火の巻の事、はやき間の事なるによつて、日々に手なれ、常のごとくおもひ、心のかはらぬ所、兵法の肝要也。然によつて、戦勝負の所を、火の巻に書顕す也。第四、風の巻。此まきを風の巻としるす事、わが一流の事にハあらず。世の中の兵法、其流々の事を書のする所也。風と云におゐてハ、むかしの風、今の風、其家/\の風などゝあれバ、世間の兵法、其流々のしはざを、さだかに書顕す。是風也。他の事をよくしらずしてハ、自のわきまへなりがたし。道々事々をおこなふに、外道と云心あり。日々に其道をつとむると云とも、心のそむけバ、其身ハよき道とおもふとも、直なる所より見れば、実の道にハあらず。実の道をきわめざれバ、少心のゆがミにつゐて、のちにハ大きにゆがむもの也。物毎に、あまりたるハたらざるに同じ。よく吟味すべし。他の兵法、劔術斗、と世におもふ事、尤也。わが兵法の利わざにおゐてハ、各別の儀也。世間の兵法をしらしめんために、風の巻として、他流の事をかきあらはすなり。第五、空の巻。此巻、空と書顕す事、空と云出すよりしてハ、何をかおくと云、何をかくちといはん。道理を得てハ、道理をはなれ、兵法の道に、おのれと自由ありて、おのれときどくを得、時にあいてハ、ひやうしをしり、をのづから打、をのづからあたる。是皆、空の道也。をのれと実の道に入事を、空の巻にしてかきとゞむる者也。

 【細川家本】

一 此兵法の書、五巻に仕立る事。五ツの道をわかち、一まき/\にして、其利をしらしめんが為に、地水火風空として、五巻に書顕すなり。地の巻におゐてハ、兵法の道の大躰、我一流の見立、劔術一通にしては、まことの道を得がたし。大きなる所よりちいさき所を知り、浅きより深きに至る。直なる道の地形を引ならすによつて、初を地の巻と名付也。第二、水の巻。水を本として、心を水になる也。水は方円のうつわものに随ひ、一てきとなり、さうかいとなる。水に碧潭の色あり。きよき所をもちひて、一流のことを此巻に書顕す也。劔術一通の理、さだかに見わけ、一人の敵に自由に勝時は、世界の人に皆勝所也。人に勝と云心は、千萬の敵にも同意なり。将たるものゝ兵法、ちいさきを大きになす事、尺のかたをもつて大佛をたつるに同じ。か様の義、こまやかには書分がたし。一をもつて万と知事、兵法の利也。一流の事、此水の巻に書しるす也。第三、火の巻。此まきに戦ひの事を書記也。火ハ大小となり、けやけき心なるによつて、合戦の事を書也。合戦の道、一人と一人との戦ひも、万と万とのたゝかいも同じ道なり。心を大きなる事になし、心をちいさくなして、よく吟味して見るべし。大きなる所は見えやすし、ちいさき所は見えがたし。其子細、大人数の事ハ、即座にもとをりがたし。一人の事は、心一ツにてかわる事はやきによつて、ちいさき所しる事得がたし。能吟味有べし。此火の巻の事、はやき間の事なるによつて、日々に手馴、常のごとくおもひ、心のかはらぬ所、兵法の肝要也。然るによつて、戦勝負の所を、火の巻に書顕也。第四、風の巻。此巻を風の巻としるす事、我一流の事にはあらず、世中の兵法、其流々の事を書のする所也。風と云におゐては、むかしの風、今の風、その家々の風などゝあれば、世間の兵法、其流々のしわざを、さだかに書顕す。是風也。他の事をよく知ずしては、自のわきまへ成がたし。道々事々をおこなふに、外道と云心あり。日々に其道を勤ると云とも、心のそむけバ、其身はよき道とおもふとも、直なる所より見れば、實の道にはあらず。實の道を極めざれば、少心のゆがみに付て、後にハ大きにゆがむもの也。【脱字***************】吟味すべし。他の兵法、劔術ばかり、と世に思ふ事、尤也。我兵法の利わざにおゐても、各別の義也。世間の兵法をしらしめんために、風の巻として、他流の事を書顕す也。第五、空の巻。此巻空と書顕す事、空と云出すよりしては、何をか奥と云、何をか口といはん。道理を得ては道理をハなれ、兵法の道に、おのれと自由ありて、おのれと奇特を得、時にあいては、ひやうしを知り、おのづから打、おのづからあたる、是ミな空の道也。おのれと實の道に入事を、空の巻にして書とゞむるもの也。

 【丸岡家本】

一 此兵法の書五巻に爲立ル事。五ツの道を分ち、一巻/\ニして、其理を知らしめんがために、地水火風空として、五巻に書顕すなり。地の巻においては、兵法の道の大躰、我一流の見立、劔術一通にしては、実の道を得がたし。大キなる所より小キ所を知り、淺より深に至る。直なる道の地形を引ならすによりて、初を地之巻と目るなり。第二、水の巻。水を本として、心を水になすなり。水は方圓の器に従ひ、一滴となり、蒼海となる。水に碧潭の色あり。清き所を用て、一流の事を此巻に書著也。劔術一通りの理、さだかに見分、一人の敵に自由に勝時は、世界の人に皆勝所なり。人に勝といふ心は、千萬の敵にも同意也。將たる者の兵法、小を大になす事、尺のかたを以て大佛を立るにおなじ。か樣の義、細かには書分がたし。一を以万を知事、兵法の理なり。一流の事、此水の巻に書著す也。第三、火の巻。此巻に戦の事を書顕すなり。火は大小となり、けやけき心なるによりて、合戦の事を書也。合戦の道、一人と一人との戦も、萬と萬との戦も同じ道なり。心を大なる事になし、心を小キ事になして、能吟味して見るべし。大キなる所は見え易し、小キ所は見へ難し。其子細、大人数の事は、即座にもとをりがたく。一人の事は、心一ツにて替ること早きによりて、小キ所を知る事得がたし。能吟味有べし。此火の巻の事、速キ間の事なるによりて、日々に手馴、常のごとく思ひ、心のかハらぬ所、兵法の肝要なり。然によりて、戦勝負の所を、火の巻に書著也。第四、風の巻。此巻を風の巻と記す事、我一流の事ニはあらず。世の中の兵法、其流々の事を書顕す所也。風といふにおいては、昔の風、今の風、其家々の風などゝあれバ、世間の兵法、其流々の爲業を、定かに書著也、是風なり。他の事を能知ずしては、自の辨へ成がたし。道々事々を行ふに、外道といふ心あり。日々に其道を勤ると云とも、心のそむけば、其身はよき道と思とも、直なる所より見れば、実の道にはあらず。実の道を極めざれば、すこし心のゆがみに付て、後には大キにゆがむもの也。物ごとに、餘たるは不足におなじ。能吟味すべし。他の兵法、劔術ばかり、と世に思ふ事、尤也。我兵法の利技においては、各別の義なり。世間の兵法を知しめんために、風之巻として、他流の事を書顕す也。第五、空の巻【脱字**】と書著事、空と云出すよりしては、何をか奥と云、何をか口と云ん。道理を得てハ道理を離れ、兵法の道に、おのれと自由ありて、おのれと奇特を得、時に逢ては、拍子をしり、自ら打、自らあたる、是皆空の道也。おのれと実の道に入ことを、空の巻ニして書止る者也。

 【富永家本】

一 此兵法の書、五巻に仕立る事。五ツの巻をあらわし、一【脱字】々ニして、其利をしらしめんがために、地水火風空として、五巻に書顕すなり。地の巻におゐては、兵法の道の大躰、我一流の見立、劔術一通ニして【脱字】、実の道を難得。大きなる所より【脱字************】道の地形を引ならすによつて、初を地の巻と名付るなり。第二、水の巻。水を本として、心を水になすなり。水ハ方圓のうつわものにしたがひ、一滴となり、そう海となり。水にへきたんの色有。清き所を用て、一流の事を此書に書顕す也。劔術一邊の理、さだかに見わけ、一人の敵に自由に勝時ハ、世の中の人に皆勝所なり。人に勝といふ心ハ、千萬の敵【脱字】も同意なり。将たるものゝ兵法、ちゐさきを大きになすなり、尺のかねを以て大佛を立るにおなじ。ケ様の儀、細にハ書分がたし。一を以て萬といふと事、兵法の理也。一流の事、此水の巻に書印す也。第三、火の巻。此巻に戦ゐの事【脱字】書印すなり。火ハ大小となり、けやけき心なるによつて、合戦の事を書也。合戦の道、一人と一人との戦ひも、萬と萬とのたゝかひも同じ道なり。心を大きなる事になし、心をちいさくなして、能吟味して見るべし。大きなる所ハ見へ易し、ちゐさき所ハ見へがたし。其子細は、大人数の事ハ、そくざにもとをりがたし、一人の事ハ、心一ツにて、替る事早きニよつて、ちゐさき所知る事得難し。好/\吟味有べし。此火の巻【脱字】、はやき事間の事成るによつて、日々に手なれ、如常思ひ、心のかハらぬ所、兵法の肝要なり。然によつて、戦勝負の所を、火の巻に書顕すなり。第四、風の巻。此巻を風の巻と印事、我一流の事ニハ非ず、世の中の兵法、其流々の事を書のする所也。風といふにおゐてハ、昔の風、今の風、其家々の風などゝあれば、世間の兵法、其流々の仕わざを、さだかに書顕す、是風なり。他の事を能不知してハ、自のわきまへ成がたし。道々事々をおこなふに、外道といふ心あり。日々に其道を勤るといふとも、心のそむかバ、其身ハ能道と思ふとも、直成所より見れバ、実の道ニハ非。実の道をきわめざれバ、少心のゆがミにつゐて、後ニハ大きにゆがむ者なり。物事に、餘りたるハたらざるに同じ。【脱字】吟味すべし。他の兵法、劔術斗と世に思ふ事、尤也。我が兵法の利わざにおゐてハ、各別の儀なり。世間の兵法【脱字】しらしめむために、風の巻として、他流の事を書顕すなり。第五、空の巻。此巻、空と書顕す事、空と云出すよりしてハ、何をかおくといひ、何をかくちといわん。道理を得てハ道理をはなれ、兵法の道に、おのれと自由有て、おのれときどくを得、時にあひてハ、拍子を知り、おのづから打、おのづからあたる。是皆、空の道也。おのれと実の道に入る事を、空の巻として書とゞむる【脱字】也。

 【常武堂本】

一 此兵法の書、五巻に仕立る事。五ツの道をわかち、一まき/\にして、其利をしらしめんが為に、地水火風空として、五巻に書顕す也。地の巻に於てハ、兵法の道の大躰、我一流のみ立、劔術一通にしてハ、まことの道を得がたし。大きなるところよりちいさき所を知り、浅きより深きに至る。直なる道の地形を引ならすによつて、初を地の巻と名付也。第二、水の巻。【脱字】を本として、心を水になる也。水ハ方円のうつわものに随ひ、一てきとなり、さうかいとなる。水に碧潭の色あり。きよき所をもちひて、一流のことを此巻に書顕す也。劔術一通の理、さだかにみわけ、一人の敵に自由に勝時ハ、世界の人に皆勝所也。人に勝と云心ハ、千萬の敵にも同意也。将たるものの兵法、ちいさきを大きになす事、尺のかたを以て大佛をたつるに同じ。かやうの義、こまやかには書分がたし。一を以て万と知事、兵法の利也。一流の事、此水の巻に書しるす也。第三、火の巻。此まきに戦の事を書記也。火は大小となり、けやけき心なるによりて、合戦の事を書也。合戦の道、一人と一人との戦も、万と万との戦ひも同じ道也。心を大きなる事になし、心をちいさくなして、よく吟味してみるべし。大きなる所ハみえやすし、ちいさき所ハみえがたし。其子細、大人数の事ハ、即座にもとをりがたし。一人の事ハ、心一ツにてかはる事はやきによつて、ちいさき所しる事得がたし。能吟味有べし。此火の巻の事、はやき間の事なるによつて、日々に手馴、常のごとくおもひ、心のかはらぬ所、兵法の肝要也。然によつて、戦勝負の所を、火の巻に書顕也。第四、風の巻。此巻を風の巻としるす事、我一流の事にはあらず、世中の兵法、其流々の事を書のする所也。風と云に於てハ、むかしの風、今の風、その家々の風などとあれバ、世間の兵法、其流々のしわざを、さだかに書顕す、是風也。他の事をよくしらずしてハ、自のわきまへ成がたし。道々事々をおこなふに、外道と云心あり。日々に其道を勤ると云とも、心のそむけバ、其身ハよき道と思ふとも、直なる所より見れバ、實の道にはあらず。實の道を極めざれバ、少心のゆがみに付て、後には大きにゆがむもの也。【脱字***************】吟味すべし。他の兵法、劔術ばかりと世に思ふ事、尤也。我兵法の利わざにおいても、各別の義也。世間の兵法をしらしめんために、風の巻として、他流の事を書顕す也。第五、空の巻。此巻空と書顕す事、空と云出すよりしてハ、何をか奥と云、何をか口といはん。道理を得てハ道理をはなれ、兵法の道に、おのれと自由ありて、おのれと奇特を得、時にあひてハ、ひやうしをしり、おのづから打、おのづからあたる、是みな空の道也。おのれと實の道に入事を、空の巻にして書とゞむるもの也。

 【田村家本】

一 此兵法ノ書五巻ニシタツル事 五ツノ道ヲワカチ一巻々々ニシテ、其利ヲ知ラシメンタメニ、地水火風空トシテ、五巻ニ書顯ス也。地ノ巻ニヲイテハ、兵法ノ道【脱字】大躰、我一流ノ見タテ、劔ジユツ一通ニシテハ、實ノ道ヲ得ガタシ。大キナル処ヨリ少キ処ヲシリ、淺ヨリ深ニ至ル。直ナル道ノ地行ヲ引ナラスニヨリテ、初ヲ地ノ巻ト名付ルナリ。第二、【脱字】。水ヲ本トシテ、心ヲ水ニナス也。水ハ方圓ノウツハニ隨ヒ、一滴トナリ、蒼海トナル。水ニ碧潭ノ色アリ、清キ処ヲ用テ、一流ノコトヲ此巻ニ書顯也。劔術一通ノ理、サダカニ見分、一人ノ敵ニ自由ニ勝時ハ、世界ノ人ニ皆勝処也。人ニ勝ト云心ハ、千万ノ敵ニモ同意也。將タル者ノ兵法、チヒサキニ大ニナス事、尺ノ形ヲモツテ大佛ヲ建ルニ同。カヨウノギ、コマヤカニハ書分ガタシ。一ヲ以テ万ヲ知ル事、兵法ノ利也。一流ノコト、此水ノ巻ニカキアラハス也。第三、火ノ巻。此巻ニ戦ノ事ヲ書アラワス也。火ハ大小ト也、ケヤケキ心ナルニヨリテ、合戦ノコトヲ書也。合戦ノ道、一人ト一人トノ戦モ、万ト万トノ戦モ同道也。心ヲ大キナル事ニナシ、心ヲチイサキ事ニナシテ、ヨク吟味シテ見ベシ。大ナル処ハ見ヤスシ、チヒサキ処ハミエガタシ。其子細、大人数ノ事ハ即坐ニモトヲリガタク、一人ノコトハ心一ニテカワル事ハヤキニヨリテ、チイサキ処知ル事エガタシ。ヨクギンミスベシ。此火ノ巻ノ事、速キ間ノ事ナルニヨリテ、日々ニ手馴、常ノ如思ヒ、心ノ變ヌ処、兵法ノ肝要也。然ニヨリテ、戦勝負ノ処ヲ火ノ巻ニ書【脱字】也。第四、風ノ巻。此巻ヲ風ノ巻トシルスコト、吾一流ノコトニハ非、世ノ中ノ兵法、其流々【脱字】コトヲ書ノスル所也。風ト云ニヲヒテハ、昔ノ風、今ノ風、其家々ノ風ナドヽ有バ、世間ノ兵法、其流々ノシワザヲ、サダカ【脱字】書アラハス也、コレ風也。他ノコトヲヨクシラズシテハ、自ノワキマヘナリガタシ。道々コトコトヲ行フニ、外道ト云心有。日々【脱字】其ミチヲツトムルト云共、心ノソムケバ、其身ハヨキ道ト思フトモ、直ナル処ヨリミレバ、實ノ道ニハ非。實ノ道ヲ極ザレバ、少心ノユガミニツイテ、後ハ大ニユガムモノ也。物事ニアマリタルハ不足ニ同。能吟味スベシ。他ノ兵法、劔術バカリト世ニ思フコト、尤也。吾兵法ノ利ワザニ於ハ、格ベツノギ也。世間ノ兵法ヲシラシメンタメニ、風ノ巻トシテ、他流ノコトヲ書顯也。第五、空ノ巻。此巻空ト書顯スコト、空ト云出スヨリシテハ、何ヲカ奥ト云、何ヲカ口ト云ン。道理ヲエテハ道理ヲハナレ、兵法ノ道ニ、ヲノレト自由アリテ、ヲノレトキドクヲエ、時ニアヒテハ拍子ヲ知、自打、自ラアタル、是皆空ノ道也。ヲノレトマコトノ道ニ入事ヲ、空ノ巻ニシテ書トヾムルモノナリ。

 【狩野文庫本】

一 此兵法の書五巻に仕立る事。五ツの道を分ち一巻/\にして、其利を知せん為に、地水火風空として、五巻ニ書顕也。地の巻におゐてハ、兵法の道ヲ大躰、我一流の見立、劔術一通にしてハ、実の道を得がたし。大キ成所より少サき所を知、淺きより深きに至り、直なる道、地形を引ならすニよりて、【脱字】地の巻と名付る也。第二、水の巻。水を本として、心を水になす也。水ハ方圓の器ニしたがい、一滴と成、蒼海と成。水に碧潭の色有、清き所を用て、一流の事ヲ此巻ニ書顕者なり。劔術一通りの利、さだかニ見分ケ、一人の敵ニ自由に勝時は、世界の人に皆勝所也。人に勝といふ心ハ、千万の敵ニも同意なり。將たる者は兵法、少きヲ大きになす事、尺の形を持、大佛を作るに同じ。ケ樣の儀、細に【脱字】書分がたし。一を以万を知る事、兵法の利方なり。一流の事、此水の巻ニ書顯なり。第三、火之巻。【脱字*********】。火は大小ニなり、けやけき心なるニ仍而、合戦の事を書なり。合戦の道、一人と一人との戦も、万と万との戦も同道也。心を大成事になし、心を少になして、能吟味して見べし。大成所は見安し、少き所は見へがたし。其子細は、大人数の事は即座ニもとをり安し。一人の事ハ心一ツにして替事早きニ依て、少所知る事難得事吟味有べし。此火之巻の事は、早き間の事なるに依て、日々ニ手なれ、常の事と思ひ、心の替ぬ所、兵法の肝要也。然るによつて、戦勝負の所を火之巻と書顕スなり。第四、風之巻。此巻を風之巻と知事、我一流の事ニあらず、世中の兵法、其流/\の事を書載所也。風といふにおゐてハ、昔の風、今の風、其處/\の風抔とあれバ、世間の兵法、其流/\のしわざを、さだかに書顕也、是風巻なり。他の事を克知ずしてハ、自弁へ成がたし。道々事々を行ふに、外道といふ心有。日々ニ其道を勤といふ共、心【脱字】背ば、其身ハ克道と思ふとも、直成所より見ば、実の道にハあらず。実の道を極ざれバ、少心のゆがミに付て、後ニハ大きにゆがむ者也。物毎ニ、余りたるハたらざるに同じ。能吟味すべし。他の兵法【脱字】と世に思ふ事、尤也。我兵法の利わざにおゐてハ、各別の義也。世間の兵法をしらしめんとの為メニ、風巻として、他流の事ヲ書顕也。第五、空の巻。【脱字】と書顕事、空と云出すよりしてハ、何をか奥と云、【脱字】口といわん。道理を得てハ道理をはなれ、兵法の道【脱字】、おのれと自由有て、おのれときどくを得る、時におゐてハ拍子を知、自ラ打、おのづから當る。是皆空の道也。おのれと実の道ニ入事を、空の巻ニして書留もの也。

 【多田家本】

一 此兵法の書、五巻にした【脱字】る事。五ツの道を分ち、一巻々にして、其利を知しめむが為に、地水火風空として、五巻に書顕す也。地の巻にをひてハ、兵法の【脱字】大躰、我一流の見立、劔術一通りにしてハ、誠の道を難得。大き成所より小き所をしり、淺きより深きに至り。直成道の地形をひきならすによつて、初を地の巻に書のする也。第二、水の巻。水を本として、心を水になす也。水ハ、方圓の器に隨ひ、一滴と成、蒼海と成。水に碧潭の色有。清所を用て、一流の事を此巻に書顕也。劔術一通の理を、さだかに見分、一人の敵に自由に勝時は、世界の人に皆勝所也。人に勝と云心は、千萬の敵にても同意也。将たる者の兵法を、小きを大きになす事、尺の曲尺を以大佛を立るに同じ。か様の儀、細かに書分がたし。一を以て萬を知事、兵法の利也。一流の事、此水之巻に書顕す也。第三、火の巻。【脱字**********】ハ大小と成、けやけき心成によつて、合戦の事を書也。合戦の道、壱人と一人との戦も、万と萬との戦も同じ道也。心を大き成事になし、心をちいさくなし【脱字】吟味してミるべし。大き成所は見へ安し、小き所ハ見へがたし。其子細ハ、大人数の事ハ、即座にもとをりがたし。一人のことハ、心一ツにて替る事はやきに依て、小き所を知事得がたし。能吟味有べし。此火之巻の事、早き間の事成によつて、日々に手馴、常の事に思ひ、心の替らぬ所、兵法の肝要なり。然によつて、戦勝負の所を、火の巻に書顕す也。第四、風の巻。此巻を風の巻と記す事、我一流の事にハ非ず。世の中の兵法、其流此事を書載る所也。風と云にをひてハ、昔の風、今の風、其家々の風抔とあれバ、世間の兵法、其流々の仕業をさだかに書顕す也、是風【脱字】。他の事を能しらずしてハ、我目の前の事も辨成がたし。道々の事を行ふに、外道といふ心あり。日々に其道を勤といへとも、こゝろ【脱字】背けば、其身ハ能道と思ふとも、直成所よりミれば、実の道にハあらず。実の道をきわめざれバ、少心のゆがみにつゐて、後にハ大きにゆがむもの也。物ごとに、餘りたるハ、たらざるに同じ。能吟味すべし。他【脱字】兵法、劔術斗と世に思ふ事尤也。我が兵法の【脱字】業にをひてハ、各別の義也。世間の兵法をしらしめん為に、風の巻として、他流の事を書顕す也。第五、空之巻。【脱字】と書顕す事、空と言出すよりしてハ、何をか奥と云、何をか口といはん。道理を得て【脱字】道理をはなれ、兵法の道に、己と自由になりて、己と奇特を得、時にあひてハ拍子を知り、自ら打、自ら當る、是皆空の道なり。己と実の道に入【脱字】を、空の巻にして書留る者也。

 【山岡鉄舟本】

一 此兵法ノ書、五巻ニ仕立タル事。五ノ道ヲ分チ、一巻々々ニ【脱字】テ、其利ヲ知ラシメンガ為ニ、地水火風空トシテ、五巻ニ書顕ス也。地ノ巻ニ於テハ、兵法ノ道【脱字】大躰、我一流ノ見タテ、釼術一通ニシテハ、實ノ道ヲ得ガタシ。大キナル処ヨリ細キ処ヲ知リ、淺ヨリ深ニ至ル。直ナル道ニ地行【脱字】引ナラスニヨリテ、初ヲ地ノ巻ト名付也。第二、水ノ巻。【脱字】ヲ本ニシテ、心ヲ水ニナス也。水ハ方圓ノ器ニ隨、一滴トナリ、蒼海トナル。水ニ碧潭ノ色アリ、清キ処ヲ用テ、一流ノ事ヲ此巻ニ書顕スナリ。釼術一通ノ理、サダカニ見分、一人ノ敵ニ自由ニ勝時ハ、世界ノ人ニ皆勝処也。人ニ勝ト云心ハ、千萬ノ敵ニモ同意也。将タル者ハ兵法ノ、細キヲ大ニナス事、尺ノカタヲ以テ大佛ヲ立ルニ同ジ。ケ様ノ儀、コマヤカニハ書分ガタシ。一ヲ以テ萬ヲ知ル事、兵法ノ利也。一流之事、此水ノ巻ニ書顕ス也。第三、火ノ巻。此巻ニ戦ノ事ヲ書顕ス也。火ハ大小ト也、ケヤケキ心ナルニ依テ、合戦ノ事ヲ書也。合戦ノ道、一人ト一人トノ戦モ、万ト万トノ戦モ同ジ道也。心ヲ大ナル事ニナシ、心ヲ細カクナシテ、能吟味シテ見ベシ。大ナル処ハ見ヱ安シ、細サキ処ハ見ヘガタシ。其子細、大人数ノ事ハ即坐ニモトヲリガタク、一人ノ事ハ、心一ツニテカハル事早キニヨリ【脱字】、細サキ処知ル事得ガタシ。能吟味有ベシ。此火ノ巻ノ事、早キ間ノ事成ルニ依テ、日々ニ手馴、常ノ如ク思テ、心ノ替ラヌ處、兵法ノ肝要也。然ルニヨリ【脱字】、戦勝負之処ヲ火ノ巻ニ書顕ス也。第四之風ノ巻。此巻ヲ風ノ巻ト記ス事、我一流ノ事ニアラズ。世ノ中之兵法、其流々之事ヲ書乘ル所也。風ト云ニ於テハ、昔ノ風、今ノ風、其家々ノ風ナドヽアレバ、世間【脱字】兵法、其流々ノシハザヲ、サダカニ書顕ス也、是風也。他ノ事ヲ能知ラズシテハ、自ノ辨ヘ成難シ。道ニ事【脱字】ヲ行ニ、外道ト云心有。日々【脱字】其道ヲ勤ト云共、心ノ背ケバ、其身ハ能道ト思ヘトモ、直成ル処ヨリ見レバ、實ノ道ニハアラズ。實ノ道ヲ窮ザレバ、少心ノユガミニ付【脱字】、後ハ大キニユガム者也。物事ニ餘リタルハ足ザルニ同ジ。能々吟味アルベシ。他ノ兵法、【脱字】斗リト世ニ思事、尤也。我兵法ノ利業ニ於テハ、格別ノ義也。世間ノ兵法ヲ知ラシメン為ニ、風ノ巻トシテ、他流ノ事ヲ書顕ス【脱字************】事、空ト云出スヨリシテハ、何ヲカ奥ト云、何ヲカ口ト云ン。道理ヲ得テハ道理ヲ離レ、兵法ノ道ニ、ヲノレト自由有テ、ヲノレト奇特ヲ得、時ニ逢テ【脱字】拍子ヲ知リ、自ラ打、自ラ當ル、是皆空ノ道也。己ト實ノ道ニ入ル事ヲ、空ノ巻ニシテ書留ル者ナリ。

 【稼堂文庫本】

一 此兵法の書、五巻に仕立る事。五ツの道を分ち、一巻々にして、其利を知らしめん為に、地水火風空として、五巻に書顕也。地の巻に於てハ、兵法の道の大躰、我一流の見立、劔術一通にして【脱字】、実の道を得がたし。大き成る所よりちひさき所を知り、浅きより深きに至る。直なる道の地形を引ならすによつて、初を地の巻と名付る也。第二、水の巻。水を本として、心を水になす也。水は方圓のうつはに従ひ、一滴となり、蒼海となる。水に碧潭の色有、清き所を用て、一流の事を此巻に書顕也。劔術一通りの利、定かに見分ケ、一人の敵に自由に勝ツ時は、世界の人に皆勝所也。人に勝と云心は、千万の敵【脱字】も同じ心也。将たる者の兵法、少さきを大きに成す事、譬バ尺のかねを以、大佛を立つるにおなじ。ケか様の儀、細に【脱字】書分がたし。一を以て万と知る事、兵法の利也。一流の事、此水の巻に書記也。第三、火之巻。此巻に戦の事を書記す也。火ハ大小と成り、けやけき心成るに依て、合戦の事を書記す也。合戦の道、一人と一人との戦ひも、万と万との戦も同じ道理。心を大キ成る事になし、【脱字】小さくなして、好く吟味して見るべし。大成所は見へ安し、小さき所は見がたし。其子細は、大人数の事ハ、即座にも通りがたきが、壱人の事ハ、心壱ツにて替る事早きによりて、小さき所を知る事得がたし。好々吟味有べし。此火の巻の事、早き事間のこと成るによつて、日々【脱字】手馴、如常思ひ、心の替らぬ所、兵法の肝要也。然るに依て、戦ひ勝負の所を、火の巻に書顕也。第四、風之巻の事。此巻を風の巻と記す事、我一流の事に非ず、世の中の兵法、其流々の事を書記所也。風と云に於てハ、昔の風、今の風、其家々の風抔と有れバ、世間の兵法、其流々の仕業を、さだかに書顕す、是風也。他の事を能不知してハ、我が目の前の事を弁へ【脱字】がたし。道々の事を行ふに、外道と云心有。日々に其道々を勤ると云へども、心の背けるハ、其身ハ能き道と思へとも、直成る所より見れバ、実の道に【脱字】非ず。実の道を極めざれバ、少し心のゆがミに付きて、後には大きにゆがむもの也。物毎に、余りたるハたらざるに同じ。好吟味すべし。他の兵法、劔術斗と世に思ふ事、尤也。我兵法の利わざに於てハ、各別の儀也。世間の兵法をしらしめん為に、風の巻としてハ、他流の事を書顕す也。第五、空之巻。此【脱字】空と云顕すこと、空と云出すよりしてハ、何をか奥と云、何をか口と云ん。道理を得ては道理を離れ、兵法の道に、己(ず)と自由有て、己と奇特を得る、時に於てハ、拍子を知り、おのづから打チ、自らあたる、是皆、空の道也。己と実の道に入事を、空の巻にして書とむる者也。  

 【大瀧家本】

一 此兵法の書、五巻に仕立る事。五ツの道を分ち、一巻/\にして、其利を知らしめん為に、地水火風空として、五巻に書顕はす也。地の巻におゐてハ、兵法の道の大躰、我一流の見立、劔術一通にしてハ、誠の道を得がたし。大成所より小き所を知り、淺きより深きに至る。直なる道の地形を引ならすに依て、初を地の巻と名付る也。第二、水の巻。水を本として、心を水になす也。水は方圓の器に随ひ、一滴となり、滄海となる。水に碧潭の色有、清き所を用ひて、一流の事を此巻に書顕すなり。劔術一通の理、定かに見分け、一人の敵に自由に勝時ハ、世界の人に皆勝所也。壱人に勝といふ心ハ、千萬の敵にも同意なり。将たるものゝ兵法、小きを大きになす事、尺のかねを以て大佛を建るにおなじ。ケ様の儀、濃に【脱字】書分ケがたし。一を以て万を知る事、兵法の利也。一流の事、此水の巻に書記す也。第三、火の巻。此まきに戦の事を書記す也。火は大小となり、けやけき心なるに依て、合戦の事を書也。合戦の道、壱人と/\の戦も、万と/\の戦も同じ道也。心を大なる事になし、心をちいさくなして、能吟味して見るべし。大なる所ハ見え安し、ちいさき所ハ見へがたし。其子細ハ、大人数の事【脱字】、即座にも通り難し。壱人の事ハ、心壱ツにて變る事はやきに依而、ちいさき所知る事得がたし。能吟味有べし。此火の巻の事、はやき間の事なるに依て、日々に手なれ、常の事と思ひ、心の替らぬ所、兵法の肝要也。然るに依て、戦勝負の所を、火の巻に書顕はす也。第四、風の巻。此巻を風の巻と記す事、我一流の事にあらず、世の中の兵法、其流/\の事を書載る所也。風といふにおゐては、昔の風、今の風、その家/\の風などゝあれば、世間の兵法、其流/\の仕業を、さだかに書顕す、是風也。他の事を能知らずしてハ、自らのわきまひ成がたし。道々事々を行ふに、外の道と云心有。日々に其道を勤といへ共、心【脱字】背けバ、其身ハ能道とおもふとも、直なる所より見れバ、実の道にハあらず。実の道を極めざれば、少し心のゆがみに付て、後にハ大にゆがむ者なり。もの事に、あまりたるハ、たらざるに同じ。能吟味すべし。他の兵法、劔術ばかりと世におもふ事、尤也。我兵法の利わざに於てハ、各別の儀也。世間の兵法を知らしめん為に、風の巻として、他の流の事を書顕す也。第五、空の巻。此巻空と書顕す事、空と云出すよりしてハ、何をか奥と云、何をか口といはん。道理を得てハ道理を離れ、兵法の道に、おのれと自由有て、おのれと奇特を得、時に逢てハ、拍子を知り、おのづから打、おのづからあたる、是皆、空の道なり。おのれと実の道に入事を、空の巻として書とゞむるものなり。    PageTop    Back   Next 

  7 此一流、二刀と名付る事

 【吉田家本】

一 此一流、二刀と名付る事。二刀といひ出す所、武士ハ、将卒ともニ、直ニ二刀を腰に付る役也。昔ハ太刀、刀と云、今ハ刀、脇差と云。武士たる者の此両腰を持事、こまかに書顕すに不及。我朝におゐて、しるもしらぬも、こしにおぶ事、武士の道也。此二の利をしらしめむために、二刀一流と云也。鑓長刀よりしてハ、外の物と云て、武道具の内也。一流の道、初心の者におゐて、太刀、刀、両手に持て、道を仕ならふ事、實の所也。一命を捨るときハ、道具を残さず役に立度もの也。道具を役にたてず、腰に納て死する事、本意ニあるべからず。然ども、両手に物を持事、左右ともに自由にハ叶がたし。太刀を片手にて取習せむため也。鑓長刀、大道具ハ是非におよばず、刀脇差におゐてハ、何も片手にて持道具也。太刀を両手にて持て悪敷事、馬上にてあしゝ、かけはしるときあしゝ、沼ふけ、石原、さかしき道、人こミに悪し。左に弓鑓をもち、其外何れの道具を持ても、ミな片手にて太刀をつかふ物なれバ、両手にて太刀を搆事、実の道に非ず。若、片手にてうちころしがたきときハ、両手にても打とむべし。手間の入事にても有べからず。先、片手にて太刀を振ならわせむために、二刀として、太刀をかた手にて振覚る道也。人毎に始て取付時ハ、太刀重くて振廻しがたき物なれども、萬、始てとり付ときハ、弓もひきがたし、長刀も振がたし。何も其道具/\に馴てハ、弓も力強くなり、太刀も振つけぬれば、道の力を得て振よくなる也。太刀の道と云事、はやく振に非ず。第二、水の巻にて知べし。太刀ハ廣き所にて振、わきざしハせばき所にてふる事、先、道の本意也。此一流におゐて、長きにても勝、短きにても勝故に、依て、太刀の寸を定ず。何にても勝事を得るこゝろ、一流の道也。太刀ひとつ持たるよりも、二もちて能所、大勢を一人して戦時、又、とり籠りものなどのときに、能事有り。か様の儀、今委敷書顕すにおよばず。一をもつて万をしるべし。兵法の道、おこなひ得てハ、ひとつもミヘずと云事なし。能々吟味有るべき也。

 【立花隨翁本】

一 此一流二刀と名附る事。二刀と云出す所、武士ハ、将卒ともに、直に二刀を腰に付る役也。昔ハ太刀、刀と云、今ハ刀、脇指といふ。武士たる者の此両腰を持事、こまかに書顕す【蝕損】不及。我朝に於て、しるもしらぬも、腰におぶ事、武士の道也。此二の利をしらしめんために、二刀一流と云也。鎗長刀よりしてハ、外の物といひて、武道具の内也。一流の道、初心の者に於て、太刀、刀両手に持て、道を仕習ふ事、實の所也。一命を捨るときハ、道具を残さず役に立度もの也。道具を役にたてず、腰に納て死する事、本意にあるべからず。然共、両手に物を持事、左右ともに自由にハ叶がたし。太刀を片手にて取習ハせんため也。鎗長刀、大道具ハ是非に及バず、刀脇指に於ては、【蝕損】も片手にて持道具也。太刀を両手にて持て悪敷事、馬上にてあしゝ、かけはしる時あしゝ、沼ふけ、石原、さかしき道、人こミに悪し。左に弓鎗をもち、其外何れの道具を持ても、ミな片手にて太刀をつかふ物なれば、両手【蝕損】て太刀を搆事、實の道にあらず。若、片手にてうちころしがたきときハ、両手にても打とむべし。手間の入事にても有べからず。先、片手にて太刀を振ならハせんために、二刀として、太刀を片手にて振覚る道也。人毎に、始て取付時ハ、太刀重くて振廻しがたき物なれども、萬、初てとり付ときハ、弓もひきがたし、長刀も振がたし。何も其道具/\に馴てハ、弓も力強くなり、太刀も振つけぬれバ、道の力を得て振よくなる也。太刀の道と云事、はやく振にあらず。第二、水之巻にて知べし。太刀は廣き所にて振、脇指ハせばき所にてふる事、先、道の本意也。此一流に於て、長きにてもかち、短きにても勝ゆへに、依て、太刀の寸を定めず。何にても勝事を得るこゝろ、一流の道也。太刀ひとつ持たるよりも、二つ持て能所、大【破損】を一人して戦時、又とり籠りものなどのときに、能事あり。か様の儀、今委敷書顕すに及バず。一をもつて万をしるべし。兵法の道をこなひ得てハ、ひとつも見ヘずといふ事なし。能々吟味有べき也。

 【渡辺家本】

一 此一流、二刀と名附る事。二刀と云出す所、武士は、将卒ともに、直に二刀を腰に付る役也。昔は太刀・刀と云、今ハ刀、脇指といふ。武士たる者の此両腰を持事、こまやかに書顕すに不及。我朝に於て、しるもしらぬも、腰におぶ事、武士の道也。此二の利をしらしめんために、二刀一流と云也。鎗長刀よりしてハ、外の物といひて、武道具の内也。一流の道、初心の者に於て、太刀、刀両手に持て、道を仕習ふ事、實の所也。一命を捨るときハ、道具を残さず役に立度もの也。道具を役にたてず、腰に納て死する事、本意にあるべからず。然ども、両手に物を持事、左右ともに自由にハ叶がたし。太刀を片手にて取習ハせんがため也。鎗長刀、大道具ハ是非に及バず、刀脇指に於てハ、何も片手にて持道具也。太刀【脱字】両手にて持て悪敷事、馬上にてあしゝ、かけはしる時あしゝ、沼ふけ、石原、さかしき道、人こミに悪し。左に弓・鎗をもち、其外何れの道具を持ても、ミな片手にて太刀をつかふ物なれバ、両手にて太刀を搆事、實の道にあらず。若、片手にてうちころしがたきときハ、両手にても打とむべし。手間の入事にても有べからず。先、片手にて太刀を振ならハせんために、二刀として、太刀を片手にて振覚る道也。人毎に始て取付時は、太刀重くて振廻しがたき物なれども、萬、初てとり付ときハ、弓もひきがたし、長刀も振がたし。何も其道具/\に馴てハ、弓も力強くなり、太刀も振つけぬれバ、道の力を得て振よくなる也。太刀の道と云事、はやく振にあらず。第二、水の巻にて知べし。太刀ハ廣き所にて振、脇指ハせばき所にてふる事、先、道の本意也。此一流に於て、長きにてもかち、短きにても勝ゆへに、依て、太刀の寸を定めず。何にても勝事を得るこゝろ、一流の道也。太刀ひとつ持たるよりも、二つ持て能所、大勢を一人して戦時、又とり籠りものなどのときに、能事あり。か様の事、今委敷書顕すに及バず。一を以て万を知るべし。兵法の道おこなひ得てハ、ひとつも見ヘずといふ事なし。能々吟味有るべき也。

 【中山文庫本】

一 此一流、二刀と名付る事。二刀といひ出す所、武士ハ、将卒ともに、直に二刀を腰に付る役也。昔ハ太刀、刀と云、今ハ刀、脇指と云。武士たる者の此両腰を持事、こまかに書顕すに不及。我朝に於て、しるもしらぬも、こしにおぶ事、武士の道也。此二ツの利をしらしめむために、二刀一流と云也。鑓長刀よりしてハ、外の物と云也、武道具の内也。一流の道、初心の者に於て、太刀、刀両手に持て、道を仕ならふ事、実の所也。一命を捨る時は、道具を残さず役に立度もの也。道具を役に立ず、腰に納て死する事、本意に有べからず。然ども、両手に物を持事、左右ともに自由には叶がたし。太刀を片手にて取習せんためなり。鑓長刀、大道具ハ是非に及ばず、刀脇差に於てハ、何も片手にて持道具也。太刀を両手にて持て悪敷事、馬上にて悪し、かけはしる時あしゝ、沼ふけ、石原、さかしき道、人こみに悪し。左に弓鑓を持、其外何れの道具を持ても、皆片手にて太刀をつかふ物なれバ、両手にて太刀を搆事、実の道に非ず。若、片手にてうちころしがたきときハ、両手にても打とむべし。手間の入事にても有べからず。先、片手にて太刀を振ならわせんために、二刀として、太刀を片手にて振覚る道也。人毎に始て取付時は、太刀重くて振廻しがたき物なれども、萬、始てとり付時ハ、弓もひきがたし、長刀も振がたし。何も其道具/\に馴てハ、弓も力強くなり、太刀も振つけぬれバ、道の力を得て振よくなる也。太刀ハ道と云事、はやく振に非ず。第二、水の巻にて知べし。太刀ハ廣き所にて振、脇指ハせばき所にてふる事、先、道の本意也。此一流に於て、長きにても勝、短にても勝故に、依て、太刀の寸を定めず。何にても勝事を得るこゝろ、一流の道也。太刀ひとつ持たるより【脱字】、二もちて能所、大勢を一人して戦時、又とり籠りものなどのときに、能事あり。か様の儀、今委敷書顕すにおよばず。一を以て万をしるべし。兵法の道おこなひ得てハ、ひとつもミヘずと云事なし。能々吟味有べき也。

 【近藤家乙本】

一 此一流、二刀と名附る事。二刀と云出す所、武士は、将卒ともに、直に二刀を腰に付る役也。昔は太刀、刀と云、今ハ刀、脇指といふ。武士たる者の此両腰を持事、こまやかに書顕すに不及。我朝に於て、しるもしらぬも、腰におぶ事、武士の道也。此二の利をしらしめんために、二刀一流と云也。鎗長刀よりしてハ、外の物といひて、武道具の内也。一流の道、初心の者に於て、太刀、刀両手に持て、道を仕習ふ事、實の所なり。一命を捨るときは、道具を残さず役に立度もの也。道具を役にたてず、腰に納て死する事、本意にあるべからず。然ども、両手に物を持事、左右ともに自由にハ叶がたし。太刀を片手にて取習ハせんがため也。鎗長刀、大道具ハ是非に及バず、刀、脇指に於てハ、何も片手にて持道具也。太刀を両手にて持て悪敷事、馬上にてあしゝ、かけはしる時あしゝ、沼ふけ、石原、さかしき道、人こミに悪し。左に弓、鎗をもち、其外何れの道具を持ても、ミな片手にて太刀をつかふ物なれバ、両手にて太刀を搆事、實の道にあらず。若シ、片手にてうちころしがたきときハ、両手にても打とむべし。手間の入事にても有べからず。先、片手にて太刀を振ならハせんために、二刀として、太刀を片手にて振覚る道也。人毎に、始て取付時ハ、太刀重くて振廻しがたき物なれども、萬、初てとり付ときハ、弓もひきがたし、長刀も振がたし。何も其道具/\に馴てハ、弓も力強くなり、太刀も振つけぬれバ、道の力を得て振よくなる也。太刀の道と云事、はやく振にあらず。第二、水之巻にて知べし。太刀ハ廣き所にて振、脇指はせばき所にてふる事、先、道の本意也。此一流に於て、長きにてもかち、短きにても勝ゆへに、依て、太刀の寸を定めず。何にても勝事を得るこゝろ、一流の道也。太刀ひとつ持たるよりも、二ツ持て能所、大勢を壱人して戦時、亦とり籠りものなどのときに、能事あり。か様の事、今委敷書顕すに及バず。一をもつて万をしるべし。兵法の道おこなひ得てハ、ひとつも見ヘずといふ事なし。能々吟味有るべき也。

 【石井家本】

一 此一流、二刀と名附る事。二刀と云出す所、武士は、将卒ともに、直に二刀を腰に付る役也。昔は太刀、刀と云、今ハ刀、脇差といふ。武士たる者の此両腰を持事、こま(や)かに書顕すに不及。我朝に於て、しるもしらぬも、腰におぶ事、武士の道也。此二つ(の)利をしらしめむために、二刀一流と云也。鎗長刀よりしてハ、外の物といひて、武道具の内也。一流の道、初心の者に於て、太刀、刀両手に持て、道を仕習ふ事、実の所也。一命を捨るときハ、道具を殘さず役に立度もの也。道具を役にたてず、腰に納て死する事、本意にあるべからず。然ども、両手に物を持事、左右ともに自由にハ叶がたし。太刀を片手にて取習ハせんがため也。鎗長刀、大道具ハ是非に及バず、刀脇差に於ては、何も片手にて持道具也。太刀を両手にて持て悪敷事、馬上にてあしゝ、かけはしる時あしゝ、沼ふけ、石原、さかしき道、人こミに悪し。左に弓鎗をもち、其外何れの道具を持ても、ミな片手にて太刀をつかふ物なれバ、両手にて太刀を搆事、実の道にあらず。若、片手にてうちころしがたきときは、両手にても打とむべし。手間の入事にても有べからず。先、片手にて太刀を振ならハせんために、二刀として、太刀を片手にて振覚る道也。人毎に始て取付時は、太刀重くて振廻しがたき物なれども、萬、初てとり付時は、弓もひきがたし、長刀も振がたし。何も其道具/\に馴ては、弓も力強くなり、太刀(長刀)も振つけぬれバ、道の力を得て振よくなる也。太刀の道と云事、はやく振にあらず。第二、水の巻にて知べし。太刀ハ廣き所にて振、脇指ハせばき所にてふる事、先、道の本意也。此一流に於て、長きにてもかち、短きにても勝ゆへに、依て、太刀の寸を定めず。何にても勝事を得るこゝろ、一流の道也。太刀ひとつ持たるよりも、二つ持て能所、大勢を一人して戦時、又とり籠りものなどのときに、能事あり。か様の事、今委敷書顕すに及バず。一を以て万をしるべし。兵法の道おこなひ得てハ、ひとつも見ヘずといふ事なし。能々吟味有るべし。

 【伊丹家本】

一 此一流二刀と名付る事。二刀といひ出す所、武士ハ、将卒ともに、直に二刀を腰に付る役也。むかしは太刀、刀と云、今ハ刀、脇差と云。武士たる者【脱字】此両腰を持事、こまかに書顕すニ不及。我朝に於て、しるも知らぬも、腰におぶ事、武士の道也。此二ツの利をしらしめぬ為に、二刀一流と云也。鑓長刀よりしては、外の物と云て、武道具の内也。一流の道、初心の者に於て、太刀、刀両手に持て、道を仕ならふ事、實の所なり。一命を捨る時は、道具を残らず役に立度物也。道具を役にたてず、腰に納て死する事、本意に有べからず。然ども、両手に物を持事、左右ともに自由ニハ叶難し。太刀を片手ニて取習せむ爲なり。鑓長刀、大道具は是非ニ不及、刀、脇差に於ては、何も片手ニて持道具也。太刀を両手ニて持て悪き事、馬上にて悪し、かけはしる時悪し、沼ふけ、石原、さかしき道、人こみに悪し。左に弓鑓を持、其外いづれの道具を持ても、皆片手ニて太刀を遣ふ物なれバ、両手ニて太刀を搆事、實の道に非ず。もし、片手ニて打ころし難き時は、両手ニても打とむべし。手間の入事ニても有可からず。先、片手ニて太刀を振ならはせむために、二刀として、太刀を片手ニて振覺ゆる道也。人毎に、始て取付時は、太刀重くして振廻しがたき物なれども、萬、始てとり付時ハ、弓も引がたし、長刀も振難し。何も其道具々になれては、弓も力強く成、太刀も振付ぬれバ、道の力を得て振よくなるなり。太刀の道と云事、はやく振に非ず。第二、水の巻にて知べし。太刀は廣き所ニて振、脇差ハせばき所ニて振る事、先、道の本意也。此一流において、長ニても勝、ミじかきにても勝故に、依て、太刀の寸を定めず。何ニても勝事を得る心、一流の道也。太刀一ツ持たるよりも、二持て能所、大勢を一人して戦ふ時、また取籠物などの時に、能事有り。か様の儀、今委敷書顕すにおよバず。一を以て萬をしるべし。兵法の道おこなひ得ては、ひとつも見ずと云事なし。能々吟味有べき也。

 【伊藤家本】

一 此一流二刀と名附る事。二刀と云出す所、武士は、将卒ともに、直に二刀を腰に付る役也。昔は太刀、刀と云、今ハ刀、脇差といふ。武士たる者の此両腰を持事、こまやかに書顕すに不及。我朝に於て、しるもしらぬも、腰におぶ事、武士の道也。此二の利をしらしめんために、二刀一流と云也。鎗長刀よりしてハ、外の物といひて、武道具の内也。一流の道、初心の者に於て、太刀、刀、両手に持て、道を仕習ふ事、實の所也。一命を捨るときハ、道具【脱字】残さず役に立度もの也。道具を役にたてず、腰に納て死する事、本意にあるべからず。然ども、両手に物を持事、左右ともに自由にハ叶がたし。太刀を片手にて取習ハせんがため也。鎗長刀、大道具ハ是非に及バず、刀、脇差に於てハ、何も片手にて持道具也。太刀を両手にて持て悪敷事、馬上にてあしゝ、かけはしる時あしゝ、沼ふけ、石原、さかしき道、人こミに悪し。左に弓鎗をもち、其外何れの道具を持ても、ミな片手にて太刀をつかふ物なれバ、両手にて太刀を搆事、實の道にあらず。若、片手にてうちころしがたきときハ、両手にても打とむべし。手間の入事にても有べからず。先、片手にて太刀を振ならハせんために、二刀として、太刀を片手にて振覚る道也。人毎に、始て取付時ハ、太刀重くて振廻しがたき物なれども、萬、初てとり付時ハ、弓もひきがたし、長刀も振がたし。何も其道具/\に馴てハ、弓も力強くなり、太刀も振つけぬれバ、道の力を得て振よくなる也。太刀の道と云事、はやく振にあらず。第二、水の巻にて知べし。太刀ハ廣き所にて振、脇指ハせばき所にてふる事、先、道の本意也。此一流に於て、長きにてもかち、短きにても勝ゆへに、依て、太刀の寸を定めず。何にても勝事を得るこゝろ、一流の道也。太刀ひとつ持たるよりも、二つ持て能所、大勢を一人して戦時、又とり籠りものなどのときに、能事あり。か様の事、今委敷書顕すに及バず。一をもつて万をしるべし。兵法の道おこなひ得てハ、ひとつも見ヘずといふ事なし。能々吟味有べき也。

 【神田家本】

一 此一流二刀と名附る事。二刀と云出す所、武士は、将卒ともに、直に二刀を腰に付る役也。昔は太刀、刀と云、今ハ刀、脇指といふ。武士たる者の此両腰を持事、こま(や)かに書顕すに不及。我朝に於て、しるもしらぬも、腰におぶ事、武士の道也。此二の利をしらしめんために、二刀一流と云也。鎗長刀よりしてハ、外の物といひて、武道具の内也。一流の道、初心の者に於て、太刀、刀両手に持て、道を仕習ふ事、實の所也。一命を捨るときハ、道具(を)殘さず役に立度もの也。道具を役にたてず、腰に納て死する事、本意にあるべからず。然ども、両手に物を持事、左右ともに自由にハ叶がたし。太刀を片手にて取習ハせんがため也。鎗長刀、大道具ハ是非に及バず、刀、脇指に於ては、何も片手にて持道具也。太刀(を)両手にて持て悪敷事、馬上にてあしゝ、かけはしる時あしゝ、沼ふけ、石原、さかしき道、人こミに悪し。左に弓鎗をもち、其外何れの道具を持ても、ミな片手にて太刀をつかふ物なれバ、両手にて太刀を搆事、實の道にあらず。若、片手にてうちころしがたきときは、両手にて(も)打とむべし。手間の入事にても有べからず。(先、片手にて)太刀を振ならハせんために、二刀として、太刀を片手にて振覚る道也。人毎に、始て取付時は、太刀重くて振廻しがたき物なれども、萬、初てとり付時ハ、弓もひきがたし、長刀も振がたし。何も(其)道具/\に馴てハ、弓も力強くなり、長刀も振つけぬれバ、道の力を得て振よくなる也。太刀の道と云事、はやく振にあらず。第二、水の巻にて知べし。太刀ハ廣き所にて振、脇指ハせばき所にてふる事、先、道の本意也。此一流に於て、長きにてもかち、短きにても勝ゆへに、依て、太刀の寸を定めず。何にても勝事を得るこゝろ、一流の道也。太刀ひとつ持たるよりも、二つ持て能所、大勢を一人して戦時、又とり籠りものなどのときに、能事あり。か様の事、今委敷書顕すに及バず。一を以て万をしるべし。兵法の道おこなひ得ては、ひとつも見ヘずといふ事なし。能々吟味有べし。

 【楠家本】

一 此一流、二刀と名付る事。二刀と云出す所、武士ハ、将卒ともに、ぢきに二刀を腰に付る役也。昔ハ太刀、刀と云、今ハ刀、脇指といふ。武士たるものゝ此兩こしを持事、こまかに書顕すに不及。わが朝におゐて、しるもしらぬも、腰におぶ事、武士の道也。此二ツの利をしらしめんために、二刀一流と云也。鑓長刀太刀よりしてハ、外の物と云て、武【脱字】具の内也。一流の道、初心のものにおゐて、太刀、刀、兩手に持て道をし習ふ事、実の所也。一命を捨る時ハ、道具を不残役にたてたきもの也。道具を役にたてず、こしに納て死する事、本意にあるべからず。然共、兩手に物を持事、左右ともに自由にハ叶がたし。太刀を片手にてとりならはせんため也。鑓長刀、大道具ハ不及是非、刀脇指におゐてハ、いづれも片手にて持道具也。太刀を兩手にて持て悪き事。馬上にてあしゝ。かけはしる時、あしゝ。沼ふけ、石原、さかしき道、人こミにあしゝ。左に弓鑓を持、其外いづれの道具を持ても、皆片手にて太刀をつかふものなれバ、兩手にて太刀をかまゆる事、実の道にあらず。若、かた手にてうちころしがたき時ハ、兩手にても打とむべし。手間の入事にてもあるべからず。先、片手にて太刀をふりならはせんため【脱字】、二刀として、太刀を片手にてふり覚る道也。人毎に初てとる時ハ、太刀おもくて振りまハしがたき物なれども、萬、初てとり付時ハ、弓もひきがたし、長刀もふりがたし。いづれも其道具/\になれてハ、弓も力つよくなり、太刀もふりつけぬれバ、道の力を得てふりよくなる也。太刀の道と云事、はやくふるにあらず。第二、水の巻にてしるべし。太刀ハひろき所にてふり、わきざしハせばき所にてふる事、先、道の本意也。此一流におゐて、長にても勝、短きにても勝故に、よつて、太刀の寸をさだめず。何にても勝事を得る心、一流の道也。太刀一ツ持たるよりも、二ツ持てよきところ、大勢を一人してたゝかふ時、又、とりこもりものなどの時に、能事有。かやうの儀、今くわしく書顕すに不及。一をもつて万としるべし。兵法の道、おこなひ得てハ、一ツもみえずと云事なし。能々吟味有べき事也。

 【細川家本】

一 此一流、二刀と名付る事。二刀と云出す所、武士は、将卒ともに、ぢきに二刀を腰に付る役也。昔は太刀、刀と云、今は刀、脇指と云。武士たるものゝ此両腰を持事、こまかに書顕に及ず。我朝におゐて、しるもしらぬも、腰におぶ事、武士の道也。此二ツの利をしらしめんために、二刀一流と云なり。鑓長刀よりしては、外の物と云て、武道具のうち也。一流の道、初心のものにおゐて、太刀、刀、両手に持て、道を仕習ふ事、實の所也。一命を捨る時ハ、道具を残さず役にたてたきもの也。道具を役にたてず、こしに納て死する事、本意に有べからず。然れども、兩手に物を持事、左右共に自由には叶がたし。太刀を片手にてとりならハせんため也。鑓長刀、大道具ハ是非に及ず、刀わき指におゐては、いづれも片手にて持道具也。太刀を兩手にて持てあしき事、馬上にてあしゝ、かけ走時あしゝ。沼ふけ、石原、さかしき道、人こミにあしゝ。左に弓鑓を持、其外いづれの道具を持ても、ミな片手にて太刀をつかふものなれば、兩手にて太刀をかまゆる事、實の道にあらず。若、片手にて打ころしがたき時は、兩手にても打とむべし。手間の入事にてもあるべからず。先、片手にて太刀をふりならハせん為に、二刀として、太刀を片手にて振覚る道也。人毎に初而とる時ハ、太刀おもくて振廻しがたき物なれども、萬、初てとり付時は、弓もひきがたし、長刀も振がたし。いづれも其道具/\になれては、弓も力つよくなり、太刀もふりつけぬれば、道の力を得て振よくなる也。太刀の道と云事、はやくふるにあらず、第二、水の巻にてしるべし。太刀はひろき所にてふり、脇差はせばき所にてふる事、先、道の本意也。此一流におゐて、長きにても勝チ、短きにても勝故に、よつて、太刀の寸をさだめず。何にても勝事を得る心、一流の道也。太刀一ツ持たるよりも、二ツ持てよき所、大勢を一人してたゝかふ時、又、とり籠りものなどの時に、よき事有。かやうの儀、今委敷書顕すに及バず、一をもつて万を知べし。兵法の道、おこなひ得ては、一ツも見へずと云事なし。能々吟味あるべき也。

 【丸岡家本】

一 此一流、二刀と名付る事。二刀と云出す所、武士は、將卒共に、直ニ二刀を腰に付る役也。むかしは太刀、刀と云、今は刀、脇差と云。武士たる者の此両腰を持事、細に書著に不及。我朝において、知も不知も腰に佩事、武士の道なり。此二ツの理を知しめんために、二刀一流と云也。鑓長刀よりしては、外の物と云て、武道具の内也。一流の道、初心の者におゐて、太刀、刀、兩手に持て道をしならふ事、実の所也。一命を捨る時は、道具を殘さずやくに立たきものなり。道具をやくに立ず、腰におさめて死【脱字】る事、本意に有べからず。然共、両手に物を持こと、左右ともに自由には叶がたし。太刀を片手にて把習ハせんがため也。鎗長刀、大道具ハ是非に及ず、刀脇差においては、何れも片手にて持道具なり。太刀を両手にて持てあしき事、馬上にてあしゝ、驅奔る時悪し。沼ふけ、石原、さかしき道、人籠にあしゝ。左に弓鎗を持、其外何れの道具を持ても、皆片手にて太刀をつかふ物なれば、両手にて太刀を搆る事、実の道にあらず。若、片手にて撃殺がたき時は、両手にて【脱字】打止べし。手間の入事にても有べからず。先、片手にて太刀を振習せんために、二刀として、太刀を片手にて振覚る道なり。人ごとに初て執時ハ、太刀重くて、振廻し難きものなれども、萬、はじめて取付時は、弓も援〔ヒキ〕がたし、長刀も振難し。何も其道具/\に馴ては、弓も力強クなり、太刀もふりつけぬれば、道の力を得て振よくなるものなり。太刀の道と云事、はやく振に非ず、第二、水之巻にて知べし。太刀は廣き所にてふり、わきざしは狭き所にて振事、先、道の本意也。此一流において、長きにても勝、短きにても勝ゆへに、よりて、太刀の寸を定ず。何にても勝ことを得る心、一流の道也。太刀一ツ持たるよりも、二ツ持て能所、大勢を一人して戦時、又取籠者などの時に、能事あり。かやうの義、今くわしく書著に及ず。一を以て万を知べし。兵法の道、行い得ては、一ツも見えずといふ事なし。能々吟味有べきなり。

 【富永家本】

一 此一流、二刀と名付る事。二刀と云出す所、武士ハ、将卒共ニ、ぢきに二刀を腰に付る役也。昔は太刀、刀といゐ、今ハ刀、脇差といふ。武士たるものゝ此両腰を持事、細には書顕すに不及。我朝ニおゐて、知るもしらぬも、腰におぶる事、武士の道なり。此二ツの利を知らしめん為に、二刀一流といふなり。鑓長刀太刀よりして【脱字】、外の物といふて、武道具の内なり。一流の道、初心の者におゐて、太刀、刀、両手に持て道を仕習ふ事、実の所なり。一命を捨るときハ、道具を不残役に立度者也。道具を役ニ不立、腰ニ納て死する事、本意にあるべからず。然共、両手に物を持事、左右共に自由ニハ叶がたし。太刀を片手にて取ならわせむためなり。鑓長刀、大道具ハ不及是非、刀脇差におゐてハ、何れも片手にて持道具なり。太刀を両手にて持て悪敷事、馬上にて悪し。かけ走る時、あしゝ。沼ふけ、石原、さかしき道、人込にあしゝ。左に弓鑓を持、其外何れの道具を持ても、皆片手にて太刀を遣ふ物なれバ、両手にて太刀をかまゆる事、実の道ニあらず。若、片手にて打ころしがたき時ハ、両手にても打留べし。手間の入事にても有べからず。先、片手にて太刀をふりならわせん為【脱字】、二刀として、太刀を片手にてふり覚ゆる道也。人毎に初てとる時ハ、太刀おもくてふりまわしがたき物なれ共、萬、始而取【脱字】時ハ、弓も引がたし、長刀もふりがたし。いづれも其道具/\【脱字】なれてハ、弓に力強くなり、太刀もふりつけぬれバ、道の力を得てふりよく成也。太刀の道といふ事、早くふるにあらず。第二、水の巻にて知るべし。太刀ハ廣き處にてふり、脇差ハせばき処にてふる事、先、道の本意なり。此一流ニおゐて、長きにても勝、短にても勝故に、よつて、太刀の寸をさだめず。何にても勝事を得る心、一流の道なり。太刀一つ持たるよりも、二ツ持て能き所、大勢を一人して戦時、又、取こもり物などの時に【脱字*********************】萬を知るべし。兵法の道、行ゐ得てハ、一ツも見へずといふ事なし。能々吟味有べき事也。

 【常武堂本】

一 此一流、二刀と名付る事。二刀と云出す所、武士ハ、将卒ともに、ぢきに二刀を腰に付る役也。昔は太刀、刀と云、今ハ刀、脇指と云。武士たるものゝ此両腰を持事、こまかに書顕に及バず。我朝に於て、しるもしらぬも、腰におぶ事、武士の道也。此二ツの利をしらしめん為に、二刀一流と云也。鑓長刀よりしてハ、外の物と云て、武道具のうち也。一流の道、初心のものに於てハ、太刀、刀、両手に持て道を仕習ふ事、實の所也。一命を捨る時ハ、道具を残さず役にたてたきもの也。道具を役にたてず、腰に納て死する事、本意に有べからず。然れども、両手に物を持事、左右ともに自由にハ叶がたし。太刀を片手にてとりならはせんため也。鑓長刀、大道具ハ是非に及ばず、刀わき指に於てハ、いづれも片手にて持道具也。太刀を両手にて持てあしき事、馬上にてあしゝ、かけ走時あしゝ。沼ふけ、石原、さかしき道、人こみにあしゝ。左に弓鑓を持、其外いづれの道具を持ても、みな片手にて太刀をつかふものなれバ、両手にて太刀をかまゆる事、實の道にあらず。若、片手にて打ころしがたき時ハ、両手にても打とむべし。手間の入事にてもあるべからず。先、片手にて太刀をふりならはせん為に、二刀として、太刀を片手にて振覚る道也。人毎に初てとる時ハ、太刀おもくて振廻しがたき物なれども、萬、初てとり付時ハ、弓も引がたし、長刀も振がたし。いづれも其道具/\になれてハ、弓も力つよくなり、太刀もふりつけぬれバ、道の力を得て振よくなる也。太刀の道と云事、はやくふるにあらず、第二、水の巻にてしるべし。太刀ハひろき所にてふり、脇差ハせばき所にてふる事、先、道の本意也。此一流に於て、長きにても勝ち、短きにても勝故に、よつて、太刀の寸をさだめず、何にても勝事を得る心、一流の道也。太刀一ツ持たるよりも、二ツ持てよき所、大勢を一人してたゝかふ時、又、とり籠りものなどの時に、よき事有。かやうの儀、今委敷書顕すに及バず、一をもつて万と知べし。兵法の道、おこなひ得ては、一ツもみえずと云事なし。能々吟味あるべき也。

 【田村家本】

一 此一流、二刀ト名付ル事 二刀ト云出処、武士ハ將卒共ニ直ニ二刀ヲ腰ニ附ル役也。昔ハ太刀、刀ト云、今ハ刀、脇差ト云。武士タル者【脱字】此兩腰ヲ持事、コマカニ書著ニ及バズ。我朝ニ於テ、知モシラヌモ腰ニ帯ル事、武士ノ道也。此二ツノ利ヲシラシメンガ爲ニ、二刀一流ト云也。鑓長刀ヨリシテハ、外ノモノト云テ、武道具ノ内也。一流ノミチ、初心ノ者ニ於、太刀、カタナ、両手ニ持テ道【脱字】シ習コト、實ノ道也。一命ヲ捨ル時ハ、道具ヲ残サズ役ニ立度モノ也。道具ヲ役ニ立ズ、腰ニ納テ死ルコト、ホンヰニ有ベカラズ。然【脱字】モ、兩手ニ物ヲモツコト、左右共ニ自由ニ叶ガタシ。太刀ヲ片手ニ【脱字】取習ラハセンガタメ也。ヤリ長刀、大道具ハ是非ニ及バズ、刀脇差ニ於ハ、何モ片手ニテ持道具也。太刀ヲ兩手ニテ持テアシキ事、馬上ニテアシヽ、カケ走ル時アシヽ。沼フケ、石原、サカシキミチ、人篭ニアシヽ。左ニ弓鎗ヲモチ、其外何レノ道具ヲ持テモ、皆片手ニテ太刀ヲツコウ物ナレバ、兩手ニテ太刀ヲ搆ルコト、マコトノ道ニ非。若片手ニテ打コロシガタキ時ハ、両手ニテ【脱字】打トムルベシ。手間ノ入コトニ【脱字】モアルベカラズ。先片手ニテ太刀ヲ振ナラハセンタメニ、二刀トシテ、太刀ヲ片手ニテ振覚ル道也。人毎ニ初テトル時ハ、太刀ヲモクシテ振廻シ難キ物ナレ共、万、初テトリ付時ハ、弓モ引ガタシ、長刀モフリガタシ。何モ其道具ドウグニナレテハ、弓モ力ツヨクナリ、太刀モ振付ヌレバ、【脱字】力ヲ得テ振ヨク成也。太刀ノ道ト云事、早振ニ非、第二水ノ巻ニテ知ベシ。太刀ハ廣処ニテ振、脇指ハセバキ処ニテフル事、先、道ノ本意也。此一流ニ於、長キニテモ勝、短ニテモ勝ユエニ、ヨリテ、太刀ノ寸ヲ定メズ、何ニテモカツ事ヲ得心、一流ノ道也。太刀一ツ持タルヨリモ、二ツ持テヨキ処也、大勢ヲ一人シテ戦フ時、又トリ篭籠リ者ナドノ時ニヨキ事有。カヨウノギ、今クワシクカキ著ニヲヨバズ、一【脱字】以テ万ヲ教ベシ。兵法ノ道行ヒヱテハ、一ツモ見ズト云コトナシ。ヨク々吟味スベシ也。

 【狩野文庫本】

一 此一流、二刀と名付る事。二刀と云出す所、武士ハ將卒ともニ直に二刀を腰に付る役也。昔は太刀・刀といふ、今は刀、脇指と云。武士たる者【脱字】此兩腰を持事、細に書顕に不及。我朝ニおゐて、しるも知らぬも腰におぶ事、武士の道也。此兩ツの利しらしめんために、二刀一流と云也。鑓長刀よりしては、外の物に云て、武道具ニあらざる也。一流の道、初心の者におゐて、太刀、刀、兩手に持て道を仕習事、実の所也。一命を捨時は、道具を殘さず役に立たきもの也。道具を役に立ズ゙、腰に納て死する事、本意ニ有べからず。然共、両手に物を持事、左右共に自由ニハ叶がたし。太刀を片手ニ而取習ハせん為メなり。鑓長刀、大道具ハ不及申、刀脇指ニおゐてハ、何も片手にて持道具也。太刀を兩手ニ而持てあしきこと、馬上にて悪し、かけはしる時悪シ。沼ふけ、石原、さかしき道、人込ニ悪し。左ニ弓鑓を持、其外、何れの道具を持ても、皆片手ニ而太刀をつかふものなれバ、両手ニ而太刀を搆る事、実の道ニあらず。若、片手ニ而打殺がたき時は、両手ニ而も打留むべし。手まの入事に【脱字】も有べからず。先、片手ニ而太刀を振習【脱字】ん為に、二刀として、太刀を片手ニ而ふり覚る道也。人毎に初而取時ハ、太刀重而振廻しがたきものなれ共、万、初め【脱字】取時は、弓も引がたし、長刀も振がたし。何も其道具/\になれてハ、弓も力強【脱字】、太刀も振付れバ、道の力を得て振能成也。太刀の道といふ事、早ク振ニあらず。次ギ第二水の巻にて知るべし。太刀は廣き所ニ而ふり、脇差は狭所にて振事、先、道具の本意也。此一流ニおゐてハ、長にても勝、短ニ而も勝故ニ、仍而、太刀の寸を不定。何ニ而も勝事を得る心、一流の道也。太刀一ツ持たるよりも、二ツ持て能所、大勢を一人して戦とき、又取籠者などの時に能事有。ケ樣の儀は、【脱字】委事記ニ不及、一を以万を知べし。兵法の道行イ得てハ、一ツも見へずといふ事なし。能々可有吟味事【脱字】。

 【多田家本】

一 此一流二刀と名付る事。二刀と云出す所、武士ハ、将卒共に、直に二刀を腰に附る役也。昔ハ太刀・刀と云、今ハ刀、脇指と云。武士たる者の此両腰を持事、細かに書顕はすに及バず。我朝にをひて、知もしらぬも、腰に負事、武士の道也。此二つの利をしらせん為に、二刀一流と言也。鎗長刀よりして【脱字】、外の物といひて、武道具の道也。一流の道、初心の者にをひて、太刀、刀両手に持て、道を得習ふ事、実の所也。一命を捨る時は、道具を殘らず役に立度もの也。道具を役に立ず、腰に納て死する事、本意にあるべからず。然共、両手に物を持事、左右共に自由にハ叶がたし。太刀を片手取に習せん為也。鎗長刀、大道具ハ是非に及ばず、刀脇指にをひて【脱字】、何も片手にて持道具なり。太刀を両手にて持て悪敷事、馬上にて悪し、かけ走る時悪し、沼ふけ、石原、さかしき道、人込に悪し。右に弓鑓を持、其外何の道具を持ても、皆片手にて太刀をつかふ物なれバ、両手にて太刀を搆る事、実の道にあらず。若、片手にて打殺しがたき時ハ、両手にて【脱字】打留べし。手間の入る事にてもあるべからず。先、片手にて太刀を【脱字****************】ふり覚る道なり。人毎に初て太刀を取時重くして振廻しがたき物なれども、萬、始て取つく時ハ、弓もひきがたし、長刀も振がたし。何も其道具/\に馴てハ、弓も力弱く【脱字】、太刀も振つけぬれバ、道の力を得て振能成也。太刀の道と云事、早く振るにあらず。第二、水の巻にて知べし。太刀ハ廣き所にて【脱字】、脇指はせまき所にて振る事、先、道の本意也。此一流におひて、長きにても勝、短きにても勝故に、依て、太刀の寸を不定。何にても勝事を得る心、一流の道也。太刀一つ持たるよりも、二つ持て能所、大勢を一人して戦時、又、取籠り者抔の時に、能事有。ケ様の儀、今委敷書記すに及ばず。一を以萬を知るべし。兵法の道、行ひ得てハ、一つも見ヘずと云事なし。【脱字】吟味有べし。

 【山岡鉄舟本】

一 此一流、二刀ト名付ル事。二刀ト云出ス処、武士ハ、将卒共ニ、直ニ二刀ヲ腰ニ付ル役也。昔ハ太刀、刀ト云、今ハ刀、脇指ト云。武士タル者ノ此両腰ヲ持事、コマヤカニ書顕スニ及バズ。我ガ朝ニ於テハ、知モ知ヌモ腰ニ帯ル事、武士ノ道也。此二ツノ利ヲ知ラシメン為ニ、二刀一流ト云也。鎗長刀ヨリシテハ、外ノモノト云テ、武道具ノ内也。一流ノ道、初心ノ者ニ於テ、太刀、【脱字】、両手ニ持テ道ヲ仕習フ事、實ノ処也。一命ヲ捨ル時ハ、道具ヲ殘サズ役ニ立度者也。道具ヲ役ニ立ズ、腰ニ納テ死ル事、本意ニアフ【脱字】ズ。然【脱字】モ、両手ニ物ヲ持事、左右共ニ、自由ニ叶ヒ難。太刀ヲ片手ニテ取習ハセン為也。鎗長刀、大道具ハ是非ニ及バズ、刀脇指ニ於テハ、何レモ片手ニテ持道具也。太刀ヲ兩手ニテ持テ悪キ事、馬上ニテ悪シヽ、駈廻ル時悪シ。沼フケ、石原、サカシキ道、人コミニ悪ク。左ニ弓鑓ヲ持、其外何レノ道具ヲ持テモ、皆片手ニテ太刀ヲツコウ物ナレバ、兩手ニテ太刀ヲ搆ル事、實ノ道ニ非。若、片手ニテ打殺シ難キ寸ハ、両手ニテモ打トムベシ。手マノ入ル事ニテモ有ベカラズ。先片手ニテ太刀ヲ振習ハセン為ニ、二刀トシテ、太刀ヲ片手ニテ振リ覚ル道也。人毎ニ初テ取時ハ、太刀重クテ、振廻シ難キ物ナレバ、萬、初テ取付時ハ、弓モ引難シ、長刀モ振難シ。何レモ其道具々々ニ馴テハ、弓モ力強ク成リ、太刀モ振付ケヌレバ、道【脱字】ヲ得テ、振能クナル也。太刀ノ道ト云事、早ク振ルニ非ズ。第二、水ノ巻ニテ知ベシ。太刀ハ廣キ所ニテ振リ、脇差ハセバキ所ニテ振ゾ、先、道ノ本意也。此一流ニ於テ、長ニテモ勝、短キニテモ勝ユヘニ、依テ、太刀ノ寸ヲ定メズ。何ニテモ勝事ヲ得心シ、一流ノ道也。太刀一ツ持タルヨリモ、二ツ持テヨキ処、大勢ヲ一人シテ戦フ時、又トリコモル者抔ノ時ニ、能事アリ。ケ様ノ義、今委シク書顕スニ及ズ。一ヲ以万ヲ知ベシ。兵法ノ道ヲ行ヒ得テハ、一ツモ見ヘズト云事ナシ。能々吟味有ベシ。

 【稼堂文庫本】

一 此一流、二刀と名付る事。二刀と云出す処、武士たる者は、将卒共に、直に二刀を腰に付る役也。昔は太刀、刀と云、今ハ刀、脇指と云。武士たる者の此両腰を持こと、細かに書顕すに及ず。於我朝、知るも知らぬも、腰にをぶこと、武士の道也。此二ツの利をしらしめん為に、二刀一流と云也。鑓長刀太刀よりしてハ、外の物と云て、武士道具の内也。一流の道、初心の者にをゐてハ、太刀、刀、両手に持て道を仕ならふ事、実の所也。一命を捨る時は、道具を残さず役に立度者也。道具を役に不立、腰に納て死する事、本意にあらず。然れ共、両手に物を持事、左右共に自由にハ叶がたし。太刀を片手にて取習せん為也。鑓長刀、大道具ハ是非に及ず、刀脇指にをゐてハ、いづれも片手にて持道具也。太刀を両手にて持て悪事。馬上にて悪敷。かけ走時悪し。沼がけ、石原、さかしき道、人込に悪敷。左に弓鑓を持、其外何れの道具を持ても、皆【脱字】手にて太刀を遣ふ物なれバ、両手にて太刀を搆事、實の道に非ず。若、かた手にて打殺しがたき時は、両手にても打とむべし。手間隙の入事にても有べからす。先、片手にて太刀をふり習せんため【脱字】、二刀として、太刀を片手にて振覚る道也。人毎に初て太刀を取時は重くして振廻しがたき物なれとも、萬ヅ、始て取付時は、弓も引がたく、長刀も振がたし。何れも其道具/\に馴ては、弓も力強く成り、太刀も振つけぬれバ、道の力を得て振好く成る也。太刀の道といふ事、早くふるに非ず。第二、水の巻にて知るべし。太刀ハ廣き処にて振、脇差ハせばき所にてふること、先、道の本意也。此一流におゐては、長きにても勝、短きにても勝事に、依て、太刀の寸を不定。何にても勝事を得る心、一流の道也。太刀一ツ持たるよりも、二ツ持て能所、大勢を一人して戦時、又、取籠者抔の時に、よき事有り。ケ様の儀、今委敷書顕に及ばず、一を以万を知るべし。兵法の道をを、行ひ得てハ、一ツもみえずと云ことなし。能々吟味有べき事也。  

 【大瀧家本】

一 此一流、二刀と名付る事。二刀と云出す所、武士は、将卒共に、真に二刀を腰に付る役なり。昔ハ太刀、刀と云、今ハ刀、脇指といふ。武士たるものゝ此両腰を持事、こまやかに書顕すに不及。我朝において、知るもしらぬも、腰におぶる事、武士の道なり。此二ツの利を知らしめん為に、二刀一流といふなり。鑓長刀よりしてハ、外のものといひて、武道具の内也。一流の道、初心の者に於て、太刀、刀、両手に持て道を仕習ふ事、実の所也。一命を捨る時ハ、道具【脱字】殘さず役に立度もの也。道具を役に立ず、腰に納て死する事、本意にあらず。然れ共、両手に物を持事、左右共に自由には叶がたし。太刀を片手にて取習はせんが為なり。鎗長刀、大道具ハ是非に及ばず、刀脇指におゐてハ、何も片手にて持道具也。太刀を両手にて持て悪敷事、馬上にて悪し、かけはしる時あしゝ。沼ふけ、石原、さかしき道、人こみにあしゝ。左に弓鎗をもち、其外何れの道具を持ても、ミな片手にて太刀をつかふ物なれバ、両手にて太刀を搆事、実の道にあらず。若、片手にて打殺し難き時は、両手にても打とむべし。手間の入事にても有べからず。先、片手にて太刀を振習らハせんために、二刀として、太刀を片手にて振覚ゆる道也。人毎に始て取付時ハ、太刀重くて振廻し難きものなれ共、萬ヅ初て取付時は、弓も引がたし、長刀も振がたし。何れも其道具/\に馴てハ、弓も力強くなり、長刀も振つけぬれば、道の力を得て振よくなるなり。太刀の道といふ事、はやく振にあらず、第二、水の巻にて知るべし。太刀を廣き所にて振り、脇差を【×は】せばき所にてふる事、先、道の本意なり。此一流におゐて、長きにても勝、短きにても勝故に、依て、太刀の寸を定めず、何にても勝事を得る心、一流の道也。太刀ひとつ持たるよりも、二ツ持てよき所、大勢を一人して戦時、又、取籠りものなどの時に、能事有。ケ様の事、今委敷書顕すに不及、一を以て万を知べし。兵法の道、おこなひ得てハ、ひとつも見へずといふ事なし。能々吟味有べし。    PageTop    Back   Next 

  8 兵法二の字の利を知事

 【吉田家本】

一 兵法二の字の利を知事。此道におゐて、太刀を振得たるものを、兵法者と世に云傳たり。武藝の道に至て、弓を能射れバ、射手と云、鉄炮を得たる者【脱字】、鉄炮打と云、鑓をつかひ得てハ、鑓つかひと云、長刀を覚てハ、長刀つかひと云。然におゐてハ、太刀の道を覚へたるものを、太刀つかひ、脇差つかひといはむ事也。弓鉄炮、鑓長刀、皆是武家の道具なれば、何も兵法の道也。然共、太刀よりして、兵法と云事、道理也。太刀の徳よりして、世を治、身をおさむる事なれば、太刀ハ兵法のおこる所也。太刀の徳を得てハ、一人して十人に必勝事也。一人して十人にかつなれば、百人して千人に勝、千人にして万人に勝。然によつて、我一流の兵法に、一人も萬人もおなじ事にして、武士の法を残らず、兵法と云所也。道におゐて、儒者、佛者、数寄者、しつけ者、亂舞者、これらの事ハ、武士の道にてハなし。其道に非ざると云とも、道を廣くしれば、物ごとに出合事也。いづれも人間におゐて、我道々を能ミがく事、肝要也。

 【立花隨翁本】

一 兵法二の字の利を知事。此道におゐて、太刀を振得たるものを、兵法者と世にいひ傳たり。武藝の道に至て、弓を能射れバ、射手と云、鉄炮を得たる者ハ、鉄炮打と云、鎗【脱字】つかひ得てハ、鎗つかひと云、長刀を覚へてハ、薙刀つ【破損】と云。然るに於てハ、太刀の道を覚たるものを、太刀つかひ、脇指つかひといはん事也。弓鉄炮、鎗長刀、皆是武家の道具なれば、何も兵法の道也。然共、太刀よりして、兵法といふ事、道理也。太刀の徳よりして、世を治、身を【破損】むる事なれば、太刀ハ兵法のおこる所也。太刀の徳を得てハ、一人して十人に必勝事也。一人して十人に勝なれば、百人して千人に勝、千人して万人に勝。然るによつて、我一流の兵法に、一人も万人も同じ事にして、武士の法を残らず、兵法と云所也。道におゐて、儒者、佛者、数寄者、しつけ者、乱舞者、これらの事ハ、武士の道にてハなし。其道にあらざるといふとも、道を廣くしれば、物ごとに出合事也。いづれも人間に於て、我道々を能ミがく事、肝要也。

 【渡辺家本】

一 兵法二の字の利を知事。此道に於て、太刀を振得たるものを、兵法者と世にいひ傳たり。武藝の道に至て、弓を能射れバ、射手と云、鉄炮を得たる者ハ、鉄炮打と云、鎗【脱字】つかひ得てハ、鎗つかひと云、長刀を覚へてハ、長刀つかひと云。然るに於てハ、太刀の道を覚たるものを、太刀つかひ、脇指つかひといはん事也。弓鉄炮、鎗長刀、皆是武家の道具なれバ、何も兵法の道也。然ども、太刀よりして、兵法といふ事、道理也。太刀の徳よりして、世を治、身をおさむる事なれバ、太刀ハ兵法のおこる所也。太刀の徳を得てハ、一人して十人に必勝事也。一人して十人に勝なれば、百人して千人に勝、千人して万人に勝。然るによつて、我一流の兵法に、一人も萬人も同じ事にして、武士の法を残らず、兵法と云所也。道におゐて、儒者、佛者、数寄者、しつけ者、乱舞者、これらの事ハ、武士の道にてハなし。其道にあらざると云とも、道を廣くしれバ、物ごとに出合事也。何れも人間に於て、我道々をよくミがく事、肝要也。

 【中山文庫本】

一 兵法二の字の利を知事。此道におゐて、太刀を振得たるものを、兵法者と世に云傳たり。武藝の道に至て、弓を能射れバ、射手と云、鉄炮を得たる者【脱字】、鉄炮打と云、鑓をつかひ得てハ、鑓つかひと云、長刀を覚ては、長刀つかひと云。然におゐてハ、太刀の道を覚へたるものを、太刀つかひ、脇指つかひといはん事也。弓鉄炮、鑓長刀、皆是武家の道具なれバ、何も兵法の道也。然ども、太刀よりして、兵法と云事、道理也。太刀の徳よりして、世を治、身をおさむる事なれバ、太刀ハ兵法のおこる所也。太刀の徳を得てハ、一人して十人に必勝事也。一人して十人に勝なれバ、百人して千人に勝、千人にして万人に勝。然によつて、我一流の兵法に、一人も万人もおなじ事にして、武士の法を残らず、兵法と云所也。道におゐて、儒者、佛者、数奇者、しつけ者、乱舞者、これらの事ハ、武士の道にてハなし。其道に非るといへども、道を廣くしれバ、物ごとに出合事也。いづれも人間に於て、我道々を能ミがく事、肝要也。

 【近藤家乙本】

一 兵法二ツの字の利を知事。此道におゐて、太刀を振得たるものを、兵法者と世にいひ傳たり。武藝の道に至て、弓を能射れバ、射手と云、鉄炮を能得たる者は、鉄炮打と云、鎗【脱字】つかひ得てハ、鎗つかひと云、長刀を覚へてハ、長刀つかひと云。然るに於てハ、太刀の道を覚たるものを、太刀つかひ、脇指つかひといはん事也。弓鉄炮、鎗長刀、皆是武家の道具なれバ、何も兵法の道也。然共、太刀よりして、兵法といふ事、道理なり。太刀の徳よりして、世を治、身をおさむる事なれば、太刀ハ兵法のおこる所也。太刀の徳を得てハ、壱人して拾人に必勝事也。一人して十人に勝なれば、百人して千人に勝、千人して萬人に勝。然るに仍て、我一流の兵法に、壱人も萬人も同じ事にして、武士の法を残らず、兵法と云所也。道におゐて、儒者、佛者、数寄者、しつけ者、乱舞者、これらの事ハ、武士の道にてハなし。其道にあらざるといふとも、道を廣くしれバ、物ごとに出合事也。いづれも人間に於て、我道々を能くミがく事、肝要也。

 【石井家本】

一 兵法二の字の利を知事。此道に於て(は)、太刀を振得たるものを、兵法者と世にいひ傳たり。武藝の道に至て、弓を能射れバ、射手と云、鉄炮を得たる者ハ、鉄炮打と云、鎗【脱字】つかひ得てハ、鎗つかひと云、長刀を覚へてハ、長刀つかひと云。然るに於てハ、太刀の道を覚たるものを、太刀つかひ、脇差つかひといはん事也。弓鉄炮、鎗長刀、皆是武家の道具なれば、何も兵法の道也。然共、太刀よりして、兵法といふ事、道理也。太刀の徳よりして、世を治、身をおさむる事なれバ、太刀ハ兵法のおこる所也。太刀の徳を得てハ、一人して十人に必勝事也。一人して十人に勝なれば、百人して千人に勝、千人して万人に勝。然るによつて、我一流の兵法に、一人も萬人も同じ事にして、武士の法を殘らず、兵法と云所也。道におゐて、儒者、佛者、数寄者、しつけ者、乱舞者、これらの事ハ、武士の道にてハなし。其道にあらざると云とも、道を廣くしれバ、物ごとに出合事也。何れも人間に於て、我道々を能ミがく事、肝要也。

 【伊丹家本】

一 兵法二の字の利を知事。此道に於て、太刀を振得たる者を、兵法者と世に云傳たり。武藝の道に至て、弓を能射れば、射手と云、鉄砲を得たる者は、鉄砲打と云、鑓を遣ひ得ては、鑓遣ひと云、長刀を覺へては、長刀遣ひと云。然に於ては、太刀の道を覺たる者を、太刀遣ひ、脇差遣ひといはむ事也。弓鉄炮、鑓長刀、皆是武家の道具なれバ、何も兵法の道也。然共、太刀よりして、兵法と云事、道理なり。太刀の徳よりして、世を治め、身を治むる【脱字】なれば、太刀は兵法のおこる所也。太刀の徳を得てハ、一人して十人に必勝事也。一人して十人に勝なれバ、百人して千人に勝、千人にして万人に勝。然に依て、我一流の兵法に、一人も萬人も同じ事也にして、武士の法を残らず、兵法と云所也。道に於て、儒者、佛者、数奇者、しつけ者、亂舞者、是れらの事ハ、武士の道にてはなし。其道に非ざると云ども、道を廣くしれば、物毎に出合事也。いづれも人間におゐて、我道々を能ミがく事、肝要也。

 【伊藤家本】

一 兵法二の字の利を知事。此道に於て、太刀を振得たるものを、兵法者と世にいひ傳たり。武藝の道に至て、弓を能射れバ、射手と云、鉄炮を得たる者ハ、鉄炮打と云、鎗【脱字】つかひ得てハ、鎗つかひと云、長刀を覚へてハ、薙刀つかひと云。然るに於てハ、太刀の道を覚たるものを、太刀つかひ、脇指つかひといはん事也。弓鉄炮、【脱字】長刀、皆是武家の道具なれば、何も兵法の道也。然共、太刀よりして、兵法といふ事、道理也。太刀の徳よりして、世を治、身をおさむ【脱字】事なれバ、太刀ハ兵法のおこる所也。太刀の徳を得てハ、一人して十人に必勝事也。一人して十人に勝なれバ、百人して千人に勝、千人して万人に勝。然によつて、我一流の兵法に、一人も萬人も同じ事にして、武士の法を残らず、兵法と云所也。道におゐて、儒者、佛者、数寄者、しつけ者、乱舞者、これらの事ハ、武士の道にてハなし。其道にあらざると云とも、道を廣くしれバ、物ごとに出合事也。何れも人間に於て、我道々を能ミがく事、肝要也。

 【神田家本】

一 兵法二の字の利を知事。此道に於て、太刀を振得たるものを、兵法者と世にいひ傳たり。武藝の道に至て、弓を能射れバ、射手と云、鉄炮を得たる者ハ、鉄炮打と云、鎗【脱字】つかひ得てハ、鎗つかひと云、長刀を覚へてハ、薙刀つかひと云。然るに於てハ、太刀の道を覚たるものを、太刀つかひ、脇指つかひといはん事也。弓鉄炮、鎗長刀、皆是武家の道具なれば、何も兵法の道也。然共、太刀よりして、兵法といふ事、道理也。太刀の徳よりして、世を治、身をおさむる事なれバ、太刀ハ兵法のおこる所也。太刀の徳を得てハ、一人して十人に必勝事也。一人して十人に勝なれば、百人して千人に勝、千人して万人に勝。然るによつて、我一流の兵法に、一人も萬人も同じ事にして、武士の法を殘らず兵法と云所也。道におゐて、儒者、佛者、数寄者、しつけ者、乱舞者、これらの事ハ、武士の道にてハなし。其道にあらざると云とも、道を廣くしれバ、物ごとに出合事也。何れも人間に於て、我道々を能ミがく事、肝要也。

 【楠家本】

一 兵法二ツの字【脱字】利を知事。此道におゐて、太刀をふり得たるものを、兵法者と世に云傳たり。武藝の道に至て、弓をよく射れバ、射手といひ、鉄炮を得たるものハ、鉄炮打といひ、鑓をつかひ得てハ、鑓つかひといひ、長刀をおぼえてハ、長刀つかひといふ。しかるにおゐてハ、太刀の道をおぼえたるものを、太刀つかひ、わきざしつかひといはん事也。弓鉄炮、鑓長刀、ミな是武家の道具なれバ、いづれも兵法の道也。然ども、太刀よりして、兵法といふ事、道理也。太刀の徳よりして、世を治、身をおさむる事なれバ、太刀ハ兵法のおこる所也。太刀の徳を得てハ、一人して十人にかならず勝事也。一人にして十人に勝なれバ、百人して千人にかち、千人にして万人にかつ。しかるによつて、わが一流の兵法に、一人も万人も同じ事にして、武士の法をのこらず、兵法といふ所也。道におゐて、儒者、佛者、数奇者、しつけしや、乱舞者、これらの事ハ、武士のミちにてはなし。其道にあらざるといふとも、道を廣くしれバ、物毎に出あふ事也。いづれも人間におゐて、わが道/\をよくミがく事、肝要也。

 【細川家本】

一 兵法二ツの字の利を知事。此道におゐて、太刀を振得たるものを、兵法者と世に云傳たり。武藝の道に至て、弓を能射れば、射手と云、鉄炮を得たるものは、鉄炮うちと云、鑓をつかひ得てハ、鑓つかひといひ、長刀をおぼへては、長刀つかひといふ。然におゐては、太刀の道を覚へたるものを、太刀つかひ、脇差つかひといはん事也。弓鉄炮、鑓長刀、皆是武家の道具なれバ、いづれも兵法の道也。然ども、太刀よりして、兵法と云事、道理也。太刀の徳よりして、世を納、身を納る事なれば、太刀ハ兵法のおこる所也。太刀の徳を得ては、一人して十人に【脱字】勝事也。一人にして十人に勝なれば、百人して千人にかち、千人にして万人に勝つ。然によつて、わが一流の兵法に、一人も万人もおなじ事にして、武士の法を残らず、兵法と云所也。道におゐて、儒者、佛者、数寄者、しつけ者、亂舞者、此等の事ハ、武士の道に【脱字】はなし。其道にあらざるといふとも、道を廣くしれば、物毎に出あふ事也。いづれも人間におゐて、我道/\をよくみがく事、肝要也。

 【丸岡家本】

一 兵法二ツの字の理を知事。此道におゐて、太刀を振得たる者を、兵法者と世に云傳たり。武藝の道に至りて、弓を能射れば、射手と云、鉄炮を得たるものは、鉄炮打といひ、鎗をつかひ得ては、鎗遣と云、長刀を覚ては、長刀つかひと云。然るにおいては、太刀の道を覚たる者を、太刀つかひ、脇差遣といハんこと也。弓鉄炮、鎗長刀、皆是武家の道具なれば、何も兵法の道也。然共、太刀よりして、兵法と云事、道理なり。太刀の徳よりして、世を治、身を脩事なれば、太刀は兵法の興る所なり。太刀の徳を得ては、一人して十人ニ必勝ことなり。一人して十人に勝なれば、百人して千人に勝、千人しては万人に勝。然によりて、我一流の兵法に、一人も萬人も同事にして、武士の法を不殘、兵法といふ所也。道において、儒者、佛者、數奇者、しつけ者、乱舞者、此等の事は、武士の道に【脱字】はなし。【脱字********】道を廣く知れば、物ごとに出あふこと也。何も人間において、我道々を能琢く事、肝要なり。

 【富永家本】

一 兵法二ツの字【脱字】利を知る事。此道におゐて、太刀をふり得たる者を、兵法者と世に云傳へたり。武藝の道に至りて、弓を能く射れバ、射手と云、鉄炮を得たる者ハ、鉄炮打と云、鑓を遣ひ得てハ、鑓つかゐといひ、長刀を覚ては、長刀つかいと云。然るにおゐてハ、太刀の道を覚たるものを、太刀つかひ、【脱字】つかひといわん事なり。弓鉄炮、鑓長刀、皆是武家の道具なれバ、いづれも兵法の法也。然れ共、太刀よりして、兵法といふ事、道理也。太刀の徳に、世を治、身を治る【脱字】なれバ、太刀ハ兵法のおこる所なり。【脱字】徳を得てハ、一人して十人ニ必勝事也。一人して十人ニ勝なれバ、百人して千人に勝、千人にして萬人に勝【脱字*********************】道理にして、武士の法を、不残兵法といふ所なり。道におゐて、儒者、仏者、数奇者、しつけ者、乱舞者、これらの事ハ武士の道にてハなし。其道にあらざるといへども、道をひろく知れバ、物毎に出逢事也。何れも人間におゐて、我ミち/\を能くミがく事、肝要也。

 【常武堂本】

一 兵法二ツの字の利を知事。此道に於て、太刀をふり得たるものを、兵法者と世に云傳たり。武藝の道に至りて、弓を能射れバ、射てと云、鉄炮を得たるものハ、鉄炮打と云、鑓をつかひ得てハ、鑓つかひと云ひ、長刀をおぼへてハ、長刀つかひといふ。然に於ては、太刀の道をおぼえたるものを、太刀つかひ、脇差つかひといはん事也。弓鉄炮、鑓長刀、皆是武家の道具なれバ、いづれも兵法の道也。然ども、太刀よりして、兵法と云事、道理也。太刀の徳よりして、世を納、身を納る事なれバ、太刀ハ兵法のおこる所也。太刀の徳を得てハ、一人して十人に【脱字】勝事也。一人にして十人に勝なれバ、百人して千人にかち、千人にして万人に勝つ。然によつて、わが一流の兵法に、一人も万人もおなじ事にして、武士の法を、残らず兵法といふ所也。道に於て、儒者、佛者、数寄者、しつけ者、亂舞者、此等の事ハ、武士の道に【脱字】ハなし。其道にあらざるといふとも、道を廣くしれバ、物毎に出あふ事也。いづれも人間に於て、我道/\をよくみがく事、肝要也。

 【田村家本】

一 兵法二ツ之字ノ利ヲ知事 此道ニ於テ、太刀ヲ振ヱタル者ヲ、兵法者ト世ニ云傳タリ。武ゲイノ道ニ至テ、弓ヲヨク射レバ射手ト云、鉄炮ヲヱタル者ハテツポウ打ト云、鎗ヲ【脱字】得エテハ鎗遣ト云、長刀ヲ覚テハ長刀遣ト云。然ニ於テハ、太刀ノ道ヲ覚タル者ヲ、太刀ツカイ、脇指ツカイト云ンコト也。弓鉄炮、鎗長刀、皆是武家ノ道具ナレバ、何レモ兵法ノ道也。然共、太刀ヨリシテ兵法ト云【脱字】道理也。太刀ノ徳ヨリシテ世ヲ納メ、身ヲ丶サムル事ナレバ、太刀ハ兵法ノヲコル処也。太刀ノ徳ヲ得テハ、一人シテ十人ニ必勝コトナリ。【脱字**】十人ニカツナレバ、百人シテ千人ニ勝、千人ニシテ万人ニ勝。然ニヨリテ、我一流ノ兵法ニ、一人モ万人モ同事ニシテ、武士ノ方ヲ殘ラズ兵法ト云処也。ミチニ於テ、儒者、佛者、数奇者、シツケ者、乱舞者、コレラノコトハ武士ノ道ニ【脱字】ハ無シ。【脱字********】是ヲ廣ク知レバ、物毎ニ出合事也。何レモ人間ニ於テ、吾道々ヲ【脱字】ミガク事、肝要也。

 【狩野文庫本】

一 兵法二ツの【脱字】利を知事。此道におゐてハ、太刀を振得たるものを、兵法者と世に【脱字】傳たり。武藝の道ニ至而、弓を能射れば射手【脱字】云、鉄炮を得たるものハ、鉄炮打といふ。鑓をつかひ得てハ、鑓つかひと云、長刀ヲつかひ覚てハ、長刀遣ひと云。然るにおゐてハ、太刀の道を覚たる者を、太刀つかひ、脇指遣ひと云ハん事也。弓鉄炮、長刀鎗、皆是武家の道具なれバ、何れも兵法の道也。然共、太刀の道よりして兵法と云事、道理也。太刀の徳よりして世【脱字】治、身を治事あれバ、太刀ハ兵法のおこる所也。太刀の徳を得てハ、一人して十人ニ必勝事也。一人して十人に勝事なれバ、百人して千人ニ勝、千人して万人に勝。然に依て、我一流の兵法ニ、一人も万人も同じ事にして、武士の法ヲ殘らず兵法と云所也。道におゐて、儒者、仏者、数奇者、躾者、乱舞者、是等の事ハ武士の道ニ而ハなし。其道ニあらざると云とも、道を廣ク智レば、物毎に出合事也。何れ【脱字】人間ニおゐて、我道/\を能みがくこと、肝要なり。

 【多田家本】

一 兵法二つの字の利を知事。此道におひて、太刀を振り得たる者【脱字】、兵法者と世に云傳へたり。武藝の道に至て、弓を能射バ、射手と云、鉄炮を打バ、鉄炮打といひ、鑓を遣得てハ、鑓遣と云、長刀を覚てハ、長刀遣ひといふ。然るにをひてハ、太刀の道を覚たる者を、太刀遣ひ、脇指遣ひといはん【脱字】。弓鉄炮、鑓長刀、皆是、武家の道具なれバ、何も兵法の道也。然ども、太刀振して、兵法と云事、道理也。太刀の徳よりして、世を治め、身を脩る事なれバ、太刀ハ兵法の發る所也。一番たるべきか。太刀の徳を得てハ、一人しては十人に必勝事也。壱人して拾人に勝なれバ、百人して千人に勝、千人して萬人に勝。然るによつて、我一流の兵法【脱字】、壱人も万人も同じ事にしてハ、武士の法を不残、兵法と云所なり。道に於て、様々有中にも、儒者、佛者、数寄者、躾者、乱舞者、是等の事ハ、武士の道にてハなし。其道にあらざると云へども、道を廣く知れバ、物毎に出合事也。何も人間にをひて、我道々を能ミがく事、肝要也。

 【山岡鉄舟本】

一 兵法二ツ之字ノ利ヲ知ル事。此道ニ於テ、太刀ヲ振上タル者ヲ、兵法者ト世ニ云傳ヘタリ。武藝ノ道ニ至テ、弓ヲ能射レバ、射手ト云、鉄炮ヲ得タル者ハ、鉄炮打ト云、鎗ヲ【脱字】ヱテハ、鎗遣ト云、長刀ヲ覚テハ、長刀遣ト云。然ニ於テハ、太刀ノ道ヲ覚タル者ヲ、太刀遣ト云、脇差ツカヒト云ン事也。【脱字】鉄炮、鎗長刀、皆【脱字】武家之道具ナレバ、何レモ兵法ノ道也。然共、太刀ヨリシテ兵法ト云事、道理ナリ。太刀ノ徳ヨリシテ、世ヲ治メ、身ヲ治ル事ナレバ、太刀ハ兵法ノ起ル処也。太刀ノ徳ヲ得テハ、一人シテ十人ニ必勝事也。一人シテ十人ニ勝ナレバ、百人シテ千人ニ勝、千人ニシテ万人ニ勝。然ルニ依テ、我一流之兵法ニ、一人モ万人モ同ジ事ニシテ、武士ノ法ヲ殘ラズ兵法ト云処ナリ。道ニ於テ、儒者、佛者、数奇者、シツケ【脱字】、亂舞者、是等【脱字】ハ武士ノ道ニテハナシ。【脱字*********】道ヲ廣ク知レバ、物毎ニ出合事也。何レモ人間ニ於テ、我道々ヲ能クミガク事、肝要也。

 【稼堂文庫本】

一 兵法二ツの字【脱字】理を知ると云事。於此道、太刀を好く振得たる者を、兵法者と【脱字】云傳へたり。武藝の道に至て、弓を【脱字】射れバ、射手と云、鉄炮を得たる者ハ、鉄炮打と云、鑓を遣ひ得たる者ハ、鑓遣ひと云、【脱字**********】然るに於てハ、太刀の道を覚得たる者を、太刀遣ひ、脇差遣ひと云ん事也。弓鉄炮、鑓長刀、皆是武家の道具なれバ、何れも兵法の道也。然共、太刀よりして、兵法と云事、道理也。太刀の徳よりしてハ、代を納、身を納ることなれバ、太刀ハ兵法の起る所【脱字】。第一番たるべきか。太刀の徳を得てハ、一人として十人に必勝事也。一人してハ十人に必勝時は、百人して千人に勝、千人して万人に勝。然るに於て、わが一流の兵法【脱字】、三人も万人も同じ事ニして、武士の法を、不残、兵法と云所也。道に於て、様々有中にも、【脱字】、佛者、数奇者、躾者、乱舞者、是等の事は、武士の道にては無し。其道に非ずと云共、道を廣く知れバ、物毎に出あふ事也。何れも人間におゐて、我道々を好くみがくこと、肝要也。  

 【大瀧家本】

一 兵法二【脱字】字の利を知る事。此道に於てハ、太刀を振得たるものを、兵法者と世に云傳たり。武藝の道に至て、弓を能射れバ、射手と云、鉄炮を得たるものハ、鉄炮打と云、鎗を遣ひ得たる者は、鑓遣ひと云、長刀を得覚てハ、薙刀つかひと云。然るに於てハ、太刀の道を覚たるものを、太刀遣ひと云、脇差遣といはん事也。弓鉄炮、鎗長刀、皆是武家の道具なれバ、何も兵法の道也。然れ共、太刀よりして、兵法といふ事、道理也。太刀の徳よりして、世を治め、身を脩むる事なれバ、太刀ハ兵法のおこる所也。太刀の徳を得てハ、壱人して拾人に必勝事也。一人して十人に勝なれば、百人して千人に勝、千人して万人に勝。然るに依て、我一流の兵法に、一人も万人も同じ事にして、武士の法を、殘らず兵法といふ所也。道におゐて、儒者、佛者、数寄者、しつけ者、乱舞者、是等の事は武士の道にてハなし。其道にあらざると云共、道を廣く知れバ、物毎に出合事也。何れも人間に於て、我道々を能ミがく事、肝要也。    PageTop    Back   Next 

  9 兵法に武具の利を知と云事

 【吉田家本】

一 兵法に、武具の利を知と云事。武具の利をわきまゆるに、何れの道具にても、おりにふれ、ときにしたがひ、出合もの也。わきざしハ、座のせばき所、敵のミぎはへよりて、其利多し。太刀ハ、何れの所にても、大かた出合利有。長刀ハ、戦場にてハ鑓におとる心有り。鑓ハ先手也、長刀ハ後手也。おなじ位のまなびにしてハ、鑓ハ少強し。鑓長刀も、事により、つまりたる所にてハ、其利すくなし。とり籠りものなどに、然べからず。只戦場の道具なるべし。合戦の場にしては、肝要の道具なり。されども、座敷にての利を覚、こまやかにおもひ、実の道を忘るゝにおゐてハ、出合がたかるべし。弓ハ、合戦の場にて、かけひきにも出合、鑓わき、其外ものきわ/\にて、早く取合する物なれば、野相の合戦などに、とりわき能もの也。城責など、又、敵相弐十間を越てハ、不足なるもの也。當世におゐてハ、弓ハ申に及ばず、諸藝、花多して、實すくなし。さ様の藝能ハ、肝要のとき、役に立難し。城郭の内にしてハ、鉄炮にしく事なし。野相などにても、合戦の始らぬうちにハ、其利多し。戦はじまりてハ、不足なるべし。弓の一の徳ハ、はなつ矢、人の目にみえてよし。鉄炮の玉ハ、目にミヘざる所、不足也。此儀、能々吟味有べき事【◇】。馬の事、強こたへて、くせなき事、肝要也。惣而、武道具につけ、馬も大かたにありき、刀わきざしも大かたにきれ、鑓長刀も大かたにとをり、弓鉄炮もつよくそこねざる様に有べし。道具已下にも、かたわけてすく事、有べからず。あまりたる事ハ、たらぬとおなじ事也。人まねをせずとも、我身にしたがひ、武道具ハ手にあふやうに有べし。将卒ともに、ものにすき、物を嫌事、悪し。工夫肝要也。

 【立花隨翁本】

一 兵法に武具の利を知といふ事。武【破損】をわきまゆるに、何れの道具にても、おりにふれ、ときにしたがひ、出合もの也。脇指ハ、座のせばき所、敵のミぎハへよりて、其利多し。太刀ハ、何れの所に【破損】も、大かた出合利有。長刀ハ、戦塲にてハ、鎗にをとる心あり。鎗ハ先手也、長刀ハ後手也。おなじ位のまなびにしてハ、鎗ハ少強し。鎗長刀も、事により、つまりたる所にてハ、其利すくなし。とり籠りものなどに然べからず。只戦塲の道【破損】なるべし。合戦の塲にしてハ、肝要の道具也。されども、座敷にての利を覚へ、こまやかにおもひ、實の道を忘るゝに於てハ、出合がたかるべし。弓ハ、合戦の塲にて、かけひきにも出合、鎗わき、其外ものきハ/\にて、早く取合する物なれバ、野合の合戦などに、とりわき能物也。城責など、又敵相二十間を越てハ、不足なるもの也。當世におゐてハ、弓ハ申に及バず、諸藝花多して、實すくなし。左様の藝能ハ、【破損】要の時、役に立難し。城郭の内にしてハ、鉄砲にしく事なし。野相などにても、合戦の初らぬうちにハ、其利多し。戦はじまりてハ、不足なるべし。弓の一の徳ハ、はなつ矢、人の目に見へてよし。鉄砲の玉ハ、目にミヘざる所不足【破損】。此儀、能々吟味あるべき事【◇】。馬の事、強くこたへて、くせなき事、肝要也。捴而、武道具につけ、馬も大かたにありき、かたな、わきざしも大かたにきれ、鎗長刀も大方にとをり、弓鉄炮も【破損】くそこねざる様に有べし。道具以下にも、かたわけてすく事あるべからず。あまりたる事ハ、たらぬとおなじ事也。人まねをせずとも、我身にしたがひ、武道具ハ手にあふやうに有べし。将卒【破損】もに、物にすき、物を嫌ふ事、悪し。工夫肝要也。

 【渡辺家本】

一 兵法に武具の利を知と云事。武具の利をわき【脱字】ゆるに、何れの道具にても、おりにふれ、ときにしたがひ、出合もの也。脇指ハ、座のせばき所、敵のミぎわへよりて、其利多し。太刀ハ、何れの所にても、大かた出合利有。長刀ハ、戦場にてハ、鎗におとる心あり。鎗は先手也、長刀ハ後手也。おなじ位のまなびにしてハ、鎗ハ少強し。鎗長刀も、事により、つまりたる所にてハ、其利すくなし。とり籠りものなどに然るべからず。只戦場の道具なるべし。合戦の場にしてハ、肝要の道具也。されども、座敷にての利を覚へ、こまやかにおもひ、實の道を忘るゝに於てハ、出合がたかるべし。弓ハ、合戦の場にて、かけひきにも出合、鎗わき、其外ものきハ/\にて、早く取合する物なれバ、野合の合戦などに、とりわき能物也。城責など、又敵相二十間を越てハ、不足なるもの也。當世におゐてハ、弓ハ申に及バず、諸藝花多して、實すくなし。左様の藝能ハ、肝要の時、役に立難し。城郭の内にしてハ、鉄炮にしく事なし。野相などにても、合戦の初らぬうちにハ、其利多し。戦はじまりてハ、不足なるべし。弓の一【脱字】徳ハ、はなつ矢、人の目に見へてよし。鉄炮の玉ハ、目に見えざる所不足なり。此儀、能々吟味有べき事【◇】。馬の事、強くこたへて、くせなき事、肝要也。捴而、武道具につけ、馬も大かたにありき、かたな、わきざしも大かたにきれ、鎗長刀も大方にとをり、弓鉄炮もつよくそこねざる様に有べし。道具以下にも、かたわけてすく事あるべからず。あまりたる事ハ、たらぬとおなじ事也。人まねをせずとも、我身にしたがひ、武道具ハ手にあふやうに有べし。将卒ともに、物にすき、物を嫌ふ事、悪し。工夫肝要也。

 【中山文庫本】

一 兵法に武具の利を知ると云事。武具の利をわきまゆるに、何れの道具にても、おりにふれ、ときにしたがひ、出合もの也。わきざしハ、座のせばき所、敵のミぎはへよりて、其利多し。太刀ハ、何れの所にても大かた出合利有。長刀ハ、戦場にてハ、鑓におとる心あり。鑓ハ先手也、長刀ハ後手也。おなじ位のまなびにしてハ、鑓ハ少強し。鑓長刀も、事により、つまりたる所にてハ、其利すくなし。とり籠ものなどに然べからず。只戦場の道具なるべし。合戦の場にしてハ、肝要の道具也。されども、座敷にての利を覚、こまやかにおもひ、実の道を忘るにおゐてハ、出合がたかるべし。弓ハ、合戦の場にて、かけひきにも出合、鑓わき、其外ものきは/\にて、はやく取合する物なれば、野合の合戦などに、とりわき能もの也。城責など、又敵相弐十間を越てハ、不足なるもの也。當世におゐてハ、弓ハ申におよばず、諸藝花多して、実すくなし。さ様の藝能ハ、肝要の時、役に立難し。城郭の内にしてハ、鉄炮にしく事なし。野合などにても、合戦の始らぬうちには、其利多し。戦はじまりてハ、不足なるべし。弓の一の徳ハ、はなつ矢、人の目に見へてよし。鉄炮の玉ハ、目にミヘざる所不足なり。此儀、能々吟味有べき事【◇】。馬の事、強こたへて、くせなき事、肝要也。惣而、武道具につけ、馬も大かたにありき、刀わきざしも大かたにきれ、鑓長刀も大かたにとをり、弓鉄炮もつよくそこねざる様に有べし。道具以下にも、かたわけてすく事あるべからず。あまりたる事ハ、たらぬとおなじ事なり。人まねをせずとも、我身にしたがひ、武道具ハ手にあふやうに有べし。将卒ともに、ものにすき、物を嫌事、悪し。工夫肝要なり。

 【近藤家乙本】

一 兵法に武具の利を知といふ事。武具の利をわきまゆるに、何れの道具にても、おりにふれ、ときにしたがひ、出合もの也。脇指は、座のせばき所、敵のミぎわへよりて、其利多し。太刀は、何れの所にても、大かた出合利有。長刀ハ、戦場にてハ、鎗におとる心あり。鎗は先手也、長刀ハ後手也。おなじ位のまなびにしてハ、鎗ハ少し強し。鎗長刀も、事により、つまりたる所にてハ、其利すくなし。とり籠りものなどに然るべからず。只戦場の道具なるべし。合戦の場にしてハ、肝要の道具也。されども、座敷にての利を覚へ、こまやかにおもひ、實の道を忘るゝに於てハ、出合がたかるべし。弓ハ、合戦の場にて、かけひきにも出合、鎗わき、其外ものきハ/\にて、早く取合するものなれバ、野合の合戦などに、とりわき能物也。城責など、亦敵相二拾間を越てハ、不足なるもの也。當世におゐてハ、弓ハ申に及バず、諸藝花多して、實すくなし。左様の藝能ハ、肝要の時、役に立難し。城郭の内にしてハ、鉄炮にしく事なし。野合などにても、合戦の初らぬうちには、其利多し。戦はじまりてハ、不足なるべし。弓の一【脱字】徳ハ、はなつ矢、人の目に見へてよし。鉄炮の玉は、目に見えざる所不足なり。此儀、能々吟味有べき事【◇】。馬の事、強くこたへて、くせなき事、肝要也。捴而、武道具につけ、馬も大かたにありき、かたな、わきざしも大かたにきれ、鎗長刀も大方にとをり、弓鉄炮もつよくそこねざる様に有べし。道具以下にも、かたわけてすく事あるべからず。あまりたる事ハ、たらぬとおなじ事也。人まねをせずとも、我身にしたがい、武道具ハ手にあふやうに有べし。将卒ともに、物にすき、物を嫌ふ事、悪し。工夫肝要也。

 【石井家本】

一 兵法に武具の利を知るといふ事。武具の利をわきまゆるに、何れの道具にても、おりにふれ、ときにしたがひ、出合もの也。脇指ハ、座のせばき所、敵のミぎわへよりて、其利多し。太刀ハ、何れの所にても、大かた出合利有。長刀ハ、戦場にては、鎗におとる心あり。鎗は先手也、長刀ハ後手也。おなじ位のまなびにしてハ、鎗ハ少強し。鎗長刀も、事により、つまりたる所にてハ、其利すくなし。とり籠りものなどに然るべからず。只戦場の道具なるべし。合戦の場にしてハ、肝要の道具也。されども、座敷にての利を覚へ、こまやかに思ひ、実の道を忘るゝに於てハ、出合がたかるべし。弓ハ、合戦の場にて、かけひきにも出合、鎗わき、其外ものきわ/\にて、早く取合する物なれバ、野合の合戦などに、とりわき能物也。城責など、又敵相二十間を越てハ、不足なるもの也。當世におゐてハ、弓ハ申に及バず、諸藝花多して、実すくなし。左様の藝能ハ、肝要の時、役に立難し。城郭の内にしてハ、鉄炮にしく事なし。野相などにても、合戦の初らぬうちにハ、其利多し。戦はじまりては、不足なるべし。弓の一【脱字】徳ハ、はなつ矢、人の目に見へてよし。鉄炮の玉ハ、目にミヘざる所不足なり。此儀、能々吟味あるべき事也。馬の事、強くこたへて、くせなき事、肝要也。捴而、武道具につけ、馬も大かたにありき、かたな、わきざしも大かたにきれ、鎗・長刀も大方にとをり、弓鉄炮もつよくそこねざる様に有べし。道具以下にも、かたわけてすく事あるべからず。あまりたる事ハ、たらぬとおなじ事也。人まねをせずとも、我身にしたがひ、武道具ハ手にあふやうに有べし。将卒ともに、物にすき、物を嫌ふ事、悪し。工夫肝要也。

 【伊丹家本】

一 兵法に武具の利を知ると云事。武具の利をわきまゆるに、何れの道具にても、おりにふれ、時にしたがひ、出合物也。脇差は、場のせばき所、敵のミぎはへよりて、其利多し。太刀は、いづれの所にても大方出合利有。長刀は、戦場にては、鑓におとる心有り。鑓は先手也、長刀は後手也。同じ位の學ニ【脱字】てハ、鑓ハ少し強し。鑓長刀も、事ニより、つまりたる所ニては、其利少し。とり籠り物などに然べからず。只戦場の道具なるべし。合戦の場ニしては、肝要の道具也。されども、座敷にての利を覺、こまやかに思ひ、實の道を忘るゝに於ハ、出合難かるべし。弓は、合戦の場にて、かけ引にも出合、鑓わき、其外ものきハ/\ニて、早く取合する物なれバ、野相の合戦などに、とりわき能物也。城責など、又敵あひ二十間を越ては、不足なる物也。當世に於てハ、弓ハ申ニおよバず、諸藝花多して、實すくなし。さ様の藝能は、肝要の時、役に立難し。城郭の内にしては、鉄炮にしく事なし。野相などニても、合戦の始らぬ内には、其利多し。戦初りては、不足なるべし。弓の一ツの徳は、はなつ矢、人の目ニ見へてよし。鉄砲の玉は、目にミヘざる所不足なり。此儀、能々吟味有べき事【◇】。馬の事、強くこたへて、くせなき事、肝要也。惣而、武道具につけ、馬も大かたにありき、刀脇差も大かたにきれ、鑓長刀も大かたにとをり、弓鉄砲も強くそこねざる様に有べし。道具已下ニも、かたわけてすく事あるべからず。あまりたる事は、足ぬと同じ事なり。人まねをせずとも、我身にしたがひ、武道具は手にあふ様に有べし。将卒ともに、物ニすき、物を嫌事、悪し。工夫肝要也。

 【伊藤家本】

一 兵法に武具の利を知といふ事。武具の利をわきまゆるに、何れの道具にても、おりにふれ、ときにしたがひ、出合もの也。脇指ハ、座のせばき所、敵のミぎわへよりて、其利多し。太刀ハ、何れの所にても、大かた出合利有。長刀ハ、戦場にてハ、鎗におとる心あり。鎗は先手也、長刀ハ後手也。おなじ位のまなびにしてハ、鎗は少強し。鎗長刀も、事により、つまりたる所にてハ、其利すくなし。とり籠りものなどに然るべからず。只戦場の道具なるべし。合戦の場にしてハ、肝要の道具也。されども、座敷にての利を覚へ、こまやかにおもひ、實の道を忘るゝに於てハ、出合がたかるべし。弓ハ、合戦の場にて、かけひきにも出合、鎗わき、其外ものきハ/\にて、早く取合する物なれバ、野合の合戦などに、とりわき能物也。城責など、又敵相二十間を越てハ、不足なるもの也。當世におゐてハ、弓ハ申に及バず、諸藝花多して、實すくなし。左様の藝能ハ、肝要の時、役に立難し。城郭の内にしてハ、鉄炮にしく事なし。野相などにても、合戦の初らぬうちにハ、其利多し。戦はじまりては、不足なるべし。弓の一【脱字】徳ハ、はなつ矢、人の目に見へてよし。鉄炮の玉ハ、目に見ヘざる所不足なり。此儀、能々吟味あるべき事【◇】。馬の事、強くこたへて、くせなき事、肝要也。捴而、武道具につけ、馬も大かたにありき、かたな、わきざしも大かたにきれ、鎗長刀も大かたにとをり、弓鉄炮もつよくそこねざる様に有べし。道具以下にも、【脱字】わけてすく事あるべからず。あまりたる事ハ、たらぬとおなじ事也。人まねをせずとも、我身にしたがひ、武道具ハ手にあふやうに有べし。将卒ともに、物にすき、物を嫌ふ事、悪し。工夫肝要也。

 【神田家本】

一 兵法に武具の利を知るといふ事。武具の利をわきまゆるに、何れの道具にても、おりにふれ、ときにしたがひ、出合もの也。脇指ハ、座のせばき所、敵のミぎわへよりて、其利多し。太刀ハ、何れの所にても、大かた出合利有。長刀ハ、戦場にてハ、鎗におとる心あり。鎗は先手也、長刀ハ後手也。おなじ位のまなびにしてハ、鎗ハ少強し。鎗長刀も、事により、つまりたる所にてハ、其利すくなし。とり籠りものなどに然るべからず。只戦場の道具なるべし。合戦の場にしてハ、肝要の道具也。されども、座敷にての利を覚へ、こまやかに思ひ、實の道を忘るゝに於てハ、出合がたかるべし。弓ハ、合戦の場にて、かけひきにも出合、鎗わき、其外ものきわ/\にて、早く取合する物なれバ、野合の合戦などに、とりわき能物也。城責など、又敵相二十間を越てハ、不足なるもの也。當世におゐてハ、弓ハ申に及バず、諸藝花多して、實すくなし。左様の藝能ハ、肝要の時、役に立難し。城郭の内にしてハ、鉄炮にしく事なし。野相などにても、合戦の初らぬうちにハ、其利多し。戦はじまりては、不足なるべし。弓の一【脱字】徳ハ、はなつ矢、人の目に見へてよし。鉄炮の玉ハ、目にミヘざる所不足なり。此儀、能々吟味あるべき事【◇】。馬の事、強くこたへて、くせなき事、肝要也。捴而、武道具につけ、馬も大かたにありき、かたな、わきざしも大かたにきれ、鎗長刀も大方にとをり、弓鉄炮もつよくそこねざる様に有べし。道具以下にも、かたわけてすく事あるべからず。あまりたる事ハ、たらぬとおなじ事也。人まねをせずとも、我身にしたがひ、武道具ハ手にあふやうに有べし。将卒ともに、物にすき、物を嫌ふ事、悪し。工夫肝要也。

 【楠家本】

一 兵法に、武具の利を知と云事。武道具の利をわきまゆるに、いづれの道具にても、おりにふれ、時にしたがひ、出合もの也。わきざしハ、座のせばき所、敵の身ぎわへよりて、其利おゝし。太刀ハ、いづれの所にても、大かた出合利有。長刀ハ、戦場にてハ鑓におとる心有。【脱字】先手也、長刀ハ後手也。同じくらゐのまなびニしてハ、鑓ハ少つよし。鑓長刀も、事により、つまりたる所にてハ、其利すくなし。とり籠りものなどにもしかるべからす。たゞ戦場の道具成べし。合戦の場にしてハ、肝要の道具也。されども、座敷にての利をおぼえ、こまやかにおもひ、実の道をわするゝにおゐてハ、出合がたかるべし。弓ハ、合戦の場にて、かけひきにも出合、鑓わき、其外物きわ/\にて、はやくとりあはするものなれハ、野相の合戦などに、とりわきよき物也。城せめなど、又、敵相二十間をこえてハ、不足なるもの也。當世におゐてハ、弓ハ申に不及、諸藝、花おゝくして実すくなし。さやうの藝能ハ、肝要の時、役にたちがたし。其利おゝし。城くハくのうちにしてハ、鉄炮にしく事なし。野相などにても、合戦のはじまらぬうちにハ、其利おゝし。戦はじまりてハ、不足なるべし。弓の一ツの徳ハ、はなつ矢、人の目に見えてよし。鉄炮の玉ハ、目にみえざる所、不足なり。此儀、能々吟味あるべき事【◇】。馬の事、つよくこたゑて、くせなき事、肝要也。惣而、武道具につけ、馬も大かたにありき、刀わきざしも大かたにきれ、鑓長刀も大形にとをり、弓鉄炮もつよくそこねざるやうに有べし。道具以下にも、かたわけてすく事、あるべからず。あまりたる【脱字】ハ、たらぬと同じ事也。人まねをせずとも、わが身にしたがひ、武道具ハ手にあふやうにあるべし。將卒ともに、ものにすき、ものをきらふ事、あしゝ。工夫肝要なり。

 【細川家本】

一 兵法に、武具の利を知と云事。武道具の利をわきまゆるに、いづれの道具にても、おりにふれ、時にしたがい、出合もの也。脇差は、座のせばき所、敵の身ぎわへよりて、其利おほし。太刀ハ、いづれの所にても、大形出合利あり。長刀は、戦場にてハ、鑓におとる心あり。鑓は先手なり、長刀ハ後手也。同じ位のまなびにしては、鑓は少つよし。鑓長刀も、事により、つまりたる所にてハ、其利すくなし。取籠り者などにもしかるべからず。只戦場の道具なるべし。合戦の場にしてハ、肝要の道具也。され共、座敷にての利をおぼへ、こまやかに思ひ、實の道を忘るゝにおゐてハ、出合がたかるべし。弓は、合戦の場にて、かけひきにも出合、鑓わき、其外物きわ/\にて、はやく取合するものなれば、野相の合戦などに、とりわきよき物也。城せめなど、又、敵相二十間をこへては、不足なる物也。當世におゐてハ、弓は申に及ず、諸藝、花多くして實すくなし。さやうの藝能は、肝要の時、役に立がたし。其利多し。城郭の内にしてハ、鉄炮にしく事なし。野相などにても、合戦のはじまらぬうちには、其利多し。戦はじまりてハ、不足なるべし。弓の一ツの徳ハ、放つ矢、人の目に見えてよし。鉄炮の玉ハ、目に見えざる所、不足也。此義、能々吟味有べき事【◇】。馬の事、つよくこたへて、くせなき事、肝要也。惣而、武道具につけ、馬も大形にありき、刀脇差も大形にきれ、鑓長刀も大かたにとをり、弓鉄炮もつよくそこねざるやうに有べし。道具以下にも、かたわけてすく事、あるべからず。あまりたる事ハ、たらぬと同じ事也。人まねをせず共、我身に随ひ、武道具は手にあふやうにあるべし。將卒共に、物にすき、物をきらふ事、悪シ。工夫肝要也。

 【丸岡家本】

一 兵法に武具の利を知と云事。武具の利を辨るに、何れの道具にても、折にふれ、時にしたがひ、出合もの也。脇差は、座の狭き處、敵の身際へよりて、其利多し。太刀ハ、何の處にても【脱字】出合利あり。長刀は、戦場にては、鎗におとる心あり。鎗は先手なり、長刀ハ後手なり。同位の学びニしては、鎗は少強し。鎗長刀も、事により、つまりたる所にては、其利少し。取籠者などにも然るべからず。唯戦場の道具なるべし。合戦の場ニしては、肝要の道具也。されども、座敷にての利を覚へ、細に思ひ、実の道を忘るゝにおいては、出合がたかるべし。弓は、合戦の場にて、驅引ニも出合、鎗脇、其外物きわ/\にて、早く取合するものなれば、野相の合戦などに、取分能もの也。城攻など、又、敵相に十間を越ては、不足なるもの也。當世においては、弓は云に不及、諸藝、華多くして、実少し。さやうの藝能は、肝心の時にやくに立がたし。【◇】城【脱字】の内にしては、鉄炮にしく事なし。野あひなどにても、合戦のはじまらぬ内には、其利多し。戦始りては、不足なるべし。弓の一の徳は、放つ矢、人の目に見えてよし。鉄炮の玉は、目に見えざる所、不足なり。此儀、よく/\吟味有べし。馬の事、強クこたへて、癖なき事、肝要なり。摠じて、武道具ニつけ、馬も大かたにありき、刀脇差も大かたにきれ、鎗長刀も大形にとほり、弓鉄炮もつよく損ねざるやうに有べし。道具以下にも、片つけてすく事、有べからず。餘りたる事ハ、足ぬと同事也。人まねをせずとも、我身に隨ひ、武道具は手にあふやうに有べし。將卒ともに、物にすき、物を嫌ふこと、あしゝ。工夫肝要なり。

 【富永家本】

一 兵法に、武具の利を知ると云事。武具の利をわきまゆるに、何れの道具にても、折にふれ、時にしたがゐ、出合者なり。脇差ハ、座のせばき所、敵のミぎわへ寄りて、其利多し。太刀ハ、いづれの處にても、大形出合利有。長刀ハ、戦場にてハ鑓におとる心有。鑓ハ先手也、長刀ハ後手也。同じ位のまなびニしてハ、鑓ハ少し強し。鑓長刀も、事に寄、つまりたる所にてハ、其利すくなし。取籠る者などにも不可然。只戦場の道具なるべし。合戦【脱字】場にして【脱字】、肝要の道具也。然ども、座敷にての利を覚、こま【脱字】かに思ひ、実の道をわするゝにおゐてハ、出合がたかるべし。弓ハ、合戦の場にて、かけ引ニも出合、鑓わき、其外物きわ/\にて、早く取合【脱字】物なれバ、埜相の合戦などに、取わけ能物也。城せめなど、又、敵合弐拾間を越てハ、不足なる物也。當世におゐてハ、弓ハ申ニ不及、諸藝、花多くして実少し。左様の藝能ハ、肝要の時、役に立がたし。其利少し。城郭の内にしてハ、鉄炮にしく事なし。埜相などにても、合戦を初ぬ内ニハ、其利多し。戦初てハ、不足なるべし。弓の一ツの徳ハ、はなつ矢の、人の目に見へてよし。鉄炮の玉ハ、目に見へざる所、不足也。此儀、能々吟味有べき事【◇】。馬の事、強くこたへてくせなき事、肝要也。惣而、武道具に付ケ、馬も大形にありき、刀脇差も大形にきれ、鑓長刀も大かたに通り、弓鉄炮も強くそこねざるやうに有べし。道具以下ニも、かたわけてすく事、不可有。餘りたる事ハ、たらぬと同じ事也。人まねをせずとも、我身にしたがひ、武道具ハ手にあふやうニあるべし。将卒共に、物にすき、【脱字】きろふ事、悪しゝ。工夫肝要なり。

 【常武堂本】

一 兵法に、武具の利を知と云事。武道具の利をわきまゆるに、いづれの道具にても、をりにふれ、時にしたがひ、出合もの也。脇差は、座のせばき所、敵の身ぎわへよりて其利おほし。太刀ハ、いづれの所にても、大形出合利あり。長刀ハ、戦場にてハ鑓におとる心あり。鑓ハ先手なり、長刀ハ後手也。同じ位のまなびにしてハ、鑓ハ少つよし。鑓長刀も、事により、つまりたる所にてハ、其利すくなし。取籠り者などにもしかるべからず。只戦場の道具なるべし。合戦の場にしてハ、肝要の道具也。され共、座敷にての利をおぼえ、こまやかに思ひ、實の道を忘るゝに於てハ、出合がたかるべし。弓ハ、合戦の場にて、かけひきにも出合、鑓わき、其外物きわ/\にて、はやく取合するものなれバ、野相の合戦などに、とりわきよき物也。城せめなど、又、敵相二十間をこえてハ、不足なる物也。當世に於てハ、弓ハ申に及バず、諸藝、花多くして實すくなし。さやうの藝能は、肝要のとき、役に立がたし。其利少し。城郭の内にしてハ、鉄炮にしく事なし。野相などにても、合戦のはじまらぬうちには、其利多し。戦はじまりてハ、不足なるべし。弓の一ツの徳ハ、放つ矢、人の目にみえてよし。鉄炮の玉ハ目にみえざる所、不足也。此義、能々吟味有べき事【◇】。馬の事、つよくこたへて、くせなき事、肝要也。惣て、武道具につけ、馬も大形にありき、刀脇差も大形にきれ、鑓長刀も大かたにとをり、弓鉄炮もつよくそこねざるやうに有べし。道具以下にも、かたわけてすく事、あるべからず。あまりたる事ハ、たらぬと同じ事也。人まねをせずとも、我身に随ひ、武道具は手にあふ様にあるべし。將卒共に、物にすき、物をきらふ事、悪し。工夫肝要也。

 【田村家本】

一 兵法ニ武具ノ利ヲ知ト云事 武道具ノ利ヲ弁ルニ、何レノ道具ニテモ、折ニフレ、時ニ隨ヒ、出合モノ也。脇指ハ座ノセバキ処、テキノ身ギワエヨリテ其利多シ。太刀ハ何処ニテモ大方出合利アリ。長刀ハ、戦場ニテハ鎗ニヲトル心アリ、鑓ハ先テ也、長刀ハ後【脱字】也。同位ノ学ビニテハ、鎗ハ少強シ。【脱字】長刀モ、事ニヨリツマリタル処ニテハ其利スクナシ。取篭者抔ニモ然ベカラズ。只戦場ノ道具ナルベシ。合戦ノ場ニシテハ肝要ノ道具也。サレ共、座シキニテノ利ヲ覚エ、細ニ思、實ノ道ヲ忘ニ於ハ、出合難カルベシ。弓ハ、合戦ノ場ニテカケ引【脱字】モ出合、鑓脇、其外モノキハモノキワニテ、早ク取合スルモノナレバ、野相ノ合戦抔ニトリワキ能モノ也。城責抔、マタ敵相二十間ヲ越テハ不足ナルモノナリ。當世ニ於テハ、弓ハ云ニ及バズ、諸藝、花多【脱字】テミスクナシ。サヨウノ藝能ハ、肝要ノ時役ニタチガタシ。城郭ノ内ニシテハ、鉄炮ニシク事ナシ。野相ナドニテモ、合戦ノハジマラヌウチニハ其利多シ。【◇】合戦ハジマリテハ不足ナルベシ。弓ノ一ツノ徳ハ、放ツ箭、人ノ目ニミエテヨシ。鉄炮ノ玉ハ、目ニ見エザル処、不足也。此義、ヨク々吟味アルベシ【脱字】。馬ノ事、ツヨクコタエテクセナキヨト肝要ナリ。惣而、武道具ニ付テ、馬モ大方ニアリキ、【脱字】脇差モ大方ニ切レ、鎗長刀モ大方ニ通リ、弓鎗鉄炮モ強クソコネザルヨウニ有ベシ。道具以下ニモ、方付テスク事有ベカラズ。アマリタル事ハ、タラヌト同事也。人マネヲセズ共、我【脱字】ニ隨ヒ、武道具ハ手ニ合フヨフニ有ベシ。將卒共ニ、モノニスキ物ヲキロウ事、アシ丶。工夫肝要ナリ。

 【狩野文庫本】

一 兵法ニ武具の利を知ると云事。武家の利を弁るニ、何れの道具ニ而も、折ニふれ、時ニ隨ひ、出合者也。脇指は座の狭き所、敵の身際へ寄て其利多し。太刀ハ何れのところニ而も大形出合所有。長刀は、戦場にてハ鑓におとる心有。鑓は先手也、長刀ハ後手也。同じ位のまなびニしてハ、鑓は少強し。鑓長刀も、事により詰りたる所にてはその利少し。取篭もの抔ニも不可然。只戦場の道具成べし。合戦の場にしてハ肝要の道具なれども、座敷ニ而の利を覚、こまやかに思ひ、実の道を忘ニおゐてハ、出合がた【脱字】し。弓ハ、戦場ニ而懸引にも出合、鑓脇、其外の物際/\にて、はやく取合するものなれバ、野合の合戦抔ニ取分能者也。城責抔、又敵合廿間も越てハ不足成物也。當世におゐては、弓は不及申、諸藝、花多して実すくなし。左様の藝能ハ、肝要の時、役に立がたき事。其利多し。城郭【脱字】内にして【脱字】鉄炮にしくハなし。野合などにても、合戦の始らぬうちニハ其利多し。戦初而ハ不足成べし。弓の一ツの徳ハ、放矢、人の目ニ見ヘてよし。鉄炮の玉ハ、目に見へぬ所、不足也。此儀、能々吟味有べし。馬の事、つよくこたへて曲なき事肝要也。惣而、武道具ニ付て、馬も大形にあるき、刀脇指も大方ニ切、鑓長刀も大方にとをり、弓鉄炮も強そこねざるやうに有べし。道具以下ニも、片わけてすく事有べからず。余りたる【脱字】ハ、たらぬと同ジ事。人まねをせずとも、我身に隨ひ、武【脱字】具ハ手にあふやうに有べし。將卒共、物にすき物を嫌ふ事、惡し。工夫肝要也。

 【多田家本】

一 兵法に武具の利を知ると云事。武具の利を弁ゆるに、何れの道具に【脱字】も、折にふれ、時に隨ひ、出合もの也。脇指ハ、座のせまき処、敵の身際へよりて、其利多し。太刀ハ、何れの所にても大形出合利有。長刀は、戦場にてハ、鑓に劣る心有。鑓は先手也、長刀ハ後手也。同じ位の學【脱字】してハ、鑓ハ少し強し。鑓長刀も、事によつて、つまりたる所にては、其利少し。取籠者抔にも然べからず。只戦場の道具なるべし。合戦の場にしてハ、肝要の道具也。され共、座敷にての利をおぼえ、細やかに思ひ、実の道を忘るゝにをひてハ、出合がたかるべし。弓は、合戦の場にて、かけ引【脱字】も出合、鑓脇、其外物きわ/\にて、早く取合【脱字】る物なれバ、野相の合戦抔に、取分よき物也。城責抔、又は敵相弐拾間を越てハ、不足なるもの也。當世にをひてハ、弓は申に不及、諸藝花多して、実少し。ケ様の藝能は、肝要の時、役に立がたき事、其理多し。城郭の内にして【脱字】鉄炮にしく事なし。野合抔にても、合戦の始らぬ内にてハ、其利多し。戦始てハ、不足なるべし。弓の一の徳ハ、放つ矢、人の目に見へてよし。鉄炮の玉は、目に見ヘざる所、不足也。此義、能々吟味有べし。馬の事、強くこたへて、曲なき事、肝要也。惣て、武【脱字】具につけ、馬も大形にあり【脱字】、刀脇指も大形にきれ、鑓長刀も大形に通り、弓鉄炮も強くそこねざる様に有べし。道具以下にも、かたわけてすく事有べからず。餘りたる【脱字】ハ、たらぬと同じ事也。人真似をせずとも、我身に隨ひ、武【脱字】具は手にあふやうに有べし。将卒共に、物にすき、物を嫌ふハ、悪し。工夫肝要也。

 【山岡鉄舟本】

一 兵法【脱字】武具ノ利ヲ知ト云事。武道具ノ利ヲ知ト云事(重複)。武道具ノ利ヲ辨ルニ、何レノ道具ニテモ、折ニフレ、時ニ随ヒ、出合モノ也。脇指ハ、座ノセバキ所、敵ノ身際ヘヨリテ其利多シ。太刀ハ、何ノ所ニテモ、大方出合利有。長刀ハ、戦場ニテハ槍ニヲトル心アリ。槍ハ先手也、長刀ハ後手也。同ジ位ノ学ニシテハ、槍ハ少強シ。槍長刀モ、事ニヨリツマリタル所ニテハ、其利スクナシ。取コモリ者抔ニモ然ルベカラズ。只戦場之道具ナルベシ。合戦ノ場ニシテハ肝要ノ道具也。去レ共、坐舗ニテノ利ヲ覚、コマカニ思ヒ、實ノ道ヲ忘ルニ於テハ、出合ガタカルベシ。弓ハ、合戦ノ場ニテ、懸ケ引ニモ出合、鎗脇、其外モノキハ/\ニテ、早ク取合【脱字】ル物ナレバ、野相ノ合戦ナドニ取ワケヨキモノ也。城責ナド、又敵相二十間ヲ越テハ、不足ナル者也。當世ニ於テハ、弓ハ申ニ及ズ、諸藝、花多ク【脱字】テ、實少シ。左様ノ藝能ハ、肝要ノ時ニ役ニ立難シ。其利多(訂正「少」)シ。城郭ノ内ニシテハ、鉄炮ニシク事ナシ。野相抔ニテモ、合戦ノ始マラヌ内ニシテハ、其利多シ。合戦始リテハ、不足ナルベシ。弓ノ一ツ之徳ハ、放ツ矢、人ノ目ニ見ヘテヨシ。鉄炮ノ玉ハ、目ニ見ヘザル処、不足也。此義、能々吟味有べき事【◇】。馬ノ事、強ク對テ、クセナキ事、肝要也。惣テ、武道具ニツケ【脱字】、馬モ大方ニアリ【脱字】、刀脇指モ大方ニ切レ、槍長刀モ大方ニ通リ、弓鉄炮モ強クソコネザル様ニ有ベシ。道具已下ニモ、カク分チスル事有ベカラズ。余リタル事ハ、足ヌト同ジ事ナリ。人マネヲセズトモ、我身ニ隨ヒ、武道具ハ手ニ合様ニ有ベシ。将卒共ニ、モノ【脱字】好キ、物ヲ嫌フ事、悪シ。工夫肝要也。

 【稼堂文庫本】

一 兵法に、武具の理を知ると云事。武具の利を弁る事、何れ【脱字】道具にても、折にふれ、時に隨ひ、出合者也。脇差は、座のせばき處、敵の身際に寄て其利多し。太刀ハ、何れの所にても、大形出合利あり。長刀ハ、戦場にてハ鑓に劣る心有。鑓は先手也、長刀ハ後手也。同じ位の学びにしてハ、鑓ハ少し強し。【脱字】長刀も、事に寄、つまりたる所にてハ、其利少し。取籠者抔にも、しかるべからず。只戦場の道具成るべし。合戦の場にしてハ、肝要の道具也。然れども、座敷にての利を覚へ、細かに思ひ、実の道を忘るゝに於てハ、出合がたかるべし。弓は、合戦の場にて、駆引にも出合、鑓わき、其外物きわ/\にて、早く取合する物なれバ、野合の合戦抔に、取分能者也。城責抔、又ハ、敵合二十間を越ては、不足成る物也。當世に於ては、弓ハ申に及ず、諸藝、花多くして実少し。左様の藝能ハ、肝要の時、役にたち難く、其利少し。城郭の内にしてハ、鉄炮にしく事なし。野合抔にても、合戦を始めぬ内には、其利多し。戦初りてハ、不足成べし。弓の一ツの徳ハ、放矢、人の目に見へてよし。鉄炮は玉、目に見へざる所、不足也。此儀、能々吟味有べき事なり。馬の事、つよくこたへて曲なき事、肝要也。惣而、武【脱字】具に付、馬も大形にありき、刀脇差も大形に切レ、鑓長刀【脱字*******************】道具已下にも、かたわけてすく事、不可有。餘りたる【脱字*******************】道具は手に逢様に有べし。将卒共に、物に好き、物を嫌ふ事、悪し。工夫肝要也。  

 【大瀧家本】

一 兵法に、武具の利を知るといふ事。武具の利をわきまふるに、何の道具にても、折にふれ、時に隨ひ、出合もの也。脇指ハ、座の狭き所、敵の身ぎハへよりて其利多し。太刀ハ、何れの所にても、大かた出合利有。長刀は、戦塲にてハ鎗におとる心有。鎗ハ先手也、長刀ハ後手也。同じ位の学びにしては、鑓は少し強し。鎗長刀も、事に寄り、つまりたる所にてハ、其利少し。取籠りものなどに、然るべからず。只戦塲の道具なり。合戦の塲にしてハ、肝要の道具なり。され共、座敷にての利を覚へ、こまやかに思ひ、実の道を忘るゝにおゐてハ、出合がたかるべし。弓ハ、合戦の塲にて、かけひきにも出合、鎗業、其外ものきわ/\にて、はやく取合するものなれバ、野合の合戦などに、とりわき能もの也。城責抔、又、敵間弐拾間を越てハ、不足なるものなり。當世におゐてハ、弓ハ申に及ばず、諸藝、花多くして実すくなし。左様の藝能ハ、肝要の時、役に立難し。城郭の内にしてハ、鉄炮にしく事なし。野相などにても、合戦の初まらぬ内にハ、其利多し。戦はじまりてハ、不足なるべし。弓の一ツの徳ハ、はなつ矢、人の目に見へてよし。鉄炮の玉ハ、目に見へざる處、不足なり。此儀、能々吟味有べき事也。馬の事、強くこたへてくせなき事、肝要なり。惣而、武道具につけ、馬も大かたにありき、刀脇差も大方に切れ、鎗長刀も大方に通り、弓鉄炮も強くそこねざる様に有べし。道具以下にも、かたわけて好く事、あるべからず。あまりたる事ハ、たらざるに同じ事也。人まねをせずとも、我身に随ひ、武道具ハ手にあふ様に有べし。將卒共に、物に好き、物を嫌ふ事、悪し。工夫肝要なり。    PageTop    Back   Next 

  10 兵法の拍子の事

 【吉田家本】

一 兵法の拍子の事。物ごとにつき、拍子ハ有ものなれども、取わき兵法の拍子、鍛練なくしてハ、及がたき所也。世の中の拍子顕て有事、亂舞のミち、伶人管弦のひやうしなど、是皆能あふ所のろくなる拍子なり。武藝の道にわたつて、弓を射、鉄炮を放し、馬に乗事迄も、拍子調子ハ有り。諸藝諸能に至ても、拍子を背事ハ有べからず。又、空なる事におゐても、拍子ハあり。武士の身の上にして、奉公に身をしあぐる拍子、しさぐる拍子、はずの相拍子、はずのちがふ拍子あり。或、商の道、分限になる拍子、分限にても其絶拍子、道々につけて、拍子の相違有事也。物毎、さかゆる拍子、おとろふるひやうし、能々分別すべし。兵法の拍子におゐて、さま/\有事也。先、相拍子をしつて、ちがふ拍子をわきまへ、大小遅速の拍子のうちにも、あたる拍子を知り、間の拍子をしり、背く拍子を知事、兵法の専也。此背拍子、わきまへ得ずしてハ、兵法たしかならざる事也。兵法の戦に、其敵々々の拍子をしり、敵の思ひよらざる拍子をもつて、空の拍子を知り、智恵の拍子より發して勝所也。いづれの巻にも、ひやうしの事を専書記也。其書付を吟味して、能々鍛錬有べきもの也。

 【立花隨翁本】

一 兵法の拍子の事。物ごとにつき、拍子ハあるものなれども、とりわき兵法の拍子、鍛練なくしてハ及がたき所也。世の中の拍子顕れて有【破損】、乱舞のみち、伶人管弦の拍子など、是皆能あふ所のろくなる拍子なり。武藝の道にわたつて、弓を射、鉄砲を放ち、馬に乗事迄も、拍子調子ハ有。諸藝諸能に至ても、拍子を背く事ハ有べからず。又、空なる事に於ても、拍子ハあり。武士の身の上にして、奉公に身をしあぐる拍子、しさぐる拍子、はずのあふ拍子、はずのちがふ拍子あり。或ハ、商の道、分限になる拍子、【破損◇◇】も其絶拍子、道々につけて、拍子の相違有事也。物ごと、さかゆる拍子、おとろふるひやうし、能々分別すべし。兵法の拍子に於て、さま/\有事なり。先、あふ拍子をしつて、ちがふ拍子をわき【破損】、大小遅速の拍子の内にも、あたる拍子をしり、間の拍子をしり、背く拍子をしる事、兵法の専也。此背く拍子、わきまへ得ずしてハ、兵法たしかならざる事也。兵法の戦に、其敵/\の拍【破損】しり、敵の思ひよらざる拍子を以て、空の拍子をしり、智恵の拍子より發して勝所也。いづれの巻にも、拍子の事を専書記也。其書付を吟味して、能々鍛錬有べき物也。

 【渡辺家本】

一 兵法の拍子の事。物ごとにつき、拍子ハあるものなれども、とりわき兵法の拍子、鍛練なくしてハ及がたき所也。世の中の拍子顕れて有事、乱舞のミち、伶人管弦の拍子など、是皆能あふ所のろくなる拍子なり。武藝の道にわたつて、弓を射、鉄炮を放ち、馬に乗事迄も、拍子調子ハ有。諸藝諸能に至ても、拍子を背く事【脱字】あるべからず。又、空なる事に於ても、拍子ハあり。武士の身の上にしても、奉公に身をしあぐる拍子、しさぐる拍子、はずのあふ拍子、はずのちがふ拍子あり。或ハ、商の道、分限になる拍子、分限にても其絶拍子、道々につけて、拍子の相違有事也。物ごと、さかゆる拍子、おとろふる拍子、能々分別すべし。兵法の拍子に於て、さま/\有事也。先、あふ拍子をしつて、ちがふ拍子をわきまへ、大小遅速の拍子の内にも、あたる拍子をしり、間の拍子をしり、背く拍子をしる事、兵法の専也。此背く拍子、わきまへ得ずしてハ、兵法たしかならざる事也。兵法の戦に、其敵/\の拍子をしり、敵の思ひよらざる拍子を以て、空の拍子をしり、智恵の拍子より發して勝所也。いづれの巻にも、拍子の事を専書記也。其書付を吟味して、能々鍛錬有べき物也。

 【中山文庫本】

一 兵法の拍子の事。物ごとにつき、拍子ハ有ものなれども、取わき兵法の拍子、鍛練なくしてハ、及がたき所也。世の中の拍子顕て有事、乱舞の道、伶人管弦のひやうしなど、是皆能あふ所のろくなる拍子也。武藝の道にわたつて、弓を射、鉄炮を放し、馬に乗事迄も、拍子調子ハあり。諸藝諸能に至ても、拍子を背事ハ有べからず。又、空なる事におゐても、拍子ハあり、武士の身の上にして、奉公に身をしあぐる拍子、しさぐる拍子、はずの相拍子、はずのちがふ拍子有。或ハ、商の道、分限になる拍子、分限にても其絶拍子、道々につけて、拍子の相違有事也。物毎、さかゆる拍子、おとろふるひやうし、能々分別すべし。兵法の拍子に於て、さま/\有事也。先、相拍子をしつて、ちがふ拍子をわきまへ、大小遅速の拍子のうちにも、あたる拍子をしり、間の拍子をしり、背く拍子を知事、兵法の専也。此背拍子、わきまへ得ずしてハ、兵法たしかならざる事也。兵法の戦に、其敵々の拍子をしり、敵の思ひよらざる拍子をもつて、空の拍子を知り、智恵の拍子より発して勝所也。いづれの巻にも、ひやうしの事を専書記也。其書付を吟味して、能々鍛錬有べきもの也。

 【近藤家乙本】

一 兵法の拍子の事。物ごとにつき、拍子ハあるものなれども、とりわき兵法の拍子、鍛練なくしてハ及がたき所也。世の中の拍子顕れて有事、乱舞のミち、伶人管弦の拍子など、是皆能あふ所のろくなる拍子なり。武藝の道にわたつて、弓を射、鉄炮を放ち、馬に乗事迄も、拍子調子ハ有。諸藝諸能に至ても、拍子を背く事ハあるべからず。又、空なる事に於ても、拍子ハあり。武士の身の上にしても、奉公に身をしあぐる拍子、しさぐる拍子、はずのあふ拍子、はずのちがふ拍子あり。或ハ、商の道、分限になる拍子、分限にても其絶拍子、道々につけて、拍子の相違有事也。物ごと、さかゆる拍子、おとろふるひやうし、能々分別すべし。兵法の拍子に於て、さま/\有事なり。先、あふ拍子をしつて、ちがふ拍子をわきまへ、大小遅速の拍子の内にも、あたる拍子をしり、間の拍子をしり、背く拍子をしる事、兵法の専也。此背く拍子、わきまへ得ずしてハ、兵法たしかならざる事也。兵法の戦に、其敵/\の拍子をしり、敵の思ひよらざる拍子を以て、空の拍子をしり、智恵の拍子より發して勝所也。いづれの巻にも、拍子の事を専書記也。其書付を吟味して、能々鍛錬有べき物也。

 【石井家本】

一 兵法の拍子の事。物ごとにつけ、拍子ハあるものなれども、とりわき兵法の拍子、鍛練なくしてハ及がたき所也。世の中の拍子顕れて有事、乱舞のミち、伶人管弦の拍子など、是皆能あふ所のろくなる拍子なり。武藝の道にわたつて、弓を射、鉄炮を放ち、馬に乗事迄も、拍子調子ハ有。諸藝諸能に至ても、拍子を背く事ハあるべからず。又、空なる事に於ても、拍子ハあり。武士の身の上にして(も)、奉公に身をしあぐる拍子、しさぐる拍子、はづの相拍子、はずのちがふ拍子あり。或、商の道、分限にても其絶拍子、分限になる拍子(語順)、道々につけて、拍子の相違有事也。物ごと、さかゆる拍子、おとろふる拍子、能々分別すべし。兵法の拍子に於て、さま/\有事也。先、あふ拍子をしつて、ちがふ拍子をわきまへ、大小遅速の拍子の内にも、あたる拍子をしり、間の拍子をしり、背く拍子をしる事、兵法の専也。此背く拍子をわきまへ得ずしてハ、兵法たしかならざる事也。兵法の戦に、其敵/\の拍子をしり、敵の思ひよらざる拍子を以て、空の拍子をしり、智恵の拍子より發して勝所也。いづれの巻にも、拍子の事を専書記也。其書付を吟味して、能々鍛錬有べき物也。

 【伊丹家本】

一 兵法の拍子の事。物毎に付、拍子ハ有物なれ共、取分兵法の拍子、鍛練なくくしてハ、及難き所也。世の中の拍子顕れて有事、亂舞の道、伶人管弦の拍子など、是皆能あふ所のろくなる拍子也。武藝の道に渡て、弓を射、鉄砲を放し、馬に乗事迄も、拍子調子ハ有り。諸藝諸能に至ても、拍子を背事は有可からず。又、空なる事ニ於ても、拍子ハ有。武士の身の上にして、奉公に身をしあぐる拍子、しさぐる拍子、はずの相拍子、はずのちがふ拍子有。或は、商の道、分限ニなる拍子、分限ニても其絶拍子、道々につけて、拍子の相違有事也。物毎、榮ゆる拍子、おとろふる拍子、能/\分別すべし。兵法の拍子に於て、さま/\有事也。先、相拍子を知て、違ふ拍子をわきまへ、大小遅速の拍子の内ニも、あたる拍子を【脱字**********】しる事、兵法の専也。此背拍子、わきまへ【脱×得】ずしては、兵法たしかならざる事也。兵法の戦ニ、其敵々の拍子を知、敵のおもひよらざる拍子をもつて、空の拍子を知り、智恵の拍子より發して勝所也。いづれの巻ニも、拍子の事を専書記なり。其書付を吟味して、能々鍛錬有可き物也。

 【伊藤家本】

一 兵法の拍子の事。物ごとにつき、拍子ハあるものなれども、とりわき兵法の拍子、鍛練なくしてハ及がたき所也。世の中の拍子顕れて有事、乱舞のミち、伶人管弦の拍子など、是皆能あふ所のろくなる拍子なり。武藝の道にわたつて、弓を射、鉄炮を放ち、馬に乗事迄も、拍子調子ハ有。諸藝諸能に至ても、拍子を背く事ハあるべからず。又、空なる事に於ても、拍子ハあり。武士の身の上にしても、奉公に身をしあぐる拍子、しさぐる拍子、はずのあふ拍子、はずのちがふ拍子あり。或は、商の道、分限になる拍子、分限にても其絶拍子、道々につけて、拍子【脱字】相違有事也。物ごと、さかゆる拍子、おとろふる拍子、能々分別すべし。兵法の拍子に於て、さま/\有事也。先、あふ拍子をしつて、ちがふ拍子をわきまへ、大小遅速の拍子の内にも、あたる拍子をしり、間の拍子をしり、背く拍子をしる事、兵法の専也。此背く拍子、わきまへ得ずしてハ、兵法たしかならざる事也。兵法の戦に、其敵々の拍子をしり、敵の思ひよらざる拍子を以て、空の拍子をしり、智恵の拍子より發して勝所也。いづれの巻にも、拍子の事を専書記也。其書付を吟味して、能々鍛錬有べき物也。

 【神田家本】

一 兵法の拍子の事。物ごとにつけ、拍子ハあるものなれども、とりわき兵法の拍子、鍛練なくしてハ及がたき所也。世の中の拍子顕れて有事、乱舞のミち、伶人管弦の拍子など、是皆能あふ所のろくなる拍子なり。武藝の道にわたつて、弓を射、鉄炮を放ち、馬に乗事迄も、拍子調子ハ有。諸藝諸能に至ても、拍子を背く事ハあるべからず。又、空なる事に於ても、拍子ハあり。武士の身の上にしても、奉公に身をしあぐる拍子、しさぐる拍子、はづの相拍子、はずのちがふ拍子あり。或、商の道、分限にても其絶拍子、分限になる拍子(語順)、道々につけて、拍子の相違有事也。物ごと、さかゆる拍子、おとろふる拍子、能々分別すべし。兵法の拍子に於て、さま/\有事也。先、あふ拍子をしつて、ちがふ拍子をわきまへ、大小遅速の拍子の内にも、あたる拍子をしり、間の拍子をしり、背く拍子をしる事、兵法の専也。此背く拍子、わきまへ得ずしてハ、兵法たしかならざる事也。兵法の戦に、其敵/\の拍子をしり、敵の思ひよらざる拍子を以て、空の拍子をしり、智恵の拍子より發して勝所也。いづれの巻にも、拍子の事を専書記也。其書付を吟味して、能々鍛錬有べき物也。

 【楠家本】

一 兵法の拍子の事。物毎につき、拍子ハある物なれども、とりわき兵法の拍子、鍛練なく【脱字】てハ、及がたき所也。よの中の拍子あらはれてある事、乱舞の道、例人官絃の拍子など、是皆よくあふ所のろくなる拍子也。武藝の道にわたつて、弓を射、鉄炮をはなし、馬に乗事迄も、拍子調子ハ有。諸藝諸能に至ても、拍子をそむく事ハあるべからす。又、空なる事におゐても、拍子ハ有。武士の身の上にして、奉公に身をしあぐる拍子、しさぐる拍子、はづのあふ拍子、はづのちがふ拍子あり。或ハ、あきなひの道、分限になる拍子、分限にても其たゆる拍子、道/\につけて、拍子の相違有事也。物毎のさかゆる拍子、おとろふる拍子、能々分別すべし。兵法の拍子におゐて、さま/\有事なり。先、あふ拍子をしつて、ちがふ拍子をわきまへ、大小遅速の拍子の中にも、あたる拍子をしり、間の拍子をしり、そむく拍子をしる事、兵法の専也。此そむく拍子、わきまへ得ずしてハ、兵法たしかならざる事也。兵法の戦に、其敵/\の拍子をしり、敵のおもひよらざる拍子をもつて、空の拍子を【脱字】、知恵の拍子より發して勝所也。いづれの巻にも、拍子の事を専書しるす也。其書付の吟味をして、能々鍛練有べき者也。

 【細川家本】

一 兵法の拍子の事。物毎に付、拍子は有物なれども、とりわき兵法の拍子、鍛練なく【脱字】ては、及がたき所也。世の中の拍子あらハれてある事、乱舞の道、れい人管絃の拍子など、是皆よくあふ所のろくなる拍子也。武藝の道にわたつて、弓を射、鉄炮を放、馬にのる事迄も、拍子調子はあり。諸藝諸能に至ても、拍子をそむく事ハ有べからず。又、空なる事におゐても拍子はあり。武士の身の上にして、奉公に身をしあぐる拍子、しさぐる拍子、筈のあふ拍子、筈のちがふ拍子あり。或ハ、商の道、分限になる拍子、分限にてもそのたゆる拍子、道/\につけて、拍子の相違有事也。物毎のさかゆる拍子、おとろふる拍子、能々分別すべし。兵法の拍子におゐて、様々有事也。先、あふ拍子をしつて、ちがふ拍子をわきまへ、大小遅速の拍子の中にも、あたる拍子をしり、間の拍子をしり、背く拍子をしる事、兵法の専也。此そむく拍子、わきまへ得ずしてハ、兵法たしかならざる事也。兵法の戦に、其敵/\の拍子をしり、敵のおもひよらざる拍子をもつて、空の拍子を【脱字】、智恵の拍子より發して勝所也。いづれの巻にも、拍子の事を専書記也。其書付の吟味をして、能々鍛練有べき物也。

 【丸岡家本】

一 兵法の拍子の事。物ごとにつき、拍子は有ものなれども、取分兵法の拍子、鍛錬なく【脱字】ては及がたき所也。世の中の拍子顕れてある事、乱舞の道、伶人管絃の拍子など、是皆能あふ所のろく成拍子也。武藝の道に渡て、弓を射、鉄炮を放し、馬に乘事迄も、拍子調子はあり。諸藝諸能に至ても、拍子を背く事は有べからず。又、空なる事におゐても、拍子ハあり。武士の身の上ニして、奉公に身を仕あぐる拍子、仕下る拍子、筈の合拍子、筈の違ふ拍子あり。或は商の道、分限になる拍子、分限にても其絶る拍子、道々につけて、拍子の相違ある事也。物ごとの榮る拍子、衰る拍子、能々分別すべし。兵法の拍子におゐて、さま/\ある事也。先、合拍子を知て、違ふ拍子を辨へ、大小遅速の拍子の中ニも、あたる拍子を知、間の拍子を知、背く拍子をしること、兵法の専也。此背く拍子を弁へ得ずしては、兵法たしかならざる事也。兵法の戦に、其敵々の拍子を知、敵の思寄ざる拍子を以て、空の拍子を【脱字】、智恵の拍子より發して勝所也。何れの巻にも、拍子の事を専書記也。其書付の吟味をして、能々鍛錬有べき者也。

 【富永家本】

一 兵法の拍子の事。物毎ニ付、拍子ハ有物なれども、取わき兵法の拍子、鍛練なく【脱字】てハ、難及所なり。世の中の拍子あらわれて有事、乱舞の道、伶人管弦の拍子など、是皆能あふ所のろく成拍子なり。武藝の道にわたつて、弓を射、鉄炮をはなし、馬ニ乗事までも、拍子調子ハ有。諸藝諸能に至ても、拍子をそむく事ハ不可有。又、空なる事におゐても拍子ハ有、武士の身の上にしても、奉公に身を仕上る拍子、仕さぐる拍子、はづのあふ拍子、はづの違拍子あり。或は、あきなゐの道、分限になる拍子、分限にても其たゆる拍子、道/\ニ付て、拍子の相違有事なり。物毎のさかゆる拍子、おとろふる拍子、能々分別すべし。兵法の拍子におゐて、様々有事也。先、あふ拍子を知て、違拍子をわきまへ、大小遅速の拍子【脱字】中ニも、當る拍子を知り、間の拍子を知り、そむく拍子をしる事、兵法の専也。此そむく拍子をわきま【脱字】ゑずしてハ、兵法たしかならざる事也。兵法の戦に、其敵/\の拍子を知り、敵のおもひよらざる拍子を以て、空の拍子を知り(智)恵の拍子より發して勝處なり。いづれの巻にも、拍子の事を

専書しるすなり。其書付の吟味をして、能々鍛練可有もの也。  【常武堂本】

一 兵法の拍子の事。物毎に付、拍子ハ有物なれども、とりわき兵法の拍子、鍛練なく【脱字】てハ、及がたきところ也。世中の拍子あらはれてある事、乱舞の道、れい人管絃の拍子など、是皆よくあふ所のろくなる拍子也。武藝の道にわたつて、弓を射、鉄炮を放、馬にのる事までも、拍子調子ハあり。諸藝諸能に至ても、拍子をそむく事ハ有べからず。又、空なる事に於ても拍子ハあり。武士の身の上にして、奉公に身をしあぐる拍子、しさぐる拍子、筈のあふ拍子、筈のちがふ拍子あり。或ハ、商の道、分限になる拍子、分限にてもそのたゆる拍子、道/\につけて、拍子の相違有事也。物毎のさかゆる拍子、おとろふる拍子、能々分別すべし。兵法の拍子に於て、様々有事也。先、あふ拍子をしつて、ちがふ拍子をわきまへ、大小遅速の拍子の中にも、あたる拍子をしり、間の拍子をしり、背く拍子をしる事、兵法の専也。此そむく拍子、わきまへ得ずしてハ、兵法たしかならざる事也。兵法の戦に、其敵/\の拍子をしり、敵の思ひよらざる拍子を以て、空の拍子を【脱字】、智恵の拍子より発して勝所也。いづれの巻にも、拍子の事を専書記也。其書付の吟味をして、能々鍛練有べき物也。

 【田村家本】

一 兵法ノ拍子ノ事 モノ事ニ付、拍子ハ有モノナレ共、トリワキ兵法ノ拍子、鍛練ナク【脱字】テハ及難キ処也。世ノ中ノ拍子顯テ有コト、乱舞ノ道、伶人管絃ノ拍子抔、是皆能アフ處ノロクナル拍子也。武藝ノ道ニ渉テ、弓ヲ射、鉄炮ヲ放、馬ニ乗事マデモ、拍子調子ハ在。諸藝諸能ニ至テモ、拍子ヲソムク事ハ有ベカラズ。又、空ナル事ニ於テモ拍子ハ有、武士ノ身ノ上ニシテ、奉公【脱字】ヲ仕上ル拍子、仕下ル拍シ、筈ノ合拍子、筈【脱字】チゴウ拍子在。或商ノ道、分限ニナル拍子、分限ニ成テモ其絶ル拍子、道々ニ付テ拍子ノ相違有事也。物ゴトノ栄ル拍子、衰ユル拍子、能々分別スベシ。兵法ノ拍子ニ於テハさま々有コト也。先相拍子ヲ知テ、違フ拍子ヲワキマヱ、大小遅速ノ拍子ノ中ニテモ、當ル拍子ヲ【脱字*****************】知事、兵法ノ専也。此背ク拍子ヲワキマヱ得ズシテハ、兵法ノ慥カナラザル事也。兵法ノ戦ニ其敵々ノ拍子ヲ知、敵ノ思ヨラザル拍子ヲ以テ、空ノ拍子ヲ【脱字】、智恵ノ拍子ヨリ發テ勝処也。何レノ巻ニモ、拍シノコト【脱字】専ラ書シルス也。其カキツケノ吟味ヲシテ、能々鍛煉アルベキモノナリ。

 【狩野文庫本】

一 兵法の拍子の事。物毎につき、拍子は有物なれども、取分兵法の拍子、鍛練なく【脱字】てハ難及所か。世ノ中の拍子あらわれて有事、乱舞の道、伶人管絃の拍子抔、是皆能合所のろく成拍子也。武藝の道に渡て、弓を射、鉄炮を放、馬に乘事迄も、拍子調子ハ有。諸藝諸能に至ても、拍子を背事ハ有べからず。又、空成事ニおゐても拍子は有、武士の身のうへニしても、奉公ニ身を仕上る拍子、仕下る拍子、はづのあふ拍子、初の違ふ拍子有。或は商の道、分限【脱字】なる拍子、分限ニ而も其絶拍子、道々ニ付て拍子の相違有事なり。物毎に栄る拍子、をとろふる拍子、能々分別すべし。兵法の拍子ニおゐてさま/\有事なり。 (★以下、改行別条立て) 一 先、あふ拍子を知、ちがふ拍子を弁へ、大小遅速の拍子の中にも、あたる拍子を知、間の拍子を知、そむく拍子を知事、兵法の専也。此背拍子、弁【脱字】ずしてハ、兵法たしかならざる事也。兵法の戦に其敵々の拍子を知、敵の思ひ寄ラざる拍子を以、空の拍子ヲ【脱字】、智恵の拍子より發て勝所也。何の巻ニも、拍子の事を専書記なり。其書付の吟味をして、能々可有鍛練者也。(★改行なしで次条へ連続)

 【多田家本】

一 兵法の拍子の事。物毎に付、拍子ハ有物なれども、取分兵法の拍子ハ、鍛練なく【脱字】てハ、及がたき所也。世の中の拍子顕れて有事、乱舞の道、伶人管弦の拍子抔、是皆能合所のろく成拍子也。武藝の道にわたりて、弓を射、鉄炮を放し、馬に乗る事迄も、拍子調子【脱字】あり。諸藝諸能に至りても、拍子を背く事有べからず。又、空なる事にをひても、拍子ハ有。武士の身の上にしても、奉公に身を仕上る拍子、仕下る拍子、筈のあふ拍子、筈の違ふ拍子有。或は、商の道、分限に成拍子、分限にても其たゆる拍子、道々につけて、拍子の相違有事也。物ごとに、栄る拍子、衰る拍子、能々分別すべし。兵法の拍子にをひて、様々有事也。先、あふ拍子を知て、違ふ拍子を弁へ、大小遅速の拍子の中にも、當る拍子をしり、間の拍子をしり、背く拍子を知る事、兵法の専也。此背拍子を不弁【脱字】してハ、兵法慥ならざる事也。兵法の戦に、其敵々の拍子をしり、敵【脱字】おもひよらざる拍子を以、空の拍子を【脱字】、智恵の拍子より發して勝所也。何れの巻にも、拍子の事を専に書記す也。其書附の吟味をして、能々鍛錬あるべき事也。

 【山岡鉄舟本】

一 兵法ノ拍子ノ事。物事ニ付、拍子ハ有モノナレ共、取分兵法ノ拍子、鍛錬ナク【脱字】テハ及ビ難キ處也。世ノ中之拍子、アラハレテ有事、乱舞ノ道、伶人管絃ノ拍子ナド、是皆、能ク合処ノロクナル拍子也。武藝ノ道ニ渡テ、弓ヲ射、鉄炮ヲ放シ、馬ニ乗ル事迄モ、拍子調子ハ有。諸藝諸能ニ至テモ、拍子ヲ背ク事ハ有ベカラズ。又、空成ル事ニ於テモ、拍子ハアリ。武士ノ身ノ上ニシテ、奉公ニ身ヲ仕上ル拍子、仕サグル拍子、筈ノ合拍子、筈ノ違拍子アリ。或ハ商ノ道、分限ニ成ル拍子、分限ニテモ其タユル拍子、道々ニ付テ、拍子ノ相違アル事也。物ゴトノ榮ル拍子、衰ル拍子、能々分別スベシ。兵法ノ拍子ニ於テ、様々有モノ也。先、合拍子ヲ知テ、違拍子ヲ辨ヘ、大小遅速ノ拍子ノ中ニモ、當ル拍子ヲシリ、間ノ拍子ヲシリ、背ク拍子ヲ知ル事、兵法ノ専也。【脱字】背ク拍子ヲ辨ヘ得ズシテハ、兵法慥ナラザル事也。兵法ノ戦ニ其敵々ノ拍子ヲ知リ、敵ノ思ヒ寄ザル拍子ヲ以、空ノ拍子ヲ【脱字】、智恵ノ拍子ヨリ発シテ勝処也。何ノ巻ニモ、拍子ノ事ヲ専書記ス也。其書付ノ吟味ヲシテ、能々鍛煉有ベキ者也。(★改行なしで次条へ連続)

 【稼堂文庫本】

一 兵法の拍子の事。物ごとに付、拍子は有物成共、取分兵法の拍子、鍛練なく【脱字】てハ、及がたき所也。世の中の拍子あらわれて有事、乱舞の道、伶人詈其拍子抔、是皆好くあふ所の直成拍子也。武藝の道に渡而、弓を射、鉄炮を放ち、馬に乗る事迄も、拍子調子は有。諸藝諸能に至ても、拍子を背く事は不可有。亦、空成る事に於ても拍子は有、武士の身の上にしても、奉公に身を仕上る拍子、仕下る拍子、筈のあふ拍子有り、筈【脱字】違う拍子有り。或は、商賣の道にも、分限になる拍子、分限にても其絶る拍子、道々に付て、拍子の相違有事也。物毎に栄ゆる拍子、衰ふる拍子、能々分別すべし。兵法の拍子に於ても、様々有事也。先、逢拍子を知て、違フ拍子を弁へ、大小遅速の拍子の中にも、當る拍子を知り、間の拍子を覚へ、背く拍子を知ること、兵法の専也。此背く拍子を弁【脱字】ずしては、兵法の慥ならざる事也。兵法の戦に、其敵々の拍子を知り、敵【脱字】思ひ寄らざる拍子を以、空の拍子を知り、智恵の拍子より発して勝所也。何れの巻にも、拍子の事を専書記也。此書付の吟味をして、能々鍛練有べき者也。  

 【大瀧家本】

一 兵法の拍子の事。物毎に付、拍子ハ有物なれども、取分ケ兵法の拍子、鍛錬なくしてハ、難及所なり。世の中の拍子顕れて有事、乱舞の道、伶人管絃の拍子など、是皆能あふ所のろくなる拍子なり。武藝の道に渡つて、弓を射、鉄炮を發ち、馬に乗事迄も、拍子調子ハあり。諸藝諸能に至ても、拍子を背事【脱字】あるべからず。又、空なる事におゐても拍子【脱字】有、武士の【脱字】上にしても、奉公に身を仕上る拍子、しさぐる拍子、はづのあふ拍子、はづの違ふ拍子有。或ハ、商の道、分限にても其絶る拍子、分限に成拍子(語順)、道々に依て、拍子の相違ある事也。物毎に盛ふる拍子、衰ふる拍子、能々分別すべし。兵法の拍子におゐて、様々有事也。先ヅ、あふ拍子を知て、違ふ拍子を弁へ、大小遅速の拍子の内にも、當る拍子を知り、間の拍子を知り、背く拍子を知る事、兵法の専一也。此背く拍子、弁まひ得ずしてハ、兵法たしかならざる事也。兵法の戦に、其敵々の拍子を知り、敵の思ひ寄らざる拍子を以て、空の拍子を知り、智惠の拍子より発して勝所なり。いづれの巻にも、拍子の事を専書記すなり。其書付を吟味して、【脱字】鍛錬有べきものなり。    PageTop    Back   Next 

  11 地の巻 後書

 【吉田家本】

右、一流の兵法の道、朝な/\夕な/\勤おこなふに依て、おのづから廣き心になつて、多分一分の兵法として世に傳る所、始て書顕す事、地水火風空、これ五巻也。我兵法を学んと思人ハ、道をおこなふ法有り。第一に、よこしまになき事をおもふ所。第二に、道の鍛錬する所。第三に、諸藝にさわる處、第四、諸職の道を知事。第五、物毎の損徳をわきまゆる事。第六に、諸事目利をしおぼゆる事。第七、目にミヘぬ所をさとつて知事。第八に、わずかなる事にも気を付事。第九に、役に立ぬ事をせざる事。大かた、かくのごとくの利を心にかけて、兵法の道、鍛錬すべき也。此道にかぎつて、直なる所を廣くミたてざれバ、兵法の達者とハ成がたし。此法を学び得てハ、一身にして二十三拾の敵にもまくべき道に非ず。先、氣に兵法をたへさず、直なる道を勤てハ、手にてうち勝、目に見事も人に勝、又、鍛錬を以て、惣躰自由なれバ、身にても人に勝、又、此道になれたる心なれバ、心をもつても人に勝。此所に至ては、いかにとして、人に負道あらむや。又、大なる兵法にしてハ、善人をもつ事に勝、人数をつかふ事に勝、身をたゞ敷おこなふ道に勝、國をおさむる事に勝、民をやしなふ事にかち、世のれいほうをおこなひ勝。何れの道におゐても、人にまけざる所をしりて、身をたすけ、名をたすくる所、是兵法の道也。           新免武藏守玄信 正保弐年五月十二日           寺尾孫之允信正           柴任三左衛門尉 万治三年五月朔日      重高[花押朱印]      吉田忠左衛門殿

 【立花隨翁本】

右、一流の兵法之道、朝な/\夕な/\勤をこなふに依て、をのづから廣き心になつて、多分【破損】の兵法として世に傳る所、はじめて書顕す事、地水火風空、是五巻也。わが兵法を学バんと思ふ人ハ、道ををこなふ法あり。第一、よこしまになき事をおもふ所。第二に、道の鍛【破損】する所。第三に、諸藝にさハる所。第四、諸職の道を知事。第五に、物ごとの損徳をわきまゆる事。第六に、諸事目利をしおぼゆる事。【破損】七、目に見ヘぬ所をさとつて知事。第八に、【破損】かなる事にも氣を付事。第九に、役に立ぬ事をせざる事。大かた、かくのごとくの利を心にかけて、兵法の道、鍛錬すべき也。此道に限て、【破損】る所を、廣く見たてざれば、兵法の達者とハ成がたし。此法を学び得てハ、一身にして二十三十の敵にもまくべき道にあらず。先、氣に兵法をたへさず、直なる道を勤てハ、手に【破損】うち勝、目に見る事も人に勝、又、鍛錬を以て、捴躰自由なれば、身にても人に勝、又、此道になれたる心なれば、心をもつて【脱字】人に【破損】所に至てハ、いかにとして、人に負道にあらんや。又、大なる兵法にしてハ、善人をもつ事に勝、人数をつかふ事に勝、身をたゞしくおこなふ道に勝、【破損】おさむる事に勝、民をやしなふ事に勝、世【破損】れいほうををこなふに勝。いづれの道に於ても、人にまけざる所をしりて、身をたすけ、名をたすくる【破損◇◇】の道也。         新免武藏守玄信 在判 正保二年五月十二日         寺尾孫之丞信正 在判 承應二年十月二日         柴任三左衛門重高 在判 万治三年五月朔日         吉田太郎右衛門實連 在判 元禄八年十月十二日         立花專太夫峯均             法名 廓巖翁 在判 享保七年正月十七日         立花彌兵衛            法名 隨翁              [朱印] 寶暦十一年九月十九日      増壽 [花押]         丹羽五兵衛殿

 【渡辺家本】

右、一流の兵法之道、朝な/\夕な/\勤おこなふに依て、をのづから廣き心になつて、多分一分の兵法として世に傳る所、はじめて書顕す事、地水火風空、是五巻也。我兵法を学バんと思ふ人は、道をおこなふ法あり。第一、よこしまになき事をおもふ事。第二に、道の鍛錬する所。第三に、諸藝にさハる所、第四、諸職の道を知る事。第五に、物ごとの損徳をわきまゆる事。第六に、諸事目利をしをぼゆる事。第七、目に見ヘぬ所をさとつて知る事。第八に、わづかなる事にも氣を付事。第九に、役に立ぬ事をせざる事。大かた、かくのごとくの利を心にかけて、兵法の道、鍛錬すべき也。此道に限て、直なる所を、廣く見たてざれば、兵法の達者とハなりがたし。此法を学び得てハ、一身にして二十三十の敵にもまくべき道にあらず。先、氣に兵法をたへさず、直なる道を勤てハ、手にてうち勝、目に見る事も人に勝、又、鍛錬を以て、捴躰自由なれば、身にても人に勝、又、此道になれたる心なれば、心を以て【脱字】人に勝。此處に至てハ、いかにとして、人に負道にあらんや。又、大なる兵法にしてハ、善人をもつ事に勝、人数をつかふ事に勝、身をたゞしくおこなふ道【脱字】勝、國をおさむる事に勝、民をやしなふ事にかち、世のれいほうをおこなふに勝。いづれの道に於ても、人にまけざる所をしりて、身をたすけ、名をたすくる所、是兵法の道也。         新免武藏守玄信 在判 正保二年五月十二日         寺尾孫之丞信正 在判 承應二年十月二日         柴任三左衛門重高 在判 万治三年五月朔日         吉田太郎右衛門實連 在判 元禄八年十月十二日         立花專太夫峯均 在判             法名 廓巖翁 享保七年正月十七日         立花彌兵衛増壽 在判             法名 隨翁 寶暦十一年九月十九日         丹羽五兵衛信英 在判 天明五年九月十九日         渡部六右衛門 文化七年庚午九月十九日   信行[花押朱印]       (宛名なし)

 【中山文庫本】

右、一流の兵法の道、朝な/\夕な/\勤おこなふに依て、をのづから廣き心になつて、多分一分の兵法として世に傳る所、始て書顕す事、地水火風空、これ五巻なり。我兵法を学んと思人ハ、道をおこなふ法あり。第一に、よこしまになき事をおもふ所。第二に、道の鍛練する所。第三に、諸藝にさはる所、第四、諸職の道を知事。第五に、物毎の損徳をわきまゆる事。第六に、諸事目利をしおぼゆる事。第七、目に見えぬ所をさとつて知事。第八に、わずかなる事にも気を付る事。第九に、役に立ぬ事をせざる事。大かた、かくのごとくの利を心にかけて、兵法の道、鍛練すべきなり。此道にかぎつて、直なる所を、廣くミたてざれバ、兵法の達者とはなりがたし。此法を学び得てハ、一身にして二十三十の敵にもまくべき道に非ず。先、氣に兵法をたへさず、直なる道を勤てハ、手にてうち勝、目にみる事も人に勝、又、鍛練を以て、惣躰自由なれバ、身にても人に勝、又、此道になれたる心なれバ、心を以ても人に勝。此所に至てハ、いかにとして、人に負道あらむや。又、大なる兵法にしてハ、善人をもつ事に勝、人数をつかふ事に勝、身をたゞ敷おこなふ道に勝、国をおさむる事に勝、民をやしなふ事に勝、世のれいほうをおこなひ勝。何れの道に於ても、人にまけざる所をしりて、身をたすけ、名をたすくる所、是兵法の道也。         新免武藏守 玄信  正保二年五月十二日         寺尾孫之允 信正           柴任三左衛門尉 美矩           吉田太郎右衛門尉              病氣故印判  元禄十三年九月晦日         早川瀬兵衛殿           月成八郎左衛門尉 實久           大塚作太夫 重寧           月成彦之進 實誠           大塚初平 藤實  天明四年五月十九日        大塚可生殿       七十翁書之         大塚可生 重庸 [花押]  文化十五年五月十九日       大塚助左衛門殿

 【近藤家乙本】

右、一流の兵法之道、朝な/\夕な/\勤おこなふに依て、おのづから廣き心になつて、多分一分の兵法として世に傳る所、はじめて書顕す事、地水火風空、是五巻也。わが兵法を学バんと思ふ人は、道をおこなふ法あり。第一、よこしまになき事をおもふ事。第二に、道の鍛錬する所。第三に、諸藝にさハる所、第四、諸職の道を知る事。第五に、物ごとの損徳をわきまゆる事。第六に、諸事目利をしおぼゆる事。第七、目に見ヘぬ所をさとつて知事。第八に、わづかなる事にも氣を付事。第九に、役に立ぬ事をせざる事。大かた、かくのごとくの利を心にかけて、兵法の道、鍛錬すべき也。此道に限て、直なる所を、廣く見たてざれば、兵法の達者とハ成がたし。此法を学び得てハ、一身にして二十三十の敵にもまくべき道にあらず。先ヅ氣に兵法をたへさず、直なる道を勤てハ、手にてうち勝、目に見る事も人に勝、又、鍛錬を以て、捴躰自由なれバ、身にても人に勝、又、此道になれたる心なれば、心をもつて【脱字】人に勝。此處に至てハ、いかにとして、人に負道にあらんや。又、大なる兵法にしてハ、善人をもつ事に勝、人数をつかふ事に勝、身をたゞしくおこなふ道にかち、國をおさむる事に勝、民をやしなふ事にかち、世のれいほうをおこなふに勝。いづれの道に於ても、人にまけざる所をしりて、身をたすけ、名をたすくる所、是兵法の道也。         新免武藏守玄信 在判 正保二年五月十二日         寺尾孫之丞信正 在判 承應二年十月二日         柴任三左衛門重高 在判 万治三年五月朔日         吉田太郎右衛門實連 在判 元禄八年十月十二日         立花專太夫峯均 在判             法名 廓巖翁 享保七年正月十七日         立花彌兵衛増壽 在判             法名 隨翁 寶暦十一年九月十九日         丹羽五兵衛信英 在判 天明五年九月十九日         渡部六右衛門信行 在判 文政三年五月十九日         大沼忠司美正 弘化三丙午年五月十九日  美正[花押朱印]         須貝惣四郎殿

 【石井家本】

右、一流の兵法之道、朝な/\夕な/\勤おこなふに依て、おのづから廣き心になつて、多分一分の兵法として世に傳る所、はじめて書(物に)顕す事、地水火風空、是五巻也。我兵法を学バんと思ふ人ハ、道をおこなふ法あり。第一、よこしまになき事をおもふ事。第二に、道の鍛錬する所。第三に、諸藝にさハる所、第四、諸職の道を知る事。第五に、物ごとの損徳をわきまゆる事。第六に、諸事目利をしをぼゆる事。第七、目に見ヘぬ所をさとつて知る事。第八に、わづかなる事にも氣を付事。第九に、役に立ぬ事をせざる事。大かた、かくのごとくの利を心にかけて、兵法の道、鍛錬すべき也。此道に限て、直なる所を、廣く見たてざれば、兵法の達者とハなりがたし。此法を学び得てハ、一身にして二十三十の敵にもまくべき道にあらず。先、氣に兵法をたへさず、直なる道を勤てハ、手にてうち勝、目に見る事も人に勝、又、鍛錬を以て、捴躰自由なれば、身にても人に勝、又、此道になれたる心なれば、心を以て【脱字】人に勝。此處に至てハ、いかにとして、人に負道にあらんや。又、大なる兵法にしてハ、善人をもつ事に勝、人数をつかふ事に勝、身をたゞしくおこなふ道に勝、国をおさむる事に勝、民をやしなふ事に勝、世のれいほうをおこなふに勝。何れの道に於ても、人にまけざる所をしりて、身をたすけ、名をたすくる所、是兵法の道也。         新免武藏守玄信 在判 正保二年五月十二日         寺尾孫之丞信正 在判 承應二年十月二日         柴任三左衛門重高 在判 万治三年五月朔日         吉田太郎右衛門實連 在判 元禄八年十月十二日         立花專太夫峯均 在判             法名 廓巖翁 享保七年正月十七日         立花彌兵衛増壽 在判             法名 隨翁 寶暦十一年九月十九日         丹羽五兵衛信英 在判 天明五年九月十九日         渡部六右衛門信行             法名 賢翁         五十嵐平左衛門 弘化四丁未年六月廿八日  正一[花押朱印]         田中六次郎殿 (追記)   明治廿丙亥年四月三日          増子源匡行[花押朱印]       石井与想治殿

 【伊丹家本】

右、一流の兵法の道、朝な/\夕な/\勤おこなふに依て、おのづから廣き心になつて、多分一分の兵法として世に傳所、始て書顕す事、地水火風空、これ五巻なり。我兵法を学バむと思人ハ、道を行ふ法有り。第一に、よこしまになき事を思所。第二に、道の鍛練する所。第三に、諸藝にさわる処、第四に、諸職の道を知事。第五に、物毎の損徳をわきまゆる事。第六に、諸事目利をしおぼゆる事。第七、目にミへぬ所を悟て知事。第八に、わずかなる事ニも氣を付事。第九に、役に立ぬ事をせざる事。大かた、かくの如くの利を心にかけて、兵法の道、鍛練すべき也。此道にかぎつて、直なる所を、廣くミ立ざれば、兵法の達者とハ成難し。此法を學得てハ、一身にして二十三十の敵にも負べき道に非ず。先、氣に兵法をたへさず、直なる道を勤てハ、手ニて打勝、目にミる事も人に勝、又、鍛練を以て、惣躰自由なれバ、身にても人に勝、又、此道になれたる心なれば、心を以ても人に勝。此所に至てハ、いかにとして、人に負道にあらんや。又、大なる兵法にしてハ、善人をもつ事ニ勝、人数を遣ふ事ニ勝、身を正敷おこのふ道に勝、国を治る事に勝、民をやしなふ事に勝、世のれいほうをおこなひ勝。いづれの道に於ても、人に負ざる所をしりて、身をたすけ、名をたすくる所、是兵法の道也。   (伝系記載なし)           大塚作太夫              [朱印花押]  安政三辰年     五月十九日        伊丹九郎左衛門殿

 【伊藤家本】

右、一流の兵法之道、朝な/\夕な/\勤おこなふに依て、をのづから廣き心になつて、多分一分の兵法として世に傳る所、はじめて書顕す事、地水火風空、是五巻也。我兵法を学バんと思ふ人ハ、道をおこなふ法あり。第一、よこしまになき事をおもふ事。第二に、道の鍛錬する所。第三に、諸藝に【脱字】ハる所、第四に、諸職の道を知る事。第五に、物ごとの損徳をわきまゆる事。第六に、諸事目利をしおぼゆる事。第七に、目に見ヘぬ所をさとつて知る事。第八に、わづかなる事に【脱字】氣を付事。第九に、役に立ぬ事をせざる事。大かた、かくのごとくの利を心にかけて、兵法の道に鍛錬すべき也。此道に限て、直なる所を、廣く見たてざれバ、兵法の達者とハなりがたし。此法を学び得てハ、一身にして二十三十の敵にもまくべき道にあらず。先づ、氣に兵法をたへさず、直なる道を勤てハ、手にてうち勝、目に見る事も人に勝、又、鍛錬を以て、捴躰自由なれバ、身にても人に勝、又、此道になれたる心なれば、心を以て【脱字】人に勝。此處に至てハ、いかにとして、人に負道にあらんや。又、大なる兵法にしてハ、善人をもつ事に勝、人数をつかふ事に勝、身をたゞしくおこなふ道に勝、國をおさむる事に勝、民をやしなふ事にかち、世のれいほうをおこなふに勝。いづれの道に於ても、人にまけざる所をしりて、身をたすけ、名をたすくる所、是兵法の道也。         新免武藏守玄信 在判 正保二年五月十二日         寺尾孫之丞信正 在判 承應二年十月二日         柴任三左衛門重高 在判 万治三年五月朔日         吉田太郎右衛門實連 在判 元禄八年十月十二日         立花專太夫峯均 在判             法名 廓巖翁 享保七年正月十七日         立花彌兵衛増壽 在判             法名 隨翁 寶暦十一年九月十九日         丹羽五兵衛信英 在判 天明五年九月十九日         渡部六右衛門信行 在判 天保七申年五月九日 (文政?)         渡部六右衛門 弘化三年五月九日     安信[花押朱印]         (宛名なし)

 【神田家本】

右、一流の兵法之道、朝な/\夕な/\勤おこなふに依て、おのづから廣き心になつて、多分一分の兵法として世に傳る所、はじめて書顕す事、地水火風空、是五巻也。我兵法を学バんと思ふ人ハ、道をおこなふ法あり。第一、よこしまになき事をおもふ事。第二に、道の鍛錬する所。第三に、諸藝にさハる所、第四、諸職の道を知る事。第五に、物ごとの損徳をわきまゆる事。第六に、諸事目利をしおぼゆる事。第七、目に見ヘぬ所をさとつて知る事。第八に、わづかなる事にも氣を付事。第九に、役に立ぬ事をせざる事。大かた、かくのごとくの利を心にかけて、兵法の道、鍛錬すべき也。此道に限て、直なる所を、廣く見たてざれば、兵法の達者とハなりがたし。此法を学び得てハ、一身にして二十三十の敵にもまくべき道にあらず。先づ、氣に兵法をたへさず、直なる道を勤てハ、手にてうち勝、目に見る事も人に勝、又、鍛錬を以て、捴躰自由なれば、身にても人に勝、又、此道になれたる心なれば、心を以て【脱字】人に勝。此處に至てハ、いかにとして、人に負道にあらんや。又、大なる兵法にしてハ、善人をもつ事に勝、人数をつかふ事に勝、身をたゞしくおこなふ道に勝、國をおさむる事に勝、民をやしなふ事に勝、世のれいほうおこなをふに勝。何れの道に於ても、人にまけざる所をしりて、身をたすけ、名をたすくる所、是兵法の道也。         新免武藏守玄信 在判 正保二年五月十二日         寺尾孫之丞信正 在判 承應二年十月二日         柴任三左衛門重高 在判 万治三年五月朔日         吉田太郎右衛門實連 在判 元禄八年十月十二日         立花專太夫峯均 在判             法名 廓巖翁 享保七年正月十七日         立花彌兵衛増壽 在判             法名 隨翁 寶暦十一年九月十九日         丹羽五兵衛信英 在判 天明五年九月十九日         渡部六右衛門信行             法名 賢翁         五十嵐平左衛門 天保十五年甲辰十月十九日 正一[花押朱印]         神田仁太郎殿

 【楠家本】

右、一流の兵法の道、朝な/\暮な/\つとめおこなふによつて、をのづから廣き心になつて、多分一分の兵法として世に傳ふる所、初而書顕す事、地水火風空、是五巻也。わが兵法をまなばんとおもふ人ハ、道をおこなふ法あり。第一に、よこしまになき事をおもふ所。第二に、道の鍛練する処。第三に、諸藝にさハる所。第四に、諸職の道をしる事。第五に、物毎の損徳をわきまゆる事。第六に、諸事目きゝをし覚ゆる事。第七に、目にみえぬ所をさとつてしる事。第八に、わづかなる事にも氣を付る事。第九に、役にたゝぬ事をせざる事。大かた、如此【脱字】理を心にかけて、兵法の道、鍛練すべき也。此道に限て、直なる所を廣くみたてざれバ、兵法の達者とハなりがたし。此法をまなび得てハ、一身にして二十三十の敵にもまくべき道にあらす。先、氣に兵法をたえさず、直なる道をつとめてハ、手にて打かち、目にミる事も人にかち、又、鍛練をもつて、惣躰自由なれバ、身にても人にかち、又、この道になれたる心なれバ、心をもつても人に勝。此所に至てハ、いかにとして、人にまくる道あらんや。又、大きなる兵法にしてハ、善人を持事に勝、人数をつかふ事にかち、身をたゞしくおこなふ道にかち、國をおさむる事にかち、民をやしなふ事にかち、世の例法をおこなひかち。いづれの道におゐても、人にまけざる所をしりて、身をたすけ、名をたすくる所、これ兵法の道なり。  (年月日記載なし)   新免武蔵守玄信  寛文八年五月日     寺尾夢世[花押印]        槇嶋甚介殿

 【細川家本】

右、一流の兵法の道、朝な/\夕な/\勤おこなふによつて、おのづから廣き心になつて、多分一分の兵法として世に傳ふる所、初而書顕す事、地水火風空、是五巻也。我兵法を学ばんと思ふ人は、道をおこなふ法あり。第一に、よこしまになき事をおもふ所。第二に、道の鍛練する所。第三に、諸藝にさハる所。第四に、諸職の道を知事。第五に、物毎の損徳をわきまゆる事。第六に、諸事目利を仕覺る事。第七に、目に見えぬ所をさとつてしる事。第八に、わづかなる事にも氣を付る事。第九に、役にたゝぬ事をせざる事。大形、如此【脱字】理を心にかけて、兵法の道、鍛練すべき也。此道に限て、直なる所を廣く見たてざれば、兵法の達者とは成がたし。此法を学び得ては、一身にして二十三十の敵にもまくべき道にあらず。先、氣に兵法をたえさず、直なる道を勤てハ、手にて打勝、目に見る事も人にかち、又、鍛練をもつて、惣躰自由なれバ、身にても人にかち、又、此道に馴たる心なれば、心をもつても人に勝。此所に至ては、いかにとして、人にまくる道あらんや。又、大キなる兵法にしては、善人を持事にかち、人数をつかふ事にかち、身をたゞしくおこなふ道にかち、國を治る事にかち、民をやしなふ事にかち、世の例法をおこなひかち。いづれの道におゐても、人にまけざる所をしりて、身をたすけ、名をたすくる所、是兵法の道也。  正保二歳五月十二日     新免武藏       寺尾孫丞殿  寛文七年     二月五日    寺尾夢世勝延[花押]       山本源介殿

 【丸岡家本】

右、一流の兵法の道、朝々暮々勉行ふによつて、自ら廣き心になつて、多分一分の兵法として世ニ傳ふる所、始て書著す【脱字】、地水火風空、是五巻なり。我兵法を学んと思ふ人ハ、道を行ふ法あり。第一、無邪事を思ふ所。第二ニ、道の鍛錬する所。第三に、諸藝にさわる所。第四ニ、諸職の道を知事。第五に、毎物の損得を弁る事。第六に、諸事目利を爲覚る事。第七ニ、目にみえぬ所を悟つて知事。第八ニ、纔なる事にも氣を付る事。第九ニ、やくニ不立事をせざる事。大形、如此の理を心にかけて、兵法の道、鍛錬すべきなり。此道に限りて、直なる處を廣ク見立ざれバ、兵法の達者とは成がたし。此法を学得ては、一身ニして、二十三十の敵にも負べき道に非ず。先、氣に兵法を絶さず、直なる道を勤ては、手にて打勝、目に見る事も人に勝、又、鍛錬を以て、摠躰自由なれバ、身にても人に勝、又、此道に馴たる心なれば、心を以も人に勝。此所に至ては、いかにとして、人に負る道あらんや。又、大キなる兵法にしては、よき人を持事に勝、人数を使ふ事に勝、身を正く行ふ道に勝、國を治ることに勝、民を養ふ事に勝、世の禮法を行ひ勝。何れの道においても、人にまけざる所を知て、身を助け、名を介る所、是兵法の道也。   正保二年五月       新免武藏              玄信識       (宛名なし)

 【富永家本】

右、一流の兵法の道、朝な/\暮な/\勤行ふニよつて、おのづから廣き心になつて、多分一分の兵法として世に傳ふる所、初て書顕す事、地水火風空、是五巻也。我兵法をまなばんとおもふ人ハ、道を行法有り。第一に、よこしまになき事をおもふ處。第二に、道のたんれんする處。第三に、諸藝にさわる所。第四に、諸職の道を知る事。第五に、物毎の損徳をはきまゆる事。第六ニ、諸事目利を仕覚る事。第七に、目に見ゑぬ所をさとつて知る事。第八に、わづかなる事にも氣を付る事。第九に、役にたゝぬ事をせざる事。大形、如是の理を心に懸て、兵法の道、鍛練すべきなり。此道ニ限て、直成所を廣く見立ざれば、兵法の達者とハ成がたし。此法を学び得てハ、一身にして二拾三拾の敵ニもまくべき道にもあらず。先、氣に兵法をたへさず、直成道を勤てハ、手にて打勝、目に見る事も人ニかち、又、鍛練を以て、惣躰自由なれバ、身にても人ニかち、又、此道になれたる心なれバ、心を以ても人に勝。此所に至つてハ、如何にとして、人にまくる道あらんや。又、大きなる兵法ニしてハ、善人を持事ニかち、人数を遣ふ事ニ勝、身【脱字】たゞ敷行道【脱字】勝、國を治る事にかち、民をやしなふ事ニ勝、世の例法を行ニ勝。何れの道におゐても、人にまけざる所を知りて、身を勤、名を助る所、是兵法の道なり。  正保二年五月十二日 新免武藏守玄信在判       (宛名なし)

 【常武堂本】

右、一流の兵法の道、朝な/\夕な/\勤おこなふによつて、おのづから廣き心になつて、多分一分の兵法として世に傳ふる所、初て書顕す事、地水火風空、是五巻也。我兵法を学ばんとおもふ人は、道をおこなふ法あり。第一に、よこしまになき事を思ふ所。第二に、道の鍛練する所。第三に、諸藝にさはる所。第四に、諸職の道をしる事。第五に、物毎の損徳をわきまゆる事。第六に、諸事目利を仕覚る事。第七に、目に見えぬ所をさとつてしる事。第八に、わづかなる事にも気を付る事。第九に、役にたゝぬ事をせざる事。大形、如此【脱字】理を心にかけて、兵法の道、鍛練すべき也。此道に限りて、直なる所を廣くみたてざれバ、兵法の達者とハ成がたし。此法を学び得てハ、一身にして二十三十の敵にもまくべき道にあらず。先、気に兵法をたえさず、直なる道を勤てハ、手にて打勝、目にみる事も人にかち、又、鍛練を以て、惣躰自由なれバ、身にても人にかち、又、此道に馴たる心なれば、心を以て【脱字】人に勝。此所に至てハ、いかにとして、人にまくる道あらむや。又、大きなる兵法にしてハ、善人を持事にかち、人数をつかふ事にかち、身をたゞしくおこなふ道にかち、国を治る事にかち、民をやしなふ事にかち、世の例法をおこなひかち、いづれの道に於ても、人にまけざる所をしりて、身をたすけ、名をたすくる所、是兵法の道也。  正保二年五月十二日     新免武藏       寺尾孫丞殿  寛文七年二月五日      寺尾夢世勝延       山本源介殿

 【田村家本】

右、一流ノ兵法ノ道、朝々夕々ツトメ行フニ因テ、自廣キ心ニナツテ、多分一分ノ兵法トシテ世ニ傳ル處、初テ書著事。地水火風空、是五巻也。我兵法ヲ学ント思人ハ、道ヲ行フ法有。第一ニ、ヨコシマニ無事ヲ思處。第二ニ、道ノ鍛煉スル処。第三ニ、諸藝ニサワル処。第四ニ、諸職ノ道ヲ知事。第五ニ、物毎ノ損徳ヲワキマヱル事。第六ニ、諸事目利ヲシヲボユルコト。第七【脱字】、目ニ見エヌ処ヲサトツテ知事。第八ニ、ワヅカ成事ニモ氣ヲ付事。第九ニ、役【脱字】タヽヌ事ヲセザル事。大方、カクノ如ク【脱字】理ヲ心ニカケ【脱字】、兵法ノ道ヲ鍛練スベキ也。此道ニ限テ、直ナル處ヲ【脱字】見立ザレバ、兵法ノ達者トハ成ガタシ。此方ヲ学得テハ、一身ニシテ二十三十ノ敵ニモ負ベキ【脱字】ニ非ズ。先氣ニ兵法ヲタエサズ、直ナル道ヲツトメテハ、手ニテ打カチ、目ニミル事モ人ニ勝、又鍛練ヲツモリテ、惣躰自由ナレバ、身ニテモ人ニカチ、又此道ニナレタル心ナレバ、心ヲモツテモ人ニ勝、此處ニ至【脱字】ハ、イカニトシテ人ニ負ル道アランヤ。又大ナル兵法ニシテハ、善人ヲ持コトニカチ、人ンズヲツカウ事ニ勝、身ヲ正シク行フ道ニカチ、國ヲ治ル事ニカチ、民ヲ養事ニ勝、世ノ例法ヲ行ヒ勝。何レノ道ニヲヰテモ人ニ負ザル処ヲシリテ、身ヲタスケ、名ヲタスクル処、是兵法ノ道也。  正保二年五月          新免武藏守            藤原玄信            [朱印二顆模写]       (宛名なし)

 【狩野文庫本】

(★改行なしで前条から連続) 右、一流の兵法【脱字】、朝な/\夕な/\勤行に依て、自ラ廣き心ニなり、多分一分の兵法として世に傳ふる所、初て書顕るなり。地水火風空、是五巻なり。我兵法を学んと思ふ人ハ、道を行ふ法有。第一に、邪【脱字】なき事を思ふ所。第二に、道を鍛練する所。第三に、諸藝にさハる所。第四に、諸職の道を知事。第五に、物毎の損徳を弁る事。第六に、諸事目利を仕覚る事。第七に、目に見へぬ所をさとつて知事。第八に、わヅか成事に【脱字】氣を付る事。第九に、役に立ぬ事をせざる事。大形、如斯【脱字】理を心に掛て、兵法の道、鍛練すべき也。此道に限て、直成所を廣く見立ざれば、兵法の達者とハ成がたし。此法を学得ては、一身にして二十三十の敵ニもまくべき【脱字】にあらず。先氣に兵法を絶さず、直なる道を勤てハ、手ニ而打勝、目に見る事も人に勝、又鍛練を以、惣躰自由なれバ、身にニ而も人に勝、又此道になれたる心なれば、心を以も人に勝、此所に至而ハ、いかにとして人にまくる道あらんや。また大成兵法にしてハ、善人を持事ニ勝、人数をつかふ事に勝、身を正しく行ふ道に勝、國を治る事に勝、民を養ふ事に勝、世の例法を行【脱字】勝。何れの道に於ても人に負ざる所を知て、身を助、名を上ル所、これ兵法の利道也。           新免武藏守玄信  正保二年五月十二日      在判       寺尾孫亟殿       古橋惣左衛門殿

 【多田家本】

一 右、一流の兵法【脱字】、朝な/\夕な/\勤行に依て、おのづから廣き心に成て、多分一分の兵法として世に傳ふる所、初て書顕す事、地水火風空、是五巻也。我兵法を学ばんと思ふ人は、道を行ふ法有。第一、邪【脱字】なき事を思ふ所。第二、道を鍛錬する所。第三、諸藝にさわる事、第四、諸職の道を知事。第五、物毎の損徳を弁ゆる事。第六、諸事目利を仕覚る事。第七、【脱字】見へぬ所をさとつて知事。第八に、わづかなる物にも氣を付る事。第九に、役に立ぬ事をせざる事。大形、かくのごとく【脱字】理を心に懸て、兵法の道鍛錬すべき也。此道に限て、直成所を、廣く見立ざれバ、兵法の達者とハ成がたし。此道を学び得てハ、一身にして二十三十の敵にも負べき道にあらず。先、氣に兵法をたやさず、直成道を勤てハ、手にて打勝、目にかくる事も人に勝、又、鍛錬を以、惣身自由になれバ、身にても人に勝、又、此道になれたる心なれバ、心を以ても人に勝。此所に至てハ、如何にとし【脱字】、人に負る道あらんや。又、大成兵法にしては、善人を持事に勝、人数を仕ふ事に勝、身を正しく行ふ道に勝、國を治る事に勝、民を養ふ事に勝、世の例法を行ひ勝。何もの道にをひても、人に負ざる所をしりて、身を助け、名を助る所、是兵法の道也。      (記名・年月日・宛名なし)

 【山岡鉄舟本】

(★改行なしで前条から連続) 右、一流ノ兵法ノ道、朝暮勤行ニ依テ、自ラ廣キ心ニナツテ、多分一分之兵法トシテ世ニ傳ル処、初テ書キ顕ス事、地水火風空、是五巻也。我兵法ヲ学バント思人ハ、道ヲ行フ法アリ。第一【脱字】、邪マニ無キ事ヲ思フ処。第二【脱字】、道ノ鍛煉スル所。第三ニ、諸藝ニサハル処。第四【脱字】、諸職ノ道ヲ知ル事。第五ニ、物事ノ損徳ヲ辨ル事。第六ニ、諸事目利【脱字】仕覚ル事。第七ニ、目ニ見エヌ処ヲサトツテ知事。第八ニ、僅ナル事ニモ氣ヲ付ル事。第九ニ、役ニ立ヌ事ヲセザル事。大方、如是【脱字】理ヲ心ニ懸テ、兵法之【脱字】鍛錬スベキ也。此道ニ限テ、直ナル処ヲ廣ク見立ザレバ、兵法ノ達者トハ成難シ。此法ヲ学ビ得テハ、一身ニシテ、二十三十ノ敵ニモ負ベキ道ニ非ズ。先ヅ氣ニ兵法ヲタヘ【脱字】ズ、直ナル道ヲ勤テハ、手ニテ打勝、目ニ見ル事モ人ニ勝、又鍛錬ヲ以テ、惣躰ニ自由ナレバ、身ニテモ人ニ勝、又此道ニ馴【脱字】ル心ナレバ、心ヲ以テ【脱字】人ニ勝、此処ニ至テハ、イカニトシテ人ニ負ル道有ンヤ。又、大ナル兵法ニシテ【脱字】、善人ヲ持事ニ勝、人数ヲツカウ事ニ勝、身ヲ正ク行フ道ニ勝、国ヲ治ル事ニ勝、民ヲヤシノウ事ニ勝、世ノ例法ヲ行ニ勝。何レノ道ニ於テモ、人ニ負ザル処ヲ知テ、身ヲ助ケ、名ヲ助ル處、是兵法ノ道ナリ。 正保二歳五月十二日     新免武蔵        (宛名なし) 地ノ巻終

 【稼堂文庫本】

一 右、一流の兵法の道、朝となく晝となく勤行ふに依て、自ら廣き心になつて、多分一分の兵法として世に傳ふる所、初て書顕すこと、地水火風空、是五巻也。我兵法を学んと思ふ人は、此道を行に法有り。第一、邪に無きことを思ふ所。第二に、道の鍛練する所。第三、諸藝にさわる所。第四に、諸職の道を知る事。第五、物毎に損徳を弁る事。第六、諸事の目利を仕覚ること。第七に、目に見へぬ所をさとつて知る事。第八、わづか成る事にも氣を付る事。第九、役に立ぬ事をせざる事。大形、如此【脱字】理を心に懸て、兵法の道、鍛練すべき也。此道に限て、直成所を廣く見立ざれば、兵法の達者とハ成がたし。此法を学び得て【脱字】、一身にして二十三十の敵に【脱字】戦ひ負べき道理に非ず。先、氣に兵法を絶さず、直成道を勤ては、手にて打勝、目に見ることも人に勝、又、鍛練を以、惣躰自由になれば、身にても人に勝、亦又、此道【脱字】馴たる心なれば、心をもつて【脱字】人に勝。此所に至ては、いかに【脱字】しても、人に負る道有んや。又、大き成る兵法にしてハ、能人を持事に勝、人数をつかふ事に勝ち、身を正敷行ふ道にかち、國を治ることに勝、民をやしのふことに勝、世の例法を行に勝。何れの道に於ても、人に負ざる所を知て、身を立て、名を助る所、是兵法の道也。         新免武藏守藤原朝臣                玄信判       (年月日・宛名なし)  

 【大瀧家本】

右、一流の兵法の道、朝な【脱字】夕な【脱字】勤め行ふに依て、おのづから廣き心に成て、多分【脱字】の兵法として世に傳ふる所、始て書顕す事、地水火風空と、是五巻なり。我兵法を学ばんと思ふ人ハ、道を行ふ法有。第一、邪【脱字】なき事を思ひ。第二、【脱字】鍛練する所。第三、諸藝にさはる所。第四、諸職の道を知る事。第五、物事の損徳を弁ふる事。第六、諸事目利を仕覚ゆる事。第七、目に見へぬ所をさとり知る事。第八、僅なる事にも氣を付る事。第九、役に立ぬ事をせざる事。略、如此の利を心に懸て、兵法の道、鍛錬すべきなり。此道に限て、直なる所を廣く見立ざれバ、兵法の達者と【脱字】なりがたし。此法を学び得て【脱字】、一身にして二十三十の敵にも負くべき道にあらず。先、氣に兵法をたえさず、直なる道を勤てハ、手にて打勝、目に見る事も人に勝、又、鍛錬を以、惣体自由なれバ、身にても人に勝、又、此道に馴れたる心なれば、心を以て【脱字】人に勝。此所に至てハ、いかにとして、人に負る道あらんや。又、大なる兵法にしては、善人を持事に勝、人数を遣ふ事に勝、身を正しく行ふ道に勝、国を治むる事に勝、民を養ふ事に勝、世の禮法を行ふに勝。何れの道におゐても、人に負ざる所を知りて、身をたすけ、名をたすくる所、是兵法の道也。  正保二年五月十二日 新免武藏守玄信 在判