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イギリス空母の発達を解説:黎明期からWW2まで

世界で最初に航空隊を創設した海軍は、イギリス海軍である。また、軍用機開発で常に先進国だった英国は、空母開発の分野でも先駆的役割を担った。
というわけで、世界最初の空母アーガスからWW2終結に至るまで、イギリス空母がどのように発達していったのかを辿ってみたい。

 


・イギリス空母黎明期

 

 

世界最初の空母として広く知られているのは、日本海軍の 鳳翔( IJN Hosho ) だ。 しかしこれは「世界で最も早く竣工した新造空母」という意味であって、 世界で最も早く建造が計画された新造空母は英海軍の ハーミズ(HMS Hermes)となる。

ここで「空母」という艦種の定義を確認しておこう。 大辞泉の「航空母艦」の項目を見ると
航空機を搭載し、それを発着させる飛行甲板や格納庫を備えた軍艦。第二次大戦から海軍の主力を占めるようになった。空母。

となっている。 これだけで空母という艦種が定義できるかといえば、ちょっと無理がある。

なぜなら、「航空機を搭載」し、発艦させる「飛行甲板や格納庫を備えた」軍艦・艦艇を空母と呼ぶならば、水上機母艦や日本海軍の航空巡洋艦などはいずれの条件も満たすし、さらには巡洋艦以上の大部分の艦艇が水上機などの航空機を艦載しているからである(ただしこれらの場合は着艦機能が存在しない場合が殆どだが)。 そこで、この記事では全通甲板の有無に加えて格納施設の有無を以て 航空母艦という艦種の定義としよう。

そうなると、世界最初に誕生した空母は、第一次大戦中に就航した イギリス海軍の アーガス(HMS Argus) となる。 アーガスはイタリア客船コンテ・ロッソとして発注されたが、大戦中の1916年にイギリス海軍が購入し、 空母としての改装工事を実施した。 戦局には全く寄与しなかったが、全通甲板を持つ世界最初の空母がここに誕生した。

 


アーガス(HMS Argus)    

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さて。 イギリスといえば開発者のオツムを疑いたくなる兵器を次々と生み出す国として有名である。

第一海軍卿フィッシャー大将がバルト海沿岸のドイツ領にたいする上陸作戦支援艦として計画・推進したハッシュハッシュクルーザー(hush hush cruiser、秘密巡洋艦)三隻も、そんな兵器のひとつだ。

そのうちの一艦 フューリアス(HMS Furious) は当初45.7㎝の巨砲と高速力を兼ね備えていたが、その代わりに防御力を極端に減らした艦であった。 しかしガリポリ上陸作戦が失敗に終わると、ハッシュハッシュクルーザー計画の推進者であるフィッシャー大将が第一海軍卿を引責辞任する事態となり、バルト海上陸作戦計画も反故となってしまった。 使い道に困った英海軍は、建造途上のフューリアスを実験的性格をもつ飛行甲板搭載艦として改装し、

残る二隻は戦争終結まで用途を見いだせず放置された。 フューリアスには飛行甲板改造が施されたが、1921~25年にかけての第二次改装で全通甲板となったものの第一次改装では船体全部の砲塔を撤去したに過ぎず、世界最初の空母と呼ぶには不適である。

ただし、空母の始祖と呼ぶことは可能だろう。 また残る二隻も1920年代~30年代にかけてワシントン海軍条約によって空母に改装され、 グローリアス(HMS Glorious)、カレイジャス(HMS Courageous)として竣工し、第二次大戦を迎えることになる。

 


フューリアス(HMS Furious)

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高角砲があることから第二次大戦中の写真と思われる。

 

 

    

空母改装前のカレイジャス(HMS Courageous)

 

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改装後のグローリアス(HMS Glorious)

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第一次大戦中、イギリス海軍は空母にとどまらず、海軍全体の拡大を図った。 その一環として、チリ海軍がイギリスに発注していたアルミランテ・ラトーレ級戦艦二隻を チリ海軍から購入し、1番艦をカナダ、2番艦をインディアと命名した。

1番艦カナダはユトランド沖海戦にも参戦したが、戦後は再びチリ海軍に売却され、 アルミランテ・ラトーレとして再就役した。

2番艦インディアは建造中に空母に改装され、艦名をイーグル(HMS Eagle)と改名され、1923年に竣工した。

大型の船体に15.2cm砲9門と空母としては強力な火力を持ちながら、 肝心の搭載機数は開戦時でフェアリー・ソードフィッシュ雷撃機18機と少なく、また速度も24ノットと低速で 時代を下るとともに第二次大戦では完全に旧式空母と化していた。

しかしただの旧式空母で終わる艦ではない。 戦艦改造の船体には200m近い長さの飛行甲板を装備することができた。 このことは、複葉機に比べ滑走距離が長大化する新型の単葉機を運用することが可能であることを示しており、事実イーグルはカラブリア沖海戦、ハープーン作戦、ペデスタル作戦など地中海戦域で大いに戦果を挙げた。

参考までに、日本海軍の龍驤の例を見てみよう。

龍驤のネックは艦上構造物の大型化に伴う重心の不安定さに加え、飛行甲板が短いことであった。 このために龍驤は1933年竣工と列強空母のなかでは然程古い部類には入らないにも関わらず、 近く更新されるであろう日本海軍の新型機の運用は不可能であると見込まれていた。 旧式空母だからといって、必ずしも活躍の場がなくなるわけではないのだ。       

イーグル(HMS Eagle)

 

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これまで挙げてきた空母は全て客船や戦艦が母体の改装空母であり、 計画段階から空母として起工された世界最初の空母は1924年竣工のハーミズ(HMS Hermes)となる。

ハーミズは世界最初の新造空母として、その後の空母のスタンダードとなるメカニズムを 多く採用した。

その一つはアイランド型と呼ばれる大型艦橋であり、戦闘指揮設備の充実化が図られた。 さらには飛行甲板と前甲板を一体成型したエンクローズド・バウの採用など、小型空母ながら 先進的な設計思想が反映されていた。

なおハーミズはセイロン沖海戦では東洋艦隊に属し、日本海軍艦爆隊の猛撃を受けた。 この時の艦爆隊は極めて高い練度を誇り、爆撃命中率89%の数字をたたき出した。

小型の船体に不相応なほどの命中弾を受けたハーミズは、インド洋深くに身を横たえた。 ハーミズ以後、英海軍ではしばらくの間、空母建造が途絶える。   

 

ハーミズ(HMS Hermes)

 

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・イギリス空母新時代

 


アーク・ロイヤル(HMS Ark Royal)

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ワシントン海軍条約は、各国海軍に様々な規制を設けた。 条約発効後10年間の戦艦建造を禁止された各国は、戦艦に変わる主力艦として空母に着目した。

イギリス海軍も例外ではない。

アーク・ロイヤル(HMS Ark Royal)は1934年に起工、1938年に竣工した条約型空母である。 条約で定められた空母保有トン数に合わせるため、22000tの中型空母として計画されたが、 これまでの空母建造で蓄積されたノウハウを結集して建造されたため、きわめて高性能の空母となった。 速力32ノット、二段格納庫に収容可能な最大搭載機数72機、ダメージ・コントロールの性能も評価が高かった。

ただひとつ、用兵側の不満は防御力にあった。

そこでアーク・ロイヤル型をベースに、飛行甲板に76㎜、舷側および格納庫部に114㎜の装甲を施し、 急降下爆撃に耐えうる飛行甲板を持つ装甲空母として新たに イラストリアス(HMS Illustrious) 級が計画された。 イラストリアス級は改良型 インプラカブル級 を含め6隻が建造され、WW2におけるイギリス正規空母の主力となったが、ベースとなったアーク・ロイヤルに比べ飛行甲板の重量が増大し、重心を下げるために 格納庫甲板を一段としたため、最大搭載機数は半分の36機に減少してしまった。 これを改善したのがイラストリアス級4番艦インドミダブル(HMS Indomitable)および インプラカブル級(HMS Implacable)だが、それでも搭載機数は60機前後にとどまった。

イギリス海軍で装甲空母が開発されたのには、以下のような理由があった。 もともと英海軍では、艦上戦闘機に偵察機としての能力をも付与しようと試みており、1940年に実用化されたフェアリー・フルマー(Fairey Fulmar)、その後継機であるフェアリー・ファイアフライ (Fairey Firefly)は単発戦闘機でありながら複座とし洋上単独航法飛行を可能とした結果、必然的に重量が増えた。

従って艦上戦闘機である以上は最優先で向上させなければならないはずの制空能力が著しく制限された。

ここでも変態兵器マニア・英国の本領が発揮されたわけである。 戦闘機による防空が期待できない以上、その代償として母艦の防御力ならびに対空火力を強化するほかなかった。いったい何が英国人をhe.ntaiの道へと駆りたてるのか、それは誰にもわからないだろう。

     

インディフアティガブル(HMS indefatigable)

 

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コロッサス(HMS Colossus) 級は正規空母の不足を埋めるために計画された。

イギリス海軍がWW2の間に喪失した正規空母は以下の通り。

 

1939年9月   カレイジャス、独潜水艦U-29の雷撃を受け沈没

1940年6月   グローリアス、独巡洋戦艦シャルンホルストおよびグナイゼナウの攻撃を受け沈没

1941年11月  アーク・ロイヤル、独潜水艦U-81の雷撃を受け沈没

1942年4月   ハーミズ、日本海軍航空隊の猛撃を受け沈没

1942年8月   イーグル、独潜水艦U-73の雷撃を受け沈没

 

イギリス海軍が開戦前に保有していた正規空母6隻のうち5隻を喪失している。

いまだフューリアスが健在なのと開戦後にイラストリアス級6隻が完成したとはいえ、 空母の不足は明らかであった。

しかし当時のイギリスには新たな正規空母を建造するだけの余裕が造船ラインになかった。 そこで商船をベースとした簡易な設計の空母を量産することが決まった。

かくして計画されたのがコロッサス級であり、改良型6隻を含め16隻が計画され、うち1隻は計画段階で中止となったが、基本設計は商船でありながら48機の搭載機数を誇る優秀な戦時急造空母だった。 しかし1番艦コロッサスの竣工が1944年と遅く、主敵として想定されたドイツ海軍はすでに脅威ではなくなっており、第二次大戦では殆ど活躍することはなかった。      

コロッサス級8番艦 ヴェネラブル(HMS Venerable)

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・イギリス護衛空母

イギリス海軍の主敵はドイツ海軍であった。

ドイツ海軍のドクトリンはUボート潜水艦と水上艦艇を投入した通商破壊に特化していた。 ドイツ海軍の通商破壊によって海上交通が遮断されたら、周囲を海洋に囲まれているイギリス本土は死滅してしまう。現にイギリスは年間150万tの商船を喪失し、輸入に打撃を受けた本土では食品が配給制になった。

このためイギリス海軍は対戦兵器 ヘッジホッグ(hedgehog)を水上艦艇に搭載するなど、Uボート狩りに死力を尽くした。

当然、正規空母の対潜作戦への投入も考えられたはずであるが、前述の表のとおり、三隻の正規空母が潜水艦の攻撃で撃沈されている。 特に新鋭空母アーク・ロイヤルの喪失は、正規空母の対潜作戦への投入を大いに躊躇させたに違いない。

そこで、安価で量産に適した商船構造設計の護衛空母が登場するわけである。

護衛空母の主要任務は船団護衛、特に対潜攻撃である。 対潜攻撃を可能とする航空機を搭載した護衛空母を多数揃え、船団の対潜能力を向上させようと考えた。

前述のとおり、イギリスの造船工業はすでに手一杯の状況であり、新造艦の建造は容易ならざることであった。 そこで米国がレンドリースの一環として多くの護衛空母を貸与した。

アーチャー級5隻に続き、米海軍のボーグ級護衛空母をイギリス規格に変更したものを購入、運用した。 大西洋、地中海における船団護衛に相当数の米国製護衛空母が投入され、大いに活躍した。

 

 

 

番外 わがイギリス空母

 

私とイギリス艦船との邂逅は、小さいころ(たぶん小学2年くらい)学習漫画を読んでいたときではなかったかと思う。

マレー沖海戦の一コマ、プリンス・オブ・ウェールズとレパルスが96陸攻や一式陸攻の猛攻を受け 船体を波間に沈めんとした、まさにそのカットであった。 本当はレパルスのほうが先に沈んだはずだが、どういうわけか2艦同時に沈没したかのような描き方がされており、その報告を電話口で聞いたチャーチルが衝撃のあまり手に持った葉巻を落とす場面も添えられていた。首相官邸が火事になっても知らねーぞ。

ともかく、プリンス・オブ・ウェールズという艦名や高い命中率を誇る45口径36㎝四連装砲塔、巨大な艦橋と中央構造物側面に配された50口径連装両用砲などには日本戦艦にはない優美さを感じ、 なるほどチャーチルが愛した船だけのことはあるなぁ、と思ったものだ。

えーと、空母の話でしたね。

イギリス空母というものを最初に知ったのは、『提督の決断Ⅳ』というゲーム。

アメリカ空母や日本空母の搭載機数に比べて全く見劣りしてしまうイギリス空母は使い辛く、 イギリスプレイ中で唯一他国の空母に匹敵する数の艦載機を運用できるアーク・ロイヤルの優秀な性能は頼もしく感じたのを覚えている。

しかし極力史実プレイを心がけていたので、新設計で馬鹿みたいな数の航空機を運用できる空母を作る...というようなことはせず、重装甲なだけで軽空母なみの搭載機数しかないイラストリアス級や、護衛空母と大差ない能力値のイーグルなどで急場をしのぎ、技術開発が進むとともに登場する新型のインプラカブル級を待ちわびるというようなマゾいプレイスタイルで日本空母と渡り合ったのである。

・参考文献

空母機動部隊(歴史群像 太平洋戦史シリーズ、学研)

イギリス航空母艦史(世界の艦船増刊号)

ジェネラルサポート 空母戦記2 艦型情報の各艦項目